試し斬りをダンジョンで行うのは間違っているだろうか   作:アマルガム

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試し斬りの壱

 絶え間無く響く、硬い鋼を打つ金属音。工房の中は、赤く揺らめく炎の色と、それを反射する金属光沢に彩られていた。

 何度か音が響き、やがて一際高く鋼が打たれる。

 

「・・・・・出来た」

 

 工房内で掲げられるのは、綺麗な金属光沢を蒔く銀の刀身を持った両刃の剣であった。

 打ち上がったばかりであるため、柄や鍔は未だにつけられておらず、茎(なかご)をそのまま持つ形だ。

 そんな剣を持つのは、一人の少年。

 日焼けした肌に、ボサボサの黒い髪。白のタンクトップに黒のつなぎの上だけをはだけさせた姿。

 頭にオレンジの下地に赤いラインが入ったバンダナを巻いており、それで髪を纏めていた。

 彼は何度か打ち上がった刀身を眺めると、近くに用意していた柄などを取り付け始める。

 そして、完成した剣を鞘に収め、壁にかけていたバックパックへと捩じ込んだ。

 バックパックの中には、先程の剣だけでなく様々な武具が詰められており、鞘がぶつかるとガチャガチャ五月蠅い音をたてる。

 

「・・・・出発」

 

 彼はバックパックを背負って部屋を出た。

 扉が閉まると同時に、炉の火も落ちるのであった。

 

 

 ■■■■

 

 

 迷宮都市オラリオ。バベルを中心とした、ダンジョンによる恩恵によって発展してきた都市だ。

 この地は、様々な神が居り。神々は、恩恵を与えることによって、人を眷属としてファミリアを形成してきた。

 ファミリアには様々な種類があり、主神の特性が色濃く反映されている。

 例えば、ここヘファイストス・ファミリア等がそうだろうか。

 このファミリアは、鍛冶の神ヘファイストスを主神としており、オラリオでもトップクラス鍛冶系のファミリアだ。

 

「ティーズ、どこに行く」

「・・・・ダンジョン」

「試し斬りか?」

「ん」

 

 ファミリアのホーム前で話すのは、バックパックを背負った少年と、眼帯をつけた黒髪の女性だ。

 

「椿は?」

「手前は、これから主神様に話があるのでな。あまり深く潜るなよ?」

 

 女性、椿・コルブランドは少年、ティーズ・クロケットの頭を乱暴に撫でる。

 頭一つ分程の身長差のある二人だ。その様子は姉弟にも見えることだろう。

 誰が思うだろうか。この場にいるのが、ファミリア最高峰の鍛冶師二人であると。

 

 椿はこのファミリアの団長であり、ティーズはファミリア最強である。

 

「椿」

「ん?」

「いつまで撫でる」

 

 ワシャワシャと犬のように、ティーズは撫でられ続けていた。

 無表情のへの字口は、感情を読み取らせないが長年の付き合いから、椿には悪く思っていないという事が読み取れた。

 

「お前には、これを渡しておこう」

「?」

 

 頭を撫で終えた椿は、サイドポーチをティーズへと差し出した。

 中身は、ハイポーションと数本のエリクサー。

 

「怪我をしたときには遠慮なく使え」

「ん」

 

 ティーズが頷いた事を確認し、椿は道を開けた。

 去っていくバックパックを見送り、彼女は優しげな表情を浮かべる。

 

「───────良い表情ね」

「おや、主神様。見ておられたので?」

 

 椿の背後から声をかけたのは、美しい紅蓮の髪をしたこちらも眼帯をつけた女神であった。

 

「ティーズはダンジョン?」

「ああ。ここ最近、工房に籠りきりだったからな。試し斬りに行ったようだ」

「あの子も相変わらずね。一人で、かしら?」

「いつもの通り、な」

 

 椿の答えに、女神ヘファイストスはため息をついた。

 彼女にとって、ティーズ・クロケットという眷属は可愛い子であると同時に問題児でもあったのだ。

 というのも、彼の現在のレベルは6。オラリオでも数える程度にしか居ない実力者だ。

 それもこれも、彼が試し斬りと称してダンジョンに潜り偉業を成してきた結果であった。

 

「幾つになっても、心配ばっかりかけるんだから」

 

 ヘファイストスの言い方は呆れたようなものだが、どこか慈愛を感じさせる。

 

「あやつは、根っからの鍛冶バカだからな」

 椿は笑みを浮かべ、既に見えなくなった背中を遠くに見つめるのだった。

 

 

 ■■■

 

 

 ダンジョン。下へ下へと下っていき、一定の階層を過ぎると地形や現れるモンスター達がガラリと変わる魔境だ。

 

「・・・・ダメ」

 

 今まさに、モンスターの一体を切り伏せたティーズは手にもった大振りなナイフを見て眉をしかめた。

 現在、44階層。

 ソロでここまで潜る冒険者、というのはレアケースだ。基本的に、彼等は数名のパーティを組んでダンジョンに潜る。

 だが、ティーズは違う。幼少期は別だが、鍛冶スキルを得た際に一人で潜るようになっていた。

 無論、椿やヘファイストス、その他ファミリアの面々は止めようとした、が止まらなかった。

 

 その結果が今のレベルであり、ステータスにも表れている。

 

「ん?」

 

 ティーズはナイフをバックパックへと収め、次に取り出したポールウェポンの一つであるハルバードを検分していると顔をあげた。

 深層と呼ばれるこの階層は、基本的にモンスターと一部冒険者しか訪れることはない。

 その為か、音が思いの外反響して響くことがあった。

 そして、冒険者として強化された聴覚が小さな、それこそ日常生活において気にもしないような小さな音を拾ったのだ。

 同時に嫌な予感がしてきていた。

 

「・・・・・」

 

 少しの間逡巡し、ティーズは駆け出した。

 

 

 ■■■■

 

 

 ダンジョン50階層、巨大な一枚岩の上。

 

「くっ・・・・・・不味いな」

 

 ハイエルフ、リヴェリア・リヨス・アールヴは、目の前の状況に追い詰められていた。

 彼女は、ロキ・ファミリアの副団長を務めており今、この場においての責任者にして重要人物だ。

 

 彼女含めたロキ・ファミリアの遠征隊の面々の前に現れたのは、芋虫型の新種モンスター。

 強さは深層クラス。そして厄介なのが倒した後だ。

 

「ダメです副団長!盾も武器も溶かされました!!」

「くっ、前衛下がれ!フィン達が戻るまで凌ぐんだ!!」

 

 それは、モンスターの体内に内包された大量の強酸性体液。

 一級品の武器や防具も溶かされてしまい、近接組は攻撃どころか防御もできない。

 

「リヴェリア様!?」

 

 思考に耽っていれば、すぐ目の前に芋虫が迫っていた。

 後衛である彼女の元まで迫ってきているのだ。状況は最悪。

 距離が詰められ過ぎれば、動きながら魔法の詠唱を行う、平行詠唱も間に合わない。

 ダメージを覚悟するリヴェリア。

 だが、その傍らを高速で何かが通過していった。

 

「───────────砕」

 

 飛行物体は、芋虫モンスターの数体を巻き込んで岩の下へと落ち、爆散した。

 そうなると、酸が吹き出すのだが、その前に巨大な剣が数本出現し、それを阻んでいる。

 

「リヴェリア、生きてる?」

「ティーズ!?なぜ、此処に・・・・」

「試し斬り」

 

 現れたのは、巨大なバックパックを背負い、頭にオレンジのバンダナを巻いて黒いローブを纏った少年、ティーズ・クロケット。

 

「武器、要る?」

「・・・・・・今は払えんぞ」

「いい。失敗作ばっかり」

 

 ティーズは負い紐を掴むと無造作に、バックパックをひっくり返した。

 中から出てくるのは、十本以上のポールウェポンや何振りもの剣やナイフ。

 

「持ってけ、どろぼー」

「いや、お前が要るか聞いたんだろう」

 

 棒読みのティーズに突っ込みを入れつつ、リヴェリアには勝ち筋が見え始めていた。

 というのも、ティーズはオラリオでも屈指の鍛冶師にして、強者の一人。最もレベル7に近い存在であり、今のステータスも十分すぎる程に強かった。

 何より、彼の魔法はこのモンスターを相手するのに向いている。

 

「すまん、ティーズ。前衛を頼めるか?」

「ん」

 

 丸腰のティーズは、リヴェリアの言葉に頷くと拳を握って前に出た。

 

「“鋼の音、万里に木霊しその身を示せ”」

 

 詠唱すれば、握ったその手に一振りの刀が現れていた。

 更に、握った手に力を込めると一瞬だけ刀身が光り、淡い紅いオーラが出現する。

 

「ちぇい」

 

 向かってくる芋虫に対して、ティーズは刀を無造作に振るう。

 刃は、アッサリとそのブヨブヨとした皮膚を切り裂く。当然、その内側から酸が大量に放出された。

 

「─────────壁剣」

 

 吹き出す酸は、しかし突如としてティーズの目の前に現れた幅の広い剣によって阻まれていた。

 ジュウジュウと音をたてて、剣は溶けていくが酸は相殺される形で向かってこない。

 その間にもティーズは前に進んでいる。

 モンスターを切り伏せ、酸には剣を創造して防御し、再び進む。

 

 武具創造(ウェポンクリエイト)。魔力を消費して武器を創造する魔法だ。

 大きさ種別は問わず、属性も付与可能。

 ただ、武器の質が上がれば上がるほど魔力の消費が上がり、大きさ、属性も同じくだ。

 そして、ティーズ本人の手からしばらく離れると消滅する。

 

 そして、もうひとつ。

 スキル武具昇華(アーツオブオーソリティー)。

 効果は、持っている武具の強化。

 単純ながら、彼の魔法と組み合わせることで強大な力を発揮する事が可能となる。

 

 この二つによって、ティーズが振るえばなまくら刀も名刀に早変わりだ。

 何より、ソロでダンジョンに潜り続けた彼の技能はそんじょそこらの冒険者とは格が違う。

 

「リヴェリア!」

「フィン!戻ったか!」

 

 どうにか戦況を覆そうとしているところで、別行動していた幹部面々が戻ってきた。

 

「良かった、無事だったんだね」

「ああ。アイツのお陰でな」

 

 団長、フィン・ディムナはリヴェリアの指す先を見て納得する。

 そこでは、顔馴染みの鍛冶師がモンスターを屠っているところであった。

 

「成る程、ティーズか。それじゃあ、今の武器は彼の」

「失敗作らしいぞ。お代は要らんらしい」

「相変わらずだね。っと、そんなに話し込んでいられる訳じゃないんだけど」

 

 フィン達も好きで遠征隊を離れていたわけではない。

 彼等は、カドモスの泉と呼ばれる場所で湧く水を汲みに行っていたのだ。

 そこで待ち受けていたのは、無惨に殺されたカドモス。

 その後、遠征隊を襲ったモンスターと同じ型のモンスターに襲われたのだ。

 

「撤退するよ。今回の遠征は、ここまでだ」

「早い決断だな」

「武器や防具を溶かされて、消耗してるからね。このまま進んでも、こちらの被害が嵩むばかりだよ」

 

 冒険者は冒険してはならない。

 矛盾しているようにも聞こえるが、敵わない相手にとって挑むことを良しとしない、という意味だ。

 勇気は尊重されるべきものだが、隔絶した差が横たわっている相手に挑むのは勇気や勇敢ではなく、無謀や蛮勇と言う。

 死亡同意書に銘記しているとはいえ、そんなポンポン死なれても困るためにオラリオを管理するギルドはこのような規定を作っていた。

 そして、団長であるフィンは感情論ではなく現実を見て決定を下していた。

 

「撤退するぞ!!怪我を負った者に手を貸せ!」

「フィン!こいつらどうすんだよ!!」

「もちろん後始末を──────!」

 

 フィンが更に指示を飛ばす前に51階層に降りる入り口付近の床が破壊された。

 

 現れたのは、先程までの芋虫に、人の上半身をくっつけ、腕を増やし、羽を生やしたような見た目の化物。

 

 化物は、腕を振るう。その瞬間、キラキラと数多の鱗粉が空中に蒔かれた。

 

 

 そして、爆発した。

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