ハリー・ポッターと野望の少女   作:ウルトラ長男

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∩(・ω・)∩<セメテイタミヲシラズヤスラカニシヌガヨイ
皆様こんばんわ。
幽時様より素晴らしいレティス&ミラベルイラストを頂きましたウルトラ長男です。
これ、39話の挿絵にしていいですかね?
ttp://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=39826427


第42話 切り捨てたモノ

「さあて……まずは食事といこうか」

 

 人間を捨てて魔の境地へと至ったミラベルが最初に発したのがその言葉であった。

 彼女はチロリ、と赤い舌を出して己の指を舐め、艶かしい顔を見せる。

 その視線の先にいるのは実父であるヒースコートだ。

 一番最初の『食事』は己の父であるあの男と決めていた。

 きっと親族の血ならば実に『馴染む』に違いないからだ。

 

「…………」

 

 ヒースコートは何も言えず、ただ絶句していた。

 目の前で起きた出来事が信じられない。あまりにも現実離れしている。

 我が子が発するこの魔力はどうだ? かつて見た事のあるダンブルドアのそれすら凌駕しているのではないか?

 今まで、ずっと娘の事を“ベレスフォードを継ぐのに相応しい器”と考えていた。

 だが違った!

 この娘はベレスフォードの後継ぎなどというちっぽけな枠に収まる器ではない!

 もっと大きく、より偉大な存在となるべく生まれてきた存在なのだ!

 

「フ、フハハハハッ、ハハハハハハッ!?

す、素晴らしい! 素晴らしいぞ、ミラベル!

よもやこれ程だったとは、この父の目をもってしても見抜けなんだ!」

 

 冷や汗を止め処なく流しながら、ヒースコートは狂ったように笑う。

 ミラベルは表情を変えぬままにそれを見下ろし、ゆっくりと近付いていく。

 

「い、いいぞミラベル! お前こそが勝者だ! お前こそが支配者だ!

他の何者もお前を止める事など出来んだろう!」

 

 ヒースコートの前まで行くと、頭を掴んで強引に立たせる。

 そして首筋に口を近づけ、無遠慮にその牙を突き立てた。

 その瞬間鮮血が迸り、ミラベルの顔を紅で染め上げる。

 

「ヒッ、ヒヒヒヒヒ!? わ、私は……私は真の勝者ではなかった……!

マルフォイは有罪に出来ず……マッドアイよりも劣り、闇祓いの頂点ですらなかった……!

ダンブルドアに劣っているのも、仕方の無い事と考えていた……!

だ、だがお前なら……お前なら真の意味で全てに勝てる!」

 

 コクリ、コクリ、と。ミラベルの白い喉が動く度に命が吸われ、ヒースコートの顔から血の気が失われていく。

 指先はまるで枯れ枝のように痩せ細り、頬は削げ、まるでミイラのように痩せ衰えていく。

 だが眼だけは爛々と狂気の光で輝いており、しゃがれ声で叫び続けていた。

 

「往け……往くのだ、ミラベル……我が娘よ……。

……お前こそが……最強……だ…………!」

 

 やがて完全に骨と皮だけになった哀れな男は動かなくなり、その瞳から光は失われた。

 その躯を床に捨て、ミラベルは溜息をつく。

 するとホルガーが素早く布を差し出してきたので、それを受け取って口元の汚れを拭い去った。

 全く気の利く、よく出来た屋敷妖精だ。

 

「『常に勝者たれ』……貴方の教えは私が受け継ぎますよ、父上」

 

 かつて父“だった”躯に最期の敬意を払い、手を翳す。

 そして無詠唱で炎を発射。

 既に命の失われた遺体を跡形もなくこの世から消し去り、処分した。

 もうこの男に用はないし興味もない。

 これ以上は視界に入っていても目障りなだけだ。

 

「さて……ホルガー、例の物を」

「はい、ここに」

 

 父を始末したミラベルは次にホルガーへと視線を向け、差し出された石を受け取る。

 それは赤く輝く錬金術の結晶にして永遠の命を約束すると言われる英知の石。

 かつて1年の頃に欠片を手に入れ、そして去年作り方をニコラス・フラメルより奪い、遂に完成させた存在。

 名を『賢者の石』といい、ミラベルに更なる力と不死性を約束してくれる究極の物質だ。

 

「真祖の不死性に加えて賢者の石……この二つ……そしてもう一つの不死を得た時、私は歴史上誰も成しえなかった真の不死へと到達するのだ」

 

 手の中の石を愛おしそうに撫で、顔の前に持ち上げる。

 しかしまだだ。まだ足りぬ。

 これだけでは真の不死には今一歩届かない。

 いくら限りなく不死に近かろうと、『死』そのものが存在しないわけではない。

 ならば直接『死』を与える死の呪文の前では無力に等しいだろう。

 故にこそミラベルは、3つ目の不死の法をも併用する事を決めたのだ。

 そして、その為に儀式と関係ないヒースコートまでもを殺めたのだ。

 ――全ては、己の魂を裂く為に。

 

「お嬢様……まさか、分霊箱をお作りになる気で!?

なりません、お嬢様ご自身も仰ったはずです! あれは己の魂を弱くする愚者の法だと!」

 

 ミラベルの意図を察したクィレルが声を荒らげる。

 分霊箱は確かに強力な不死性を与えてくれる魔法だ。

 だが、それが魂を弱らせると言ったのは他ならぬこのミラベルなのだ!

 目先の不死に囚われてそれを自ら破るなど、臣下として認める事は出来ない!

 しかしそんなクィレルに、ミラベルは余裕のある笑みで返す。

 

「案ずるなクィレル。私は私の魂を毛筋一本ほども傷付けん」

「え?」

「裂くのは、私に寄生している『誰か』の魂だ」

「そ、それは一体どういう……」

「貴様には言ってなかったな……私には前世の記憶がある。

……いや、今までソレを前世であると勘違いしていた」

 

 ――ミラベルは、物心ついた時から自分ではない誰かの記憶を持っていた。

 この世界を『ハリー・ポッター』という物語として視ていた観察者。日本人のつまらぬマグル。

 ミラベルは最近までソレを、己の前世であると考えていた。

 だがどうにも腑に落ちない。

 この女には向上心がない。

 この女には野心がない。

 この女には、私らしさがまるで無い。

 これは本当に私なのか? こんなのがこのミラベルの前世なのか?

 

 そこまで考えて、ミラベルは気付いた。

 そうだ、私は最初から答えを持っていた。

 無意識下ですでに悟っていた。

 だから、これを前世の人格と思わず、そいつを踏み躙って記憶を奪ったと思っていたのではないか。

 

 これは……そうだ、“これは私ではない”。

 私に寄生し、その人格を上書きしようとした、ただの薄汚い寄生虫だ。

 ミラベルは、数年の時をかけて遂にその真実に到達してしまったのだ。

 

「ある日気付いてからは、ただ不快だった……。

私ではない『何か』が私の魂に触れている……へばり付いて離れない。

そして、この私ともあろう者がずっとそれを自分だと思い込んでいたのだ」

 

 魂の存在はすでに魔法界では周知のものとして認識されている。

 そして命が生まれる時、そこには必ず肉体と魂の二つが存在する。

 だがミラベルは、生まれる際そこに無粋な余所者が入り込み、赤ん坊の人格を上書きしようとしてきたのだ。

 結局はミラベルの強大な自己愛によって逆に上書きされ、吸収されてしまったようだが、不純物が自分の魂に付着しているのがミラベルには我慢出来なかった。

 

「私はこれ以上、こいつが私の魂にへばり付いているのを許容する気はない。

分霊箱などその為の手段に過ぎんよ」

 

 分霊箱による不死化など二の次だ。まずはこいつを切り離す。

 ミラベルは僅かな怒りすら滲ませ、父殺しの罪を以て己の魂を引き裂く。

 否、己に付着していた愚か者を、己から引き裂き引き剥がす!

 すると胸の中から淡い、ゴーストのような何かが現れ、恐怖に怯えた声をあげた。

 黒髪の、パッとしない顔の、どこにでもいるような女だ。

 恐らくはミラベルに気付かれる事をずっと恐れていただろう、哀れな魂だ。

 ミラベルはそれを掴むと、容赦なく賢者の石の中にブチ込んだ。

 

 ――貴様の居場所は『そこ』だ。

 認めたくないが、長年の同化によりこの魂は己の魂の片割れとでも言うべき存在に為ってしまっている。

 ならば利用しよう。

 未来永劫その中に留まり、このミラベルの命を支え続ける贄となれ!

 

 ようやく己の魂から不純物を取り除いた事により、ミラベルは自分の身体が軽くなったような錯覚を感じた。

 ああ、今なら解る……私は今までずっと、重荷を背負っていた。

 生まれてより今日まで、全身に重りを付けて生活していた。

 だが今、この身は自由だ。

 抑えつけられていた力と覇気が溢れ出し、もはや自分自身ですら底が読めない。

 

「だが案ずるな、我が片割れよ……特別に、このミラベルの中に住まう事を許してやる」

 

 魂には何者も触れさせない。

 だが肉体くらいならば許容しよう。

 そう言い、おもむろにそれを口の中に入れ、何と飲み込んでしまった。

 勿論飲み込んだそれをそのまま胃に送ったりはしない。

 体内の組織を作り変え、動かし、内臓の中を移動させる。

 肉体の操作こそ吸血鬼が最も得意とする事だ。本来胃に届くはずの物を心臓に届けるなど造作もない。

 そうして心臓に送った石をそのまま取り込み、心臓と同化させていく。

 

 賢者の石は命の水であるエリクシールを生み出す事の出来る唯一の物質だ。

 それを心臓と同化させるという事は即ち、命の水の永久動力を得るという事になる。

 心臓から送られる全ての血が命の水となり、身体の中を循環していく。

 例えどれほどの傷を負おうと、身体そのものをゼロから再構築出来る賢者の石を以てすれば即時に再生する事など容易い事だ。

 首から上を失おうと、木っ端微塵に吹き飛ばされようと、最早ミラベルが死ぬ事はない。

 吸血鬼の不死性で耐え凌ぎ、分霊箱によって繋ぎ止め、賢者の石の力で即刻蘇る。

 破壊するべき分霊箱は、しかし不滅の肉体の内に宿り、破壊を許さない。

 不滅の肉体は内にある賢者の石によって守られ、決して滅びる事がない。

 そんな、まさに悪夢そのもののような化物へとミラベルは成り果てたのだ。

 

「フフ……完成だ。

これでもう、何者も私を殺す事など出来なくなった」

「おめでとうございます、お嬢様」

「うむ。貴様等もよく私に仕え、力を尽くしてくれた。

貴様等の献身なくては、いかに私といえどこうまで容易く事を運ぶ事は出来なかっただろう」

 

 膝をつき頭を垂れるクィレルとホルガーへ、ねぎらいの言葉をかける。

 彼らがいなくても自分ならば全て出来た、という自負はある。

 しかし彼らの力があればこそ、ここまで早く、簡単に事が運んだのもまた事実。

 ならば彼らには褒美を与えねばなるまい。

 

「クィリナス・ クィレル。貴様に褒美を与えよう」

「褒美、ですか?」

「ああ。そろそろ、ユニコーンの呪いに蝕まれたその肉体も限界に近いだろう。

私が貴様の新しい肉体を用意してやる」

 

 クィレルの肉体は呪いに蝕まれている。

 それは1年の時、ヴォルデモートに命令されて行った事の副作用だ。

 彼はヴォルデモートの命を繋ぐ為だけにユニコーンの血を摂取し、結果呪われ、生きながらにして死んでいるも同然の状態へと成り果てていたのだ。

 

「そして我が忠実なるしもべ、メアリーよ。貴様にも新たな肉体を授けよう。

今一度、私の為に地獄から舞い戻るがいい」

 

 言いながら、手を翳す。

 するとミラベルの前に二つの心臓が『練成』され、そこから血管が伸びて内臓と骨が構成されていく。

 片方はクィレルと寸分違わぬ……しかし腕が両手とも備わった完全な肉体へと。

 もう一つはメアリーの新しい、美しい少女の身体へと。

 ミラベルはその完成した少女の肉体にメアリーの魂を注ぎ込み、再び彼女に命の息吹を与えた。

 

 本来、死者の蘇生は賢者の石を以てしても決して出来ない。

 賢者の石では肉体を再構成する事は出来ても魂を定着させる事は出来ないのだ。

 “死者は蘇らない”これが神の敷いた絶対の法則であり、破ってはならない真理だ。

 しかし今のミラベルは神に反逆する死者の王。

 神の決めたルールなど知った事ではないとばかりに魂を呼び寄せ、生ける屍(アンデッド)を作り出す。

 だが、ただのアンデッドと侮る事なかれ。

 賢者の石によって完全に再構成された、生前と何ら変わらぬその身体はアンデッドを元の生者に限りなく近くする。

 

「お嬢様……その身体は……」

「ふふ、すでにメアリーも承知の上だ。

厳しい任務だが、幼い頃より私を見てきたこいつならば十分にやり遂げるだろう」

 

 ミラベルは牙を覗かせて笑い、クィレルの首筋に指を這わせる。

 クィレルは一瞬ビクリと震えたが、すぐに落ち着き、目を閉ざした。

 この主に失敗はない。そう確信しているからこそ身を委ねたのだ。

 その信頼に応えるべくミラベルはクィレルの首を切り落とし、彼の古い肉体を破壊する。

 痛みを与えるようなヘマはしない。クィレルはきっと、自分が死んだ事にすら気付いていないだろう。

 そして彼の魂を掴み、分霊箱に魂を封じ込めるかのように、強引に新たな肉体へと定着させた。

 倒れていたクィレルの新たな肉体が起き上がり、己の身体を恐る恐る確かめる。

 

「終わったぞ。新しい肉体の居心地はどうだ?」

「……し、信じられない……生まれ変わったような気分です……。

まるで、鎖から解き放たれたように……身体が軽い。

今まで気付いてすらいませんでしたが、今なら解る……古い肉体がどれだけ呪いに縛られていたのか」

 

 解放。今のクィレルを指すならばまさにその言葉こそが相応しいだろう。

 身体が嘘のように軽く、違和感の欠片も感じない。

 前の身体以上に馴染み、身体が思うように動く。

 古い身体を使っていた時は何も感じなかったが、今にしてみれば何と反応の鈍い身体を使っていたのか。

 この新しい肉体と比べれば前の身体など、数世代遅れの競技用箒のようなものである。

 

「さて、ところで困ったなクィレル。新しい肉体にした事で貴様を縛っていた我が呪いまで消えてしまった。

今の貴様に青い爪は無い。今なら私に歯向かっても蟲にはならんぞ」

「……貴女も人が悪い。そんな物がなくとも、もう私が歯向かわないとご存知のはずなのに」

 

 クィレルは苦笑し、主たる永遠の少女に跪く。

 彼女こそが己の主だ。絶対の主人だ。

 例え呪いなどなくとも、彼女に歯向かえば肉体と言わず魂が砕け散るだろう。

 己の魂はすでに、その一片に至るまで彼女に魅了されてしまった。囚われてしまった。

 今更裏切るなど、出来るはずもないのだ。

 

「しかし……貴女への忠誠の証が失われたのは辛い。あの青い爪は私の誇りでもあったのです。

爪に変わる、新たな証を頂きたい……我が主よ」

「よかろう。ならばクィリナス・ クィレルよ、貴様に問う。

汝、我が眷属となり共に永遠を歩む覚悟はあるか?

神に見放されし呪われた夜道を歩く覚悟はあるか?」

 

 クィレルはその言葉に頷き、頭を下げる。

 聞かれるまでもない、問われるまでもない。

 それこそ至上の望み。己の果たすべき願い。

 故にクィレルは一切の迷い無く、澄んだ声で問いに答えた。

 

「我が忠誠、永遠に御身の側に」

 

 己の手の甲に口付けをする従者を見ながら、ミラベルは考える。

 これでもう、引き返す事は出来ない。

 自分は完全に人としての道を踏み外した。

 

 これでいい。

 これでいいのだ。

 世界を統一する為には強大な力と、永遠に近い寿命が必要なのだ。

 だから自分は、こうして力を得て強くなった。

 人としての弱さを、完全に切り離したのだ。

 そうとも、これが力だ。これが強さだ。

 人としての弱さなど、このミラベルには必要ない。

 あの時だって、今ほどの力があれば失わずに済んだのだ。

 

 もう、私は、弱くなどないのだ。

 

 

 ――それは、弱さじゃない……弱さじゃないんです、ミラベル……。

 

 

 

 かつてレティスに言われた言葉が不意に脳を過ぎり……彼女の泣き顔が見えた気がした。

 

 

 




~墓場のヴォルさんとハリー~
ヴォルデモート「格式ある伝統は守らねばならぬ。
お辞儀をするのだ、ポッター」
ハリー「…………」
ヴォルデモート「ほら、O☆JI☆GI! O☆JI☆GI!」
ハリー「…………」

∩(・ω・)∩<ゲキリュウデハカテヌ
というわけで、ミラベル3重不死モード突入しました。
無理ゲー寸前です。

そして前世と思われていたOLさん、あまりに人格が違い過ぎるとは言われていましたが、実は本当に他人でした。
あれです。よく赤ん坊に憑依して人格を上書きするオリ主さんとかいるじゃないですか。
OLさんはそれだったのですが、憑依先にいたミラベルに逆に上書きされ吸収されてしまったのです。
そしてその事に気付いたミラベルに、今回遂に切り捨てられてしまいました。
というか転生者設定と、前世とあまりに違い過ぎる性格は、全てこの分霊箱の為の設定だったり。

それではまた明日、お会いしましょう。

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