試し斬りをダンジョンで行うのは間違っているだろうか   作:アマルガム

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絡まれちゃって七

 月夜の晩は静かなものだ。

 

「……………フレイヤ様」

「こんばんは、ティーズ」

「何のようだ」

 

 屋根上から見下ろしてくるフレイヤと向き合った形のティーズ。彼には、強い警戒心が滲んでいた。

 

「決まってるわ。改宗の話よ」

「その件は、断った」

「どうしても、かしら?」

「どうしても、だ」

 

 平行線。しかし、この問答は顔を合わせる度に行われているのだ。

 

「私は、貴方が欲しいのよ」

 

 フレイヤは美の女神だ。神がその力を封じているとはいえ、彼女の美貌は比べることすら烏滸がましい程のもの。

 そんな彼女が放つ、魅了はモンスターですら虜にしてしまう。人間が抗える事も出来はしない。

 だが――――――――――

 

「揺れないわねぇ」

 

 ティーズ・クロケットは揺らがない。

 単純な話、彼は魅了に対して凄まじく鈍いのだ。

 効果は、辛うじて視線を集める程度。それも知り合いが近くにいればそちらへと注意が向いてしまうほどに、彼への魅了効果は無きに等しかった。

 

 それがフレイヤの気持ちを更に昂らせていく。

 もう一つ、目をつけた魂もあるのだがそれとはまた別だ。

 片や透明、片や鋼と焔。

 ある意味では真逆。

 前者は、如何様には己の在り方を決められる下地の段階。後者は、曲がることなく、折れることなく、何者にも染め上げられない、確固たるモノが出来ている。

 

 熱に浮かされるように彼女は、手を伸ばした。

 同時に、ティーズはその場を飛び退き離れる。

 

「…………良い反応だな」

 

 響くのは低い声。

 

「オッタル」

 

 ティーズは、振り向き、今まさに自分の後頭部を掴もうとした男をそう呼んだ。

 彼からすれば首が痛くなりそうな程見上げねばならない巨漢。猪人のオッタル。オラリオ最強の冒険者にして、頂点に立つ男である。

 

「フレイヤ様のご命令だ。お前を捕まえる」

「嫌だ」

 

 再び掴もうとしてくるオッタルに対して、ティーズは躊躇いなく剣を造り出すと、切っ先を彼へと向けて構えていた。

 相手は頂点だ。素手でやりあえば、体格差も相俟って一瞬で制圧されてしまうことだろう。

 欲を言えば、距離を取って戦える武器が良いのかもしれない。

 しかし、ポールウェポンならその柄が仇となり、月が出ているとはいえ、弓矢も大した効果が得られる筈もない。故に使い慣れた剣を振るう。

 

 狙いは、突き出されてくる腕の内側。正確には血管などが外から確認できる手首の内側だ。

 ここさえ斬れれば、血が噴き出して相手の動きを制限することが可能になる。

 

 ヒュンヒュンと何度も空を切る音が響き、石畳を踏み躙る音が夜闇に木霊する。

 

「………………なかなか、やるな」

「だったら、見逃してほしい」

 

 距離をとった二人は、互いに構え直していた。

 オッタルは、未だに剣を抜いておらずその手首にも傷はない。

 対するティーズも同じく無傷であり、息も荒れてはいない。

 どちらも本気ではないため当たり前の結果ではあるのだが、仮に全力でぶつかると、この区画は半壊、もしくは全壊してしまうことだろう。

 

「オレ、帰りたい」

「それは駄目だ」

 

 ここで初めて、オッタルは剣を抜いた。

 片刃の大剣。特殊効果こそ無いものの、その破壊力は並の武器は愚か、モンスターすら一刀両断してみせる。

 一瞬の沈黙、から放たれる大上段の振り下ろし。

 受け止めることなど、考える余地すら与えない一撃。

 

 一瞬、鉄と鉄が擦れるような音が響き、石畳の一部が粉砕された。

 モウモウと立ち込める粉塵。一陣の風が吹き抜け取り払われたそこには―――――――――

 

「ほう」

 

 オッタルの視線の先では、剣を掲げ切っ先だけを少し下ろした 形で、大剣を受け流したティーズの姿があった。

 受け止められないと即座に判断した彼は、柳の枝が風に揺れる様に、柔軟な受け流しへとシフトしていたのだ。

 

「フッ!」

 

 息を短く吐いて、ティーズは剣を振り上げた。

 受け流しに回した剣を振り上げ掲げ、一息に振り下ろしたのだ。

 縦一閃。本来は、受け流しと同時にこの振り下ろしへと移行するのだが、今回は態とゆっくり行っていた。

 案の定オッタルには、アッサリと見切られバックステップを決められて距離を取られてしまう。

 

 だが、それが狙いだ。

 

「――――――せいっ」

 

 片手に、ハンマーを造り石畳へと叩きつけることによって粉塵を巻き上げていた。

 これに乗じて、ティーズは夜闇へと紛れ、その場を離脱する。

 

 猪人として嗅覚も優れたオッタルならば、追うことも可能だ。しかし、彼はフレイヤの護衛だ。そう易々と彼女の側を離れられない。

 

「申し訳ありません、フレイヤ様」

「フフッ、構わないわよ。逃げられれば逃げられるほど、燃えてくるもの。恋ってそんなものよ」

 

 目の前で膝をついたオッタルを一瞥し、フレイヤはヘファイストス・ファミリアがある場所へと視線を向け、熱いため息をつく。

 美の女神の熱病は、無下にされればされるほど、熱く強く燃え上がるのだった。

 

 

 ■■■■

 

 

 ティーズ・クロケット

 Lv. 6

 力 A827→A830

 耐久 A863→A865

 器用 A817→A820

 敏捷 C662→C665

 魔力 D583→D586

 鍛冶 C

 耐異常 G

 幸運 F

 

 『魔法』

 【武具創造】

 魔力を消費して、武具を造り出す

 効果、大きさ等によって魔力消費に変動有り

 一定時間、造り出した当人から離れると武具は消滅する

 詠唱

 『鋼の音、万里に木霊しその身を示せ』

 

 『スキル』

 【武具昇華】

 手に持った武具の性能を高める

 

 

 ■■■■

 

 

「………………ティーズ。私が何を言いたいか分かるかしら?」

「………………」

 

 ヘファイストス・ファミリアのホームにて、ヘファイストス当人は目の前の眷属を見下ろしながらため息をついていた。

 彼女の手には、一枚の羊皮紙。そこに書かれているのは、今目の前で正座して視線を逸らしているティーズのモノである。

 

「どうして、飲み会に行っただけでステイタスが上がってるのかしら?」

 

 そう、原因はソレ。

 ロキ・ファミリアの宴会から帰ってきたティーズと、出会したヘファイストスは彼の汚れが気になり、それが戦塵によるモノだと分かるとステイタスの更新を促したのだ。

 結果は予想通り、微量ながら上昇していた。

 

「……………」

 

 プイッと顔を背けたティーズ。

 彼自身、周りに散々言われているため、嘘をつけない自覚がある。

 その為、幼少の頃より言いたくないことがあると、彼は顔を背けるのだ。

 

 こうなると、折檻なども意味がない。

 

「………………はぁ、あまり心配させないでちょうだい」

「ん」

 

 結局、ヘファイストスが折れてしまった。

 元の気質からか彼女は何かと甘い。ヘスティアのニートを許してきたほどなのだから。

 

「それにしても、ティーズ。貴方は、ランクアップしなくて良いのかしら?」

「ん」

「けど、折角のレベル7よ?鍛冶のスキルも上がるかもしれないわ」

「まだ、いい」

 

 欲の無い眷属。ティーズには、何かを自慢したいと思ったりするような欲が欠けていた。

 人間の持つ三大欲求含めて、彼は欲が薄かったのだ。

 

 因みに、ランクアップに関しては、既に半年ほど前に達成している。

 

 49階層にて現れる、階層主バロールの討伐。

 

 オラリオでも、未だに一人しか達成していない偉業。

 その結果、彼はランクアップを可能としていた。

 だが、未だにソレは保留状態だ。

 理由は、ある。

 各レベルで彼は満足の行く一振りを打ってからランクアップすることにしていた。

 

 そして、未だにこれだ!というモノは作れていなかった。

 補足すると、それらは非売品としてティーズの簡素な自室に飾られている。

 

「………………あふ」

「あら、眠いの?」

「んー…………………」

 

 いつの間にか、ティーズは船を漕いでいた。

 拳一発で終わった、ベート戦はともかくとして、オッタルとの手合わせ擬きは神経を使ったのだ。

 ついでに酒場に漂っていた酒気にも若干やられていた。

 

「……………大きくなっても、まだまだ子供ね」

 

 既に七割方意識が空の彼方に飛んでいるティーズを抱えて背負ったヘファイストス。

 その表情は、柔らかなものであった。

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