Fate/next hollow 衛宮家の人々 作:powder snow
休日の長閑な昼下がり。
雲一つなく晴れ渡った空は澄み切っていて、青い空がどこまでも続いている様子が目に眩しい。こんな天気の良い日なら、何処か出かけるというのが正しい選択なんだろうけど、何となくセイバーと居間でゴロゴロとしていた。
衛宮家の主要な面子――桜はライダーと一緒に新都まで買い物に出ているし、良く顔を出す遠坂は今日はまだ現れていない。藤ねえは……可哀想に休日出勤だそうだ。
よって現在、衛宮の家にいるのは俺とセイバーの二人だけとなる。
そのセイバーはさっきから子供のようにテレビにかじりついていて、二時間もののサスペンスドラマに夢中になっていた。
「シロウ! 犯人はきっとこの“ヤス”という人物に違いありません。言動があからさまに怪しいです!」
と、自身の推理を披露したりと中々に楽しそうである。
天気は晴天。けれど畳みの上でゴロゴロするというのも悪くない。そう思いながらテレビを流し見していたが、ふとテーブルの上が寂しいことに気がついた。
――そういえば、とっておきの茶菓子があったな。
給料日に奮発して買った“少しお高いクッキー”が戸棚に閉まってあるのを思い出す。みんなには悪いが、ちょっとセイバーと頂いてしまおう。
そう思った俺は、よっこいしょっと腰を上げた。
「セイバー。少し早いけどおやつにしよう。とっておきのクッキーがあるんだ」
「それは良いですね。では私は紅茶を用意するとしましょうか」
「いや、それも俺が淹れてくるよ。セイバーはそのままテレビを見ててくれ」
そうですか? と一度腰を上げかけたセイバーが座り直す。
折角ドラマを楽しんで見てるんだから、邪魔をするのは忍びない。そう思った俺は一人で台所まで赴くと、紅茶を二人分用意してから戸棚からクッキーを取り出した。
ちょうどその時である。玄関から来訪者を告げるチャイムが鳴り響いた。
「よう、坊主。元気にしてたか?」
玄関に居たのは、シックなTシャツにジーンスというラフな格好の男。モデルのような長身痩躯でありながら、全身が無駄なく鍛えられているのが一目で分かる。
鋭い眼光は獲物を睨むトラのように獰猛だ。
奴はシニカルな笑みを浮かべながら、じっと俺を見下ろしている。
――そう。俺は、この男のことを良く知っている。
っていうか、ぶっちゃけランサーだった。
「ラ、ランサー!? お前……何しに来たんだ?」
「何しに来たって、暇だから遊びに来てやったんじゃないか」
遊びに来た? ランサーが俺ん家に? なんでさ?
「いや、バイトが休みなんで釣りでもしようと思ったんだが、生憎と釣り場に先客がいてな」
「先客?」
「嫌味が服を着たような奴さ。一々言葉に棘があるっつうか……まあ、近くを通りかかったんでな。坊主の顔を見に来たってことにしといてくれ」
「顔を見に来たって……」
この男には一度ならずも殺されそうになっている。
心臓を朱色の魔槍で貫かれた記憶が消える事はない。その事について遺恨がない訳じゃないが……親しく話す程度に仲良くなっているのも事実だった。
まあ、折角尋ねて来てくれた者を追い返す訳にもいかないだろう。セイバーと問題さえ起こさなければ大丈夫。そう思った矢先、その件のセイバーが玄関まで走りこんで来た。
「――ランサーッ!? 何しにここへ来た? 残念だが衛宮の家に貴方の入り込む余地などない。大人しく帰るならば良し。さもなくば……」
眉間に眉根を寄せる険しい表情。
今にも聖剣を抜かんばかりのセイバーの勢い。だが対するランサーは落ち着いたものだった。
「待て待て、セイバー。別に俺は殺り合に来たんじゃねえ。ただ、ダチの家に遊びに来ただけだ」
「……ダチだと? 何をふざけたことを。私は貴方と友人関係になった憶えなどない」
「馬鹿。ダチってのはお前じゃねえ。ほら、ここにいる坊主のことだ」
ぽんっと無造作に、俺の頭に手を置くランサー。
「……それこそありえない。貴方がシロウの身に何をしたか――私は忘れてはいない!」
セイバーの全身に殺気が漲っていくのを感じる。
いわゆる戦闘態勢への移行。場は一触即発の雰囲気に変わっていく。
「……」
確かにセイバーの言いたいことは痛いほど分かる。だけどこの場は穏便に事を済ませるのが誰にとっても最良のはずだ。
そう思った俺は、二人の間に仲介として立つことにした。
「なあセイバー。ランサーは戦いに来たんじゃないみたいだし、ここは抑えてくれないか」
「……シロウ? それを本気で言っているのですか?」
「もちろん本気だ。だって聖杯戦争は終わったんだ。俺達が争う理由はない」
柳眉を寄せて葛藤する様子のセイバー。
けれど大きく嘆息するや、しぶしぶと言った調子ではあるが矛を収めてくれた。
「……分かりました。シロウがそこまで言うのなら従います。従いますが……」
「おぉ! さっすが坊主だっ! 話せるねえっ!」
セイバーの言葉を遮るようにしてバシバシと背中を叩いてくるランサー。
力を抜いているんだろうが、ちょっと痛い。
「……まあ、なんだ。ちょうどお茶にしようと思っていたとこだ。上がっていけよ」
「そっか、じゃあ“遠慮”なく上がらせてもらうぜ」
ハッハッハと豪快に笑いながら靴を脱ぐランサーを、セイバーが刺すような視線で睨睨みつけていた。
一旦矛は収めたが、納得していないのが丸分かりである。
ここに至って俺の最優先事項は、ここ衛宮邸を戦場にしない事となった。
テーブルの上には三人分の紅茶と、ちょっとお高いクッキーが置かれている。もちろんテーブルを囲んでいるのは俺とセイバー、そしてランサーの三人だ。
「お、うめえなこのクッキー。いけるぜ坊主!」
「……少しは遠慮したらどうかランサー。ここはシロウの家だ。そんなに沢山食べる……もとい、行儀が悪いのは同居人として見過ごせない」
「何言ってんだセイバー。こういう時はな“遠慮”する方が失礼に当たるんだよ。なあ坊主っ!」
言葉通りに何の遠慮もなく、ひょいひょいとお茶菓子を口に運び込むランサー。あれよあれよと見る間にクッキーの枚数が減って行く。その行為を苦々しく見つめているのがセイバーだ。
あのなランサー。
あんまり食べすぎてセイバーの分まで取るなよ。そうなったら俺でも止められないぞ。
「ただいまー」
ガラガラと扉の開く音に続いて、甲高い声が玄関から響いてきた。
文句からして誰か戻って来たみたいだ。
続いて、てくてくと廊下を歩く音がする。
声の主は居間まで真っ直ぐに歩いて来ると、襖を開けるや素っ頓狂な声を上げた。
「ただいま士郎。……って、あら? ランサーじゃない。珍しいわね、アンタがここに来るなんて」
「よう、嬢ちゃん。邪魔してるぜ」
戻って来たのは赤いあくまこと遠坂凛。実に晴れやかな笑顔をしている。
そして遠坂の後ろから赤いアイツも顔を出した。
「……やれやれ。気配が一つ多いと思えばランサーか。何だ? 態々こんな何もない場所まで来るとは、案外暇なのだな、お前も」
何もないことはない。
相変わらずコイツは一言多い。
「あん? そう言うお前はどうなんだ? 俺を暇人呼ばわりしながらここに来てるじゃねえか」
「フッ。愚問だな。良いかランサー。サーヴァントとはマスターを守護する者だ。お前のようにマスターから離れてフラフラしているサーヴァントの方が珍しいのだ。……何故だか凛がここを気に入っていてな。そうでもなければ私が“こんな場所”まで来る訳あるまい?」
またもやこんな所――それをお前が言うのかと猛然と突っ込みたい。けどまあ実際は場所云々じゃなくて“俺”に会いたくないだけなんだろうけど。
「っけ。相変わらずいけ好かない野郎だぜ」
悪態を吐きながらも、ランサーが腰をずらして席を空ける。こういう気配りは出来るんだな。
ま、折角来たんだ。あいつの挑発に乗ってこの良い雰囲気を壊すこともないだろう。そう思った俺は、改めて二人分のお茶を追加することにした。
台所で紅茶を淹れてから、それを遠坂とアーチャーの前に用意する。
二人はそれぞれカップを手に取り、軽く香りを確かめてから中身を一口分だけすすった。途端、開口一番にアイツが文句を付けてきた。
「――む!? 何だこれは。この紅茶は香りが飛びすぎているぞ。一体どういう淹れ方をしたんだか……衛宮士郎、お前は紅茶一つまともに淹れることが出来ないのか?」
「文句があるなら飲むな! 食うな! 即刻ここから出て行け!」
「何だその尊大な態度は。紅茶だけではなく満足に客人の持て成しも出来ないのか? これでは将来が思いやられるというものだぞ」
大げさに溜息を吐いて肩をすくめるアーチャー。
こ、コイツは……文句を言わないと喋れない体質なのか。まったく、どういう育ち方したんだか。
「アーチャーの事は気にすんな。単にひねくれてるだけなんだからよ。それより坊主、ライダーはどうした? 確か一緒に住んでるんじゃなかったか?」
相変わらずパクパクと茶菓子を食べながら、ランサーが顔を向けてきた。
「ああ。ライダーと桜は新都に行ってる。当分は戻って来ないはずだ」
「新都? そうか。それなら仕方ねえな……」
何故だか残念そうに肩を落とすランサー。
あれ? ひょっとしてランサーってライダーの事が気になってるのか? 好意がある……とか?
そう思ったのも束の間、俺の直感は見事に外れていたようだ。
「居ないならしょうがない。ライダーなら目の保養にバッチリなんだが。セイバーはなぁ……もっと、こう少女体型じゃなくてだな、グラマーで女らし――」
ランサーの文言をぶち割るように、激しい衝撃音が響き渡る。
――俺は見た。
セイバーの腰の入ったコークスクリューブローが、ランサーの顎にクリーンヒットしたのを。
鎧袖一触とはこのことか。ランサーは障子を突き破り、縁側を越え、凄いスピードで庭の片隅まですっ飛んでいく。
「シロウ。少しランサーと二人で話しをしてきます。お茶菓子は、私の分を残して頂けるとありがたい」
続けて、セイバーが突風のように居間を飛び出した。
直後、嵐のようなセイバーの怒鳴り声とランサーの悲鳴が木霊する。
…………セイバー、怒ってたもんなぁ。
ここはランサーの無事を祈って、一人心の中で合唱しておこくことにしよう。
「馬鹿な奴だ。わざわざセイバーの逆鱗に触れるとはな。しかし今のパンチは見事だった。ふむ。凛に勝るとも劣らない」
ピクっと遠坂のこめかみが動いた。
「……それ、どういう意味かしら、アーチャー?」
「どうもこうも、そのままの意味だが? 何か問題があったか、凛?」
「アンタねぇ……ッ!?」
まてまて、お前等まで争うんじゃない!
睨み合う二人の間に入ろうとした時、再び玄関からチャイムの音が鳴り響いてきた。
「こんにちは、坊や」
何故だろう。玄関にはキャスターが立っていた。
あれ? 今日は厄日だっけか?
キャスターはいつもの魔術師ルックじゃなく、カジュアルな若奥様風の衣装を着ている。
「な……何しに来たんだ、キャスター?」
「ちょっと坊やに聞きたいことがあったのよ。それと、桜さんはご在宅かしら?」
「いや、いない。今は買い物に行ってるんだ……」
「そう。ならちょうど良かったわ」
言いながら楚々とした仕草で靴を脱いでいる。
「上がらせて貰うわね」
「ちょっ」
キャスターは俺の返事を待つことはせず、そのまま居間へ向かってスタスタと突き進んだ。
待て、待て。今そこにはキャスターとは会わせてはいけない人物がいるんだ!
「あら…………? 誰かと思えば、野蛮な魔術師と粗野なサーヴァントのコンビじゃないの」
慌てて追いかけるが時すでに遅し。居間に侵入したキャスターの視線は、真っ直ぐに遠坂とアーチャーを捉えていた。
キャスターと遠坂の相性は非常に悪い。抜群に悪い。だから二人を極力会わせたくなかったんだが……残念ながら既に二人はお互いを敵として認識し、戦闘状態に入ろうとしていた。
「野蛮ですって? ハンッ! 人の生気を吸い取るような魔女に言われたくはないわね」
「なによ。魔術師同士の戦いで、鉄拳を奥の手にするような女にこそ言われたくないわ」
「その鉄拳にしてやられたのは何処の誰なのかしら?」
「それは……」
「本当、神代の魔術師が聞いて呆れるわ」
「……どうやら貴女には“きつい”お仕置きが必要のようね」
女同士の戦い。視線に火花散っているのがありありと見える。
そこに、口を挟まなくていいのに赤いのが横からしゃしゃり出てきた。
「凛が野蛮だと言うのは否定しないが、キャスターが上品かというとこれも納得いかない話になるな」
「アーチャー! アンタどっちの味方よっ!?」
「それは無論凛に決まっている。だがサーヴァントは嘘をつけなくてね。私が言えるのはお互い精進せよということだ」
ピキッ!
あ、遠坂とキャスターのこめかみに青筋が立った。
「そ、そうだ。キャスター、何か用があって来たんだろ? それを聞こうじゃないか!」
ここを戦場にする訳にはいかない。俺には衛宮家を守る義務があるんだ。
ここは話しを逸らせ。話しを逸らすんだ。
「俺に出来ることなら力を貸すぞ」
「……そうね。実は今日は坊やに教えて貰いたいことがあって来たのよ。すき焼きの割り下についてなんだけれど――」
「キャスター。料理などお前の魔術でどうにでもしてしまえ」
……つくづく人の努力を無にする奴だコイツは。
「それ、どういうことかしらアーチャー?」
「お前ほどの魔術の冴えがあれば相手の味覚などどうにでもなるだろう。別に無理して努力などせずとも成果は得られるはずだ」
「アーチャー。貴方がどう思っているかは知らないけれど、料理は作る事よりも相手を想う事が目的の半分なのです。魔術で誤魔化すなんてその想いを汚すことになるのよ? 貴方には一度その身体にしっかりとお灸を据えてあげないといけないようね」
優雅に右手を翳すキャスター。
あれは、いつでも魔術行使を行える体勢だ。
「ほう? たかだかキャスター風情が三騎士であるアーチャーと戦うと? 面白い」
すっくとアーチャーが立ち上がる。
テーブルを挟んで睨み合うアーチャーとキャスター。両者の視線がバチバチと火花を散らし始めた。
……えっと、なんでさ?
何でみんな大人しくお茶が楽しめないのさ。俺はただセイバーと楽しく休憩したかっただけなのに。
そこへ事態を更に悪化させるべく、庭で激闘していたセイバーとランサーが舞い戻ってきた。
「待て、待てセイバーッ! 俺が悪かった! だからエクスカリバーを仕舞えっ!」
ランサーの言葉通り、セイバーは銀の鎧を纏いながら黄金に輝く聖剣を手にしていた。
もろに完全武装です。
「ランサー。貴方には日頃から据えかねていたものがあった。――ええ、良い機会です。今日はとことんまで話し合いましょう」
「それ、話し合う格好じゃないだろっ!」
「――問答無用」
「お前、自分で言ってる事わかってるかっ!?」
……もういい。
家を戦場にさせまいとする俺の努力が実る事はない。そう思った俺は、現実逃避するべくテレビの前で丸くなった。
テレビからは新都で起きた銀行強盗のニュースなんかが流れている。
それを聞いても、ああ冬木も物騒になったなぁ程度にしか思わない。だって、今の衛宮家以上に物騒な所はないからだ。衛宮邸は今プチ異界化している。
そして――ピンポーンと慣れ親しんだ音が響いた。
そう。三度目のチャイムが鳴ったのだ。
いいさ。もう誰でも来い。
どんな事になっても俺が受け止めてやる。
だが三秒後には、その言葉自体を後悔することになってしまう。
『……神様、嘘を吐きました。謝りますから、時間を戻して下さい……』
「あれ? どうしたのシロウ。何だか酷く疲れてるみたい」
玄関先で崩れ落ちた俺を、キョトンとした瞳で覗き込んでくる少女。
そこに居たのは冬の娘ことイリヤスフィール・フォン・アインツベルン。
そして彼女がいるのだから当然あの方も居る訳で。
「イ、イリヤ。その後ろの方はもしや……」
「うん、バーサーカーだよ! 車が壊れちゃったからバーサーカーに連れて来てもらったのっ!」
満面の笑みを見せるイリヤの後ろに、玄関に入りきらない大きな胸板が見えていた。
どうしよう……もう、俺の手には負えない。
立ち上がる気力は根こそぎ奪い取られ、床に突っ伏すことになる。そんな俺の肩をぽんぽんとイリヤが優しく叩いた。
その時――落雷したかの如く事態が急転直下する。
衛宮家に張られた結界が、敵意を持った侵入者を感知し音を慣らしたのだ。
「お前等! 動くんじゃねぇーッ!!」
居間の辺りから野太い男の怒鳴り声が響いてきた。
一体、何事だ? なったく聞き覚えのない声に不信感が募る。
「……俺が様子を見てくる。イリヤはここにいろ」
立ち上がるや、俺は居間に向けて全速力で駆け出した。
廊下を駆け、襖を開ける。
果たしてそこには、塀を乗り越えて進入したのか覆面をした黒ずくめの男達がいた。
人数は全部で五人。それぞれ手に武器のようなものを持っている。中には拳銃を携えてる者さえいた。
「いいか、少しでもおかしな真似したら、ぶっ殺すぞ。これは脅しじゃねえ」
「俺達も警察に追われているんでな。悪いが人質になってもらう」
拳銃を構えて我がもの顔で押し入る黒覆面。
さっきテレビで言っていた銀行強盗達だろうか?
だが、これはやばい。
何がやばいって、今ここに居る人達は全員殺気立っているんですよ。
何とかしないと“大変なこと”になる。しかし、そんな思いも空しいものだった。
奴等を前にしたセイバーが、一歩、前に出る。
ちなみに彼女は完全武装スタイルで、手にはエクスカリバーを持っている。
「誰かは知らない。けれどこの家に土足で踏み入るとは無礼にも程がある」
「こ、こら、動くなって言ってんだ。撃つぞ!」
セイバーの行為に威圧されたのか、男達が少しだけ後退さった。
「……まあ、一宿一飯の恩義って言うか、茶菓子の礼くらいにはなるか」
ランサーが面倒だが仕方ないと、青い鎧姿になった。
右手には真紅の魔槍ゲイボルク。その視線が黒覆面に叩きつけられる。
そんなランサーを見て臨戦態勢に入っていたアーチャーも矛先を移すことにしたようだ。
「どうやら邪魔が入ったなキャスター。提案なんだが、ここは一時休戦ということにしないか?」
「……そうね。まずは邪魔者を排除することにしましょう」
キャスターがくるりと一回転。華麗に魔術師ルックに変身だ。
それを受けてアーチャーも両手に宝具を出現させる。
「なん……だって!?」
一連の行為を不思議そうに眺める侵入者達。
「……お、お前等マジシャンかっ!?」
「マジシャン? 違う。私はセイバーだ」
セイバーが更に一歩、前に進んだ。
「動くなって言ったろうがっ!」
不可思議な光景に頭がパニックになっていたのか、遂に黒覆面の一人が銃をぶっ放した。だが、そんなものがサーヴァントに通じるはずもない。
当然の如く、セイバーは聖剣を一線して弾丸を叩き落とした。
それを愕然とした表情で見つめる侵入者たち。
更にセイバーが近づく。
「ひいいいいいっ!?」
恐慌をきたしたのか、次々に弾丸を撃ち放つ黒覆面。
しかし悲しいかな、弾丸は全てセイバー達が叩き落としてしまった。
「引き金を引いたということは、それ相応の覚悟は出来ているものと考える。愚か者!」
「わああぁぁっ!」
遂に男の一人が玄関に向かって駆け出した。
…………って、待てぇぇっ!
そこには確か!?
「ぎゃあああああああああああ!!」
悲鳴に続いて響いたのはバーサーカーの吼え声。その雄たけびは深山の町に大きく木霊したという。
俺は心で人知れず合唱することにした。
神様、死人だけは出ませんように。
――“二時間後”――
「ただいま、先輩」
玄関から桜の声がした。
疲れ果ててはいるが、迎えに行かねばなるまい。
俺は泥のように重くなった身体に鞭打って、何とか玄関まで足を動かした。
「士郎、ただいま戻りました」
桜と買い物に出ていたライダーが、戦利品である紙袋を床に置きながら靴を脱いでいる。しかし、おかしな気配に気づいたのだろう。首を伸ばして廊下の奥を覗きこもうとしたが――
ひょい。
俺は身体を使ってライダーの視線を遮った。
「……何をしているのですか士郎?」
「いや……別に?」
再びライダーが横へと廻り込む。
それをひょいっと遮った。
ひょい、ひょい、ひょい。遮る、遮る、遮る。
「…………士郎、何か隠していますね」
「な、なんでさ、ライダー?」
ライダーの視線が痛いので、俺はそっと目を逸らした。
「――サクラ。どうも様子がおかしいので私が見てきます。万一に備えてこの場で待機していてください」
「待て、ライダーッ!」
三度全身で遮るも、本気になったライダーを止める術はない。
ライダーは疾風となって廊下を渡って居間へと至り――そこで衝撃の光景を目撃することになる。
果たして彼女が見たものとは……散々に破壊された部屋と、中央で頭を垂れて正座するセイバー、アーチャー、ランサー、キャスターの姿だった……。
後日、衛宮家に警察から感謝状が贈られてきたことを付け加えておこう。