二回死ぬだなんて聞いてない   作:ファザー

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第13話

 

 

使い慣れたソフトカバーのギターケース。自分の趣味と職業を併せ持つこれはよく背に馴染む。と言っても前に使っていたのとは別物だが。

今の髪色と同じ黒に近い深緑のギターケースを横に置き、チャックを開けて中身を取り出す。必要なのはベースギターではなく、その下にあるライフルだ。

“MOTHER KEEPER”についての説明を受けた後、押し付けられた任務の為に新たな上司となったジムの指示のもとこのビルの屋上に来ている。対象の詳細は聞かされていない。このジムから渡された特製ライフルの試し撃ちだそうだ。ついでに任務もやってしまおうという考えから、少し彼女が物騒な思考をしていると考えられる。まぁそれでも一晩相手してもらいたいけど。

男として当然だろうと頷きながら、ライフルを取り出す。だがいつものように取り出そうとしてその重さに少し驚く。

 

「……重い」

 

そう呟き暗闇の中、着々とベースギター以外を取り出して並べる。その数々は今までの俺の常識を覆すものだった。

ベースギターのケースから察してほしいのだが、今まで使っていたスナイパーライフルは大まかに言ってアサルトライフルと呼ばれる小銃弾を使った狙撃銃だった。弾は5.56mmや7.62mmが一般的。適正距離は500m〜600m。つまり約650ヤードまでのやつ。

まぁつまりはアサルトライフルが俺にとっての狙撃銃だったんだが……このケースの中に入っていたのはアサルトライフルではなかった。

 

『フィーネ、聞こえるか』

 

ジムからの脳内通信が入る。ここに来るまでにも何回か通信が入って驚いたが、今では慣れたものだ。この数時間で慣れた俺にリカルナが怪訝そうな顔で見て来たのは面白かったが。そんなリカルナはこのビルの屋上の入り口付近にいる。

 

「聞こえてるぜ。早速質問いいか?」

『何だ』

「ジムがくれたこのライフル。俺が使ってたのと違うんだが」

『あぁ、そうだが?』

 

悪びれもなく返答したジムに項垂れる。つまりは元々俺が扱っていた銃と違うとわかっていてこれを渡して来た。特製品とは言っていたが、せめて慣れたやつが欲しかった。

 

『そんな事を聞くという事は、開いたんだな?』

「あぁ」

『ではこの俺が直々に使い方を説明してやろう』

 

上から目線な彼女の指示に従って銃に手を出す。どうやらこれは組み立て式らしく、上半分と下半分をくっつけて一つの銃にする。その時“ピピッ!”という音がしたので嫌な予感しかしない。

高倍率のスコープを取り付け、脚立で立たせる。暗闇の中慣れて来た目で見ると、そのスナイパーライフルはとてつもない存在感を放っていた。ここに来る前にリカルナに頑張れと言われたのを思い出す。

 

『で、銃弾だがケースの外側にあるポケットに入っている。取り出せ』

「いや銃弾をそんなとこに入れるなよ。万が一触られてバレたり、暴発したりしたらどうすんだ」

『そのポケットだけ特殊加工したハードケースにしている、そんな心配は皆無だな。で、取り出したか?』

「あ、あぁ。でもこれは」

 

銃弾が入った箱に書かれた名称を呆然と読み上げる。いやだってこれは、滅多にお目にかかれない。

 

「.408 Chey-Tac弾……だって……?」

『ん?どうしたフィーネ。お前なら知っているだろう。スナイパーなら皆が皆欲しがるものだ』

 

.408 Chey-Tac弾。とある会社が作る特殊な弾だ。因みにこの弾を使う狙撃銃はかなり限られて来る。一番有名なのは。

 

「まさかこの狙撃銃、M200だったりするのか?」

『惜しいな、M300だ』

「は?M300??」

『お前が知らないのも無理はない。M300はまだ開発途中……まぁそろそろ完成だろうがその図を入手してな、M300を参考にしたオリジナル狙撃銃だと思ってくれれば良いさ』

 

M200 Intervention .408、通称M200は.408 Chey-Tac弾を使用する狙撃銃だ。その飛距離は2000mにも及び、現存する中で最高距離を誇ると名高い銃である。

発射された弾は音速を誇り、狙撃音は撃った後に聞こえて来るほど。そもそも二キロ先から狙撃されれば何が起きたのかさえわからない。それに二キロ先であっても狙撃時から速度を全く落とさず、付属には弾道計算用コンピュータが付いて来る。化物ライフルだ。

俺が公安から組織に潜入する際に申請した狙撃銃の一つなのだが許可が降りなかったものでもある。一度使ってみたかったのだがそもそもの弾丸の生産数が少ないというのもあり、高価なので諦めていたものだ。そんなのをここで使えるとは。

とは言え、ジムはM200ではなく開発途中のM300を参考にしたオリジナルと言っていた。流石に完成間近とはいえ、完成していない銃を作れなかったらしい。と言っても、オリジナルの銃を作れるジムの財力が気になるのだが。図を入手したというのはこの際スルーしておく。黒の組織も突拍子もないことをするしな。

 

『ま、完全オリジナルなのは付属のコンピュータだが。ギターケースと一緒に渡したヘッドフォン、持っているな?』

「あぁ、ずっと首にかけたままだぜ」

『よろしい。ではそれを装着して、任務開始だ。彼女の手順に従え』

 

彼女というのは誰だろうと考えるがわからないのでスルーしつつ、りょーかい、と呟きヘッドフォンを装着する。すると急に耳元から女性のような声が聞こえた。ジムとは違う高い声だが、どこか機械的な声だ。

 

【使用者の装着を確認。狙撃手補助コンピュータ“デルタ”を起動します】

「はっあっ?」

 

狙撃手補助コンピュータ?デルタ??俺の知ってる弾道計算用コンピュータじゃないんだが!?

 

【おはようございます】

「あ、あぁ。おはよう……?」

【マスターの声帯パターンを認識、登録しました。初めまして、マスター。私はデルタ。只今から貴方をサポートさせていただく、独立型AIです】

「え、AI?」

 

AIってあのAI??

しかしヘッドフォンから聞こえて来る声は機械的ではあるがまるで人間のようで、俺の呟きにもきちんとハイと答えていた。

AI技術はまだ日本では確立されてないはずだ。いやAIと言っても偏にこうした喋るタイプだけでなく、ゲームとかでいうNPCやCOMのようなものもある。まぁあれはある一定パターンを入力されたものなのである程度読み取れるが、このAI技術は行き過ぎている。

 

【それでは今回の任務、ターゲット岡本剛議員の暗殺をサポートさせていただきます。まずはこちらを】

「うぉっ!?」

 

突然視界に出現した物に驚く。青白い四角い何かは暗闇の中でも目に優しい色をしていた。いや青白いのに優しいとか意味がわからないが、目が痛くないのでそうなのだろう。

その四角いパネルのようなものの中に色々な文字が飛び交う、そして数秒ほどである情報を表示した。

 

「(これは……)」

 

これは今回狙うターゲットである、岡本剛のプルフィールだ。名前から生年月日、体重や住所、はたまたプライベートなものまで。いくら太った人だからって女性用下着を着けてるのは知りたくなかった。胸を美しく見せようとしてどうするのだろうか。

 

【この情報はもうすでに把握しておられると思いますので、私が説明するのは次の項目からとなります。まずターゲットの居場所ですがここから4.8km先、岡本剛家宅、二階寝室でございます】

「4.8っ!?!?」

 

ほぼ五キロじゃねぇか!届くのか!?それ!

 

【届きます】

「心の声読まれた!?」

【声に出ていました。そして岡本剛家宅の寝室ですが南側と東側に窓があり、一つは小窓でございます。ですが、その南側の小窓から丁度岡本剛議員の顔が見えますので、それを狙っていただきます】

「小窓ってどのくらい」

【横枠約40cm、縦枠約120cmでございます】

「無茶な!?」

 

いやいやいや!いくら元M300で.408Chey-Tac弾だとしても無茶だ。俺の技量が行き届いていない。銃というのは一直線に飛ぶ簡単な事象でできているが、狙撃というのはそんな単純なのではない。もし、真っ直ぐスコープの照準通りに合わせて撃ったとしよう。絶対にそこには当たらない。

銃から飛び出した弾丸はあらゆる影響を受ける。知覚できる限りで風や湿気、天気、はたまた重力など。あとは自転だ。何の?地球のだ。地球はゆっくりと人が知覚できないほどに回っているが、音速で動く銃弾は影響を受けやすい。そうミリ単位でだ。これらを考慮しなければ狙った場所には当たらないだろう。

二キロ圏内なら俺も経験があるので大丈夫だがそれ以上、それも五キロなんて無茶にも程がある。ここを選んだリカルナやジムは狙撃手をどう考えているのやら。

 

【無茶ではありません。その為に私、デルタがいます。ミッション開始の宣言をしてください。そうすれば、今の貴方に必要な情報を全て開示して、私は全力でサポートいたします】

 

AIだからそう言えるのだ。いくら計算できたって撃つのは俺だ。俺がしくれば、全て失敗する。嫌な期待だ。化物銃に視線を落とした。

 

『言っておくが拒否権は無しだ。これはお前を組織に認めさせる試験。ボスにはバレてねぇがラムにはお前のことバレてるからな。俺という後ろ盾がなければ今頃お前はジャンクだ』

「……ジム」

「ま、諦めろ。フィーネ、お前はもう“MOTHER KEEPER”の仲間だ。ジムの命令には逆らえねぇよ」

「リカルナ…………は、逃げ道はとうに断たれてたか」

 

髪をくしゃりと握り込み、苦笑いをする。

どうやら覚悟を決めないといけないらしい。

 

「お前は逃げ癖があるからな」

『だろうな。NOCバレした時、組織の情報をろくに流さずに自殺しようとしていたからな。そうだろうとは思ったぜ』

「公安に組織の手の者がいたはずだぞ、それも下っ端」

『あぁ、馬鹿だと早々に殺されたがな』

「うわー……公安の後始末を組織が?うわー」

「人が折角集中しようとしてんのに!その会話とその態度やめてくれ!?」

 

グサリと心に刺さる言葉に声を荒げると、リカルナは苦笑して去っていった。屋上の階段から降りる音がするということは、下を見てくるらしい。彼の足音は重くて独特な音がするのでわかりやすい。

彼を見届けた後は前を振り返る。一面闇の中、綺麗に光る星が見えた。

 

【マスター、決心しましたか?】

 

数秒の沈黙の後AI、デルタの言葉に頷く。すると彼女はそうですかと呟いた。その呟きがどこか人間臭くて、本当にAIじゃないみたいだなと俺は苦笑する。

多分これから長い付き合いになるであろう彼女によろしくと言うと、すぐさま返事が返ってくる。よろしくお願いしますと言った彼女が頷いたような、そんな気がした。

 

「デルタ」

【はい、マスター】

「ミッション……開始(スタート)だ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【承りました。マスター、フィーネ・イニッツィオによるミッション“岡本剛議員の暗殺”のサポートを開始します。開始まで3、2、1…………】

 

 




銃云々については必死に調べた結果なので許してください。元々カッコいいなとは思ってても形しか知らないにわかだったので、おかしな点があっても見逃してくださいな。
因みにM200、異次元の狙撃手であの糸目大学院生が使っていた銃らしいですね。割とラストらへんの。ヤベェな大学院生……いったい何秀一なんだ……。
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