Fate/next hollow 衛宮家の人々   作:powder snow

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第十一話

 無事柳洞池を渡り終えた俺は、その先に展開されていた光景に若干の驚きを覚える。だって先行していたライダー組とランサー組が待機していたからだ。

 何故なんだと思ったが、そこに居た“セーラさん”から事情を聞いて納得する。 

 

「セラはどうやってこの池を渡ったんだ?」

「エミヤ様、セラではありません。セーラです。そこ間違えないように」

「……そのセーラさんは、どうしてこの場に居るんですか?」

「ふふ、エミヤシロウ。それはこの場所が第三の難関だからです」

 

 そう言って、彼女が辺りを振り仰いだ。しかし特別な光景があるわけではなく、ちょっとした広場が広がっているだけだ。

 

「何もないぞ、セラ」

「いえいえ、そこではなく。ほら、よく見て下さいエミヤ様。あのあたりに」

 

 セラが指差した方向へ視線を向ける。

 そこには確かに彼女の言った通りになにか置かれていて……。

 

「って、あれ調理器具一式じゃないか!?」

「フフフ、その通り。詳しい説明は最後のチームが来てから始めますので、暫し歓談などなさってお待ちください」

 

 そう言ったセラが、一足先に第三の難関らしき場所へと向かって歩きだした。なにか用意するべきことがあるのかもしれない。

 それから程なく、遠坂アーチャーチームもこの場に到着した。

 

「あれ? なんで皆一緒にいるのよ? もっと先に進んでるとばかり思ってたのに」

「……まあ、とりあえずあっちへ行って話そうか」

「ん?」 

 

 不思議顔を浮かべる遠坂を交え、俺達はセラの元へと集って行く。キャスターチームが脱落したので四組八人の行進である。

 

 

「きのこでポーン~?」

 

 またしても、綺麗に全員の声がハモった。

 全く予想もしていなかった名称が告げられたからだ。

 

「はい。第三の難関はきのこでポーン。ここにある特殊なきのこをポーンと料理して貰う、というところから名前がきています」

 

 正直言ってアインツベルンのネーミングセンスについていけないところがあるが……今は深く追求するまい。      

 

「そのきのこを料理するのか、セラ?」

「そうですエミヤシロウ。マスター様、あるいはサーヴァントがこれを料理して頂いて、もう片方がそれを頂くという、至極単純な競技でござます」

「それだけ?」

「はい」

 

 セラがコクンと頷く。本当にそれだけなら話は簡単なんだけど(料理の腕には自信がある)彼女の表情を見るに、それだけで終わらない予感がした。

 果たして、俺の直感は正しかった。

 

「但しこのきのこ。煮ても食えない、焼いても食えないという、酷くまず……もとい、調理の難しい品でございます。これを料理する方の腕で克服し、食べる方は愛情を持って完食する。万一、完食出来なかったチームはここでリタイアとさせていただきます」

「残したら、リアイア……」 

「ほう。それは中々に面白そうな趣向だ。戦うばかりがサーヴァントの能ではないからな」

「むっ」 

 

 赤いアイツが自信満々に頷いている。どうやらこの難関にかなりの自信を持っているようだ。しかし要は、とてもまずい食材を如何に料理するかにかかってる訳で、それなら幾らでも調理の方法はある。

 ふっふっふ燃えてきたぜ。伊達に十年も包丁を持っていないというところを見せてやる。しかも料理を食べるのはセイバーだ。これは勝ったも同然――

 

「では、調理する方をクジで決めますので、皆様こちらへどうぞ」

「なん――だと!?」 

 

 俺とアーチャーの声がハモる。

 ……今、なんて仰いましたかセーラさん?

 

「く、クジ引きだってっ?!」

「ええ。それが公平でしょう、エミヤシロウ」

 

 フフフと不敵に笑う冷血メイド。

 

「ささ、この箱の中に入っている紙を引いてくださいませ。当たりを引いた方が調理を担当して頂きます。――あ、二枚しか入っていませんから、一組ずつお願いします」 

 

 そうして行われる運命のクジ引き。

 ――結果は、とても残念なものだった。何故なのかは、組み分けを見てもらえればわかると思う。

 

 作る人『セイバー。アーチャー。間桐桜。カレン・オルテンシア』

 食べる人『衛宮士郎。遠坂凛。ライダー。ランサー』  

    

「シロウ。精一杯がんばりますね」

「セイバー。調理は落ち着いて、冷静に、な?」

「心得ています。いつもシロウが作っている料理には及ばずとも、ブリテンの心意気を込めた一品を作り上げるつもりですから!」

「…………」

 

 気合十分。セイバーは何処からか取り出したハチマキを頭に装着し、よしと拳を握りこんでいた。そんな俺たちの様子を見ていたアーチャーが、一言こう囁いてくる。

 

「衛宮士郎、敵ながら、僅かばかり同情する」

「アーチャー。お前……」

「いや、敢えて語るまい。胃薬……いや、そんなものでは役に立たないか」

 

 目を伏せながら、アーチャーが調理を開始するべく移動を開始した。

 最後に死ぬなよとだけ告げて。

 ――そして一時間後。

 それぞれ作った料理が完成し、俺たち食べる側の前にそれが用意された。全員仲良く長テーブルに並んで腰掛けていて、相棒が作った料理に目を落としている。

 

「あのさセイバー? これは……なにかな?」

「はい。素材の味を活かしてみました」

「……」      

 

 素材の味を活かしたというセイバーの料理は――きのこの素焼きだった。っていうか、これ料理じゃないぞセイバーっ!

 姿焼きと言えば聞こえはいいが、超絶にマズイ素材の味を活かしてどうすんの!?

 

「……」 

 

 チラリっと他のチームはどんな料理なのかと横目で盗み見る。

 アーチャーはきのこを使っているのかわからないほど美味しそうなグラタン。桜は細かく刻んだハンバーグ。カレンは……一番端っこなのでよく見えないが、きちんと調理された料理であることは確かだ。

 

「では皆さま、お食べください」

 

 無情にもセラの号令がかかってしまった。

 

「……シロウ」

 

 心配そうに覗き込むセイバー。

 ええいっ! 男は度胸ッッ!

 俺はきのこを一口分の大きさに切り分けてから、観念して口の中に放り込んだ。

 

「……………………………………なっ!!」

「ど、どうですか、シロウ? 美味しいですか?」

「……………………………………ニコ」

 

 俺は額に油汗を浮かべながらも、なんとか笑顔でセイバーに答えた。だって喋ることが出来なかったから。今もし口を開いたら、確実に何かが飛び出してしまう。

 あまり咀嚼せずに一気に飲み込む。……って、これ一口食べるだけで凄まじい体力を消耗したぞ。

 完食出来るのか?

 そう思いながらも、何とかニ口目に挑戦を開始した。

 

「……もぐ…………モグ……………も…………」 

 

 気を紛らわせようと他組の様子を眺めてみた。

 アーチャーのグラタンを遠坂が、桜のハンバーグをライダーが食べ続ける。羨ましいことにさして時間もかけずに完食したようだ。けれど意外にも、残ったランサーが苦戦を強いられている。

 作ったのはカレンだったよな?

 

「どうしたのですかランサー? はやく食べてください」

「た、食べろって言ったってなぁ……」

「きのこの不味さは中和してあります。問題はないはずですが?」

 

 問題ないと言うカレンの料理は、麻婆豆腐ならぬ、麻婆きのこ豆腐だった。ただし真っ赤な色合いの。あの中華料理店にも負けていないくらい赤い……。

 

「いやいや、辛くて食えないんだよっ! これ人の食える辛さじゃねぇぞ」

「……からい?」

 

 心底、不思議そうに首を傾げるカレン。

 一瞬の静寂。そこからカレンは、ランサーからレンゲを奪い取ると、ひとさじ分だけ麻婆豆腐をレンゲによそった。そして何の躊躇も見せずに口に運ぶカレン。

 モグモグと口が動いている。

 そして一言。

 

「全然、問題のない辛さではないですか」

「アンタ、人間じゃねぇっー!!」

 

 椅子を蹴倒すようにしてランサーが駆け出した。だがそんな逃亡を許すカレンではない。

 カレンが放った赤い聖骸布がランサーの足を捉え、グルグル巻きにしてしまう。

 

「……ゲット」

 

 哀れランサーは、一本釣の要領でカレンの元へと釣り上げられてしまった。

 

「駄犬の分際で主人に逆らおうなんて……。○○するところですよ、ランサー」

 

 麻婆きのこ豆腐を持ち上げて、無理やり口に詰め込もうとするカレン。

 ランサーも必死に逃げようとするのだが、全身を赤い布で拘束されていては身動きが取れない。男性である限り、あの布の拘束は解けないのだ。

 眼前に迫る究極の一を前に、あのランサーが涙目を浮かべている……。

 そして、カレンの凶行がランサーの口に向かって侵食を開始して――

 

「………っ!!!!!!!!」

 

 声にならない叫びを上げて悶絶するランサー。

 彼は何と解けないはずの聖骸布を引きちぎり、絶叫を上げながら、あさっての方向に向かって駆け出して行ってしまった。

 

「……あ」

 

 後に残されたのは、マーボー片手に佇む少女が一人。

 

「………………ラ、ランサーの逃亡により、カレン&ランサーチームは失格とさせていただきますっ!」

 

 無情にもセラの声が響き渡る。

 

「そうきましたかランサー。仕方ありませんね。戻ったら――ギルガメッシュと一緒にお仕置きです」

 

 静かに十字を切るカレン。

 ランサー。迷わず逝けよ……。

 心でひっそりと祈る。だけど今はランサーの心配をしている場合ではない。俺の目の前にも究極の一があるからだ。

 

「シ、シロウ、今がチャンスです。さあ、はやく食べてしまってください」

「セイ……バー……」

「どうぞ!!」

 

 彼女の為にも、俺は……。

 気合を入れて口の中へときのこを運ぶ。しかしその度に意識が遠くなっていく感覚がして……そしていつしか視界が明滅し始め……暗く……なって……いって。

 ガクッ。                                                  

                          

                           ――DEAD END――

 

 

 

「はーい、理不尽な展開で逝ってしまったアナタを救う、タイガー道場のコーナーでーす」

「タイガー道場、助手の弟子一号でーす」

「あぁぁ。ついに士郎ここでも逝っちゃったかぁ…………。まあ、あのセイバーちゃんの料理、料理って呼べないような代物だったしねぇ」

「師匠ー、それを言うと我々の命も危ないでありますっ!」

「うむ、まったくその通りだ弟子一号。ここは大人しく士郎の冥福を祈ろう」

 

 ……三秒の黙祷。

 

「って、師匠! まだお兄ちゃんは生きているでありますっ!」

「何ぃ? アレを完食して生き残るとは……。成長したな、少年」

「我々は意識を失ったシロウの代わりに、結果を発表する為に来たのであります」

「そうだったのか弟子一号。うむ、それならキリキリと結果を発表しよう」                            

「現在、第三の難関を突破したのは【遠坂凛&アーチャーチーム】【間桐桜&ライダーチーム】の二チームであります。お兄ちゃんは健気に頑張ったんだけど……」

「リタイアしちゃったかぁ……」

「お兄ちゃんには、また次の機会に頑張ってもらわないと」

「次の機会も何も、我々の出番はここだけのはずじゃ……」

「……フフ。タイガは可哀想ね」

「ちょっと待て。弟子一号!? おい、何処へ行――」

「おいで、バーサーCAR!」

 

 含み笑いを残して、謎の乗り物に乗ったイリヤが颯爽と去って行った。

 

【衛宮士郎&セイバーチーム】【カレン・オルテンシア&ランサーーチーム】リタイア

 

 

 

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