ハリー・ポッターと野望の少女   作:ウルトラ長男

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第78話 ラストバトル

 もはや誰も止める者がいないと思われたミラベルの暴威。

 しかし、まだ最後の希望は残っていた。

 この絶望しかない戦場に飛び込んできたのは、クシャクシャの黒髪と緑の瞳、そして額に稲妻型の傷を持つ少年、ハリー・ポッターであった。

 その隣にはハーマイオニーが並び、二人がミラベルと対峙する。

 

「ポッターか……どうやらヴォルデモートは遂に貴様に勝てなかったらしいな」

 

 失望したようにミラベルが吐き捨て、ハリー達を見る。

 それだけで、まるで重力が増加したかのような圧迫感がハリー達を襲った。

 ハーマイオニーは震え、ハリーも膝が笑っている事に気付く。

 何があったのかはハリー達には分からない。

 だが一つだけ分かる事は、今のミラベルは完全に己の中のリミッターを外してしまっているという事だ。

 

「僕の力じゃない。スネイプ先生が勝ったんだ」

 

 ヴォルデモートを倒した。

 だがそれを成したのは自分の力ではないとハリーは語る。

 あの誰よりも勇敢な男が、セブルス・スネイプこそが闇の帝王を打倒したのだ。

 

「なるほど……だがどうやら、そのスネイプは来れなかったようだな。

……で……そのスネイプを欠いた貴様等に何が出来る?」

 

 ミラベルの周囲に緑の光球が浮かぶ。

 一発一発、その全てが死の呪文だ。

 ほんの一発でも当たればその瞬間命の灯火を吹き消す最悪の魔法。

 それですら、今のミラベルにはそこらの下級呪文と変わり無い。

 

「つまりだ。貴様はもう不死ではないという事だろう?

それは私にとって有利にはなっても不利にはならんぞ」

「……ッ」

 

 その通りだ、と全員が思った。

 結局のところハリーはヴォルデモートに勝ちはしたが、それでミラベルの魔法をどうこう出来るわけではない。

 勿論、ハリーやハーマイオニーが彼女を倒せるはずもない。

 つまり、何も状況は好転していないのだ。

 しかし先の戦いで二度目の死を体験し、恐怖を克服したハリーは、冷静に唯一の打開策を見付ける。

 それはまさに、針の穴を通すような可能性。

 だが、まだ希望は0ではない!

 

「ミラベル、僕と箒で勝負しろ!」

 

 ミラベルの動きが、一瞬だけ止まった。

 いや、ミラベルのみならず場の全員が耳を疑った。

 この場で箒? 何故?

 こいつは一体何を言ってるんだ、という視線に晒されながら、しかしハリーは臆さず続ける。

 

「箒に乗って、相手をあのアーチに入れた方が勝ちだ。簡単だろう?」

「……馬鹿か貴様。そんな下らん勝負に乗るわけ……」

「逃げるのか?」

 

 ハリーの挑戦を妄言として切り捨てようとしたミラベルを、しかしハリーが遮る。

 

「君は以前言った! 勝てると思ったらいつでも挑んで来いと!」

 

『負けた要因を全て取り除き、私に“勝てる”と思ったならば、いつでも挑んでくるがいい。

時も場所も私は選ばん。貴様の挑戦であればいつでも受けて立とう』

 

「僕の挑戦はいつでも受けるんじゃなかったのか!? それともあれはハッタリだったのか!?」

 

 ハリーは反論される間も与えず、言葉を繰り出す。

 それは最後の挑発であった。

 主観的に見ても、客観的に見てもミラベルはこの勝負に乗らない方が有利だと分かっている。

 あまりにも馬鹿馬鹿しい提案だとも思う。

 だが彼女は確かにいつでも受けると宣言した。ハリーはミラベルの圧倒的に高いプライドに賭けたのだ。

 

「僕は君に『勝てる』と思った! だから挑んだ!

それから逃げるという事は、僕に負けるのが怖いと言ってるも同然だぞ!」

「…………」

 

 普通は絶対にこんな挑発などに乗らない。

 しかしミラベルはプライドが高い女だ。

 1年生の時もハーマイオニーの安い挑発に乗るなど、すでにその片鱗はあった。

 故にミラベルは小さく笑い、その挑発に応える。

 

「いいだろう……どうせ世界が滅ぶまでやる事もない。

隕石は今も地球目掛けて落ちて来ているが……もしかしたら、私を殺せば地球の滅びだけは避ける事が出来るかもしれんぞ。

……まあ、壊滅的な被害はどう足掻いても受けるだろうがな」

 

 ――乗った!

 ハリーは、まず自分の企みが一つ成功した事に安堵した。

 しかし本番はここからだ。

 ここから、自分は命を賭けてあの怪物と戦わなくてはならない。

 それも、彼女が呼び寄せた隕石が地球にその牙を突き立てるまで、というタイムリミット付きだ。

 例え勝つ事が出来ても、地球が滅びてしまえば意味がない。

 

「アクシオ! シルバーアロー!」

「アクシオ! ファイアボルト!」

 

 互いの箒を呼び寄せ、手に取る。

 箒など無くとも飛べるミラベルだが、箒での勝負と銘打った以上乗らぬわけにもいくまい。

 二人が箒に乗り、ミラベルがコインを投げる。

 

「こいつが落ちた時が始まりの合図だ」

「ああ……それでいい」

 

 コインが宙を舞い、やがて重力に従って落下を始める。

 クルクルと回転しながら落ちるそれが、やけに遅く感じられる。

 今この瞬間に神経と意識の全てが研ぎ澄まされていくのが分かる。

 

「すぐに終わらせてやる」

 

 そしてコインが落ち――ミラベルが風となった。

 信じ難い程の速度でハリーに接近し、ハリーも負けじと飛翔する。

 速い! だが戦えない速度ではない!

 ハリーが箒を挑んだ理由がこれだ。

 箒には必ずスペックの限界がある。出せる最高速度がある。

 いくらミラベルが無限に成長しようと、箒は成長しない。最高速度は越えられない。

 つまり、今この場において、ハリーとミラベルの速度は互角なのだ。

 

「ふん、以前よりはマシになったか……」

 

 ミラベルが真っ直ぐに突っ込み、ハリーが上へと逃げる。

 するとその直後、物理法則を無視したようにミラベルが直角に曲がり、ハリーを追尾した。

 いかに箒のスピードが互角だろうと、その他の面では完全にミラベルが勝る。

 何よりも大きな差が肉体強度の違いだ。

 人間ならば耐えられないような変則軌道や急加速だろうとミラベルには何の問題もない。

 加えて相手をアーチに突っ込むというこのルールでは腕力で勝るミラベルが余りに有利である。

 

「くっ!」

 

 旋回性能に差がありすぎる!

 ハリーは壁まで全速力で飛翔し、激突寸前に壁を蹴る事で方向転換をする。

 だがミラベルは壁の前で急停止をし、またも直角に曲がる事で追尾を続けた。

 次にハリーはアーチの前まで急加速し、ギリギリの位置で横に跳ぶ。

 だが、ミラベルはすでにその先に先回りしていた!

 

「見え透いた手だったな」

「っ!?」

 

 伸ばされた手を咄嗟に避けようとするも、髪の毛が掴まれる。

 ここで終わりか? 否、まだだ!

 ハリーは痛みを無視して加速し、すれ違うようにミラベルの前を通過した。

 その際髪の毛が何本かミラベルの手に残り、引き千切れてしまったが命には変えられない。

 再びミラベルが後ろを取り、命賭けの鬼ごっこが始まる。

 

「ふん……しぶといな」

 

 背後から迫るミラベルを誘導するように再びアーチへと向かう。

 先ほどの焼き直しだ。

 ミラベルはふん、と馬鹿にしたように嘲笑し、再びハリーが避ける方向へと先回りした。

 そして今度は逃れられぬように腕を掴む。

 

「まだだ!」

 

 ハリーは掴まれているのと逆の手でファイアボルトを掴み、180度回転させる。

 そして逆走! ミラベルごと引きずり込もうという算段だ。

 ……だが、動かない!

 いくらファイアボルトを加速させようとしても、ミラベルは微動だにしない。

 

「ん? 何かしたか?」

 

 ミラベルは口の端を釣り上げ、ハリーを掴み上げる。

 彼女はファイアボルトの加速を、単純な腕力で抑え込んでしまっていた。

 この時点で勝負はついた。だがミラベルに慈悲はない。

 彼女は掴んだハリーを思い切り振り上げ、アーチへと叩き落とす!

 箒こそ手放さないものの体勢は完全に崩れ、ポケットの中から何かが零れ落ちた。

 

「うわあああああああ!?」

「ハリィィィィ!?」

 

 ハーマイオニーの呼びかけも虚しく、ハリーの身体はアーチの向こう側へと完全に消えてしまった。

 あの世への直通経路を通り、魔法界最後の希望は儚く散った。

 あれは一度潜ってしまえば最後の一方通行だ。戻ってくる事は出来ない。

 ある意味、死の魔法よりも確実で恐ろしいものだ。

 それを理解してしまえるのは、この場においては不幸に他ならなかった。

 ハーマイオニーは力無く膝をつき、イーディスが顔を伏せる。

 だがその時、イーディスは視界の端に『それ』を見つけてしまった。

 それはハリーのポケットから落ちた時計のようなものだ。

 知識としてだけ知っている。ハーマイオニーに説明された事がある。

 あれは――。

 イーディスはゴクリと唾を飲み、そしてその場の全員に気付かれないように『それ』を拾う為に動き出した。

 

「ふ、所詮こんなものか」

 

 一方のミラベルは勝利による満足と、手応えのなさからくる僅かな失望を感じ、アーチに手を向けていた。

 これでアーチも出番終了というわけだ。

 一体どんな材質で出来ているかは知らないが、自分ならば壊せない事はないだろう。

 最早邪魔する者は一人もいない。これで完全勝利だ。

 

 ――その、気の緩みが最大最後の過ちであった。

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおッッ!!!」

 

 雄叫びと共に、突然ハリー・ポッターがアーチから飛び出てきた。

 それはまさに予測不能の出来事であり、完全に虚を突いた一瞬であった。

 何故だ? 何故こいつは生きている?

 何故アーチを潜って死なない?

 もうヴォルデモートはいない。分霊箱も7つ全て失われたはずだ。

 内心動揺するミラベルが視界の端に捕らえたのは、地面に転がるグリフィンドールの剣であった。

 

 その瞬間、全てが繋がった。

 

 そうだ……2年度のあの時、あの剣は『何を』斬った?

 分霊箱を壊すはずの毒を持たぬ剣で、何故トム・リドルはダメージを受けた?

 

 ゴブリン製のグリフィンドールの剣は、己を強くするものを吸収する。

 そして分霊箱は悪霊の火などの一部の攻撃でしか砕けない物であり、つまり『強い』のだ。

 あの剣は……そうだ、あの剣は2年度のあの時、“トム・リドルを斬った”!

 本体ではなく実体化した記憶を。その内にある魂を。

 ならばそれはつまり……あの剣があの瞬間、リドルの魂を取り込んで分霊箱と化した事を意味するのではないか?

 

 『片方が生きる限り、もう片方は生きられぬ』

 

 これはシビル・トレローニーが語った予言の一節であり、ハリーとヴォルデモートの関係を示す物だ。

 ハリーの内にはヴォルデモートの魂があり、ハリーがいる限り決してヴォルデモートは死なない。

 ヴォルデモートの内にはリリーの護りがあり、ヴォルデモートがいる限り決してハリーは死なない。

 互いが互いの命を繋ぐ運命共同体。それがハリーとヴォルデモートであった。

 そして今、ヴォルデモートは生きている。

 ハリーによって首を跳ね飛ばされ、ゴースト以下の霞となりながらまだ死んでいなかった。

 あの分霊箱が、ヴォルデモートを生き永らえさせている!

 故にハリーは死なない。

 死の呪文を受けようがあの世への通路を潜ろうが、ヴォルデモートが存命ならば死なない。

 そしてそれが最後のチャンスを作り出した。

 皮肉にも希望を繋いだのは、今まで絶望の象徴であった闇の帝王であったのだ。

 

「落ちろおおおおォォォォ!!」

 

 まさかの事態に動きを止めてしまったミラベルの後ろに回り込み、力の限りタックルをする。

 普段は微動だにしないだろう彼女だが、今ばかりは油断があった。

 勝利を確信した瞬間に起きた予想外の事態に思考が止まっていたのだ。

 ハリーに押されながら、しかしミラベルはすぐに取るべき手段を見付け出していた。

 ゲームはもう終わりだ。

 延長戦など認めはしない。

 

「時よ止まれ!」

 

 ミラベルの声に従い、この世の時がその活動を停止する。

 この場でミラベル以外に動ける者はいない。

 ミラベルだけの世界だ。

 

「ブッ潰れろッ!」

 

 魔法を叩き込み、アーチを砕く。

 流石に素材不明の道具だけあって一発では砕けないが、それでも今のミラベルのパワーには耐えられない。

 4発、5発と魔法を撃ちこまれ、原型すら止めずに砕け散った。

 これでとうとう、ミラベルを殺せる道具が何一つ残らないという最悪の結果に到達してしまった。

 更に悪霊の火を出して地面に転がる剣を焼き滅ぼす。

 

「そして時は動き出す」

 

 再び時が活動を再開し、ハリーは驚愕に目を見開いた。

 アーチが一瞬で消えた! ミラベルを唯一倒せるアーチが!

 更にヴォルデモートとの繋がりが、今こそ完全に断たれた事もまた感じ取っていた。

 今頃、霞と化していたヴォルデモートは己を保つ事も出来ず消滅している事だろう。

 絶望に戦慄くハリーに、ミラベルが止めの一撃を見舞うべく爪を振り上げる。

 だが、ここにまたしても抵抗が入った。

 

「アクシオ、ハリー・ポッター!」

 

 ハーマイオニーがハリーを引き寄せる事でミラベルの爪から護り、それと入れ替わるように騎士団とダンブルドアが最後の抵抗とばかりに飛び込む。

 だがミラベルを止めるには至らない。

 シリウスの腕がミラベルの爪に裂かれ、ルーピンの足がへし折れ、トンクスの胸を爪が貫く。

 キングズリーに死の呪文が直撃し、首を蹴られたマッドアイはそのまま動かなくなった。

 ダンブルドアは片手を切断され、ネビルは壁まで吹き飛び、そのまま学校の外へ吹き飛んで行った。

 だがその最後の特攻は決して無意味ではない。

 彼等が作ったわずかな時間を使ってイーディスが転移し、ミラベルにしがみついたのだ。

 

「っちい! いい加減鬱陶しいぞ貴様等!」

 

 苛立ちに任せ、拳をイーディスの腹に叩き込む。

 だが普通ならば人間の肉体など貫くその拳はイーディスを貫けない。護りの魔法がそれをさせない。

 イーディスの顔が苦痛に歪み、しかしその眼光は些かも衰えない。

 

「ミラベル……御免!」

「!? 貴様一体何を!?」

 

 何か嫌な予感がした。

 何だ? この女は何をする気だ?

 その悪寒に従い、イーディスの腕を見ればそこにあったのは――逆転時計!

 魔法省での死喰い人とハリー達の戦いで失われたと思われた、禁忌の道具!

 それを見て、ハリーは慌てて自分のポケットを探った。

 ……ない!

 どうやら先ほどの戦いで落としてしまっていたらしい。

 ではイーディスが持っているあれは――。

 

 その疑問に答える暇もなく、イーディスは逆転時計を発動させる。

 どこに飛ぶかなど分からない。適当に滅茶苦茶に回転させただけで何年飛ぶかすら不明だ。

 勿論、こんなものは使わないのが一番であった。使うべきではないとすら思った。

 だがこのままでは魔法界が……否、地球の全てがこの少女によって蹂躙し尽くされてしまう。

 大事な友達が、取り返しの付かない最悪の罪人になってしまう。

 止めなくてはならない!

 己の全てを差し出してでも、それだけは!

 

「時よ――戻れ」

 

 

 時を逆行する魔法。

 その力によりイーディスとミラベルの二人が、その場から姿を消した。

 

 




(*´ω`*) 皆様こんばんわ。ラストバトルな78話でお送りしました。
結果はまあ、結局ハリーの負けです。
しかし彼の奮闘のおかげでイーディスが何とか過去にミラベルを持っていけたので決して無駄ではありません。
そして次回最終話、その次にエピローグを入れこのSSは終了となります。
それではまた明日、お会いしましょう。


ATM「いくぜ! マジシャン・オブ・ブラックマルフォイに伝説の白石とセイヴァー・ドラゴンをチューニング!
集いしフォイの輝きが、新たなフォイを照らし出す!光差すフォイとなれ!シンクロ召喚!
光来せよ! セイヴァー・スター・マルフォイ!」
ロマンドー「そしてこれが俺達の切り札!」
トレバー「いくぞ!」

・ロマンドーとトレバーのX斬り+オベリスクの巨神兵の攻撃! ラヴォスに9999ダメージ!
・ラヴォスを倒した!

ATM「やったぜ……!」
ロマンドー「ああ、世界は救われた」
トレバー「俺達全員の勝利だ!」

マルフォイ(……僕は何の為にシンクロされたんだろう)

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