最近よく言われる事に「何でイーディス、スリザリンにいるの?」というのがあります。
メタ的な事を言ってしまうと、「最初はダフネだったから」です。
物語的な要素で無理に説明するなら、「母親が純血主義だったから」となります。
母親の教育のせいでグリフィン嫌い要素が加わってしまい、クラス分けの時に「グリフィンドールは嫌だ」とか考えてしまったのでしょう。
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そして感想3000突破。これも皆様のおかげです。
アルバニア郊外にあるベレスフォード本邸。
その扉を潜り、ミラベルが帰宅するとパタパタという足音が聞こえてきた。
それから満面の笑顔で出迎えに来たのは彼女の母であるメーヴィス・ベレスフォードだ。
娘を溺愛するこの女性は普段もミラベルの帰りを心待ちにしているのだが、今年は例年よりもその傾向が強かった。
ミラベルは毎年、クリスマス休暇には戻って来ているのだが今年ほどそれを喜んでいるのも珍しい。
「お帰り、ミラベル! ああ、私の可愛いミラベル! 学校生活に問題はない? 楽しくやれてる?」
「ええ、何も問題はありません……お母様」
荷物を使用人に預け、リビングへと向かう。
だがそこに、去年まではいたはずのヒースコートとサイモンはいない。
彼等は去年の末、突然謎の病気にかかり、意識を失ってしまったのだ。
今ではほとんど起きる事もなく、聖マンゴで寝たきりの生活を送っている。
……と、いうのはメーヴィスに伝えられた嘘である。
真実は病気などではない。ヒースコートはすでに死んでいるのだ。
一年前、ミラベルが行った儀式の生贄にされ、彼は娘の手でこの世を去る事となった。
聖マンゴにいるのは、無理矢理生命活動をさせられているだけの、魂のない抜け殻だ。
「ねえミラベル。あの子……ポッターはまだ、『例のあの人』が帰って来たって言ってるの?」
「はい。そして相変わらず嘘吐き扱いされています」
「そう……」
メーヴィスは長い睫毛を伏せ、憂鬱そうに溜息をつく。
彼女は隠れた、ハリーを信じる一人であった。
元々は信じる側ではなかったのだが、その主観を変えたのは愛する夫の存在だ。
「ミラベル……私ね、あの子の言う事が本当のような気がするのよ。
だってそうでもなければ、あの人が倒れるなんて有り得ない。
……病気なんかじゃない、私には分かるの。あれは誰かに襲われたのよ」
「…………」
メーヴィスの意見は、正しい。
彼女が言うようにヒースコートは病気などではなく襲撃されたからああなったのだ。
だがその犯人が他でもない、愛する娘である事には気付けないようだ。
「そういえばミラベル、貴女の専属メイド……メアリーはどうしたのかしら?」
「……少しばかりやりたい事があるというので暇を出しましたよ。今はどこで何をしているのやら」
「そう」
メーヴィスは対して追求もせず、また憂鬱そうに顔を伏せた。
その彼女から目を逸らし、ミラベルは去年の事を思い出す。
それは、あの儀式を行う前の事……。
「メアリー・オーウェル。貴様には儀式にあたって重要な役割を担ってもらう」
「重要、ですか?」
ベレスフォード家に仕えるメイド、メアリー・オーウェルは軽く混乱していた。
自分を呼び付けるなり主たる少女……ミラベルが突然重大発言をかましたからだ。
何とも突然で勝手なものだが、彼女はそういう存在である。
だからメアリーも特に気にせず、主の次の言葉を待った。
「儀式の為に必要なものがある。そのほとんどは既に手にしているが、一つだけまだ入手していない。
そこで貴様に協力を命じたいのだ」
「はあ……しかしお嬢様が入手出来ない物を私などが……」
「いいや、貴様が必要だ」
ミラベルが何をしようとしているかは既に知っている。
『親殺し』……彼女はとうとう、実の親に牙を剥き、その命を断とうとしているのだ。
だがそれは分かっていた事だ。
まだ幼かったあの日、片割れたる優しい少女を失ってからずっと主は悪魔であり続けた。
否、元よりミラベルとは生まれながらの悪魔だったのだ。
だからこそ彼女は、一切の慈悲なく告げる。
「必要なのは処女の生き血と命。だがこのミラベルの供物に下らん女の血など不要。
故に命じる……私の為に死ね、メアリー」
「…………」
メアリーは、固く唇を結ぶ。
分かっていた。
いつかこんな日が来る事は、薄々わかっていた。
この主は誰も必要とせず、誰も求めない。
だからきっと、幼い時から共に過ごした自分であろうと必要になれば容易く捨てるだろう。
そんな事はずっと、分かっていたはずなのだ。
「……貴女の、御心のままに……お嬢様」
「いい子だ」
ミラベルは満足そうに笑い、メアリーの髪をすくう。
そして同性ですら魅了する妖しい視線で、彼女を見た。
「なあに心配するなメアリー。全てが上手くいけば命すら容易く蘇生出来るようになる。
ちゃんと蘇生させてやるさ……貴様ほど役に立つ配下を、私が使い捨てるわけがないだろう?」
「……有り難き、幸せ」
配下……配下か。
メアリーは自嘲の、悲しい微笑みを浮かべる。
幼い頃からずっと一緒にいて、それでも自分はこの人の友になる事は出来なかった。
支えにすら、なれなかった。
いや、元よりミラベルという少女に友など必要ないのだろう。
たった一人の、今は亡き少女を除き、何も必要としない。
「そして貴様にはもう一つ、重要な指令を与える」
「もう、一つ?」
「そうだ。貴様の死後、私は貴様の身体を賢者の石の力で再構成する。
肉体は人間のものだが、そのスペックは紛れも無く世界最高であると断言しよう」
「それは……まさか」
「察しがいいな。貴様にはその身体を使い、全てを欺いてもらう。
これは、幼い頃より私を見てきた貴様以外には絶対出来ん役割だ」
メアリーは瞬時に自らに求められている役割を理解する。
なるほど、確かにこれから行動を開始する以上、その役目は必要だろう。
そしてそれが可能なのは自分しかいない。
余計な邪魔を入れないようにするには、ミラベル・ベレスフォードは今までと同じように学校に残り続けなくてはならないのだ。
「それに相応しい力もくれてやる。
私と同化している寄生虫のような魂があるが……その一部を、貴様に与えよう。
それがあれば、私に届かぬまでも近い力を振るえるようになるはずだ」
魔法使いの強さというのは、魂に依存する所が大きい。
例えば闇の魔法使いは闇の魔法で新しい肉体を得る事があるが、その時魔法力は全く衰えないという。
それは魂の方が、その魔力を覚えているからだ。
また聞いた所によると、2年度に現れたというトム・リドルは日記に宿った魂の欠片でありながら魔法を使えたそうだ。
ならば、主の魂の一部を貰えるならば、その力を振るう事もまた不可能ではないだろう。
……寄生虫というのは正直、何の事か分からぬが。
「やってくれるな?」
ミラベルは問いかけではなく、確認の言葉を投げかける。
彼女にとってすでにメアリーが従うのは決定事項だ。
自分の考えこそが正しい、自分の計画こそが正しい。
そう確信してしまえる歪な精神だからこその、他者の心情を一切配慮しない、まさに暴帝たる決めつけであった。
そして彼女の予想通り、メアリーは首を横に触れない。
「貴女が、それを望むなら」
物心ついたとき、すでに両親はいなかった。
孤児院でも友達などというものは出来ず、常に独りだった。
そして引き取られてからも……やはり独りだった。
主は他人を必要とせず、他人を見ない少女だったからだ。
それでも、彼女の役に立てればそれでよかった。
それだけが自分の居場所であると信じ、無心で尽くした。
しかしメアリーのその心は今、揺らぎつつある。
全てを欺く事に、心が悲鳴をあげている。
友達というものを。そしてその温かみを、知ってしまったから――。
*
「……ベル……ミラベル? ミラベルってば」
「……っ!」
「どうしたの? ボーっとしちゃって」
声をかけられ、ミラベルはハッと目を開ける。
少しばかり過去に埋没し過ぎたようだ。
横を見れば、イーディスが心配そうな顔でこちらを覗きこんでいる。
これはいけない、昼食時に少しボーっとしすぎたか。
「あ、ああ、大丈夫だ。少しばかり昔を思い出してな」
「本当に? 疲れがたまってるんじゃない?」
「かもな。今のホグワーツは何もしなくても疲れが溜まる」
ミラベルの言葉にイーディスが同意するように苦笑いした。
『ドローレス・アンブリッジ、ホグワーツ魔法魔術学校校長に就任』。
この最悪のニュースは今や全校生徒が知っている。
何故そうなったのか。その原因はハリー達が組織していた『DA(ダンブルドア軍団)』にこそある。
アンブリッジの鼻先で行われていた彼等のささやかな抵抗が遂に発覚し、それを庇い立てしたダンブルドアが校外追放という事態に発展してしまったのだ。
細かい原因を追求するならば、ハリー達を裏切ってアンブリッジに密告した生徒、マリエッタ・エッジコムに……ひいては、彼女が嫌がっている事を知っていて強引に引き入れたチョウ・チャンにこそあるだろうが、今更言っても仕方のない事だろう。
ダンブルドアが居なくなった後のホグワーツ校内の規則は、今やアンブリッジの私物と化していた。
まず監督生制度が実質無力化し、その上に位置する『尋問官親衛隊』という役職が制定されたのだ。
これは監督生同士は減点出来ないという大前提を覆し、好き放題に減点出来るという前代未聞のシステムである。
これに就任したのは当然のように数人のスリザリン生徒達であった。
彼等は新しく与えられたこの権力(おもちゃ)に大層ご満悦のようで、何かにつけてハリー達から減点しているらしい。
これが理由など無くとも減点出来るのだから最悪だ。『お前はウィーズリーだから』、『お前は穢れた血だから』、『お前が嫌いだから』、そんな理由で減点されてはもう、寮杯システムそのものが機能しない。
馬鹿に権力を持たせてはいけないという悪い例である。
「やっぱりこんなのおかしいよ。私、一度皆に文句言ってみる」
「やめろ。そんな事をすれば次はお前が目を付けられるだけだ」
尋問官親衛隊の馬鹿丸出しの暴走は見るに耐えないが、それを咎めればこちらに火花が飛んでくる。
権力を持った馬鹿ほど手に負えないものはない。
今の彼等は放置しておくのが最も正しい選択なのだ。
「そうなれば私は奴等を叩き潰してしまう。お前はスリザリン同士の潰し合いが見たいわけではなかろう?」
「う……まあ、そりゃそうだけど」
イーディスはそう言いながらも、少し嬉しそうだった。
今のミラベルの言葉は要するに、イーディスに害を与えたら報復する、と言っているようなものだったからだ。
嬉しそうにしているイーディスに怪訝な目を向けながらも、ミラベルは言葉を続ける。
「それに奴等も利用されているだけの人形に過ぎん。あれに注意した所ですぐに次の誰かが代わりに就くだけさ。
私達が追い出すべきはアンブリッジ一人だけだよ」
アンブリッジさえ追い出せばこの学校は正常に戻る。
ならば考えるべきは親衛隊を止める方法ではなくアンブリッジをどう追い出すかだ。
「そういえば、ウィーズリーの双子が……」
イーディスが何かを思い出したように言う。
いや、言おうとした。
だがその直後に突然、何かが爆破するような轟音と共に床が揺れ、彼女の言葉を遮ってしまった。
更に続けて、一階下の方から生徒達が騒ぐ声が聞こえ、広間の生徒達は一体何事かとこぞってそちらに向かって行った。
「……あー、何か企んでるってハーマイオニーが言ってたんだけど……」
「ふふ、早速行動を起こしたわけだ」
この騒ぎの犯人はウィーズリーの双子と見て間違いないだろう。
ミラベルとイーディスは頷き合い、他の生徒同様広間を飛び出して地下へと向かう。
そこで目にしたのは、数多の魔法花火を撒き散らしながら階段を右往左往する火花のドラゴンだった。
それも1匹や2匹ではない。10匹、20匹も集り、縦横無尽に火花を飛ばしているのだ。
「い、一体これは……ひっ!?」
困惑するアンブリッジの前を、直径1、5メートルはあるネズミ花火が横切った。
それは周囲に火花を巻き散らし、今度は床に仕掛けられたロケット花火に点火され、あちこちを飛び回った。
床に仕掛けられた爆竹が連鎖爆発を起こし、その爆発の中からまた別の花火が姿を現す。
「は、早くフィルチ! 早くしないと学校中に広がるわ!
ステューピファイ! 麻痺せよ!」
アンブリッジの杖から出た赤い光がロケット花火の一つに命中する。
だがそれは逆効果だ。
ロケット花火はアンブリッジの魔法を受けた事で爆発を起こし、更に被害を拡大させた。
「し、失神させては駄目、フィルチ!」
「イエス、マム!」
呪文を唱えたのはアンブリッジなのだが、自分ではなくフィルチが撃った事にしたいらしい。
しかしスクイブである彼に魔法など使えるわけがない。
自分の無能を認めたくないのは結構だが、せめて擦り付ける相手くらいは選ぶべきだ。
続けてアンブリッジは『消失呪文』を唱えるが、これもまた逆効果であった。
命中したドラゴン花火は10匹の竜に分裂し、更に手に負えなくなってしまったのだ。
どうやら消失呪文を唱えると逆に増えるらしい。
この分だと他の魔法にも何らかの対策が施されていそうだ。
「フィルチ! 消失させては駄目よ!」
「はい! アンブリッジ校長!」
テンパりながらもアンブリッジはめげずに武装解除を唱える。
だがこれもアウト! 今度は巨大化し、あちこちに頭をぶつけ始めた。
「フィルチー!!」
「申し訳ありません校長!」
呪文を撃てば撃つほど逆効果に働く。
何とも恐ろしい道具だ。
いや、真に恐ろしいのはこんなものを作り出すウィーズリー兄弟の才能だろうか。
呪文を撃つ。増える。
呪文を撃つ。爆発する。
呪文を撃つ。巨大化する。
とんでもない大惨事だ。
しかしマクゴナガルを始めとする教師陣は全く気にもかけない。
それどころか面白そうな顔すらし、近くにいたイーディスへと声をかける。
「ミス・ライナグル。校長先生の所に走って行ってあちらの教室に逃亡した花火がいると報告してくれませんか?」
「あ、はい!」
勿論、彼女達ならば花火くらい退治出来るだろう。
しかし自主的に退治しようとはしない。
何故かと問われれば、そんな権限があるかどうか分からないからだ。
……と、いうのは建前で勿論本音はアンブリッジが気に入らないからである。
「し、親衛隊ー! 何をしてるの、早く動きなさい!」
アンブリッジは焦ったような声で叫ぶ。
だがその叫びにも意味はない。
何故なら彼女自慢の親衛隊は、怯えて震えるばかりだからだ。
所詮は権力に取り入るしか脳のない生徒を集めただけの愚図の集団。
こういう時役に立たないのは、至極当然の事であった。
結局、アンブリッジが校長に就任しての一日目はひたすら花火の対応に追われるだけのものとなった。
―次回予告―
一見平和に見える日々。
失いたくない平穏。
しかしその崩壊の時は確実に迫り、少年達は決断を迫られる。
シリウス・ブラックの危機を見た時、ハリーは……。
次回、ハリーポッターと野望の少女。
第49話――『出発』
一方その頃、日本はゴジラに襲われていた。
(「‐|‐) ……いや、すみません。
一度やってみたかったんです、次回予告。