試し斬りをダンジョンで行うのは間違っているだろうか 作:アマルガム
オラリオ北のメインストリート。
そこに、黄昏の館と呼ばれる歪な建造物は存在している。
「おっかえりーーー!!」
ここは、ロキ・ファミリアのホームだ。
遠征を終えた面々を出迎えたのは、糸目に赤毛の女神。
彼女は満面の笑みを浮かべて、遠征隊の主に女性の面々に向けて飛び付いていった。
これは歓迎の抱擁であると同時に、セクハラの抱擁である。
リヴェリアは避け、アイズも避け、アマゾネスのヒリュテ姉妹が避け、エルフのレフィーヤ・ウィリディスが餌食となる。
「んん?おお、レフィーヤ、胸大きくなったん?」
「ひゃあああああ!?ど、どこ触ってるんですか!?」
「うひひひ、エエやないか。ほれほれ~」
完全なセクハラ親父の動きである。
肌をさらす事すらにも抵抗を覚えるエルフの貞操観念は高いのだが、相手が相手であるためレフィーヤも手を出せずにいた。
「少し良いかな、ロキ。お客様だよ」
待ったをかけたのは、フィンだ。
彼の言葉に、ロキは顔をあげ、ついでに彼のとなりに立っていた馴染みの顔に目を向けた。
「およ?ティーズやないか。久しぶり~」
「ん」
「相変わらずの無表情やなぁ。ファイたんも気にしとったで?」
「・・??」
ロキの言葉の意味が分からないのか、ティーズは首をかしげた。
確かに昔から、何かと心配をされることは多かったと彼の記憶にはある。
しかし、それもレベルが高くなるにつれ、減ったように思っていたのだ。
だが、現実は違う。どれだけ子が強くなろうとも、親は何かと気にしているものなのだ。
「まあ、愛されとるっちゅうことや」
「愛・・・・」
その言葉は、彼にはよく分からない。
ティーズ・クロケット17歳。彼の記憶の始まりは、泣き出しそうな女性の顔から始まっている。
その後、記憶の断裂が起こり次に見るのは、今の主神の顔。
こちらも泣きそうであった事を、ティーズは記憶していた。凡そ、十四年前だろうか。
そして、この頃から彼の顔は鉄面皮であった。
変わるのは顔色が青くなる程度。後は、かなりのレアケースで、口角が若干上がるだけか。
「ロキ」
ただでさえ口数の少ないティーズが本格的に黙ってしまった事により、フィンはロキに対して若干の非難を込めた声をかけていた。
「今回の遠征で、僕らは彼に助けられたんだ。あまり困らせないでくれ」
「そんなつもりはないんやけどなぁ。というか助けられたん?」
「ああ。少し、厄介な相手に当たってね。手持ちの武器を大半溶かされたよ」
「あちゃー、そら出費が痛いわ・・・・・ん?ティーズが居るっちゅう事は・・・・・」
「彼お手製だよ。失敗作らしいから、お代は要らないらしい」
「ははーん、読めたで。つまり、ウチ等の宴会に参加させようって魂胆やな?」
「察しがよくて助かるよ」
ロキは天界に居た頃には、トリックスターとして名を馳せていた権謀術数何でもござれの、謀神だ。
その頭の回転は、そこらの神など足元にも及ばない。
「ええよ。ウチの子達を助けてくれたんやろ?知らん仲でもないしな」
「本当かい?」
「嘘ついてどうするん」
和やかに会話する、主神と団長の二人。
その傍らで、ティーズはボーッと虚空を見つめていた。
彼の思考は、時偶空の彼方に旅立ってしまうのだ。
「ティーズ!」
「・・・・」
「ねぇってば!」
「・・・・・ティオナ?」
「無視しないでよ。さっきから声かけてたのに」
「ん、ごめん」
彼に話しかけていたのは、露出の多い褐色の肌をしたアマゾネスの少女、ティオナ・ヒリュテ。
天真爛漫、というのがよく似合う彼女は何かと、この無表情鍛冶師に絡むことが多かった。
「このハルバード、スッゴく使いやすかったよ!」
「そう」
「他にも何かあったりする?」
「・・・・・重い?軽い?」
「うーん、重いのかなあ。ほら、あたしって大双刃使うし、こう、グシャッ!て行ける奴がいいの!」
「・・・・・・・・・これは?」
ティーズが魔法で造り出したのは、手甲だ。
というより、デカイ。大きさは、大盾のような巨大さであり最早鉄塊だ。
「おっきい・・・・・」
「ん」
武具創造による武具は一定時間で消滅するが、流石に手渡して直ぐに何度か振るう程度ならば問題ない。
巨大手甲を渡された、ティオナは右手にそれを填めると何度か振るう。
「重い、けど。う~ん」
「使いにくい?」
「珍しい形だし、振り慣れないかなぁ」
「そっか」
ティオナが首をかしげれば、同時に手甲は魔力の靄へと消えていく。
その後も、何種類も武器が出てくる。
最初の手甲に始まり、剣や槍、斧に槌。変わり種ならモーニングスターや三節棍、狼牙棒等々。
他にも月牙サンやマカナなど、武器の見本市のように出るわ出るわ。
その中でも、ティオナのフィーリングに合ったのは何種類しかなかった。
「これは、大双刃に似てて振りやすいよ!」
その一つが、今もブンブン振り回されている槍。
花槍と呼ばれるモノで、穂先の近くに赤毛の装飾が施されているものだ。
ぶっ潰す、というよりも華やかに舞いでも舞うような戦い方に向いている武器であるため、大剣二つを組み合わせたような大双刃には似ても似つかない。
だが、どうやらお気にめしたらしい。
「造る?」
「良いの!?」
「オレ、暇」
「やったー!・・・・・・・あ」
嬉々として両手を挙げたティオナだったが、何かを思い出したのか、顔を曇らせる。
「?」
「・・・・・」
ティーズが首をかしげるが、ティオナは何やら考え込んでブツブツ呟くのみだ。
「お金が無いのよ」
沈黙の平行線を断ち切ったのは第三者の声。
「・・・・ティオネ」
「ダンジョンじゃ、声かけなかったし、久しぶり、でいいかしら」
「ティオナ、金欠?」
「そうね。大双刃溶かされたのよ。あれってレアな素材も使ってるし、オーダーメイドだから高いわ」
「ふーん」
ティオナの姉であるティオネに言われて、ティーズは納得がいったらしい。
ついでに、今更になって彼女が大双刃を持っていないことに気が付いた。
鍛冶師界隈、というよりヘファイストス・ファミリアと鍛冶系を二分にするゴブニュ・ファミリアでは、ティオナは鍛冶師泣かしとして名を馳せているのだ。
時偶、高レベルの冒険者にあるのだが、どうにも技術がついてこないことがある。
その根底にあるのは、力任せに振るうだけでも武器の性能と、単純な膂力でダンジョン攻略には支障が無いため。
結果として、高品質の武器も出鱈目に振るわれ、刃を鈍らせ筋を痛めることになる。
勿論、ゴブニュ・ファミリアとしてもそう簡単に武器を壊されてはメンツにも関わるために必死こいてなるべく壊れない武器を造る努力はしている。のだが、今回に関しては彼らも想定外だろう。
誰が溶かされるなど想定するものか。
「・・・・不壊属性付けるしかない?」
「ただでさえ、高いのに更に高くなったわね」
「けど、壊れない。刃は鈍るけど」
西洋の剣は、斬るよりも刃の重さで叩き潰す事に向いている。
大双刃もその重量によって破壊力と強度を得ているタイプだ。
ついでに言うと、貴重な鉱石を腕利きの職人数人がかりで数日かけて鍛え上げて漸く完成するため、不壊属性まで付けていればファミリアが機能しなくなる可能性もある。
そして、職人達が精神的に死にかねない。
「いっそのこと、貴方が打つ?」
「・・・・オレ?」
「冗談よ。勝手に鞍替えしたなんて知れたら、ゴブニュとの付き合いも悪くなるもの」
数年の付き合いがあるティオネは気付いていた。
自身の冗談に、この鍛冶師が一瞬だけ乗り気であった事に。
「ティーズ、宴会の日には使いを寄越すからね」
「ん」
勝手に彼が打ってしまう前に、フィンはこの場の解散を促した。
まあ、隣でこんない会話がされていれば嫌でも耳につくか。
「・・・・じゃ」
挨拶も簡素にティーズはフラりとその場を去った。
彼の帰る場所は、最初から決まっているのだから。
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「ああ、良いわ。スゴく、良い・・・・・」
バベルの頂上。そこから、下界を見下ろすのは、何者にも勝るような美貌を誇る女神である。
熱に浮かされたような口調で彼女は、興味の対象へと視線を送っていた。
「熱く焼ける鉄と鍛え上げられた鋼の輝き。同居しない二つ」
女神は、その輝きに目を奪われる。
「欲しいわね」