Last Day   作:アル・ソンフォ

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第1話:最後の始まり

「まだ来ないか。」

ターニャはつぶやく。

東部戦線が完全に崩壊し、帝国に残された時間は残り少ない。もはや勝利ははるか遠くに消え去り、敗北を先延ばしにするため、いや、すこしでもましな敗北をするためだけに全ての資源が根こそぎ投じられている状況である

「本来ならばもうこのようなことはしなくて良かったはずなのだが」

ターニャは懐から演算宝珠を取り出す。赤く輝く宝珠の表面に一人の少女が映っている。それは金髪碧眼の端正な顔立ちをしているが、死んだ魚のような目と苦悩に満ちた厳しい表情によって可憐という言葉を遠ざけている。

「存在Xめ、あくまでも私を戦争で追い詰め続けるつもりか。」

そう言いながら演算宝珠を握りしめる。血と硝煙に染まり切ったはずの手は長いこと戦場を駆け巡ってきたのが嘘であるかのように白く綺麗なままである。

 

当初の予定であれば今日まで生き残った大隊隊員と共に既に帝国を悠々と離脱しているはずだった。

ターニャは帝国の勝利の可能性が潰えた時、二つの計画を作り上げた。『バルバロッサ』計画と『ペーパークリップ』計画である。前者はライヒの再建と再統一への長期プランであり、合衆国優位での分割占領に始まり、前世同様に起こるであろう資本主義と共産主義の対立に合わせ資本主義防衛の同盟者としての地位を確保、経済復興と再軍備を可能とする計画であり、最終的は共産主義の敗北に合わせ連邦側に奪取された部分を回収しライヒの再統一を目標とするものであり、後者はライヒの持つ軍需関連技術とそれにかかわる人材を合衆国へ移転させることで、技術の散逸及びそれらが連邦へ流出することを阻止することを目的とするものある

ターニャが今次大戦で活躍しすぎており単純に逃亡することで安全を確保することは不可能であった。求められるに従い東西南北全ての戦線で暴れまわったターニャは敵そして味方からも『錆銀』『ラインの悪魔』の二つ名恐れられるほどに名を売り過ぎている。いかに肉体が世間一般には保護される対象といえる女性でかつ子供といえどもあまりにも多くの恨みを買い過ぎており勝利者による復讐心が牙をむかないとは限らない。ましてや、連邦などに引き渡された場合はモスコーを襲撃し燃やした張本人である以上、死が福音に思えるほど悲惨な将来が待っていることは火を見るよりも明らかであった。

ターニャは必死の努力により、非公式ながらもライヒと合衆国との協調関係を築き上げ、自身と大隊からの希望者を演算宝殊関連技術人員として合衆国への移住と庇護の確約を取り付けていた。

 

順調に進んでいたターニャの帝国脱出計画は、最後の最後で邪魔が入る。それは参謀本部でゼートゥーア大将と最後の打ち合わせを行っていたとき、最悪といえる凶報の形で飛び込んできた

それは東部方面司令部消滅とそれに呼応した連邦軍の東部防衛戦突破の報であった。東部防衛線を帝都の間に障害となるものはただオーヴェル川のみであり、その川とて重砲であれば十分帝都を砲撃可能な距離しか離れていなかった。

合衆国軍を単独で帝都に進駐させ、それに合わせて帝国軍が降伏することにより戦後のライヒに対する連邦の影影響を極力排除しようとした計画を危機に陥れたのはあの忌々しい存在Xの手先であるメアリー・スーの暴走である。

魔導師として規格外の強さを持ち帝国とターニャを討ち滅ぼすことが神のご意志であり正義であると固く信じているメアリーは、連邦にとって状況の打破出来る格好の駒であった。そして連邦にとって更に都合のいいことにメアリーは国際協調を演出するための多国籍部隊に所属しており接触も容易であったのである

かくして合衆国と帝国の水面下での動きと隠匿されていた新型兵器の情報を得たメアリーは連邦の期待通りの動きを示したのであった

 

そして今、ターニャは待ち続けている。

あの日以来、ターニャは鈍い金属光を放つ物体に寄り添い片時も離れることはない。

演算宝珠を握りしめ、短機関銃を手にいずれ訪れる運命を待ち構えている。

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