二回死ぬだなんて聞いてない   作:ファザー

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第3話

 

 

あの後のメンテナンスでジムに愚痴れば盛大に笑われ、ベルモットに言えば微笑まれ、シェリーに至っては呆れたため息だ。

そしてバーボンによるハニートラップというものを習った激動の数日間。ついに作戦実行日が来たのだ。

 

『では、手筈通りに』

『『「了解」』』

 

インカムを通じて支持された場所へと向かう。そこにはターゲットである身長の高い女性がいた。ヒールを履いていることから本来の身長は今の身長よりは低いだろうと思うが、それは今は関係ない。とりあえず俺の身長よりまだ低くて良かったと安堵する。

仮面の下で目を瞑り、精神統一を図る。小さく深呼吸をして、自分はやれると意気込んだ。

 

「よし」

 

雄叫びが聞こえる。

ターゲットが足しげく通う此処は、闘技場。ただ金持ち御用達のお洒落な場所だ。

会場の中央は吹き抜けになっていて、地下の部分にあたるそこは土が敷き詰められ、屈強な男達が戦っていた。その周りでは、仮面を付けた老若男女が自分が勝つと思った選手のチケットを握っている。

さながら競馬場。ただ、戦うのは同じ人間。此処は、古代ローマ時代に流行った殺しありの闘技場。小さいコロシアムだ。

流石、裏に通ずる金持ち達。皆が笑顔で苦しむ男達を見ていた。

 

ま、それは無視するんだが。

 

これで顔を歪めていてはいけない。俺も裏の人間。ウェイターから受け取ったシャンパンを片手に歩く。

 

『ターゲットまで、3、2、1』

 

斜め後ろに立って、優雅に笑う。

 

「少し宜しいですか、Mademoiselle?」

 

丁寧に手入れされたであろう髪が目の前を横切り、形の良い顔が現れた。

まっっっっって????待ってくれ???めっちゃ美人じゃん????????美人過ぎない????えっ?????写真で見たものより、実物ヤベェな。こりゃジムに並ぶほどの美人だ。ベルモットにも及びそう。

しかしその小さな綺麗な手は見た目だけで、内側は真っ黒に染まっている。俺と同じく真っ黒で、心までもが闇に染まった悪。そして黒の組織に目をつけられた可哀想な人だ。

彼女は俺を見て微笑む。目だけを覆う仮面に隠れていない頬が仄かに赤く染まったことから、俺がストライクゾーンだったのだろう。まずは気に入られたことにほっとする。

何の用だと言う彼女に俺は微笑み、闘技場を見下ろす。

 

「暫く前から貴女のことが気になっていまして」

 

驚く彼女。

 

「良く此処で見かけますから、賭け事が大好きな仲間なのかと」

 

ジャケットのポケットに入れていたチケットを取り出す。選手の番号と金額が書かれたそれは、賭け札。

俺のチケットに載っている番号を見て、目を細めた。どうやら彼女が飼っている選手の番号らしい。知ってるよ、だから買った。

 

「そうなのですか?……ふふ、慧眼の持ち主と謳われている貴女の駒のチケットを買えて良かった」

 

最近負け続きでしたから。

すると彼女は大丈夫よと笑う。これからは大勝ちだと近づいてくる。

 

「(すっげぇ、近いんですけど!)それは良かった」

 

頬に手を添えられて使い道を考えとけと言われて、その手の上に手を重ねて貴女とのデートにでも使いましょうかと微笑んだ。徐ろに赤くなる彼女。チョロいなぁなんて思う。

手を頬から離して、反対側の手を腰に回して相手の手の甲に口付けをする。

 

「このパーティが終わりましたら、貴女の部屋でデートプランでも練りましょう」

 

真っ赤っかになりながらも優雅にコクリと頷く彼女。流石金持ち。仮面を被るのは比較的得意らしい。

わぁあ!と会場が湧き上がる。どうやら勝敗がついて、次の試合に変わったらしい。隣に立つ彼女の雰囲気が恋する乙女から、妖艶に笑う女王様へと変わった。チケットにある時間と、腕時計を見比べる。どうやら次が彼女の駒の出番らしい。

誇らしげに説明された。曰く、美しい娘だと。曰く、その強さはそこらの者には勝てまいと。

屈強な男達が戦う場所で美しい娘を出場させる。銀髪長髪という早々いないタイプを言う人ではある。人にはしない事をしてしまう勇気はあるようだ。だからこそ、黒の組織目をつけられたのだが。

入場してきた娘は金髪で、目が死んでいた。美しい白いドレスを身にまとい、細い剣を携えている。確かに見た目はただの小娘。しかしその立ち振る舞いには隙がない。現に、相手を一撃で倒してしまった。

俺からして雑魚な男は、世間にとってはそうでもない。けれどそれを一瞬で倒した彼女は確かに強い。強過ぎる。

懐に入って突き刺された剣は男の眉間を貫いていた。剣捌きが達人のそれだった。怖い。

 

『リ--ナ-』

 

なんだ……?雑音が。インカムからじゃないなこれは。脳内に響いている気がするし。

 

『----カルナ!リカルナ!!聞こえているんだろう!上司を無視するとはいい度胸だなぁ?』

 

うわっ!?ジム!?

 

「〈じ、ジム……?どうしたんだよ。俺今任務中なんだけど〉」

 

脳内に積まれているだろう通信機に小声で返す。ちらりと横を見るが、彼女には聞こえていないようだ。ほっと息を吐く。

 

『知っている。お前のハニトラがどんなもんかと見てやろうと思ってな。視界を繋いでいた』

「〈プライバシーの侵害……!〉」

『お前の身体は俺が作ったんだ。侵害も何もないだろう』

 

確かにと思うが、一言ぐらい言ってくれれば良かったのに。許容するかしないかはさておき。

いつもの如く、ジムの奔放さに溜息を吐きたくなりながら、何で通信を繋いできたのかを問う。ジムはよっぽどのことが無ければ放任主義だ。メンテナンスには厳しいが、それ以外ではジムの所に帰ってなくても何も言わない。寧ろデータを集められるから、どんどん外に行ってこいなんて言うぐらいだ。

リカルナ、と呼ばれた名前に意識を戻す。ジムにしては真剣な声音だった。

 

『そこにいる白いドレスを着た小娘。其奴を連れて帰ってこい。連絡したのはその為だ』

 

良い素体になる。頼んだぞ、と言われて俺が何かを言うまでもなく通信は切れた。いや、説明をくれよ!!!!!!

 

『リカルナ?』

 

今度はバーボンからだった。

今回の作戦を考えたのはバーボンだ。このパーティという名前の賭博場に彼女が来ると調べ上げたのも彼。なので指示するのも彼である。所謂リーダー的存在だ。

隣にいる彼女に聞こえないように返事をする。

 

「〈なんだ?〉」

『今、通信状態が少し悪くなったのですが……何かありましたか?』

 

あぁそれはジムと連絡を取ったからだろう。俺の脳内に載っている奴は、インカムよりも電波が強いらしい。多分だがそのせいでジャミング的な作用が起きたと思われる。

 

「〈今し方、ジムから連絡あって。あの白いドレスの子を拉致ってこいとさ〉」

『はい?』

『それマジか?』

『ホォー、何をする気だろうな』

 

三者三様の反応するのやめてくれ!耳が五月蝿い!

 

「〈俺はターゲットに付きっ切りだから、他の誰かやって欲しいんだけど〉」

 

ちゃんと連れて帰らないと俺がジムに殺されるからな。

 

『それならバーボンか、スコッチだろう。俺はそこにいないからな』

『なら僕がやりましょう。スコッチ、貴方はリカルナのサポートを』

『りょーかい』

 

どうやらバーボンが何とかしてくれるらしい。彼は情報屋と言っていたが、俺が見る限りオールマイティだ。それもどれもこれも一流の。流石にした事がない事に関してはできないと言うらしいが、一般に比べたら出来る方。この男、俺と戦って俺の動きについて来れる程だしな。

すまない、と伝えると別に良いと返ってきた。貴方はターゲットに集中して、と。コクリと頷き、彼女へと向いた。

 

「どうやら貴女の駒が優勝を飾りそうですね。もはや見るまでもありません……どうです?このまま……」

 

肝心の事は言わずにぼかしただけだが、彼女は“そう”と捉えたらしい。顔を赤らめ頷いた。手を取り、腰に手を当てて会場を後にする。

 

さぁ……ここからが本番だ。

 

 

 

 

 

あの後俺の話術を駆使して、組織が目を付けるにあたった情報を抜き出し、ライに狙撃してもらった。

俺が直接殺しても良かったが、血が服に染み付くのは勘弁なので有り難い。眉間に穴が空いた彼女は地面に倒れ伏し、血を垂れ流している。

部屋にあった彼女の端末から聞き出した情報を全て消去し、ネット上にある同じ情報を消した。そしてその血を踏まないように歩き、部屋を出てスコッチの案内で会場を後にして、組織に帰ってきたわけだ。

 

「僕はジンに報告に行きますけど、貴方達はどうします?」

「俺はバーボンと行くわ」

「俺は帰らせてもらう」

「んじゃ、俺はジムんところ帰るよ。バーボン、彼女は?」

 

バーボンに頼んでいた白いドレスの子は何処にいるのか聞くと、指された場所は車のトランク。まさかここの中にいるのかと開ければ、本当に気絶した金髪の女の子が丸まって寝転がっている。

 

………………oh。

 

「連れて行こうとしたら、警戒され斬りかかって来たので気絶させときました」

 

そんな、冷たかったからレンジで温めときましたみたいなノリで言われましても。

怖。バーボンが怖いです。

だからって車のトランクに入れるだろうか普通。確かに座席余裕はなかったけれど、少し詰めればいい事だったのに。黒の組織の幹部の時点で、常識が欠落してるのは知ってるけどさぁ……情報屋はまだ常識的かと思ってたのに。

まぁとにかく、此奴をジムの所へ持って行くのが先だ。

 

「じゃ、貰ってくよ。バーボン、ありがとな」

 

じゃぁなーと手を振りながら、白いドレスの女の子を脇に抱えて歩く。小娘一人ぐらい今の俺にはどうって事ない軽さだ。

この子をジムの所へ持っていけば、俺としては任務完了だ。あくまで俺の上司はジムだからな。あの方でもラムでもジンでもない。

ゴツゴツと靴底を鳴らしながら、俺は施設内を歩いた。

 

 

その後、ジムに良くやったと褒められたのは普通に嬉しかった。

 

 

 




蜂蜜、美味しいよね。
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