とある五つ子の(非)日常   作:いぶりーす

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僕は、ついてゆけるだろうか

タマコのいない世界のスピードに


タマコ!タマコ!タマコ!タマコぉぉおおおわぁああああああああああああああああああああああん!!!

 百年の恋も冷める瞬間がある、というのは昔からよく聞くフレーズだが自分にはまず当て嵌まらないだろうと一花は風太郎と結ばれた日からずっと確信していた。

 恋焦がれ、燃えた愛故に暴走して愛おしき妹達を蹴落としてまでも欲した深淵の愛。自分の過ちに気付き、一度は諦めかけた一世一代の大恋愛で終わる筈だったそれを恋の女神は何の気紛れか幕から降りた筈の自分に手を指し伸ばしてくれたのだ。

 選ばれるとは思ってなかった。報われるとは夢にも思っていなかった。彼に好きだと言われた時、お前が欲しいと告げられた彼の想いに、自然と一花の頬に一滴の涙が零れ落ちていた。

 真っ直ぐと視線を向ける風太郎の告白に一花は抱きつきながら口付けで応じた。一度目はあの鐘の下で、二度目は想いを自覚したあのベンチで。三度目のキスは自信と彼を繋ぐ証として、強く永く互いに唇を重ね合った。

 あの瞬間は色褪せる事なく年を重ね老いて朽ち果てる間際でも、きっと鮮明に思い出せるだろう。それほどに中野一花にとっては眩しく焼き付いた思い出だった。

 

 ───それが今、音を立てながら崩壊しようとしていた。

 

「……頼む」

 

 両手と額を地に擦り付けて頭を垂れる風太郎。それはまさに見事なジャパニーズDOGEZAであった。

 以前に出演した時代劇でもこれほど綺麗な土下座をする俳優はいなかった。織田社長の言う通り、彼には役者としての見込みがあるようだ。流石は今をときめく人気女優中野一花を才能を見出した男だ。彼の先見の明には恐れ入る。

 ……なんて現実逃避をしたいのは山々であるが、状況が状況なのでそれもできない。何せ彼が土下座をしているのはダブルベッドの上でそれも全裸。そして一花自身も一糸まとわぬ状態で豊満な胸を腕組しながら隠して頭を下げる彼に対面しているからである。端的に言えば、致す前の会話なのだ。

 

 こうなったのには一応の経緯がある。

 無事に風太郎と結ばれ彼と恋仲になった一花であるが、売れっ子女優である彼女は中々に多忙な身であった。

 勿論、会えなくても毎日電話で連絡をしてはいるがやはり直接顔を見れないのは寂しいものだ。それは恋心を理解したばかりの彼も同じようで、恥ずかしながらもいつ会えるかとよく尋ねられた。その言葉を聞く度に一花は彼からの愛情を占領しているという独占欲が満たされ、この状態も満更ではなかったのだが。

 ともあれ中々会えない恋人同士である二人にとって直接会える休日は非常に貴重な時間であった。折角の休みを無駄に人通りの多い場所やいつでもできるショッピングなどで浪費するのを二人とも良しとしなかった。

 

 では何をするのか。簡単だ。ナニを擦るのだ。

 最初はもっとプラトニックな関係を夢見ていた。離れていた時間を埋め合わせるように風太郎の肩に頭を預け、彼はそんな一花の腰に手を回して抱き寄せる。その間はテレビを見たり、何気ない日常の事を語り合ったり、そしてたまにキスをしたり……だが現実は非常なものである。

 意外と性欲が強いことが判明した彼と自他共に性欲が強い自分が同じ空間にいて何も起きない筈もなく、初めての自宅デートはただ猿のようにしこたま盛りあって一日が終わった。

 それ以来、性にドはまりした二人は休みの日は外に一切出掛けず体を求め合うのが通例となっていた。

 ただ肉体を重ねるだけでは飽き足らず、様々なシチュエーション、時には変装や玩具なども積極的に用いて一花と風太郎は互いに貪りあった。今ではこの体で彼に嘗められていない箇所はないと断言できる程だ。

 文字通り一花は全身を使って風太郎を愉しませ、風太郎も一花の被虐性癖を理解しながらそれを刺激した。幸運な事に二人とも肉体の相性が抜群に良かったのだ。阿吽の呼吸で乱れるシンクロ率百%の最恐のタッグ。気が合ってもこれが原因で別れる男女がいるが、こと自分たちには当て嵌まらないと一花は断言する。

 そんな二人のプレイの一環として前に一度、とある変装をした事があった。

 『妹達の変装』などというありふれたものではない。そんな凡人が考えつくような発想は体を重ね始めた一週間で全て済ませているし、とっくに姉妹全員分のコスプレイなどコンプリートしている。今ではローテーションを組んでいるくらいだ。

 一例を出すなら、最初に三玖の変装した一花に気付かないフリをしつつ、終盤でかつらを無理矢理剥ぎ取り『やっぱり嘘なんだな』と耳元で吐き捨て一花のケツを叩きながらバックでフィニッシュするプレイがあるが、これは風太郎にとってマイフェイバリットプレイである。もはや定食屋の定番メニューのようなもので最低でも月に二回は行われる。

 

 一花がしたのはかつて演じたとある映画の役のコスプレであった。

 ただの好奇心だった。五つ子変装プレイのローテーションがちょうど一周したので、今回は奇をてらってみたのだ。普段の自分とはまるで性格の違うその役は映画の中ではモブで終わったのだが、一花にとっては印象に残っている役の一つだ。あの時の事を覚えているかどうかの確認も兼ねたコスプレイのつもりだった。

 

 だが、結果は一花の想像を斜め上を征く展開となった。

 嬉しい事に彼もこの役を覚えていてくれた。それは素直に嬉しかった。モブとはいえ彼の前で自身を持って演じれたあの日の事を覚えていてくれたのだから。問題はその後だった。

 

 あろうことか、風太郎は今までのどんなプレイやコスプレ、シチュエーションの時よりも激しく興奮して一花の肉体を貪ったのだ。

 

 全身にホイップクリームを塗りたくってそれを舐め取りながら行う通称『パティシエ二乃』よりも激しく、

 修学旅行の二日目を彷彿させる欺瞞と背徳感に満ち溢れた禁忌の業『三玖だよ嘘じゃないよ』よりも固く、

 頭に巻いたデカリボンを手綱の如く巧みに操りじゃじゃ馬を躾ける禁術『おうまさん四葉』よりも大胆に、

 教員のような格好でセクハラまがいに腹を摘まれながら始まる『淫乱教師五月ちゃん先生』よりも強引に、

 そして何よりこの変幻自在中野家のトリックスター大女優・一花の時よりも濃かった。普段の状態がフータローの体液とするならこの時のはフータローの特濃だ。G級である。

 彼の持つ超弩級砲塔上杉フークン・マックスから放たれる粥の如きもの……否、それよりも更に粒のあるそれは例えるならば粥というよりはもんじゃ焼きが適切だろうか。それがとめどなく生産され、一花の中でブチ撒けた。

 もんじゃをブチ撒ける時の彼の漏らした言葉を今でも覚えている。どんなコスプレイをしても、彼は最後に自分の名前を呼んでくれるのだ。一花、と切なそうな声で、愛の詰まった言葉で。

 だけど、あの時は違った。彼は、愛おしき上杉風太郎が口にしたその名前は──────。

 

「……タマコになってくれ、一花」

 

 それは祈りにも似た切なる願いだった。神に頭を垂れるかのようなその様はまるで古代ギリシアにある絵画の一枚のように美しく、第三者が見れば歴史的な光景の模倣に映ったのかもしれない。

 だが、実際はそんな奇麗なものではなく特殊性癖に目覚めた男が特殊プレイを彼女にお願いをする為に土下座をする情けない一面なのである。

 

「絶対にいやだよ!」

「一回だけでいい! 頼むッ!!」

 

 涙目でノーを突きつける一花に風太郎は更にベッドに額を擦り付けてふかふかのダブルベッドにめり込ませた。

 あんなにプライドの高かった彼がこんな間抜けで無様を晒すなんて……。一花は自分の愛した恋人が何処か消えてなくなってしまったのではないかと思い始めた。

 目の前にいる男は少なくとも自分の知る上杉風太郎ではない。ベッドに這いつくばり侘びるかのように(こうべ)を差し出す。名付けるなら上杉侘太郎だ。太郎では語呂が悪いから侘助でいいかもしれない。

 

「私じゃダメなのかな、たまには『私のまま』でしようよ」

 

 侘助に侮蔑の視線を向けながら一花は何とか説得をしようと持ちかけた。

 女優としてのスキルを存分に活かし、ベッドにめりこんでいる彼の耳元でそっと息を吹き掛けるように囁く。

 一花の経験上、こうすれば彼は割と直ぐに墜ちる。服を着た状態でもルパンダイブの如く中で脱衣しながら一花は風太郎に戴かれるのだが何時もの王道パターンである。

 更にその放漫な双子山を彼の密着させて追い打ちを掛けた。念には念を入れる。確実に仕留めるのが一花のヤり方なのだ。

 

 ───しかし、今日の彼は違った。

 

「なん、で……」

 

 未だに土下座フォームを解除しない彼に一花は目を見開いた。有り得ない。先のコンボで彼の杉は既に直立状態の筈。故に土下座フォームを維持する事など不可能。

 彼の杉の大きさは一花はこの世の誰よりも理解()っているという自負がある。あの内臓を抉るような凶悪の具現化。命を刈り取る形をしたそれを初めて見た時は一花も覚悟を決めたものだ。

 彼の杉は杉だけど杉じゃない。解放状態で土下座などしようものなら彼の腹に穴が空く筈。ならば何故、彼は未だに土下座をしているのか。

 

 単純だ。解放状態でないのだ。

 

「ど、どうしてなの、フータロー君……」

 

 土下座する彼の横から覗き込んだそれを見て一花は絶望感のあまり膝を付いた。

 

 彼の杉が地に垂れていたのだ。

 

 つまり、彼はあの必中必殺のコンボを食らってなお解放状態でないのだ。

 横から覗き込んで見える程度には大きい。だがそれは一般的な話だ。常人の解放状態ならあのサイズは妥当だろうが、相手は上杉風太郎だ。あんな矮小な解放状態は有り得ない。

 

「これで解っただろ、一花」

 

 ようやく頭を上げた風太郎は、何処か悲しげに自嘲しながら己が杉を撫でた。

 

「今の俺は、タマコじゃなきゃダメなんだ」

「───」

 

 後頭部を鈍器で殴られたかのような衝撃が一花を襲った。何て事だ。頭痛がする。吐き気もだ。己が股を抉ったあの凶器は何処にいったのだろうか。熱い夜に見た彼の杉は今では見る影もない。

「つ、疲れてるだけなんだよきっと……ね?」

「違う。疲労程度で俺が萎えると思っているのか?」

「でも、そうじゃないとそんな事有り得ないよ」

「なら試してみるか?」

「え?」

「一瞬だけでいい。タマコを演じてくれ」

「……」

「そうすれば証明できる」

「そ、そんな……」

「一言、タマコの台詞を言えばいいだけだ」

「……分かったよ」

 

 風太郎の提案に渋々頷きながら一花はこれで彼の言う"証明"が出来なければ一晩中どころか朝になるまで搾り取ってやろうと決心した。馬鹿な事をいう彼に『中野一花』を分からす為に。

 ごほん、と息を整えて己の中から中野一花を消す。そしてタマコというペルソナを取り出してそれを被った。

 

「もぅ、タマコじゃなきゃダメなんてフータロー君は変態なのですぅ」

 

 台詞を言い終えた瞬間、それは起きた。

 

「……ッ!?」

 

 それは杉というにはあまりにも大きすぎた。

 大きく、分厚く、重く、そして大雑把すぎた。

 それはまさに大樹だった。

 

「───な? 言っただろ、一花」

 

 苦笑を浮かべなら風太郎は己が大樹を右手で支えながらタマコの見せつけた。

 タマコは、いや一花は目の前の現象が未だに信じられないまま空いた口を手で覆うい目を見開いていた。

 希望が潰えた瞬間である。

 正直、間に受けてはいなかった。タマコじゃないと立ち上がれないなんて、信じられる筈がない。

 だってそうだろう。有り得ない。そんな事はあってはならない。彼の目の前にいるのは他の姉妹でも無ければモブのタマコでもない。中野一花なのだ。それなのに彼は自分ではなく自分の演じる役に興奮するだなんて。そんな馬鹿げた話を認めろと言うのか。

 赦されない事であった。一花の矜持が目の前の杉を決して赦してはいけないと吼えた。

 

「元気になったらいいでしょ。ほらフータロー君、きて」

 

 タマコのペルソナを引き剥がして中野一花として彼に迫る。失われたプライドを取り戻す為にはやはり彼には朝まで付き合ってもらう必要がある。

 意を決して風太郎に襲い掛かろうとした一花であったが、またしても目を疑う光景を目の当たりにした。

 

「あ、あれ……」

 

 先程、眼前にあった筈の大樹が一花の前から忽然と姿を消していたのだ。

 変わりにあったのはベッドに頭を付ける萎びたカメさんヘッドだけ──。

 

「ったく、難儀な事になったもんだ」

 

 恥ずかしそうに前髪を弄る風太郎に一花は困惑していた。

 今、いつの間に杉を縮めた? 何かに気を取られて見逃していたというのか。

 いや、一花はずっと彼の杉から意識を外していない。あんな長さの伸縮を見逃す筈が──。

 

 ふと、そこで一花は己の額から"何か"が垂れている事に気付いた。緊張のあまり汗をかいていたのだろうか。

 そう思ったが、どうにもこの感触は違う。自分の汗を生暖かいと感じた事はあっただろうか。

 

 ───そもそも汗はこんなにも生臭く粘着質のある液体だっただろうか?

 

 額から垂れるそれを反射的に手で拭っていた。

 

「───」

 

 今度こそ一花は言葉を失った。

 額から垂れていたものは汗ではない。だが"これ"は未知でもない。既知の液体だ。

 何度も何度も口に、体内に取り込み、飲んで味わって、沁み込ませた馴染みあるこの液体は間違い。

 

 風太郎の樹液だ。通称フー君の自家製メイプルシロップ。それが何故か一花の額から垂れていたのだ。

 

「やっと気付いたか」

「そ、そんな、こんなの、ありえないよ」

「『ありえないなんて事』はありえない。これが俺のタマコに対する想いだ」

「……っ」

 

 先の出来事。何が起きたのは頭では理解した。だが心が納得したかは別である。

 顕現した筈の大樹の消失、そして額にこびり付いたメイプルシロップ。

 ここから導き出される答えは一つしかない。

 

 そう。風太郎は刹那の合間に限界まで伸ばした樹木から樹液を射出し、そのサイズを即座に縮め飛び出た樹液は見事に一花の額に直撃しヘッドショットを決めたのだ。

 ビューティフォーと口にしながら称賛しそうになるその射的技術。解放状態から通常状態に戻るまでの驚異の速さ。どれも驚嘆に値する。きっと音速の五百倍はあるであろう早打ちだ。

 これほどまで常人離れした業を一花は風太郎との営みをで一度も目にした事がなかった。

 これが彼の本当のスペックという事なのだろう。これが上杉風太郎だ。これが学園一位の男なのだ。上杉の杉に常識は通用しない。

 一花は先程まで『中野一花』に拘っていた鎮痙な己を恥じた。何が女としての矜持だ。これほどの潜在能力のある彼を全く引き出せなかった分際でどの口がほざくのか。

 これは試練だ。『タマコ』(過去)に打ち勝てという試練と一花は受け止めた。今は、タマコを演じればいい。だが、いずれは中野一花で先の御業を再現させる。

 それこそが中野一花に課せられた風太郎への愛の試練だと言えるのだろう。

 

 だから、今日はその第一歩として学ぶ事から始めよう。彼がタマコのナニに興奮し、何処に刺激を受けるのか。これも勉強と同じだ。基本をなくして応用はできない。

 覚悟を決め、一花はヘアゴムで両端をくくり短いツインテールを作った。

 イメージするのは常に最高の自分(タマコ)だ。 外敵など要ない。女優・中野一花にとって戦う相手とは、自身のイメージに他ならない。

 

「わぁ、フータロー君のとっても濃くて美味しいのですぅ~」

「タマコ!タマコ!タマコ!タマコぉぉおおおわぁああああああああああああああああああああああん!!! 」

 

 そのセリフと同時に風太郎はタマコにダイブした。この時の営みは朝まで続き、女優中野一花は更に演技に磨きがかかり大女優への道に一歩近付く事ができたという。

 

 後に一花は風太郎との間に無事に女の子を授かり、その子の名前でまたひと悶着あったのは別の話である。

 




過剰に描写されましたがフー君の杉は言うたほど長く伸びません。言うたほど速く伸びません。
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