ハリー・ポッターと野望の少女   作:ウルトラ長男

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┌┤´д`├┐<キサマハエイキュウニコエルコトハデキン!
皆様こんばんわ。Gジェネでトリエルばかり鍛えてるウルトラ長男です。
基本的に主人公や気にいっているキャラばかり鍛えるのがスパロボにおける私のジャスティス。
Gジェネでもそれは変わらなかったようです。
だから裏切る事が確定しているレコアさんとかは一人だけ低レベルのままモビルスーツも与えられず自室に篭っています。
……あれ? これ、敵に寝返って当たり前じゃね?


第29話 越えるべき壁

 あの屈辱の敗戦以降、すっかりグリフィンドールチームは活気を失ってしまった。

 特にオリバーなどは重症で、日がな一日ぼーっとしている時すらあるという。

 まるで勝利への意欲が全てディメンターに吸い取られてしまったかのような有様だ。

 だがそんな中にあってハリーだけは活力的に練習に励み、暇な時間を見つけてはルーピン指導の元、守護霊の呪文を学んでいた。

 もうグリフィンドールに勝ち目がないのはわかっている。スリザリンがどこかのチームに負けてくれればまだ可能性はあるが、残念ながらあのミラベルに限ってそんな事はないだろうとハリーにはわかっていた。

 何が相手であろうと彼女が敗北し、膝を付く姿など想像出来ない。

 きっと……いや、確実に彼女は勝つだろう。

 あの憎らしいまでの余裕を崩す事なく、圧倒的に、まるで始めからそうあるべきだったかのように、勝利の栄冠を手にするだろう。

 そして、それでいいと思った。

 あれほど完膚なきまでに自分達を負かしたのだから、そんな簡単に他の誰かに負けるような相手であって欲しくはない。

 変わらず無敵の存在として、絶対的な勝者として君臨し続けて欲しい。

 それでこそ、超えるべき意味があるのだから。

 

 

 

「これはどうかしら? ……えーと1396年グリフォンが魔女を傷付けたけど無罪放免になった……あ、駄目だわ。その魔女自身が飼い主で無罪を求めたから放たれただけね」

「こっちもこれといった物は見付からないよ。やっぱ無理なんじゃないのかな、ヒッポグリフを無罪にするなんて……」

 

 クリスマスも終わり、また活気の戻り始めた校内にて。

 図書館に集って談話しているのはハリー、ハーマイオニー、イーディスの3人だ。

 マルフォイを傷付けてしまったヒッポグリフ、“バックビーク”を何とか無罪にしてやろうと過去の事件を調べているのだが、どれもいまいちパッとしない。

 

「ちょっとイーディス。それじゃ何、貴女は罪もないバックビークが処刑されていいっていうの?」

「そうは言ってないけどさ、実際問題いくら過去の事例を調べても、まずマルフォイ家の権力をどうにかしないと難しいと思うよ」

「う……それはそうだけど……」

 

 目の前で行われるハーマイオニーとイーディスのやり取りを聞きながら、ハリーはヒッポグリフを助ける事の難しさを痛感していた。

 今回のヒッポグリフ処刑に正当性がないのなど、誰が見ても一目でわかる。

 流石に生徒を傷付けて無罪放免、とは行かないまでも極刑は行き過ぎだ。

 だがそれでも尚ゴリ押しで処刑に持ち込まれてしまっているのが現状なのである。

 ならばその原因であるマルフォイの権力をどうにかしない限り、何をしても無駄なのではないか? と思うのは当然の事だ。

 

「私が言いたいのは、正攻法じゃもう無理なんじゃないのかな、て事だよ。

そもそも私達でどうにか出来る事態なら、とっくにダンブルドアがどうにかしてるはずだし。

そのダンブルドアの力をもってしてもハグリッドを無罪にするのがやっとだったんだから……」

「じゃあ正攻法じゃない手段って何? やって来た魔法省の役人を全部やっつけちゃうとか?」

「いや、それは無理があるかな……ミラベルとかなら出来そうだけど……」

 

 会話を聞きながらハリーは考える。

 確かに彼女なら……ミラベルならこの窮地もどうにか出来るのだろう。

 あの別荘で話した時、魔法界の法律すらどうにかしてやる、と言い切った彼女だ。ならばきっと出来るのだろう。

 それが真っ当な手段でないのは確かだが、今はただ、その力が羨ましかった。

 

「ベレスフォードなら……彼女なら、どうするだろう?」

「うーん……そうだね……まず、権力で踏み潰すってのは多分ないと思う。影響力はマルフォイ家の方が上って言ってたし。

けどまあ、どうにかするんじゃないかな。ミラベルだし」

 

 イーディスのその言葉は無条件の信頼であった。

 “ミラベルならどうにか出来る”。そんな、何の根拠もない確信が言葉には含まれていた。

 もしもミラベルが持てる力を全て正しい事に使えば、自分達はこうして悩む事すらしていないのではないか、とも思う。

 きっとヒッポグリフの無罪だってあっさり勝ち取っただろうし、シリウス・ブラックだって容易く捕らえるに決まってる。

 こんな所でまで彼女との差を思い知る事になるとは、全く何とも嫌な話だ。

 

「壁は、高いなあ……」

「え?」

 

 思わず呟いた言葉にハーマイオニーが反応するが、何でもないと言って誤魔化す。

 全く、我ながら何とも恐ろしい相手をライバルと決めたものだ。

 あくまでライバルなのはクィディッチに限っての事で、他の部分では負けてもいいと思うのだが、それでも悔しいものは悔しい。

 

 本当に、越えるべき壁はあまりにも高い。

 

*

 

 今年も、生徒達に悲鳴をあげさせる学期末試験の期間がやってきた。

 変身術のテストではティーポットを陸亀に変えるというテストが出され、次に呪文学。

 これは『元気の出る呪文』が出され、元気が出すぎて笑い転げる生徒が続出してしまった。

 イーディスも少し強くかけすぎたようで、危うくマルフォイを笑い死にさせる所であった。

 最後に魔法史のテストを受け、1日目は終了だ。

 魔法史のビンズ先生の授業をまともに聞いていない生徒は大体ここで躓く。

 つまり9割の生徒が躓くという事だ。

 

 2日目は魔法生物飼育学と魔法薬学、天文学だ。

 魔法生物飼育学は簡単……というよりも、簡単すぎてテストとして成立していない。

 何せ自分のレタス喰い虫が試験終了まで生き残っていればそれで合格なのだから。

 (レタス喰い虫は放っておくだけで最高に調子がいいので誰でも合格出来る)

 この授業だけで無駄に平均点を引き上げてしまっているのは間違いのない事だろう。

 その後は魔法薬学、天文学と続き2日目が終わる。

 

 3日目は薬草学と闇の魔術に対する防衛術、そして選択科目のマグル学だ。

 この選択科目は当然人によって違い、占い術のテストをする生徒もいるがミラベルに言わせれば取るだけ無駄な授業である。

 というのも、この授業の担当であるシビル・トレローニーが自分の力に気付いていないペテン同然の占い師だからだ。

 素質は、ある。本物の占い師としての、未来を見通す予言の力を確かに持っている。

 だがあろう事か彼女自身がそれに気付いていないという宝の持ち腐れで、普段のトレローニーは全くの無能と言えた。

 ミラベルとしては一番評価をし難い人物だ。力は本物なのに無能とかどうしろというのだ。

 まあ、どちらにせよ正当な授業など出来るはずもない人材である。

 いかに予言の力を手元に留めて置く為とは言え、これを教師にする辺りやはりダンブルドアもなかなかの狸爺と言える。

 

 

 

「あーっ、終わったあー。このテストが終わった時の解放感っていうのはいいよねえ」

「さあな。私にはわからん感覚だ」

「さいですか……まあ、貴女は何も不安に思う事なんかないもんねえ」

 

 テストが終わり、イーディスとミラベルはスリザリン寮へ戻る道を歩いていた。

 いつになってもテストというのは緊張するものであり、そして終わった時の解放感は喜ばしいものだ。

 後はこれで帰って来る答案が期待以上ならば文句はないのだが、そこは戻るまでわからないのが辛いところである。

 

「どーせ今年も学年トップなんでしょ?」

「案外わからんぞ? グレンジャーの奴が今年はやけに頑張っていたようだからな」

「へえ? 具体的には?」

「複数の授業を同時に受けていた。恐らくあれは『タイムターナー』を使ったな」

 

 『タイムターナー』とは過去に戻る事が出来るという最上位の魔法具だ。

 そのあまりの危険さから使う為には魔法省の許可が必須であり、普通ならば一生徒が使えるような代物ではない。

 恐らくはマクゴナガルがハーマイオニー可愛さに無理をして許可を勝ち取ったのだろう。

 ダンブルドアがハリーを我が子のように愛しているのと同様、マクゴナガルはややハーマイオニーを可愛がり過ぎている節がある。

 そんな事を話していると、まさに今話題に上がっていた栗毛の少女が小走りで近付いてきた。

 だがその顔は青褪めており、焦燥感が浮かんでいる。

 

「イ、イーディス!」

「ハーマイオニー? どうしたの?」

「い、今、ハグリッドから手紙が来て……控訴に、負けたって……」

 

 その言葉を聞いてイーディスは息を飲むが、それとは反対にミラベルは全く反応を示さない。

 彼女にしてみればヒッポグリフの一匹や二匹、どうなろうと知った事ではないからだ。

 マルフォイ如きの自己満足の為に貴重な魔法生物を減らすのはどうかと思うが、それだけだ。

 ヒッポグリフが処刑されようが生き残ろうが、ミラベルにとってはどうでもいい事なのである。

 

「ハリーは!?」

「もう知ってるわ。そ、それで私達、ハグリッドの所に行こうと思うんだけど……貴女も来てくれるわよね?」

「当たり前よ!」

 

 ハーマイオニーとイーディスのやり取りを聞きながら、何とも妙な事になってるな、とミラベルは冷めた思考で考えていた。

 去年、自分が手回しした結果ロナルド・ウィーズリーが姿を消し、それと入れ替わるようにイーディスが彼らの中に入ってしまった。

 まるで失われた『役』を埋め合わせるかのように、本来ロンがいたはずの位置に彼女が就いたのだ。

 元々イーディスはスリザリン生にしては大人しい気質の持ち主であったが、こうなると本当に所属する寮を間違えたのではないか、と思えて来る。

 

「ミラベル!」

「私は行かんぞ? たかが家畜一匹の生き死にでどうして私が動かねばならん」

「ですよねー」

 

 ミラベルは味方に付ければこの上なく頼もしい存在だ。

 それ故イーディスは声をかけたのだが、案の定返ってきたのは全く興味なさそうな返答だった。

 うん、わかっていた。我が道を往き過ぎるこの友人はこういう奴だとわかっていたよ、とイーディスは肩を落とす。

 

「それじゃ、ちょっと行って来る」

「ああ。しかし酔狂だな、貴様等も」

 

 イーディスとハーマイオニーを見送り、ミラベルはそのままスリザリン寮へと向かった。

 同行するという手もあったが、別に今回は倒すべき相手がいるわけでもないし、自分がいてもやる事がない。

 一昨年のクィレルや、去年のトム・リドルといった敵がいないのだ。

 

 勿論、ワームテールを殺すという選択肢もあった。

 城内のネズミ達全てを使い魔にしているミラベルにとって、ネズミに化けているワームテールの動きを把握しておく事など容易い事だ。

 ワームテールは最後まで気付かなかったようだが、彼は常にミラベルの監視下に置かれていたのである。

 しかしそれでもミラベルが手を出さなかったのは、ここで彼を殺すとヴォルデモートが復活出来ないからだ。

 ミラベルとしてはヴォルデモートには復活してもらわなければならない。

 そして万全の状態で自分と戦い、この手で殺さなければ意味がない。

 

 それはミラベルのプライドだった。

 

 復活を阻むのは容易い。

 ヴォルデモートを復活させないまま、ダンブルドアのみを敵として動く事は簡単だ。

 しかしそうやって闇の帝王を避けて、仮に魔法界の支配に成功したとしても自分はそれを誇れるか?

 本当に旧き純血主義者共を排除したと言い張れるか?

 それは本当に『勝利』か?

 ……否だ。

 

 そんな勝ち方に価値はない。

 その方法で魔法界を支配したとしても人々の心の中には『例のあの人』の恐怖が残ってしまう。

 存在が神格化され、絶対の存在として記憶に残り続けてしまう。

 ならばこそ、あえて復活させねばならない。

 この自分の、ミラベル・ベレスフォードの手で捻じ伏せ、踏み躙り、蹂躙し、完膚なきまでに叩き潰してやらなければならない!

 帝王を恐れる全ての民にわかる形で明確な『勝利』を掴み、その亡骸を晒し者にして高々に宣言をする。

 それこそ勝利だ。それでこそ、人々の心から帝王の恐怖が排除され、代わりに自分という絶対の存在が刻み込まれるのだ。

 

 ヴォルデモートとダンブルドアは万全の状態で、このミラベルの手によって殺されなければならないッ!

 

 だからこそ、今の脆弱な亡霊のままである事を許しはしない。

 今の、殺す価値もない虫ケラのままである事を認めない。

 自分が殺したいのは『闇の帝王』なのだ。無抵抗の虫ケラを消し飛ばした所で意味などない。

 故に、ワームテールを見逃した。

 帝王復活の為に、あえてあの薄汚いドブネズミを殺さないでおいた。

 

 すでに戦いのための準備はほぼ整っている。

 もう少しで完全な不老不死に手が届き、何者をも超えた絶対の超越者となる事が出来る。

 ならば後は戦うのみ。

 どちらが真に優れた存在なのか。真に魔法界を支配すべきはどちらなのか。

 その事を思い知らせ、そして完全に消滅させる。

 それこそが、ミラベル・ベレスフォードが描く完全な勝利、完全な支配だ!

 

 だから今は、ただ待つ。

 機が熟すその時まで。

 無論、ただ座して待つのは性に合わない。

 幸いにしてこの学校には暇を潰し、知識を蓄える場所に困る事はない。

 ミラベルは8階に向かうと、何もない壁の前で『全ての物が隠されている場所』と念じる。

 すると扉が出現し、ミラベルはその中へと入った。

 そこは、学校でも一部の者しか知らない『必要の部屋』と呼ばれる場所だ。

 入る者の望みを読み、その者の必要に応じて姿を変える。

 そしてミラベルが望んだのは、今までこの部屋を利用した者達が様々な隠し物をしてきた、後ろめたい罪の部屋であった。

 そこには様々な魔法具や禁書などが並び、ミラベルを満足させてくれる。

 

「……ん?」

 

 ミラベルは目を細め、近くの木箱の上にあった髪飾りを拾い上げる。

 何だかやけに禍々しい気配を放つ髪飾りだ。

 加えて精神に働きかける作用もあるようで、何とも鬱陶しい。

 とはいえ、ミラベルの強靭な自我を揺るがす程ではなく、単に不快なだけであった。

 実はこの髪飾り、以前からあったのだがどうも目障りで仕方ない。

 来るたびに気になって集中力を乱されてしまう。

 

「…………」

 

 これ、邪魔だな。

 そう判断したミラベルはティアラをこの部屋から出すべく、初めてそれを手に取った。

 瞬間、感じるのは自らの精神に働きかけようとする邪悪なる意思。

 当然それはミラベルを揺るがすものではなく、反対にその健気な抵抗がミラベルを真実に導いてしまった。

 彼女の口元がニヤリ、と歪み、まるで探していた無くし物を見付けたかのように喜悦に染まる。

 

「……そういうことか! ヴォルデモートめ……道理であそこまで惨めに弱っていたわけだ」

 

 ヴォルデモートがかつてハリーに敗れた日に何故死ななかったのか。

 その理由は『分霊箱』にあるとミラベルは既に勘付いていた。

 去年に現れたトム・リドルの日記。あれがそうだ。

 ミラベルは一時期、あれがあったからヴォルデモートは不死身だったのではないか、と考えていた。

 しかし実際にはあの日記が破壊されてもヴォルデモートは死なず、『知識』でもその後の物語に登場し続けている。

 その事からミラベルは分霊箱以外の手段を使っているのでは、という疑惑も持ち始めていた。

 

 だが違った! やはりヴォルデモートの不死の秘密は分霊箱だ!

 そしてあの男は、あろう事か分霊箱を複数作っている!

 

 だからこそ、1年度に出会ったヴォルデモートはあんな惨めな、ゴースト以下の存在に成り果てていたのだ。

 この点もミラベルには不思議だった。

 いかに肉体を失おうと、魂まで弱るわけではない。

 しかし実際に出会ったヴォルデモートは他者に寄生しなければ満足に動く事すら出来ない虫ケラであり、その魂は無様なほどに小さく、そして弱かった。

 だが、その原因も複数の分霊箱が原因と考えれば納得がいく。

 

「なるほど、弱るわけだ……魂を複数に分けてしまえば、ああなるのも道理……」

 

 分霊箱は複数存在する。これはもう確定事項だ。

 ならばいくつだ? あの愚か者はいくつ作った?

 そして、その分霊箱は今どこにある?

 残念ながら、その答えを示すものは『知識』にない。

 しかしヒントは今、この手の中にある。

 この分霊箱たるティアラ! これがどういう基準で分霊箱に選ばれたのか!

 それさえ紐解けば、他の分霊箱の在り処、その存在も予測が出来る!

 

「掴んだぞヴォルデモート……貴様の不死の秘密……!」

 

 これで、あの男を殺す方法はわかった。

 ミラベルは未来にある己の勝利に手が届いた事を、この上なく感じ取っていた。

 

*

 

 例年通りに行われた学年末パーティーは、スリザリン以外の全ての生徒を落胆させる結果となった。

 流石にダンブルドアも今回はグリフィンドールを勝たせる事が出来なかったようで、寮杯は再びスリザリンへと移動してしまったのだ。

 ハリー達は今年も100点以上与えられてもおかしくない大活躍をしたのだが、それは無実のシリウス・ブラックや処刑されるはずだったヒッポグリフを逃がすというものであり、公にすればむしろ彼らが捕まってしまうような内容だ。

 結局クィディッチの結果がそのまま反映された形となり、また例年通りミラベルが荒稼ぎしたせいもあってスリザリンの独走状態となってしまった。

 実質、ミラベル一人によって敗れたと言っても過言ではない状況に全ての寮からの畏怖が集中したのは仕方の無い事と言えるだろう。

 しかも生徒達から慕われていたリーマス・ルーピンも辞職する事となり、それがまた生徒達を落ち込ませた。

 

 一方のスリザリン寮はといえば、テンションが最高潮に高まり、まるで狂ったかのように大騒ぎしていた。

 クィディッチチームのメンバーは他の生徒に囲まれて有頂天になっており、マーカスはミラベルにしつこいくらいに礼を言ってきた。

 スネイプも上機嫌で料理を楽しんでおり、ニヤニヤと嫌らしい笑みをグリフィンドールに向けては思い出したかのように笑う。

 そんな中、勝利の立役者であるミラベルはといえば、その飛び抜けた能力を評価されて魔術優等賞を授与されるに至ったが、まるで興味なさそうに料理を味わっていた。

 

「ふむ……では結局ブラックは犯罪者のままという事か」

「うん。ハリーが凄く残念がってたよ」

 

 ビーフステーキを切り分けながら事の顛末を聞くミラベルへ、自らも残念そうにイーディスが返す。

 彼女の話を聞く限り、ロンを欠いた結果随分妙な事になってしまったらしい。

 何と追い詰められたワームテールが自らハリーの前に姿を現し、彼を殺そうとしたというのだ。

 イーディスはその際ワームテールにノックアウトされ気絶してしまったらしい。

 その後はイーディスも聞いた程度でしか分からぬようだが、危うい所でシリウス・ブラックとリーマス・ルーピンが駆けつけ、ワームテールを無力化して捕獲。

 しかし結局途中でルーピンが狼化してしまい、後はミラベルの知る通りになったようだ。

 

「ていうかミラベル、ブラックが殺人者じゃないって話を信じるの? 私は結構驚いたのに」

「……まあ、言われてみれば納得出来るというだけの事だ」

「え?」

「私のペットはネズミだからな……ウィーズリーのネズミが動物もどき(アニメーガス)である事など最初から解っていた」

「ちょっ……何でそれをウィーズリーに教えてあげなかったの?!」

 

 切り分けた肉をフォークに刺して口に運び、咀嚼する。

 肉汁と甘辛なソースが口内で溶け合い、続いてライスを口に入れればいい具合に互いを引き立てる。

 余分なタレを米の上で落として食べ、そしてタレの染み付いた米を食べる。このエンドレスのよさは焼肉に通じるものがあるだろう。

 やはり肉といえば白いライスが一番だ。こういうどうでもいい所にばかり『前世』の日本人感覚が継承されている気がしないでもないが、美味い物は美味いのだから仕方ない。

 

「気付かないあの男が馬鹿なのだ。12年以上も生きるネズミがいて堪るか。

私のピョートルですら4日前に寿命で逝ったというのに」

「ピョートルって確かミラベルが飼ってた、あの黒くてでかいネズミだよね?」

「ああ。テストを終えて寮に戻ったらベッドの近くで死んでいた。

幸い、奴が死ぬ前に遺した2世が数十匹いるから、ペットに不便はしないがな」

 

 入学前にミラベルが買い、この学校のネズミ達を制圧するのに役立ったピョートルであったが、やはりネズミはネズミ。先日いとも呆気なく他界してしまったのには少しばかり唖然としたものだ。

 とはいえ、死ぬ前に跡継ぎを遺す程度の忠誠は示してくれたらしく、おかげで新しいペットを買う手間が省けて済むというものだ。

 

「でも、問題はワームテールが今どこにいるかなんだよねえ。

城内にいないのは確かみたいなんだけど……。ミラベルはどう思う?」

「…………さて、な。ドブネズミの行き先など私の知った事ではない」

 

 ポテトをフォークで刺しながら、興味なさそうにミラベルが言う。

 行き先は無論ヴォルデモートの元だろうが、そんな事をイーディスに話す必要はない。

 今の彼女は『原作』で言う所のロンポジションにいる。

 その彼女に必要以上の……特に大局に影響する知識を与えてはどうなるかわからないのだ。

 

「そっか。……ねえ、ミラベル」

「何だ?」

「あの『攻性守護霊』っていうのさ、来年でいいから私に教えてもらえないかな?

今回、ちょっと思う所があってね」

「貴様には守護霊の魔法を教えているだろう。その段階にはまだ早い」

「……うん、そうなんだけど、ね」

 

 歯切れの悪いイーディスの言葉に、ミラベルが目を細める。

 守護霊の魔法を教わりたい、とは3年度の初めにもイーディスに言われた事だ。

 だから彼女にはまず、通常の守護霊の魔法を軽く教えたのだが、今の彼女からはあの時とは違う焦りのようなものが感じられた。

 

「……気絶させられた事を気にしているのか?」

「うん……今回、結局私何も出来なくてさ……結局、ハリーとハーマイオニーが全部解決しただけだったのが悔しくて……」

 

 紅茶を口に入れ、ゆっくりと嚥下してからイーディスを見る。

 なるほど、彼女なりに力のない己に憤りを感じていると言う事か。

 確かに去年はバジリスク、今年はワームテールと苦渋を味わっては、力が欲しくなるのも道理というもの。

 

「難しいぞ」

「わかってる」

「そうか。ならば……」

 

 ミラベルはポケットから紙を一枚取り出すとイーディスの前に投げ、指を鳴らす。

 すると白紙だった紙に文字が書き込まれて行き、マグノリア・クレセント通りが示された。

 続いて一枚の手鏡が煙と共に現れ、テーブルに置かれる。

 

「私が使っている別荘の座標だ。本当に身に付ける気があるのなら夏休み、そこに来るといい。

それから連絡についてだが、フクロウは使うな。その手鏡を使え」

「何、これ?」

「『両面鏡』だ。フクロウ便などよりも余程信頼出来る」

 

 両面鏡とは、2枚1セットで初めて効力を発揮する連絡用の手鏡だ。

 片方の鏡に向かって話しかける事でもう片方の鏡と通信が取れるのである。

 フクロウの運ぶ手紙と違って時間もかからず、ミラベルはかなりこれを重宝している。

 彼女がフクロウを持とうとしない理由の一つだ。

 

「いいの? これ、高いでしょ?」

「構わん、持っていろ」

 

 両面鏡は便利ではあるが、その絶対数が限りなく少ない。

 というのも、あまりに便利すぎる為に魔法省が規制している品だからだ。

 魔法省の管理出来ない所で連絡を取り合う事の出来るこの品は、まさに裏の人間御用達の最上位アイテム。過去、幾人もの闇の魔法使いがこれで魔法省の目を欺き、連絡を取り合ったと言う忌まわしい過去がある。

 その為、魔法省が信頼する一部の特権階級や限られた魔法使いしかこれを持つ事は許されないのだ。

 値段は……当然、推して知るべし。

 

「私に用がある時はその鏡に向かって話しかけろ」

「ん、わかった」

 

 イーディスは恐る恐る、といった感じで鏡を懐へと仕舞い込む。

 もし割ってしまったらいくらかかるんだろう、などと考えているのだろう。

 そういうところが実に小市民だ。

 その姿を見ながらミラベルが考えるのは、こうして『普通の学生』として過ごすのも後わずかだ、という事だ。

 知識の通りに進むならば、来年はいよいよ運命の転機が訪れる。

 これまでの平和な学生生活は終わりを告げ、魔法界全体を巻き込む騒乱の時代が始まるだろう。

 

 ――ヴォルデモート復活まで、後1年。

 




┌┤´д`├┐<ナントライシンショウ!
というわけで今回は本当に何もしない回でした。
実は最初は参戦の方向で書いていて、ハリー、ハー子、イーディスに加えてミラベルの4人パーティーだったんです。
ところがディメンター出現と同時に全滅させてしまい、結果タイムターナーイベントが消滅。
バックビークはそのまま処刑されるわ、ハリーが守護霊を会得しないわで散々でした。
そこで仕方なくミラベルには空気になって頂きました。

次回は番外としてイーディス微参加ワームテールイベントをお送りします。
まあ、あんま活躍しませんけどね……。
イーディスの戦力は同年代ではマシ程度ですので。

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