とある五つ子の(非)日常   作:いぶりーす

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完結記念。


イキれ、リボン。

 四葉は激怒した。

 必ず、かのニブチンノーデリカシーの彼を犯さなければならぬと決意した。

 四葉には勉強がわからぬ。四葉は、五つ子の四女である。思い出の公園でブランコを漕ぎ、姉妹と遊び、あらゆる体育系の部活に助っ人として参加し賞を総なめしてに暮してきた。けれども上杉風太郎に対しては人一倍に敏感であった。

 今日未明、四葉はペンタゴンを出発し、数キロ離れたこの上杉の家が佇む町にやって来た。

 今の上杉家には彼の父も、彼の妹も無い。ストーカーもとい友の武田も無い。十八の、恋人である自分と二人きりになれる絶好の機会だ。四葉は、この貧相な家庭教師を近々花婿として迎える企みを計画していた。秘密裏に進めていた結婚式が間近なのである。

 四葉はそれゆえ花嫁になる前に風太郎の貞操を頂こうと、はるばる家にやって来たのだ。積年の想いが報われてから風太郎の盗撮写真で毎日自分を慰めていたのだがとうとう我慢できなくなったからだ。

 先ず、町のドンキでゴムとおもちゃを買い集め、それから思い出の公園をぶらぶら歩いた。

 四葉には食いしん坊の妹の他に年の離れたもう一人の妹がいた。もうすぐ義妹となる上杉らいはである。今は此の上杉家で、風太郎を悪い虫(姉妹たち)から守っている。その義妹を、これから先に訪ねてみるつもりなのだ。

 予め打合せし、二人きりのシチュエーションを作ってもらう算段である。その報酬として初めてのプレイを収めた動画を高画質で提供する事をらいはに約束していた。

 ライン上でのやり取りはしていたが、こうして直接顔を合わせるのは久方ぶりだった。訪ねて行くのが楽しみである。しかし上杉家に近付いていくうちに四葉は、彼の家の様子を怪しく思った。

 不気味な程にひっそりしている。もう既に日も落ちて、家が暗いのは当りまえだが、けれども、なんだか夜のせいばかりでは無く、上杉家全体が、やけに寂しい。呑気な四葉も、だんだん不安になって来た。

 例の如く上杉家の前で待ち構えていたストーカー三女の姉をつかまえて、何かあったのか、前に此の家に来たときは、夜でも皆がカレーを食べ家は賑やかであった筈はずだが、と質問した。三女は首を振ってヘッドホンを装着しぷいとそっぽを向いた。かわいい。

 電柱裏に隠れてカレーを食べていた五女に逢い、今度はもっと語勢を強くして質問した。五女は答えなかった。

 四葉は五女の脂の乗った横腹を摘まみながら質問を重ねた。五女は、お腹を摘まむのは止めてくださいと顔を赤くして懇願した。

 

「一花が、上杉君を犯します」

「どうして犯すの?」

「恋心を自分に抱いている、というのですが上杉君はそんな、一花に恋心を持ってはいません……上杉君は私のです」

「たくさん上杉さんを犯したの?」

「はい、はじめは上杉君の実家で。それから自身の部屋で。それから、らいはちゃんの目の前で。それから、らいはちゃんの格好で。それから、四葉の格好で。それから、お義父さまの目の前で」

「わお。一花はご乱心?」

「いいえ、乱心ではありません。一花√を、信じている、というのです。このごろは、上杉君の心をも手に入れた豪語して、彼が拒絶するようなら犯された時の写真をばら撒くと。命令を拒めば十字架にかけられて、上杉君は犯されます。今日は、六回犯されました。私も四回混じりましたが」

 

 聞いて、四葉は五女の横腹をぎゅっと握りながら激怒した。

 

「呆あきれた夫だ。イカして置けないよ」

 

 四葉は、単純な女であった。ドンキの買い物袋を手に持ったままで、のそのそ上杉家にはいって行った。

 たちまち彼女は、猿轡のされた風太郎に無理矢理交わっていた長女に見つかり捕縛された。

 調べられて、四葉の懐中からは厚さ0.01mmのオレンジ味がするゴムが出て来たので、騒ぎが大きくなってしまった。四葉は、長女の前に引き出された。

 

「このゴムで何をするつもりだったのかな。言ってみてよ」

 

 長女一花は静かに、けれども威厳を以って問いつめた。

 その姉の顔は風太郎と致したばかりのお陰かつやつやしており何処か栗の華の匂いがした。エロスの権化である。

 

「夫を泥棒猫の手から救うの」

 

 四葉は悪びれずに答えた。

 

「四葉が?」

 

 長女は憫笑した。

 

「仕方の無い子だね。四葉には、私のフータロー君への愛がわからないよ」

「ふざけないで!」

 

 四葉は、イキリボンとなって反駁した。

 

「人の夫を奪うのは、最も恥ずべき悪徳だよ。一花は、私の夫さえ奪って平然としてる」

「奪うのが、正当の心構えなのだと、スクランブルエッグ編で私に教えてくれたのは、四葉だよ。最終回の後、結婚式は全部夢で卒業旅行中にフータロー君と私がやっちゃってそのまま一花(わたし)√に分岐もあり得るよね」

 

 長女は長々と興奮した様子で己のIF√について嬉々として語り、やがて落着いてほっと溜息をついた。

 

「……私だって、純愛を望んでいるのだけどね」

「何が純愛だよ。この泥棒猫」

 

 今度は四葉が嘲笑した。

 

「罪の無い夫を無理やり犯して、何が純愛なの」

「黙りなよ、下賎のリボン」

 

 長女はさっと顔を挙げて報いた。

 

「口では、どんな綺麗事でも言えるよ。私はどんな手段を使ってもフータロー君が欲しいの。それにもうフータロー君は私にメロメロだよ。何回もしたし何回も出したの。もう私のなの。ほらここに婚姻届があるでしょ? 二人の印はしてるからあとは役所に出すだけだよ」

「一花は卑劣だよ。上杉さんを脅したんでしょ? 無理矢理押させたんだね」

「いくら叫ぼうが今更だよ。これが運命だよ。知りながらも突き進んだ道でしょ?」

「何を」

「いつまでも五人一緒と信じて、私達がフータロー君を諦めていないと知らず、フータロー君の助けを求める声も聞かず、その果ての終局だよ。もはや止める術など無いの」

 

 とどのつまり彼女がいようが既婚者だろうがヤりたい男の子とヤったもん勝ち青春ならと長女は主張しているのだ。卑劣な長女の策略に拳を握りしめる四葉。

 そんな四葉を鼻で笑い長女は勝利宣言として四葉を今から磔にして目の前で風太郎と交わると言い渡した。風太郎が寝取られれば素質のない四葉は脳が破壊される。実質的な死刑である。

 死刑を言い渡されても四葉は瞳に宿す意思を燃やしながら長女を睨み付けた。

 私は絶対上杉さんから愛を取り戻す。ただ、──と言いかけて、四葉は足もとに視線を落し瞬時ためらい、

 

「ただ、もし私に姉妹としての情をかけたいつもりなら、上杉さんを目の前で犯すまでに三日間の日限を与えて。

 せめて人生で一度きりの式を挙げたいの。三日のうちに、私は上杉さんと結婚式を挙げさせて、必ず、ここへ帰って来るから」

 

 ばかな、と長女は可愛らしい花澤ボイスで低く笑った。

 

「とんでもない嘘を言うね。逃がしたリボンが帰って来るというの?」

「そうだよ。帰って来るの」

 

 四葉は必死に言い張った。

 

「私は約束を守るよ。私を三日間だけ自由にして。夫が、私との式を待っているの。そんなに私を信じられないなら……。

 いいよ。この家にらいはちゃんがいます。私の大切な義妹だよ。あの子を人質としてここに置いて行くよ。

 私が逃げてしまって、三日目の日暮までここに帰って来なかったら義妹の前で上杉さんを犯して。お願いそうして」

 

 それを聞いて長女は残虐な気持で、そっと北叟笑んだ。

 生意気なことを言うわ。どうせ帰って来ないにきまっている。寝取られて脳が破壊されるのが怖いんだ。

 この嘘つきに騙された振りして、放してやるのも面白いね。そうしてフータロー君を、三日目後にずっと犯してあげるのも気味がいい。

 これが本当の一花√だよと私はブイサインでらいはちゃんを磔にて目の前でフータロー君との子を出産するの。

 無駄のない完璧な一花√が組みあがり長女は興奮して下着をジワリと濡らした。

 

「いいよ。らいはちゃんを呼んで。三日目には日没までに帰って来なよ。遅れたら、らいはちゃんの目の前でフータロー君と私のノーカット版ベッドシーンの撮影だよ。

 ちょっと遅れて来るがお勧めかな。そうしたら四葉の罪は永遠に許してあげる」

「なに、何を言うの」

「はは。フータロー君のアヘ顔ダブルピースは見たくはないでしょ。遅れて来て。四葉の心はわかっているよ」

 

 四葉は口惜しく、地団駄踏んだ。勢い余って上杉家の畳を踏み抜いたがそれを気に掛ける余裕はなかった。

 義妹らいはは、深夜、長女に起こされた。暴君一花の面前で、佳き義姉と佳き義妹は、数か月ぶりに相逢うた。四葉は、らいはに一切の事情を語った。らいはは無言で首肯ずき、四葉の胸をひしと両手で摘まんだ。姉と妹の間は、それでよかった。

 らいはは縄打たれた。四葉は一花に搾り取られてげっそりとしている風太郎を連れてすぐに出発した。初夏、満天の星である。月がきれいですねと五月の声が聞こえた気がした。

 四葉はその夜、一睡もせず急ぎに急いで、ペンタゴンへ到着したのは、翌る日の午前、陽は既に高く昇って、マルオは病院に出て仕事をはじめていた。

 四葉の夫である風太郎も、無理矢理担ぎこまれて今はリボンを使ってベッドに縛り付けられていた。

 

 意識を失っていた風太郎だったが、目が覚め視界に飛び込んできたよろめいて歩いて来る恋人の、虚無を宿した瞳に驚いた。

 そうして戸惑いながら四葉に質問を浴びせた。なんだこれは。どうなっている。一花に五月に次はお前か。震える風太郎の声は残念ながら四葉には届かない。代わりに四葉は彼を安心させる為に笑み浮かべた。

 

「天井の染みを数えてて」

 

 四葉は無理に笑おうと努めた。

 

「上杉さんの家に用事を残して来たの。またすぐ家に行かなきゃダメだから。明日、上杉さんとの結婚式を挙げるの。早いほうがいいですよね?」

 

 風太郎は顔を真っ青にした。聞いていない。何のことだ。この手首のリボンを解け。

 

「嬉しい? ふふ良かった。えっちなコスもドンキで買って来たよ。さあ、これから交わりながら電話でお父さんたちに知らせて。結婚式は、明日だって」

 

 四葉は、また、よろよろと歩き出し、風太郎に跨り、服をぬがし、呼吸を調え、間もなくベッドに倒れ伏し、呼吸も許さぬくらい激しい交尾を行った。

 

 眼が覚めたのは夜だった。四葉は起きてすぐやつれた様子の風太郎のフー君を握りしめ元気にさせ、風太郎と交わった。

 事の最中、念入りに結婚式を明日だよ、と告げた。風太郎は驚き、冗談だろ。せめて大学卒業までは待ってくれ、と答えた。四葉は待つことは出来ない、どうか明日にしてくれ給え、と更に犯した。

 なかなか承諾してくれない。夜明けまで無理やり交わりつづけて、やっと、どうにか風太郎をなだめ、脅して、説き伏せた。

 二人きりで行われた結婚式は、真昼にベッドの上で行われた。新郎新婦の、神々への宣誓が済んだころ、早速初夜(二回目)が開始された。

 四葉は狭いベッドの中で、むんむん蒸し暑いのも怺こらえ、陽気に五等分の花嫁のオープニングテーマを歌い、腰を振るった。四葉は、満面に喜色を湛え、しばらくは、一花とのあの約束をさえ忘れていた。

 初夜は、三回戦に入っていよいよ乱れ華やかになり、四葉は風太郎が気絶している事に全く気付かなかった。四葉は、一生このままここにいたいと思った。

 この佳い夫と生涯交わり続けて行きたいと願ったが、いまは、自分のからだで、自分のものでは無い。ままならぬ事である。四葉は、わが身に鞭打ち、ついに出発を決意した。

 明日の日没までには、まだ十分の時が在る。ちょっと一犯しして、それからすぐに出発しよう、と考えた。その頃には、性欲も収まっているだろう。

 少しでも永くこの家に愚図愚図とどまっていたかった。四葉ほどのリボンにも、やはり未練の情というものは在る。今宵呆然、精魂搾り取られやつれた風太郎に近寄り、

 

「私もちょっと疲れちゃったから、もう寝ますね。眼が覚めたら、すぐに上杉さんの実家に出かけます。大切な用事があるんです。

 私がいなくても、もう上杉さんには……風太郎君には子供が十月十日後には可愛い赤ちゃんができるのだから、寂しい事は無いよね。

 風太郎君のお嫁さんの、一番嫌いなものは、人の男を奪う女と、それから、嘘をつく女だよ。風太郎君も、それは、知っているね。

 私達の間に、どんな秘密でも作っちゃだめ。風太郎君に言いたいのは、それだけだよ。風太郎君のお嫁さんは、風太郎君を忘れず一生愛しているから風太郎君も浮気しちゃダメだよ」

 

 風太郎は、顔を真っ青にして首肯いた。四葉は、それから風太郎の肩をたたいて、

 

「私には風太郎君だけだ。他には、何も無い。だから全部あげる。この体も心も全部。その代わり風太郎君も全部私にちょうだい」

 

 風太郎は震えながら枕を涙で濡らしていた。

 

 四葉はそのままベッドにもぐり込んで、風太郎と更に交わった。

 眼が覚めたのは翌る日の薄明の頃である。四葉は跳ね起き、南無三、ヤりすぎたかいや、まだまだ大丈夫、これからすぐに出発すれば、約束の刻限までには十分間に合う。

 今日は是非とも、あの姉に、人の夫を奪うとどうなるかを見せてやろう。そうして笑って磔の台に上ってやる。四葉は、悠々と身仕度をはじめた。性欲も幾分かマシになっている様子である。

 身仕度は出来た。さて、四葉は、ぶるんとおっぱいを大きく振って、雨中、矢の如く走り出た。

 

 私の風太郎君は、今宵、寝取られます。寝取られる為に走ります。身代りのらいはちゃんを救う為に走るんです。一花の奸佞邪智を打ち破る為に走るんです。走らなければだめ。

 そうして、私の夫は寝取れます。愛するらいはちゃんを守らないと。さようなら、ペンタゴン。

 若い四葉は、つらかった。幾度か、立ちどまりそうになった。

 えい、えいと大声挙げて自身を叱りながら走った。家を出て、信号を横切り、商店街をくぐり抜け、隣町に着いた頃には、日は高く昇って、そろそろ暑くなって来た。

 四葉は額の汗をリボンで払い、ここまで来れば大丈夫、もはや故郷への未練は無い。私達は、きっと佳い夫婦になるだろう。

 

 私には、いま、なんの気がかりも無い筈です。まっすぐに上杉家に行き着けば、それでよいですよね。そんなに急ぐ必要も無いかな。

 ゆっくり歩こう、と持ちまえの呑気さを取り返し、五等分の花嫁エンディングテーマをあやねるボイスで歌い出した。ぶらぶら歩いてドンキに立ち寄り風太郎のとサイズが近いバイブを買い揃え、そろそろ道の半ばに到達した頃。

 降って湧わいた災難、四葉の足は、はたと、止まった。見よ、前方の川を。先ほどの豪雨で氾濫しているではないか。四葉は茫然と、立ちすくんだ。

 別に川が渡れなくて唖然としているのではない。四葉がその気なら氾濫していようが激流だろうが泳いで渡れるし何なら水上歩行も可能である。彼女の身体能力はその域にある。

 単純に昨日の夜を思い出し体が疼きムラムラとしてきたのだ。大洪水なのは目の前の川ではなく四葉のくまさんパンツだった。

 性欲はいよいよ、ふくれ上り、四葉はその場でうずくまり、リボン泣きに泣きながら神ねぎに手を挙げて哀願した。ああ、鎮しずめたまえ荒れ狂う我が性欲を!

 

「もう十二時過ぎです。このまま上杉家に行き着くことが出来なかったら、あの佳い義妹が、らいはちゃんが私のために目の前で兄を寝取られて憤死してしまいます」

 

 性欲は、四葉の叫びを笑う如く、ますます激しく躍り狂う。

 性欲は制御が効かず、捲き、煽り立て、そうして時は、刻一刻と消えて行く。今は四葉も覚悟した。ここでオナり切るより他に無い。

 ああ、神々も照覧あれ! 性欲にも負けぬ愛と誠の偉大な力を、いまこそ発揮して見せる。四葉は、懐から先程ドンキで購入したバイブを取り出し大蛇のようにのた打ち荒れ狂うそれを相手に必死の闘争を開始した

 

 満身の力を腕にこめて、押し寄せ渦巻き引きずる性欲を、なんのこれしきとバイブで股を掻かきわけ掻きわけ、めくらめっぽう獅子奮迅の人の子の姿には、ねぎも哀れと思ったか、ついに憐愍を垂れてくれた。

 押し流されつつも、見事、イクことで性欲発散が出来たのである。

 ありがとう。四葉はメロンのように大きな胸震いを一つして、すぐにまた先きを急いだ。一刻といえども、無駄には出来ない。陽は既に西に傾きかけている。歩道橋を上り、信号を渡って、ほっとした時。

 突然、目の前に見覚えのある姉達が躍り出た。

 

「待ちなさい」

 

 三人の姉達の一人。次女が腰に手を当て四葉の顔をぎろりと睨みつけた。

 

「何をするの。私は陽の沈まぬうちに上杉家へ行かなきゃならないの。放して」

「どっこい放さないわ。隠し持ってるフー君の下着を置いて行きなさい」

「私には上杉さんとの撮れたてほやほやのハメ撮りの他には何も無いよ。その、たった一つのハメ撮りもこれから一花に見せびらかしてやるんだから」

「そのハメ撮りが欲しいのよ」

「……もしかして一花の命令でここで私を待ち伏せしていたの」

 

 姉妹たちは、ものも言わず一斉にそれぞれの武器を振り上げた。次女は手に持ったパンケーキを、三女は抹茶ソーダの缶を、五女は上杉家特性カレーをそれぞれ四葉に浴びせようとしたのだ。

 四葉はひょいと、体を折り曲げ回避し、懐から取り出した三本のバイブを黒鍵の如く指に挟み構えた。

 

「気の毒だけど愛のためだよ!」

 

 ずぶりと目にもとまらぬ三連撃、たちまち三人を絶頂させ、さっさと走って上杉家へと向かった。

 信号を待てず一気に歩道橋を駈け降りたが、流石に疲労した。無尽蔵の体力がここに来て尽きかけていた。原因はあの風太郎との連戦だろう。ほぼ睡眠と取らずにひたすら交わっていたのだから。

 膝ががくがくと震え出した。これ以上立ち上る事が出来ない。

 ああ、性欲を凌ぎ切り、姉妹を三人もイキ倒し花嫁、ここまで突破して来た四葉よ。真の魔王、エメラルドよ。

 今、ここで、疲れ切って動けなくなるとは情無い。愛する義妹は、らいはちゃんは私を信じたばかりに、やがて兄を寝取られて憤死しなければならない。まさしく一花の思う壺つぼだよ。

 と自分を叱ってみるのだが、体はピクリとも動かない。その場で寝転がりバイブを使って体力を回復させようと試みた。

 身体疲労すれば、精神も共にやられてしまう。もう、一花と私との一夫多妻制ENDでもいいんじゃないかなと花嫁に不似合いな不貞腐された根性が、心の隅に巣喰った。

 私は、これほど努力したました。約束を破るつもりは無かったんです。私は精一ぱいおっぱいに努めて来たんです。動けなくなるまで上杉さんとヤッて来たんです。

 でも私はこの大事な時に精も根も尽きてしまった。ちなみに上杉さんの性も根も吸い尽くしました。

 

 私はきっと笑われる。新婚旅行にもナチュラルに付いていく泥棒猫の姉妹たちに笑われる。私は義妹のらいはちゃんを欺いてしまいました。

 中途で倒れるのは、はじめから何もしないのと同じです。ああ、もう、みんなとの週休二日制の日替わりで上杉さんを分け合うENDでもいいじゃないですか。これが、私の定った運命なのかも知れません。

 らいはちゃん、ごめんなさい。ゆるしてください。

 あなたは、いつも私に上杉さんの使用済みビロビロおパンツを分けてくれました。私もお返しにこの上杉さんの使用済みゴムをあげたかったです。

 私たちは、本当に佳い義姉と義妹になれたと思っています。今だって、あなたは私が上杉さんとのハメ撮り動画を無心に待っているでしょう。ああ、待っているはずです。ありがとう、らいはちゃん。

 本当にごめんなさい。家族の姉妹の絆は、この世で一番誇るべき宝なのに。らいはちゃん、私は走りました。あなたを欺くつもりは、無かったんです。

 信じてください。私は急ぎに急いでここまで来たんですよ。濁流のような性欲を突破しました。山賊のような姉妹達の囲みからも、するりと抜けて一気に歩道橋を駈け降りて来たんです。

 私だから、出来たんですよ。三玖ならきっと上杉さんとやるだけやって疲れて添い寝するのがやっとです。

 ああ、でも。もういんです。私は負けたんです。だらしが無いよ。笑ってください。

 一花は私に、ちょっと遅れて来なよって耳打ちをしました。遅れたら、身代りの脳を破壊して、私を助けてくれると約束しました。

 私は一花の卑劣を憎みました。でも、今になってみると、私は一花の言うままになっています。

 私は、遅れて行くことになります。一花は私を見て笑い、そして一花ならそのまま私も磔にして一花の出産に立ち会わされる事になります。

 そうなったら、私は、上杉さんをただ寝取られるより辛い。私は、永遠の敗北者だ。エターナルルーザーだ。取り消してよって言っても断じて取り消してはくれない。

 らいはちゃん、私も脳を破壊されます。あなたと一緒に憤死させて欲しいです。あなただけは私を信じてくれるに違いありません。

 いえ、それも私の独りよがりなのかも……ああ、もういっそ、ハーレムENDでもいいのかな。

 お金は一花が稼いでくれるし、二乃と三玖が家事をやってくれて、私と五月とらいはちゃんが上杉さんと常に交代しながら交わり続ける。それでいいんじゃないかな。

 倫理的がどうだの、法がどうだの、ハーレムENDは逃げだの、考えてみれば、くだらないですね。好きな人と添い遂げる。それがラブコメの定法じゃないですか。

 ああ、何もかも、馬鹿馬鹿しい。私は敗北者です。――四肢を投げ出して、うとうと、まどろんでしまった。

 

 ふと耳に、パンパンと何かを叩きつける音が聞えた。そっと頭を上げて、息を呑んでリボンをすました。

 どうやらポケットに入れていたスマホからだ。スマホを取り出してみると画面が汗で濡れたポケットに反応したのか昨日撮ったハメ撮り動画が再生されていたのである。

 その動画に吸い込まれるように四葉は身をかがめた。喘ぎ声を漏らす風太郎の表情に興奮し、持っていたバイブを使ってずぶりと差し込んだ。

 はうと長い溜息が出て、夢から覚めたような気がした。歩ける。イこう。

 肉体の疲労回復と共に、わずかながら希望と膨大な性欲が生れた。義務遂行の希望と風太郎と交わりたいという単純明快な性欲である。

 日没までには、まだ時間がある。私を、待っている人がいるんです。少しも疑わず、上杉さんとのハメ撮り動画を待っている人がいるんです。

 私は、信じられている。ハーレムENDなんて気のいい事は言って居られません。私は、信頼に報いなければなりません。イキれ! リボン!

 

 私は信頼されています。私は信頼されているんです。

 さっきのあの悪魔の囁きは、あれは夢だ。悪い夢だよ。忘れてしまえばいい。やりまくって疲れていると、ふいとあんな悪い夢を見ちゃうんだ。

 四葉、あなたの恥じゃない。やはり、あなたは真の魔王エメラルドです。

 こうして再び立って走れるようになったじゃないですか。ありがたい! 私は、愛の士として寝取られる事が出来ます。

 ああ、陽が沈んでしまいます。お願いします、待ってください。せめてらいはちゃんにこの総撮影時間十八時間にも及ぶハメ撮り動画をらいはちゃんに!

 路行く人を押しのけ、跳ねとばし、四葉は緑のリボンのように走った。

 ずっとストーキングしていた江場部長を仰天させ、たまたま歩いていた無堂を蹴とばし、道路を飛び越え、少しずつ沈んでゆく太陽の、千倍も早く走った。

 肉まんを口に加えた見覚えのある姉妹達とすれ違った瞬間、不吉な会話を小耳にはさんだ。

 

「今頃は、らいはちゃんも磔にかかっています」

 

 ああ、らいはちゃんのために私は、いまこんなに走っているの。らいはちゃんを憤死せてはいけない。

 急げ、四葉。遅刻しちゃだめ。愛と誠の力を、あの長女に思い知らせてやれ。

 風態なんかは、どうでもいい。四葉は、今は、バイブを挟んだ状態だった。イク事で正真正銘の無尽蔵の体力を得たのである。

 二度、三度、下の口から潮が噴き出た。見える。はるか向うに小さく、うえすぎの看板が見える。看板は夕陽を受けてきらきら光っている。

 

「あ、風太郎の恋人さん」

 

 何処か余裕のある声が、風と共に聞えた。

 

「誰ですか」

 

 四葉は走りながら尋ねた。

 

「竹林です。風太郎の幼馴染で風太郎が想いを寄せていた初恋の相手です」

 

 開幕早々幼馴染アピールをしながら煽ってきた黒髪の女に四葉は血管を浮き立たせた。

 

「もう、駄目ですよ。無駄です。無駄なんですよ無駄無駄。走るのはやめて下さい。もう風太郎の妹さんを助けになることは出来ませんよ」

「いえ、まだ陽は沈んでいません」

「ちょうど今、妹さんが磔になるところです。あなたは遅かったのです。残念ですね。私なら間に合っていたのに。それで風太郎の恋人を名乗れるのでしょうか」

「いえ、まだ陽は沈んでしません!」

 

 四葉は先ほどからナチュラルに煽ってくる竹林に何しにきたのかと憤りを隠せないまま走り続けていた。今は走るより他は無い。

 

「無駄ですよ、やめて下さい。妹さんは、あなたを信じていました。刑場に引き出されても、平気でいました。

 長女さんが、さんざん妹さんをからかっても、四葉さんは来ます、とだけ答え、強い信念で待ってしました」

「それだから、走るんです。信じられているから走るんですよ。間に合う、間に合わぬは問題じゃないんです。寝取られて脳が破壊されるかどうかの問題でないんですよ。

 私はらいはちゃんにハメ撮り動画を差し上げる約束の為に走っているんです! ついて来てください! 竹林さん」

「あなたは気が狂ってしまったんですね。それでは、気が済むまで走りましょう。ひょっとしたら、間に合わうかもしれませんし、私も風太郎のハメ撮り動画が気になります」

 

 言うにや及ぶ。まだ陽は沈んでいなかった。最後の死力を尽して、四葉は走った。

 四葉の頭は、からっぽだ。リボンが付いているだけで、中身は何一つ考えていない。

 ただ、約束を守る為に走った。陽は、ゆらゆら地平線に没し、まさに最後の一片の残光も、消えようとした時、四葉は疾風の如く上杉家に突入した。間に合った。

 

「待って。その子の脳を破壊しちゃダメです! 上杉四葉が帰って来ました! 約束のとおり、いま、帰って来ました!」

 

 と大声で刑場の姉妹達に向かって叫んだつもりであったが、上杉四葉という明らかに煽る単語に腹を立てて姉妹達は華麗にスルー。

 姉妹達は一人として彼女の到着に気づかぬふりをした。すでに磔の柱が高々と立てられ、縄を打たれたらいはは、徐々に釣り上げられてゆく。

 四葉はそれを目撃して最後の勇、先刻、濁流のような性欲を抑えた時のようにバイブで掻きわけ、掻きわけ、

 

「私です、一花! 寝取られるのは、私です。四葉です。らいはちゃんを人質にした私は、ここにいます!」

 

 あやねる声で精一ぱいに叫びながら、ついに磔台に昇り、釣り上げられてゆく義妹の両足に、齧りついた。

 姉妹達は、どよめいた。あっぱれ。許せ。カレーを持てなせと口々にわめいた。らいはの縄は、ほどかれたのである。

 

「らいはちゃん」

 

 四葉は眼に涙を浮べて言った。

 

「私をぶってください。力一杯に頬をはたいてください。私は、途中で一度、悪い夢を見てしまいました。私はあなたから上杉さんのビロビロおパンツをもらう資格さえ無いんです。さあぶってください」

 

 らいはは、すべてを察した様子で首肯き、四葉の右胸を揉みしごいた。持たざる者が持つ者への嫉妬である。揉んでからから優しく微笑み、

 

「四葉さん、私もぶってください。私はこの三日の間、たった一度だけ、四葉さんを疑ってしまいました。撮ってくれたハメ撮り動画がブレブレで見れたものではなかったらどうしようって。

 生れて、はじめて四葉さんを疑いました。四葉さんが私をぶってくれなきゃ、私は四葉さんから動画を受け取れません」

 

 四葉は先ほどのお返しにらいはの胸に手を伸ばしたが空ぶった。想定していた場所にそれがなかったのである。持つべき者は持たざる者の心が理解できないのだ。

 

 「ありがとう、姉妹よ」二人同時に言い、ひしと抱き合い、それからハメ撮り動画を見せあって二人でイッた。

 姉妹の中からも、私にもその動画を見せなさいよとブーイングが上がった。暴君一花は、姉妹の背後から二人の様を、まじまじと見つめていたが、やがて静かに二人に近づき、顔をあからめて、こう言った。

 

「あなた達の望みは叶ったね。あなた達は、私の心に勝ったの。一花√は決して空虚な妄想じゃなかった。

 どうか、お姉ちゃんも仲間に入れてくれないかな。どうか、私の願いを聞き入れて、ハーレムENDの仲間の一人にしてほしいの」

 

 どっと群衆の間に、歓声が起った。

 

「万歳、ハーレムEND万歳」

 

 ペンタゴンから回収され拘束されていた風太郎はその様子を見て全身から血が引いていくのを感じていた。

 恐る恐る姉妹達に尋ねる。

 

「俺の意志は」

「ないよ」

「ないわ」

「ない」

「ありえません」

「いりますか? それ」

 

 風太郎は、顔を真っ青にした。

 

 

 


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