とある五つ子の(非)日常   作:いぶりーす

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ごとぱず配信記念。


パズルは五等分できなくても風太郎は五等分できる。

『私たちのゲームが出来たから遊んで欲しい』

 

 そんな意味不明な言葉と共に問題児の五つ子たちから押し付けるような形でスマホを渡された風太郎は未だに電源すら入れていないそれを片手にどうするべきか自宅の居間で頭を悩ませていた。

 少し前の彼ならばゲームなどくだらないと一蹴しただろうが、今は少しだけ事情が違う。あの姉妹に対してある一定以上の信頼を寄せる今の風太郎は彼女たちに『お願い』をされたら何だかんだ言って聞いてしまう程度には甘くなっていた。本人はそれを頑なに認めようとはしないだろうが。

 

「まっ、やらなかったら後が面倒だしな」

 

 建前半分本音半分が混じり合った言葉を溜息と共に吐き出して五つ子たちから渡されたスマホの電源を入れた。

 未だにガラケーを愛用している彼にとってスマホの操作に不慣れだったが、ホーム画面にずらりと五つ並んだアイコンを適当に一つタップするとゲームを起動できたのでほっと胸を撫で下ろした。

 何故かウェディングドレスを着た彼女たちのアイコンが五つ並んだだけのホーム画面を見た時は一瞬恐怖を感じたがとりあえず今はゲームを進めようと気に留めないでおく。

 

『五等分の花嫁~五つ子ちゃん達はパズル(と上杉風太郎)を五等分できない。』

 

 大音量で流れたタイトルコールに風太郎は思わず心臓が止まるかと思った。幸いなことにらいはは友人の家にお泊まり、父は仕事で朝まで帰ってこない為、現在上杉家は風太郎だけであり音に腰を抜かした醜態を誰かに見られることはなかった。二人のいる前でこんなゲーム音を鳴らしたらどんな反応をされるか想像するまでもない。

 聞き馴染んだ五つ子たちの声で発せられたタイトルコールに何処か不穏な単語が混じっていた気がしたが、いきなり流れた大音量に気が動転してそれどころではなかった。

 音量を小さくしようとしたがどうやるか分からない為、諦めてそのままゲームを続行した。

 しかし『五等分の花嫁』とはまた随分と猟奇的なタイトルだ。一見すればミステリー小説か何かのタイトルかと勘違いそうになる。案外そういう内容なのかとゲームを進めてみたがどうやら違うらしい。

 

「ソーシャルゲームって奴か? これ」

 

 いきなり結婚式の式場と思われる場面から始まり五つ子の誰かと思わしき花嫁が振り向いた瞬間、画面に十枚のカードが表示された。以前、前田に見せて貰ったことがあるソーシャルゲームのガチャ画面に類似していたのを風太郎は思い出していた。このゲームも所謂そのソシャゲに分類されるものなんだろう。

 服装が違う五つ子たちが描かれたカードの内訳を見ると、それも見事に五等分されており五人のカードがそれぞれ二枚づつ表示されていた。何やらカードの右下に星が五つ表示されているが装飾か何かだろうか。十枚全て五つ星が付いていたので風太郎はそれが何か理解しないままゲームを進めた。

 

「ジャンルはパズルか。あいつらのイメージじゃないな」

 

 デフォルメ化された五つ子のドロップを繋げて消していく割とポピュラーな内容だった。かつて勉強一辺倒になる前の風太郎もこういったジャンルのゲームを友人たちとした記憶がある。頭を使うゲームとあの馬鹿な五つ子たちでは水と油のような組合せかと思ったが、それを気にしても意味はないだろう。

 

『まずはお兄ちゃんの情報を入力してね』

 

 ナビゲーターのらいはがフルボイスでゲームの解説をしてくれるが、この場合ゲームの開発に巻き込まれていた妹を嘆くべきなのか、可愛らしくデフォルメ化された愛すべき妹に癒されるべきなのか。

 最近は何かとあの姉妹に毒されてきてはないかと心配しながら風太郎は入力事項に目を通した。

 

「プレイヤーネームの入力か……なんだこれ、俺の名前が既に入力されてるな。しかも変えれねえし」

「誕生日の入力……これも既に入ってるな」

「次にキャラクターの編成は……さっき引いた奴入れたらいいか。レベル六十? こういうのって普通はレベル一からじゃないのか」

 

 ナビゲーターのらいはに言われるままフリックを繰り返しようやく最初のパズルゲームの画面にまで辿り着いた。何かと妙な点が多いが最近のゲームはこういうのが当たり前なのだろうと深くは考えなかった。

 

『やっほーフータロー君』

 

 パズル画面に入ると見慣れた制服姿の一花が表示され、こちらに手を振ってきた。あまりにもリアリティのある挙動に驚いたがこれもゲーム業界の日進月歩の賜物なのだろう。

 

『まずは黄色(わたし)以外の()を消そうか』

 

 パズルの横に表示された一花が笑みを浮かべながらそう指示してくる。どうやら毎回パズル画面では姉妹の誰かが出てきてパズルのナビをしてくれるらしい。

 風太郎としてはパズルのナビもらいはで良かったのだが、それを口にしたら画面の一花に睨まれてスマホを落としかけた。リアリティがありすぎるというのも考えものだ。

 

『うん、その調子だよ。どんどん他の()を消してね』

 

 言われるがままパズルを解いていくと気づけば盤面が黄色一色になり一花の顔をしたドロップで埋まっていた。この手のゲームは色んな色のドロップが降ってくるため、いくら特定の色を消しても普通は一色になるとはならない筈だが、このステージはそういう仕様なのだろう。

 絵面としてはシュールを通り越してもはや恐怖に片足を突っ込んでいるがとりあえずこれでクリアだ。

 

『よくできました! 頑張ったねフータロー君。ご褒美は冷蔵庫に入っているからね』

 

 ご褒美、というのはステージクリアの報酬の事だろうか。なら冷蔵庫はアイテムボックスを指すのだろう。敢えてゲーム特有の単語を使わない事で没入感を演出していると言ったところか。中々に凝っていると素直に関心した。

 

『お兄ちゃん。次はストーリーモードを進めていこう』

 

 と、らいはに案内されてプレイしてみた風太郎だったがその内容に頬をひくつかせた。無理もない。どう見ても自分と五つ子たちのファーストコンタクトが描かれているのだから。

 プライバシーもへったくれもないストーリーモードという名の赤裸々に語られる自分達の過去に目を覆いたくなる。だが段々と進めていくうちに恥かしさよりも懐かしさが上回り、こんなこともあったなと苦笑いを浮かべるようになっていた。

 

『第二章~屋上の告白~』

 

 どうにもこのゲーム、風太郎と五つ子たちとの過去を振り返りながらパズルを解いていくジャンル分類がよく分からないゲームだ。目的がよく分からないゲームだなとは思いつつも何だかんだと進めていくと気づけばストーリーは第二章に入っていた。

 屋上の、という単語から風太郎は三玖との思い出を連想する。この章ではおそらく三玖が中心なのだろう。

 

『放課後に屋上に来て。フータローに伝えたい事がある。どうしてもこの気持ちが抑えきれないの』

 

 机の中に入っていた手紙を見て固まるゲームの自分。あの時と一言一句違わないその手紙に風太郎は懐かしさを感じていた。

 当時の自分は相当焦ったものだ。ゲームのアバターである『上杉風太郎』も同じ反応をしている。

 ここまで同じだと次の展開も予測できる。屋上に向かい三玖と対峙する。

 

『誰にも聞かれたくなかったから』

『フータロー。あのね』

『ずっと言いたかったの』

 

 屋上で向かい合う二人。何処か緊張した空気が流れるその光景は何もかもが記憶通りだ。

 ならばこの先も同じだろう。

 

『……す…』

『……す』

 

 言葉を絞り出すように彼女は告白するのだ。今朝出したテストの答え『陶晴賢』と。

 

『すき』

 

 

 ……。

 …………。

 ………………。

 

「…………は?」

 

 思わず声が出た。テキストの見間違えかと思ったがフルボイスで流れた台詞は少なくとも『陶晴賢』ではなかった。幻聴を疑いマジマジとスマホを眺めたがテキストは流れてしまいストーリーはそのまま進行する。

 当然だがゲームの中の風太郎も戸惑いを隠せない様子だった。当たり前だろう。ゲーム内だとまだ出会って二日だ。それが何故こうなる。

 

『フータローは私を変えてくれたから』

 

 まだ何もしていない。変えるような出来事もないしこの時点ではろくに会話すらなかった筈だ。

 

『フータローのおかげで何も出来なかった私は変われたの』

 

 そう言って三玖は美味しそうな手作りのパンをおもむろに取り出したが時系列が明らかにバグっている。何故この時点で三玖がパンを作れるのか。何故それを持って来ているのか。

 そして摩訶不思議な事にゲームの中の風太郎はそのパンを何の疑問を抱かないまま一瞬で頬張りごくりと飲み込んだ。

 確かに修学旅行で似たような事をした記憶があるが、出会って二日の女に告白と同時に渡されたパンをその場で喰うような真似は流石にできない。

 ゲームの中の自分の行動に若干引いていると次の瞬間、目を疑うような光景が流れ込んだ。

 

 突如、ゲームの風太郎の中に存在しない(・・・・・)記憶が流れ込んできたのだ。

 中間試験、林間学校、期末試験、新学期、修学旅行、日の出祭。三玖と共に過ごし、三玖の為に奔走し、三玖の為に駆け抜けた覚えのない日々。

 もはや時の流れなどクソ喰らえとでも言わんばかりの矛盾した怒涛の回想は何故か感動的なBGMと共に流れたが、これで感動できる人間などこのイカれたストーリーの製作者くらいだ。

 激流のように流れ込んできた回想の記憶が終えた時、ゲームの中の風太郎は何故か決心が付いたように三玖を見据え、口を開いた。

 

『俺も好きだ、三玖。俺の子を産んでくれ』

『うん。子供たちで合戦ができるくらい大家族になろうね』

 

 間違いなく自分が言いそうにもない知性の欠片もない下品な告白の返事に三玖は二つ返事で返し二人は結ばれた。

 そして時系列は飛び、冒頭の結婚式のシーンに戻る。

 おめでとう、と見覚えのある参列者たちから言葉を贈られ二人は誓いのキスを交わし物語は光の中で完結した。

 

「……俺の頭がおかしくなったのか?」

 

 あまりの展開に数十秒は茫然としていた風太郎が最初に発した言葉がそれだった。久しぶりにゲームをしたせいで脳がおかしくなっているかもしれない。でなければ悪夢か何かだ。

 理解不能、というより理解してはいけない狂気だ。あれを理解してしまうと常人に戻れなくなる。そんな内容だった。

 さっきのアレはバグか何かだろう。現実逃避しゲーム画面を見ると『二章クリア、三章へ続く』と表示されていた。どうやらあれがエンディングではないらしい。あの狂気にはまだ続きがあるのだ。その事実が末恐ろしい。

 怖いもの見たさで三章のあらすじ画面を開いてみたがそれがまた酷かった

 バスタオル姿の二乃を誤って押し倒したのは記憶のとおりの展開だがそのまま二人が発情してズッコンバッ婚した後の二乃との関係を描くストーリーらしく、そっと画面から目を背けた。

 

「と、とりあえずここまでプレイしたら十分だろ……」

 

 一日で二章までストーリーを進めたのだ。あの五つ子たちもこれで文句は言わないだろう。

 今日はここで辞めたほうがいい。というかこれ以上やると精神的にやられる。

 

「……ん? なんだこれ」

 

 嫌な汗をかいたせいか喉が渇いた。気分転換もかねてお茶を入れようと冷蔵庫を開けると何故かそこに茶封筒が入っていた。

 何故こんなものが冷蔵庫に。らいはか親父が何かの拍子に間違って入れたのだろうか。しかし冷蔵庫にそんなものを入れる機会など間違ってもないだろう。

 怪訝に想いながら封筒を手に取り裏返してみると黄色い蛍光ペンで短くこう書かれていた。

 

『ご褒美』

 

「……ッ!!?」

 

 声を上げなかったのは男としての意地か、はたまた声すら上げれなかったのか。

 震える手からこぼれた封筒が床に落ちてその中身をぶちまけた。中に入っていたのは札束だった。 

 先ほどゲーム内での一花の声が風太郎の脳で再生された。

 

『ここが上杉さんのお家なんですね』

『来るの初めて』

『なんだか懐かしい感じね』

『五月ちゃんはお泊まりした事あったんだっけ』

『ふふ、もう第二のお家のようなものですよ』

 

 居間から聞こえてきた声に鳥肌が立ったがそれがゲームの音声だと分かった途端、風太郎はその場で腰を抜かした。

 ああそうだ。ゲームの画面を閉じないまま居間を離れたんだった。最大音量の設定になっているせいて実際の声と誤認してしまったんだ。

 画面をのぞき込むとゲームのホーム画面で五つ子たちが現実世界と変わらない挙動でわちゃわちゃと動いていた。背景は何故かこの上杉家の居間が最初から設定されておりそのまま変えていなかったので背景に合わせた台詞をゲーム内のキャラが発していたんだろう。

 

「……ったく、ビビらせやがって」

 

 さっきの封筒はきっと一花あたりがらいはに頼んで仕込んだ悪戯か何かだろう。そう考えるのが妥当だ。

 明日会ったら頬を引っ張ってやろうか。姉妹への仕返しを考えながら風太郎はスマホの電源を切ろうとして……。

 

「……?」

 

 ふと違和感を覚えた。

 先ほどまでわちゃわちゃしていた五つ子たちが画面から消えていたのだ。

 またバグか。バグだらけじゃねえか。内心でそう悪態を付いたが、画面をよく見ると居間から見える押し入れの襖が少し開いている事に気付いた。

 なるほど。ここに隠れたのか。きっとタップしたら五つ子たちが出てきて驚かす、みたいな演出があるのだろう。変なところで凝っているゲームだ。こんな所に拘らずあのイカれたストーリーモードに力を入れたらいいものを。

 まあいい。今度こそスマホの電源を落とし精神的疲労を負わせられたゲームからようやく解放された。

 とにかく疲れた。今日は早く寝よう。普段なら明日の授業の予習と五つ子たちの問題作成に取り掛かるところだがそんな気力は微塵も残ってはいない。

 

 早めの就寝を決めた風太郎は布団を取り出そうとし、

 

 

 普段はきっちりと閉められている筈の押入れの襖が少し開いていた事に気付かないまま手を伸ばした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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