試し斬りをダンジョンで行うのは間違っているだろうか   作:アマルガム
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誘われて参

 ダンジョン18階層。安全階層であると同時に、迷宮の楽園とも呼称される場所だ。

 その一角に、ロキ・ファミリアのキャンプが設置されている。

 

「ふむ・・・・・・」

 

 その外れ、湖沼の近くの岩場。岩の一つを綺麗に整え、その上に座っているのはティーズだ。

 彼の周りには、様々な鉱物や素材が転がっており、それらを虫眼鏡で見ながら検分しているのだ。

 

「これ、ダメ」

 

 その一つ、拳ほどの大きさである鉱石を見ながらそう呟く。

 深層で採れる赤の強い鉱石だ。純度を抜きにしても、地上では高値で取り扱われている。

 

 それを、ティーズは路上の石ころのようにぞんざいに扱うのだ。

 素材調達から、鍛冶まで全て一人で行う。

 故に、何から何まで彼次第。気に入らなければ、どれだけ高価な素材も彼の前ではただの石ころでしかない。

 

「んー・・・・」

 

 次に手に取ったのは、30階層に現れるブラッドサウルスの牙と爪。

 どちらも未加工状態で鋭い切れ味を誇っている。

 それこそ、そのままナイフの柄でも着ければ上層のモンスター程度ならば軽く屠れるレベルだ。

 

「これ、良い。これ、ダメ」

 

 牙と爪一揃いで、幾つかあった。

 そこからティーズは、気に入ったモノと不合格なモノを取り分けていった。

 

「────────で?用は、なに?」

 

 仕分けをしながら、ティーズは背後に声を掛ける。

 そこに居たのは、金髪の妖精。

 

「・・・・・」

「オレ、暇じゃないぞ」

「・・・・・どうしたら、強くなれる?」

「んん?」

 

 爪と牙を仕分けていたティーズは首をかしげて振り返る。

 そこでは、アイズが右肘を左手で掴む形で立っていた。

 

「強く?」

「うん」

 

 強さを求めるアイズからすれば、ティーズ・クロケットという男は間違いなく、強者だ。

 レベルだけの話ではない。

 相手の攻撃や策略を苦としない絶対的な攻撃力。

 武器を生み出し強化する、魔法とスキルの相性が良いというのもあるが、それを支える剣の技術。

 

「オレ、強い?」

「強い」

「ふーん・・・・・」

 

 ティーズ自身には、その認識はどうやら無いらしい。

 そもそも、彼自身は武器の試し斬りと素材集めでしかダンジョンには潜らない。

 金銭に関しては、魔石を少々集めて糊口を凌ぐ程度だ。

 強くなったのも、鍛練よりも素材を集める際に上質なものを求めて何度かジャイアントキリングを成し遂げたに過ぎない。

 

「私は、強くなりたい」

「・・・・」

「強く、なりたい・・・・・」

 

 切実な声。そして、答える術を持たない強者。

 この二人の立ち位置が違いすぎるが故の事。

 

 考えたティーズは、そこでふと名案が浮かんだかのように、手のひらを拳で叩いた。

 直ぐに、周りに広げていた素材の数々を武器が無くなったことで痩せたバックパックに詰めて片付けてしまう。

 

 そして立ち上がると、左手に一振りの刀を造り出した。

 

「強い奴と戦う」

 

 ティーズは刀の切っ先をアイズへと向ける。

 これは、彼が強くなってきた行程の模倣だ。

 アイズも、その事は理解したのか愛剣デスペレードを抜き放つ。

 

 そして、金と黒はぶつかった。

 

 

 ■■■■

 

 

 ロキ・ファミリアにとって、ティーズ・クロケットという鍛冶師はファミリアの垣根を越えて何かと世話になる存在であった。

 今回もそうであるが、何より彼の武具はどれも質が良いのに、安い。

 それこそ、億単位の金が普通に取れるような質と素材を持ち合わせていながら、下手すれば一万程度で売ることさえあるほどだ。

 もっと昔では、100ヴァリス程で武器を売ったこともあり、その際には主神と団長、それぞれから拳骨を貰ったりもした。

 

 まあ、何を言いたいのかといえば

 

「武器の補充ができて何よりだったよ」

「ん」

「代金は、要らないって話だったけど。本当に良いのかい?」

「いい。失敗作ばっかり」

 

 最前線から一歩ひいた地点で会話するティーズとフィン。彼らの視線の先では、逃げるミノタウロスの後を追い掛ける冒険者という、通常では見られない光景が広がっていた。

 

 ロキ・ファミリア+ティーズ一行は、上層に入るとミノタウロスの群れに遭遇したのだ。

 接敵に際して、一級冒険者ならばレベル2相当のミノタウロス等、素手でも殺せる。

 加えて一部面々には、ティーズお手製の失敗作が配られているのだ。群れの八割が秒殺される結果となっていた。

 

 野生の獣は、臆病でなければ生き残れない。

 ダンジョンのモンスターを、野性動物として当てはめるのは間違いかもしれないが、彼らにも生存本能はあるらしい。

 一目散に逃げ出して今に至る。

 

 厄介なのは、ミノタウロス達が向かった方向か。

 ロキ・ファミリアが下へ降りる為の階段から来たのだから、彼らから逃げるための逃走経路は上に登るための階段へと繋がっている。

 

 ミノタウロスのレベルは2相当。そして、1レベルでも違えば、それは最早生き物として違うと呼ばれるほどに差があった。

 更に、上層は駆け出しの冒険者達が集う場所。仮にミノタウロスと遭遇してしまえば、命はない可能性が高い。

 

 そうなると、取り逃がしてしまったファミリアの責任となる。

 

 よって、追いかけっことなった。

 

「君は、行かなくて良いのかい?素材が手に入るかもよ?」

「今さら、アイツらの角、要らない」

 

 フィンの提案をティーズは一蹴した。

 彼からすれば、今さらミノタウロスの素材に魅力を感じないからだ。

 敢えて挙げるならば、強化種と呼ばれるタイプならば話が別なのだが。

 

 とにかく、素材に魅力がないならばティーズに戦う理由はない。

 もしも新米が死んだとしても、彼は良心が痛むこともないだろう。

 

 そも、ダンジョンに潜る時点で命懸け。そして、不足の事態などごまんと起きる。

 ロキ・ファミリアも追っているのだから、何とか逃げ切れる可能性もある。

 

 酷とは言わない。泥水を啜ってでも生き残る覚悟がなければ、ダンジョン攻略など出来るはずも無いからだ。

 強くなければ死ぬ。夢と現実を同時に叩きつけるのがダンジョンなのだ

 

「君は意外にドライだよね」

「見ず知らずの相手まで、助けるの怠い」

 

 ティーズにとって他人は、その程度の認識でしかない。

 同じファミリア、若しくは顔見知りでなければ平気で見捨てることもあるだろう。

 

 オラリオでは珍しくない人種だ。むしろ、他人を食い物にしていないだけマシだろう。

 中には、ダンジョンを利用して敵対組織を潰す荒業を行うゲスも居るほどであるし。

 

「そういえば、ティーズ。君は地上に戻ったら、工房に籠るのかい?」

「ん」

「そして、僕らの武器代は要らない、と」

「ん」

 

 後方で荷物を持つサポーター達を守りながら、ティーズとフィンの二人は、周りの第一級冒険者達と比べても遅い歩みであった。

 

「僕らとしては、君個人への借りは少ない方が良いんだけどね」

「別に、いい」

「君は気にしなくても、僕らのメンツの問題さ。そこで提案なんだけど」

 

 隣を歩きながら、ティーズを見上げる形でフィンは指をたてた。

 彼は、小人族であるため年のわりに背が低い。

 ティーズ自身も高くはないが、それよりも更に小さかった。

 

「宴会に参加しないかい?ロキに話を通さなきゃいけないけど、多分了承するはずだよ」

「・・・・・いい?」

「ロキも君の事は気に入っていたからね。ヘファイストス・ファミリアじゃなければ、勧誘していたんじゃないかな」

「・・・・・?」

 

 首をかしげるティーズ。

 彼は、一応ながらロキとの接点がある。

 数年前に、ヘファイストスが彼を連れて神々の宴に参加した為であった。

 余談だが、その折に面倒な神にも目をつけられ未だに勧誘、もとい人攫い擬きを何度か受けている。

 

 まあ、それはさておき。気に入られている理由が彼には分からなかった。

 顔を会わせた事だって片手で足りる程度でしかない。

 

 そんな、頭の上にハテナを浮かべて首をかしげる鍛冶師に、フィンは苦笑いした。

 

 彼も一度ロキに問うた事があったのだ。

 何故、そこまでティーズを気に入っているのか、と。

 返ってきた答えは、嘘がないから、らしい。

 

 神に嘘はつけない。だが、嘘で隠した事は分かるがその内容までは分からない。

 そして、ティーズにはそれがないらしい。

 全て、素。頭で考えたことがポロリとそのまま出てきているらしい。

 因みに、ストーカー女神は、彼の魂に惹かれているようだ。

 彼女曰く、焼けた鉄と強靭な鋼の輝き、らしい。

 

「で、どうする?」

「ん。行く」

「そうか。それじゃあ、地上に戻ったら、僕らのホームに来てもらうよ」

「ん」








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