とある五つ子の(非)日常   作:いぶりーす

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上杉君が伝説になる日の朝。


五つ子強くて?ニューゲーム 結び(物理)の伝説⑦

 互いに栄養ドリンクを補給しながら己の限界を超えた二乃との激戦は朝まで続いた。

 逃げられない状況と、ドリンクによる肉体と精神の昂り、寒さを凌ぐ為という大義名分もあり風太郎は諦め半分に彼女の欲求に応える羽目になった。こうなってしまった以上はむしろ抵抗する方が労力を使う。

 ならば素直に受け入れてた方がいいだろうと判断した。その方が二乃も納得してくれる。

 それに先程の彼女の雰囲気だと拒んだ場合、いつものように無理矢理襲うのではなく、泣いてしまうのではないかという懸念があった。

 何故、自分だけキスをしてくれないのか。そう問う彼女の表情に風太郎は痛々しさすら感じた。あの花火大会の時といい、二乃という少女は普段の言動とは裏腹に姉妹の中で一番繊細なのかもしれない。

 あいつに泣かれるくらいなら、身を差し出して襲われる方がマシだ。そう考える自分に疑問を持つ事はなかった。

 理屈や損得勘定で物事を考える風太郎だったが、最近では彼女達に関してだけは同じように当て嵌める事が出来なかった。

 

 二乃に限らず、あの姉妹が涙を流す姿は心が痛む。

 

 今なら分かる。きっとそれは中野姉妹が思い出の『彼女』だったからじゃない。そんな単純な理由だったらこんなに悩みはしないだろう。

 過去に彼女達が自分に対してしでかした数多くの問題行動を偏に『思い出の少女だから』という理由だけで受け入れている訳ではない事に自分でも気付いている。

 

 ならば何故と問われると言葉を詰まらせてしまうが。こればかりはまだ分からない。

 だから彼女達をもっと知りたいと願ったのだ。もう少しだけ、時間が欲しい。

 彼女達を知る為に。彼女達に対する自分の感情の正体を知る為に。

 

「だ、ダメ、腰が抜けてもう一歩も動けない……」

 

 永遠にも思えた二乃との激戦は同時にドリンクのストックが尽きた事で一応の決着を迎えた。

 火照った体を秋風が冷まし、ようやく昂った感情も落ち着きを見せていい加減、ここから出ようとした時だった。二乃が先程から全く動かないのだ。

 

「猿みたいに盛るからだ。自業自得だな」

 

 足を震わせて地面にへたり込む二乃に風太郎は溜息を吐いた。

 確かにあれだけ派手に暴れればそうなる。四葉のような神が宿った肉体と違い常人でしかない二乃が朝まで通しで戦えばドリンクを服用しようが、肉体が限界を迎えてしまうのは目に見えていた。

 しかし逆に考えればドリンクさえを服用すれば他の姉妹も四葉に匹敵すると思うと恐ろしい代物だ。

 

「……だって、仕方がないじゃない」

「何が仕方がないだ。人を散々好き勝手襲いやがって」

 

 こうして体力のない風太郎が先に立ち上がれたのも今までの経験のお陰だ。

 何度も行われた彼女達との行為において彼は既にどの体勢をキープすれば体力をなるべく消耗しないか見極め始めていた。勉強と同じで経験は人を成長させるものだ。

 本人にとっては全くもって不本意ではあるが、それが己の命を繋ぎ止める生命線なのだから受け入れるしかない。

 

「フー君から、好きな人からキスされて、そんなの我慢なんて出来る筈ないじゃない!」

「ば、馬鹿な事を」

「そう言えば今回はまだちゃんと伝えてなかったわね……いいわ、何度でも言ってあげる」

「何を」

「───私は、あんたが好き」

「……っ!!」

 

 真っ直ぐと瞳を捉えて投げ込まれた二乃の言葉に風太郎は思わず息を飲んだ。

 彼女達が自分に向ける歪とも云える感情に気付いてはいたが、それを本人から改めてはっきりと言葉にして伝えられるのは彼にとって衝撃が大きかった。

 冷静さを保つ事などできはしない。告白をしてきたのがあのやべー中野姉妹が相手だと分かっていても───いや、彼女達だからこそ。

 飾らない言葉で向けられた二乃の好意に酷く動揺した。

 らしくもない。一花の時と同じだ。何でまた馬鹿みたいに心臓が煩いんだ。

 

「俺は……」

「返事は必要ないわ。フー君は私の。決定事項よ」

「……拒否権は?」

「言ったでしょ? 今度は絶対に離さないって」

 

 そう言えば出会い頭にそんな事を言われていたのを思い出した。二乃の言葉は冗談では決して無さそうだ。

 彼女の表情を見れば嫌でも分かる。あれは本気だ。本気で上杉風太郎を己が所有者だと宣言しているのだ。

 大真面目に馬鹿な事を言う二乃は、風太郎の知る禍々しい目をしたモノではない。何処か清々しさすら感じる、真っ直ぐに輝いた瞳だった。

 

 ああ、でも何故だろう。この馬鹿な少女の瞳は一花の時に見た笑顔と同じで、不思議と嫌いではない。

 なんて事を思ってしまって風太郎は羞恥に頬を染めた。何を考えているんだ。やはり彼女達に随分と毒されたらしい。

 

「と、とにかくコテージに戻るぞ……立てるか。ほら、掴んでろ」

「~ッ!!」

 

 二乃の告白で火照った頬を誤魔化すように風太郎は彼女に手を差し伸べていた。

 

 それが間違いだった。

 

 どういう訳か、二乃はその言葉に酷く興奮して停止していた筈の肉体が再び活性化した。

 彼女は風太郎が差し伸ばした手をそのまま両手で掴み、体重を掛けて引っ張って風太郎に覆い被さったのだ。

 馬鹿な、再起動だと。ありえるのか、こんな事が。ドリンク(燃料)はもう残っていない筈なのに。

 二乃の強襲に反応できず風太郎はただ、彼女の顔を茫然と眺める事しか出来なかった。

 

「だ、ダメよ、フー君……その言葉は反則だわ」

 

 ダメなのはお前の頭だ。反則はお前だ。一歩も動けないんじゃなかったのか。そう反論しようとしたが既に二乃の唇によって塞がれていた。顔を紅潮させ肩で息をしながら襲い掛かる彼女に抵抗する術はもう持ち合わせてはいない。

 

 日に二度同じ奴に襲われる馬鹿がいるか。

 

 最後の最後で油断してしまった己の迂闊さを呪いながら風太郎は二乃との延長戦を迎えた。

 

 

 ◇

 

 

 全く、昨日は散々な一日だった。

 狂気のゲームを奇跡的にクリアしたかと思えば第二の刺客である一花に襲われ、もうこれ以上は何もないだろうと慢心していた所を二乃にしてヤられた。

 もう何度行為をしたのか数えるのも馬鹿らしい。勘弁してくれ。もう限界だ。これ以上、俺のフー君を苛めるのは止してくれ。彼はもう立ち上がれない。

 倦怠感と疲労感で指一本動かせないまま風太郎は宛がわれた部屋のベッドに身を沈めていた。

 

 幸いにも今日は比較的に自由な日程を組まれていた筈だ。スキーや登山、川釣りに参加するのも各自自由である。だからこうして自室で寝ていても文句は言われないだろう。

 

 とりあえず、午前中はゆっくり部屋で休もう。今は誰もいないし落ち着いて寝れる。

 同じ部屋の男子は風太郎が目を覚ました時には姿が消えていた。大方、スキーにでも向かったのだろう。自由参加の行事は十時からだと記憶しているが、彼らがいないという事は当に時間は過ぎているようだ。

 随分と寝過ぎた。普段なら寝ている暇があるなら勉強をするところだが、今日ばかりは惰眠を貪りたかった。

 何せ、怒涛のハードワークの後だ。労働には休息が伴うものである。別に丸一日寝て過ごすつもりはない。午後から体を動かさずに済む川釣りにでも参加すればいい。

 そう思って瞼を閉じようとした風太郎だったが、それは叶わなかった。

 

 先程から敢えてスルーしていたが、毛布の下に『何か』いるのだ。

 いや、『何か』なんて曖昧な言葉で濁すのは止そう。大方見当はついている。

 本当は分かっていたんだ。この怒涛の林間学校で三日目だけ素直に休めると思えるほど風太郎は楽観主義者ではない。むしろこの最終日に今までの事が可愛く思える程の何かとんでもなく大きな出来事が起きるのではないかという予感すらあった。

 

 これはその序章だ。回避はできない。既に脅威はすぐそこにまで迫っていた。

 

「……何の用だ」

「あ、気づいていたんだ」

「おはよう、楽しいリンカン学校も今日で最後だね」

 

 風太郎の被っていた毛布がもぞもぞと動きだし左右から挟むように二人の同じ顔が飛び出た。

 同じなのは顔だけで二人とも格好が違う。片方はあの五つ子ゲームで中野姉妹が扮していた姿だ。

 まるで京都で出会った思い出の彼女がそのまま成長したかのような、髪の長い彼女。

 中身があの中野姉妹と分かっていても、この姿には未だに慣れはしない。姉妹に指摘された通りやはり彼女に対して自分は深い感情を抱いていたのだろうと思い知らされる。

 だが、まだこの格好をするのは理解できる。五つ子ゲームの延長だと言うのなら一昨日と同じ格好をするのは自然の流れだろう。

 

 ───問題はもう一人の方だ。

 

「お前……なんだそれは、そもそも誰だ?」

「誰って、それを当てるのがゲームでしょ?」

「だ、だからって限度があるだろ」

 

 耳にピアス、頭にはサイドリボン、首にヘッドホンをかけてウサギの耳を模したかのような悪目立ちするリボンを結び、センスの欠片のない星型のヘアピンをした少女がそこに居た。

 何だこいつは。何だこのイカれた格好は。これが進化した中野姉妹の真の姿なのか。

 属性過多の馬鹿みたいな格好をした馬鹿に風太郎はさっきまで感じていた倦怠感や疲労感が吹き飛んだ。究極完全態グレートナカノとでも呼べばいいのだろうか、或いはキメラテック・オーバー・ナカノか。完全にやべー奴だ。

 誰だってこんなふざけた格好をした女が同じベッドに潜り込んでいたら寝起きでも意識が一瞬で覚醒する。それは風太郎も例外ではない。

 

「こうすれば誰だか直ぐには分からないでしょ?」

「さっ、続きをしようよ」

「……今は勘弁してくれ。少し休ませろ。後で相手になってやるから」

 

 左右から両腕で巻き付け抱きついてくる中野姉妹は腕をホールドしたまま離してくれそうにない。

 そんな二人にしっしと手で追い払うようにジェスチャーしながら風太郎は冷汗を流した。これは非常にまずい状況だ。

 ゲームクリアまで残り二人。口調は普段と異なるがベッドに潜り込んだこの奇人変人どもは十中八九、四葉と五月だろう。

 流石に間を置かずにクリア済の姉妹が襲ってきたら残っている姉妹から反感を買う筈だ。まあ一度見分けたと言ってそれで満足いく連中かと聞かれれば首を傾げるが。

 とにかく彼女達が残った四女と五女に違いはないと考えていい。

 しかし二人同時に攻め込んでくるのは想定外だった。

 

(ただでさえ体力が無尽蔵の四葉が残っているのに二人同時を相手だと……こいつら俺を殺す気か?)

 

 無理だ。捌ききれない。連日連戦で既に体のコンディションは最悪だというのに。

 今このままヤりあえば間違いなくベッドの上で息絶える。それだけは何としても避けなければ。

 楽しい林間学校の思い出話を待っている妹に兄が腹上死したなんて馬鹿げた知らせを聞かせる訳にはいかない。そんなの死んでも死にきれない。

 

(どうする……考えろ。どうすれば切り抜けられる)

 

「ねえ、早く始めようよ」

「今更、私たちだけ除け者にするなんて言い出さないよね」

「三玖は最初に見分けられたのに」

「一花には自分からキスしたのに」

「二乃とは朝まで愛し合ったのに」

 

 どうやら考える時間すら与えてくれないようだ。

 二人の眼が風太郎が見てきた中でも過去最高に黒く濁っている。今の彼女達はブレーキが全く効かない。そもそも最初からそんなもの備わってない気もするがそれを言い出したキリがない。

 どの道、もう逃げ場はない。性か死か。審判の時はもうすぐそこまで来ている。

 

(これだけはやりたくなかったが……やむを得ないか)

 

 実は最初から一つだけこの場を切り抜ける方法を風太郎は思い付いていた。それも恐らく彼女達には最も有効な手段ともいえる方法を。

 しかし気が進まない。自身のプライドがそれを許さない。何より、彼女達への感情に区切りを付けないまま行うには余りに不誠実。

 それに所詮はその場限り。下手をすれば今後更に状況を悪化させる可能性がある諸刃の剣だ。

 出来れば使いたくない。このカードを切らずにゲームをクリア出来ればそれがベストだった。

 だがこうなった以上はもう四の五の言ってはいられない。今この場で二人同時は無理だ。

 これはもう、腹を括るしかないようだ。

 

 風太郎を意を決して重い口を開いた。

 

「……一つ提案がある」

「提案?」

「なに? 風太郎君」

「せめて一人づつにしてくれ。これじゃあ体が持たん」

「ダメだよ。そんなの」

「そうだよ。もうこれ以上待てないよ」

「ただでとは言わない。お前達が我慢の限界なのは分かっているからな」

 

 勿論、彼女達が素直に言う事を聞いてくれない事など想定内だ。

 そんなのは分かっている。だから、それ相応の対価を支払うのだ。

 

「……俺が他の姉妹をどうやって判別したのか、知っているか?」

「うん、もちろん」

「当然、私達にもしてくれるんだよね」

 

 まるでおやつを楽しみにする子どものような無垢な笑みを浮かべる二人。

 その二人に風太郎は首を横に振って答えた。

 

「いいや、お前達には別の方法を試そうと思う。もっと確実な手段を思い付いてな」

 

 その瞬間、部屋の中の空気が何度か下がったような錯覚に陥った。

 原因はもちろん彼女達だ。漆黒の眼を風太郎に向けながら先程とは打って変わって表情を無して彼に絡める腕の力を強めた。

 

「なんで、なんで、なんで、なんで私にはしてくれないのですか」

「そんなのズルい。ズルいよ、ズルいですよ、私は、私は……」

 

 壊れたテープレコーダーのように何度も何度もズルい、なんで、と同じ単語を繰り返す二人に圧倒されそうになったが何とか堪えた。

 彼女達に飲まれるな。しっかりとこちらのペースを保て。

 獣を御するには"餌"が必要なんだ。中野姉妹にとって極上の"餌"を。

 

 それを今、ここで捧げよう。

 

「……方法は簡単だ。お前達の姉三人にした手段よりも"深く触れ合って"確実に判別する」

「「……ッ!!?」」

 

 神の怒りを鎮めるのに必要なのは何時の時代も生贄だ。

 捧げればいい。己が肉体を。己が心臓を。己がフー君を。

 肉を切らせて骨を断つ。性を委ねて生を守護る。これが自分にできる唯一の生存手段。これが上杉風太郎にとっての究極の護身。

 

 彼の思わぬ提案に二人はその大きな目を丸くした。

 

「そ、その……」

「何だ」

「触れ合うというのはどういう意味で……」

「勿論、お前たちが想像している事を、だ。"俺の方から"リードして相手をする」

「あなたの方から……」

「リード……」

「ただ二人同時だと集中できない。だから一人づつ頼みたい」

 

 ゴクリと二人同時に唾を飲み込む音がした。彼女達は断れない。断る筈がない。必ずしや食いつく。中野姉妹は飢えた獣だ。目の前に極上の餌をぶら下げれば食いつかずにはいられない。

 こちらからのアクションに彼女達が滅法弱いのは三人の姉が証明済だ。

 

「す、少し考えさせてください!」

「作戦会議ですっ!」

 

 二人はそう言って風太郎のベッドからすぐさま離れ、部屋の隅でしゃがみ込みながら何やらゴニョゴニョと会話を始めた。

 作戦会議などと称しているが既に決まっている筈だ。間違いなく提案には乗るだろう。今はどちらが先行を取るかを議題にしているに違いない。

 やがて二人の話し合いはヒートアップし、どうやら対話だけでは決まらなかったようで、じゃんけんをし始めた。

 流石五つ子と言ったところか。じゃんけんも中々決着が付かない。何度かのあいこを経て、二人は風太郎の元へと戻ってきた。

 その表情を見るだけでどちらが勝利をしたのか直ぐに窺えた。

 

「やりました! 私からですっ!」

「私が最後……」

「お、お前か……」

 

 じゃんけんを制したのは究極完全態グレートナカノの方だった。興奮しているせいか、最早口調を偽る余裕もないらしい。残念ながら四葉も五月も自分に対しては敬語を使うため口調だけでは判断が付かないが。

 まあ仮にそれで見分けたとしても、もう彼女達が納得しないだろう。身を差し出すというジョーカーを切った以上、相手をしなければ中野姉妹は納得はしない。下手をすれば今後余計に悪化する。

 彼女達をたった一言で御せる最強のカードであるが、その代償も大きい。大いなる力には大いなる責任が伴うものだ。

 

「……終わったら言ってくださいね。次は私ですよ。絶対ですよ。相手をするって嘘じゃないですよね。待ってますから」

 

 こちらも口調を偽る事を辞め、恨みつらみを垂れ流しながら『思い出の彼女』の格好をした少女はトボトボと肩を落として部屋を出ていった。

 正直、あの様子だと後が怖いが二人で同時に襲われるよりはマシだ。

 

(何とか、一対一に持ち込めたはいいが……ここからが勝負どころだ)

 

 改めて目の前の彼女と向き合った。見た目は完全にやべー奴なので圧が半端ない。

 あまりに頭部に装飾品が集中しすぎている。こんな奴を見かけたら間違いなく距離を置く。例え知人だとしても話しかけてたりはしないだろう。

 せめて一花や二乃のように他の姉妹に変装するだけならまだ冷静に対処できたが、このイカれた格好の女と今から事を構えるのかと思うと少し気が滅入った。

 

 それに問題はまだ残っている。

 

(こいつが四葉か五月、どちらかによって俺の命運は決まる……)

 

 一対一とはいえ、四葉を相手取るにはやはり不安が残る。せめてあのドリンクが残っていればと思うが無い物ねだりをしても仕方ない。

 二乃の時に使い切らなければあの場で終わりを迎えていたんだ。使いどころは間違ってなかったのだろう。

 それに四葉は一応あれで姉妹の中では比較的、まだ話が通じる方だ。暴走すれば姉妹で一番厄介だが、上手く話し合えば生き長らえる事ができる。

 

「そ、それじゃあ、始めるか」

「お、お願いします……」

 

 互いにベッドで向き合うように座り、風太郎は彼女の肩を両腕で掴んだ。

 生き残る為とはいえ、今更になって自らの意志で彼女達と事を交わそうとする状況に風太郎は余裕などなかった。それは相手も同じようで、風太郎に両肩を掴まれた瞬間、びくりと彼女は体をはねさせ目を強く瞑った。

 

 何度も行為はしたし、襲われる事に関しては慣れたが、こちらからするとなると勝手が違う。

 一花や二乃の時はその場の勢いのようなものがあったし、あくまでもキスだけで済ますつもりだったから多少強引に出来たが、今回は目的が最初からクライマックスだ。

 果たして上手く出来るだろうか。不安になりながら、一先ずは彼女の正体を暴くべく風太郎は目を瞑る究極完全態グレートナカノに唇を落とした。

 

「……んっ」

 

 彼女の口から甘い声が漏れた。目を瞑れば色のある雰囲気なのだが、目と鼻の先に属性過多の全盛り女のせいで雰囲気もへったくれもない。

 さっきまで無駄に緊張していたのが馬鹿らしく思いながら風太郎は更に彼女に舌を絡めた。経験上、こうすれば大体判別出来る。

 

 舌を絡めると向こうもそれに応じてきた。それどころか、こちらの歯や歯茎までまるで味わうように舌を這わしてくる。

 四葉とは意識のある状態で無理矢理押し倒された経験があるが、彼女はこんな絡み方ではなかった。そうなると自然と答えは決まる。

 

「……五月、だな」

 

 唇を離して自信を持ってその名を告げる。間違いない。五月だ。

 良かった。とりあえず五月が相手なら何とか無事に済みそうだ。風太郎はほっと胸を撫で下ろした。

 

「ふふ、流石ですね上杉君。それでこそ私達の父になってくれる人です」

「……」

 

 ああ、思い出した。五月が家に押し掛けて眠らされる直前、彼女はそんな妙ちくりんな事を発していた。

 

「な、なんでそんな格好をしたんだ? 他の姉妹に変装するだけで良かっただろ」

「前にも言いましたが、私が母であなたが父。それはもう夫婦です」

「……」

 

 会話になっていない。最近、色々とありすぎて忘れていたが何気に言動に関しては彼女が一番やべー奴だ。

 教室でずっと睨みを利かせているのも五月曰く、あれは浮気チェックらしい。最初にそう説明された時は頭がどうにかなりそうだった。

 何が浮気チェックだ。そもそも結婚すらしていないしその年齢にすら達していない。なんだこのやべー女は。

 あの時は五月の言葉を適当に受け流していたが、最近になってそれが段々と現実味を帯びてきた気がする。

 結婚など恋愛から程遠い生活を送ってきた風太郎からすれば想像も付かないイベントの筈なのに、何故かある特定の未来だけは容易に想像できるのだ。

 

 ───花嫁五人に囲まれ、バージンロードに無理矢理連行される己の姿が。

 

 何という狂気。何という悪夢。そんな倫理に反する未来を想像してしまう自分が恐ろしい。

 だが、その未来に向け確実に歩がゆっくりと向かっている気がする。

 不本意ながら既に全員と関係を持った。そして今度は自らの意志で彼女達と交わろうとしている。理由はどうであれ、傍から見れば風太郎自身もとうに狂気に染まっているのだ。

 

 この五つ子ゲームをクリアしたら、彼女達と一度本気で話し合おう。

 

 このままではろくでもない未来が待っている。それだけは何としても避けなければ。

 こうして流されるまま肉体を交わり続ければ先にあるのは破滅だけだ。

 

 とりあえず、今は目の前の五月を何とかしよう。約束した以上、これから先をする事は既に決定事項だ。逃げれる筈がない。

 まあ、相手があの五月だったのはせめてもの救いだ。事が終われば少し休憩して最後の戦いに備えればいい。

 

「さあ、上杉君。始めましょう。約束通り、リードしてくださいね?」

 

 ───そう言えば、食欲が強い人間は性欲も同じように強いらしい。

 

 ふと、昔何処かで耳にした与太話を何故か今になって思い出していた。

 

 五月が姉妹の中で四葉に負けず劣らず強い欲求心を持っていた事を身をもって知ったのはそれから直ぐの事である。

 

 事が終わった後、風太郎は満身創痍でベッドに横たわっていた。

 

 

 

 

 




今更ですが五等分の花嫁アニメ二期おめでとうございます。
これを機に更に二次創作が盛り上がり増える事を楽しみにしています。
ニューゲームシリーズも残り二話で完結予定ですが、今後も短編や長編を続けていこうと思っておりますので、よろしくお願いします。

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