二回死ぬだなんて聞いてない   作:ファザー

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第12話

 

 

あいつと出会ったのは高校一年。

新しい学校に、新しいクラスメイト。出席番号順にに決められた席順の中、クラスが同じで出席番号順の時は絶対に前後一緒だった幼馴染のゼロと俺の間に入ってきた男子生徒。

それがあいつだった。

 

「あー、もしかして友達?」

 

その言葉にコクリと頷く俺たちに彼は気まづそうに頬を指先で掻いた。

 

「そりゃ悪かった。俺、松秋桜花。よろしく」

 

そう言って両方の手で握手を求めてする彼に手ぇ取りづらいだろ!と笑った。

 

 

 

真っ黒な髪に赤い瞳。ゼロの金と青と対になるようなその容姿は学校の中で一目置かれていた。俺も顔は良い方と自負はあったが、明らかに外人の血が入っている二人に比べたら見劣りするものだった。

けど赤い瞳というのがどこか怖いのか、顔は良くても女子たちには近づかれず、逆にその快活さから男子たちにはしょっちゅう遊びに誘われていた。逆にゼロはプライドの高さから男子には嫌われている。

告白の為に女子から呼び出されるゼロをアキと見送り、男子たちに呼び出されるアキをゼロと見送った。たまに先生に呼ばれる俺は二人に見送られる。

それぞれ好かれる場所あったけど、どうしてか三人が三人とも同じ場所に帰ってきていた。と言っても席が順番なのだから仕方ない。

だから、開始宣言もなく徐々に俺たちはアキと親友になったんだ。

 

 

 

「お前らの夢は何?」

 

高校二年の夏。唐突にアキはそう聞いてきた。その言葉に驚いてゼロと顔を見合わせて、そして同時に笑った。

 

「「当然!警察官!!」」

「だろうな!」

 

会った頃から言っていた俺たちの夢。

日本を守る警察官になること。自衛隊ではない、自衛隊を出させないように平和な世の中を望む。きっと緩みきったこの日本では珍しい言い分だろう。

ゼロも昔から警察官が夢で、俺も同じ夢。けど彼がお巡りさんで済ます気がないから、大学受験しなくちゃならないけど。

俺たちの言葉を聞いた彼は、やっぱそうだよなと苦笑する。どうして俺たちの夢の内容がその表情をさせるのかがわからない。だから追求せずに問い返す。

 

「お前は?」

「え」

「アキの将来の夢は何だ?」

 

そう問うたら、アキは黙り込んだ。考えていなかったのだろうか。それにしては表情が曖昧だ。

 

「俺は……何も考えてないや」

 

困ったような笑みを浮かべてそう言った彼に、ゼロはじゃぁさ!と乗り出す。

 

「お前も警察官になれよ!」

「ゼロ?」

「夢、ないんだろう?なら、俺たちと警察官目指そう。一緒にこの日本を守るんだよ!」

 

両手を広げて笑顔いっぱいでそう言ったゼロに、俺も感情が高ぶり笑顔になる。アキの方を向いて何度も頷いた。

 

「アキもなろう!警察官!」

「えっ、でも」

「お前とならなれる気がするぜ!」

「俺もお前らとなら、絶対になれる!」

 

右手と左手をそれぞれ同時に差し出す俺たちに彼は笑って、両方の手を取った。

その微笑みははにかむように、嬉しそうに頬を染めていた。照れているのだろうか、ちょっと困り眉だったのを覚えている。

 

「お前らと警察官かぁ……それも良いかもな」

「「だろ!」」

 

これが彼との最後の思い出。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

たった一年ちょっと。彼と一緒にいたのはそれだけ。一緒に警察官目指そうと言ったのに、彼は翌日から行方不明になった。

大規模な捜索を行われるけれど彼はどこにもいなくて、代わりに大量の死屍累々が蔓延っていた。その事を知ったのは警察になったあとだが、その時は誰も詳細を教えてくれなくて彼がもういないという事実だけを突きつけられた。

墓を建てる気はなかった。だって死んでいないから。でも流石に半年は経つとみんな彼を忘れていって、一年経つと教室にある花瓶には誰も何も言わなくなった。

菊が入った花瓶が彼の机の上に現れる度にゼロは舌打ちをして菊を捨てていたのが脳裏に残っている。そしていつも捨てた後はこう言う。

 

「アキは死んでいない」

 

悔しそうに歪められた表情に俺も同じく悔しくなって、俺たちはより一層警察官への道を辿っていく事を決意したんだ。

 

 

だから彼を見た時、リカルナ=フォルドーを見た時、内心でとても驚いた。それはゼロも一緒で、後で二人で似ているという話になったもんだ。

けれど彼の見た目がアキが行方不明になった時と一緒で、十年も経っていれば俺たちみたいに年をとっているはずなのにそれもない。それに銀の長髪で、隠れていない方の片目の色は黄色だ。可笑しな目の模様していたけれど、あの特徴的な赤ではなかった。

だから別人だと決めつけた。心の中で死んでいると思っていたのかも知れない。

 

「アキ……」

 

目の前でコーヒーを入れるリカルナから目を逸らし、かつての親友のあだ名を呼ぶ。アキ、松秋桜花。女みたいな名前だけど、でもみんなに好かれていた人気者。男子限定だけど。

 

「なぁ、アキ」

 

お前、生きているのだろうか。

 

「何だよ、さっきから人の事呼ん……で………………ぁ」

 

コトリと置かれたコーヒーカップと同時にそんな言葉が降りかかってきて、思わず顔を上げる。そこには気まづそうな顔をしたリカルナがいて、何でもないと呟いた。

入れられたコーヒーカップを手に取る。常に常温であるこの部屋の中での唯一の温もりが手のひらを伝って温めてくれる。

鼻を近づけ匂いを嗅ぎ、まぁ大丈夫かと口をつける。警戒心がないとか思うかもしれないが、さっきので完全に解けた。

 

「何でもないことはないだろう」

 

コーヒーから口を話して、そう返した。ちらりと目の前に座ったリカルナを見てみると、彼は目を合わせず温かいコーヒーを啜っている。音が鳴らないだけマシだが、行儀が悪い。

 

「何でもないったら何でもない」

「意固地。だったらこの状況を説明してもらうぜ?アキ」

「あぁ。ジムからもそう言われてる……って俺はアキじゃねぇ!」

 

どうだか。

 

「じゃぁ何故俺の名前知ってた?何故、俺が生きてて嬉しい?何故、発音も字面も違う“アキ”が自分の名前だと思ったんだ?」

 

疑問に思っていた事をぶつけると彼はぐぅと呻いた。それに少し嬉しくなる。

彼が、リカルナ=フォルドーが松秋桜花と確証しているわけではない。確信していた。ただ俺がそうだと信じたくて、信じたら信じた分だけそれは事実として返ってきてるからこそ、こうして確証に至ろうとしている。

 

なぁ、お前はアキだろう。生きていたんだよな。

 

十年間、生きていると思っていたのに死んだものとして扱っていた親友。それが変わったとしても目の前に現れている。それがどれだけ嬉しいか。正直平素を偽るのも厳しいぐらいに感情が振り切っている。

 

「じゃぁ逆に聞くぜ、スコッチ。確証もないのに俺がアキってったら信じるのか?」

「あぁ」

「即答かよ!!ちょっとは考えろ!」

 

“即答!?ちょっとは考えろよ!ヒロ!!”

 

過去の彼の言葉まだぶってまた嬉しくなる。緩み切る頬は隠せずに、ニマニマと笑った。

 

「ッ…………はぁ……とにかく俺はアキじゃない。そういうことにしといてくれ」

「あぁ、お前はアキじゃない」

「……往生際が良いのか、悪いのか」

 

ため息を吐く彼が俯いた瞬間、ちらりと見えた赤い左目が過去の彼と同じで無性に何かが込み上げて来る。ぽろぽろと水が流れて、それが俺の目から溢れている涙だとわかるのには時間がいった。

同じように俯いて、逆に顔を上げた彼が驚いた表情をしたのが見えたがそれを気にする余裕もなく。ただ、ぽんと優しく頭の上に置かれた手が感情の抑えをなくす。

ずっと泣いている俺に何を思っているのかわからないけれど、彼、リカルナ=フォルドーはため息を吐いた、

 

「俺も見てないことにするから……あー……だからさ、誰も見てないぜ?」

 

感情の揺れ幅が壊れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目の前で友人に泣かれてギョッとしたけど、なんとか大丈夫だった。

景光が生きていたことに対する俺の気の緩みだったけど、“アキ”という昔のあだ名に反応してしまって俺が一年間半程友達だった松秋桜花だとバレた。ただ、こいつは行方不明者扱い。俺はリカルナ=フォルドーであってアキじゃないと、そうしてくれと願ったら簡単にイエスと言ってくれた。まぁその後なぜか泣かれたのはよくわからないが。全く、心臓に悪い。

まぁリカルナ=フォルドーの方が本名だし、松秋桜花は偽名だ。両親の偽名から引き継いだな。彼らも偽名を使って生活していたし。戸籍をどうやって手に入れたのかは知らないが。

因みに行方不明者が七年間行方不明だと、法律上死亡したことにすることができる。俺の場合は十年。ジムがとっくに死亡扱いにしたらしい。その時に手に入った保険金やら何やらは俺の懐の中だ。生きてるのに自分を死んだことにするのは中々シュールだが、お金が手に入ったので良しとしている。

 

「ボクはシャル=ファインデット。君は?」

「俺はフィーネ。フィーネ=イニッツィオだ」

「そっか!よろしくね!フィーネ!」

 

イタリア語で終わりと始まりの意味を指す言葉であるフィーネとイニーツィオ。ほぼそのまんまの名前だが彼は景光が終わって(fine)、フィーネが始まる(inizio)と比喩する為にこの名前にしたそうな。

前に使っていた偽名は色々とバレるので不採用なのと、見た目がもうほぼ外人であることで海外風の名前にした。それっぽく見えるだけで日本人は騙されてくれるものだ。わざわざ意味まで調べまい。多分、な。

ニコニコと笑って手を差し出すシャルに対して、同じくにこやかに手を握り返す景光。ただの挨拶なのに何故か薄ら寒いものを感じて、思わず二の腕をさすった。

 

「ねぇ、ジム。何でボクと同じ通常装甲なのさ?」

「通常の方が安く済むからな」

「プロトの方が安いでしょ!」

「馬鹿だな。配線回路と素材が違うだけで、値段はほぼ同じだ」

 

煙草に火をつけながら気怠そうに理由を話すジムに対して、シャルは段々と機嫌が悪くなる。いや悪く見えるだけで、あれは実際には悪くなっていない。ただ頬をエサを詰め込みすぎたハムスターのように膨らませてるだけ。ジャンプしたら上下に揺れそうだ。

 

「それにプロトの分の素材は一体分しかない」

「……」

 

同じ通常装甲の何が嫌なのだろう。ジムの言葉で黙ったシャルだが、ジッと景光を見た後そっぽを向いた。景光はそんなシャルを見て苦笑している。

それからスタスタと俺の横を通って部屋を出て行こうとするシャルに驚いて振り返る。

 

「おい!シャル!どこ行くんだよ!」

「マザーのとこ!!」

「任務は!?」

「そこの新人くんに任しといて!!」

 

そんな勝手な……。

シャルが去り自動ドアが閉まった後、景光は首を傾げて、マザー?と呟いた。

 

「彼奴、あの決闘場から連れて来た奴だろ?」

 

暗に母親なんていたか?と問いかけて来る。シャルは孤児だ。あの日のターゲットであった女性に買われ、飼われて育った。謂わば俺と同じで根っこからの裏社会の人間である。

見た目と性格では普通だろうが人を殺すことに抵抗はないし、この状況にも適応が早い。あのジンにだって気に入らなきゃ噛み付くような子だ。

まぁ人殺しが好きというわけではないのだろう。やれと言うならやるだけで、忌避感がないと言うだけで。でも表からすれば狂った感情だ。

 

「何だ、話してなかったのか?」

「今から発足するんだろ?だから別に必要ないかなって。シャルには?」

「もう説明したぜ」

 

成る程、だからマザーのところに。

景光には彼自身の身体の事と、ここが何処かを説明した。それが一番早く知りたい事だろうからだ。それに彼がスナイパーだとジムに伝えているので、それ専用に身体が改造されていたりする。つまりは同じ通常装甲と言っても中身は別物だ。

 

「リカルナ、説明してやれ。俺はこいつの武器を取って来る」

「えっ俺が?」

「他に誰がいる?」

 

いや、ジムが。

説明が面倒だからジムに押し付けようと説明してなかったのに、また俺が説明することになるらしい。上司の命令には逆らえないのをいいことに、彼女は白衣のポケットに手を突っ込みカツカツとヒールを鳴らして去っていった。

武器を取りに行くと言っていたので、多分あの化け物武器だろうな。俺の双銃も化け物だが特殊装甲だからこその賜物だ。でもあの武器は通常装甲の景光に扱えるようにしてあるのに、とんだじゃじゃ馬である。少なくとも俺には無理だった。

 

「で、説明してくれるんだろ?リカルナ先輩?」

 

見た目は上で年齢は同じな彼に先輩と呼ばれたらちょっと寒気がした。人好きのいい笑みを浮かべた彼にジト目を送りながら、俺は口を開く。

 

「マザーってのはマザーコンピュータ、通称“MOTHER”の愛称だ。まぁそのまんまだな」

「マザーコンピュータ?コンピュータに愛称なんてつけてんのか?」

 

最もな疑問だ。だがマザーはただのコンピュータではない。

 

「そりゃ無機質な物に愛称なんてつけるか。それをするのは愛着が湧いた時だけ。マザーは只のコンピュータじゃない、意思を持った“人”だ」

「は?」

 

心底意味がわからないと言うようにこちらを見る景光に、俺はごそごそとポケットから端末を取り出す。よくあるスマートフォン。因みに林檎の方で、最新機種ではない。

残念な奴を見るような表情をしている彼に、この前のショッピングで撮ったマザーとの写真を見せつける。服屋での買い物を終えて、よくあるクレープ屋のクレープを二人仲良く買って自撮りした奴だ。

大きくピースして笑っている俺と表情がないながらも嬉しそうにクレープを見せつけながら小さくピースしているマザーの写真。それを見た景光は俺と写真を交互に見ている。

 

「まさか……」

「そのまさか。ここに写ってる少女が“MOTHER”だ。それで俺たちがこれから発足する部隊、“MOTHER KEEPER”。即ち、この子を護ることを目的とした独立部隊だな」

 

そして“MOTHER”が世に出たときに伴う危険性を伝える。この子が誰かの手に渡り悪用された場合、最悪世界が終わると。

今のネットワークはジム達が持つ技術に追いついていない。サイボーグなんて作ってしまう近未来的な技術があるのに、ネットワークに繋がったコンピュータであればあらゆるものを扱えてしまうMOTHERもいる。正直ここの部隊だけ戦闘力がとてつもなくやばい。

つまりは、彼らを敵に回してはいけない。

 

「だからこそ護る。俺たちの手の中にいさせる。それが俺たちの役目だ」

 

そう言って納得する景光に、ときに景光?と話しかける。

 

「お前、景光を捨てられるか?」

「え……」

「一度NOCとしてバレた以上、おまえの居場所は組織にも元の場所にもない。どうせ密かに殉職した事になってんだろうし、ここにいる限り組織と関わる。だから、景光を捨てフィーネとして生きられるか?」

「………………」

 

景光は黙り込む。

景光を捨てるということはこれまであった人間関係すら捨てるということになる。俺の今はリカルナ=スォルドーなように、彼の今はフィーネ=イニッツィオである。

幾ら景光が終わったと比喩しようと二十年以上もその名前で生きてきたのだから、そう簡単に捨てられるはずがない。

此方に目を合わせず俯いたままの彼に溜息を吐いて、苦笑いする。

 

「何もずっと捨てとけと言ってるわけじゃない。もしここを支援する場所がなくなって、あっちに居場所があったらその時は景光だ。まぁここなくなったら俺たち終わるんだけど」

 

ジムとここの設備がなければ俺たちは生きられない。

だから、だからさ。と景光に笑いかける。

 

「今だけだ」

 

右手を差し出す。これを取ったらお前は景光でなくフィーネになるという意味を含めた握手。

その手を見つめていた景光はさっきの俺のようにため息を吐いて、俺の右手を取った。

 

「よろしく、リカルナ先輩?」

「あぁ、よろしくな。フィーネ」

 

 




だんだん多くなる文字数……。
因みにアキはちゃんと景光の事、ヒロって呼んでたりします。
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