二回死ぬだなんて聞いてない   作:ファザー

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第7話

 

 

どうして。

 

そんな思いがずっと胸の内に潜んでいる。

態度で隠そうとも、笑顔で取り繕うとも、必死に忘れようとも、ずっとずっと思い出してしまう。

 

どうして。

 

「どうしてなんだッ!」

 

あの日の言葉が脳内を犇めく。

 

---スコッチは俺が殺した。

 

鈍い銀色の髪が、赤によく映えた。

べったりと咲く血の花に、とても、とても。

 

 

 

いつか置いて行った彼の面影を持った少年に、幼馴染は殺されたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どうして。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

幼馴染が自殺すると知って、必死に駆け回った。足を動かし風を味方につけ、あらゆる可能性を排除して、彼が行くであろう場所に辿り着いた。

きっと彼は身投げをする。辿り着いた廃ビルの屋上から飛び降りれば情報源である端末も壊せるし、何より飛び降りてしまえば誰にも止められないからだ。拳銃すら持っていないと思われる。

 

「(だからと言って死なせてたまるか!)」

 

そんな思いと共に、必死に階段を駆け上がった。

カツンカツンと革靴と鉄の階段がぶつかり合う音が遠く聞こえて、それでいて屋上付近に近づいて聞こえた言葉はやけにハッキリと聞こえた。

 

「じゃぁな、スコッチ」

 

それは銀髪の彼の声。我らが敵視している中間管理職の真っ黒なトレンチコートを着た奴でなく、真っ赤な派手な格好をした少年の声。

そんな声が聞こえたと同時に、パァアンと乾いた音が響いた。ハッとして屋上へと躍り出る。

 

「君だったのか、バーボン」

「遅かったな?」

 

銀と黒の長髪。僅かに吹く風に揺られて靡くそれを尻目に、俺は彼らを見る。幹部の一人ライと、ネームレスでありながら実力者であるリカルナ=フォルドー。彼らはそれぞれ得物である拳銃を片手にこちらを向いていた。

彼らの足元に広がる赤い液体が何を指し示すのかを、優秀な頭脳は瞬時に判断するけど、それを必死に遮断した。

最悪の事態なんて、考えたくはない。

 

「ライにリカルナではないですか。遅かったとは一体……?」

 

わかってる。現実逃避だと。

 

「探り屋の君がまさか理解していないとは思うまい。取られたんだ、手柄をね」

 

ライは肩を竦めて、俺の横を通り階段を降りて行った。暗くてよく見えなかった赤い液体を垂れ流す物体が、ライが消えた分だけ見える。息を呑みそうになって、耐える。ここで反応してしまっては、己までNOCだとバレてしまう。生粋の黒の組織であるリカルナには知られてはいけない。

 

「そういう意味ですか。参りましたね……僕がネズミを捕らえてもう少し上にのし上がりたかったのですが」

 

ところでそれ、生きてます?

そう問いながらも、死んでいると確信している。彼から流れる血は何も地面に水溜りを作っている分だけではない、もたれかかる後ろの壁に一面べったりと張り付いている為に存命はしていないはずだ。

否、否!死んでいるはずがない!しんでいいはずがない!だって、だって!だって俺の!

 

俺の!大事な幼馴染っ!

 

「いや、死んでるぜ。心臓を狙ったからな」

 

確認するか?

ほら、とぐったりとした猫を首根っこを持って差し出すように、それをこちらに向けた。

支えを失った首は斜めに傾き、凡そ三キロもある頭部はだらりと垂れ下がっている。薄い唇からは血が溢れ出し、その猫目はきっともう開くことはない。

ポタポタと足先からコンクリートの地面に滴る血。その色は先ほどの水溜りと同じで、いやにも現実を突きつけてくる。

 

 

 

 

 

嘘だ。

 

 

 

 

 

 

 

こんなのあんまりだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

うそだ。

 

 

 

 

 

 

 

彼が何をした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウソダ。

 

 

 

 

 

こんなの絶対。

 

 

 

 

 

 

 

間違ってる。

 

 

 

 

 

「(うそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそダウソダウソダウソダウソダウソダウソダウソダウソダウソダウソダウソダウソダウソダウソダウソダウソダウソダウソダウソダウソダウソダウソダウソダウソダウソダうそだ----ッ!)」

 

〝いいや?嘘じゃないぜ?〟

 

彼の声が聞こえる。耳を塞ぎたくなる。ダメだダメだ!聞くな!聴くな!訊くな!

 

本当に?だなんて言っちゃいけな---。

 

〝受け入れろよ……俺は死んだ。そうだろ?〟

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゼロ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何かが壊れる音がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃぁ伝えておいてくれよ、バーボン」

 

 

 

スコッチは俺が殺した、ってな?

 

 

 

 

足音が遠ざかる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

暗い。

 

 

 

昏い。

 

 

 

溟い。

 

 

 

闇い。

 

 

 

「…………す、ものか……」

 

赤い水溜をすくい上げる。するすると手のひらから逃げていくそれは、鉄の匂いがしてどろりと手にへばりつく。

そこに映るは、己の顔。醜い、穢れた歪んだ顔。悲しみと怒りがごちゃ混ぜになったその顔は見れたものではない。

あぁ、嗚呼。己の人生の中でここまで心を締め付けるものが、縛り付けるものが、昂らせるものがあっただろうか。

ぽつりぽつりと、零れ落ちる言葉。それはこれからの己の定義を唱える歌。

 

「許すものか……あぁ、待っていろ。スコッチ、お前の無念は絶対に晴らしてやる」

 

湧き出る感情の名は憎悪。

 

 

「そうだ、絶対だ。いつか絶対に、確実に」

 

 

復讐の炎は今、燃え上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「殺してやる……!」

 

 

 

 

 

リカルナ=フォルドー……ッ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あぁ、どうして。

 

 




少年は悔いた。助ける為とはいえ、殺してしまったこと。そしてもう一人の友人の中に潜む赤黒い炎を見た瞬間、己が正しかったのかどうかの判断を鈍らせた。
少年は撫でた。簡素な、それでいて清潔なベットに横たわった友人の頭を。頬は色づき、胸も上下に揺れる。けれど少年は知っていた。中身が眠る前と異なっていることを。
人の身ではなくなったけれど、確かに彼は生きているのだ。

「お前はいつ目覚めるんだろうなぁ」

景光。
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