Fate/next hollow 衛宮家の人々   作:powder snow

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第二十話

「ありがとうございました!」

 

 マウント深山商店街に、セイバーの元気の良い声が響いている。ちょうど商店街の中央付近にはイベントスペースがあり、俺とセイバーはそこを借り受けて、一日限定のアルバイトをしているところだ。

 ――今日一日だけのラ・フルールによる出張ケーキ販売。

 通りに面した位置にカウンターを設置し、セイバーは真っ赤なレディース・サンタ服を纏って、売り子と呼び込みを同時にこなしている。俺は少し後方で在庫や荷物の整理をしているところだ。

 本当なら俺だけがアルバイトに出るはずだったんだけど、相方さんが急病で来れなくなり、急遽セイバーにご登場願ったという訳だ。こういう作業はあまり慣れていないだろうけど、彼女なりに一生懸命売り子をしてくれている。しかも真っ赤なサンタ衣装はセイバーにとても良く似合っていて、道行く人は必ずといって良いほど彼女に目を止めているのだ。

 色々な品物が順調に売れているのは、ほとんどセイバーのおかげと言っても良いかもしれない。俺としてもセイバーの新たな一面が見れて、実際かなり嬉しい思いをしている。

 

「よいしょっと」 

 

 品物を入れる袋を整理しながら、つと手首のあたりに目線を落とした。そこにあるのは真っ赤な袖口で、俺はそれを見ながら苦笑いを零す。

 俺もセイバーと同じくサンタ衣装を着ているんだけど、彼女に比べると悲しいまでに似合っていないのだ。衣装自体に優劣はないから着ている中身の違いなんだろうけど。

 

「すみません、シロウ。こちらのケーキの在庫がなくなりそうです。持って来ていただけますか?」

「ああ、わかった! いま持ってく!」

 

 大声で返事を返してから、俺はラッピングされたケーキの箱を抱えて、彼女の元まで駆けていった。

 

 

「……ふう。結構売れましたね」

 

 在庫スペースを振り返りながら、セイバーが朗らかに笑っている。朝から働きずめで昼時も過ぎていたが、セイバーの頑張りとフルールの評判が相まって、ケーキは予想以上に売れているようだ。 

 

「そうだな。このペースでいけば、夕方までには売り切れるんじゃないか?」

「ふふっ。請け負ったからには完売したいものですね。あと少し、頑張りましょうシロウ!」

 

 ぐっと拳を握り締めてセイバーが気合を入れている。そうしてから、あらためて俺の衣装を眺めて、クスクスと楽しそうに笑いだした。

 

「どうしたんだセイバー? いきなり笑いだしてさ」 

「いえ、私とシロウが同じ服を着ているもので。こういうのを世間では“ぺあるっく”と言うのですよね?」 

「え? あ……うん。そうだな。でも制服みたいなものだけど」

 

 確かにこうして並んでいるとペアルックに見えなくもない。販売員としての制服代わりではあるが、街中で同じ様相をしている人なんていないし。

 

「俺にはあんまり似合ってないけどな……」

「そんなことはありません。その衣装はとてもシロウに似合っていると思います」

「本当に?」

「はい」

 

 柔和な笑顔を浮かべながら、セイバーが頷く。その言葉に対して礼を述べようとした時――

 

「セイバー、ありが――」

「せ、先輩!? それにセイバーさんも!? こんなところで二人で並んで……何をしているんですか?」

 

 俺の言葉を遮ったのは、一人の少女の驚きの声だった。

 慌ててそちらに目線を移してみれば、目を丸くしている桜と、彼女の隣に立つライダー、そして慎二という三人の姿が目に飛び込んできた。

 

「よう衛宮。なんだそこ格好? もしかしてこんな日にバイトか。随分と勿体無いことしてるじゃないか」

「…あのな慎二。こんな日だからこそだ。結構稼ぎがいいんだぜ?」

「稼ぎねえ。ま、そんなところは衛宮らしいな」

 

 慎二が興味深そうに、カウンターに視線を移しながら歩いてきた。それから少し送れてライダーもカウンターにやって来る。

 

「士郎」 

 

 今日のライダーは上下ともにシックな黒色で決めていて、上からはスパニッシュコートを羽織っていた。モデルのような体型であるライダーにはとても似合っている格好である。

 今のセイバーが少女らしい可愛さ満開だとすれば、ライダーは大人びた美しさを醸し出していると言えよう。 そのライダーが、サンタ服に身を包んだセイバーを目に止めるや 

 

「士郎と同じ服ですか? もしやセイバーも一緒にアルバイトしているのでしょうか」

 

 と聞いてきた。

    

「ああ、うん。急病で人出が足りなくなったから穴埋めを頼んだんだよ」

「……士郎が頼んだのですか? セイバーに」

「……そうだけど」

 

 何故だろう。

 俺の言葉を聞いたライダーは僅かに眉根を寄せると、少し拗ねたような声音でこう言ってきた。

 

「そういう話でしたら私に頼んでくれても良かったのですよ? ほら、私は接客業をしていますし、セイバーより適任だと思うのですが」

 

 ライダーの言う通り、普段の彼女は販売のアルバイトをしている。

 確かに接客するのには慣れているかもしれない。

 

「今から代わっても良いのですが――」

「……いや、さすがにそういう訳にもいかないだろう。第一、衣装のサイズがライダーには合わないと思う」

「多少小さくても、着れなくはないでしょう。それにその方が、士郎の好みなのではないですか?」

「え……?」 

 

 ライダーの甘い声が、俺の想像を掻き立てる。

 真っ赤な衣装。それも色々とはちきれそうなサンタ服を着たライダーとか。

 もしかしたらR18指定されるかもしれない艶姿かもしれない。

 

「士郎は、見たくはありませんか?」 

 

 ライダーの指先がそっと伸びてきて、俺の顎をゆっくりと撫で上げた。それに伴って彼女からとても良い香りが漂ってくる。

 

「私は構いませんよ?」 

「……」 

 

 あ、やばい。

 具体的に何が危険なのかわからないけど、このままではやばいという警報ランプが脳内で木霊していた。その警報ランプが消え去る前に、隣にいるセイバーが、ダンッとカウンターに両手を叩きつけて相手を威嚇した。

 

「――お客様ッ! なにもお買い上げにならないのでしたら他の人の邪魔になりますので、是非に! もう即刻に迅速にこの場からお引取り願いたいのですがッッ!」

 

 身を乗り出すようにしてライダーに詰め寄るセイバー。だがライダーも負けじと前屈みになると、セイバーのおでこにくっ付くくらい顔を寄せてくる。

 もう互いの肌が密着するほどの至近距離。ここにお互が笑顔でありながら、火花を散らして睨み合うという実に珍妙な光景が展開されてしまった。

 

「セイバー。今の物言い、それがお客に対する店員の態度ですか? 貴女の品性を疑います」

「悪辣な客に鉄槌を下すのも店員たる私の勤めですから。ええライダー。貴女がどうしても営業の邪魔すると言うのであれば、私は騎士として天誅を下すまでです」

「天誅ですか。面白いですね。出来るなら見せてもらいましょう。ですがそう言うからには、貴女自身が逆の立場になっても文句は聞き入れませんよ?」 

「上等です。聖夜に相応しく蛇の三枚下ろしを見せてあげます」 

『フフフフフフ……』 

 

 かたやシックな雰囲気を醸し出す妖艶な美女ライダー。かたや真紅の衣装を身に纏った美少女セイバー。その二人が往来の真ん中で睨み合う光景というのは非常に迫力があった。

 ……っていうかさ、何でこんなことになってんだ? セイバーとライダーが睨み合う理由なんて何もないはずなのに。とにかく、あたりに被害が出る前に止めなければならない。

 そう思って手を伸ばした矢先、桜が二人の間に割って入ってくれた。

 

「やめなさいライダー! セイバーさんもやめてください! 今日は特別な日なんですよ? ケンカなんてする日じゃないです!」

 

 少しむっとした表情で桜が唇を尖らせている。

 彼女の特別な日という言葉。そして滅多に怒らない彼女の怒気を受けて、さすがに二人とも冷静な思考を取り戻してくれたようだ。

 

「……そうですね。桜の言う通りです。こんな日に争い事を起こすなど、私としては浅はな行動だったようです」

「申し訳ありませんサクラ。私も少し浅慮な行動を取ったようです」

 

 ペコっと桜に対して頭を下げるセイバーとライダー。だけど喧嘩相手には謝ることはせず、二人ともつーんとそっぽを向いている。

 喧嘩するほど仲が良いっていうけど、実際にどうなのか未だに不明瞭な二人の関係である。

 取り合えず仕切り直す意味も込めて、騒動の蚊帳の外だった慎二に声を掛けてみた。

 

「そうだ慎二。三人揃ってるけど、商店街に何か用事でもあるのか?」

「これから間桐の家で家族パーティーをするんでその買出しにさ」

「買出し?」 

「ああ。――っと、そうだ桜。折角だからここでクリスマスケーキでも買ってくか?」

「待ってください、シンジ。ケーキならサクラの手作りが用意してあります。士郎には申し訳ありませんが、今日はそちらを頂くことにしましょう」

「えー、桜の手作りかよ」

「……兄さん? もしかして、私の手作りじゃ不満?」

 

 凍えるような桜の声音は、氷柱のように慎二を貫いていた。

 

「ば……馬鹿言うなよ。今のはそんな意味じゃなくってだな……衛宮のバイトに貢献しようと思っただけさ」

 

 そっか。ありがとう慎二。だが今日はその気持ちだけ頂いておくことにする。

 

「もう行こうぜ。買う物が結構あるんだし、時間は有効に使わないと」

 

 慎二はそう言い放つと、さっさと一人で歩き出してしまう。

 

「仕方ありません。あまり長居してもお邪魔でしょうから。では士郎。また後ほど」

「先輩。お仕事、頑張ってくださいね」

 

 先に歩いて行った慎二の後を、桜とライダーの二人が追って行く。

 こうして間桐家の三人組との邂逅が終わったのだった。

 

 

 今日は聖なる日であり、決して厄日ではないはずだ。

 なのに不幸の兆しが現れてしまう。

 慎二達に続いて現れた人物はなんと――

 

「ごきげんよう、衛宮士郎」

「……」

「聞こえませんでしたか? ではもう一度挨拶を。――ごきげんよう、衛宮士郎」

「あ、ああ。こんにちは……カレン」 

「よう坊主。それに隣にいるのはセイバーか? 珍しい装いだなおい!」

「セイバーだと? ふむ。その趣向を凝らした服装も似合うな。だがそのような雑種と付き合うのはやめるが良い。品位を損なう」

 

 現れたのは敬虔なシスターを装っているカレン・オルテンシア。そしてニヒルな槍兵ことランサー。最後に傍若無人な金ぴかことギルガメッシュという、実に傍迷惑な三人連れが俺達の前に立ちはだかってしまった。

 

「衛宮士郎。こんな場所で一体何をなさっているのですか?」

 

 とても不思議です、とばかりにカレンの目が丸くなった。

 

「……見ての通り、ケーキ販売のアルバイトだよ」

「アルバイト。ならお仕事ですね。この寒い中で非常に感心なことです」

 

 そう言ったカレンは、背後に佇む二人のサーヴァントをねめつけながら、うちの無駄飯喰らいも見習って欲しいものですと付け加えた。

 

「おいおい、俺達だってこれからやる事があるって言うから、こうしてお前に付いて来てるんだろうが」

「本来なら我が雑用を手伝うなどありえないが、カレンの頼みならば聞いてやらぬこともない」

 

 ランサーに続いて渋々ギルガメッシュも頷いている。

 どうやらマスターであるカレンに“無理やり”連れ出されているようだ。

 

「で、カレン。そこの二人は何をする為に狩り出されたんだ?」

「おう、それだぜ、坊主」

「我も詳細は聞いていないからな。その問いには答えられん。なに、王は細かいことなど気にせんものよ」

 

 ……何も知らずに付いてきてたのか、こいつ等は。

 いや、でも、きっと。他に選択肢が無かったんだろうな。俺にもそういう経験があるし……。

 

「あら? 伝えていませんでしたか? 今日は聖なる日。ですから恵まれない人達に教会から炊き出しを行おうと思っているのですが」

「炊き出しだって?」

「はい。二人にはその際のお手伝いをお願いしようかと」

 

 何気ないカレンの一言。だがそれを聞いたランサーの眉毛が怪訝そうに寄った。

 

「……そういや昨日、やけにどでかい鍋を運ばされたが……」

「鍋か。我も今朝礼拝堂でそれを確認した。当然その時に中身を見たのだが……」

「何が入ってた?」

「聞きたいか、クーフーリン」

「そりゃな」

「……」

「何で黙ってやがる?」

「……いや、どうしても聞きたいというのか? 貴様は?」 

「俺たちゃ一蓮托生の身だろうが。さっさと言いやがれ」 

「覚悟があると。ならば良く聞くがいいランサー。鍋の中身――それはぎっしり詰まった麻婆豆腐だ」

「なん――だと?」 

 

 麻婆豆腐と聞いていつかの出来事が脳裏を過ぎったのか、ランサーが顔色を真っ青に変えた。

 

「……麻婆豆腐か。それってカレンの手作りか?」

「はい。夜なべして作りました」 

 

 俺の問いに即答するシスター。

 ちなみに鍋の大きさを確認したら、バーサーカーでも抱えれないくらいの巨大な代物らしい。それにぎっしりあのマーボーが詰まってるだって?

 

「私が誠心誠意、丹精込めて作った極上の麻婆。それを日付が変わるまでに配ろうと思っています」

「……正直、捌ききれねえと思うが」

「ランサー。万一にでも残ったら食べ物を粗末にする訳にもいけません。残りは二人に食べてもらうことにします。良いですねランサー。ギルガメッシュ?」

「あれを俺達に食えってか?」

「そうです。残ったらの話ですが」

「悪いなマスター。我はお腹がいっぱいだ」

「完食は義務ですよ、ギルガメッシュ」

「……」

 

 これはきっと要請ではなく、命令だ。なら二人に残された道は一つだけだろう。

 

「日付が変わるまでって……じ、時間がねえじゃねえかッ! ギルガメッシュ、今から配りに行くぞ!」

「待てクーフーリン。我は急用を思い出し――」

「ごちゃごちゃうるせえ! ほらさっさと行くぞ!」

「……セイバー。ゆっくり話すことも出来なかったが歓談はまたの機会にいぃぃ――」  

 

 ギルガメッシュの言葉が遠くヘと消え去っていく。さすがはサーヴァント随一の俊足を誇るランサーである。二人の姿はあっと言う間に地平線の彼方へ消え、見えなくなってしまった。 

 

「フフ。やっと働くことの喜びを悟ってくれたのですね。実に喜ばしいことです」

 

 嬉しそうにカレンが頷いている。

 俺は静かに二人の冥福を祈るべく、心の中で瞑目した。

 

 

 今日は誰彼出会う運命でもあるのだろうか。

 

「あら。セイバーに坊やじゃないの。二人で仲良くケーキ販売のアルバイト?」

 

 カレンの次に現れたのは、清楚な感じのドレスを身に纏ったキャスターだった。

 

「まあな」

「あなた達、珍しい服装をしているのね。赤くて、ふわふわしてて……もしかしてお揃い?」

「仕事着みたいなもんだよ」

「そうなの」

 

 不思議そうに首を傾げるキャスターにセイバーが声をかけた。

 

「そういえばキャスターは、サンタクロースの逸話が生まれる以前の出身でしたね」

「サンタクロースって、ああ。あの奇特な爺さまの衣装なのねぇ。でもそんなに赤かったかしら?」

 

 神代の魔女の異名は伊達ではない?

 サンタクロースをそこいらを歩いてる爺さんみたいに言うキャスターだった。

 

「まあ、いいわ。特に興味があるわけでもないし」

「キャスター。今日はご機嫌だな。何か良いことでもあったのか?」

「鋭いわね、坊や。さすがはセイバーのマスターといったところかしら」

 

 いやいや、マスター云々は関係ないと思うぞ。というかほっぺが緩みっぱなしのキャスターを見れば誰でも分かることだ。

 

「聞きたい? そうね。仕方ないわね。実はこれからねぇ、待ち合わせてデートなのよぉ」

 

 ハートマークがほわほわとキャスターの周りを飛んでいる。

 その姿を見て確信した。

 こうなってしまった人物には何を言っても響かないどころか無駄になる。今日のところは早くお帰り願うのが得策だろう。そう思った矢先、果敢にもセイバーがキャスターに挑んだ。

 

「待ち合せ? 確か葛木と貴女は一緒に住んでいるはずでは?」

「ええ、住んでるわよ」

「ならばわざわざ外で待ち合わせるのは効率が悪い。揃って家を一緒に出るべきだ」

「馬鹿ねぇセイバー。そ・れ・が良いんじゃないの。恋も料理と同じ。ひと手間増やせばそれだけ深みが増すのよ。待ってる間もデートの時間。あ、でも、宗一郎様なら早く来てるかもしれないわ。どうしようかしら、坊や?」

「……」

 

 またまたキャスターの周りをハートマークが飛んでいる。

 完全に葛木メディアモードだ。

 

「ああぁ、こんなことをしている場合じゃなかったわ。急いで待ち合せ場所に行かないと。そういうことで、じゃあねセイバー、坊や」 

 

 いそいそとキャスターが踵を返してこの場を立ち去る――かと思いきや、数歩進んだところでこちらに戻ってきた。

 

「一つ言い忘れてたわ」

「何だよ、早く行かないと遅れるぞ」

「やあね。坊やにじゃないわよ」

 

 キャスターはセイバーに顔を寄せると囁くような声で

 

「その赤い衣装、貴女にとても似合ってるわよ。今日は聖なる日なんだから、少しくらい大胆に攻めなさいな」

「なっ!?」

「じゃあ今度こそ行くわね」

 

 ひらひらと手を振って、キャスターが歩み去って行った。

 

「……何だったんだろうな、今の」

「わかりません。ですが……不思議と悪い気はしませんね」

 

 セイバーが隣に立って、キャスターが去った方向を見つめている。

 そんな彼女の横顔を越えて、夕日が地平線に落ちていくのが見えた。色々とやっているうちに、かなり時間をロスしたらしい。

 

「……夕方になってしまいましたね、シロウ」

「だな。けどまだ人通りはあるから頑張って売りきろうか!」

「はい」

 

 そうやって気合を入れあった時、カウンターからこっちを見据えている人物がいることに気付く。

 

「まだやってたんだ、士郎」

「遠坂!? お前なんでここに?」 

「私はあんたのバイトの様子を見にきてあげたんだけど」

 

 そう言った遠坂の後ろから、当然のように赤いアイツも現れる。

 

「まだ売れ残っているようだな、衛宮士郎」  

「もう夕方よ? 大丈夫?」

「いや……当初は順調に捌けてたんだけど途中で色々と邪魔が入ってさ。なに、今から売りきるよ」

「今からねえ」

 

 遠坂が夕日を眩しそうに見つめている。

 

「パーティーに間に合うの?」

「……間に合わせるさ」 

 

 実は俺とセイバーの仕事が終わり次第、衛宮の家でパーティーを開催する予定になっているのだ。そして遠坂もアーチャーもそのパーティーに出席予定なのである。

 たぶん待ちくたびれて様子を見に来たか、藤ねえあたりに無理やり来させられたのだろう。 

 他にはイリヤも来る予定になっていたが……。

 

「一つだけ訊くが、衛宮士郎。パーティーで振舞う料理の下拵えはお前がしたのか?」

「勿論だ。藤ねえに任せるなんて愚公は犯しはしないさ」

「そうか。お前も少しは成長しているののだな」 

 

 アーチャーが、何処か遠くを眺めつつ目を細めている。

 分かるぞアーチャー。お好み焼き丼(藤ねえの手作りご飯。味は察してくれ)の悲劇は一度だけでいいもんな。 

 

「……」 

 

 郷愁にも似た思いが、俺とアーチャーを包み込む。対する遠坂は、何やら考え込んでいる様子で――やおら時計で時刻を確認すると、彼女がケーキの在庫を眺め出した。

 それから暫し、開口一番遠坂が放った言葉は。

 

「仕方ないわね。こうなったら私とアーチャーが手伝ってあげるわ」 

「は? 手伝うって、ケーキ販売をか!?」

「そうよ。士郎は良いとしても、セイバーが風邪引いたら可哀想でしょ?」

 

 この寒空だしと、遠坂が肩を竦める。

 

「ねえ士郎。その衣装ってまだあまってるの?」

 

 セイバーを指差す遠坂。彼女はそのままカウンターの中へ入ってきて、羽織っていた上着を脱ぎだした。 

 

「あったら貸して欲しいんだけど」

「……確か予備が一着あったはずだけど。遠坂ならサイズは大丈夫か」 

「オッケー。それでいいわ。じゃあ次はアーチャーね」

「次だと? 分からないな、凛。いったい私に何を求めている?」

「もちろんアンタにも手伝ってもらうのよ」

 

 びしっと自らのサーヴァントを指差す遠坂。こういう時の遠坂に逆らわない方がいいのは、身を以って知ってるので、俺は黙ったまま口を挟まなかった。

 

「ほら、アンタ赤いし? 丁度良いじゃない」

「ますます分からないな。私が赤いと凛は嬉しいのか?」

「そうよ。じゃあねぇアーチャー。アンタその場でしゃがみなさい」

 

 遠坂が受け取った衣装を眺めつつ、何かを探している。そしておもむろに飾りつけてあった赤いポンポン(真っ赤な玉みたいなの)を掴み取ると、それをアーチャーの鼻の頭にくっ付けたのだ。

 

「……凛」

「ちょっと、動かないでってば」 

 

 自分の前にアーチャーをしゃがませたのは、アイツの顔の位置を下げさせる為か。この行為はさしものアーチャーも予想外だったようで、そのままの格好で固まってしまっている。

 

「アーチャーは赤鼻のトナカイに扮して客寄せをしてきて。士郎は重労働担当で私とセイバーでレジうちをするから」

「凛」

「じゃあ早速作戦開始ね!」

 

 パンパンと手を打って、遠坂が号令を発した。しかし、当然の如くアーチャーが異論を挟んでくる。

 

「ちょっと待て、凛」

「なによ、さっきからうるさいわよ、アーチャー」

「いや、さすがに意味がわからないぞ」

「わからないって、アンタが客寄せをして、士郎がケーキを売り切る。それだけじゃない」

「目的はわかるが、待遇に対して異議を――」

「却下。さあ早く商店街の真ん中で客寄せをしなさい。これはマスター命令なんだから」

「……」

「何なら令呪で縛ってあげるけれど?」

 

 これみよがしに腕まくりをする遠坂。それを見たアーチャーは苦々しい表情を浮かべながら

  

「…………………………………………了解した。地獄に落ちろ、マスター」

 

 そう頷く。

 ちなみに、ちょっとだけアーチャーの奴に同情したのは内緒だ。

 

「……」 

 

 余談だが、やけになったアーチャーの大活躍で客寄せは成功し、程なくケーキは完売した。けど奴のプライドは粉々に砕け散ったに違いない。

 その後のパーティー会場でずっと一人黄昏てたもんなぁ……。イリヤに背中をぽんぽん叩かれてた時のアイツからは哀愁しか感じ得なかった。

 合掌。

      

 

   

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