これが運命だと云うのなら、それを定める女神はきっと気まぐれなのだろう。
驕り昂り、夢破れて、打ちのめされた苦い過去。その報いだとしてもあまりにも酷い仕打ちだ。
やり直そうと思った。新たな学校で新たな環境でこれからは姉妹の為に尽くそうと。
その矢先に過去の象徴である彼と対面するなんて。
彼との再会は突然だった。新たな学校に転校した翌日、五月に連れられてリビングへと案内された彼を見て何処か懐かしい雰囲気を感じた。
そして彼の名前を聞いて体が固まった。あまりの衝撃で指一本動かせなかった。
姉妹達の前で今日から自分達の家庭教師を担当する旨を添えて自己紹介した同い年の男子に中野四葉は張りぼての笑みを張り付けながら内心、気が気でなかった。
上杉風太郎。
その名前を約束したあの日から片時も忘れた事などなかった。
四葉にとって彼は綺麗な思い出の象徴でもあり、共に同じ夢を語った同志でもあり、初めて同じだった姉妹からの脱却を願ったきっかけでもあり───落ちぶれた今の自分を見せられる鏡でもあった。
さり気なく近づいて見た彼の顔は雰囲気が随分と異なるものの当時の面影を残していた。
何より、彼の瞳はあの夜、共に夢を語った眩い少年の瞳と同じで四葉に確信を持たせるのに十分だった。
複雑な心境だった。大切な思い出の彼との再会が嬉しくない筈がない。
けれど今の自分の有り様を知られたくないのも、また事実であった。
次の日、四葉なりに現在の彼を探ってみたが、自分とは本当に真逆の人生を辿っていた。
毎日食堂で『焼肉定食焼肉抜き』を頼む名物的な変人として有名なようだが、それ以外では特に悪い噂もない。
試験では常に学年トップを維持する優等生。無愛想だが授業について行けないクラスメイトに気まぐれで勉強を見てあげる事もあるそうで、彼の解説は分かりやすいと好評だと聞いた。
多くはないが友人もちゃんといるようで、一組の人気者の男子と楽しそうによくつるんでいるらしい。
その仲の良い男子に彼の事を尋ねると、いかに彼が頭脳明晰で手強いライバルかと昼休みが終わるまで鼻息を荒くして一方的に語られた。
何でも入学してから一度も満点以外を取った事がなく卒業までに彼に打ち勝つ事が目標だと男子生徒は熱を滾らせていた。
話を聞き終えて四葉は思わず自嘲した。本当に随分と差がついたものだ。
彼は正しい道を突き進んでいる。あの日に誓った夢へと向かって真っ直ぐに歪むことなく。
もしも、彼が勉強ばかりでそれ以外を切り捨てた人間になっていたのなら、ほんの少しだけ気が楽だったのかもしれない。
自分は全くダメだったが、彼も道を少し逸れてしまった。失敗したのは自分だけではない。そんな狡い言い訳をする事ができたのだから。
そんな醜い嫉妬に似た感情に自己嫌悪を抱いた。正しい道を歩めている彼の姿はあまりにも眩しすぎて直視できなかった。
───ああ、今の風太郎君の姿が私が本当になりたかった姿なんだ。
努力が報われ、立ち止まる事なく夢へと進み続け、その姿を見た誰かに頼られるようになる存在。知れば望んでしまうのだ。彼のようになりたいと。彼のように在りたいと。
かつて彼の点数の三分の一以下しか取れていない答案用紙を父に自慢していた自分が余計に惨めに感じた。よくもまあ、あの程度で驕り、慢心したのだ。
始まりは同じだったのに。互いに同じ夢を誓ったのに。本当にどうしてこうなったのだろう。
片や約束も守れず今となっては姉妹皆の足枷となり、片や約束を果たす為に今もなお努力し結果を残している。
何が違ったのだろう。例えば才能の差だろうか。勉学に関しての才能の差。きっとそれは彼にはあって自分にはなかった。
後は目的の有無だ。互いに大事な人を楽にさせる為に勉強を頑張ろうと誓ったけれど、その大事な人は誓ってすぐにいなくなってしまった。
ゴールがあるなら走れた。目的地が見えているのなら、そこまで目指せた。どんなに辛くても頑張れた。
だが行く先が見えず、終わりの見えない闇を独りで走り続けるのは四葉にはできなかった。暗闇を突き進む勇気がなく自分が今どこにいるのかも分からない恐怖で足が竦んでしまった。
……それも結局は言い訳に過ぎない。いくら言葉を並べても今は何も変わらない。落ちぶれた自分という結果は変わらないんだ。
───今の私を見たら風太郎君はどう思うかな。
きっと失望するだろう。いや、そもそも向こうが自分を覚えていると思う方が都合が良すぎる。
彼にとってあれは勉強をする単なるきっかけに過ぎないだけで、たった半日一緒に過ごした程度の相手を覚えている筈がない。そう思うのが道理だ。
それでいい。忘れてくれて構わない。むしろ忘れていて欲しい。
彼と約束を交わした無垢なままに夢に手を伸ばした少女はもういないのだ。ここにいるのは目的を見失い地に堕ちたただの抜け殻。
そんな抜け殻でも烏滸がましくも願いがある。せめて思い出だけは綺麗なままでいて欲しいという願いが。
彼には絶対に正体を明かさない。たとえ彼が約束を覚えていたとしても。
嘘は苦手だが、たった一つの嘘を突き通すくらいは馬鹿な自分でもできる筈だ。
彼とは思い出の少女としてではなく、ただのお馬鹿な中野四葉として彼の五人いる生徒の一人として接していこう。それが互いの為になる。誰も傷つかないし誰も損しない。
彼なら、きっと姉妹も気に入る筈だ。現に五月は出会ったばかりなのに既に彼の事を認めているようだし他の三人ともいずれは仲良くなってくれるに違いない。覚えてはいないだろうが姉の一人は五年前に目を離した隙に仲良くなっていた過去もある。彼と姉妹の相性は悪くない筈だ。
当然か。彼は自分と違って凄い人なんだから。せめて、彼の役に立てるよう姉妹達と彼を繋ぐ架け橋になれれば、それが姉妹の為にもなるし彼の為にもなる。
───だから、私は影に徹しよう。憧れの彼と大事な姉妹を見守る影に。
「よう……五年ぶりだな」
そう、思っていた筈なのに。どうしてこうなったのだろう。
◇
それは再会して三日目の事だった。彼が家庭教師になってから何かと騒がしい日が続いている。
昨日なんて二乃と五月の間で彼に関する事で少し言い争いがあったが、姉妹間での口喧嘩なんて日常茶飯事だ。
今朝の朝食時には五月はいつもの通りに二乃の作ったご飯を美味しそうに食べていたので、さほど問題はない。
どうにも二乃は彼の事を敵視しているようなので打ち解けるにはもう少し時間がかかりそうだ。一花と三玖もあまりやる気を見せていない。
今のところ彼に協力的なのは自分達妹組だけだ。何とかして姉達と彼の関係を良好なものにできないだろうか。
姉妹と彼との関係に頭を悩ませていた四葉だったが、その日の放課後、更に頭を悩ませる出来事が起きた。
『話がある。放課後、屋上で待っている』
男子特有の角張った字で短く綴られた手紙、いやノートの切れ端が四葉の下駄箱に入っていたのだ。
四葉とて女子だ。この手のシチュエーションは男子からの告白なのではと勘繰りしてしまう。
だが、差出人の名前を見て頭の中が真っ白になった。相手はちょうど頭を悩ませている家庭教師の彼だったのだから。
(え、な、なんで……風太郎君が私に……も、もしかして、こ、こ、告白!?)
一瞬、馬鹿な妄想をしかけたが首を横にぶんぶんと振って何とか雑念を振り払った。
落ち着け。そんな事はあり得ない。
彼が出会ったばかりだと思っている自分にそんな事をする筈がないし、五年前に京都で出会った事に気付いている筈もない。
単純に何か、相談か何かだろう。そうに決まっている。きっとやる気を見せない姉達の件に違いない。
ならば自分の出番だ。彼に少しでも役立つチャンスなのだ。これを見逃す手はない。
再会して二人きりで話すのは今回が初めてだが、大丈夫だ。自然に、ごく自然に接すればいい。"約束の子"としてではなく、ただの中野四葉として。
そうすればバレる事など万が一にも有り得ない。そう高を括っていた。
はっきり言って油断していた。
屋上の扉を開け、フェンスに背中を預けて待っていた彼を見つけた時は、揶揄うようにしししと笑いながら『屋上に呼び出すなんて、まさか告白ですか、上杉さん!?』とでも言うつもりだった。
なのに、彼は四葉が言葉を発する前に言ったのだ。
聞き間違いではない。はっきりと、目を見つめながら、『五年ぶりだな』と。
「えっ、え……?」
彼の放った言葉は四葉の思考を停止させるのに十分な威力があった。
そんな事、ありえない。覚えている訳がない。そもそも、自分だと断定できる判断材料がない筈。
いや、こちらも髪色すら違う彼に懐かしさを感じ取ったんだ。当時の事を覚えているのなら向こうも何か気付いても不思議ではないのかもしれない。
だけどあの時は名前を名乗ってもいない。自分の容姿に当時の面影を感じたとしても、どうして同じ顔をした五人の中で私だと……。
違う。関係ない。彼が覚えていようといまいと。それは重要ではない。
突き通せ、嘘を。今の現状を知って幻滅されたくない。失望されたくない。
前の学校の友人や教師に向けられたあの蔑むような眼を彼にだけは向けられたくない。
その一心で四葉は何とか言葉を絞りだした。
「な、何を言ってるんですか上杉さん。私達は三日前にお会いしたばかりじゃないですか」
「五年前、京都で俺はお前に出会った。場所は京都駅。警察に絡まれている俺を助けてくれたな」
そうやって否定したのに、彼は聞く耳を持たずにこちらの瞳を見つめて表情を変えない。
懐かしむように、優しい微笑みを浮かべたまま。
「俺はあの時、お前に救われた。声を掛けてくれたのもそうだが、そこじゃない。お前の言葉に救われたんだ」
「人違いですよ」
「独りだった俺に手を差し伸べてくれた」
「……違います」
「あの日過ごした一日を、あの日に誓った約束を、俺は忘れた事はない」
「違うんですよ、上杉さん」
「お前のお蔭で俺は変われたんだ。ずっと感謝したかった」
「…………違う」
「だから、ありがとう。四葉」
「違うんだよ、風太郎君」
何度否定にしても彼はその口を閉ざしてくれなかった。
どうして。もう止めて。それ以上、何も言わないで。
彼の口からキラキラと輝いていたあの日を語られる度に、愚かだった過去と何も成し遂げられなかった今の自分が浮き彫りになるようで、とてもじゃないが耐えれなかった。
いつの間にか視界がぼやけて、気付けば涙が頬を流れていて、立っていられずに膝から崩れ落ちた。
「私は、私はね、君に感謝されるような人じゃない……約束を守れなかった……君のように立派になれなかった」
それから懺悔するかのように四葉は彼と別れてからの空白の日々を全て語った。
赤の他人だと突き通す事が不可能なら、いっそのこと全て話してしまいたかったのだ。
知れば、彼はきっと自分を軽蔑するだろう。約束を守れなかった自分に。愚かな自分に。
でも、勘違いされたまま彼に感謝の言葉を言われるくらいならそっちの方がマシだ。
罵倒してくれた方が自分が間違っていたのだと再確認できるから。
だから全て話した。
あの日に誓った、楽をさせてあげたかった母が亡くなった事。
目的を失って特別になるという事だけに固執してしまった事。
自分は他の姉妹と違うのだと傲慢な態度をとってしまった事。
自分が何に向かって努力していたのか、分からなくなった事。
勉強を疎かにして、退学になりかけて姉妹に迷惑を掛けた事。
目を覆いたくなる醜い過去を嗚咽を漏らしながら全て曝け出した。その間、何も言わずに話を黙って聞いていた彼の顔を怖くて見る事が出来なかった。
どんな表情をしているのだろう。失望だろうか。軽蔑だろうか。
「風太郎君は……上杉さんは凄いですね。勉強もできてずっと頑張っていて……私、全部ダメでした。悪い子なんですよ。姉妹に迷惑ばかりかけて」
「……そうだな。お前は間違ってしまったのかもしれない」
「かもじゃないですよ。間違ったんです。私は」
「けど、それは俺も同じだ」
「え?」
伏していた顔を上げるといつの間にか彼が目の前でしゃがみ込んで、目線を同じ高さに合わせていた。
思ったよりも顔が近くて心臓の鼓動が高鳴った。目と鼻の先にある彼の瞳は約束を誓ったあの夜に見た時と変わらない輝きで、思わず四葉は見惚れてしまった。
「俺も間違っていた。前までは周りの馬鹿共を見下していたし、家族さえ良ければそれ以外は切り捨ててもいいと思っていた。気付けばまた独りだった」
四葉には彼の言葉が最初は信じられなかった。そんな筈がない。周りを見下しているような人間に友達など寄ってこない事を四葉は身をもって知っている。
きっと自分を慰める為に優しい嘘をついてくれたんだ。そう思った。
「でも、間違いを気付かせてくれた奴がいたんだ。だから今は多少はマシになれた……と思っている」
けれど、違う。嘘を言っている人はこんな真っ直ぐな目をしていない。
自分に間違いを気付かせてくれた大切な姉妹達が居たように、彼にもそれと同じ人がいたんだ。
誤った方へと進む彼を正しい方向へと導いた人が。
……こんなにも愛おしそうに語る彼の思い出の人が。
「四葉。お前はなりたい将来の夢とかあるか?」
「夢……?」
「ああ」
突拍子もない質問に困惑したが、分からないと答えた。
そんなものはないのだ、今の自分に。姉妹の為に生きると誓った自分に夢など。
けれど、彼はまるでそう答えるのを分かっていたかのように、なら、と言葉を繋げて四葉の手を取った。
かつて彼の手を取って約束をした光景が思わず脳裏に蘇った。今度はあの時と逆だ。彼から自分の手を掴んでくれた。
「それを一緒に見つけ出すのが俺の仕事だ」
「え……?」
「家庭教師の初日に言っただろ。お前達を笑顔で卒業させるってな。ただ卒業するだけじゃ意味がない。次の道を見つけてこその卒業だと俺は思う」
彼の言葉に只々困惑した。ただの家庭教師にそこまでする義理などない筈だ。
それにかつての頃、彼は妹を楽にさせたいが為に勉強をすると誓ったのだ。この家庭教師のバイトもその彼女に少しでも負担を減らす為のものだろう。
ただでさえ問題児ばかりの自分達姉妹に勉強を教えるだけでも骨が折れる筈なのに、進路の事まで面倒を見るなんて、そんな余裕がある訳がない。なのにどうして。
「どうして、どうしてそこまで……」
「ただの自己満足だ……とはいえ、大層な目標を掲げたはいいが生徒の半数以上がやる気がないのが現状だ。俺だけじゃどうしようもない」
口では自己満足だなんて言葉で濁しているが、そんな理由ではない事くらい判る。
彼は本気で自分達姉妹の事を想ってくれている。
あんな過去を全て曝け出した自分も含めて、彼は手を差し伸べてくれると言った。
「だからお前にも協力して欲しいんだ」
こんな特別でもない自分を必要だと、言ってたんだ。
「わ、私に?」
「ああ」
「私に、できますか? 上杉さんのお手伝いが」
「一筋縄ではいかない厄介な連中だからな。俺一人じゃ無理だ」
「……本当に、私なんかにできるのかな、風太郎君」
「俺はお前が必要なんだ、四葉」
「……っ!」
体が無意識の内に動いていた。彼の胸板に抱きつきながら声を上げて泣いた。
彼に見分けて貰えるようにと付けた始めてたリボンも抱きついたせいで、くしゃくしゃになってしまった。
でも構わない。今は、今だけは、必要だと言ってくれた彼の暖かさを感じていたかった。
「風太郎く……あ、えっと上杉さん」
「さっきからコロコロ呼び名を変えるな。面倒くせえ。統一しろ」
「え、えっと……じゃあ、二人きりの時は風太郎君で、いいかな?」
「……好きにしろ」
「えへへ、なんだか手馴れてるね。リボン直すの……妹さんもリボン付けてるのかな」
崩れたリボンを彼に直してもらいながら、四葉の胸は幸せで満ち溢れていた。
彼の事をもっと知りたい。彼ともっと話したい。私の知らない彼と。
あの日、本当はもっと彼とお喋りしたかった。それが今、叶うとは夢にも思っていなかった。
「らいははこんな悪目立ちするデカリボンなんて付けてねえよ」
「じゃあどうして?」
「いや、それは……」
彼の妹の名前は『らいは』というらしい。また一つ彼の事を知れた喜びと同時に四葉は何処か違和感を覚えた。
リボンを付けるなんて女の子に決まっているし、それが妹でもないとなると……。
「……その、なんだ。前も家庭教師をしてたんだが、その時の生徒がお前みたいにリボンを付けてたんだよ」
「へえ、そうなんだ。どんな子?」
「どんなって、別にいいだろ」
「どんな子?」
「だから……」
「どんな子?」
「………」
「どんな子?」
「……一言で言うなら馬鹿だ。それも超弩級の馬鹿だった。何度あいつに手を焼かされたことか」
何度か尋ねると彼も折れてくれたのか、渋々とその子の事を教えてくれた。
彼の声や表情からその"前の生徒"とやらが彼にとってどれだけ大事な存在なのか嫌でも伝わった。きっとその子が、間違っていた彼を正してくれた子なのだという確信が四葉にはあった。
余程、思い入れがあったのだろう。次第に楽しそうに語る彼を四葉は微笑ましそうにずっと聞いていた。
彼が語るその子とはいつ出会ったのだろう。仕事という事は去年あたりか。
という事はたった一年程度の付き合いしかしていないという訳で……。
これから先は自分の方が長い付き合いになるのが確定している訳だ。
まるで愛おしそうに思い出を語る"前の生徒"よりも自分の方が永く。
思い出なんてものは上から積み重なるものだ。過去よりも今、今よりも未来。
今はこうして過去に耽っている彼も次第に自分達姉妹の事を今のような表情や声色で語るようになるのだろう。
それを想像するだけで四葉は身が震えるほどの優越感を覚えた。
◇
あくまでも家庭教師としてあいつらを卒業させるつもりだ。それは変わらない。
けれど、それを為すには乗り越えなければならない過去があるのもまた事実だ。
過去のしがらみは拗れる前に取っ払ってしまった方がいいに決まっている。
前回のように協力して貰いたかったのも確かだが、あいつには溜め込んだものを全て吐き出して欲しかったのが本音だ。
とはいえ、四葉にあんな事を言ったが自分が一番過去に囚われているのが皮肉なものだ。
囚われたままでは前に進めない。それは俺も同じだ。
逃げずにあいつらと向き合い導いて、初めて明日に進めるんだ。前回はそれを理解してなかった。
だから未来を阻まれた。精算の終えていない過去はいくら忘れようとバラバラしても石の下からミミズのようにはい出てくる。
今度こそは必ず成し遂げてみせる。輝く未来に羽ばたくあいつらを見送りたい。
もし、全てが終わったら……あいつらを笑顔で卒業させる事ができたのなら、今度こそ俺も前に進もう。
今は目先の事ばかりで手一杯で未来の事なんて考える余裕もないが、とりあえずは話をしよう。あの時、共に新たな道を歩めなかった彼女と。
逃げた先で結ばれた前回と違って今度は違った関係になるかもしれないが。
今の俺はまだマイナスだ。それをゼロにしてようやく未来に一歩踏み出せる。
そうだ。全てに決着を付けてまた、ゼロから歩み始めればいい。