ハリー・ポッターと野望の少女   作:ウルトラ長男

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(*´ω`*)<ナンダト……!?
皆様こんばんわ。今更予約投稿機能に気付いたウルトラ長男です。
これを使えば毎日決まった時間に上げる事が出来そうですね。
とりあえず今まで18時~19時だったので18時にしておきましょう。


第6話 才能の格差

「今日の飛行訓練こそ僕が待ち続けていた授業だよ。いやまあ、僕に訓練なんか必要かという疑問はあるんだがね。

何せ僕はクィディッチが大の得意でね。もし一年でクィディッチ・チームの代表選手になれるのなら絶対にスリザリンを優勝させる事が出来るのに。いや、本当に残念だよ」

 

 木曜の朝、朝食を取っているミラベルの耳に入ってきたのはマルフォイの得意気な声だ。

 彼はいかに自分が優れた箒乗りであるかを懇切丁寧に周囲に説明しているがミラベルにとってそんなものはどうでもいい。

 今重要なのは朝食をいかに味わって食べるかだ。

 イギリスの料理は不味いというのが定説だが、その中にあって朝食の評価だけは悪くない。

 小説家のウィリアム・サマセット・モームは「イングランドで美味い物を食べようと思ったなら朝食を三回食べよ」という言葉を残しており、ミラベルはこれを至言であると考えていた。

 

「僕は幼い頃から箒に乗っていてね。よく近所の皆と一緒にクィディッチをしたものさ。

勿論僕はいつでもエースでシーカーさ。スニッチを見付けるのはいつも僕が最初だったし、ブラッジャーに当たった事だって一度もない」

 

 まず固く焼いた目玉焼きをフォークで切り、一口食べる。ジャパニーズソースこと醤油がないのが不満だがそれでも不味くはなかった。

 卵のまろやかな味をゆっくり楽しみ、次にソーセージ。

 焼いたそれを歯で噛み締めればパリッとした表面が破けて肉汁が口内を満たす。

 しっかり飲み込んだ後はカップを手に取り、ミルクを入れた紅茶を一口飲んで気分を落ち着かせる。

 これだ。これこそ朝食というものである。

 

「あれは去年の事だったかな。僕が箒に乗って空高く飛び上がるとそこに偶然マグルのヘリコプターが迫ってきたんだ。

マグルってのはあんなでかい鉄の箱を用意しないと空を飛べない不自由な生き物らしいね。

僕はそのヘリコプターを咄嗟に避けた! まさにぶつかる寸前、ギリギリってやつさ。

ぶつかるかと思ったかだって? ははっ、まさか。動きが止まって見えたね」

 

 次にイチゴジャムを塗ったトーストを取り、咀嚼。いかに料理が雑なイギリスであってもパンの味はそう変わらない。

 イチゴジャムの甘味とパンの味がいい具合にマッチし、舌を楽しませる。

 だがこの素晴らしい朝食だというのに心から楽しめないのは余計な雑音が混じってるからだろう。

 ミラベルは額に青筋を浮き立たせて席を立ち、二つ隣の席……マルフォイの後ろへと移動する。

 そして彼の髪を鷲掴みにして引き抜くくらいに引っ張った。

 

「フォイッ!? ベ、ベレスフォード、何を……!?」

「マルフォイ、自慢話ならどこか他所でやっててくれないか。せっかくの朝食がマズくなる」

 

 モノを食べる時は誰にも邪魔されず自由で救われてなければ駄目なのだ。

 唾を飛ばして大声で話したり、ふざけながら食べるのをミラベルは食事と認めない。

 それは料理という人類の英知に対する大いなる冒涜だ。例え神が許しても自分が許しはしないだろう。

 ミラベルはマルフォイを無理矢理自分の方に向かせると、その金色の瞳を鋭く細め、睨みを利かせながら言う。

 

「……黙って食ってろ……それが出来ないなら潰す……いいな?」

「…………わ、わかった」

 

 後にマルフォイは語る。「あの眼はマジだった」と。

 彼女は本気だ。食事の邪魔をする者に対しては本気で容赦がない。

 恐らくこの言葉に「だが断る」などと返していれば今頃マルフォイはボロ雑巾と化してステンドグラスを突き破っていた事だろう。

 そのくらいにあの眼は本気だった。

 そうしてマルフォイを黙らせた彼女は席に戻り、再び優雅な朝の一時を楽しんだのだった。

 

 

 

 午後3時半。いよいよ多くの生徒が待ちかねた飛行訓練の時間がやってきた。

 校庭の芝生にはグリフィンドールとスリザリンの生徒達が集り、ガヤガヤと騒がしく話している。

 その内容とはお気に入りのクィディッチチームの事だったり、箒の事だったりだ。

 ミラベルとイーディスも例外ではなく、くだらない話に華を咲かせていた。

 

「ねえ、ミラベルは何か自分の箒を持ってる? 私はクリーンスイープ7号があるけど」

「シルバーアローを私専用にチューニングした愛用の箒がある」

「シルバーアロー? 聞いた事のない名前だね」

「レオナルド・ジュークスという職人一人の手作業で作られていた古い箒だ。

すでに製造は中止されているが、その職人と父が知り合いだったらしく、現在の技術で私専用に作り直させたらしい」

 

 そうして話していると担当教官であるマダム・フーチが現れて生徒達の前に立った。

 短く切りそろえた白髪に鷲のような黄色い目が特徴的だ。

 彼女は到着早々生徒達に対して怒鳴り散らす。

 

「何をボヤボヤしているんですか! 皆箒の側に立って。さあ早く」

 

 言われて、慌てて生徒達は箒の側にスタンバイした。

 ミラベルとイーディスはすでに箒の側に立っており、準備は終わっている。

 足元にある箒は「シューティングスター」という名前だけは格好いい安物の箒だ。

 シューティングスターは1955年にユニバーサル箒株式会社から発売された質の悪い箒で劣化も早い。

 質が悪いという事はつまり事故率も高いという事で、まさにその名の通り撃ち落された流れ星のように墜落する者が続出し、クレームが殺到した。それが原因でユニバーサル社はすでに倒産してしまっている程だ。

 何故こんな出来損ないの箒を学校の標準箒にしているのかは割と理解に苦しむ所である。

 ……まあ、安いからだろうが。

 

「右手を箒の上に突き出して、そして『上がれ』と言う!」

 

 マダム・フーチの言葉に合わせて全員が「上がれ!」と叫び、ミラベルもやる気なさそうに続いた。

 こんな物はもう3歳の時にウンザリする程やらされた。

 そして浮かび上がらなければその度に鞭で引っ叩かれたものだ。

 フワリ、と箒はミラベルの手に収まったが、そう上手く行った者はなかなか少ないらしい。

 無事箒を浮かばせた生徒はマルフォイとハリー、ミラベル、イーディスと他数名のみで、ハーマイオニーですら珍しく苦戦していた。

 全員が何とか箒を手にした後マダム・フーチは箒の正しい乗り方をレクチャーし、生徒達の列を回って握り方のチェックをしていく。

 それが終わればいよいよ飛行訓練開始だ。

 

「さあ私が笛を吹いたら地面を強く蹴ってください。箒はグラつかないように押さえ、2メートルくらい浮上してそれから少し前屈みになってすぐに降りて来て下さい。

ではいきますよ。1、2の……」

「のわああああああッ!」

 

 マダム・フーチが笛を吹くよりも早くネビルが奇声をあげて飛び上がった。

 恐らくは緊張感や皆に置いて行かれる恐怖やらでパニックを起こしてしまったのだろう。

 マダム・フーチが慌てて戻ってくるように叫ぶが、それで戻ってこれるくらい冷静ならそもそもフライングなどしない。

 ネビルは上空6メートル程飛び上がったかと思ったら箒を手放し、地面に向かって紐無しバンジーを敢行した。

 ボキリという嫌な音が響いて草の上に墜落し、うつぶせになる。

 そしてそのまま泣き出してしまった。

 骨折はしたが、どうやら意識はあるらしい。なかなかタフな少年だ。

 

「腕の骨が折れた……っ!」

「人間には215本の骨があるのよ、1本くらい何よ!」

 

 近くに走りよったマダム・フーチがネビルを抱え、下手糞な励ましをしながら医務室へ向かって駆け出す。

 だが途中で一度止まり、生徒達へ厳しい声で言い放った。

 

「私がネビルを医務室へ連れて行きますからその間誰も動いてはいけません。

箒もそのままにして置いておくように。いいですね?」

「腕の骨が……っ!」

「はいはい、今連れて行ってあげますからね!」

 

 そうしてマダム・フーチがいなくなった後の事は特に語る必要はあるまい。

 ほぼミラベルの知識通りだ。

 マルフォイがネビルの忘れ玉(忘れている事があると赤く光るらしい)を持って飛び上がり、ハリーがその後を追って玉を取り戻したのも束の間、それを偶然目撃していたマクゴナガルが現れてハリーを連れて行ってしまったのだ。

 

「はははははっ! 見たかいあのポッターの間抜け面! きっとあいつ退学になるぞ!」

 

 ハリーとマクゴナガルが去った後、マルフォイの勝ち誇ったような笑い声が響く。

 それに合わせて周囲の取り巻きも笑い出し、耳障りな笑い声の協奏曲を奏でた。

 ハーマイオニーやロンが悔しそうにしているが声が出ない。この先に待ち受けるハリーの運命を予想出来てしまう為だ。

 だがそこでマルフォイの笑い声を止めたのは意外にも同じスリザリン生のミラベルであった。

 

「マルフォイ、喜んでいる所に水を差すようだがポッターは退学にはならんぞ」

「……何だって?」

「仮に退学になるのならば、一緒に飛んでいた貴様も同罪だ。それなのにポッターだけが連れて行かれた事に違和感を覚えなかったのか?

何よりも、マクゴナガル教諭の眼にあったのは怒りではない……あれは歓喜だ」

 

 腕組みをしながら呆れたように話すミラベルへ、周囲の視線が集る。

 言われてみればその通りだ。規則違反でハリーが捕まるというのなら、マルフォイだって一緒に連れて行かれて然るべきである。

 なのにマクゴナガルはそれをしなかった。

 

「な、なら何故ポッターだけが連れて行かれたんだい?」

「その理由は貴様と奴の“センス”の違いにある」

「セ、センス?」

「そうだ。初めて乗る箒……それも流れ星などという不良品で16メートルのダイビングをし、掠り傷一つなく落ちる玉を拾うズバ抜けた操縦センス……貴様にアレは出来まい?」

 

 ミラベルに指摘され、マルフォイはうっ、と唸る。

 出来る、と言い切りたかった。自分にもあのくらい、と見栄を張りたかった。

 だがミラベルの金の瞳に睨まれていると何故かその嘘が口から出てこない。真実以外を話すのがとてつもなく罪深い事のように思えてしまう。

 何もかも見通されているかのような錯覚に陥ってしまう。

 

「アレはいいシーカーになるぞ。まさに天性の才能、10年に一人の逸材だ。

マクゴナガル教諭もそう考えたのだろう。だからポッターだけを連れて行った。

……マルフォイよ、貴様はポッターを退学に追い込むどころかスリザリンにとって最も厄介な敵にしてしまったのだ」

「そんな馬鹿な! それじゃあ何だい! ポッターはシーカーになる為に連れて行かれたとでも言うのか!

まだあいつは僕らと同じ1年だぞ!?」

「だが天才だ。2年どころか7年まで見渡してもあいつ以上のシーカーなど見付からんよ」

 

 ハリーはグリフィンドールでスリザリンの敵だ。

 だがその彼の事を語るミラベルは実に楽しげに笑っており、言葉の隅々にはハリーの才能に対する低くない評価すら感じられた。

 彼女はこういう人間なのだ。才能や実力があるならば例え誰であろうと尊敬に値する。

 実力主義の選民思想を掲げているからこそ、優れた人間を何よりも評価し称えるのだ。

 

「私が以前、洋服店で言った事は覚えているか?」

「……あ、ああ……真に優れた者は……」

「そう、“真に優れた者だけが栄光を手にし、劣等種は排除される”。

ポッターはその優れた才能故にマクゴナガル教諭の目に止まり、チャンスを掴んだのだ。貴様を踏み台にしてな」

 

 ミラベルの言葉にショックを受けたようにマルフォイが青い顔をし、その場に立ち竦んだ。

 その彼の耳元に口を寄せ、囁くようにミラベルが告げる。

 

「これが現実だマルフォイ……世の中は実力と才能で動いている。

血筋などという物がいかに無力か少しは理解したか?」

「う……嘘だ! 嘘だ嘘だ嘘だッ、僕は認めないぞそんなの!

あいつは退学になる! そうなるはずなんだッ!」

 

 マルフォイは逃げるようにミラベルから離れ、喚きながらその場を走り去っていった。

 その背を見送る事もせず元の位置に戻ると、冷や汗を流したイーディスが微妙な顔で出迎えてくれた。

 付き合って日は浅いが、彼女の呆れたような顔はもう見慣れたものだ。

 

「……容赦ないね、ミラベル。あれ暗に『お前は無能だ』って言ったようなものじゃない」

「無能ではないさ。実際奴も空は飛べていたし、磨けば2年以降は寮代表にもなれるだろう」

 

 そのミラベルの意外な言葉にイーディスは驚いたような顔をした。

 何だ、実は結構マルフォイの事を評価してたのだろうか?

 そんな風に思った彼女だったが、次の台詞でやはりミラベルはミラベルだったと思い知らされた。

 

「まあ凡夫だがな。決して本物には届かんよ、あいつは」

「あらら……」

 

 イーディスは脱力し、思わずずっこけそうになる。

 ちょっと持ち上げたと思えばすぐこれだ。

 ここ数日の付き合いで彼女が物凄い実力主義の選民思想の持ち主である事は知っていたが、それにしてもこれは病的に酷い。

 何で自分はこんなのと友達やってるんだろうか、と思うがその理由はきっと考えても出ないだろう。

 

 その後マダム・フーチが戻ってきて訓練が再開されたが、ミラベルは口先だけでは無い事を示し、アクロバットな飛行を見せ付けてくれた。

 




ハー子(増えてる……)
イーディス(アクロバットすぎて分身してる……)
通りすがりの手塚さん「テニスではよくある事だ」
ロン「テニスすげえ!?」

(*´ω`*)<カエリミヌ!
今回は飛行訓練回でした。
まあ特に見せ場も何もない日常回ですね。
ほのぼのって素晴らしい。

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