3年B組ハーデス先生~ブレイブルー学園パロ~ 作:トッシー00
「ヴァルケンさん、おいしいお茶をありがとうございます!!」
「ほほほ、また気軽においでなさい……」
その老人、尻尾のような長い灰色の髪が、年を感じさせないほど靡く。
顔こそしわで年を感じさせるが、その体つきと手さばきは、並みの若者以上に鋭くとがる物を感じさせる。
ブレイブルー学園事務長、ヴァルケンハイン。
普段は教師達の裏で学園の経営を支えている。まさに学園の裏の功労者とも言える存在。
現ブレイブルー学園校長であるレイチェルとは彼が学生だった時からの長い付き合いで、彼女から最も信頼されている老人である。
今もこうして生徒にお茶を振舞っては生徒達とも積極的に交流をしている。彼の淹れるお茶は学園中の者から高い評価を得ており、レイチェルも頻繁に飲んでいる。
「さてと、おかたつけでもしますか……」
と、ヴァルケンハインがお茶の道具をかたつけようとした時。
「ったくここの生徒らもずいぶん大人ぶるなぁおいぃ、ガキはジュースでも飲んでりゃいいだろうがよぉ~」
いつのまに部屋に入っていたのか、ヴァルケンハインからすればとても耳障りな声が聞こえた。
そうティーカップを持ち上げてつまらなそうに言うのは、ハザマ先生であった。
だがかつての同級生の前だからなのか、いつものような紳士の口調ではない。
それは学生時代不良であった彼の本性、それが容赦なく表に出ていた。
「貴様いつのまに……」
「さっきのガキどもが出た直後だよ。にしても俺が入ってくるのを感知できないあたり、老いたなぁおっさん」
「だまれ。貴様のようにいつまでも自由な若者気分で好き勝手やる若造とは違うのだ」
「へぇへぇ、相変わらず優等生なこって!!」
そう言ってハザマはよいしょと腰を上げた。
そして髪の毛をボリボリと掻いてあたりを歩き回る。
「用がないなら帰れ、"テルミ"よ」
「今は、ハザマ先生です。って……別におっさんの前ならテルミでもかまわねぇか……」
そうハザマ、もといテルミが言う。
しかし一向にヴァルケンハインの自室から帰ることはない。
「それに用件ならきちんとあるんだよ。いや……ちょっとヴァルケンハインさんにお願いがありましてねぇ」
テルミはハザマの口調に戻しそう口にした。
そう、なにもテルミはヴァルケンハインをからかおうとしてこの部屋に来たわけではない。 きちんとした用があってヴァルケンハインの元をたずねたのであった。
「用件に関して口調を弁えるところはまぁ認める。が、相変わらずわざとらしい敬語だ。それに貴様の頼みだと? 私が聞くとでも思っているのか?」
ヴァルケンハインは気に入らなそうに、そうはき捨ててテルミを追い返そうとする。
「せめて話くらい聞いてくださいよヴァルケンさん。それともなんですか? 日ごろ困った生徒や職員の悩みを聞いて解決してくださっているあなたが、自分の嫌いな男だからって無下に追い返そうとするんですか?」
「む……」
そうテルミに悪態を疲れ、思わず返す言葉を失うヴァルケンハイン。
その反応を見たテルミは、勢いに乗りさらに攻める。
「まぁそれだけ私が嫌われてるってことですかね、私は嫌われているとわかっていてもこうしてあなたを頼りにここまでやってきて、こうして改まってお悩みを打ち明けようとしているのに。わかりましたわかりました。私一人で解決してみますよ~」
「……聞くだけ聞いてやる」
「おっほ! さすがは学生時代の親友! 持つべきものは友だな!!」
「黙れ」
急に馴れ馴れしくし始めたテルミを、ヴァルケンハインは鋭く返すのであった。
散々嫌味を言われ、半分悔しさ、もう半分はめんどくささにヴァルケンハインはテルミの用件を聞くことに。
「実はねぇ。私の愛するペット、ウロボロスちゃんがお病気になってしまいまして……」
「あぁ、あの緑色の大きな蛇のことか」
そのペットを、ヴァルケンハインは見たことがあった。
テルミはペットを飼っており、名前は『ウロボロス』という。
犬でも猫でもなく蛇、それも緑体色で普通の蛇のような細長いものではない。
というか蛇と言っていいのかわからないくらい太い。太い緑色に大きな目と口がついて蛇ですといった感じのよくわからないペットなのである。
これと似たようなペットをラグナも飼っており、あっちは『デッドスパイク』というらしい。
「それで、動物の病気を治してくれというわけか?」
そうヴァルケンハインはテルミにたずねる。
もしそうならば、ヴァルケンハインでもそれはできない。
万能のヴァルケンハインといえどもそれは専門ではないし、どちらかといえばそういう類の他の見事はライチ先生かセリカに頼むべきなのである。
ヴァルケンハインはこう考えていたが、テルミの返した反応はというと……。
「いやいやそうじゃないんですよこれが」
「……ちがうのか?」
どうやらそういうことではないらしい。
じゃあいったい用件とは何なのか、テルミは続きを話し始めた。
「話は変わるんですが、今週末の休みに私が定期的に顔を出しているペットの社交界がありましてねぇ」
「……で?」
「なんとかして参加したいのですよ。親御さんや愛犬家のみなさま達からも大変な支持を得ておりますからねぇ」
「貴様は見た目の受け"だけ"はまともだからな」
「それで、ウロボロスちゃんの"代わりとなる"ペットが……必要になりまして」
と、そこまで聞いてヴァルケンハインは眉をひそめた。
なんとなく、この先テルミが言おうとしている。頼もうとしている用件が見えてきたのであった。
「ヴァルケンさん。ここはひとつ、一日私の愛犬に……」
「断る」
「即答ですかぁぁぁぁぁ!?」
もうそこまで聞いて、ヴァルケンハインが首を縦に振る理由はない。
ただでさえいけ好かないテルミの、それもペットになれなどという馬鹿げた頼みを受け入れる利点はない。
「なぜに私が貴様のペットの代わりにならんといかんのだ!?」
「だってヴァルケンさん、ヴェーアヴォルフ(※狼状態のこと)になったら凛々しくてかっこよくて気品あふれるお姿になるじゃありませんかぁ」
「さりげなく褒めても無駄だ! そんな一生の恥になるような行為、断じて受け入れん!!」
そうヴァルケンハインはきっぱりと断った。
テルミは軽く落ち込む。そして帽子をひとつ押さえると。
一人うわごとのように、こう言い始めた。
「わかりました。あ~そういえば、最近知り合いからの伝手で大量のブラックウッドが手に入りそうなんですよねぇ~」
「!?」
テルミがまるで誰かに聞かせるかのようにそんな話をし始めた。
ブラックウッドとは高級ドッグフードのことで、それなりに評判が良くそして当然値段もする。3ポンドで千五百円ぐらいである。
無論そんなドッグフードの話をしたところで誰も興味など持たないだろう。
安月給でケチなラグナも愛犬にはスーパーで売っているごく普通のドッグフードしか与えていない。
高級な茶葉の話ならヴァルケンハインも耳を貸しただろう、と……普通にそう考えていたのだが……。
「ま、ヴァルケンさんには関係のない話でしたね。これは失礼」
「そ、そうだ。そんなものに興味はない。じゅるり……」
「おっさん、口からよだれ出てるぜ」
意外なことにヴァルケンハインはブラックウッドに惹かれつつあった。
表情と口元でわかる。ヴァルケンハインも立派な犬ということなのだろうか。
当然テルミもそれを狙ってこんな話をしだしたのである。もう一息と、テルミが畳み掛ける。
「ブラックウッドの5000が約150ポンドくらいですか。あぁ欲しければお譲りいたしますよぉ。でもちょっとタダというわけには……(チラッ」
「う……うぐぐ……」
「おっさん、素直になれや。おいしいドッグフードが……待ってんぜ?」
「だ、誰が貴様の頼みなんぞ!!」
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週末。
「あらお宅のベルちゃん大きくなりましたわねぇ~」
「やだお宅のユキちゃんこそ~」
本日ここ晴天の中、カグツチ市民公園にはたくさんのペット愛好家の方々が顔をそろえていた。
そんな中テルミも、いつものようなさわやか……かどうかわからない笑顔でその場へとやってきていた。
「いやぁ良いお天気ですねぇヴァルケンさん~!!」
「グルルルル……(※あぁ、なんでこんなことに……)」
「そんなお怒りにならんでもきちんとブラックウッドはお譲りしますよぉ」
「アオーーーン!!(※あぁレイチェル様、こんな私をお許しください)」
最終的にヴァルケンハインは物、それもドッグフードで釣られてしまいテルミの一日ペットになってしまった。
ペット代行となったヴァルケンハイン。そして飼い主のテルミは市民の輪の中に入り込む。
「あらハザマ先生、その凛々しくも輝かしいワンちゃんはどうしましたの?」
「ご近所さんの家のワンちゃんなんですが、そのご主人にたまにはこういった社交の場に出してくれと頼まれましてねぇ。よくなついてくれてますし、そのご主人も忙しいもので私が代わりに~」
「グルル(※なついてなどいるか!)」
おそらくご近所とはアルカード家のことだろう。
テルミによくなついているという設定らしいが、ヴァルケンハインはなつくどころか吐き気すら催していた。
そんなヴァルケンハインなどおかまいなしに、テルミは奥様方の犬を拝見し、仲良くおしゃべりをし始めた。
「それにしてもお宅のワンちゃんまた綺麗になって~。奥さんがお綺麗だとペットも似るんですねぇ」
「まぁやだハザマ先生ったらもう口が上手なんだから~!!」
「ワン!(※ご婦人、その男上手なのは口だけだから。他色々と崩れまくってるから)」
調子のよいことばかりを言うテルミにヴァルケンハインは奥底でツッコミを入れる。
ヴェーアヴォルフ状態で言葉を発せないヴァルケンハインは、脳内では文句ばかり垂れていた。
そして人当たりだけは良いのか、単に市民の方々はテルミの本性を知らないだけなのか、やたらと輪の中に入り和んでいるテルミをヴァルケンハインは気色悪そうに見つめていた。
「どうですヴァルケンさん、せっかくですから運命の人よろしく、運命の犬を選んでみては? ヴァルケンさんも犬の姿ならまだ婚期ありますって」
「ワオーン!!(※よけいなお世話だ!!)」
テルミの余計すぎる優しさにヴァルケンハインはさらに吼える。
確かにヴァルケンハインは人間の姿では老人であり、この先結婚する気もないという。
そんな生涯独身の老人に犬の姿で交尾しろと言うのだから、ヴァルケンハインからすればたまったものではない。
がやがや……がやがや……。
「おやなんです騒がしいですねぇ。愛犬馬鹿親のクソババアどもはまったく……」
「ワオ(※貴様さっきお綺麗ですねとか軽々しく言ってただろうに……)」
そんな毒舌も吐きながら、テルミとヴァルケンハインはにぎやかな方へと目を向ける。
すると、そこには二人すら予想できなかった意外な人物が犬と一緒に歩いていた。
「あらやだ。あの人……」
「ブレイブルー学園の理事長、"帝様"じゃないのよ」
そう愛犬と一緒に歩いていたのは、知る人ぞ知るブレイブルー学園の理事長――帝様であった。
帝様といえば、ブレイブルー学園の中でも誰よりも偉い。あのレイチェル校長よりも偉いすごい方なのである。
紫色の綺麗な長い髪が地面スレスレまで届き、まだ幼い少女ではあるがその貫禄はまさしくものすごい偉い方であることを人々に刻み付ける。
普段は豪華な着物のような格好でブレイブルー学園の高いところにいる帝であるが、今日はオフなのかラフな格好であった。
「おや? そこにいるのはテルミではないか?」
「これはこれは理事長。ご無沙汰しております」
テルミとヴァルケンハインも帝と目が合う。
さすがの傍若無人のテルミであれど、理事長を目の前にすれば腰が低くなって当たり前。
普段はレイチェルを重視するヴァルケンハインも、その主よりも偉い方が前なのか、少し口をふさいでいた。
「そちもこの場にご自慢のペットを連れて散歩か?」
「はい、しかし理事長も愛犬家だったとは。知らなかったですよぉ」
「余もこういった可愛いものには目がなくてな。時間ができた時はこうやってお散歩をしておるのじゃ」
そう帝は愛犬をなで始める。
こうしてみると普通の少女。しかし中身は高貴なお方。それを忘れてはならない。
「にしてもそちのワンちゃんはまたずいぶんと気高いのぉ。その様子じゃあ相当のご老体だのぉ」
「あはは、ヴァルケンハインと言います」
「ワン(※いいのか本名で……)」
「ほぉ、凛々しくてめんどくさい名前じゃの。ヴァルちゃんでよいかの?」
「ワン!(※ほっとけ!)」
帝にめんどくさい名前といわれ、少し怒りを露にするヴァルケンハイン。
そして帝のほうも犬を抱きかかえ、負けじと自己紹介をする。
「カオスオブモヒカンアルカナバサラスープレックスイグザードクロノファンタズマ。こっちにきてヴァルちゃんに挨拶するのじゃ」
「(※お前の犬のほうがよっぽどめんどくさい名前なんですけどぉぉぉ!!)」
まるでどこかの会社の作品を一同に集めたような非常に長ったらしい帝の犬の名前。
ヴァルケンハインでめんどくさいと言っていたわりにその五倍はあろう名前の長さに、ヴァルケンハインはツッコミをいれずにはいられなかった。
「あはは、どうです? そっちの犬とこっちの犬。一発、やっちゃいますぅ?」
「一発でも二発でも良いのじゃがこの子はオスなのじゃ。それにちょっとその犬は余のタイプじゃないし」
「ワン!!(※うるさいわ! こっちから願い下げだわ!!)」
帝と出会いそんな会話を何回かした後、帝は満足したように他の方へと行ってしまった。
「カオスオブモヒカンアルカナバサラスープレックスイグザードクロノファンタズマ。あっちで一緒にピザ○ットのとくうまプルコギ食べましょうねぇ~」
「グゥ……(※だから名前長いって。つか犬にピザ食わせていいのか? 体壊さないか?)」
同じ犬としてヴァルケンハインはカオスオブモヒカン(以下略)の心配をしながら、帝が去るのを見つめていた。
その後、テルミとヴァルケンハインは再び市民の輪の中に戻る。すると……。
「ところでハザマ先生。いつもの"アレ"、今日は見せてくださらないの?」
「あはっ。では今日もやります?」
「……(※アレ?)」
そう言って、テルミは着ている一張羅を脱ぎ捨て、ワイシャツ状態になる。
そんなテルミを見て、ヴァルケンハインは何をし始めるつもりだと冷や汗をかく。
ヴァルケンハインの大きな心配に対し、テルミは目を開きにやっと笑って見せた。
「それでは、私がムツ○ロウさんから得た、ペットへの飽くなく愛情表現を、本日もお見せいたしますよぉ~」
「ワ……ワン!?(※な、なにをするつもりだテルミ!?)」
「それじゃ……。いくぜおっさん!!」
「ア……アオォォォン!!」
そう叫び、なんとテルミはムツ○ロウのようにヴェーアヴォルフ状態のヴァルケンハインに飛び掛った。
そして過剰な愛情表現を見せた(※どんなことやってるかは、文章にできないよ!)。
これにはヴァルケンハインもたまらず吼えた。不思議かそれが悲鳴にも聞こえる。
「ワオーーーーーーーーーーン!!(※やめろテルミィィィ!!)」
「これをね、こうしてあげるとねぇ。この子は喜ぶんですよぉ!!」
「(喜ぶかぁぁぁ!!)」
終盤、ヴァルケンハインは何度もテルミの顔面を飲み込むかのように噛み付いた。
しかしテルミも血だらけになりながら、ヴァルケンハインを"※文章にできないよ!!"したり、"※文章に(ry)"したりと好き放題やった。
まるでそれは仲良しのように、本当は仲がいいのではないかと疑うような。
そんな素敵な、じゃれあいだった。
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翌日。
「あら? どうしたのヴァルケンハイン?」
「レイチェル校長、私は……大変なものを失ってしまいました……」
「?」
あまり見ることのないくらい落ち込むヴァルケンハインを、レイチェルは不可思議に見つめていた。