ハリー・ポッターと野望の少女   作:ウルトラ長男

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第69話 ホグワーツ決戦

「イーディス。君は……いや、やめよう……」

 

 決戦前。

 校長室において、ダンブルドアは何かをイーディスに語ろうとした。

 しかし思い悩むように首を振り、出掛かった言葉を呑み込む。

 それはミラベルの事に関するシビルの予言であり、そこに記された世界の破滅の事だ。

 そしてイーディスの姉に関する事でもあった。

 

 しかしダンブルドアはそれを語らなかった。

 それを話した所でイーディスが辛い思いをするだけだからだ。

 世の中には知らない方が幸せな事もある。

 これもその類かもしれないとダンブルドアは考えた。

 

「先生……本当に、ミラベルと戦う事は正しいんでしょうか?

手を取り合う事は、もう出来ないんでしょうか?」

「……正しいと思わぬと、戦えぬのう……。

降伏して手を取り合うのも魅力的ではあるが……その場合、わしは多くの教え子の家族を手にかけねばならぬ」

 

 それは出来ぬ。

 そう、疲れ果てたように言う老人が普段とは違い、この上なく頼り無く見えた。

 そしてそれはハリー達も同じなのだろう。

 もはや大義を失い、正義が向こうに移ってしまった今、寄る辺を失ってしまっている。

 そして、だからこそイーディスはそんな友人達を放置する事が出来なかった。

 

 

「――ミラベル、ごめん……私、貴女と一緒にはいけない。

皆を……裏切れない……」

 

 イーディス・ライナグルはその日、友の手を振り払った。

 

 

「…………そうか」

 

 イーディスの出した結論。

 それにミラベルは静かに目を伏せる。

 その顔には怒りも嘆きもない。

 ただ、感情の読み取れない水面のような静けさだけがあった。

 

「ならば、何も言わん……今より貴様は私の敵だ。

敵は殺す……貴様といえど例外ではないぞ、ライナグル」

 

 ミラベルは本気だ。

 友人だったから、という理由で温情を期待する事は出来ない。

 次に敵として出会ったならば、彼女は本当にイーディスに向けて何の躊躇いもなく死の呪文を叩き込む事だろう。

 彼女にはそれが出来る。

 それが出来るからこそのミラベル・ベレスフォードなのだ。

 

「二度と私の前にその顔を見せるな。何処へなりと消えてしまえ」

 

 冷たく、何の情けもなく吐き捨てる。

 もはや共に歩く道はない。

 別たれた以上、イーディスはもはや覇道を阻む敵でしかないのだ。

 ミラベルはその場で身を翻し、背を向ける。

 そして一言も告げる事なく、消え去った。

 

*

 

 その日、ホグワーツ校舎内での恐怖と緊張は最大まで高まっていた。

 戦えぬ下級生は地下深くにある秘密の部屋に匿われ、戦える者は全て武器を持ってそれぞれの配置についている。

 巨人族最後の生き残りになってしまったグロウプや、ケンタウロスの群れ。

 ほんのわずかな闇祓いにホグワーツの教師陣。

 母校の危機に馳せ参じた卒業生達に、その親族。

 彼等の中にあるのは、魔法界への愛と誇りだ。

 絶大な悪を前にして尚折れぬその姿は、まさに全員が勇者であると言えた。

 

 今回の戦いは完全な防衛戦だ。

 このホグワーツを拠点とし、攻めて来るミラベル陣営を迎え撃つ。

 この学校が最後の砦だ。ここを落とされたらもう後がない。

 もう、ホグワーツ以外にミラベルと戦える拠点が魔法界には残っていないのだ。

 

「くそっ、来るなら来い……俺の魔法で叩き落としてやる」

 

 隣の誰かがそう呟くのを聞きながら、イーディスは杖を強く握る。

 ミラベルはどこから攻めて来る? どうやって攻めて来る?

 きっと皆そう考えているだろうが、イーディスにはすでに答えがわかっていた。

 ――正面突破。

 あの少女がコソコソ逃げ隠れなどするものか。

 間違いなく正面から堂々と、力任せに突っ込んでくる。

 そしてその予想通り、ミラベルが取った行動は先制攻撃であった。

 

 パリン、と何かが砕ける音がした。

 一体何だ、と思い全員が周囲を見回す。

 特に何かが壊れたようには見えない。至って正常そのものだ。

 だが、彼等がそう思ったのはやはり技量が足りていないからだろう。

 教師陣……特にダンブルドアは、普段は温和なその顔を目に見えて焦りへと変えていた。

 

「いかんッ! 全員、すぐに科学阻害の魔法を張り直せ!」

 

 その叫びに、全員が事態を理解した。

 破られたのは、この城周辺にかかっている科学製品を封じる護りの魔法!

 その範囲内であれば機械などは一切正常に機能しないというマグルの軍隊に有効な守りが、いきなり破られたのだ。

 そしてそんな事を出来る者は一人しかいない。

 そう――城を見下ろすように、満月を背に腕組みしている、あの女しか!

 

「み、ミラベルです! ミラベル・ベレスフォード、城の前、500メートル地点に出現!」

 

 魔法の望遠鏡で警戒をしていたリー・ジョーダンが叫ぶ。

 クィディッチで鍛えた彼の眼は、魔法界最大の敵となったかつての下級生を鮮明に捉えていた。

 月光を反射して輝く、腰まで伸びた黄金の髪。

 怪しく光る金色の瞳。見ているだけで魂を奪われそうなほどの、人間離れした美貌。

 そして、その後ろより飛来する、鋼のミサイル!

 その数、おおよそ10発!

 

「ミサイルです! ミサイルが発射されました!」

 

 いきなりの無慈悲極まる先制攻撃だ。加減も何もあったものではない。

 突然の事にホグワーツ内はパニックに陥り、一瞬にして士気が削がれてしまう。

 しかし相手が怪物ならばこちらは歴戦の英傑。

 ダンブルドア他、教師達が素早く張りなおした科学阻害の魔法がミサイルの爆発を止め、いきなりの壊滅を防ぐ。

 だが、発射されたミサイルの速度までは殺せない。

 凄まじい速度で解き放たれた鋼鉄の牙はそのままホグワーツに直撃し、堅牢な壁を突き破って付近にいた十数人を肉片へと変えてしまった。

 もう、ミラベルを迎撃するどころではない。あっという間に恐慌状態だ。

 だが悪い事は続くもので、すでにミラベルは次の手を打っていた。

 

「い、いかん! 全員、衝撃に備えよ!」

 

 ダンブルドアが指示をしながら魔法障壁を張る。

 その視界に映るのは、こちらに向かって落ちてくるダームストラング専門学校の校舎であった。

 ホグワーツと同じように城を改築した建築物が空を飛び、そしてそれそのものを巨大な武器としてホグワーツに叩き込んできたのだ。

 

 衝撃、悲鳴、振動。

 

 城同士の衝突が破壊を齎し、激突地点にいた何人かを文字通りペチャンコに潰してしまった。

 だが不幸はまだ終わらない。

 ホグワーツに寄りかかる形になったダームストラングから、数え切れない程の兵士や吸血鬼が飛び降り、ホグワーツに乗り込んできたのだ。

 あってはならない事に、完全に先手をミラベルに取られてしまった。

 前もって決めていた防衛作戦もそのほとんどがこれで台無しである。

 死をも恐れぬ死者やゴーレムが次々と生徒や魔法使いを襲い、阿鼻叫喚の地獄が作り出される。

 

「ベレスフォードォォォォ!!」

 

 イーディスやハリーが今まで見た事もないような憤怒の形相を浮べたハグリッドがミラベルへ殴りかかる。

 宙に浮くミラベルの元へ一度の跳躍で飛び、彼女の腰ほどもある太い腕で拳を突き出した。

 何かがへし折れる音が響き、血潮が舞う。

 やった! その光景を見てハリー達は思わず拳を握った。

 ――だが。

 

「何だそれは? 歓迎の握手か?」

「…………ッッ!!?」

 

 ――当たっていない!

 ミラベルはいつも通りの、いっそ憎たらしい程の美貌をまるで歪める事無くハグリッドを見ていた。

 ハグリッドの拳を少女らしい小さな掌で止め、それどころか指を握り潰している。

 

「ぐあ……ッ、ぎっ」

「ほおら、どうした? 怪力が自慢なのだろう?」

 

 3メートルを越える巨漢が、自身の半分程度の身長の小娘に捻られる。

 それは何と現実離れした恐ろしい光景だろうか。

 ミラベルは残虐な笑みを崩さず、後ろから迫ってくるもう一つの巨体へ目を向ける。

 

「ハガー、いじめるな! ハガー、返せ!」

 

 巨人族最後の一人にしてハグリッドの弟でもあるグロウプがハグリッドを救うべく拳を振り回す。

 だが当たらない。

 ハグリッドを掴んだまま空を舞い、全ての攻撃を軽々と避けているのだ。

 

「ほお、そんなにこいつが大事か? なら返してやろうか」

 

 ミラベルが牙を剥き出しにして笑みを深くし、その場で回転する。

 それに合わせてハグリッドも振り回され、悲鳴をあげた。

 ミラベルに掴まれている指は完全に砕け、今にも千切れそうだ。

 そして、遠心力を十分に加えたところで解放。ハグリッドを思い切りグロウプに叩き付けた。

 

「ぐおっ!?」

「げっ!?」

 

 巨体二人が盛大に吹き飛び、地面を削りながら最後には壁を突き破ってしまった。

 その先には乱戦中のグールとホグワーツ生がおり、下敷きになる形で絶命してしまう。

 それを見て今度はハリーが激昂し、杖を抜き放つ。

 

「ミラベルゥゥゥ!!」

 

 杖から放つのは、以前ミラベルの手首を切り落とした『ディフィンド』よりも強力な切断呪文『セクタムセンプラ』だ。

 だが、以前と違いミラベルはハリーを侮っていない。

 腕の一振りで呪文を弾き、逆に反撃の閃光がハリーの肩を切り裂いた。

 

「がっ……!?」

「そう焦るなポッター、貴様は後回しだ。まずは前座とでも遊んでいろ」

「前座、だって……?!」

 

 ここまで来て前座!

 こいつは一体何を言っているのだ!

 そう怒りを露にするハリーの前で、ミラベルの横に一人の男が現れる。

 確かゲラート・グリンデルバルドといったか……ヴォルデモートよりも前に魔法界を席巻した闇の魔法使いと聞く。

 

「何でも数十年越しの決着を着けたいとかでな。ダンブルドアの相手はこいつに譲ったわけだ」

 

 そう語り、ミラベルはグリンデルバルドにその場を任せて高く飛び上がる。

 まるでハリー達など眼中にないと言わんばかりだ。

 いや、違う。眼中にないのではなく、それ以上に目の前を飛び回る虫が目障りなのだ。

 

「私がゴミ掃除を終えるまでの丁度いい繋ぎだろう。それが終わっても生きているようなら、今度こそ私が貴様等を殺してやるさ」

 

 ミラベルにとってハリーやダンブルドアは最後に平らげるデザートのようなものだ。

 だがデザートを食べようにも、鬱陶しい虫が食卓に上がっては台無しである。

 だからまず、彼女はその虫から片付けようと考えたのだ。

 見立てが正しいなら、そろそろこの食卓に上がりこんでくるはずである。

 

「それではな、ポッター。私を失望させるなよ」

 

 最後にそんな勝手な事を言い残し、ミラベルは姿くらましをした。

 これでひとまず、最大の脅威が退場したわけだ。

 しかしだからといって危機が過ぎ去ったわけではない。

 今も、校舎内ではミラベルの尖兵達と魔法界最後の戦力が戦いを続けているのだ。

 

「ハリー!」

 

 ハリーの側に、ハーマイオニーが駆け寄ってくる。

 これといった怪我のないその姿に安堵し、しかしすぐに気を引き締める。

 ここは戦場。気を抜けばいつ死んでもおかしくない場所だ。

 

「ハーマイオニー、皆は?」

「わからない。はぐれてしまったの」

 

 この戦闘が始まる前、DAの仲間や親しい友人達はすぐ近くにいた。

 だがミラベルの先制攻撃のせいで散り散りになり、今はどこにいるかもわからない。

 きっとこの大広間のどこかで戦っているのだろうが、果たして無事だろうか。

 

「! ハリー、後ろ!」

 

 そんな事を考えていたのがいけなかったのだろう。

 いつの間にか背後にグールが迫り、腕を振り上げていた。

 ――やられる!

 そう思い咄嗟に目を閉じたハリーだったが、グールの腕が当たるよりも速く青い電光がグールを貫いていった。

 

「ハリー、大丈夫?!」

「イーディス! ごめん、助かったよ」

 

 間一髪でハリーを救ったイーディスは更に近くにいる敵に電撃を叩き込み、周囲を一掃する。

 しかしイーディス一人が少し多めに倒したくらいでは状況は全く好転しない。

 この状況を何とかするには指揮官を討つ以外に手はないのだ。

 ならばやはり、ミラベルを倒す以外、道はない。

 

「二人共、聞いてくれ。このままじゃ僕達は全滅する」

 

 ハリーの言葉は事実だった。

 唯一与えられた地の利という優位を失った今、戦いは単純な数と質の戦いになっている。

 だがそのどちらも相手が勝る上、不死性の怪物だらけなのだ。

 これで勝てと言う方が無理がある。

 

「だから僕達は何とかベレスフォードを倒さなくちゃならない。

二人共、どうか協力してくれ」

「倒す……か……うん、そうだよね……そうしなきゃいけないんだよね……。

……けど、どうするの? 普通にやっても止められる相手じゃないよ?」

 

 ミラベルの戦力は単騎でも圧倒的だ。

 せっかく引っ込んでくれたものをわざわざ呼び戻しては、その瞬間から屍の山が量産されてしまうだろう。

 その事を心配するイーディスに、ハリーはわかっている、と返す。

 

「必要の部屋に行こう」

「必要の部屋?」

「ああ、そこに『アレ』が置いてある」

 

 その言葉だけで十分だった。

 イーディスはハリーの狙いを理解し、唇を結ぶ。

 あの世へと続く『アーチ』。ハリーはそれの使用を早くも決断したのだ。

 本来なら、まだ使うべきタイミングではない。

 本当は教師などの助力を得ながらミラベルを誘いこむはずだった。

 しかしこうなった以上、もうここでミラベルを倒してしまわないと、被害が増加する一方だ。

 

「わかった……確かに、もうそれしかないわね」

 

 ハーマイオニーが決意するように言い、イーディスが顔を俯かせる。

 足踏みをすればそれだけ失われる命が増える。

 もう躊躇している時間などない。

 ハリー達は頷き合い、秘密の部屋目指して走り出す。

 幸い、敵のほとんどは大広間に集まっているため道中にさしたる障害はなさそうだ。

 ……そう、道中には。

 

「……なるほど、どうやら貴方達は姉上に対抗する何かをお持ちのようだ」

 

 ドアの前に、美しい少年が立っていた。

 銀色の髪を腰まで伸ばした、一見すると美少女にも見える少年だ。

 その少年をイーディスは知っていた。

 かつて彼が入学した時は、彼女の弟という事で注目したものだ。

 

「……シドニー・ベレスフォード」

「イーディス、知り合いか?」

「いえ……私が一方的に知ってるだけ。ミラベルの、弟だよ」

 

 どうやらハリーはシドニーの存在を知らなかったらしい。

 無理も無い、とイーディスは思う。

 何せこの少年ときたら姉とは正反対で全く目立たなかったからだ。

 自己主張が激しく嫌でも目立つ姉とは対極的に、彼はまるで居ないかのように存在感が希薄だった。

 その少年が今、自分達の前にいる。

 それも明確な敵として。

 

「……何者にも姉上の邪魔はさせません。排除します」

 

 まるで機械のように感情の篭らない声で、少年が告げる。

 あのミラベルの弟だ。

 それもベレスフォード家の襲撃がミラベルの予定通りであったと仮定すると、意図的に生かされたという事になる。

 それだけで、彼の能力が高いのは証明されているようなものだ。

 だが……未知数!

 どんな性格なのか。どんな魔法を得意とするのか。

 そういったデータが一切こちらにない。

 シドニーがゆっくりと杖を掲げ、そして空気が震える。

 

「っ、来るわよ!」

 

 

 全てが『未知』の少年。

 その牙が、イーディス達に襲いかかった。

 

 




(*´ω`*) 皆様こんばんわ。皆様のおかげで感想5000突破したウルトラ長男です。
今回はホグワーツ決戦開始の69話でお送りしました。
そして中ボスとして空気キャラのシドニー出現です。
まあ大した相手でもありませんが、前座としてお楽しみいただければ幸いです。
現状の戦力図はこんな感じでしょうか。
ミラベルVS最後の死喰い人
ダンブルドアVSグリンデルバルド
ハリー、ハー子、イーディスVSシドニー
ロマンドーVS武装マグル全員
ホグワーツ戦力VSダームストラング戦力

それではまた明日お会いしましょう。

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