シンとレンの十二の冒険   作:kuraine

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第64話 性格の悪い奴ら

「にしても、この魔物があんなに強かったなんてな。」

 

「うん、私もびっくりした。」

 

「クア。」

 

 道を歩きながらさっきの戦闘で見たイタチの魔物の感想を言うと、当の本人はしてやったぜ顔をしていた。それから二人は暫く道を歩いた。ずっと一本道だったので迷いはしなかったが、このダンジョンの特徴上、真っ直ぐ歩いているつもりでも他の方向に向かっている可能性はあるので安心は出来なかったが……。

 

「あれはなんだ?」

 

「どれ?」

 

 道を進んでいるとシンが唐突にそんなことを言った。気になったレンはシンの向いている方を向いた。すると、シンの見ていた先に左右に分かれ道があり、突き当りの壁の近くに何かが書かれた看板があるのが見えた。

 

「なんだろう、あれ。」

 

「さあ〜」

 

「クア?」

 

 レンがその看板を不思議そうに言うと、イタチの魔物も一丁前に不思議そうにしていた。それから歩いて近づくと、看板に何が書かれているのか見えてきた。そこには汚い字で<左を進むべからず、右の道を進むべし>と書かれていた。

 

「なんなんだ?この汚い字で書かれた看板は?」

 

「何かの暗号かな?」

 

「クア〜」

 

 看板を見た二人が不思議がっていると、魔物も渋い声を出して考えている様だった。

 

「この看板の通りに行くなら右に行った方が良いんだろうけど……、なんか怪しくないか?」

 

「確かに……、今までこんなことなかったのになんでこのダンジョンだけは親切に書いてあるんだろう?」

 

「クア〜」

 

 今までのダンジョンとは違い、親切に看板がある事に対して二人は不思議に思っていた。勿論の事、魔物も。

 

「どうする?明らかに怪しいけど、この看板通りに従うか?」

 

「う〜ん、どちらが正解なのか分からない以上はどちらを選んでも一緒だし、もし、間違った道だったらここまで戻って来れば良いし、看板通りに右の道に行こう。」

 

「それもそうだな。じゃあ、行くか」

 

 二人はこうして看板の書かれた通り、右の道に行く事にした。二人が右の道を進もうとすると、イタチの魔物がレンの肩から下りて看板の前まで戻り、不思議そうに看板を眺めていた。

 

「どうしたの?」

 

 レンはそれを見て看板の所まで戻った。

 

「おい、何やってんだ?先に行くぞ〜」

 

 シンはレンと魔物の様子を見て、呆れた感じで言った。

 

「クア〜?」

 

 イタチの魔物が看板の方を向いて鼻をピクピクさせて臭いを嗅いでいる様だった。

 

「何か気になるの?」

 

 レンは魔物のそんな様子を見て魔物に話しかけた。

 

「クア!!」

 

 すると、今まで臭いを嗅いでいた魔物がシンの方を向いて鳴いた。

 

「ん?」

 

 シンはその声を聞いて後ろを振り向きながら前へと足を運んだ。次の瞬間、シンの足元が崩れ、落とし穴が現れた。シンは既に体の重心が落とし穴の方に掛かっていて、体勢を戻す事が出来ずに落とし穴へと落ちた。

 

「シン!!!」

 

「クア!!」

 

 それを見ていたレンと魔物が急いでシンの落ちた落とし穴に向かった。そして、落とし穴の所まで行き、穴の下を覗くと、五メートルぐらい下に、穴に落ちたシンがいた。

 

「大丈夫!?」

 

「あ、ああ……」

 

 レンが呼びかけると、シンは頭を打ったのか、頭を押さえながら返事をした。

 

「生きてて良かった……」

 

 レンはシンの様子を見て安心していた。すると、シンの落ちた穴の先の道から何かが近づいてくる足音が聞こえた。その音は徐々に近づき、その大きさを増していった。

 

「シン、何かがこっちに向かってきてるの。早く上がってきて。」

 

「早く上がってってな……」

 

 シンの落ちた穴はそれほど大きな落とし穴では無く、深さもそれほど無い為、一人で出ようと思えば出る事が出来た。だが、シンはレンに急かされた事に若干苛立ちを感じていた。そうこうしている間にもその足音は徐々に近づいていた。すると、その足音の正体がなんなのかが見えてきた。それは、全身を黒い毛で覆われた人の背丈の二倍は優にある、筋肉質の体つきをしたゴリラの魔物が二匹、こちらに向かって近づいていた。

 

「シン、魔物が……」

 

 魔物の姿を見たレンが心配そうな顔をしてシンに声を掛けた。

 

「マジかよ……」

 

 レンの言葉を聞いたシンは苦い顔をした。すると、こちらに近づいてきた二匹のゴリラの魔物がレンの居る所まで後、もう少しというところまで距離を詰めていた。

 

「こうなったら、」

 

 レンはシンが穴から出でくる前に魔物と戦う事になると思い、肩から背中に下げていたリナザクラを取り出した。

 

「リナザクラで時間を稼ぐしか……、そう言えば……」

 

 レンはリナザクラでシンが穴から出てくるまで時間を稼ごうと思ったが、レンはとある事を思い出した。それはレジアルからラクタートを航海をしていた時にたまたま寄る事になった三つ目のダンジョンの時の事だった。シンがダンジョンの道中でサニアを使おうとした時、斬撃が発生せず、神器が使えなかった。後でフロリアに聞くと、ダンジョンの道中では神器は使用出来ない造りになっていると言っていた。つまり、今の様な状況ではリナザクラの能力が発動しないという事だ。レンがそんな事を考えているうちに魔物はとうとうレンの居るところまで来た。レンは警戒して姿勢を低くした。すると、ゴリラの魔物はレンに興味を示さず、真っ先に落とし穴を覗いた。

 

「なんだこいつら!?」

 

「ウホ!」

 

「ウホホ!」

 

 シンは苛ついた感じて言うと、魔物は落とし穴に落ちているシンのことを見て、指を指して笑っていた。

 

「こいつら人を馬鹿にしやがって……」

 

 シンが魔物の様子を見て怒っていると、魔物は更に嬉しそうにして、腕を組みスキップしながらその場をクルクルと回っていた。

 

「お前らちょっと待ってろ、今そっちに行ってやる……」

 

「ウホ!」

 

「ウホホ!」

 

 シンは懐からサニアとイニルを取り出ながらそう言った。それを見ていた魔物はハイタッチをすると、来た道を戻って行った。

 

「クソッ、あいつらどこに行きやがった。」

 

 落とし穴から何とか抜け出したシンは自分の事を馬鹿にした二匹のゴリラの魔物に苛ついていた。

 

「シン、大丈夫……?」

 

「ク、クア?」

 

 そんなシンを見ていたレンとイタチの魔物が、シンの雰囲気に躊躇いながら聞いた。

 

「ああ、何とかな。それにしても、何だったんだあいつらは。」

 

「さあ〜、シンの事を見て楽しそうにしてたけど……」

 

「取り敢えず、後を追おう。」

 

「う、うん……」

 

 シンの熱意にレンは困りながら返事をして、魔物の後を追った。

 

 次回、ゴリラの魔物

 


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