二回死ぬだなんて聞いてない   作:ファザー

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第11話

 

 

「(あ゛ぁ〜……しくったぁ)」

 

コンテナの影で蹲りながらそう嘆く。急に現れた熱源反応に驚いて宮野明美を一発で殺せなかった。今頃彼女は一般人に見つかっているはず。ずっと遠くからパトカーのサイレンが聞こえることから、あの熱源はあらかじめ呼んでいたに違いない。となると、彼女を追ってきていた人物。探偵か、警察関係者だ。

明美は今や、十億円強盗犯の一員だ。狙われないわけもなく、こうして追い詰められた。どうやって回収しようか、と思案していると彼女の側にいた熱源反応が徐々に離れていくではないか。どうやら離れるらしい。チャンスと一歩踏み出す。

タタタタッと大人にしてはやけに軽い足音が離れたのを確認して、明美に近づいた。腹と口から血を垂れ流した彼女の顔を見る。安心したような顔だ。この数分で良いことでもあったのだろうか。

 

「(それなら良かった)」

 

あの一般人が何したのかは知らないが、もし彼女が安心して眠れるような出来事があったのなら友人として嬉しく思う。こうして命令だから殺したけど、苦しんで死んで欲しくないから。それに、悪夢のまま飛び起きるなんて、嫌だろう?

血で汚れるのも嫌なので袋を取り出して中に入れる。女性一人なので別に重くもなく、すんなり終わらせた俺はそのまま離れることにした。あぁ、足跡は消さないとな。この靴は特別製なので一般には売られていないが、組織にたどり着かれる可能性がある。

せっせと消しまくって、退散した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴツゴツ、ゴツゴツ。真っ白い研究施設の中を歩き回り、やがて一つの部屋へと立ち入る。

 

「ジムー」

 

適当に呼びかけると奥から白衣を着た女性が出てきた。でるとこはでて引っ込むところは引っ込む、そんな理想な体系を持った俺っ娘、俺の上司ジムである。

 

「おう、帰ったかリカルナ。そこに置いておけ、状態は?」

 

指定された場所に明美が入った袋を置いて中身を取り出す。じーっとジッパーの間からのぞいた肌は青白く、腹部の服は赤黒い。

 

「腹部損傷による出血多量死。綺麗に殺せなくてごめん」

「謝らなくて良い。どうせ全部掻き出すんだ、関係ねぇよ」

 

さらりと黒い事を言ってくれちゃったジムは明美の周りをぐるりと回ってから、手足をあげたり傷の確認をしたりして頷いた。

 

「手足の損傷がない、傷は腹だけ。破れた皮も銃弾サイズだ。充分綺麗だぜ。寧ろ頭をぶち抜かれて殺されるより良い」

 

頭を打たれた場合、脳の損傷が激しい。そうなるとサイボーグになる際、記憶に障害が出る可能性がある。俺たちは脳の中まで機械だが、その記憶の元は人間の脳だ。元々が壊死して記録されていたものがなくなれば、いくら復活したって真っさらな人間になる。エピソード記憶だけならまだしも、意味記憶までもが忘れたら赤ん坊の状態になるだろう。

記憶の復元は、ジムでさえ難しい。

 

「(できないって言ってないのが怖いけどな)……そりゃ良かった。んじゃ任務達成か?」

「あぁ、俺からラムにでも報告しとくぜ」

 

そう言って早速準備に入るジム。さまざまな専用の道具を集め、部屋の温度を下げていく。早く腐らないようにするためだろう。剥製にするにも解剖するにも、動物は生きたまま凍らした方が良いからな。すぐ取り掛かるから今から凍らす意味なんてないので、冷やすだけだが。

 

「リカルナ」

 

さて、こっからはジムの専門分野だ。邪魔者は退散しようとするとジムから声がかかった。扉の前で振り返って体温低下防止用の服を着るジムを見る。

 

「06へ行け。ついさっき目が覚めたぞ」

「え」

 

06。それは部屋の番号。俺の部屋は07。つまりは俺の隣の部屋のことを指していた。

だがその部屋は一年前からずっとある人物専用の部屋と化していたのだ。ノックしても入っても全く返事をしない、彼の。

 

「ま、まさか」

 

……まさか、彼が。

 

「そのまさかだ」

 

っ!

ニヤリと笑うジムから目を逸らして素早く振り返る。自動で開いたドアを通り過ぎて、用いる全速力で向かった。

まさかまさかまさか!!もう目覚めているとは!!

 

『こいつはシャルと同じく通常にする。生憎通常用しか残ってなくてな……お前のような特殊はもう生まれないと覚えておけ』

『あぁ、別にいい。こいつがまた、目覚めるなら』

 

過去のジムとの会話を思い出す。そうだ、彼は通常装甲だった。ならシャルと同じく一年で目を覚めるはずだ。通常は特殊より簡単で組み立ては半年、調整に半年かかる。その五倍はかかった俺とは違う。

ゴツゴツとした足音がガッガッ!に変わる頃、自分の部屋を通り過ぎて廊下の最奥地。06と書かれた部屋へとたどり着く。足を止めて息を整える。どこまでも人間に近く作られた身体は、機械だというのに何故息が上がる。俺がそう思っているだけかもしれないが。

 

「…………っ……!」

 

右手を上げて数秒。ノックしようとするけど、勇気が出なくて下げる。何度かグーパーを繰り返してまた上げる。そして下げる。

どうやって声をかけよう。相手からすると俺に殺された。俺が敵だ。また昔みたいに話しかけられるだろうか。今の職業を諦められるかと問えるだろうか。あぁいやでも彼は、彼らは心の奥底から日本が好きだから……無理かもしれない。

いや、そうじゃない。そんな世間のことは無視して、俺と彼奴の問題で。許してとは言わない……だだ、言わせて欲しい。

腕を上げる。勇気はある。コンコンコンとノックを三回して、どうぞと返事が来た。一歩踏み出し、ドアが開いて中に入る。

 

「お、まえ……っ」

 

見開く彼の真っ黒な日本人らしい瞳に、俺は込み上げてくる気持ちを抑える。あぁ、あぁ彼がいる。

一歩また踏み出す。彼が警戒する。だけど無視して踏み出して、彼が座っていたソファーの近くまで歩み寄る。拳銃を手にしようとしてないのに気づく彼に、俺が取った行動と同じことをしていて思わず笑ってしまう。

笑う俺に彼は驚くけれど、そんなの御構い無しに笑って笑って……微笑みかけて。

 

ただ、言わせて欲しい。

 

「おかえり、景光」

 

また会えて、嬉しいと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目が覚めたら知らない天井だった。

どこかで聞いたネタを脳内で行いながら寝転んでいる状態の身体を起こす。簡素なベットとシーツの上に寝ていたであろう俺は、頭を抱える。

 

「(どうして、生きている……?)」

 

確かに俺は死んだはずだった。銀髪の彼に心臓を……胸ポケットにある端末ごと撃ち抜かれて。左ポケットに入れておいて良かったと思うが、彼はそれをわかったように初めから心臓を狙っていた。何故と思うけれど彼は初めからジンとは違い、胴体の腹ではなく胸を狙う。最初から心臓を射抜くのは明白であった。

 

いやそれよりだ。何で俺は生きている?

 

最初の疑問にぶち当たり困惑する。だが、わからないことがあってもずっとここでくすぶっていてはいけない。

部屋の風景からして病院というわけでもない。ここが何処かを確認してもし敵の手の中なら探りを入れて脱出、身内の中なら知り合いを見つけないと。

ベットから降りると靴を履いていることに気づく。靴を履いたまま寝ているなんて日本人にとってあり得ないが、外人ではあり得る事。特には気にしないが、その靴が自分が最後に履いていたものではないと気づいた。よく見ると手にはグローブが嵌められている。胸から下の胴体には自分の趣味ではない服装がある。

今俺はどんな格好をしているのだろう。近くに大きな姿見があったのでふらふらと近づき覗くと、俺は絶句した。

 

「だ、誰だこれ……」

 

鏡に右手を這わせる。鏡の中の住人は同じタイミングで同じ動作をした。それはまさしく俺である証拠。

嘗められないようにと生やしていた無精髭は綺麗さっぱりなくなり、髪も肩下まで伸びきっている。確かセミロングと言われる長さで、少し萩原みたいだ。ただ髪色が黒色から暗い緑になっているのが気になる。いつの間に染めたのだろうか。

髪型と色を変えるだけで一瞬ではわからないほどの変化を遂げている。人ってこんな単純に変わるんだな、と思いつつ写っている服へと視線を移した。何処かで見たことのあるレザーコートのようなもの。髪色と同じ色をしていた。

 

「……(凄く見覚えがある)」

 

ただ、レギンスにブーツは彼とは少し違う気がする。それに彼にはフードもついていなかったと思う。

この服装からすると俺をここに居させているのは彼、ということになるが……最後の状況的にはあり得る可能性だ。

ともかく自分自身の服装に関しては置いておき、この部屋から出て探索と行こう。ここが何処かを突き詰めなければ。

この部屋の唯一の扉の方へと歩いて行くと、扉の方が不意に開いた。驚いてバックステップを取り、いつも忍ばせている懐にあるはずの拳銃が無いことに気づきながら相手を見た。若い白衣の女性だ。

 

「あ?起きたのかよ、ならそうと言えよ」

 

ぶっきらぼうにそう告げた美人な女性は、俺の横を通り過ぎて謎の機械に手を這わせる。見た目からして心電図だろうか?医療器具には詳しくないのでわからないが、そうしたら彼女は女医ということになる。ただ俺が生きている以上そんな単純とは思えないが。

 

「思ったより同調率が高ぇな……こりゃ特殊でも……いや元を考えると普通でも充分か」

 

訳のわからないことをあーでもこーでもと独り言で呟く彼女は満足したのか振り返り、扉を指差した。

 

「その先はキッチンとリビングになっている。自由に使って良いが、食材はないぞ。必要がねぇからな」

 

その女性はいつの間にかもっていたUSBメモリを振ってニヤリと笑った。

 

「逃げようだなんて考えなよ。お前はもう俺のものだ。それにこっから出てっても古巣には帰れないぜ」

 

後でメンテナンスがあるから大人しくしとけよと言われて、出てった女性に呆然とする。怒涛の勢いすぎてよくわからなかった。つまり俺はここに囚われの身ということになるのだろうか。

 

「(冗談じゃないな……!)」

 

自分自身がNOCとバレたのはその古巣が関係している。中に組織の内通者がいて、それが俺の連絡役になった。だからこそバレたのだし、そいつは俺を容易く売って上に行こうとした。だがその意味は私利私欲の為に容易く身内を売るということ。

その浅はかさで組織に危険分子扱いされたそいつは報告した瞬間に殺されたとは聞いたが、他にもいるかもしれない。

もし他にも侵入されていたら幹部になっているあいつが、ゼロが危ない。連絡役はあの生真面目な風見さんだから良いが、もしもっと上に内通者でもいれば公安が終わる。

あの女医らしき人が出て行った箇所しか出口がない。自動ドアであるそこを潜ると、確かなリビングとキッチンがあった。

質素な壁と床はともかく立派な広さを誇るそれにここがどこかわからなくなる。病院のような場所かと思えばそうでもなし、もし研究所だとしても仮眠室にしては立派すぎる。

ここがどこかを予想しながら壁伝いに部屋を周る。つなぎ目のないのを確認しながら、唯一の出入り口であろう扉を前に立つ。

 

「……(反応がない)」

 

取っ手がないそれは扉の上にあるセンサーからして自動ドアなのは明白だが、目の前に立ったとしても全く反応しない。手を振っても足を振っても回っても踊ってもだ。

電気が来ていないのかと、小さな凹みに手をやって思いっきり引っ張っても開かない。押してもダメ。何しても開かないそれに溜息を吐き、妙に疲れた俺はまた壁伝いに歩き周る。他の場所へ通じる道はあの開かない扉と天井にある小さな通気口のみ。あれは己の胴体だと全く入らない大きさだ。

壁を叩いた音からしても中身が詰まっているのは明白。金属であろうそれにまた溜息を吐きたくなり、仕方なく簡素なソファに座った。めっちゃふわふわだった。

 

「ふっわふわ……!見た目から想像できないなぁ」

 

ちょっと考えることを放棄した。

何故生きているのかという謎は解けないままで、此処がどこかなのかもわからない。謎の美女は何処かへ行ってしまった。

 

「……いやー美人だったな。一晩くらいお伴したいね」

 

相手をしたら手綱を握るのではなく握られる方だろうけど、それはそれで楽しそうだ。

現実逃避してだらける。こんなセクハラな言葉も彼女は聴きたいなあ防犯カメラや盗聴器などの類が無いのはわかっている。そもそも置けるような場所がないほど簡素な部屋だ。

寝転がりながらこのソファにもないか調べていると突然開かなかった自動ドアが開き、驚いて立ち上がる。警戒しながらも瞬時に相手を見て、自分を殺した犯人だとわかると懐に手を伸ばす。

 

「(あっ)」

 

しかし改めて拳銃が無い事を自覚して、仕方なく彼を見ると苦笑していた。

何が面白いのだろうか。彼の表情の理由がわからないまま、近寄ってくる彼に警戒を解かず背を向けずに見つめる。彼はずっと嬉しいのか微笑んでいて、しかし申し訳なさそうに罪悪感が混じった複雑な表情をしていた。

彼、リカルナ=フォルドーが俺の数歩先で止まったかと思うと、泣きそうな顔で綺麗な笑みを浮かべて口を開いた。

 

「おかえり、景光」

 

その優しい微笑みが、何故か十年前に行方不明になった彼と重なって見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なんで、今更お前の顔が浮かぶんだろうな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アキ。

 

 




容姿をどこかリカルナに似せたのに彼がその事に驚かないのは、起きたっていう嬉しみの方が強いっていう。
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