皆様こんばんわ。
ハリーポッターと賢者の石ゲーム版をプレイする時、ネビルやマルフォイにフリペンドを撃ちまくるウルトラ長男です。
いや、実際プレイするわかるんですけど、ネビルと話すと気付いたらフリペンドしてるんです。
そして39話に幽時様から頂いたイラストを挿絵として入れました。
実に幸せそうな1シーンで、ほのぼのします。
「奴を失神させろ! 逃がすな!」
墓場にヴォルデモートの怒声が木霊し、幾多もの真紅の閃光が駆け抜ける。
その全てが対象を気絶させる『失神呪文』だ。
だがハリーはそれに当たる事なく『移動キー』である優勝杯まで走っていく。
それは、ヴォルデモートにとって完全な誤算であった。
間違いなく勝てる戦いであった。
ハリーを捕らえ、周囲を死喰い人で取り囲み、逃げる事など絶対に不可能なはずであった。
しかし奇跡は起きた。
最後にハリーの無力さを教えるべく行った決闘。それが状況を覆してしまったのだ。
二人の実力差を考えれば万一にもハリーの勝ちはないはずであった。
決闘とは名ばかりの公開処刑のはずだった。
後は逃げ回るハリーを追い詰め、殺すだけの簡単な作業のはずであった。
しかし、死を目前にしてハリーが示した勇気。それがヴォルデモートの計算の上を行った。
絶対に勝てない敵と決して逃げ切れない状況に囲まれたハリーは、最後の最後に戦って死ぬ事を選んだのだ。
逃げ回って死んでいくのではない。最期の瞬間まで父のように勇敢に戦って死ぬのだ、と。
そう決意した彼の気高い勇気こそが奇跡を呼び起こした。
ハリーとヴォルデモートの杖は、同じ不死鳥の尾羽を芯にした姉妹杖である。
そして二人がその二つを無理に戦わせる事によって本来ならば決して起こり得ない、稀な現象が起こったのだ。
それこそが『直前呪文』による呪文逆行、姉妹杖同士の戦いによってのみ起こる、杖の誤作動である。
ヴォルデモートの杖は今までに使った呪文……即ち『死の呪文』が全て逆の順番で『逆再生』され、殺したはずの人間達が次々とゴーストとなって姿を現したのだ。
何の関わりもないマグルの男……魔法省の役人、バーサ・ジョーキンズ……そしてハリーの両親。
それらがヴォルデモートに飛び掛り、ハリーの血路を開いた。
「どけ、俺が殺してやる! 奴は俺のものだ!」
ゴーストを振り払ったヴォルデモートが杖を振り回し、ハリーの後を追う。
ここで逃がすのは不味い。ここで逃がしてしまっては自分が復活した事がダンブルドアに知られてしまう。
もはや遊んでいる余裕もない。一刻も早くハリーを殺さなくては!
そう考えてヴォルデモートは杖の照準をハリーへと定め、呪文を唱える。
しかし焦りが杖を鈍らせ、呪文がなかなかハリーに当たらない。
そしてとうとうハリーは移動キーに振れ、墓場から消え去ってしまった。
「……くそっ!」
逃げられた。
逃亡先に行けば当然ダンブルドアと鉢合わせするだろうから、この先に行く事は出来ない。
後は向こうにいるだろうクラウチジュニアが上手くハリーを捕らえるのに期待するばかりだ。
そうして悔しがっていたヴォルデモートだが、そこに、自分を嘲笑うような笑い声が聞こえてきた事でますますその顔を怒りで染めた。
「誰だ! 今俺様を笑ったのは!?」
ヴォルデモートは機嫌が悪い時、たったそれだけの理由で死の呪文を放つ。
しかも、自らに忠実な死喰い人であろうと八つ当たりの対象に為り得るのが彼の恐ろしいところだ。
ヴォルデモートにとって自分以外の命は無価値も同然であり、奪う事に躊躇いなどない。それもまた、彼が恐れられる理由の一つだろう。
そんな爆発寸前の爆弾に嘲笑などという火を注ぎ込めば爆発するのは必然であり、彼は条件反射にも等しい速度で死の呪文を発射した。
普通ならばここで、撃たれた相手は命を落とす。
しかしその相手は何ら怯む事もなく。
それどころか死の呪文を“掴み”、握り潰した。
「な……! き、貴様は……!」
「随分なご挨拶だな……ヴォルデモート」
それは黄金に輝く少女であった。
4年前に見た時よりも成長し、より美しくなった姿。
満月の光を受けて幻想的に輝く黄金の髪。
袖を通さずに羽織っているローブに、己への自信に満ち溢れた金の瞳。
その姿をヴォルデモートは覚えている。忘れようはずもない。
かつてハリーと同じくらいに屈辱を与えてくれたその小娘を忘れる事など出来ようはずもない。
「久しいな、闇の帝王。無論私の事は覚えていよう?」
手の中の『死』を握り潰しながら少女が問う。
4年前に見た時と同様、不敵な……いや、不敵を通り越してふてぶてしい笑みを浮かべたその顔はあの日の怒りを容易く思い起こさせる。
ヴォルデモートは歯を噛み締め、怒りに満ちた顔で少女の名を呼ぶ。
「ミラベル……ベレスフォード……!」
油断なく杖を構えながらヴォルデモートは墓石に腰掛けている少女を見る。
こいつは今、何をした? 死の呪文を“握りつぶした”だと?
馬鹿な。有り得ない。
あれは触れればその場で命を奪い去る必殺の魔法だ。触れた時点で死が確定するはずの呪文だ。
握り潰すなど、出来るはずがない。
「一体何をした……?」
「フフ……不思議か? 貴様が信を置く死の魔法が通じなかったのがそんなに不可解か?」
「答えろ! 何をした、ベレスフォード!」
並の魔法使いならば聞いただけで竦み上がるヴォルデモートの怒声を前に、しかし少女は不気味な笑みを浮かべたままだ。
焦るヴォルデモートの姿を、まるで面白い見物だと言わんばかりに見物している。
「ご主人様、我らにお任せを! あんな小娘、ご主人様の手を煩わすまでもありません!」
得体の知れないミラベルの不気味さを前にヴォルデモートが動けずにいると、死喰い人の一人が前に出て杖を突き出した。
そして杖から緑の閃光を放ち、ミラベルを攻撃! それと同時にミラベルの姿がそこから消えうせた。
姿くらまし? 否。
これは“ただの高速移動”!
人間の知覚を超えたスピードで動き、死喰い人の背後に回りこんだだけの事だ。
「……え?」
「鈍いな、欠伸が出るぞ」
振り返った時はすでに手遅れ。
フードごと頚動脈が搔き切られ、血が噴水のように吹き出す。
ミラベルは牙を剥くと、新鮮な血が沸き出す首筋に素早く喰らい付いた。
「な……に……!」
ヴォルデモートが絶句する前で死喰い人の身体が干乾びていく。
腕はまるで枯れ枝のように痩せ細り、顔からは生気が消え失せていく。
ゴクリ、ゴクリ、と血を嚥下する音だけが響き、誰も声を発せない。
やがて数秒に渡る『食事』が終わった時、死喰い人だった男は完全にその原型を失い、ミイラと化していた。
「次は貴様だ」
用の無くなった絞りカスを投げ捨て、ヴォルデモートへと言う。
それを見てヴォルデモートは理解した。彼女が一体何に成り果てたのかを。
そうか……そういうことか! この小娘は、もう、人間ではないのだ!
「そうか貴様……ヴァンパイア! あの忌まわしい夜の一族か!
貴様! 人である事を捨てたな!?」
「如何にも。私も貴様同様、不死の道へと足を踏み入れたのだ」
ヴォルデモートは舌打ちをし、夜空を見上げる。
不味い、今夜は満月だ。
普段ならばどうという事はない相手だが、満月の日の吸血鬼だけはさしもの帝王と言えど警戒する。
この夜に限り、奴等は普段とは比較にならない力を発揮するのだ。
「しかし、そんな不完全な方法を選ぶとはな……。
吸血鬼化の法は俺様も知っていた。だがそれは不完全な、真の不死には程遠い代物。
だから俺様はその方法を選ばなかったのだ。
そんなものに頼っている時点で器が知れるというものよ」
「ほう?」
「日光に弱く、流水を渡れず、十字架と銀の武器と大蒜に弱い不安定な弱点だらけの不死。
そんなものに恐れを成すヴォルデモート卿ではない!」
杖を振り、ヴォルデモートが吼える。
すると溶けた銀のようなものが空中に現れ、数本の槍へと変化した。
吸血鬼の弱点の一つに挙げられる銀の武器だ。
それらが一斉にミラベル目掛けて飛来し、ミラベルが迎え撃つ。
腕の一振りで金の雷光が迸り、正面から来た武器を全て叩き落とす。
だが、それを見計らっていたかのように一本の槍が背後へと回り、咄嗟に避けようとしたミラベルの脇腹を貫いた。
「脇腹か……咄嗟に避けたのは見事だが、もうその傷はしばらく再生出来まい」
「……クククク……」
勝ち誇ったように言うヴォルデモートへ、しかしミラベルは嘲笑で返した。
そして何事もなかったかのように槍を引き抜くと、そこにあったはずの傷はすでに消え去っているではないか。
弱点のはずの銀の武器でダメージを負ったと言うのに、まるで堪えた様子もない彼女の姿にヴォルデモートが目を見開く。
「で? この児戯が何だというのだ? 闇の帝王よ」
「馬鹿な……!」
肉体はおろか、破れた服すらも再生してみせた少女に驚きを隠せない。
ミラベルはそんなヴォルデモートを可笑しそうに見ながら両手に緑の閃光を纏わせていく。
杖すら持っていないというのに魔法を行使する気だ。
「! 杖なしで……!」
「フフ……杖というのは所詮、魔法に不慣れな人間の為の『補助輪』に過ぎん。
人を超えた今の私に、最早そんな玩具は不要!」
右手から死の呪文を無詠唱で放つ!
ヴォルデモートが咄嗟に跳んで避けるが、それを予測していたように第2撃!
しかしヴォルデモートも素早く地面を転がり、死を避ける。
だが立ち上がる瞬間を狙って第3撃が放たれ、ヴォルデモートはそこから消える事で攻撃を回避した。
直後、後ろに現れる魔力の高まりを感じ、ミラベルは素早く振り返る。
「無駄ァ!」
背後から飛んで来た赤い閃光を腕の一振りで弾き、一瞬でヴォルデモートの目の前へと肉薄する。
そして力任せに腕を振り下ろす。すると、その威力で墓石が砕け、地面が陥没した。
巨人とすら渡り合う、小細工無用の圧倒的パワー。今のミラベルにはそれがある。
「ふん、上手く避けるじゃあないか」
「小娘が……ッ!」
ヴォルデモートが怒りを滲ませ、杖を振るう。
すると杖の先に光り輝く刃が現れ、ミラベルを斬り付けた。
だが当たらない。ミラベルは上半身を逸らせる事で攻撃を回避し、逆に爪を薙いで反撃に出る。
その攻撃を光の刃で防ぎ、切り返す! だがミラベルもこれを弾き、ヴォルデモートを切り裂かんと爪を振るう。
刃と爪が幾度にも渡り激突し、甲高い音と火花を散らせる。
ミラベルが切り裂く、ヴォルデモートが斬り付ける。
片や闇の帝王、片や黄金の暴帝。
互いに『悪』に属する二人の魔法使いが満月をバックに激しい攻防を繰り広げる。
「驚いたぞヴォルデモート、体術の心得もあったとはな!」
「帝王を……舐めるなよ!」
一見互角に見える戦いだが、有利なのはミラベルだ。
いや、そもそも接近戦に限って言えばヴォルデモートに勝ち目などない。
身体能力に差がありすぎるというのもあるが、肉体の強度がまず桁違いなのだ。
即死しない限り一瞬で再生するミラベルとは違い、ヴォルデモートの肉体はあくまで人間のそれだ。
ミラベルの攻撃を一撃でもまともに受けてしまえばその瞬間、肉体は脆く砕け散る。
その事を理解したのだろう。
ヴォルデモートは姿を消してミラベルから離れ、距離を取る。
それと同時に今まで手が出せずにいた死喰い人達が杖を構えるが、それを見てミラベルは舌打ちをした。
「虫ケラ共がッ、邪魔をするな!」
無造作に放った死の呪文が死喰い人の一人を撃ち抜き絶命させる。
さらに一瞬でワームテールとの距離を詰め、その頭を鷲掴みにした。
「……え?」
「――死ね」
恐怖に目を見開くワームテールの頭を、まるで空き缶でも潰すかのように握り潰す。
血と脳漿、頭蓋骨が飛び散り、ワームテールだった男の首から上は血潮へと変えられてしまった。
首の無くなった死体を投げ捨て、鬱陶しそうに死喰い人達を見渡す。
だが、唐突に、何かを思い突いたようにその美貌を邪悪な笑みで歪めた。
「ふん、散々ぬるま湯に漬かっていた死喰い人如きにこのミラベルが倒せるか。
だが喜べ。貴様等にも特別に、ダンスパートナーを用意してやろう」
ミラベルが腕を虚空に掲げ、魔力を解放する。
すると黄金の、美しくも禍々しい輝きが墓地全体を満たし、月の光がそれを増幅した。
同時に起こる、地の底からの鳴動。這い出そうとする『何か』の気配。
「この地に眠る亡者共よ、死者の王たるこのミラベルが命じる!
神の理を否定し、今一度現世に舞い戻れ!
生を憎め、命を恨め、生けとし生ける者全てにその憎悪を向けよ!」
ミラベルの宣言。それと同時に全ての墓石が砕け、地面が盛り上がる。
そして現れる、見るもおぞましい死者の群れ。
骨が中途半端に見えている者、皮がついておらず肉が向き出しの者、内臓を引き摺っている者すらいる。
それらの眼に共通して存在しているのは生への渇望、生きる者への嫉妬。
故に彼らは目の前の生者を攻撃せずにはいられない。その新鮮な肉に齧り付かずにはいられない!
既存の魔法によって作られる、人形同然の亡者とは違う、自らの意思で生者を攻撃する正真正銘の亡者。ミラベルはそれを呼び出したのだ。
「ハーハハハハハハハッ! そら、死喰い人共、貴様等にこの上なく相応しい相手だろう?
貴様等のような自称とは違う、正真正銘『死』を喰らい、死から蘇った『デス・イーター』だ。
そいつらに喰われて本物のデス・イーターになってしまえ!」
目の前で起こったあまりにも現実離れした光景。
それに唖然とし、構える事すら出来ずにいた死喰い人達へ、亡者の群れは容赦なく押し寄せる。
慌てて死の呪文や麻痺呪文を撃つも何ら効果は示さない。
当然だ。彼らは死者の群れ……故に『死』も『気絶』も存在しない。
「う、うわああああああああああああああ!?」
「ひいいいいいっ!? ば、化物!?」
「帝王様! お、お助け……ぎゃあああああああああああ!!」
それはまさに惨劇であった。
死喰い人として多くの人間を恐怖に貶めてきたであろう魔法使い達が成す術もなく蹂躙されていく。
喰われた死喰い人は新たな亡者へ、その亡者に噛まれた魔法使いがまだ新たな亡者へ。
際限なく増え続ける死のサイクル。
その脅威によってすでに死喰い人はその全体数を半分近くにまで減らしている。
「やめろッ、やめろ! 俺様の僕だ! 亡者になどするなッ!」
ヴォルデモートが杖を振り、亡者達を一斉に薙ぎ倒す。
ここから再び始まるのだ。闇の帝王の伝説はここから始まるのだ。
そして彼らは再び集ってくれたしもべ達だ、これからの活動に必要な存在だ!
これ以上減らされてたまるか!
「全員、ここから『姿くらまし』で退避しろ! ベレスフォードはヴォルデモート卿が始末する!」
死喰い人達を逃がし、庇うように仁王立ちする。
後を追おうとする亡者を全て薙ぎ払い、退路を作る。
それを見たミラベルは「ほう」と感心したように呟き、パチパチと手を鳴らした。
「流石は闇の帝王。亡者共では何匹いようと相手にもならんか。
だが助けに入るのが少し遅かったな? せっかくの可愛い部下も随分減ってしまったぞ?」
「お、の、れえ……ッ!」
この上ない怒りで顔を歪めるヴォルデモートだったが、まだ彼は侮っていた。
ミラベルという少女の悪意はまだまだこんなものではないのだ。
彼女は愉悦を隠そうともせずにクスクスと笑い、帝王の怒りを楽しむ。
これこそがミラベル、これこそが生まれながらの邪悪。
一度悪意を解放すればどこまでも下劣の極みに近付き、邪悪の化身へと変貌していく。
そして性質の悪い事に、そう“在れ”ば“在る”ほど彼女は強くなる。際限なく高まっていく。
満月、墓地の上、そして悪意の解放。
この3つが揃った今、ミラベルは何者にも止められない程に強く、そして残忍だ。
「許さんぞベレスフォード! 貴様はただでは死なさん!」
「ほう、ではどう許さんのか見せてもらおうか」
空中を滑り、ミラベルが肉薄する。
それと同時にヴォルデモートがその場から消え、離れた場所に姿を現した。
そして杖を一薙ぎすると幾多もの炎が虚空に浮かび、全てがミラベルへと殺到する。
だがミラベルが腕を振り上げると地面が10m程盛り上がり、炎の弾丸を悉く弾き返した。
「愚か者め、そんな小技が私に通じるか!」
ミラベルが拳を握り、魔力を貯める。
そして開放! 開いた5本の指全てから赤い閃光が解き放たれ、ヴォルデモートへと飛来した。
指の1本1本を杖に見立てた魔法の同時開放だ。
人間でも杖を複数持っていれば同様の事が行えるが、彼女の恐ろしい所は杖無しでそれを行っている事にある。
その5本の光線はヴォルデモートが展開した防御幕と拮抗し、しかし強引にそれを押し切って突き進んだ。
しかしヴォルデモートはまたもミラベルの背後に移動しており、杖から緑の閃光を発射する。
「死ね、ベレスフォード!」
「無駄だ!」
己に迫る死の閃光を腕を一振りで弾き、そのまま反撃に転じる。
指先から幾筋もの閃光を放ち、ヴォルデモートを襲うも帝王も簡単にはやられない。
杖の一振りで亡者達を吸い寄せ、彼らを壁にして攻撃を遮断してしまった。
だがミラベルの攻撃は終わらない。
腕を上げると背後に黄金の火柱が上がり、やがてそれは竜の姿を形作っていく。
巨大な胴体と9つの首を併せ持った『悪霊の炎』だ。
それに対してヴォルデモートも杖を振り上げ、その背後に緑の火柱が立ち昇る。
その火柱はやがて蠢く胴体となり、燃え盛る炎の蛇として具現化した。
「喰らい尽くせ!」
「迎え撃て!」
黄金の九頭竜と緑の蛇。二つの炎が激突し、互いを喰らい合う。
その衝突を背景にミラベルとヴォルデモートはますます激しく魔法を交し合い、幾条もの閃光が墓地を飛び交う。
ミラベルが撃つ、ヴォルデモートが避ける。
ヴォルデモートが撃つ、ミラベルが弾く。
炎が、水が、風が、雷が、氷が、光が、闇が。
死の呪文、麻痺呪文、武装解除、石化呪文、切断呪文、爆破呪文。
ありとあらゆる呪文が相手を殺そうと差し向けられ、しかし一度として決定打が入らない。
地面が抉れ、墓石が砕け、巻き込まれた亡者が粉みじんになり、墓地全てを更地へと変えて尚戦いは止まらない。
極まった悪の魔法使いと限界を超えた独善の魔女は周囲の被害すら顧みず殺し合いを続け、互いを傷つけ合う。
だが、一見互角に見えるその戦いにも終わりの時が訪れようとしていた。
「どうやら息が上がってきたようだな。そら、もう限界か?」
「……ッ!」
無限に近い体力を誇るミラベルとは違い、ヴォルデモートの身体はあくまで人間のそれだ。
必然、戦い続ければ息が上がり、動きがおぼつかなくなっていく。
ましてや今宵は満月。今のミラベルは体力どころか魔力すら無限に近いのだ。
月の光がある限りミラベルの魔力は随時回復し続け、底を尽きる事はない。
明らかに、この戦いはヴォルデモートにとって不利なものであると言えた。
「所詮貴様は人間よ、ヴォルデモート。進化し損なった半端な存在に過ぎん。
原人が人間に勝てるか! 貴様は私にとっての猿なんだよ、ヴォルデモートッ!」
そしてとうとう、ミラベルの魔法がヴォルデモートをその毒牙に捉えてしまった。
「死ね、ヴォルデモート!」
「ッ!!」
「アバダ・ケダブラ!」
掌……否、10本の指全てから放たれた10発の緑の閃光。『死』の十連奏。
それがヴォルデモートを飲み込み、吹き飛ばす。
対象に傷一つ付けることなく、速やかな『死』を与える魔法界最悪の呪文。
だがそれを浴びた闇の帝王はすぐに起き上がり、真紅の双眼でミラベルを睨んだ。
「……ふん……なるほど、やはり倒せんか。
誰よりも不死の道に入り込んでいる、というのも認めざるを得ないらしいな」
ミラベルは面白くなさそうに鼻を鳴らし、腕を組む。
今の一撃でヴォルデモートの魂は地獄へと送られるはずであった。
しかし地上に留まっている何かがそれを留め、彼の魂を引き戻してしまったのだ。
まるで磁石のSとNが惹き合うように、ヴォルデモートの意思を惹く『何か』が……『分霊箱』がこの現世には存在している。
たとえ魂を消したとしても、その『分霊箱』がある限りこの男の『意思』が残る。
それを消さない限り、この男は決して死ぬ事がない。
今の自分ならあるいは、それらを無視して強引に殺しきる事も出来るのではないか、とも思ったのだが、流石に分霊箱を大量に作っただけはある。
ここに来て、二人の戦いは手詰まりになったと言ってよいだろう。
ミラベルにヴォルデモートを殺す手段はなく、ヴォルデモートもミラベルを殺せない。
たとえ肉体を粉々にしようとヴォルデモートは生き延びるし、体を木端微塵にしようとミラベルは即座に再生する。
互いに不死の道に入り込んだ者同士だからこそ、互いに決定打を持てずにいた。
「やはり貴様の不死の秘密を潰さん事には始末出来んという事か……」
まあ大方予想通りか、とミラベルは考える。
この男の不死身度を試す為にここまで来たのだが、やはり分霊箱を無視して殺し切る事は不可能らしい。
分霊箱とハリーの血。この組み合わせはなかなか面倒だ。
だが、元より今宵はこの身体のテストの為に来たようなもの。
それに目障りな死喰い人もかなり減らす事が出来た。
ならばこれ以上留まる理由もないだろう。
「こちらこそ、忌々しいが認めよう……このままでは俺様に勝ち目はないようだ」
今のままでは勝てない。そうヴォルデモートは考えた。
今のままでも負けはしない。誰よりも不死の道に入り込んだ自分ならば殺される事はない。
しかしそれでは13年前、ハリーによって滅ぼされた時の再現になってしまう。
せっかく再生させた肉体を破壊されてしまう恐れがある。
そして何よりも、今のヴォルデモートにはミラベルを倒す手段がなかった。
一撃で殺さない限り即座に再生・復活するこの夜の王と戦うには単純にして無慈悲なまでにヴォルデモートには火力が足りなかったのだ。
細胞の一つすら余さず消し去る圧倒的攻撃力……それがこの女と戦う上では必須!
「仕方あるまい、貴様は後回しだ。まずは魔法界から支配するとしよう」
「それがよさそうだ。今回は見逃してやる」
目の前の相手を倒すよりも、今の腐った魔法界を支配する方が余程早く簡単だ。
それが二人の出した結論であった。
そして全ての権力を手にした上で戦略的優位を築き、相手の手駒の全てを奪い去り、始末する。
遠回りではあるが、恐らくはそれこそが最適解。
「いずれ決着を付けよう、ヴォルデモート。魔法界の支配と貴様の死を以て」
「よかろう。どちらが真の帝王に相応しいか、貴様に教えてくれるぞ」
互いに自分が負けるなどとは微塵も考えていない不敵な笑みを浮かべる。
負けない、負けるはずがない。
何故なら自分こそが王者で、統てを支配するに相応しい存在だからだ。
勝つのは自分だ。故に滅びろ、屈しろ、無様に朽ち果てろ。
留まる事ない悪意を以て、しかしその牙を収め、先の勝利の為に今は耐える。
互いに倒すべき相手の顔をしっかりと網膜に焼付け、そしてその場から姿を消した。
この決着はいずれ――どちらかが魔法界を支配した暁に。
クラウチJr.「あのお方はお前を殺し損ねた。ならば俺がお前を殺せば、俺はあのお方の最も忠実なしもべという名誉を受けるだろう」
ハリー「そんな……貴方が死喰い人だったなんて!」
クラウチJr.「死ねい、ハリー・ポッター!」
ロマンドー「待ちな!」
クラウチJr.「!?」
ロマンドー「ふん!」ボカッ
クラウチJr.「イ゙ェアアアア!」
ロマンドー「この手に限る」
ハリー「( ゚д゚)」
ラベンダー・ブラウン「やだ……素敵……」
∩(・ω・)∩<ワンチャンアレバカテルゥー
今回はミラベルVSヴォルデモートの邪悪VS巨悪対決でした。
ヴォルさんの一人称は「俺様」だと小物感がするので「俺」か「私」にしようと思っていたのですが、映画を見て俺様でもいいかな、と考えを改め、俺様になってしまいました。
それではまた明日お会いしましょう。
ちなみに、「ハリポタ世界の吸血鬼って実際どうなの?」と言う方の為に、私が知る限りの公式ハリポタ世界吸血鬼を書いておきます。
ローカン・ドイス
吸血鬼の血を引く歌手。
この事から、どうやらハリポタ世界の吸血鬼は人間との交配も可能と推測出来る。
サングィニ
原作に登場した唯一の吸血鬼。
エルドレド・ウォープルの友人という扱いだが、どっちかというとペットみたいな感じ。
あまり知性は感じない。
ハーバート・バーニー卿
1880年代、ロンドンで女性ばかり襲った。不死が基準の吸血鬼の中では短命なビクトリアの吸血鬼。後に魔法生物規制管理部の特別隊によって捕まり、殺された。
アマリオ・レストート
派手なアメリカの吸血鬼。
吸血鬼が人をだましやすくすることを目的に書かれた「吸血鬼の独白」の著者。
カーミラ・サングイナ婦人
若さと美しさを保つため、命を奪った相手の血を満たした風呂に入った。
ブラッドウィン・ブラッド
谷から来た吸血鬼として知られる。犠牲者の首を噛む前に低いバリトンで歌うことで有名。
ヴラド・ドラキュラ伯爵
ブラム・ストーカーが書いた「ドラキュラ」に影響を与えた吸血鬼。
ハリポタはこういう、設定だけのキャラなどが山ほどいるので原作読んだりwiki調べただけじゃ分からない事だらけです。
かくいう私も全部把握しているわけではないので、多分これ以外にもまだいるかもしれません。