3年B組ハーデス先生~ブレイブルー学園パロ~   作:トッシー00

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第14話です。


第14話:カグラ先生と女性関係

 ブレイブルー学園の職員室にて。

 

「お、ラグナ先生おはよう」

 

 挨拶は基本と、毎日のようにそうラグナに声をかけるハクメン先生。

 いつもなら、ラグナも挨拶を返すのだが。今日は何か様子がおかしかった。

 

「……おぉ、おはよう」

 

 なにやら元気の無いラグナ。

 普段から大雑把だがなんだかんだでやる気を出し仕事に精を出すのだが、どうにも朝からテンションが低い。

 一体何があったのか、ハクメン先生は一応心配の声をかけてみる。

 

「……どうしたのだ? なにかあったのか?」

 

 そうハクメン先生が尋ねると、ラグナは唸るばかりで答えようとしない。

 何度か詮索をし続けると、ようやくラグナがその口を割った。

 

「実はよう、朝ノエルに声をかけたらよ。なんか冷たくあしらわれちまってさぁ」

 

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 それは、ラグナが職員室へ来る前まで遡る……。

 

「……」

「よぉ、ノエルおはよう~」

「あ、おはようございます先生」

 

 ラグナは朝一番、ノエルを見かけてそう挨拶を交わす。

 普段通り、ノエルは生真面目に挨拶を返す。

 そんな彼女に対して、ラグナは毎度のごとくノエルの触れてはいけない部分をからかう。

 

「真面目でいいことだな~。その無い胸も真面目になるといいのにな~」

 

 ラグナはぷっぷと笑いながらそうノエルをおちょくる。

 いつも何かに付けてラグナはノエルの貧乳をバカにするのだ。

 それに対していつもまともに乗っかってしまうノエル。なのだが……。

 

「……そうですね、がんばります」

「おうおうがんばれがんばれナイチチ……ん?」

 

 どうにも反応が薄いノエル。

 いつもなら激しいツッコミを浴びせてくるのに、どうしてか今日は異様に冷めている。

 それが妙に気に食わなかったラグナは、もう一度ノエルをおちょくる。

 

「んだよノリ悪いな。そんな愛嬌も無いついでに胸も無いじゃやっていけねぇぞ~」

「……そうですね、気をつけます」

 

 再び、ノエルは表情一つ変えず、ラグナに対してなんの感情も抱かず軽くそう返して、教室の方へと向かって行ってしまった。

 そんなノエルの態度を見て、ラグナは無意識のうちに元気がなくなり。

 そして職員室についても、乗り切れないテンションのまま、机に突っ伏していたのであった。

 

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「ってことなんだよ。いきなりなんなんだよ、俺がなんかしたのか?」

「……まぁ2~3点ツッコミを入れたいところだが、まず毎日のようにそんなセクハラ発言するなだとかそれをごく普通の事のようにするなだとか言いたいところだが」

 

 ラグナの狂ったその女性感覚に対してハクメン先生はため息を漏らした。

 ラグナのノエルに対する弄りは今に始まったことではないが、確かにそれはおかしい。

 つい先日まではいつも通りの反応をしていたノエルが、今日になってラグナの言葉に対して一切の感情を示さないのだ。

 これは何かあるなと、ハクメン先生は睨む。

 そんな二人の所に、ある人物が鼻歌を鳴らしてやってきた。

 

「ふ~ふふ~ん♪。おうおうどうしたラグナ先生? 女の事でお悩みか?」

 

 そう気前よく声をかけてきたのは、ブレイブルー学園の教員である"カグラ・ムツキ"。

 学生時代はラグナとジンの先輩で、当時の学園の生徒会長であった人物。

 当時からその強大な人望で学園をより良い物にしてきたやり手の人物だ。

 そして無類の女好きであり、学生時代に付き合った女生徒は数知れず。女性の扱いならばこの学園の右に出る者はいないと言われている。

 そんな彼が、ラグナがノエルについて困っているというのを耳にし、ラグナの元へとやってきた。

 

「んだよカグラ先生かよ。いや別に、気にしちゃいねぇし」

「気にしてないって、顔に出てるぞ? 色々聞かせてもらったがよ、お前のその女に対する態度……もう少しどうにかできねぇのかよ?」

 

 と、突然カグラはラグナに説教をし始めた。

 

「女について触れちゃいけねぇ部分ってのは、顔と胸と体重の話題だ。そこにコンプレックスを抱いている奴に対して不用心にそこを弄るなんてのは、そんなのちょっかいや弄りなんてもんじゃねぇよ。それを人は侮辱っつうんだよ。人としてやっていいことと悪いことくらいあんだろ?」

「う……そりゃそうだけどよ……」

「ましてやそこへの限度ってのを見極めそこなったら、女なんて一生振り向いてくれねぇぞ。いいかラグナ、女ってのは男にとっては神様も同然なんだよ。俺たちがこの世にどうやって生まれてきた? 子供を産めるのは女だけだ。そして子供を立派に育てるのは強かな女の強靭な精神だ。女ってのがいねぇとな、情けない男一人じゃなんにもできねぇんだよ。それを思い知った時には遅いんだよ、少しは女心を学べこのクソガキが」

 

 長々と、カグラの信念とも言える女性への尊敬心をラグナにぶつけ聞かせる。

 そこまで言われると、ラグナは言い返すこともままならず、本気で俯いて黙ってしまった。

 そんな会話を聞きつけ、レイチェルとライチがその場へとやってくる。

 

「まったくもってその通りだわ。ラグナ、少しはカグラ先生の爪の垢でも煎じて飲ませてもらったらどう?」

「本当よ。ノエルちゃんいつも笑ってるけど、何度か私の所へ相談しに来ていたくらいなのよ。少しはそのナイチチ発言を控えなさい」

「……すまねぇ」

 

 女性二人に怒られ、珍しくしゅんとなるラグナ。

 わかればよろしいと、カグラは豪快に笑う。

 

「ははは。にしてもラグナにはいい薬になっただろうな。ノエルちゃんもよくやったよ」

「……どういうことだ?」

「いや実はよ、先日ノエルちゃんがお前に散々言われたって落ち込んでいた所を見かけてよ」

 

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 それは先日の放課後。

 

「んもう! あの銀髪クソ教師!! いつも私を胸が無い胸が無いって馬鹿にしてーーー!!」

 

 放課後、よくノエルはラグナのいない所でうっぷんを晴らしていた。

 そんな彼女を見かけたカグラが、励ますために近づく。

 

「どうしたノエルちゃん? その可愛い声が思念で汚れちまってるぜ?」

「ふぇ? あ、カグラ先生」

 

 カグラを見かけたノエルは、表情を変えて頭を下げる。

 その生真面目さを見て、カグラはノエルの横に立つ。

 

「どした? またラグナ先生にからかわれたのか?」

「……はい。いつもあの人私をバカにするんです。まぁあの人にとっては悪気があるわけでは……半分くらいあるかな? でもきっと、おどおどしてる私の気を緩ますためにやってると思うので、正面から悪くは言えなくて」

「ったく、ノエルちゃん優しすぎるぜ。あんな女心の一つもわからねぇ奴の暴言を優しさで捕えてしまうなんてな。儚くもその心は女神のように美しい。俺はそういうノエルちゃん、ありだと思うぜ」

「か……カグラ先生~」

 

 カグラはあの女心の一つもわからないラグナと対を成すように、ノエルのいいところを一つ一つ掘りだしノエルを励ます。

 こんな風に、学生時代からカグラは女性の扱いが上手い。

 それもけして社交辞令や無理ではなく、素で……女性を尊敬しているからこそできるのである。

 

「それによノエルちゃん。確かにノエルちゃんの胸は小さい、けどな……それが良いか悪いかで判別するとしたら、それを悪いって言える理由があると思うか?」

「そ、それは……」

「それをどこかで思っているから気にするんだろ? そんな巨乳のお姉さんのお色気に弱いのが男っていう勝手なイメージが、貧乳巨乳の善し悪しを決めちまったのさ。真の男ってのは、そんなもんなんか気にしないもんさ」

「カグラ先生……」

「女に大切なのは顔でも胸でもない……美しき心だ。そりゃ女性の汚い部分ってのは俺も何度も目にしてるよ。けど素行の悪さは気高さに変わるし、我がままだって可愛さに変わる。この世界中の女性を良い悪いで分けるって道理があるってのなら俺はそんなの覆してぇよ。良い所なんて見つけようと思えばいくらでも見つかる。それを見つけんのが、男の見せどころだぜ」

 

 ここまで語るカグラのそれには、詭弁やかっこつけは存在しない。その言葉は完全に素で言っているのだ。

 だからこそ大体の女が、カグラを悪く思わないのである。

 当然ノエルは、この時カグラの魅力に惹かれてしまっていた。

 ちょろいノエルの目は、カグラの目に向いていた。

 

「カグラ先生って、ちょっと怖そうな人だなって思ってたんですけど、すごいいい人ですね!! 尊敬します!!」

「(良しきた……)はっはっは、怖そうだなんてちょっと傷つくぜ。その傷を、ノエルちゃんが埋めてくれるとうれしいな……」

「え? ごめんなさい。その……怒ってます?」

「ん~。怒ってるかな~。でもノエルちゃんのその可愛い顔を見てたら、自然に怒りも冷めちまうよ」

「そ、そんな~」

「いやでもやっぱり~。ちょっと諌めてもらいたいかな~なんて☆」

「いいですよ? 私"なんでもします"から!!」

「ん? 今"なんでもする"って言ったよね?」

「はい、どんなことでも手伝いますよ!! カグラ先生のために私、なんでも頑張ります!」

 

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「ってことだったんだよ。ちょっと励ましただけなのにまさかそこまで好かれるとは思わなんだな。あっはっは~」

「……てめぇの仕業か」

 

 そう、ノエルが急にラグナに対して冷めたのは、カグラがノエルをナンパしたからであった。

 

「いや悪い悪い。やっぱノエルちゃん可愛くってさぁ! 後半励ますことからおとすことに変わってたんだわなはっはっはっは!!」

「……別にいいんだけどよ、ちなみに"その後"……どうしたんだ?」

「それがノエルちゃんを保健室へ連れて行こうと思っt」

「シザーーーーーーーーー!!」

「テッキーラーーーーーーーーーーー!!」

 

 カグラがなにかやばいことを言いだしそうになった所で、ラグナは全力でカーネイジシザーを放った。

 なにをそんなに怒っているのか、カグラは誤解だとその続きを話した。

 

「いやいや最後まで聞けって。実は俺腰痛持ちでよ、ノエルちゃんに湿布を貼ってもらったんだよ」

「な……なんだよ。だったらそう言えよバカ」

 

 なにやらすごい勘違いをしているラグナに、カグラはそう説明をする。

 それを聞くと、ラグナはどこか頬を赤くして、恥ずかしそうにそう答える。

 そんなラグナの反応を見て、カグラや他の連中が反射的に噴き出す。

 

「ぷっ。くっく~。おめぇ一体何を想像したんだよ。おいおいラグナ先生~」

「は、はぁ!? 別になんでもねぇよ!!」

 

 そんなラグナのお決まりな反応に、ハクメン先生や校長もからかう。

 

「ククク……。お前も男だなラグナ先生よ」

「まったく……ぷっ。滑稽にも程がある……クスクス」

「てめぇら笑ってんじゃねぇよ。あぁもう忘れろ! ノエルには謝っておくから! 頼むからもう許してくれーーー!!」

 

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 そして放課後。

 

「ノエル。そのよ、色々悪かったよ。たのむから許してくれ」

「え? なにがですか? 私ぜんぜん怒ってませんよ? なにをそんなに切羽詰まったような顔をしているんですか?」

 

 放課後、ラグナはノエルに謝罪をするが、ノエルは悪気も無くそう冷めた態度で返す。

 どうにも感情が入っていないというか、ラグナのことなどどうでもいいというような、気にもしていないというその表情がラグナには怖くて仕方がなかった。

 

「それよりもどいてもらえませんか? 私カグラ先生の所にいかなければいけないので」

「ぐっ……。す、すまねぇ」

 

 ノエルの目はすっかりカグラの方へ向いてしまっている。

 そんなノエルの言葉に、ラグナは返す言葉も無かった。

 ただ押し黙るラグナ。仲を戻したくても、ノエルは怒っているのではなくラグナに対して何も感じていないため、手の打ちようがない。

 そんなギスギスした状態で、ノエルは職員室へ向かう。

 

「あ、カグラ先生~」

「お~うノエルちゃん~。悪いねプリント運んでもらって」

 

 ノエルはさきほどのラグナへの態度とは打って変って、笑顔でカグラに話しかける。

 すっかりノエルを掌握したカグラ。だがそこに汚い心があるかどうかは割愛。

 

「しかしこう教師の仕事を生徒に頼むってのは、ちょっと仕事させすぎ? いや本当に悪いね」

「いえいえ、私おっちょこちょいで。キサラギ先輩にもよく罵倒されていて。でもカグラ先生は小さいことでも褒めてくれるのでうれしいです!!」

「お~うそうかいそうかい。そう健気さが、君の売りだぜ。ジンは本当に傲慢な奴だよ」

「そ、そんな~。健気なんて~」

 

 カグラは会話のどこかこっかにノエルを評価する言葉を入れる。

 どうにもノエルは褒められれば天辺まで昇るようで、それを知っているからこそカグラはノエルを褒めまくる。

 すっかりノエルはカグラに懐いてしまっている。そんな彼女に対しカグラはというと。

 

「こう色々頑張ってもらっちゃってるしさ。ノエルちゃん、今日の夜……開いてる?」

「え? 夜ですか?」

「いい店知っていてさ。一緒に行こうよ。金は俺が出すよ」

「そ、そんな悪いですよ~」

「な~に気にすんなって。俺も時々味わいたいだけだからs」

 

 どがしゃーん!!

 

 そうカグラがノエルを誘っていた時、なにやら職員室の扉が大きく音を鳴らして砕け散った。

 そしてそこにはものすごい形相のラグナがいた。

 

「おいカグラーーー!! てめぇなにしてんだよ!!」

「え? おいおいどうしたラグナ。なにをそんなに怒ってんだ?」

「ふざっけんな! なにが限度を見極めろだ。教師と生徒でなにしようとしてんだよ!!」

 

 ラグナのそれを聞いて、カグラは少し意地悪そうに答えた。

 

「なにって……ラーメンを食べに行こうかと思って……」

「なにーーー!? ラーメン……?」

 

 そのカグラの答えに、ラグナはぽかんと口を開けて黙ってしまった。

 またもやられたラグナ。というより勝手に想像して暴走しただけだが。

 そんなラグナに対して、カグラはニヤついておちょくる。

 

「だ~か~らラグナ。お前は何を想像してんだよ。ひょっとして欲溜まってんの? 良い店知ってるぜ紹介してやろうか?」

「なななななな! ちげぇ! 俺はただ、ノエルが変なことされてねぇか心配してだな!!」

「おいおい保護者か? まるでノエルのお兄さんみたいな言い草だな~。なぁノエルちゃん」

「先生、なんかキモイです」

「キモイ!?」

 

 二人にぼこぼこにされるラグナ。心のフェイタルカウンターが肉体を蝕む。

 これには職員室中の教師たちも笑いをこらえられずにはいられなかった。所々で笑い声が聞こえる。

 

「てっめぇら……。俺をこけにしやがって……」

「もはや悪役の台詞だな。いやしかし噂には聞いていたが……」

 

 カグラがそう、席を立ちラグナの耳元で呟く。

 

「なぁラグナ、ひょっとしてノエルちゃんの事……ガチ?」

「ちげぇ! けしてそんなことはない!!」

「?」

 

 耳打ちなのに大きく反応してしまったラグナ。

 ノエルはなんのことか分からず、頭にクエスチョンマークを浮かべる。

 

「まぁまぁそう焦んなよラグナ先生。俺だってニュース沙汰にはなりたくねぇし。そっちの方には手をださねぇよ」

「だから……なんの話だよ」

「とぼけんなよラグナ先生。おめぇも色々あるんだろ? おめぇは学生時代本当にモテなかったからな~」

「うるせぇ! よけいなお世話だ!!」

 

 学生時代は弟や問題ごとに悩まされ、女性関係には疎かったラグナ。

 バレンタインデーも母からもらって満足しているだけで、特に女性からアプローチも無かった。

 ちなみにいまでこそ少数の女性からのアプローチを受けているが、それでもラグナから反応を見せることはない。

 

「そういやおめぇ。あの眼帯のキュートな娘やココノエの所の無口な娘に結構好かれてんじゃねぇか。今だとそこそこモテるんだな」

「いやあれは……そういうんじゃないだろうし」

 

 カグラが言うのは、ニューとラムダの事である。

 彼女達がラグナに抱く心は恋である可能性があるが、ラグナが抱くのは生徒愛、もしくは家族愛である。

 愛の方向性がどうしても家族に傾いてしまうラグナ。といっても家族関係で色々悩まされてきたラグナからすれば、愛しい女性より愛しい家族が欲しいのかもしれない。

 

「んでなんだかんだでモテるラグナ先生、いったい誰の子供が欲しいんだい?」

「おい! なにがそっちの方には手を出さないだよ!? 思いっきりそっちの話になりつつあるぞ!!」

「おっとすまねぇすまねぇ。ノエルちゃんや女性教師が他の近くだったな、悪い忘れてくれ」

 

 そうカグラが悪かったと口にする。

 そんな会話の中で、ノエルだけが一人ベクトルの違う答え方をする。

 

「え~と、どういう意味ですか?」

「ん?」

 

 そのノエルの意味不明な答えに、カグラが思わず疑問符を浮かべる。

 どういう意味とは、ノエルはどうしてそう言ったのか。

 

「ノエル、お前のそれがどういう意味だよ」

 

 ラグナはそうノエルに聞き返すと。

 ノエルは、高校生にもなって割ととんでもない一言を口に出した。

 

「誰の子供をとか、その意味がわからないんですよ」

「「……え?」」

「だって~。子供ってコウノトリが運んでくるって聞きましたよ。だから誰のとか、関係ないんじゃないですか?」

 

 それを聞いて、ラグナとカグラが黙りこんだ。

 そう、まさかとは思った。だがそこに可能性が生まれた。

 

「ノエル。え? それマジで?」

「え? ラグナ先生こそ何を言ってるんですか~」

 

 可能性どころか、本当の事であった。

 ラグナは思わず俯いた。なんてことだと膝を下ろした。

 そしてカグラも、このノエルの反応には頭を掻いた。

 

「ん~。いやその……なんだ? ノエルちゃんって……無知……?」

「え? なにがですか?」

「いやその……それを説明するのはその……この職員室では気まずくなるっていうか……。なぁ獣兵衛先生」

「な、なんで俺に話題を振るんだ!?」

 

 悩んだカグラは、妻子持ちの獣兵衛にその話題を押し付けた。

 獣兵衛だってどう答えていいかわからない。向かいのナインや奥にいるレイチェルの眼差しが怖く感じる。

 

「師匠。無理して答えなくていいから。にしても……小学生のガキやそこらにませガキならわかるが、ノエルおめぇ……高校生にもなってそれじゃその内悪い大人に捕まるぞ」

「その……すいません」

 

 ラグナのその心配に、ノエルはとりあえず謝る。

 だがこのままじゃ色々問題になると、とりあえず遠回しにでも教えておいた方がいいと、ラグナとカグラは言葉の選択を必死に悩む。

 

「ノエルちゃん、ノエルちゃんは好きな人っているのかい?」

「え? いますよ~。ラグナ先生もカグラ先生も大好きです!!」

「ちょ、おまっ!?」

 

 唐突にそう言われ、ラグナは思わず口ごもる。

 だが、それにはちゃんと続きがある。

 

「でも、ツバキやマコトも好きだし。お母さんやお父さんも好きですよ~」

「ですよね~。そういうと思ったわ俺は~」

 

 カグラはなんとなくだが、ノエルが受け取った信号が違う物だと認識した。

 愛情と恋心は違うものであるが、ノエルにはその栄え目が理解できていないらしい。

 

「いやでもさ、あれだよね。その点はラグナも似た所あるし。知識あるのところは違うけど」

「こいつと一緒にすんな! あぁも見てられねぇ! ノエル、おめぇ明後日の放課後保健体育の授業の座学やるからな!」

「ふえぇ? どうしてですか~?」

「どうしてもこうしてもねぇだろ。ライチ先生、お願いできるか?」

 

 そうラグナは、ライチの方へ目を向ける。

 確かにラグナがその授業をするより、ライチが受け持った方がいいだろう。

 ライチは少し悩みながらも、ため息をついて答える。

 

「ま、まぁ。確かに聞いた限りこのままじゃ不味いわよね……」

 

 こうして了承するライチ先生。

 と、そんな時。もう一人ノエルに教えると名乗りをあげた人物がいた。

 

「鈴の音鳴らしてリンリンリン♪ 私もよければ教えますよぉ~」

 

 その人物はトリニティであった。

 珍しい人物が協力してくれたなぁと、ラグナは思った。

 

「トリニティ先生。協力してくれんのか?」

「はい~。やおい穴について教えればいいんですよねぇ~」

「違うぅぅぅぅぅぅぅ!!」

 

 なんとなく予想がついていたが、トリニティはノエルをその方面へ引きずり込む気満々だった。

 だがそこで変な知識を植え付けられれば、ノエルは変なことを覚えるだけである。

 

「ちっ。せっかくハザテルの素晴らしさをレクチャーできると思ってたのに……」

「あ~。なんか寒気が……」

 

 トリニティが悔しがると、向かいのハザマが妙な恐怖に支配されたという。

 話を戻して、ノエルの座学のこと。

 そんなノエルに対して、カグラはこんな質問をした。

 

「しっかしノエルちゃん。ツバキやマコトとそういう話はしないのか? 最近のJKは普通にそういう話題で盛り上がるって聞くぞ?」

「そういう話題とは? おいしいお菓子やお洋服の話はしますけど」

「いやいやだから、そういうちょっとエr」

「ビックバンスマーッシュ!!」

「バーボン!!」

 

 カグラがこれを機にとぐいぐい突っ込もうとした時、マコトが勢いよくカグラに拳を打ち込んだ。

 ついさっきまで話題の方向性を耳にしていたマコトは、いつカグラが暴走しないかと見張っていたのだという。

 ノエルの友達としてマコトは、なるべくノエルにショックを受けさせないよう、そして変なイメージを植え付けられないようにとその話題に割って入った。

 

「いてて、おいマコトやめてくれよ。そのバールのような物、マジ死ぬから」

「か弱い乙女を誑かそうとする悪漢を退治したまでです。確かにその……ノエルがそういう話題に疎いってのは知ってたけどさ、けどそういうのは追々自分で身に付けていくものでしょ? もしノエルが悪い男に騙されそうになったら、私がやっつけるし」

「その美しい友情は見てて輝かしいんだが、あとついでに乳揉ませろ!!」

「チェスト!!」

「ぐほ!」

 

 ぶれないカグラに、マコトは再度拳を打ち込む。

 

「つか、マコトは別にそういう話題は平気なのな」

「平気ってわけじゃないけど、まぁ色々興味はあるし……。それに、色々見ちゃいけない物も見てきてるしね……」

「見ちゃいけない物?」

 

 ラグナがその意味深なマコトの言葉に反応する。

 マコトにはどうしても、思いだすには赤裸々の、ある人の話題が存在する。

 それは前に、生徒会室に忘れ物を取りに行った時の話とのこと。

 

「前にさ、生徒会室に忘れ物取りに行った時なんだけどさ。見ちゃったんだよね……」

「見たって、何を?」

 

 カグラがマコトに質問する。

 

「その……ツバキがさ、そりゃもう艶めかしい声で「ジン兄様ぁ、ジン兄様ぁ……」って言いながらその……エクストリームしてるとこr」

「マゴドォォォォォォォォォォォォォォォ!!」

 

 と、どこからか耳を立てていたのか、マコトがその話を終わらせる前にツバキがとてつもない形相で職員室へ入ってきた。

 

「ツバキ!?」

「ぜぇ~はぁ~。それは……言わないって約束だったでじょうぇぇ……。それは秘密っていったじゃない!!」

「ご、ごめん。つい流れで……」

 

 マコトはごめんごめんと謝る。

 顔を真っ赤にして怒りむき出しのツバキに、カグラは容赦なくぶっこむ。

 

「ツバキ。お前その……生徒会室でジンをオカズに……」

「ヴァーーーーーーーーーーーーー! 頼むから言わないでお願いしますぅぅぅぅぅぅぅ!!」

 

 とてつもない黒歴史に触れられて、ツバキは叫びに叫んで現実から逃避する。

 そんな慌てふためくツバキに、無知なノエルは何が何だか分からずツバキに尋ねる。

 

「ツバキ。いったい生徒会室で何してたの?」

「ノエル違うのよ! けして生徒会室でジン兄様をオカズにナニしてたわけじゃないのよ!!」

「自分で言っちまったよこいつ……」

 

 遠回しなニュアンスでツバキがやったことを暴露してしまった。

 ジンの兄としてのラグナも、これには言ってあげる言葉が見つからなかったという。

 

「マコト。後でフリーダムジャスティスであなたをボコる」

「ごめん。なんでもするから許して」

「ん? 今なんでもするって……」

「あんたは黙ってろーーー!!」

「ウィスキー!!」

 

 カグラが反応した所に、三度拳を打ち込むマコト。

 なんやかんやで下のトークで盛り上がってしまったが、これ以上はまずいと一旦話を打ち切る。

 ちなみに明後日の放課後、ノエルはきちんと保険の座学を受けたとのこと。

 

「ノエル、わかった?」

「……はい、コウノトリは子供を運んではきません」

「……そっか」

 

 後日、なにやらダメージを負ったノエルを、マコトは優しく迎えたという。

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