Fate/next hollow 衛宮家の人々 作:powder snow
無事柳洞池を渡り終えた俺は、その先に展開されていた光景に若干の驚きを覚える。だって先行していたライダー組とランサー組が待機していたからだ。
何故なんだと思ったが、そこに居た“セーラさん”から事情を聞いて納得する。
「セラはどうやってこの池を渡ったんだ?」
「エミヤ様、セラではありません。セーラです。そこ間違えないように」
「……そのセーラさんは、どうしてこの場に居るんですか?」
「ふふ、エミヤシロウ。それはこの場所が第三の難関だからです」
そう言って、彼女が辺りを振り仰いだ。しかし特別な光景があるわけではなく、ちょっとした広場が広がっているだけだ。
「何もないぞ、セラ」
「いえいえ、そこではなく。ほら、よく見て下さいエミヤ様。あのあたりに」
セラが指差した方向へ視線を向ける。
そこには確かに彼女の言った通りになにか置かれていて……。
「って、あれ調理器具一式じゃないか!?」
「フフフ、その通り。詳しい説明は最後のチームが来てから始めますので、暫し歓談などなさってお待ちください」
そう言ったセラが、一足先に第三の難関らしき場所へと向かって歩きだした。なにか用意するべきことがあるのかもしれない。
それから程なく、遠坂アーチャーチームもこの場に到着した。
「あれ? なんで皆一緒にいるのよ? もっと先に進んでるとばかり思ってたのに」
「……まあ、とりあえずあっちへ行って話そうか」
「ん?」
不思議顔を浮かべる遠坂を交え、俺達はセラの元へと集って行く。キャスターチームが脱落したので四組八人の行進である。
「きのこでポーン~?」
またしても、綺麗に全員の声がハモった。
全く予想もしていなかった名称が告げられたからだ。
「はい。第三の難関はきのこでポーン。ここにある特殊なきのこをポーンと料理して貰う、というところから名前がきています」
正直言ってアインツベルンのネーミングセンスについていけないところがあるが……今は深く追求するまい。
「そのきのこを料理するのか、セラ?」
「そうですエミヤシロウ。マスター様、あるいはサーヴァントがこれを料理して頂いて、もう片方がそれを頂くという、至極単純な競技でござます」
「それだけ?」
「はい」
セラがコクンと頷く。本当にそれだけなら話は簡単なんだけど(料理の腕には自信がある)彼女の表情を見るに、それだけで終わらない予感がした。
果たして、俺の直感は正しかった。
「但しこのきのこ。煮ても食えない、焼いても食えないという、酷くまず……もとい、調理の難しい品でございます。これを料理する方の腕で克服し、食べる方は愛情を持って完食する。万一、完食出来なかったチームはここでリタイアとさせていただきます」
「残したら、リアイア……」
「ほう。それは中々に面白そうな趣向だ。戦うばかりがサーヴァントの能ではないからな」
「むっ」
赤いアイツが自信満々に頷いている。どうやらこの難関にかなりの自信を持っているようだ。しかし要は、とてもまずい食材を如何に料理するかにかかってる訳で、それなら幾らでも調理の方法はある。
ふっふっふ燃えてきたぜ。伊達に十年も包丁を持っていないというところを見せてやる。しかも料理を食べるのはセイバーだ。これは勝ったも同然――
「では、調理する方をクジで決めますので、皆様こちらへどうぞ」
「なん――だと!?」
俺とアーチャーの声がハモる。
……今、なんて仰いましたかセーラさん?
「く、クジ引きだってっ?!」
「ええ。それが公平でしょう、エミヤシロウ」
フフフと不敵に笑う冷血メイド。
「ささ、この箱の中に入っている紙を引いてくださいませ。当たりを引いた方が調理を担当して頂きます。――あ、二枚しか入っていませんから、一組ずつお願いします」
そうして行われる運命のクジ引き。
――結果は、とても残念なものだった。何故なのかは、組み分けを見てもらえればわかると思う。
作る人『セイバー。アーチャー。間桐桜。カレン・オルテンシア』
食べる人『衛宮士郎。遠坂凛。ライダー。ランサー』
「シロウ。精一杯がんばりますね」
「セイバー。調理は落ち着いて、冷静に、な?」
「心得ています。いつもシロウが作っている料理には及ばずとも、ブリテンの心意気を込めた一品を作り上げるつもりですから!」
「…………」
気合十分。セイバーは何処からか取り出したハチマキを頭に装着し、よしと拳を握りこんでいた。そんな俺たちの様子を見ていたアーチャーが、一言こう囁いてくる。
「衛宮士郎、敵ながら、僅かばかり同情する」
「アーチャー。お前……」
「いや、敢えて語るまい。胃薬……いや、そんなものでは役に立たないか」
目を伏せながら、アーチャーが調理を開始するべく移動を開始した。
最後に死ぬなよとだけ告げて。
――そして一時間後。
それぞれ作った料理が完成し、俺たち食べる側の前にそれが用意された。全員仲良く長テーブルに並んで腰掛けていて、相棒が作った料理に目を落としている。
「あのさセイバー? これは……なにかな?」
「はい。素材の味を活かしてみました」
「……」
素材の味を活かしたというセイバーの料理は――きのこの素焼きだった。っていうか、これ料理じゃないぞセイバーっ!
姿焼きと言えば聞こえはいいが、超絶にマズイ素材の味を活かしてどうすんの!?
「……」
チラリっと他のチームはどんな料理なのかと横目で盗み見る。
アーチャーはきのこを使っているのかわからないほど美味しそうなグラタン。桜は細かく刻んだハンバーグ。カレンは……一番端っこなのでよく見えないが、きちんと調理された料理であることは確かだ。
「では皆さま、お食べください」
無情にもセラの号令がかかってしまった。
「……シロウ」
心配そうに覗き込むセイバー。
ええいっ! 男は度胸ッッ!
俺はきのこを一口分の大きさに切り分けてから、観念して口の中に放り込んだ。
「……………………………………なっ!!」
「ど、どうですか、シロウ? 美味しいですか?」
「……………………………………ニコ」
俺は額に油汗を浮かべながらも、なんとか笑顔でセイバーに答えた。だって喋ることが出来なかったから。今もし口を開いたら、確実に何かが飛び出してしまう。
あまり咀嚼せずに一気に飲み込む。……って、これ一口食べるだけで凄まじい体力を消耗したぞ。
完食出来るのか?
そう思いながらも、何とかニ口目に挑戦を開始した。
「……もぐ…………モグ……………も…………」
気を紛らわせようと他組の様子を眺めてみた。
アーチャーのグラタンを遠坂が、桜のハンバーグをライダーが食べ続ける。羨ましいことにさして時間もかけずに完食したようだ。けれど意外にも、残ったランサーが苦戦を強いられている。
作ったのはカレンだったよな?
「どうしたのですかランサー? はやく食べてください」
「た、食べろって言ったってなぁ……」
「きのこの不味さは中和してあります。問題はないはずですが?」
問題ないと言うカレンの料理は、麻婆豆腐ならぬ、麻婆きのこ豆腐だった。ただし真っ赤な色合いの。あの中華料理店にも負けていないくらい赤い……。
「いやいや、辛くて食えないんだよっ! これ人の食える辛さじゃねぇぞ」
「……からい?」
心底、不思議そうに首を傾げるカレン。
一瞬の静寂。そこからカレンは、ランサーからレンゲを奪い取ると、ひとさじ分だけ麻婆豆腐をレンゲによそった。そして何の躊躇も見せずに口に運ぶカレン。
モグモグと口が動いている。
そして一言。
「全然、問題のない辛さではないですか」
「アンタ、人間じゃねぇっー!!」
椅子を蹴倒すようにしてランサーが駆け出した。だがそんな逃亡を許すカレンではない。
カレンが放った赤い聖骸布がランサーの足を捉え、グルグル巻きにしてしまう。
「……ゲット」
哀れランサーは、一本釣の要領でカレンの元へと釣り上げられてしまった。
「駄犬の分際で主人に逆らおうなんて……。○○するところですよ、ランサー」
麻婆きのこ豆腐を持ち上げて、無理やり口に詰め込もうとするカレン。
ランサーも必死に逃げようとするのだが、全身を赤い布で拘束されていては身動きが取れない。男性である限り、あの布の拘束は解けないのだ。
眼前に迫る究極の一を前に、あのランサーが涙目を浮かべている……。
そして、カレンの凶行がランサーの口に向かって侵食を開始して――
「………っ!!!!!!!!」
声にならない叫びを上げて悶絶するランサー。
彼は何と解けないはずの聖骸布を引きちぎり、絶叫を上げながら、あさっての方向に向かって駆け出して行ってしまった。
「……あ」
後に残されたのは、マーボー片手に佇む少女が一人。
「………………ラ、ランサーの逃亡により、カレン&ランサーチームは失格とさせていただきますっ!」
無情にもセラの声が響き渡る。
「そうきましたかランサー。仕方ありませんね。戻ったら――ギルガメッシュと一緒にお仕置きです」
静かに十字を切るカレン。
ランサー。迷わず逝けよ……。
心でひっそりと祈る。だけど今はランサーの心配をしている場合ではない。俺の目の前にも究極の一があるからだ。
「シ、シロウ、今がチャンスです。さあ、はやく食べてしまってください」
「セイ……バー……」
「どうぞ!!」
彼女の為にも、俺は……。
気合を入れて口の中へときのこを運ぶ。しかしその度に意識が遠くなっていく感覚がして……そしていつしか視界が明滅し始め……暗く……なって……いって。
ガクッ。
――DEAD END――
「はーい、理不尽な展開で逝ってしまったアナタを救う、タイガー道場のコーナーでーす」
「タイガー道場、助手の弟子一号でーす」
「あぁぁ。ついに士郎ここでも逝っちゃったかぁ…………。まあ、あのセイバーちゃんの料理、料理って呼べないような代物だったしねぇ」
「師匠ー、それを言うと我々の命も危ないでありますっ!」
「うむ、まったくその通りだ弟子一号。ここは大人しく士郎の冥福を祈ろう」
……三秒の黙祷。
「って、師匠! まだお兄ちゃんは生きているでありますっ!」
「何ぃ? アレを完食して生き残るとは……。成長したな、少年」
「我々は意識を失ったシロウの代わりに、結果を発表する為に来たのであります」
「そうだったのか弟子一号。うむ、それならキリキリと結果を発表しよう」
「現在、第三の難関を突破したのは【遠坂凛&アーチャーチーム】【間桐桜&ライダーチーム】の二チームであります。お兄ちゃんは健気に頑張ったんだけど……」
「リタイアしちゃったかぁ……」
「お兄ちゃんには、また次の機会に頑張ってもらわないと」
「次の機会も何も、我々の出番はここだけのはずじゃ……」
「……フフ。タイガは可哀想ね」
「ちょっと待て。弟子一号!? おい、何処へ行――」
「おいで、バーサーCAR!」
含み笑いを残して、謎の乗り物に乗ったイリヤが颯爽と去って行った。
【衛宮士郎&セイバーチーム】【カレン・オルテンシア&ランサーーチーム】リタイア