結構何でもいけるクチですが、最近嵌っているのはガンダムです。
ただSEEDばかりなのが難点ですね。
宇宙世紀モノ、もっと増えないでしょうかね。
誰もが、眼前の光景を疑っていた。
誰もが、その圧倒的な存在感に呑まれていた。
確かに以前から得体の知れない威圧感を持つ少女ではあった。
だが、これは何だ?
果たしてミラベル・ベレスフォードとは、これほどにおぞましい存在感を放つ存在だったか?
そして何故、これほどに恐ろしいのに惹かれるのだろうか。
この中で唯一、ミラベルが既に人間ではないという解を持っているのはヴォルデモートのみだが、彼は目の前で最も優秀な駒を潰された怒りでそれどころではなかった。
ミラベルはそんな彼を馬鹿にするように鼻で哂い、ローブからガラス片を取り出して、見せ付けるように床に落とす。
最初はそれが何だかわからなかったヴォルデモートだが、理解するにつれて顔が青褪めていった。
「それは!」
「ああ、そうだ。貴様が欲しがっていた予言だよ。
しかしヴォルデモート……貴様、私が思っていたよりも大した事ないんだな」
「何……っ?」
「一年もかけて何をしているのかと思えば、こんなちっぽけなガラス球一つ手に入れていないとは……貴様には失望したよヴォルデモート。
せめて魔法省くらいは陥落させていると思ったのだがな」
心底見下すようにくつくつとミラベルは哂う。
挑発などではない。
彼女は本当に心から、ヴォルデモートの能力の低さに呆れと愉悦を感じていたのだ。
「何を偉そうに……お前とて、この一年で何も得ていないではないか!」
「ほう?」
「帝王は全て知っているぞベレスフォード! このイギリス魔法界の全てをな!
お前はこの一年、何一つとして掌握していない! 口先だけの3流だ!」
ヴォルデモートがミラベルを糾弾し、吼える。
だがミラベルの顔に動揺はない。
それどころか、ますます愉快そうに口を歪めるだけだ。
そこにある感情をハリーは何と無く理解した。
それは『愉悦』!
それは例えるならば実力を隠した物語の主人公が、自分より力の劣る奴が威張るのを見て内心で見下すかのような、『上から目線の愉悦』!
ハリーはミラベルの表情にそれを感じた。
「『帝王は全て知っている』……か、ふふふふっ」
「何が可笑しい?」
「なあヴォルデモート、一年もかけてガラス球一つ手に入れられない小さな男よ。
貴様……まさか本当に私が何もしていないと思うのか?
影武者まで用意して貴様等の目を私から逸らせて、本当に私が何もしていないと?」
ニヤァ、とミラベルは優越感に満ちた笑みを浮かべる。
それはまるで貧乏で新しい玩具が買えない子供に、新品の玩具を見せびらかす時のような歪んだ顔だ。
この1年、イーディスと共にいた『
「私はこの1年、外国にいたのだよ。影武者を用意したのは私が国内にいない事を気付かせないようにする為だ」
「外国……ミラベル、お主まさか……」
「ほう、気付いたかダンブルドア。やはりそこの蛇男とは頭の回転が違うな」
益々面白そうな顔をするミラベルとは対照的に、ダンブルドアの顔は青褪めていく。
「貴様の考えている通りさ。私は今まで、ドイツに滞在していた。
ドイツの――魔法省首相官邸にな」
「――ッ!」
「余談だが、半年前まではフランスの首相官邸で暮らしていたよ。
なかなかいい心地だったぞ、魔法界トップの椅子というのは」
ハリーが、ダンブルドアが。そしてヴォルデモートが。
全員が顔を蒼白にしていた。
あまりにも斜め上に飛んだ、最悪すら上回る現実に思考を忘れてしまったのだ。
「そう――私はフランスとドイツの魔法界を支配したのだ。
今や魔法省の役人は一人余さず私の僕だよ。
私が死ねと言えば笑って死ぬ、従順な屍人形の群れさ。
そして、アイルランドも私の手の者がすでに制圧を終えている」
「なんという……ミラベル、お主なんという事を!」
ダンブルドアの憤りもミラベルには届かない。
彼女はまたも鼻で笑い飛ばすと、言葉を続ける。
「理解したかヴォルデモート、これが私と貴様の差だ。
貴様がこんなちっぽけなガラス球一つを追いかけている間に、私は3つの魔法界を手にしていたんだよ」
ミラベルは勝ち誇ったように言い、床に落ちたガラス片を踏み躙る。
あれほどに命がけで取り合った予言だったのに、その最後は呆気ないものだ。
「そしてこれで、貴様の1年は無駄に終わったわけだ」
「……っ!」
「どんな気分だ、ヴォルデモート? 1年も追い求めた宝を目の前で奪われた気分は。
さしずめ、宝の地図を頼りに必死こいて宝を見つけ出したら、その箱の中に『一番の宝はここまでの冒険です』とか書かれていた時のようなものか?」
「お、の、れえ……っ!」
「おいおい、そう怒るなよ。血圧が上がり過ぎてタコみたいになってるぞ」
ヴォルデモートが怒れば怒るほど、ミラベルの愉悦は増す。
ハリーは思い出した。
ああそうだ、これがミラベルだ。これこそがミラベル・ベレスフォードだ。
際限なく高まり続ける『悪意』! 偽者には無く、本物にのみ備わっているものだ!
「ミラベルよ……どうするつもりじゃ?
魔法界を3つも手にして、それで次はイギリスを手にするつもりか?」
「否だ、ダンブルドア」
「なに!?」
ダンブルドアの問いに、しかしミラベルが出した返答は予想外の『NO』であった。
不穏に思うダンブルドアに、ミラベルは顔を真剣なものに戻して言う。
「なあダンブルドアよ……今のイギリス魔法界は腐り過ぎていると思わんか」
「……?」
「この1年、貴様も嫌と言う程実感したはずだ、現魔法省の腐敗ぶりを。
いや、魔法省のみならず、この魔法界全ての救いようの無い堕落ぶりを」
その言葉は、認めたくないが事実であった。
魔法省は権力欲から事実に目を背け、味方の足を引っ張り。
魔法界全体すらがそれを支援した。
その醜態をハリーとダンブルドアはこの1年で嫌という程見せ付けられた。
「腐った枝は切り落とさねばならん。だが、根元から腐っていたならば、どうすればいいと思う?」
「……お、お主……まさか」
「“木ごと取り替える必要がある”とは思わんか?」
冗談ではない、と全員が思った。
背筋が凍る。全身の毛が逆立つ。
この女、まさか……事もあろうに……まさか!
「故に私は考えたのだ――今の魔法界を作ってきた物を、一度焼き払う必要があると」
「馬鹿な! そんな事が!」
「出来るんだよ。今の私にはそれが出来る!
アイルランドとフランス、ドイツ! 3国の魔法界を、その全戦力を用いてイギリス魔法界を焼き尽くす事でなあッ!」
狂気!
それはまさに、果ての無い狂気であった!
理想の世界を! 理想の国を! 理想の為の理想を!
その為ならば総てを踏み躙り、総てを蹂躙し、幾万の悲劇を生み出す事すら厭わない!
「魔法界は腐りきっている。恐らくは遥か昔、ホグワーツの創始者達が仲違いしたその瞬間から! あるいはそれ以前から!
これを正し、正常にするには最早英国魔法界そのものを一度終わらせる以外にない!」
「貴様! 愚かな……愚かだぞ、ベレスフォード!
この魔法界を……数多の偉大な先人達が築いてきた歴史を……総てを焼き払う気か!?」
「然り! グリフィンドールを、ハッフルパフを! レイブンクローを、そしてスリザリンを!
過去の愚物総てを歴史から抹消し、総てを白紙に戻す!
そして始めるのだ……このミラベルの手による、選ばれた者だけが生きる、理想の魔法国家を!」
――狂っている!
全員が今、心から確信した!
これは闇の陣営だとか正義だとか悪だとか、もうそんな次元を超越している!
何だこれは……何なのだ、この少女の形をした『ナニカ』はッ!!
「狂っている……貴様は狂っているぞ、ベレスフォード!」
「違うな。何もかもが狂っているこの世界の中で狂っているのなら、それは私だけが正常という事だ」
ミラベル・ベレスフォードの中に己が間違えているかも、などという思考はない。
常に正しいのは私であり、私に歯向かう貴様等こそが過ちだ。
そう信じ、そして迷わない。動じない。躊躇わない。
一度こうだと正解を決めたならば、例えそれが過ちであろうと構わず進む。過ちを強引に正解へと変える。
その狂気がこの少女には備わっていた。
「そもそも貴様等はおかしいと思わないのか? 今の魔法界の在り様を、本当に正しいと思っているのか?
数百人に一人の割合でしか存在しない少数民族がそれぞれの国に小さなコミュニティを築き、近親相姦を繰り返し、遺伝的にも劣化を重ね、緩やかに腐り果てていく。
血だけで選ばれる無能が蔓延り、未来の芽を摘み、外敵を前に団結すらせず互いに潰し合う。
マグル生まれを受け入れねばとうに滅びていたか弱い種族でありながら、その事に目を向けず、今も尚過去の過ちを繰り返し衰退の一途を辿っている。
それが今の魔法界だ。貴様等が偉大と呼ぶ愚かな先人が築いてきた世界の真実だ」
その瞳に怒りすら滲ませ、ミラベルが語る。
純血主義という魔法界の癌細胞。それを取り除きもしなかった過去の愚物達。どちらも等しく怒りの矛先だ。
マグル生まれの排除? 何を馬鹿な事を。
近親相姦を繰り返した果てに未来と発展などあるものか。
そんな事を許せば魔法使いに残された未来は滅び一択になるだろうに。
今のままでは国が滅びる前に、そこに生きる魔法使いが滅びる!
いつまで――、
――いつまで、こんな腐った国を惜しんで民を腐らせていく気だ!?
「魔法界は変わらねばならぬ。否、私が変える。
古き歴史を破壊し、停滞し続けていた魔法界を私が動かす」
「愚かな事を! その過程でどれだけの人間が犠牲になるか! どれだけの罪無き民が泣くか!
それを理解出来ぬお主ではないじゃろう!」
ミラベルの弁に、ダンブルドアが怒りを露にする。
この少女ならば、あるいはそれを実現させるかもしれない。
だが、いかに彼女が怪物じみた天才でも犠牲なしに全てを運ぶ事など出来ない。
その革命には、数多の血と涙が流れる事となる!
そう叫ぶダンブルドアに、しかしミラベルは更なる怒りの視線を以て返した。
「貴様がそれを言うのか?」
「……何?」
「貴様がそれを言うのかと聞いているのだ。
魔法界を統治し、導ける才能と英知を持ちながらファッジなどという無能に魔法界を預けた男が……。
腐敗を黙認し、責任から逃げ続けた男が……魔法界一つ背負う意気地すらない男が私を、このミラベルを批判出来るのかと聞いているのだ! アルバス・ダンブルドア!」
それはダンブルドアを認めるが故の糾弾であった。
彼を魔法界の頂点に相応しいと考えるが故の怒りであった。
逃げ続けた男への、怒りの吐露であった。
「私にはある。魔法界の統てを背負い、血と涙と犠牲の果てに理想の世界を築く覚悟と力がある。
どれだけの犠牲を出そうと、この身を血に染め上げて理想の未来を築く事が私には出来る。
貴様はどうだ? ダンブルドア。貴様に出来ると言い切れるか?
無数の責任と犠牲を背負い、あるいは笑い飛ばし、踏み躙り、それでも尚歩み続ける強さが貴様にあるか?」
「……ッ!」
「――出来ぬのならば、指を咥えて黙っていろ……善人で在り続けたいだけの腰抜けが。
世界は、このミラベルにこそ支配されるべきなのだ」
もうミラベルに説得は通じない。言葉など届かない。
彼女にとっては己こそが正義であり、それ以外は全て邪魔な雑音でしかないのだ。
ダンブルドアは嘆きと怒りに顔を歪め、歯を食い縛る。
「残念じゃ……ミラベル……本当に残念じゃよ。
わしは、お主が友情の……絆の大事さを理解したと思って、嬉しかった。
あの影武者の少女の優しさに、希望を抱いた……。
しかし、お主は何も変わっていなかった! 否、前以上に悪辣な存在になってしまった!」
「『友情』、か……ククククッ。
下らんなあ、実に下らんよダンブルドア。
そんなものは人を弱くするだけだと何故理解しない?」
「ではイーディスは?! あそこで涙を流すあの少女との仲は、一体何だったのじゃ!?」
今にも呪文を唱えそうな剣幕でダンブルドアが怒声を飛ばす。
ミラベルはそれに反応して、まるで今気付いたとばかりにイーディスを一瞥し、感情のない目を向けた。
彼女を見る視線にどんな感情が込められているのかは、ミラベルにしかわからない。
しかしミラベルは視線をダンブルドアに戻し、吐き捨てるように言う。
「……ああ、そうだな……片手間ではあったが学生として過ごした4年間は、まあそれなりに楽しめた。
だが所詮は力を蓄える準備期間のついで……私にとって大きな価値を感じるものでもない」
「――『友達ごっこ』はもう終わりだよ」
イーディスは愕然とした。
影武者のミラベルとの友情は本物だった。
たとえ姿を偽っていても、確かな絆がそこにあった。
だが本物のミラベルとの仲は――偽りだった?
涙が零れ、心が悲鳴をあげる。
もうやめてくれ、もう何も見たくない、聞きたくない。
しかしそんなイーディスを気にする事もなくミラベルはダンブルドアと向き合った。
「そこまで堕ちたかッ、ミラベル・ベレスフォード!」
「堕ちたのではない! 超越したのだッ!」
ダンブルドアが杖を抜き、ミラベルが手を向ける。
爆ぜる、閃光。
互いの腕と杖から放たれた魔法が中央で衝突し、轟音を響かせる。
「ッ、杖なしで魔法を……!?」
「温い、温いなあダンブルドア! 偉大な魔法使いとはこの程度か!?」
見下すように嘲笑うミラベルへ、今度は反対方向から破壊の魔法が飛来する。
凄まじい威力を伴った一撃だ。
だがミラベルは鼻で笑うと無言で盾の魔法を発動し、受け流してしまった。
「ほう、破壊に特化した魔法とは面白いものを使う。
エクソパルソの改良発展型といったところか? 少しは学習してるじゃあないか」
全くダメージを受けていないミラベルに、ヴォルデモートが悔しそうに呻く。
ミラベルは箒も使わずに宙に浮かぶと、地上にいる全員を見渡す。
「ふむ……少しばかりゴミが多すぎるな。
まずは掃除してやろうか」
ニタリ、とミラベルは残虐な喜びに満ちた表情をし、口を三日月型に歪める。
そして手を虚空に掲げ、そこから黄金に輝く炎を呼び出した。
ダンブルドアとヴォルデモート、そしてルーピン、キングズリーは咄嗟に盾の呪文を唱えるが、彼女の狙いはそこではない。
「悪霊の火よ!」
彼女の宣言と共に全方位に炎が放たれる。
だがそれらはハリーやダンブルドア、イーディスを避け、あろう事か倒れている死喰い人に喰らい付いた!
ロドルファス!
ラバスタン!
アントニン! ワルデン!
オーガスタス! マルシベール!
ルシウス、クラッブ、ゴイル、ノット!
エイブリー、ジャグソン!
その他大勢の死喰い人達!
挙句、すでに息絶えているベラトリックス!
瞬く間に神秘部は炎に包まれ、炎に包まれた死喰い人達は断末魔の絶叫をあげる。
すでに戦う力を失っていた敗者に対する、過剰攻撃!
その残虐性にハリーは顔をしかめ、嫌悪を露にした。
「アーッハハハハハハハ! どうだ、綺麗サッパリ片付いただろう! やはりゴミは焼却処分に限る!」
「貴様ァァァァァァ!!」
今の攻撃でほとんどの死喰い人が殺されてしまった。
生き残っているのはルシウスとワルデン、オーガスタス、ヤックスリーの4名だけだ。
この場にいた数十人の死喰い人が、今やたった4人になってしまったのだ。
その彼等ですら顔や腕に醜い火傷を負い、そして悪霊の炎で負ったこの傷はもう癒える事がない。
その事にヴォルデモートが激昂し、死の呪文を放つ。
だがミラベルは虫でも払うかのようにそれを叩き落としてしまった。
「何故じゃミラベル……何故、彼等を殺した……? もう、戦う力など残っていなかったろうに……!」
「それは愚問だダンブルドア。貴様は『何故燃えるゴミを燃やすのだ』と聞くのか?」
「ッッ!」
「ゴミを燃やすのに理由など要らんよ。古臭い純血主義のゴミ共は一匹残らず処分する……例外はない」
ダンブルドアは、どんな人間にもやり直しのチャンスが与えられるべきだと思っている。
だからルシウスなどのかつての死喰い人が元の生活に戻るのも見逃していた。
しかしミラベルはそれこそが間違いだと考える。
なまじ温情を与えるからつけ上がるのだ。なまじ慈悲を与えるからまた繰り返すのだ。
奴等に与えるべきは情けではなく、無慈悲なる終焉。それこそが相応しい。
「しかしそういう奴に限って長生きするものだ。なまじ避けなければ苦しまずに済んだろうに」
ミラベルは手の中に黄金の雷を生み出し、バチバチと甲高い音を鳴らす。
影武者が使っていたような、相手を行動不能にするだけの電流ではない。
明らかに致死量の、相手を殺す為の電流だ。
「死ね! ルシウス・マルフォイ!」
手の中から黄金の電撃を放つ。
雷速の一撃! 故に回避も防御も不能!
しかしその攻撃は盾の呪文によって阻まれる。
撃ってから展開したのでは絶対に間に合わない攻撃を防いだ。
それは即ち、すでに盾の呪文で守っていた事を意味する。
「ハリー・ポッターか……何の真似だ?」
ルシウスを庇ったのはハリーだった。
不死鳥の杖を掲げ、荒く息をついてミラベルを睨んでいる。
その瞳には紛れも無く、正義に輝く緑の光があった。
「解せんな……貴様もその男には散々辛酸を嘗めされられて来ただろう。
いや、その男のみならず息子にもだ。何故そいつを貴様が守る?」
「ああそうさ、僕だってこんな男は大嫌いだ! 顔が腫れるまで殴ってやりたい!
けど、それで殺していい事にはならないだろう!」
「ふん、相変わらずだな。人助け癖は健在というわけか」
馬鹿にするような口調で言いながら、ミラベルがハリーに手を向ける。
だがその魔法が放たれるより前に動いた者がいた。
ミラベルと対峙するようにダンブルドアが、そしてヴォルデモートが杖を抜いたのだ。
ダンブルドアは考える。
ヴォルデモート……そしてミラベル。
どちらも等しく危険な存在だ。
今、ここで彼等を止めなければ魔法界の明日が失われる。
ならば立たねばなるまい。
魔法界を守る一人の人間として。
ホグワーツ魔法魔術学校の校長として。
何よりもアルバス・ダンブルドアとして。
絶対に、魔法界を滅ぼさせはしない。
未来の希望を詰み取らせはしない。
ヴォルデモートは考える。
ダンブルドアもハリー・ポッターも倒すべき宿敵だ。
しかしそれ以上に危険なのがあの悪魔だ。
ミラベル・ベレスフォードを止めなければ、魔法界が今まで築き上げてきた総てが終わる。
ならばどちらも滅ぼそう。
己の覇道を阻むダンブルドアも、予言に記された男の子たるハリー・ポッターも。
そして何より、あの傲慢極まりない黄金の悪魔も。
そして教えよう。己こそがヴォルデモート卿……魔法界の恐怖なのだという事を。
そしてその2人を見て、ミラベルは好戦的に歪んだ笑みを浮べた。
この2人と同時に戦うような事態になるとは、何とも面白い事になってきたものだ。
しかしこれこそ好都合というもの。
魔法界の守護者、ダンブルドア。
古き思想を掲げるヴォルデモート。
彼等が自分の前に立ち塞がるのは必然であり、運命だったのだろう。
ならばこそ、ここで断ち切らねばなるまい。全ての禍根を。
「トム……ミラベル……。
お主等が悪しき道に入ってしまったのもまた、わしの過ち。
ならばこそ、わしが止めねばなるまい。
悪しき連鎖を断ち切るためにお主らの野望、ここで断ち切らせてもらおう」
ダンブルドアの顔が普段の優しげなものから、鬼のような形相へと変わる。
優しき教師としての仮面を取り外し、未来の為にかつての教え子を討つ決意を固めたのだ。
「帝王に歯向かった者にあるのは、いつだって残酷な末路だけだ。
そして今日、その哀れな者達の列にお前達が並ぶ事になるだろう。
俺様に歯向かった者の末路……その身を以て証明するといい」
ヴォルデモートの周囲が歪み、不吉な空気が溢れ出す。
魔法界の恐怖。その化身たる闇の帝王がいよいよ全力を発揮しようとしたのをハリーは知り、背筋が寒くなるのを感じていた。
「よかろう、かかってくるがいい。
貴様等2人をこの手で消し去り、そして此処より始めよう。
このミラベルが築く、新たなる魔法界の歴史を――!」
ミラベルが全身から黄金の炎を発し、賢者と帝王がそれぞれの信念の元に杖を掲げる。
ハリーにはもう、見ている事しか出来ない。
ただ、それでも分かる事がある。
これから始まるのだ……。
恐らくは誰も見た事も、体験した事もない恐ろしい戦いが。
一人でも魔法界の未来を左右させ得る恐るべき魔法使い達の、天蓋の域の闘争が。
自分などでは想像も出来ない、頂点同士の戦いが――!
ミラベルが手を翳す。
ダンブルドアが杖を向ける。
ヴォルデモートが杖を振る。
そして――。
――魔法省全体が、まるで地震のように震えた。
(「‐|‐) ……これ、誰が主人公でしたっけ?
という感じの53話でお送りしました。
今までも回が進むごとに主役らしさが失われて行くミラベルでしたが、今回は決定的です。
遂にイーディスすら切り捨てた彼女の明日はどっちだ。
以下、ちょっとした捕捉コーナーとなります。
・ミラベルの目的
まあ、最初から謳ってた通り純血主義の徹底排除です。
またイギリス魔法界が根元から腐っていると思っているので、もう魔法省そのものを完全に吹き飛ばそうと思っています。
ぶっちゃけると戦争仕掛けて根元から吹き飛ばし、戦勝国としてイギリス魔法界を一から再建し直すという超強引手法です。
その際、ミラベルが不要と思ったもの(ファッジやアンブリッジ、またはその支持者達)は避難させずに纏めて切り捨てられ、魔法界ごと焼かれるので凄い数の死者が出ます。
まさに暴君の理論です。
誰かこいつ止めろ。
・偽ミラベル(メアリー)とは何だったのか。
実は彼女は、『ありえたかもしれないミラベルのIF』です。
もっとわかりやすく言うなら、自重リミッター解除前の初期プロットミラベルの名残です。
ベラさんと互角くらいの強さにするはずだった、とは最初に言った事ですが、そのくらいの強さで時に味方になり、時に敵になったりしてヴォルデモート陣営を倒し、最後はハリーと一騎打ちでエンディング、が当初の予定でした。
・フランス魔法界、ドイツ魔法界、アイルランド魔法界
フランスとドイツは3大魔法学校を抱える魔法大国、という事で真っ先に狙われました。
ボーバトンのフランスと、ダームストラングのドイツですね。
ダームストラング=ドイツとは原作では明言されていませんが、クラムの言葉から考えるとドイツっぽいんですよね。
そもそもダームストラングという校名がドイツ語で疾風怒濤を意味する「シュトゥルム・ウント・ドラング」の語音変換ですし、クラムの「w」を「v」と発音する訛りもドイツ語のものです。
でも着ている服や彼が語る地形条件などからロシア説もあるんですよね。
このSSではドイツという事にしましたが、結局どっちなんでしょうね。
アイルランドは単にイギリスの隣で、丁度いい感じに包囲出来る場所だったので狙われました。
・メアリーの中のOLさんどうなった?
この質問が多かったので解答しておきます。
メアリーはミラベルの分霊箱とも言うべき存在となっており、前回死亡(破壊)されました。
そして原作でも分霊箱が壊れると、中の魂は消し飛びます。
つまりOLさんの欠片は消し飛びました。
まあ、今までの行いを後悔すれば死ぬほどの痛みと共に魂が返ってくるらしいですが、その場合死ぬほどの痛みを味わうのはOLさんです。
OLさん「他人の魂だと思っていい加減に使いやがって!(#TДT)」
・日本どうなった?
バーニングゴジラの他に昭和ゴジラとミレニアムゴジラ、FWゴジラが上陸し4つ巴のにらみ合いをしております。