ハリー・ポッターと野望の少女   作:ウルトラ長男

26 / 85
┌┤´д`├┐<シソウガタリン!
皆様こんばんわ。最近東方SSもいいなあと思い始めたウルトラ長男です。
まあ東方はもっぱら読み専ですがね。
マルフォイIN東方とか誰か書けばいいのにと思うフォイ。


第24話 真似妖怪

 3年度になって初めて追加された新たなる授業、『魔法生物学』。

 記念すべきその第1回目、ハグリッドの初授業である魔法生物学は……やはりというか、大失敗に終わった。

 授業自体は悪くなかった、とイーディスは考える。

 怪物好きで有名なハグリッドにしては自重した生き物を連れてきたし、それなりに説明もわかりやすかった。

 まあ、いきなり襲いかかる危険のある生物を連れてくるのもどうかと思うが、魔法生物飼育を考えればそれは避けて通れない道だろう。

 

 最初は上手く行っていた。

 ハグリッドが連れてきた生物……ヒッポグリフは誇り高く、お辞儀しなければ乗せてくれないという、どこぞの帝王のような困った性質を持つ生き物だったが、それでも大半の生徒が上手く乗れていたのだ。

 ミラベルだけは一切頭を下げず、ひたすらガンを飛ばし合うという意味不明な事をしていたのだが、それで最終的にヒッポグリフが膝を折ったのだから、やはり彼女には常識が当てはまらない。

 ミラベル曰く「メンチの切りあいは先にイモ引いた奴が負け」との事らしい。これそういう授業じゃないから。

 問題は例のごとくドラコ・マルフォイだ。

 彼はハグリッドの言葉を無視してヒッポグリフを侮辱し、攻撃を受けてしまったのだ。

 完全な自業自得だが、それでも生徒が負傷したというのは紛れも無い事実。負傷する可能性のある生物を連れてきた時点でハグリッドの責となるのだ。

 もしかしたらハグリッドは着任早々クビになるかもしれない、と今や学校中がその噂で持ちきりとなっていた。

 

「ねえ、ハグリッドはクビになると思う?」

 

 金曜日の昼過ぎ、次の授業である「闇の魔術に対する防衛術」のクラスに向かいながら、イーディスが言う。

 あれからもう数日も経つのに未だにマルフォイの腕の包帯は取れず、時折苦痛に呻くように腕を押さえていた。

 それに対しミラベルは何でもないかのように返す。

 

「ならんな。重症ならばともかく、マルフォイのあれはただの掠り傷だ。

生徒に掠り傷を負わせただけでクビになるなら大半の教師が1年と持たんよ」

「え? でもマルフォイはまだ包帯をしてるよ?」

「マダム・ポンフリーが治療をして本当にまだ治っていないというのならそれは脆弱という言葉すら生ぬるい虚弱体質だ。魔法疾患を疑うべきレベルだよ」

 

 マルフォイの怪我はすでに治っている、とミラベルは指摘する。

 あれは単に周囲の同情を引く為と、ハグリッドを陥れる為にまだ治っていない演技をしているに過ぎない。

 普通ならばそんな事をしたところで何の意味もないのだが、彼には父親という後ろ盾があるから困り者だ。

 魔法省に多大な影響力を持つルシウスの息子を怪我させた、というのはそれだけで魔法省が動くほどの大問題なのである。

 

「ま、ハグリッドがどうなろうが私の知った事ではないがな。……っと、着いたぞ」

「今年の防衛術はまともだといいなあ……」

 

 引き戸を開け、教室の中へ入る。

 するとそこにはすでに生徒達が集っており、授業の準備をしていた。

 ミラベルとイーディスが窓際の席に腰掛けると、丁度いいタイミングでルーピンが入室して来る。

 

「やあ、皆。せっかく準備してくれていたのをすまないんだが、今日は実地訓練なんだ。

だから教科書は必要ない。杖だけ持って私に着いて来てくれ」

 

 ルーピンはそう言うと生徒達を手招きし、教室の外へと出た。

 教科書を用いない実地訓練など、今までの防衛術の授業ではやった事もない。

 あえて言うなら去年ロックハートが行った決闘クラブがそれに当たるが、今回はそれとも違う気がした。

 どちらにせよ面白そうだ。そう思い生徒達は杖だけを持ってルーピンの後に続いた。

 彼の先導の下、入ったのは教員室だ。

 ちぐはぐな古い椅子があちこちに置いてあり、そして部屋の隅にある洋箪笥がガタガタと動いていた。

 明らかに中に何かが入って、暴れているのがわかる。

 

「怖がらなくていい。中に真似妖怪『ボガート』が入っているだけだ」

 

 ルーピンは何でも無いかのように言うが、これは結構怖い事だ。

 初の授業でいきなり妖怪と対峙するなど、今までの防衛術では有り得なかった事だからだ。

 すでにグリフィンドールが同じ授業を受けているとはいえ、それでも不安は尽きない。

 そんな生徒達の不安を消すように、柔らかくルーピンが言う。

 

「ボガートは狭くて暗い所を好む。洋箪笥、ベッドの下の隙間、ロッカーの中。

さて、最初の問題だ。真似妖怪ボガートとは一体何だと思う?」

「僕達が怖いと思った物に化けるんでしょう? 簡単な問題です」

 

 ルーピンの問いに、得意気な顔でマルフォイが答える。

 流石にグリフィンドールの後、と言う事でまね妖怪の事を知っている生徒はかなり多いのだ。

 

「その通り。だから中の暗がりに座っているボガートはまだ何の姿にもなっていない。

外にいる私達が何を怖がるかわからないから、化けようがないんだ」

「化ける前のボガートはどんな姿をしているんですか?」

「それがね、イーディス。実は誰にもわからないんだ。本当のボガートがどんな姿なのか、誰も見た者はいない。外に出すとたちまち私達が怖いと思う物に姿を変えてしまうからね」

 

 ボガートと遭遇する時というのはつまり、互いの姿が認識出来る時だという事だ。

 だがその時はすでにボガートは変身を終えてしまっている。

 だから本当の姿を確認しようが無いし、誰も見る事が出来ないのだ。

 

「しかし有利なのは私達だ。何せ数が多い。

ボガートをやっつける時、一番大事な事は、とにかく誰かと一緒にいる事なんだ。何故だかわかるかい?」

「えーと、誰に化ければいいかわからなくなるからですか?」

「その通りだダフネ。何人もいると、まね妖怪は何に化ければいいのかわからない。

空を飛ぶ生首になるべきか? それとも地を這うゾンビになるべきか? ボガートはそれがわからない。時には混乱して間抜けな変身をしてしまう事もある」

 

 生徒達の緊張をほぐすように、なるべく柔らかい声色で話しながらルーピンは説明を続ける。

 

「ボガートを倒す呪文は簡単だ。しかしこれは精神力がいる。

こいつをやっつけるのは『笑い』なんだ。君達はボガートに、君達が滑稽だと思える姿を取らせる必要がある。

さて、まずは杖なしで練習しようか。私の後に続いて言ってごらん。……リディクラス! 馬鹿馬鹿しい!」

「リディクラス、馬鹿馬鹿しい!」

 

 ルーピンに言われ、全員が一斉に唱える。

 その合唱にルーピンが満足そうに微笑み、解説を始めた。

 

「うん、とても上手だ。でも呪文だけでは十分じゃない。

そうだな……イーディス、来てくれるかい?」

「は、はい!」

 

 まずは実際にチュートリアルをしてみなければ生徒達もコツが掴めないだろう。その為の一番手としてルーピンが呼んだのはイーディスだ。

 ミラベルやマルフォイといった我の強いメンバーが集るスリザリンにおいて、イーディスは珍しく良識人寄りだ。

 チュートリアル役に選ばれるのも納得といったところである。

 

「君が一番怖いものは何だい?」

「ええと、バジリスクです」

 

 バジリスク……その名を聞いて何人かの生徒がギクリとしたのは無理もない事だろう。

 何せその怪物は今から1年前、学校全体を恐怖に陥れ、何人もの犠牲者を生み出したのだから。

 特に実際その被害に遭ってしまったイーディスの心に、今も尚恐怖として残っているのは仕方の無い事だろう。

 

「ふむ、バジリスクか。ならば一番怖いのは眼だね。

ところでイーディス、好きな動物はいるかい?」

「え? ええと、兎でしょうか」

「ふむ、ならこうしよう。まずあの箪笥を開けるとボガートが出て来てバジリスクになるね。

君はそこで杖を上げて唱えるんだ。『リディクラス、馬鹿馬鹿しい』。

その時、君は兎の可愛らしい、つぶらな眼に意識を集中させる。するとバジリスクの恐ろしい眼は兎の愛らしい瞳に早代わりしてしまうはずだ」

 

 ルーピンの言う、つぶらな瞳のバジリスクを想像したのだろう。イーディスがぷっ、と吹き出し、周りもそれに釣られて笑い声をあげた。

 するとどうだろう、箪笥の中のボガートがガタガタと動き、焦りを露にしたではないか。

 どうやら笑いがボガートの天敵というのは本当の事らしい。

 

「イーディスが上手くやっつけたら、次は君達の所に真似妖怪が向かって行くだろう。

皆、考えてくれるかい。何が一番怖いのか、そしてどうしたらその姿を可笑しな姿に出来るのか」

 

 その言葉に、部屋が静かになった。

 恐らくはそれぞれ、最も恐れる物を考えているのだろう。

 ミラベルもまた、他の生徒同様に考える。自分が最も恐れる物は一体何なのか、と。

 候補はいくつかある。全く持って忌々しい事だが、自分にも恐怖という感情は確かにあるのだ。

 

 まず、『全く調理されていない雑な料理』。イギリスが世界に誇る不名誉な物の代表格だ。

 

 次に『何も出来ない無能な自分自身』。

 無能を嫌い、嫌悪するミラベルにとって己自身がそうなるのは死にも勝る屈辱だ。

 そんな無様を晒すくらいならいっそ死んでしまいたい。

 

 それから……認めたく無い事だが、『アルバス・ダンブルドア』。

 未だ底の見えないあの老魔法使いの強さを脅威に感じていないと言えば嘘になる。

 2年前の事ではあるが、自分が張った全ての罠をわずか4分で突破してきたのは忘れようが無い。

 結果的に自分は欠片を手に入れたが、それでもあの時感じた敗北感は今も心に残っている。

 

 そこまで考えて、不意にミラベルの脳裏に浮かんだのはいくつもの映像。

 

 

 

 ――自分に向けられる、曇りのない笑顔。

 

 ――自分を友と呼ぶ、誰かの声。

 

 ――溢れんばかりの才能に輝き、将来の夢を語る少女の後ろ姿。

 

 ――無能の害悪共に踏み躙られ、廃人となってしまった、幼い身体。

 

 ――そして……そんな惨めを晒すくらいならばいっそこの手で、と『彼女』を抱き寄せる自分の姿。

 

 

 

 そこまで考えて、ミラベルは額を抑えた。

 馬鹿馬鹿しい。これは断じて恐怖などではない。これは失った過去の出来事だ。

 真似妖怪が決して変身するはずもない、過ぎ去った感情に過ぎない。

 そうして考えているうちにルーピンは授業を再開してしまったらしい。

 杖を振り上げ、箪笥を開ける準備をしている。

 

「皆いいかい? それじゃ、3つ数えたら出すよ。1……2……3!」

 

 カウント終了と同時に杖から放たれた火花。それが箪笥の取っ手に命中し、勢いよく箪笥を開けた。

 すると中からズルズルと音を立てながら巨大な蛇が這い出し、生徒達は慌てて目を閉じた。

 流石に本物のように眼を見ても石化する事はないだろうが、万一という事もある。

 イーディスも一瞬悲鳴をあげかけたが、すぐに気を取り直して杖を振り上げた。

 

「リディクラス! 馬鹿馬鹿しい!」

 

 呪文を宣言するとパチン、という鞭を鳴らすような音が響き、バジリスクの眼が変わった。

 恐ろしかったはずの黄色の眼はつぶらで愛らしい瞳に変わり、実にアンバランスで情けない。

 小動物のように目をクリクリと動かす様は最早笑いなしでは語れないみっともなさだ。

 生徒達の笑い声が教室に響き、ボガート・バジリスクは途方に暮れたようにその場で動かなくなった。

 

「次、ブレーズ!」

 

 二番手として選ばれたのはブレーズ・ザビニと呼ばれた黒人の生徒だ。

 彼が前に出るとボガートは全身を黒で包んだ、ベアークロー装備の残虐超人へと姿を変えた。

 その顔を覆う仮面は恐ろしいスマイルを浮かべており、口からはコーホーという呼吸音が零れている。

 変身したボガート・ウォーズはパロスペシャルを仕掛けるべく走り出したが、それよりも早くザビニが呪文を唱える。

 

「リディクラス!」

 

 再び鞭の音が響き、ボガートはハリケーンミキサーをされた後のように頭から床にめり込んでいた。

 ザビニに続くように、今度は黒髪でやや痩せ気味の生徒が前に歩み出た。

 名をセオドール・ノットといい、スリザリンの中でもかなりの切れ物として知られる傑物だ。

 ミラベルすらも彼には一目置いている事から、その聡明さが窺えるだろう。

 彼が前に立つとボガートは頭部が山羊の悪魔、バフォメットへと姿を変えた。

 

「リディクラス!」

 

 パチンッ、と音が鳴りバフォメットがただの羊へと変わった。

 いや、ただの羊ではない。全身の毛を狩り尽くされた、何とも情けない姿の羊だ。

 その姿に満足気に頷くと、ルーピンは続いて別の生徒の名を呼ぶ。

 

「ミラベル! 前へ!」

 

 名を呼ばれ、前に出る。

 するとどうした事か、真似妖怪の動きが止まってしまった。

 羊から変化出来ず、困惑したように身体をグネグネさせているのだ。

 まるで自分が何に化ければいいのかわからず、迷っているようだ。

 

 その原因は、ミラベルの持つ心の防壁にある。

 

 誰にも心を明け渡さない。

 誰にも心を許さない。

 他者が心に踏み込む事を許さず、読む事を認めない。

 相手の心を読んで模倣する真似妖怪にとってまさしくミラベルは天敵であった。

 心を読む為のほんのわずかな隙すらなく、彼女の心は彼女のみで満たされている。

 

 とはいえ、このままでは授業が成立しない。

 ミラベルはつまらなそうに舌打ちすると、仕方なく己の思念を真似妖怪へと飛ばしてやる。

 それが本当に恐れる物かどうかなどどうでもいい。

 真似妖怪は与えられた餌に飛びつき、すぐさまその姿へと変身してみせた。

 キラキラと輝く青いブルーの瞳に半月の眼鏡、折れ曲がった鍵鼻に長すぎる銀髪と髭。

 その風貌は紛れも無いこの学校の校長、アルバス・ダンブルドアその人だ。

 まさかの校長出現にルーピンのみならず全ての生徒がぎょっとする。

 

「リディクラス!」

 

 パチン、という音が響き呪文が行使される。

 するとダンブルドアの元々長い髭が更に長くなり、ボガート・ダンブルドアは自らの髭に絡まって転んでしまった。

 倒れ伏す偽校長の前にニヤニヤとしながら出てきたのはマルフォイだ。

 きっと彼の頭の中ではすでに、華麗にボガートを退治する自分自身が描かれているのだろう。

 その彼の心を読み取り、ボガートが変身した姿はしかし、彼自身も予想だにしないものであった。

 

「げ!?」

 

 現れたそれは金色の髪と金色の瞳を輝かせる、美しい少女だ。

 整った……いや、内面の邪悪さと反比例するかのように整い“すぎた”、ヴィーラすら裸足で逃げ出す美貌に己への自信に溢れた不敵な笑み。

 青いネクタイを襟に巻いた白いカッターシャツの上にベストを羽織り、下半身には紺色のスカートと足を隠す白いニーソックスを着けている。

 黒いローブは肩を通さずマントのように羽織っており、風でいくら揺れようと彼女から離れる事はない。

 それは紛れも無く、ミラベル・ベレスフォードそのものであった。

 出現した偽ミラベルは嘲るような笑みを浮かべ、金色の瞳でマルフォイを見下す。

 

「ククククク……」

「ひっ!?」

 

 含みのある、邪悪な笑い声をあげる偽ミラベルに一歩退き、マルフォイは顔を青くする。

 だがすぐに正気に戻り、杖を振り上げた。

 そうだ、恐れる必要がどこにある? これは真似妖怪だ! 本物ではない!

 滑稽な姿に変えて笑ってやればいいのだ!

 そう思い決意を固めたマルフォイの後ろから、突然鋭い声が突き刺さった。

 

「ほう? マルフォイ貴様……この私に恥をかかせる気か?」

「!!」

 

 その声を聞いてマルフォイは再び青褪めた。

 そうだ、そうだった……この場には本物のミラベルがいた!

 前に偽者! 後ろに本物! 二人のミラベルに挟まれたマルフォイは最早可哀想なくらいガタガタと震えている。

 退治しなければ偽ミラベルに攻撃される。しかし退治すれば後で本物の報復が待っている。

 まさにどう足掻いても絶望だ。どうしようもない。

 だが流石にそれを可哀想と思ったのだろう。ルーピンが困ったような顔で助け舟を出した。

 

「ほら、こっちだ」

 

 真似妖怪を自分の方へと引き寄せ、変身させる。

 するとボガートは銀白色の玉になり、ルーピンの前を浮遊した。

 それをルーピンは面倒臭そうにリディクラスで変身させ、ゴキブリへと変えた。

 

「次、ミリセント!」

 

 ボガートはミリセントの心を読み、巨大なムカデへと姿を変える。

 だがミリセントが呪文を唱えるとひっくり返ってしまい、無数の足をジタバタさせた。

 

「いいぞ、次はパンジー!」

 

 パンジーの恐怖していたものは白い獣のような何かだった。

 猫と兎を合わせたようなシルエットで、その赤い眼には生気がまるで感じられない。

 その白い獣はパンジーを見ると首をかしげ、「僕と契約してよ」などとのたまった。

 だがパンジーが呪文を唱えた瞬間、どこからともなく飛んできた無数の弾丸が獣を蜂の巣へと変えてしまう。

 

「よし、混乱してきたぞ! 次はダフネ!」

 

 呼ばれて出てきたのはダフネ・グリーングラスという女生徒だ。

 彼女が前に立つとボガートは天井にまで届くほどの巨漢へと変身し、ダフネを見下ろした。

 伝承などで語られるフランケンシュタインの怪物だ。

 

「リディクラス!」

 

 ダフネの呪文と同時にフランケンの怪物は手乗りサイズの人形になってしまい、慌てたように周囲を見回した。

 フランケンシュタインの怪物が怖いのはひとえにその巨体のせいだ。

 ならば小さくしてしまえばいい、とは道理である。

 その後も次々と生徒達によって変身させられ、だんだんとボガートの変身速度が衰えていく。

 もはや誰の目から見ても疲弊しきっているのは明らかだ。

 

「よし、後一押しだ! イーディス、やっつけろ!」

 

 最後にまたイーディスへと順番が回り、意を決したように杖を振り上げる。

 するとバジリスクになったボガートが一瞬で小さな蛇に変わってしまい、床に転がった。

 その姿を生徒達全員で笑えば、ボガートは行き場を失ったように破裂し、白い煙となって消滅してしまう。

 今ここに、ボガート退治は見事為されたのだ。

 

「よーし、よし! よくやった! ボガートと対決したスリザリン生一人につき5点をあげよう!

イーディスは10点だ、2回対決したからね。

寮に戻ったら各自ボガートに関する章を読んでまとめを提出してくれ。それが今日の宿題だ。

では、解散!」

 

 授業の終了が告げられ、生徒達は興奮をそのままに、雑談を交わしながら教員室を出て行った。

 会話の内容は勿論真似妖怪との対決についてだ。

 イーディスもまたこれまでにない充実した授業に満足したようで、声を弾ませて喜びを露にしていた。

 

「防衛術の授業じゃ、今までで一番まともだったよね」

「今までが悪過ぎたとも言うがな」

 

 イーディスの言う通り、今までで一番いい授業だったのは異論の挟みようも無い。

 しかしそれは今までの教師が単に悪すぎただけとも言えるのだ。

 そのギャップのせいでルーピンの授業が殊更素晴らしいものに感じられるのだろう。

 

「ところでミラベルは何でダンブルドアを怖がってるの?」

「……現時点で私が“勝てない”と思わされる数少ない存在だからだ。いずれは超えるべき壁だが、今のままでは奴の底すら見えん」

 

 イーディスの問いに、顔をしかめながらも正直に答える。

 腸が煮えくり返る程の屈辱だが、本当に上を目指すならば己の弱さを受け入れる必要がある。

 弱さを自覚していなければ克服すら出来ないからだ。

 だがそれでもこの敗北感は何とも言い難い。あまりの腹ただしさに気付けば、無意識の内に拳を握り締めていた。

 

 だが同時にミラベルはダンブルドアの事を尊敬もしていた。

 優れた者をこそ尊重し認める彼女にとって、まさにダンブルドアは理想の、そして偉大な魔法使いそのものだったのだ。

 そしてだからこそ気に入らなかった。心から侮蔑していた。

 それほどの能力を持ちながらホグワーツの校長などという地位に甘んじているあの男が許せない。

 魔法界の頂点に立ち、人々を導けるだけの才覚を有しながら、それを行使せず、あまつさえ魔法界の腐敗を黙認してきたあの男が何よりも度し難い!

 

 故に、必ず超える! 頂点に立つ者は常に何よりも優れてなければならないからだ。

 相手がダンブルドアであろうと、それは例外ではない。

 




マルフォイ「……フォイ……orz」
パンジー「…………」
ノット「…………」
ザビニ「……(どう慰めりゃいいんだ、これ」

┌┤´д`├┐<リネンガタリン!
今回はルーピンの授業でお送りしました。
この授業って主人公の思わせぶりな過去を出すのには最適ですよね。
今まで私が見てきたハリポタ系のSSや夢小説もここで大体真似妖怪が主人公のトラウマとかに変身して普段動じない主人公とかを困惑させます。
ミラベルの過去は別に恐怖とかじゃないので変身しませんでしたが、まあ一応ちょっとだけ出しました。

そしてどうでもいい事ですが、ヴォルデモートが守護霊の魔法を使ったらヒッポグリフになるんじゃないかと個人的に思っています。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。