試し斬りをダンジョンで行うのは間違っているだろうか   作:アマルガム

10 / 12
出来ちゃって十

「……………………出来た」

 

 鍛え上げた鋼を冷まし、研いで刃付けを終えれば、そこに現れるのは、一振りの作品。

 長い柄に、両端にそれぞれ波打つような四角を歪ませたような刃が取り付けられており、大小の差がある。

 

 これは、中国において蛇矛と呼ばれる武器であり。その波打つような刃が治療を難しくする傷を相手に与えることができる。

 似たようなモノだと、フランベルジュがあるだろうか。

 陽炎を名とするこの剣も、刀身が波打っており、独特の傷を相手に与える。

 

 そんな凶悪武器を打ち上げたティーズは、柄の中程を握ると、室内でありながらブンブンと振り回し、そのバランスを確認し始めた。

 波打つ刃は、石をバターのように切ってしまうほどの鋭さを誇っており、石造りの工房内には新たな傷が刻まれていく。

 彼の工房には、そうやって刻まれた傷が幾つもあった。

 最も多いのは切り傷だ。後は焼けた痕とか。

 

「バランス、良し。切れ味…………………及第点」

 

 ティーズは何とか蛇矛を振るい、一つ頷いた。

 そして振り回すことを止めると、炉の火を落として工房を出たのだ。

 

 やって来たのは、ファミリアホーム。主神の部屋。

 

「ヘファイストス様」

 

 扉を数度ノックして入室する。

 

「あら、ティーズ。どうしたの?」

「出来た」

 

 執務を行っていたヘファイストスに対して、ティーズは打ち上がったばかりの蛇矛を持ち上げて見せた。

 彼女は鍛冶の神だ。常に浮かべる穏やかな、優しい雰囲気も失せて、鋭い視線を矛へと向けて椅子から立ち上がる。

 

 手に取った蛇矛を検分するヘファイストス。

 実用性を一番に、装飾の殆んどを施す事の無い、ティーズの作成する武器は全てがシンプルだ。

 

「良い出来ね。今までの分と比べても遜色無いわ」

「ん」

「これが完成したって事は、良いのね?」

「ん」

 

 蛇矛を床に突き立て、ヘファイストスはティーズへと向き直った。

 

「それじゃあ、背中を見せなさい」

 

 主神に促され、ティーズは背を向けると、ローブとシャツを脱ぎ捨てる。

 露になるのは、細くも強靭な背中だ。

 そして、上半身には様々な傷痕が目立っていた。

 刺傷、切傷、火傷、打撲、裂傷等々。

 まるで傷の見本市のように、彼の体には傷痕が刻まれている。

 これらは全て戒めだ。冒険者が無茶な冒険をするとどうなるか、というもの。

 ポーションなどで消せなかった事もないが、彼は態と残している。

 

「それじゃあ、そこのソファに横になりなさい」

 

 促され、うつ伏せになったティーズ。その側に、ヘファイストスは椅子を置くと腰掛けた。

 そして徐に、指先に針を刺すと自身の血を一滴、彼の背中へと落としていた。

 

 

 ■■■■

 

 

 ティーズ・クロケット

 Lv 6

 力 A 830→A 837

 耐久 A 865→A 870

 器用 A 820→A 824

 敏捷 C 665→C 669

 魔力 D 586→D 590

 鍛冶 C

 耐異常 G

 幸運 F

 

 

 ■■■■

 

 

「こっちが、今回の上昇分よ。そして―――――――――」

 

 

 ■■■■

 

 

 ティーズ・クロケット

 Lv 7

 力 I 0

 耐久 I 0

 器用 I 0

 敏捷 I 0

 魔力 I 0

 鍛冶 B

 耐異常 G

 幸運 F

 

 『魔法』

 【武具創造】

 魔力を消費して、武具を造り出す

 効果、大きさ等によって魔力消費に変動有り

 一定時間、造り出した当人から離れると武具は消滅する

 詠唱

 『鋼の音、万里に木霊しその身を示せ』

 

 『スキル』

 【武具昇華】

 手に持った武具の性能を高める

 

 

 ■■■■

 

 

「はい、ランクアップよ」

「ん」

 

 渡された紙に目を通し、ティーズは身を起こした。

 ソファに腰掛ける形になれば、自然と向き合うような格好だ。

 

「…………………」

「ヘファイストス、様?」

「強く、なったわね」

 

 ヘファイストスは、ティーズの傷を撫でた。

 

「あんなに、小さかったのに」

「?」

「人の子は、大きくなるのが早いわね」

 

 彼女の脳裏に過るのは、幼い少年の姿だ。

 

 自身の後をカルガモの子供のようについてくる。さすがに工房には連れていかなかったが、いつも自分が出てくるその瞬間まで扉の向こうでジッと待っているような、そんな子供だった。

 

 いつまでも、小さく幼い筈もない。それは分かっていた。

 しかし、まさかここまで来るとは思っていなかった、というのも事実だ。

 もしも鍛冶系ではなく探索系のファミリアに入っていれば、もっと大成していたかもしれない。

 

「…………………貴方は、ここで本当に良かったのかしら」

「ん?」

 

 気づけば、ティーズはヘファイストスに抱きしめられていた。

 

「後悔、してないの?」

「なんで?」

「もしも、そうね………………ロキやフレイヤの所なら、貴方はもっと有名になってた筈よ」

「別に良い」

 

 ノータイムで、ティーズはヘファイストスの言葉を拒否していた。

 そもそも、どれだけIFを論じても結果は出てしまったのだ。

 であるならば、この問答にも意味はない。

 彼は、ヘファイストス・ファミリアにて保護され、冒険者兼鍛冶師として生きているのだから。

 

「それに、フレイヤは嫌だ」

「あら、美の女神様なのよ?」

「ヘファイストス、様、の方が良い」

 

 育ててもらった恩やら何やらを差し引いて、ティーズはここに残ることを選ぶ。

 少なくとも、余程の事が起きなければ、骨を埋めるその日まで、彼はここで武器を造り続ける事だろう。

 

「ここが良い」

「……………………そう」

 

 それが答えであった。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告