Fate/next hollow 衛宮家の人々   作:powder snow

26 / 28
第二十六話 エクストラな番外編六

 一同が息を呑む中で黒色のカードが一列にテーブルに並べられた。

 

「さあさ、好きなのを選んでくれ」 

 

 ドレイクの言葉を受けて、みんながそれぞれ手を伸ばして運命のカードを選んでいく。

 セイバーは意気揚々に。タマモはやや慎重に。そして慎二はヤケクソ気味に。俺は残された二枚の中から一枚を選び、最後に残ったカードをドレイクが手に取った。

 果たして、二回戦のキングを引き当てたのは――なんとタマモ!

 

「おおうっ!? 当たりを引いちゃいましたね! 私が王様ですっ!」 

「チイッ!」  

 

 黄金色に輝くカードを見つめるタマモ。その横でセイバーが軽く舌打ちなんかしてる。

 きっと自分で引きたかったんだろう。

 

「運が良いね狐さん。さあ何でも命令しな。このゲームの王様の特権だ」

「ふむ、ふむ。えーと、命令するのはやぶさかではないんですけどぉ、コレって誰が何番かは事前にわからないんですよね?」

「ああ。わかっちまったらつまらないだろ? そこがこのゲームの醍醐味でもあるしね」

「そっかぁ。そうですよねぇ。これは少し困ったかもしれません」

 

 何故か腕を組んで考え込む姿勢をみせる彼女。そうしながら、俺のことを横目でチラチラと確認している。そんなタマモの仕草を見ていたら、なんだか言いようのない不安感が込み上げてきた。

 

「……どうしたんだタマモ? 何か悩んでるようだけどさ?」

「それがですねぇ。楽しいこともヤバイことも色々と思い浮かぶんですけど、相手を間違ったらちょっとマズイことになりそうなんですよね」

「まずいこと……?」

「はぁい。ご主人様はまだ死にたくないですよね?」

「無論だ」

 

 もちろん死にたくない。即答である。

 命に関わることは命令出来ないが、結果死んだとしたら「ありゃりゃ、死んじゃったよ。まあこれもゲームの結果さ。しゃあないさね」なんてドレイクに簡単に片付けられそうで怖い。

 タマモはそのあたりを自分の中で計りにかけているのだろう。

 

「う~ん、う~ん。楽しいことを選んだとしても“アレ”を引いた日にゃあ私が最悪だし、これって結構悩む事案ですねぇ」

 

 一同が固唾を呑んで見守る中で、悪戯に時間だけが過ぎていく。そうこうしている間にタマモの握っているカードから黄金色の輝きがふっと消え失せてしまった。

 

「あれれ? 消えちゃいましたぁ……」

「時間切れってヤツさ。王には決断力が求められるからね。願い事を逡巡しすぎるのも考え物さ」

「が、が~ん!」

 

 しゅんと項垂れてしまうタマモ。そして何故かガッツポーズ全開のセイバー。

 

「残念だったな駄狐。せっかくのチャンスをふいにしてしまうとは。まあ自業自得というやつではあるが」

「むっ!」

「フフ。次に開始されるゲームで余が当たりを引く様をそこで見ているが良い」

 

 視線にバチバチと火花を散らす二人。なんでこう相性が悪いのか……。そう俺が苦慮している間に次のカードがテーブルに並べられた。三回戦の開始である。

 そしてキングを引き当てたのは――何と俺。

 

「……引いちまった」

 

 出来れば引きたくなかった黄金色。

 俺の目的は穏便にゲームを終わらせることで、これに関しては傍観者でいたかったのだ。だって何を願ったって角が立つ。相手の持つカードのナンバーが分からないのも問題だ。しかしだ。タマモが良い解決策を与えてくれた。

 即ち、時間切れ作戦である。

 

「少年。時間切れで逃げようたってそうはいかないよ」

「えっ?」

「連続で時間切れなんて興醒めも良いところさ。そんなのアタシは許さない。それにアンタ男だろ? 三人の美女を前にして色事の一つも願えないのかい?」

「色事って……」

 

 視線が自然とセイバー、タマモ、ドレイクへと移っていく。

  

「ほらほら。アタシはどんな願いでも受けてたつよ」

 

 軽くしなを作って色っぽい視線を送ってくるドレイク。その肢体を見ているだけで、何と言うか情熱を持て余してしまう。

 

「わ、私もご主人様になら何をされてもオッケーですよ! 準備万端、いつでも来いです! ばっちこーい!」

 

 負けてなるものかとタマモも両手をぐっと握り締める。 

 

「奏者よ。色事を願うのは許さぬぞ! ……許さぬが、万一願った場合は仕方がない。制約の効果と諦めよう。そ、そう。余も制約には逆らえぬ身だしな……」

 

 若干視線を逸らしながら、何やらぶつぶつと呟いているセイバーさん。何と言うか、場の雰囲気が変な方向……えっとピンク色? な感じへ移行しているのは気のせいだろうか。

 

「…………」

「そら少年。男を見せな!」 

 

 正直言ってみんな魅力的な女の子だ。

 俺だって願えるものなら願いたい。そう考えそうになる瞬間もあった。けどこういう呪いみたいな力を受けての命令なんてフェアじゃないし、何よりこの場には慎二もいるのだ。

 ――そう男が混ざっている。

 さっきタマモが悩んだ理由も分かるってもんだ。けど確かに時間切れは男らしくない。それに俺なりの目的もあった。このせっかくの機会を活かさない手はないと思う。  

 

「……仕方ないな。じゃあ命令するぞ」 

 

 俺は覚悟を決めて宣下することにした。

 

「――王の名において命ずる! 1番、2番、3番、4番は夕食の後片付けと洗い物を“仲良く”共同作業でこなすこと!」

 

 夕食の途中で慎二たちが尋ねてきたからまだ後片付けが終わってなかったのだ。だから台所には洗い物を含めての事後処理がそのまんま残っている。

  

「そ、奏者よ! これは一体!?」

「ああ。みんなで仲良く片付けてくれ」

「ご、ご主人様ー!?」

 

 ぞろぞろと四人が台所へと向かっていく。

 共同作業をこなせば、少なからず協調性が生まれるだろうし、今はみんな熱くなりすぎている。洗い物の最中に冷たい水に触れればその心も穏やかに落ち着くってもんだ。

 タマモとセイバーが仲良くなってくれる切欠になってくれれば嬉しいし。

 そして制約の効果なのか彼女の本質的な部分なのかわからないが、場をセイバーが仕切りながら着々と後片付けが進んでいく。タマモも文句を言いながらも家事は得意なのか、てきぱきと動いている。

 慎二達もうまく手伝っていた。

 俺はその間にお湯を沸かして、人数分のお茶の用意をしておくことにした。結果として、俺がお茶請けをテーブルに並び終える頃には、場の雰囲気は和らいだものに変わっていた。

 

 

「……あーあ。何だかしらけちまったねぇ」

 

 お茶請けの煎餅をかじりながら、ドレイクが場を見渡す。

 

「そうですねぇ。なんていうかまどろんでしまいましたし、今宵はもうお開きでも良いかもしれませんね~」

 

 これまた煎餅を口に咥えながら、両手で湯呑みを抱えるタマモ。なんていうか、お婆ちゃんみたいなスタイルである。

 

「これが東洋の家族団欒のパワーなのか。荒れていた気持ちが落ち着いていくのが分かる。悪くはない気分だぞ」

 

 ズズズとお茶をすするセイバー。彼女の言うとおり、一仕事終えた後のお茶は格別だ。

 

「なら今夜はお開きにするか。正直、色々あって俺も疲れたし」 

 

 ここまでは全て俺の目論見通りに進んでいる。しかし、ただ一人だけ、諦めていない人物がいた。

 そう、慎二である。

 

「お前等なに和んでんだよ! 僕は意味もなく庭の隅っこまで吹っ飛ばされたんだぞ! 簡単に諦められるか! さあ、ゲームを続けるぞ!」

「おい、慎二!」

 

 止める間もなく、慎二がテーブルに放置していたカードをひったくる。

 

「ほら、引けよ。僕が引いてゲームが始まったんだ。もう王様を決めないとゲームは終わらない。最後に運試しといこうじゃないか」

 

 テーブルにカードを並べ、そこから一枚を選び取る慎二。その顔には不敵な笑みが浮かべられていた。

 

「お前……!?」 

「残念だけど、シンジの言う通りゲームが始まった以上皆が引かなきゃ終わらない。制約があるからね。けどさぁ諦めが悪いねぇシンジ。ちょっと悪党っぽいよ」

「うるさいぞライダー!、さっさと引けって!」

「あいあい」

 

 しぶしぶといった感じでドレイクがカードを引く。彼女が引いたのならと後の三人も引くことした。

 そして最終的に……なんと慎二の手の中にあるカードが黄金色に輝きだした。

 

「あっはっはっ! 僕が“王様”だ!」

 

 勝ち誇ったように笑う王は、俺を見据えて両手を広げた。

 

「……なんだよ」

「いや、なに。衛宮。お前って勇気がないよねって。場を見てみろよ。四分の三じゃないか」

「だから何が言いたいんだ、慎二?」

「単純計算で75%は当たりなんだよ。当たり! こういう機会に願わないと損じゃないか!」

 

 舐め回すような感じで女性陣に視線を這わす慎二。その視線を受けて、タマモなんか俺の背中に隠れてしまった。

 

「おい、まさか……!?」 

「損というより失礼に当たるよね。願わなきゃさあ!」

 

 慎二がカードを掲げる。

 

「おい、やめろッ!!」

 

 俺の叫びも空しく、王が場に命令を下す。

 

「王である僕が命令する! 2番のカードを持つ者は王様と熱いベーゼを交わせ! キスをしろ! 心を込めて嘗め回せえええっっ!」

 

 果たして、2番のカードを持っていたのは

 

「…………俺ッ!?」

 

 そう。あろうことか、俺の手にもっていたカードが輝きだしたのだ。

 

「冗談だろぉ!?」 

 

 これが制約の影響力か。

 カラダガカッテニシンジノホウヘ。

 

「ば、馬鹿! 何で衛宮が2番なんだ!? 四分の三なんだぞ! 75%だぞ!?」

「そんなの知るかっ!? 早く解除しろ慎二!」

「解除って……できる訳ないだろ! 呪いのアイテムなんだぞ!」

「だったら何で願うんだよ!」

「お前に当たるとは思わないだろ、普通!」

「ふざけんな……って、あー! あー! 近づいて来るな慎二! っていうか逃げろ!」

「逃げ……駄目だ! 身体が固定されて……動けない! え、衛宮、何とかしろよお前。魔術師だろうーが!」

「そんな便利な魔術知るかっ!?」

 

 必死で抵抗するが、二人の距離がどんどんと縮まっていく。

 この距離がゼロになった時――きっと俺は死ぬ。

 

「セ……セイバー! タマモ! 助けてくれ!!」

 

 こうなったらもう恥も外聞もない。俺は必死に腕を伸ばして助けを求めた。

 

「……く! 奏者よ。余も必死に助けようとしているのだが、身体が動かぬのだ!」

「ご主人様! ご主人様ッ!!」

 

 王の命令を守る為にギアスが作動しているのか。セイバーもタマモを動けずにいる。

 

「ええ~い、こうなったら覚悟を決めよう衛宮!」

「は?」 

「そら。ジュテ~ム!」

「ジュテームじゃねぇっ!!」

 

 全身にある魔術回路の全てを駆使して制約に抗う。だが俺の抵抗などまったく意味がないとばかりに身体は慎二の元まで歩んで行く。

 

「…………。ちょっとそこの赤いの」

「何だ駄狐! 今は会話している暇などない! 奏者の危機なのだぞ!」

「分かってるから! 黙って聞きなさい!」

 

 タマモのあまりの剣幕に、セイバーがたじろぐ。それほどに彼女の声音は鬼気迫っていた。

 

「私は呪術に関しての心得がある。この制約は呪いの類よ。だから何とかできるかもしれない」

「ほ、本当か!?」

「……けど、かなり強力な呪いだから解除出きるのは一瞬だけだと思う。だから……後はあなたに賭けます」

 

 タマモが瞳に力を込めて、真摯に願う。

 

「駄狐……?」

「私ではご主人様を取り巻く制約の壁を貫けない。でもあなたなら壁を打ち破ることができるかもしれないから」

「……」

「機会は一瞬。私があなたを縛っている制約を解除するから、ご主人様を救い出して」

 

 もはや語る時間も惜しいと、タマモが呪術を汲み上げていく。セイバーもまた自身の役目を悟り、魔力を体内で練り上げていった。

 

「――今よ!!」

「赦せ、奏者よ――ッッ!!」 

 

 タマモが呪術を完成させてセイバーの戒めを解く。瞬間、セイバーが弾丸となって駆けた。

 空に舞うは真紅のドレス。手に携えるは炎の如き紅の長剣。

 

『――“喝采は”』

 

 勇ましく剣を振り上げる姿はまさに剣の英霊。

 その切っ先は迷いなく俺に向いて――

 

「え……?」

 

 助けて欲しいって言ったけど、もしかして?

 

『“万雷の如く”――!!!』

「ええええええええええええ??」

 

 セイバーの振るった究極の斬撃が俺と慎二の間に炸裂した。その衝撃は屋敷全体を揺るがし、屋根さえ吹き飛ばして……結果として呪いの壁をも打ち破り、俺と慎二を文字通りコマのように空中へと吹き飛ばした。

 

「うわあああああぁぁぁ──────ッッッ!!!」

 

 くるくると回りながら空を舞う俺と慎二。

 夜風が身体に冷たく、自分が飛んでいるのが実感できた。

 ――ああ、星が……星が見えたスター。

 俺は最悪の事態だけは回避できたことに感謝しつつ、星空を眺めながらゆっくりと意識を手放していった。

 ガクッ。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。