皆様こんばんわ。東方をクリアした経験のないウルトラ長男です。
大体いつも5面くらいで詰みます。あれどうやってクリアするの……?
どうも私はシューティングに向かないようです。
白い壁に囲まれた保健室の中で、イーディスは目を覚ました。
数秒、ぼうっと天井を眺めて、それから何かを思い出したかのように勢いよく起き上がる。
そうだ、自分を追いかけてきたあのスリザリンの怪物はどうなった!? あの後自分はどうなった!?
彼女がわずかに覚えているのは窓に映った蛇の眼を直視してしまった、その瞬間までの事だ。
そこから先の記憶が一切ない事を考えるに、恐らくあのまま石化してしまったのだろう、と考えるのが自然だ。
「痛ぅ……っ」
いきなり起き上がったせいか、身体の節々が痛み、悲鳴をあげた。
これは無理の無い事だ。
何せつい先ほどまでイーディスは石化しており、ようやくスプラウトとスネイプが薬を完成させて彼女を戻したのがほんの1時間前の事なのだ。
それを突然動かしたのだから痛むのも止む無しという所だろう。
「無理に動くな。先ほどまで石化していたのだからな」
「あ……」
かけられた声に反応して顔をあげれば、そこにいたのは最近疎遠になっていた友人、ミラベルだ。
彼女は不機嫌そうに腕を組んだまま、イーディスの事を見下ろしている。
ここにいる、という事はわざわざ見舞いに来てくれた、という事だろうがその表情からは心配だとか気遣いだとか、そういうものは微塵も感じられない。
心配してくれていたのか、それともただの気紛れなのか判断に困るところだ。
「あ、あの、ミラベル……」
「何だ?」
「あの後……私が石化した後、どうなったの?」
恐る恐る尋ねられた問いに、ミラベルは微かに微笑した。
そして何でもない事のように告げる。
「バジリスクは私が処分し、裏で糸を引いていた『継承者』はポッターとグレンジャーの活躍で打倒された。
おかげでグリフィンドールに400点加点され、今年の寮杯を持って行かれてしまったよ」
ミラベルはバジリスク打倒で稼いだ200点と日頃の授業で稼いだ点数を合わせて400点近く稼いでいるが、それでも今年は一歩及ばなかった。
流石にここまで露骨な贔屓をされた挙句クィディッチ優勝まで掻っ攫われては引っくり返しようなどない。
少々残念だが今年の寮杯はグリフィンドールに譲るしかなかった。
「そっか……本当にバジリスクを倒しちゃったんだ……。
やっぱ凄いなあ、ミラベルは……」
「…………」
「私……結局、弱いままだ」
どこか諦観したような顔でイーディスは微笑む。
結局、自分は何も出来なかった。
少しは自分でも出来るというところを見せようと躍起になって、それで結果はこの通り。
バジリスクは結局ミラベルが宣言通りに倒し、黒幕はポッター達が片付けた。
これでは自分などただの道化ではないか。
そう思うと、悔しさから視界が滲む。
その彼女へと、ミラベルが静かに言う。
「貴様がそう思うなら、その通りなのだろう。負け犬の思考に染まった者が強者になどなれるものか」
「…………」
「貴様がマグルの血を引いている事はすでに知っている。そしてそれを隠して生活していた事もな」
言いながら、ミラベルはわずかに目を細めてイーディスを軽く睨む。
その視線にはほんのわずかながら怒りが込められているようにイーディスは感じた。
「私は以前言ったな? それは唾棄すべき思考に囚われた弱者だと。
周囲の視線に怯えるだけの子羊など弱者以外の何者でもない」
「……う、ん」
本当に、この傲岸不遜な少女はブレない。
こういう時は普通、優しい言葉の一つでもかけてくれてもいいのに、それもしない。
これぞ己こそを至上と考えるミラベルの真骨頂。彼女は自分が間違っているなどと微塵も考えないのだ。
その人として間違えた在り方はしかし、紛れも無く強者の在り方だ。
だからこそ眩しく、そして羨ましい。
「だから唾棄してしまえ」
「え?」
「所詮は生まれ一つで優劣を決める下等な豚共の視線。
そんなどうでもいい物を気にするから貴様は弱いのだ」
予想もしていなかったミラベルの言葉に、イーディスが目を丸くする。
今の言葉を遠まわしに解釈するならば、イーディスを他の純血の生徒よりも認めてくれている、という事になる。
この自惚れを極めたような少女にしては実に珍しい事だ。
ミラベルはイーディスの眼を真っ直ぐに見ながら、一言一言を教え込むように言う。
「――強くなれ、イーディス・ライナグル。そうすればそんな悔しい思いをせずに済む」
思いもよらなかった言葉にイーディスの思考が停止しかけたが、すぐに再起動して考えた。
これは……これはひょっとして励ましてくれてるんだろうか、と。
優しさなどまるでない、いかにもミラベルらしい物言いだが、それでも自分を元気付けようとしてくれているような気がした。
そう思うと、自然と顔が綻ぶのを止められない。
「ミラベルってもしかして……不器用?」
「無礼な。私ほど器用な人間は他にいない」
あまりに下手糞な励まし方を遠回りに指摘したが、己に欠点があるなどと考えない少女には無駄だったようだ。
彼女は少しばかり不快そうに眉をよせ、口をへの字に曲げる。
こうしていると年頃の普通の少女に見えるから不思議なものだ。
「では、私はもう行く」
「あ……」
さっさと踵を返して出て行こうとするミラベルに、思わず名残惜しそうな声をあげてしまう。
するとミラベルは視線だけをこちらに向け、足を止めた。
何か言いたい事があるならさっさと言え、と無言で伝えてくる。
その彼女へ、イーディスは弾んだ声で言った。
「ミラベル、ありがとう」
「…………フン」
イーディスの感謝の言葉に、ミラベルは顔を背けた。
そして今度こそ足早に保健室から退室してしまう。
その友人の、照れ隠しなのか素なのかイマイチわからない態度にイーディスは苦笑するしかなかった。
何となく、照れ隠しならいいなあ、などと思ってしまうのは友人だからこその希望的観測という奴だろうか。
「少しいいかね? お邪魔するよ」
ミラベルが去った後、それと入れ替わるように入ってきたのはダンブルドアだ。
偉大な魔法使いと呼ばれる老人は優しげな微笑みを浮かべて、イーディスの前に立つ。
「身体の調子はどうかね?」
「……まだ万全とは言い難いですけど、夜の学年末パーティーには出れそうです」
イーディスは訝しむような眼でダンブルドアを見上げる。
ハリー・ポッター達ならまだわかるが、自分のようなスリザリン生に一体校長が何の用だろうか。
単に被害にあった生徒全員に声をかけている、と見るのが自然だが何と無くそれは違う気がしていた。
「そうか、それはよかった」
ダンブルドアは嬉しそうに頷き、ゴソゴソとローブの中を探る。
そして出てきたのは黄色い包みに隠された飴玉だ。
彼は掌に6つ、それを乗せるとイーディスの前に差し出す。
「それは?」
「お見舞いのレモンキャンディーじゃ。わしはこれが大好物でのう」
「はあ……」
イーディスの手に半ば強引に飴玉を乗せ、ダンブルドアが微笑む。
偉大な魔法使いの好物が飴玉とは何とも意外な話だ。
しかもよく見れば完全なマグル製品であり、魔法などが一切かかっていない。
「君のお友達……ミス・ベレスフォードと一緒に食べるといい」
「あの……これを渡す為にここまで?」
ダンブルドアの真意が見えずに見上げるイーディスを前に、ダンブルドアは咳払いを一つする。
無論、ここに来た理由はそれだけではない。
お見舞いも重要な事だが、ミラベルの友人である彼女だからこそ訪れたのもまた事実なのだ。
「それもある。じゃが、少し君と話がしたくての」
「私と?」
「そうじゃ。ミス・ベレスフォードについて、の」
校長の口から出てきた友人の名前にイーディスがわずかに驚く。
「ミス・ベレスフォードがバジリスクを倒した事は知っているかね?」
「はい。本人から聞きました」
「では、どうやって倒したかは聞いておるかな?」
「い、いえ……」
ふむ、と頷きダンブルドアがしゃがみ込む。
そしてイーディスの視線の高さに合わせ、その輝く青い瞳でイーディスの眼を除き込むようにした。
その表情は先ほどまでの朗らかなものとは一変し、真剣そのものといった顔つきだ。
「ミス・ベレスフォードはバジリスクと戦う際、かつてない残虐性を発揮した」
「え?」
「10分近くに渡り、戦意を喪失したバジリスクを延々と、嗤いながら嬲り殺したのじゃ。
……これは、実際その場にいたミス・グレンジャーの証言じゃよ」
ダンブルドアは一度目を閉じ、あの時の光景を思い浮かべた。
すでに事後であったが、あの原型を残さず解体し尽くされた蛇の王は忘れたくても忘れられない。
しかし見方を変えればあれはミラベルの情の証でもあったのだ。
「わしはそこに彼女の底知れぬ闇と、一握りの光を見た」
「ひ、光?」
「うむ。その残虐性が君という友人を傷付けられた事によって解放されたものだとしたら……それはあの子の中に残された『善』の可能性じゃ」
物事というのは単純なようでその実複雑だ。
一面から見れば黒にしか見えなくとも、視点を変えれば白になる事がある。
今回のミラベルの残忍性も一見すると黒一色だが、学校の平和や友の仇討ちとして見れば白にならない事もない。
ダンブルドアは以前ミラベルについて、この少女に人間らしい情などあるのだろうか、と危惧した。
その答えが、あのバジリスクの惨殺死体だ。
相変わらず闇への道を歩んでいるあの少女だが、それ以外の道に進む可能性もわずかではあるが示されたのだ。
少なくとも、あの少女は“友の為に怒る”事が出来るのだ。
「彼女がわずかなりとも心を許しているのは君しかいない。どうか、これからもあの娘と友達であって欲しい」
もしもミラベルを正しい道に引き戻せるとしたら、それは恐らくこの少女のみだ。
イーディス・ライナグルだけがミラベルの手を引いて正道に引き戻せる可能性を秘めている。
だからこそ、この少女は守らねばなるまい。
ハリー達と同じように、可能な限り手を尽くして導かなければならないのだ。
「話はそれだけじゃよ」
とりあえず、しばらくは目を離さないようにしつつ見守るしかないだろう。
どうか、願わくばこのわずかな光が、ミラベルにとっての大きな光となる事を祈るばかりだ。
今ダンブルドアに出来るのは、それだけである。
*
学年末パーティーが終わり、1年が終わりを告げた。
今年の寮杯はミラベルの予想通りグリフィンドールの独占だ。
ロックハートはといえば生徒に対し忘却呪文を使った事や、これまでの悪事が全て露見しアズカバン送りにされる事が決定したらしい。
そして今回一番の被害者であるロナルド・ウィーズリーは聖マンゴ魔法疾患障害病院に入院する事が決まり、その入院費も全てホグワーツが出す事になった。
担当癒者が言うには、比較的軽症であった為、1年もすれば十分復学出来るとの事らしい。
この報告にロンの友人達が揃って胸を撫で下ろしたのは言うまでもないだろう。
また、今回の功績を評価してハリー、ハーマイオニー、そしてミラベルの3人には『ホグワーツ特別功労賞』が与えられる事となった。
もっともハリーやハーマイオニーは賞が欲しくて戦ったわけではないし、ミラベルもそんなものに興味はない。
結局、この賞を与えられても誰も喜ばなかった事にダンブルドアが一人肩を落としたというのはここだけの話だ。
「クィレル、いるか?」
「はっ! 此処に」
家へと帰還したミラベルはそのまま煙突飛行を用いてクレセント通りにある別荘を訪れていた。
その用件は、去年クィレルに命じた事がちゃんと果たされているかどうかの確認だ。
ミラベルはいずれ来る旗上げの日の為に準備を整えているが、その邪魔となるのが魔法省の目である。
これは学校に通う未成年が魔法を使うと即気付かれるという厄介極まりないもので、おかげで魔法を使った儀式も何も出来やしない。
そこで1年前、ミラベルはこの鬱陶しい魔法省の目をどうにか誤魔化す方法を探せ、とクィレルに命じたのだ。
「私が1年前に命じた事は覚えていような?」
「無論でございます、お嬢様」
ミラベルの問いに、怪しげな仮面を被った従者が頷く。
この仮面の下にあるのは火傷で醜く爛れた素顔であり、それは去年のハリー・ポッターとの戦いで付けられたものだ。
そして左腕には義手代わりの『銀の腕』が付けられており、動きがぎこちない。
右腕の爪先にあるのは去年植え付けた呪いの爪で、今でも鮮やかな青を保っている。
仮面と腕、そして爪。いずれもミラベルが彼に贈ったものだ。
「この別荘全体に認識阻害の魔法をかけ、『匂い』が判別出来ないようにしてあります。
魔法や儀式を行ってもまず気付かれる事はありません」
「ほう……」
クィレルから返ってきた言葉に、ミラベルは感心したような声を出す。
実の所、この命令はかなりの無茶難題であり、達成出来なくても仕方のない内容であった。
当たり前の事だが、そう簡単に魔法省の目を欺けるのなら魔法界は犯罪者だらけになってしまう。
故にその監視の目は簡単には突破出来ない……はずだった。
しかしクィレルはそれを達成してみせた。これは驚くべき成果だ。
簡単そうに言っているが、その『認識阻害』もそこらで使われているようなものとは違うだろう。
恐らくは相当複雑な手順を踏み、高度な術式を用いたはずだ。
無論、嘘をついている可能性はあるが、指を見れば嘘かどうかは一目でわかる。
主人に対し嘘を吐くなどという不忠を働けば最後、その爪の色に変化が訪れるからだ。
しかし爪は依然として鮮やかな青を保っており、クィレルが一切の不忠を行っていない事を示していた。
どうやら、この男への評価を改める必要があるようだ。
「見事だ、クィリナス・クィレル。私は貴様を過小評価していたらしい」
「……! も、勿体無きお言葉であります!」
ミラベルからの賛辞を受け取った瞬間、クィレルの心を占めた感情は『歓喜』であった。
ただ一言……たった一言のねぎらい。それだけのものが、他のいかなる物よりも価値あるもののように心を占拠してしまった。
その事に困惑する心は当然ある。恐ろしくすら思う。
しかし、そんな事がどうでもよくなってしまう程に、それは甘美で抗いがたい魅惑であった。
通常、人を惹き付けるにあたって重要なのは『過程』である。
一目惚れなどという言葉もあるにはあるが、そんなのは極稀なケースに過ぎない。
他者を好きになるには、まず交流し、相手の人となりを知り、そして惹き付けられるものなのだ。
頭を撫でただけで心を傾ける事もなければ、笑顔を向けただけで恋心を抱く事もない。
人の心には他者の侵入を阻む鍵があり、そしてそれは歳を経るごとに増えて行く。
たった一言で相手の心を歓喜で埋め尽くすなど、“普通は”出来ないのだ。
だがミラベルはそれを可能とする。
『過程』を完全に無視し、惹き付けたという『結果』だけを出す。
心の鍵など全て蹴り開け、土足で心に上がり込み、勝手に旗を突き刺す。
そして声高に宣言するのだ。「ここはもう自分の領土だ」と。
それはまるでヒトラーに従う兵隊のような“気持ち”!
邪教の教祖に憧れる少年のような“気持ち”!
それを強引に植え付ける事、それが暴君として生まれたミラベルの才能!
かつてサラザール・スリザリンが突然変異で蛇語を話す能力を持っていたように、天はまたも邪悪な魔法使いに特別な才能を与えてしまったのだ!
「その能力、今後も存分に私の為に役立ててくれ。“期待しているぞ”クィレル」
「は……はっ!」
クィレルは最早、己の中に植えつけられた感情に戸惑う事はしなかった。
ただ頭を下げて平伏し、この幼い主に全てを捧げる喜びに身を任せたのだ。
彼女の期待に応える事。それが今の彼の全てとなった。
こうして今ここに、呪いの爪を必要としない忠臣・クィレルが誕生したのである。
「ところで、何か褒美を与えようと思うが欲しい物はあるか?」
「いえ……」
――貴女様に仕えさせて頂ければ、それに勝る喜びなどありません。
そう宣言し、差し出された手の甲に口付けを落とした。
天「才能は悪役に与えてこそ映える!」
ダンブルドア「やめろ」
┌┤´д`├┐<ジャギ……クビ!
これにて秘密の部屋編も終了となりました。
正史と微妙に違い、グリフィンドールはこの時点でクィディッチ優勝を飾っています。
とりあえずこれでハリーに優勝の栄冠を与える事が出来ました。
次からは「アズカバンの囚人」に入りますが、正直ミラベルの出番あんまなさそうです。
だって倒すべき相手がいませんし。
ワームテールは倒してしまうとヴォルさん復活出来なくなるのでミラベルは放置する方向です。
あくまで彼女は復活したヴォルデモートを正面から潰したいのです。
そして明日は夏休み編と本編合わせての2本立てです。
朝の9時に幕間、いつも通りの18時に本編を予約投稿しておきましょう。