ハリー・ポッターと野望の少女   作:ウルトラ長男

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(*M*)<オイ,ソコニスワレ
皆様こんばんわ。夜勤帰りのウルトラ長男です。
感想返信をして予約投稿をして、さあ寝るぞ!


第20話 トム・リドル

「……これを、わずか12歳の少女がやった……と?」

「……わしも信じられん……いや、信じたくない。……しかし事実じゃ、ミネルバ」

 

 『バジリスクが倒された』。その報告を聞きつけ、現場に駆けつけたマクゴナガルとダンブルドアが見たのは、血に染まった廊下と床、そして無残に“解体”し尽くされた蛇の王の亡骸であった。

 眼球は抉り取られ、牙は全て抜かれ、鱗はあちこちが削れ、肉や内臓は一部紛失し、骨すらあちこちが抜き取られている。

 ただ倒しただけでは絶対にこうはならない。必要以上の攻撃を加え続けねば決してここまで無残極まる姿には成り得ない。

 即ち、このバジリスクの姿はそのままそれを成した人物の残虐性をも現していた。

 

「ミス・グレンジャーはどうしておる?」

「保健室に。……大分落ち着いていますが、まだ話を聞ける状態ではありません」

「……無理もない事じゃ」

 

 この現場に居合わせてしまった為にトラウマを植えつけられてしまった秀才は今や保健室で布団に包まって震えていた。

 その事を哀れに思いながらダンブルドアは血まみれの床を歩き、バジリスクを見下ろす。

 多くの生徒を犠牲にしてきた怪物だが、こうなると最早哀れみしか沸いて来ない。

 

「……ミス・ベレスフォードの功績を評し、スリザリンに200点を加点するとしよう」

「! 正気ですかアルバス!」

「やり方はどうあれ彼女が怪物を倒したのは事実……あの子は学校を救ったのじゃ。

私情に駆られてそれを評価しないのでは生徒達からの不満も出よう」

 

 ダンブルドアは杖を一振りする。

 すると床や廊下の血が浮き上がって水球となり、窓から外に放り出された。

 このバジリスクの遺体に関してはハグリッドに頼んで禁じられた森にでも埋葬する事にしよう、とダンブルドアは考える。

 いくら生徒達を襲った怪物とはいえ、このままではあまりに惨めというものだ。

 せめて墓くらいは作ってやりたい、と思うのは人として当然の情である。

 

「アルバス……私は恐ろしい。あの少女は今すぐにも学校から追放するべきです」

「追放して何になる? それでダームストラングなどに転校されては、それこそ誰も止める者がいなくなるぞ」 

「それは……」

「わしらが導くのを諦めたら、あの少女は喜んで闇の奥底にまで入り込んでしまう。確実に第2のヴォルデモート……否、下手をすればそれ以上の災厄へと成長してしまう」

 

 ダンブルドアは眼鏡の奥で青い眼をキラキラと輝かせながら、マクゴナガルに言い聞かせる。

 この学校ならば、あるいは彼女を抑える事が出来るかもしれない。

 少なくともミラベルは常時あの狂気を振りまいているわけではないし、時折穏やかな姿を見せる事も確認されている。

 今回の事だって、友人に手を出されて怒りに燃えていた、と解釈出来る。

 一見すると自分の事しか考えておらず、他を全てゴミ同然に思っているように見えるだろう。

 だが、あの悪魔のような少女にも友情というものは存在している。そうダンブルドアは信じたいのだ。

 

「わしらは教師じゃミネルバ。ならばあのような子をこそ見捨ててはならぬ」

「……アルバス」

 

 マクゴナガルは指で目元を抑え、涙を拭う。

 この涙は感激の涙だ。そして己の短慮さを恥じたものでもある。

 

「私は自分が恥ずかしい……恐れから教師としての責務すら投げ出そうとしていた」

「そう自分を責めるな。わしとて似たようなものじゃ」

「いえ、貴方は偉大な魔法使いです、アルバス」

 

 マクゴナガルの賞賛にニコリと笑い、ダンブルドアは朽ち果てた蛇の王へと近づいて行く。

 ひとまず、今やるべき事はこの死骸の埋葬だ。

 いつまでもこれを放置していては目撃した生徒がショックを受けるのは想像に難くない。

 バジリスクの遺体を持ち上げ、そしてダンブルドアとマクゴナガルは外へと出て行った。

 

*

 

 スリザリンの怪物は死んだ。

 その事に全校生徒が沸き、またスリザリンに200点が加点された事でスリザリン生達のテンションは今や天井知らずであった。

 クィディッチこそグリフィンドールに優勝杯を奪われてしまったが、ミラベルが獲得したこの200点という点数は優勝杯を持ってしても覆せるものではない。

 だがその喜びも束の間、新たな犠牲者が出てしまった。

 グリフィンドールのジニー・ウィーズリーが秘密の部屋に連れ去られてしまったのだ。

 確かに怪物はミラベルの手によって処刑された。だがそれを操っていた肝心の『継承者』がまだ残っていたのだ。

 

 この事態に動いたのはやはりハリー・ポッターとハーマイオニー・グレンジャー、そしてその友人のロンであった。

 彼ら3人はこの事態を解決する為に講師であるロックハートを伴って嘆きのマートルのトイレにまで出向いていた。このトイレこそが『秘密の部屋』への入り口であるとハーマイオニーが突き止めたからだ。

 といってもロックハートはあまり役に立たないだろう。何せ彼が今まで書いてきた自伝はどれも他人の活躍を奪っただけの嘘っぱちだという事が判明したからだ。(ハーマイオニーはショックで言葉も出ないようだった)

 だがそれでも何かの役に立つかもしれない。そうロンが提案し、彼を無理矢理引っ張ってきたのが数十分前の出来事である。

 

『開け』

 

 ハリーが蛇語で手洗い場……否、そこにある蛇が彫り込まれた蛇口へと語りかける。

 すると蛇口が光り、手洗い台が動き出した。

 台がどいた後にあったのは、大人一人が滑り込めそうなほどに太いパイプだ。

 恐らくはこれが秘密の部屋への入り口なのだろう。このパイプを滑った先にきっと『継承者』とジニーがいるのだ。

 

「よし、お前が先に降りろ」

「き、君達、馬鹿な事は止めるんだ。これは無謀というものだよ」

「いいから行け!」

 

 まずは様子見としてロックハートを蹴飛ばし、パイプの中へと飛び込ませる。

 ハーマイオニーが「やりすぎよ!」と非難していたがハリーとロンはいい気味だとしか思わなかった。

 特にハリーは一度あの無能教師に頼んでもいないのに骨を抜かれている為尚更だ。

 ロックハートを落とした後にどうやら問題なさそうだと判断したハリーとロンがパイプに飛び込み、最後にハーマイオニーがスカートを抑えてパイプへと入り込んだ。

 中に入った4人はまるで滑り台を滑るように下へと落ちて行き、深く深く、地下牢すらも通り越して尚滑り続けた。

 そうして滑っているとどこから紛れ込んだのか、ネズミがパイプの中を転がって行きハリー達を追い越して落ちて行ったが、どうでもいい事だ。

 

「痛っ!」

 

 唐突に滑り台の終着点へと辿り着き、ハーマイオニーは地面へと放り出され、尻餅をついた。

 痛む尻をさすりながら立ち上がれば、先に到着していたハリーやロンが辺りを緊張しながら見回している。

 パイプの先にあったのは、石が敷き詰められた暗いトンネルだ。

 ここが秘密の部屋なのだろうか? そう思いながら立ち上がり、ハーマイオニーもハリー達の隣に立つ。

 不気味なトンネルだ、と思った。

 湿った床に先の見えない闇、ヌルヌルした壁と天井。

 よく見れば地面には動物の骨がいくつも散らばっており、足の踏み場にも苦労しそうだ。

 

「ルーモス。光よ!」

 

 ハリーが杖の先に光を灯し、先頭に立って歩く。

 その後をハーマイオニー、次にロックハート。最後尾をロックハートに杖を突き付けたロンが歩く。

 彼自身の杖はミラベルに破壊されてしまったが、幸い代わりの杖として学校支給の安物をマクゴナガルから借りる事が出来たので、今はそれを使用している。

 

「ハリー、あそこに何かあるわ」

「……バジリスクの抜け殻だ」

 

 そこにあったのは6メートルを超える蛇の抜け殻だ。

 だがここに抜け殻があるからといって、この先に蛇の王がいるという事にはならない。

 何故ならこの抜け殻の主はすでにミラベルによって惨殺されているからだ。

 その時の恐怖を思い出し、ハーマイオニーが青い顔をして俯いた。

 

「あわわわわ……」

 

 その抜け殻に驚いたのかロックハートが腰を抜かし、座り込んでしまった。

 本当にどこまでも使えない男である。

 そう呆れながらロンが杖を突きつけて立つように強要したが、しかしこれはブラフだった。

 ロックハートは素早く立ち上がり、油断しきっていたロンを殴り倒して杖を奪い取ったのだ。

 まさに一瞬の油断が生んだ命取りである。

 優位を取り戻したからか、彼の顔には輝くようなスマイルが戻っていた。

 

「お遊びはお終いだ! 私はこの抜け殻の皮を持って帰り、女の子を救うには遅すぎたと皆に告げよう。

そして君達はズタズタになった無残な死骸を見て哀れにも気が狂ったと言おう」

「無駄だ、怪物はもう死んでいる! 誰が信じるものか!」

「信じるさ。私にはそれだけの知名度があるからね……まあ、そのままじゃ無理があるから、そうだな、怪物は2匹いた事にするさ」

 

 3人を威嚇しながらジリジリと距離を開け、ハリー達へと杖先を向ける。

 それに対しハーマイオニーは気付かれないようにポケットに手を入れて杖を握り、小声で二人へと話しかけた。

 

「ハリー、ロン。ロックハートが呪文を唱えたらすぐに防御魔法を張るわ。

そしたら一瞬の隙が出来るから、武装解除で杖を取り上げて」

「……わかった」

 

 ハーマイオニーの指示に従うのが、ここで一番賢い対処法のようだ。

 そう判断してハリーは小さく頷き、袖の中の杖を握る。

 後はタイミングだ。ハーマイオニーが呪文を防いでロックハートが驚いた一瞬の隙を狙って杖を吹き飛ばさなければならない。

 “もしもハーマイオニーが防げなかったら”という恐怖はある。

 だが今はそれしか方法がないのも事実。

 ここはハーマイオニーを信じてその瞬間を待つしかないのだ。

 

 だが一方でそこまで安心し切れなかったのがロンだ。

 ハーマイオニーを疑うわけではない。彼女の腕は信じている。

 だがロックハートは今までに何人もの記憶を奪ってきた男だ。

 そしてその記憶を奪われた者達は全て、彼が書いた物語の『本来の主人公』なのだ。

 バンパイア退治、雪男退治、怪物の駆逐……それを成し遂げて来た達人達の記憶を消し去ってきたのがロックハートなのだ!

 その彼の忘却術が果たして生徒に防げるようなものなのか? そうロンは考えた。

 

「さあ記憶に別れを告げるがいい! オブリビエイト、忘れよ!」

「プロテゴ! 護れ!」

 

 ロックハートの杖から光が放たれ、それをハーマイオニーの張った透明な障壁がブロックする。

 だがロンは気付いた。

 ロックハートの魔法は、今までの無能さが嘘のように強力でハーマイオニーの盾の呪文すら軋ませているという事に。

 

 ――駄目だ! 突破される!

 

 そう予感したロンは素早く駆け出し、ハリーとハーマイオニーの前に飛び出した。

 それと同時にロックハートの魔法が障壁を貫き、ロンへと直撃する。

 吹き飛ばされる身体。地面に落ちる友人。

 ハリーはその姿に心臓を鷲づかみにされるような苦しみを感じ、しかしするべき事を見失いはしない。

 友が身を挺してまで作ってくれたチャンスだ! 無駄にするわけにはいかない!

 

「エクスペリアームス! 武器よ去れ!」

 

 杖の先から発された赤い閃光がロックハートの手から杖を奪い、それと入れ替わるようにハーマイオニーが杖を構える。

 そしてハリーよりも強力な武装解除呪文を放ち、ロックハートを吹き飛ばして壁に叩き付けた。

 その威力にロックハートも意識を断ち切られたようで、ズルズルと床に墜落し、壊れた人形のように転がった。

 

「ロン!」

 

 倒れたロックハートに目もくれずハーマイオニーはロンへと駆け寄る。

 ロックハートの忘却呪文をモロに受けてしまったようだが彼は果たして無事だろうか?

 今はただ、これまでの呪文と同じようにロックハートがちゃんと呪文を発動出来ていなかったのを祈るばかりだ。

 だが不幸な事に……何とも不幸な事に、こんな時に限って彼の腕は本物であった。

 

「ロン、私がわかる!? 自分の事がわかる?!」

「……あ、ああ……。わかるよ……けど、凄く曖昧だ……僕はロナルド・ウィーズリー……だと思うんだけど……違う気もする」

「ロ、ロン! 僕は!? 僕はわかる!? 君の親友のハリー・ポッターだよ!」

「うーん……ああ、ハリーだ。そう、ハリー・ポッター……いや、パピー・ポッティ? ハニータッカーだったかな……」

 

 その返答を聞いてハーマイオニーは泣き出してしまい、ハリーは絶望したような顔になった。

 駄目だ、記憶が滅茶苦茶になっている! 完全に失われてはいないが、それでも重症だ!

 ハリーは己の読みの甘さを恨み、ハーマイオニーは自分の技量の無さを呪った。

 この怒りに突き動かされ、今すぐにでもロックハートの首を絞めてしまいたいという暗い怒りがハリーの中に渦巻いていく。

 

 どうしてだ? どうして、こんな事になってしまったのだ?

 そう思いながら、ただハリーは呆然とするしかなかった。

 

*

 

「……ち、よりによってロナルド・ウィーズリーか……ハズレだな」

 

 スリザリン寮の談話室で椅子に腰掛けながら、ミラベルが小さく舌打ちをする。

 去年構築した鼠達を使った情報伝達によりハリー達の現状は逐一彼女に報告されていた。

 ハリー達が秘密の部屋に入った際に紛れ込んできた鼠。あれもミラベルの操るネズミの端末なのだ。

 また、今年に入って伝達の効率は上がっており、ネズミ達の意思は全てミラベルの直接のペットであるピョートルへと繋げられていた。

 そしてそのピョートルの意思は全て開心術によってミラベルに筒抜けになる。

 即ち今や、校内で鼠が見た物はほぼノータイムでピョートルを経由し、ミラベルへと送られているのだ。

 そうして得たハリー達の状況だが、ミラベルにとってそれはあまり面白いものではなかった。

 

「まあこればかりは運だったが……あんな男の記憶を奪っても何の意味もない」

 

 ミラベルは溜息をつき、己の企みが失敗した事に気落ちした。

 本来……即ち知識の通りならばここで記憶を失うのはロックハートだったのだ。

 壊れていたロンの杖を使う事で忘却呪文が逆噴射し、彼自身が記憶喪失になるというのが本当の流れだ。

 だがそこにミラベルがちょっとした小細工を加えた事でそれが変わった。

 ロンの杖を完全に破壊してしまう事で彼がまともな杖を持つように誘導し、ロックハートの忘却呪文が成立するように仕向けたのだ。

 

 ミラベルが狙ったのは二つ。

 一つはあの無能教師のアズカバン直送。

 そしてもう一つはハリー、あるいはハーマイオニーの記憶初期化であった。

 

 まずロックハートのアズカバン行きはこれでほぼ成功した。

 今までの罪が明るみになるだけでなく、生徒に忘却呪文など撃った以上どう足掻いてもアズカバンからは逃れられない。

 本当ならばあんな無能はこの手で潰してやりたかったのだが、流石に教師を潰してしまってはホグワーツにいられなくなるだろう。

 故にこその原作知識悪用による、間接的な排除であった。

 

 後はここでハーマイオニーかハリーに忘却呪文が命中してくれればミラベル的には大成功であった。

 記憶を失った直後というのは赤子のようなものだ。

 ならば自分という存在を植え付けて、シドニーのように忠実な従者にするには絶好の好機。

 そう、ミラベルは記憶を失ったハーマイオニー、あるいはハリーを手駒にしようと目論んでいたのだ。

 

 ハーマイオニーはその知識が失われるのは惜しいが、たった2年でここまでになった彼女ならば必ず元の状態にまで戻る事が出来る。いや、むしろ自分が率先して魔法を教える事でそれ以上にする事も可能であっただろう。

 そうなれば彼女はこの上なく優秀な手駒になってくれたはずだ。

 マグル生まれというのも申し分ない。彼女ならば自分の掲げる理想世界の象徴にだってなれたはずだ。

 

 ハリーは彼女ほど優れた部分はないが、運命に選ばれた“生き残った男の子”だ。

 彼を手中に収めるという事はダンブルドア、ヴォルデモートの両名に対し切り札を得るという事である。

 特にダンブルドアの動きを抑圧するにはこの上ない絶好の鬼札となってくれた事だろう。

 

 だが実際に記憶を失ったのはロナルド・ウィーズリーだ。これでは何の意味もない。

 正直、彼を洗脳したところでスリザリンにいくらでもいるミラベルの信奉者と何ら大差はないのだ。

 例えるなら100人いる奴隷が101人になるだけである。無意味とは言わないが限りなく無価値だ。

 

「仕方ない……今回は諦めるとしようか」

 

 ハーマイオニーやハリーをロックハート如きでどうにかしようとは、流石に虫がよすぎたようだ。

 今回は大人しく二人から手を引く事を決め、ミラベルは傍観の姿勢に入る。

 バジリスクはもういないが、トム・リドルは健在だ。

 かつてホグワーツ1の優等生と呼ばれ、そして未来には闇の帝王と化す青年。

 それを相手に二人がどう戦うのか。ミラベルはそれを思い、冷笑を浮かべた。

 

*

 

 ハリーとハーマイオニーの二人は、ロックハートとロンをあの場に残してトンネルの奥まで進んでいた。

 連れて行く事も考えたが、この先には『スリザリンの継承者』がいるかもしれない。

 もしそれと戦闘になった場合身を守る術を持たないロンを守りきれるとは限らない。

 故に彼をそこに残し、二人で進む事に決めたのだ。

 ロックハートと一緒というのが不安材料だがロックハートはハーマイオニーの魔法でがんじがらめに縛ってあるし、ロンには絶対解かないように伝えてある。(というより、そもそも魔法以外ではほどけない)

 ならば下手に連れまわすよりもその場に置いてきた方がまだ安全、というわけだ。

 

「全く信じられない! ロックハート先生があんな人間だったなんて!

ああ、何で私、彼を優秀な魔法使いだなんて思ってたのかしら!

あの馬鹿! 無能! 役立たず! 人でなし! 顔だけ男! 死んじゃえ!」

「ハーマイオニー、怒る気持ちはわかるけど落ち着いて……この先に何がいるかわからないんだから……」

 

 顔を真っ赤にしてロックハートへの暴言を吐き続けるハーマイオニーをハリーがなだめながら先へと進む。

 ハリーとしてもロックハートを許せない気持ちは同じだ。出来る事なら今すぐ引き返してあの自慢のハンサム顔が潰れるまで殴ってやりたい。

 だがこの先にいるかもしれない相手の事を考えれば、今は冷静でなければ駄目なのだ。

 蛇の王と呼ばれるバジリスクを操り、何人もの犠牲者を出してきた恐るべき相手……その強さがどれほどのものかはわからないが、もしかしたらあのミラベルにすら匹敵するかもしれない。

 だからこそ、ハーマイオニーにも冷静になってもらわなければならない。

 

「わかってる、わかってるわよ! ああもう、でも腹が立って仕方ないのよ!」

 

 二人はグネグネと曲がるトンネルを幾度も曲がって進み、やがて奥まで細長く続く一つの部屋へと辿り着いた。

 蛇が絡み合うような柱が天井に伸び、薄明かりが不気味に全体を照らしている。

 ゴクリ、と唾を飲んで互いに目配せをし、ゆっくりと、慎重に部屋の中へと足を踏み入れる。

 杖を構えたまま、互いの死角をカバーするようにしながら前進していくと、部屋の中央に小さな影を発見した。

 黒いローブに燃えるような赤い髪の毛。それは二人がよく知るジニーその姿そのものだ。

 

「ジニー!」

 

 ハリーはその姿を認めるや小走りで少女の側まで駆け寄り、杖を脇に投げ捨てて抱き起こした。

 ソバカスのあるその顔は病的なまでに白く、まるで生気が感じられない。

 石にされているわけではないようだが、それならばこの顔色の悪さは何だというのだろうか。

 もしや……と、最悪の想像を働かせてハリーは顔を青くし、ジニーを必死に揺さぶる。

 

「ジニー! 死んじゃ駄目だ! お願いだから生きていて!」

「ハリー、どいて」

 

 動揺するハリーをどかし、ハーマイオニーがジニーを寝かせる。

 意識のない人間に対し、揺さぶるという行為は悪手だ。これはマグルの基礎的な人命救助の知識だが、意識がなく、かつ目立った外傷がない場合はまず脳疾患を疑うべきと言われている。

 そんな状態で揺さぶると逆にそれが原因で血管が切れたりして、致命傷になってしまうかもしれないのだ。

 無論ここは魔法界でマグルの常識など当てはまらないのだが、人体の構造まで変わるわけではない。

 マグル生まれの彼女だからこその気遣いと言えるだろう。

 

「……大丈夫、息はあるわ」

 

 ハーマイオニーの言葉にほっとし、ハリーはとりあえず落ち着きを取り戻した。

 だが安心してばかりはいられない。少しでも早く彼女をここから連れ出さなくてはいつ『継承者』に襲われるかわからないのだから。

 彼女を運び出す為に杖を取ろうとし、そこでハリーは自分の杖がない事に気が付いた。

 先ほど脇に投げたはずだが、勢い余って遠くまで飛ばしてしまったのだろうか?

 そう思い辺りを見回すと、すぐ近くの柱に背の高い黒髪の少年がいる事に気が付いた。

 杖は彼の手の中にあり、クルクルと弄ばれている。

 

「……トム? トム・リドル?」

「え?」

 

 ハリーの言葉に反応し、ハーマイオニーも後ろを振り返った。

 そこにいた人物はハリーが日記で見たトム・リドルそのものであり、まるでゴーストのように輪郭がぼやけて向こう側が透けて見える。

 

「あれがトム・リドルなの? ハリー」

「うん……けど、彼は50年前の人間のはず」

 

 困惑するハリーに微笑を向け、トム・リドルは語る。

 

「記憶さ。日記の中に50年間残されていた記憶が僕だよ」

 

 ハリーの杖を指先で回しながらトム・リドルはハリーを見る。

 その眼に、ハーマイオニーは何か嫌な物を感じ取った。

 あの瞳を自分はどこかで見た事がある。

 つい最近、あれに近い……もっとおぞましい物をどこかで見た覚えがあるのだ。

 

「僕はこの時をずっと待っていたよ、ハリー・ポッター。君と話せるこの時をね」

「話なら後で出来る、今はそれよりここを出なくちゃ。杖を返してくれないか? トム」

 

 ハリーの要求に、しかしトムは応じない。

 変わらず杖を弄びながら、彼は言う。

 

「今ここで話すんだよハリー・ポッター」

 

 何かが、おかしかった。

 トムの態度や口調、この状況にそぐわない余りにも呑気すぎる姿勢。

 それらからはとても、あの日記で見た勇敢な模範生としてのトム・リドルが見えてこない。

 だがハリーよりも早く、ハーマイオニーがその理由に思い至ったようだ。

 彼女は杖をトムへと向けて、ハリーを庇うように立ち塞がる。

 

「ハーマイオニー!?」

「ハリー……その人、危険よ」

 

 ハーマイオニーは、トムの眼に見覚えがあった。

 確かに顔の造形は全然違うし、眼の色もまるで異なる。

 だがあの、長年捜し求めた獲物を見付けたような残忍で、冷酷で、背筋が冷えるような眼は絶対に忘れない。

 残虐極まる捕食者の瞳を彼女は忘れない。

 

「あの人の眼……すごく似てるわ」

「似てる? 誰にだい?」

 

 ハリーの問いで思い出すのは、つい先日のクィディッチ当日の出来事。

 ミラベルとバジリスクの戦いが恐ろしくてずっと蹲っていたハーマイオニーだったが、実は一度だけ好奇心に負けて目を開けていたのだ。

 その時彼女は見てしまった。

 いっそバジリスクの眼を見た方がまだマシだったと思えるほどの、この世の物とは思えない地獄絵図を。そしてそれを作り上げた血まみれの少女を。

 何よりも忘れる事が出来ないのは、血飛沫の中にあって尚目立つ金色の……“捕食者の瞳”!

 

 

 

「そっくりなのよ、あの男の眼は!

バジリスクを嗤いながら引き裂いていた時の――あの、ミラベル・ベレスフォードとッ!」

 

 

 




トム「え? いや、僕はそこまで残忍じゃない……と思うんだけど」
ハリー「流石にあれと一緒は可愛そうな気が……」
ハー子「……そうね、流石に言い過ぎたわ。御免なさい」

(*M*)<ナンダ,ソノメハ!?
今回はダンブルドアとマクゴナガルの不安、ロン記憶喪失、トム・リドルとの遭遇の3本でお送りしました。
ロンの記憶喪失は100%ミラベルのせいでありますが、実はミラベル的にも誤算だったりします。
本当の目当てはハー子orハリーであり、彼等の記憶を奪うつもりでした。
次回はトムとの戦闘になりますが、ハリーは杖がないので必然的に前半はハー子VSトムになる事でしょう。ハリーはグリフィンドールの剣が届く後半からが勝負です。

そしてロンは視点の違いによるイメージの差を描いてみました。
ミラベルからの評価は低いですし、イーディス視点だと原作のマルフォイみたいに嫌な奴です。
しかしハリーやハー子視点だと、このように身を挺してでも守ってくれる頼もしい友人となります。
要は視点次第で格好よくも悪くもなるわけです。

え? じゃあマルフォイも視点変えれば格好いいのかって?
そう思う人は、動画でマルフォイのギター演奏を見るフォイ!

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