3年B組ハーデス先生~ブレイブルー学園パロ~ 作:トッシー00
それは今より○○年前。
ハクメン先生が教師ではなく、まだ学生だった時代。
今の時代よりも結構、大分、かなり前の話である。
この時代のブレイブルー学園は、外見上は現代とあまり変わっていない。
違いがあるとすれば、術式が無く、電気などの化学で動いていたくらいである。
後にこの学校の卒業生であるナインが、術式を開発して特許を取るわけだが、この時代の彼らはそんなことを知る由もない。
そんな過去の時代、この時代のブレイブルー学園には、六英雄と呼ばれる存在がいた。
六英雄のリーダーにして、白い仮面をつけた謎の男ハクメン。
学園始まって以来の天才にして、学園が誇る美少女、生徒会長であるナイン。
地上最強の生物と呼ばれ、獣人の始祖ともなった誇り高き獣人である獣兵衛。
ブレイブルー学園の創世紀からこの学園を支えてきた。もう何年留年しているかはわからないが今も学生であるヴァルケンハイン。
白銀の錬金術師という異名で呼ばれ、あのナインにとっての唯一の友人であるトリニティ。
不良であるテルミ。
という学園を代表する六人が、この時代では英雄と呼ばれていた。
この六人はこの時代の3年B組所属の生徒達。どうして英雄なのかはわからない。
そんな彼らの学園生活、彼らを襲った困難の物語である。
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「おはようハクメン」
ブレイブルー学園の朝。
フードをかぶった猫、獣兵衛がハクメンに話しかける。
獣兵衛はハクメンにとっての友人であり、あまり友達がいないハクメンにとっては気軽に話せる仲である。
そんな彼に対し、ハクメンも挨拶を返す。
「おはよう獣兵衛、え~と今はミツヨシだったか?」
「いやぁどちらでもかまわん、それにお前は俺のことを"猫"と呼んでいるだろう」
「ふっ、そうだったな」
このころの獣兵衛は、本名であるミツヨシとして学校に通っていた。
だが六英雄として広まった獣兵衛という名の方が馴染みがあるため、今はそう名乗っている。
そして次に、なにやら教室の外から大きな音が耳に障る用に鳴り響いた。
この3年B組にとっては、もう呆れるしかない光景である。
そう、不良であるテルミがバイクで教室に入ってくるのだ。
「おらおらどけやてめえらよぉーーー!!」
校則違反などお手の物、何度注意されようがテルミはいつも学園の風紀を乱す行為ばかりする。
そんな彼に、獣兵衛は無駄だとわかっていても注意を促す。
「テルミ、お前いい加減バイクで教室につっこんでくるのをやめろ!」
「うっせえな猫又、これが俺の生きがいなんだよ」
テルミはそうかっこつけて言う。
その奥では、「なにが生きがいだ……」と言わんばかりの顔のハクメン
テルミもその視線に気づきにらみを利かせるがすぐに目をそらす。
テルミもケンカではハクメンには勝てない。だが、彼の意地がハクメンに対して突っかからずを得ないのである。
「ったくつまんねぇな、とくにてめぇみたいな優等生はよぉ。なぁハクメンちゃん」
「今どき昭和のヤンキーみたいなキャラのお前の方がつまらん」
「んだとハクメンちゃんよ!」
さっそく今日も喧嘩が始まろうとしていた。
そんな二人に割って入ったのは、この学園の生徒会長だった。
「ストーップ! 二人ともそこまでよ!」
二人の言い争いを止めたそこにいた女生徒こそ、学園が誇る天才、ナインだった。
そのそばには彼女の友人であるトリニティがいた。
このまとまりのない3年B組を仕切る、いつも苦労の絶えない彼女。
そんな彼女に対して、テルミは容赦なく罵詈雑言を口にした。
「んだようっせぇぞ生徒会長! これは男同士の喧嘩だ! 女は手を出すんじゃねぇよ!!」
「なにが喧嘩よ。いつも喧嘩売ってハクメンにボコボコにやられてるくせに。あんたみたいな口だけのアホがいるからいつもこのクラスだけ遠い目で見られるのよ。あんたみたいなゴミがいるせいでね」
「誰がゴミだあぁ!? 調子に乗ってっとその顔歪めんぞ!?」
「へぇ~。あんたこの私に勝てる気? 今日こそはクラスのゴミクズを灰にするのもわるくないわねぇ~。不良のテルミくん☆」
「うぐっ! てか最初の紹介文俺だけ扱いひどくねぇか?」
「ただの無能な不良だからでしょ。いや、無能に失礼ね。あいつら無も能力のうちだし」
と、今度はこっちが喧嘩になりそうな雰囲気だった。
一つが終わればまた一つが始まる。
このクラスは本当にまとまりが無く、教師方もそんな彼らに手を焼いていた。
「貴様ら! 朝からうるさいぞ!!」
そんな彼らに嫌気をさしたのか、奥で座って本を読んでいたヴァルケンハインが怒鳴り散らす。
このクラスでは最も年長者の彼、だが今も同じクラスで授業を受けているのは何か理由があるのだろうか。
そんなヴァルケンハインの怒鳴りに、二人は冷や汗をかいて黙りこむ。
「ったく……。マジ近々覚えてろやこのクソ女」
「あんたこそ、本当に近々このクラスから追い出してやるから覚悟しておきなさい」
こうして、教室の全員が笑顔なんて程遠い歪んだ表情で席に付く。
その後チャイムが鳴り、担任のレイチェル先生が教室に入ってきた。
みんなの顔を見わたして毎日と同じようにため息をつく。
「おはようあなたたち。もう少し笑顔で先生を迎えることはできないのかしら?」
そう皮肉交じりで生徒達に言うレイチェル。
そう言った後、テルミを見てのこの一言。
「まぁ、そこの下品の緑がざわついてる限りはクラスに笑顔が戻りそうにないわねぇ」
「おはようございま~す先生、いつもよりガキ臭いなぁ」
そうバカにされたテルミは、言い返すようにレイチェルにも悪口を言った。
「容姿はより幼女だけど、中身の方はいつもと同じだから心配ご無用。あなたみたいに礼儀正しくなっても根本が下劣そのもので変化も見られない下等生物とは違うの」
「おいおい大切な教え子に向かってその言い草はひどいなぁ。中身の方はいつもと同じだぁ? その暴言に力が籠ってませんけどぉ? なんかガキっぽくなってますけどぉ~?」
「……憎たらしいわ」
生徒同士の喧嘩が終われば、今度は生徒と教師で喧嘩が始まる。
毎日のように皮肉を言い争うホームルーム。
それが終わった後、レイチェル先生から朝の報告があった。
「今日朝のホームルームで報告するのは、一週間後に行われる体育祭についてよ」
レイチェルはそう言って、六人に資料を配った。
体育祭、それは学園生活においてみんなでスポーツをして汗を流そう的な行事である。
超人が集うこのブレイブルー学園でも毎年行われている。
野球にサッカー。卓球にテニス。いろんな競技が揃っている。
めんどくさいことこの上ないが、授業がないこともあり生徒達の反応はいい。
と、さっそくこのクラスでは、体育祭に関してこんな問題が発生した。
「先生、俺達のクラス人数が少ないのだが。というか六人しかいないんだが……」
獣兵衛が言ったこの質問。
そう、3年B組の六英雄は、六人しかいない教室なのである。
英雄と呼ばれている割にはなんとも隔離されているような扱い。今まで特に気にしていなかったのだが。
「そのことなんだけれど、一種目だけ出るということで話がついているわ」
獣兵衛の質問にレイチェル先生は答えた。
一種目だけ、とはいえ野球は九人いなければならないしサッカーにいたっては十一人
全員でなければいけないことを考えるなら卓球やテニスなどの個人種目は出れない。
「今回は野球ね、六人はいるわけだし後三人なんとか探してきなさい」
「ったく無責任だな先生よ、先生も出ればいいんじゃね?」
「私が野球なんて汚れるような運動をやると思うかしらテルミ?」
「わかってねえな、野球は努力と友情の塊だぜぇ」
テルミはまるでこのクラスのムードメーカーですみたいな口ぶりで言うが、周りのみんなは白々しい目でテルミを見る。
お前のような他人の気持ちの一つも理解できない小悪党が言うなと、そう思っていたのである。
ちなみに人数が揃わないようであればクラスの担任が代わりに出場するという決まりがあるため、一教師であるレイチェルはしぶしぶ野球をやることになる。
「野球って、私たちもやるわけ?」
「私運動とか苦手ですよぉ~」
野球をやることに関して、ナインとトリニティはめんどくさそうな顔をした。
本来人数が集まっているのなら、男子と女子で別れて種目を選ぶのだが、このクラスではそうはいかない。
「文句言わないの、それに今回は校長、私のお父様の事情もあるのよ」
そんな二人をなだめるレイチェル。
この人数の揃っていないクラスでも体育祭に出なければいけない理由。
それにはこの学校の現校長である、クラヴィス・アルカードが関わっているというのだ。
いったいどういうことなのか、ハクメンはレイチェルに問う。
「クラヴィス校長が? いったい何があった?」
「英雄さん、それを今説明するわ、ヴァルケンハイン!」
「かしこまりましたレイチェル先生!」
レイチェルに仕事を与えられ、ヴァルケンハインは張り切って準備をし始めた。
すぐさまプロジェクターとパソコンを取りだして、教室でセットをする。
そしてとある映像を、みんなの前で流し始めた。
「今回体育祭実行委員の方々がいろんな先生にどのクラスが勝つのかの予想を聞いて回っていたのよ」
「ほう、ずいぶんと大層なことを……」
それは、体育祭を始める前にこの学校の体育祭実行委員が撮影した、体育祭の優勝予想VTRだった。
若干くだらなそうにハクメンは口に出したが、問題はここからである。
校長の予想VTR。
「クラヴィス校長、今回はどのクラスが優勝すると思いますか?」
「そうじゃな、私はレイチェル先生率いる3年B組が優勝すると思っている」
VTRの中で、その質問に答えるクラヴィス校長。車いすに座ったご老人。
長い白ひげを生やしたその姿は、長い時を生きてきた仙人のような貫禄が這える。
圧倒的存在感。だが生徒からは愛されている立派な校長である。
今回クラヴィス校長は、ハクメン達のいる3年B組こそが体育祭を制すると予想したのだ。
「あぁ、あのアブノーマル学級ですか」
質問をした生徒は、そう言葉を漏らした。
どうやら他の生徒からはアブノーマル学級と呼ばれているようである。
まぁ確かに異常な学級であることは事実である。他の生徒達に比べて特殊な能力を多く所持しているからだ。
今回の体育祭でも、きっととんでもないことをしてくれるだろう。校長はそう思っての予想だったのだろうか。
「私は信じている、あの者たちが今回勝つことを」
「そうですか、勝つといいですねぇ~」
「あぁ、もし……あの者たちが破れたりしたら……ごほっごほっ!」
突如、せき込んで車いすから倒れるクラヴィス校長。
生徒がすぐさまかけより、そしていたわる。
「校長先生、大丈夫ですか?」
「その時はショックで……死んでしまうかも知れんごほっごほっ!!」
「校長先生ーーーーーーーーーーーーー!!」
そう生徒方がクラヴィス校長を保健室へ連れて行った所で、VTRは止まった。
それら一部始終を見せられ、レイチェルが困り果てた表情で生徒達に言う。
「……と、いうわけよ」
「なぁ、それって一種の脅しじゃね?」
この時ばかりは、テルミが言いたい事をみんなが思っていた。
そう、今回3年B組が体育祭で優勝しないと、クラヴィス校長は死んでしまうかもしれない。
つまり学園の校長の命は、3年B組が握っているということである。
なんという責任感。押し寄せる重圧が3年B組の生徒達の顔色を青く染める。
そんなテルミの質問には、レイチェルとヴァルケンハインは軽くスルー。
「というわけで、今回は我々の生徒に絶対に勝ってもらわなければならないのだ」
そう皆に責任を与えるヴァルケンハイン。
そんな彼の言葉に、ハクメンと獣兵衛がまったをかける。
「ヴァルケンハインよ、いくら我々が六英雄と呼ばれる凄腕の集まりとは言え、絶対に勝てるとは限らないぞ」
「ハクメンの言う通りだ。事実今俺達の人数は九人に満たしていない、九人そろっても本番は一週間後、パワースピードが異常でも野球などやったことなどないからな」
それは弱音ではなくあくまでも予防線だ。
確かに一回戦ないし二回戦は勝てるかもしれない。だが優勝まで行くには時間が無さ過ぎるのだ。
まず九人集まらなければ参加すらできない状況で、そこから日々の練習スケジュールまで組み立てる。
と言った風に、ハクメンと獣兵衛は現実感あふれることを言うが。
レイチェルとヴァルケンハインは二人を睨みつけ、ヴァルケンハインがとどめの一言を放つ。
「もし勝つことができず、校長が死ぬようなことがあれば……」
「私たちは絶対にあなたたちを許さない」
そのヴァルケンハインとレイチェルの言葉に他の五人の生徒たちは凍りついた。
いったいなにをされるのか。ハクメン達も強いがそれ以上にこの二人も強い。
校長を失った怒りで学園が滅ぶ可能性もある。そんなことを考えて皆はそれぞれに声かけをし合った。
「おおお……おめえら! ぜってえ優勝するぞこらぁ!!」
「わわ……わかっておるわこんちくしょう!!」
「俺たちはこここ……こんなところで死にたくはない!」
「私だってままま……負けてたまるもんですか!」
「がんばりますぅ~」
テルミ、ハクメン、獣兵衛、ナイン、トリニティは恐怖反面、覚悟を決めた。
こうして3年B組は一致団結する。はたして彼等に希望はあるのだろうか……。
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翌日。
3年B組の面々はグラウンドに来ていた。
なんとか割り振られた練習時間に、レイチェルを入れてたったの七人。
まず野球すらできない。そんな中で皆は策を練る。
「とりあえずメンバーを集めましょう、出場する前に棄権なんて話にならないわ」
「ナインの言う通りだ。追加メンバーだって野球経験者が助っ人に来るとは限らない、きっとお荷物を押し付けられるに決まっているだろうが」
ナイン、そして獣兵衛の言葉の後、皆はそれぞれの教室に助っ人を要請しに行く。
たかが二人、すぐにでも見つかる。と思っていたのだが、現実は甘くはなかった。
お荷物を押し付けられるどころか、どのクラスも助っ人を出してくれないのだ。
まず一つに、もし足を引っ張った際に何をされるかわからないという六英雄に対する恐怖。
そしてもう一つ、野球経験がないとは言え3年B組のとてつもない能力は他のクラスにとっては障害になりうる。
メンバーが足りずに棄権してくれるのならありがたいことこの上ない。
結果一日かけても、助っ人は身付かず途方に暮れる六英雄。
「ったく一年もだめかよ!!」
「私達に関わりたくないという輩も多い、これは絶望的だな」
テルミはイラつき、ハクメンも諦めかける。
こうなっては出場すらできない。
そんな中、ナインは悩みに悩む中、まず一つの解決へと口を開いた。
「……本当は獣兵衛以外のあんたらに関わらせること自体いやなんだけど」
「ん? どうしたナインよ」
そんなナインの言葉に、ハクメンが問うと。
「私の妹……セリカに一応頼んであるのよ。あの子はすぐにでも了承したけど、どうしても駄目だった時にって」
そう、ナインは助っ人を探す際に、妹のセリカに声をかけていたのだ。
だが妹を溺愛するナインからすれば、野球をさせること自体が否定的だった。
セリカはこの学校でも有名な方向音痴で知られる。なのでいつも先生が毎朝迎えに行っているほどの処置を施されているほど。
野球はボールを打ったら一塁へと走っていかなければならない、だがセリカの場合ボールを打ったらどこへ行くか分からない。
他にもボールを探しに行ったら迷子、その他何かあったら迷子。正直動くスポーツ全般怖くて仕方がなかった。
「いざ誰かが満塁ホームランを打つことになったら、あの子ちゃんとホームベースまで帰ってこれるかしら」
「いや心配しすぎだろ。安心しろナイン、俺たちが全責任を持ってあいつが迷子にならないように目を配る」
「……わかったわ。あなたを信じる、獣兵衛」
獣兵衛の言うことならば信じられると、ナインはセリカを連れてくることに。
そして数分後、ナインにがっしりと手を繋がれてセリカが連行されてきた。
ポニーテールが良く似合うわんぱくな美少女。この学校でも彼女を狙う男は多いという。
が、狙ったら最後、まるこげになって無に帰すというのも噂が絶えない。
「お待たせ~。私でよければ手を貸すね~」
そう気楽にポニーテールを左右に振るセリカ。
野球ができるかどうかはわからないが、彼らにとっては人数こそが大切。
「うぅ。なんでこの女なんだよ。マジ頭いてぇんだよ……」
「我慢しろテルミ。できるだけポジションは離すし、最悪外野で寝ていろ」
セリカが現れたとたんに、もがき苦しむテルミ。
なぜかセリカはテルミにとって有害な存在らしく、セリカが近くにいるだけでテルミは吐きに吐きまくる。
そんな彼に対して、ハクメンはできるだけ処置を取ると言って、納得させた。
こうして八人。残りは一人となった。
「どうするレイチェル先生。後一人だが」
そうレイチェルに問うハクメン。
彼女は問われて小さく笑みを浮かべる。そう、すでに手は打ってあった。
「安心なさい、もうすぐこちらに付くはずよ」
「ん?」
そのレイチェルの言葉を、ハクメン達にはよく意味が伝わらなかった。
こちらに付くとはどういうことだろうか。
そして数分後、なにやら時空が歪んで、魔法陣から一人の人物がグラウンドへ投げ出された。
尖った銀髪の男。そう、ラグナであった。
「痛てぇ! 何が起こった!?」
「久しぶりラグナ。いや……初めましてというべきかしら?」
見知らぬ場所へ飛ばされ、状況を飲み込むことができないラグナ。
周りには知っている人物が大勢いるが、どこか若々しい面子。
そう、ラグナはタイムスリップをしてきたのだ。あちら側のレイチェルがノエルとセリカを使ってこの過去へとラグナを送ったのである。
「先生、誰だこの男は」
「またどうもあそこの不良と同類の安い男がやってきたわね」
獣兵衛はラグナを知らず、ナインはラグナを安く見る。
ちなみに彼を知っているのはレイチェルとハクメンとテルミだけ。
なのでここは事情を理解しているハクメンがラグナに助っ人を頼むことに。
「これも因果だろう。ラグナよ、私たちに協力してくれ」
「あん? 何の話だ」
「野球だ。九人揃わなければできないスポーツだ」
「いや知ってっけど。野球? まぁよくわからないが、俺でよければ協力してやるよ」
なんだかんだでやっぱり助けてくれるラグナ。
こうして3年B組は無事に九人の選手が揃うことになった。
今日から約一週間、野球で優勝するための猛練習が始まった。
皆がそれぞれ協力し合う姿は、まさに時代を生きる学生の青春。
普段は仲の悪い全員が、この時ばかりはそれなりに協力し合っていた。
一日、また一日と練習時間が割り振られている限りで学校で練習を重ね。
そして土日はカグツチの河原でノックの練習などを夜まで行った。
時にはみんなでカラオケを行ったりして指揮を高めながら。
ついに来る、体育祭の時。
「とうとう来たか、この日が……」
ハクメンはグラウンドに立ち、そう言葉を漏らした。
今回の3年B組、話しあった末のクリーンナップはこんな感じ。
1番:セカンド:獣兵衛
2番:サード:ヴァルケンハイン
3番:ライト:ラグナ
4番:ファースト:ハクメン
5番:ピッチャー:ナイン
6番:ショート:セリカ
7番:レフト:レイチェル
8番:キャッチャー:トリニティ
9番:センター:テルミ
足の早い獣人の獣兵衛とヴァルケンハインが先行を取る形で有利を得る。
その後に繋ぐのが、パワーヒッターのラグナとハクメン。
セリカの前にナインを配置したのは、セリカが続けてる塁に出る際に彼女を見張れるからである。正直セリカは全てが三振の方が都合がいいというのが考えなのだが。
レイチェルは多分真面目にやることはないのでスルー。キャッチャーにはナインと日ごろ中の良く、バッテリーを組むには最適ということでトリニティが抜擢された。
テルミが最後なのは、正直皆が期待すらしていないからである。
「俺の扱いひどくねぇかな!?」
「そんなことはないぞテルミよ。お前は私たちに迷惑をかけない程度に好き勝手やればいいのだ」
「もう完全に入らない子あつかいじゃねぇか俺!!」
フォローしているのかよくわからないハクメンに、テルミは頭を抱えて叫んだ。
決定したものはしょうがないと、皆はベンチ入りした。
一回戦、相手は一年。今回は後攻から始まる。
対戦相手との会合が終わり、それぞれが守備位置に移動する。
ピッチャーはナイン。太ももや肩幅を露出した、男子生徒には刺激の強いユニフォームを来ている。
ナインの投球練習中には、周りの生徒が目を輝かせていたという。
「まったく、これだから凡人どもは。なんか視姦されてるみたいだわ」
「ヒヒヒ。ったく無駄に肉つきがいいからオカズにされんだっての!」
「テルミ、後で絶対殺すから覚悟しておきなさい」
始まる直前にも二人は喧嘩をしていた。
そして始まる一回戦。プレイボールの合図が鳴った。
先ほどの投球練習中では、特に一般生徒と変わらない投球を見せたナイン。
運動神経は女子の中ではずば抜けて高い彼女、それ故に男子の投球に匹敵する速度だった。
だがそれなら打てないことはないと、他の生徒は思っていた。しかし、それがナインの狙いだった。
「ちゃっちゃと……終わらせるわ!」
そう言って、ナインはボールを投げた。
その投げたボールは、なんと炎が纏っていた。
そして先ほど練習で見せた速度よりはるかに速く、相手生徒は呆然とそれを眺めていた。
そんな殺人ボールを軽く受け取るトリニティ。ちなみにトリニティのキャッチャーミットは錬金術で強化しているとのこと。
「あ……あぁ……」
「あらごめんなさいね。でも打つ分には怒らないから安心なさいな。最も……打てればだけどね」
そう相手選手を挑発するナイン。
その後も雷やら水流やらが纏う魔法のボールを投げ続け、あっという間に三者凡退に。
仮にボールを打てたとしても、一塁から三塁までには強面の世界最強クラスの男子三名が立ちふさがる。
まず一塁には最強のハクメン。最初からラスボスが虚空陣を構えて待っている。一塁に出たら死ぬ勢いだった。
周ってくる3年B組のターン、1番獣兵衛がバッターボックスに立つ。
相手が投げる明らかなボールの牽制球を、獣兵衛はハイジャンプで飛び込むように打球を撃った。
だがボールは三塁にコロコロ転がる。しかしサードの選手がそのボールをグローブに収める時には、獣兵衛は二塁に止まっていた。
なんというか早すぎる。ボールをバットに当ててファールにさえならなければ、獣兵衛は塁に出られる。
そして次のヴァルケンハインは、獣兵衛のパワーバッター版といった感じで、ヒットを打つとランニングホームランをしてしまった。
あっという間に二点を取る3年B組。周りの生徒達は唖然としていたという。
そんなこんなで、二回戦、三回戦と続く試合で、彼らは容赦なく己の能力を発揮し続けた。
ナインが炎や雷、氷等の魔球を投げる。ハクメンが疾風で球を打ち雪風で塁まで移動。
テルミが相手の打った打球をウロボロスでキャッチ、獣兵衛は全体的な身体能力でよい働きをする。
トリニティが防護壁をスタンドに張ることで相手はホームランが打てなくなり、ヴァルケンハインは狼に変身して相手を威嚇。
セリカが毎回メンバーに治癒魔法をかけることで無限のスタミナを確保するなどもはや完璧であった。
「つうか、それ卑怯くさくね?」
「いいじゃないのよ、彼らが頑張っている証拠よ」
そんなチート集団の中で、ラグナとレイチェルは特にやることなく守備位置で突っ立っていた。
「つかてめぇら仕事しろや!! 外野ほぼ俺一人で守ってんじゃねぇか!!」
その二人に挟まれる形でセンターを守るテルミ。
ライトに球が行こうがレフトに球が行こうが、ラグナとレイチェルが動こうとしないのでテルミが全部ウロボロスでキャッチしている。
ただでさえセリカの余波で息が荒れているのに、二人はそんなテルミを雑に扱う。
「頑張れテルミー。お前がいれば外野は安心だー」
「私の分まで働きなさいテルミ。あと終わったらとっとと死になさい」
「ざけんじゃねぇやーーーーーー!!」
こうしてあっという間に決勝へ。
もはや3年B組の優勝は確実の物となった。と、誰もがそう思っていた。
だがそれが通用したのは準決勝まで、決勝で待ち構えるのは優勝候補の2年A組だ。
野球部所属が最も多く、ブレイブルー学園野球部を甲子園まで導いた強敵。
3年B組の異常な能力にも負けないその"闘志"。
野球にかける"青春"は魔法や技をも恐れない。
その上で、前半で飛ばし過ぎたツケが回ってきたのか、ハクメン達のゲージは空になっていた。
ナインも魔力を消費しすぎたのか、投げるボールも普通の速球にしかならない。
ここにきてラグナも外野を走り回るが、レイチェルは動かないためヒットを撃たれたら点を取られることもざらに。
「ま……まさかテルミが言ったことが現実になるだと……」
ハクメンは今になって、「わかってねえな、野球は努力と友情の塊だぜぇ」というテルミの言葉を思い出す。
野球を愛す2年A組の面々からは赤いオーラが沸き立つ。
目には炎が移り、その姿はスポ根マンガのキャラのようであった。
2年A組の打つ球は、弱くなっているとはいえ魔法の壁をも、ウロボロスの鎖をも打ち破る。
対する3年B組も、残っている能力を最大限に発揮して応戦する。そして……
「10対9。9回ウラ、2アウト万塁で我々が1点負けている……」
それは野球の熱いシーンそのもの、10対9で2年A組が一歩リードしている。
そして9回ウラで3年B組の攻撃、2アウトだが万塁である。
抑えられたら負け、打てば逆転で勝てる……。こんな状況、神が与えた奇跡以外に何があるだろうか。
そして迎えるバッターは、3番のラグナ。
ここで仮に同点までもつれ込んだとしても、次には4番のハクメンが構えている。
これまで自身の雪風打法で全打席ホームランのハクメン。周ってくれば絶対に勝ちをものにできる。
「ここは……俺が打たねえとな……」
ラグナは覚悟する。
そして決心する、ここは俺が決めると……。
ここで俺が打たないで、誰が打つというのか。
そして後ろから、ハクメンがラグナに送ったこの一言。
――黒き者よ……打てよ。
ハクメンの言葉がラグナに突き刺さる。
けして原作ではあり得ない、ハクメンの決死のデレ。
それは言葉の、友情のバトン、ラグナは自信たっぷりの顔で首を縦に振った。
そして、バッターボックスでラグナは……バットを構える。
「第666拘束機関解放! 次元干渉虚数方陣展開!! イデア機関接続……ブレイブルー機動!! うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
結果は……三振、ラグナは打つことができず優勝は2年A組。
何をやっているんだ主人公、といった感じに終わった。
ベンチに戻ると誰も口を聞いてくれなかった。ラグナは静かに泣いていた。
そしていらないものを捨てるかのように、魔法陣にポイされるラグナ。
その後3年B組の生徒達はスタンドの校長の元へ向かった。
その姿を見て全員が口を閉じた。
校長は目を閉じ、その体は動くことはなかったのだ。
「まさか……こんなことになるとはなぁ……」
「普通こういうのって私たちが勝つもんじゃないのか?」
といってハクメンとテルミはレイチェル先生とヴァルケンハインをちらっと見る。
二人を見てこう思った。あ、これは終わったな……と。
「覚悟は……よろしいですかな?」
「あぁ、もう好きにしてくれ」
ヴァルケンハインの言葉と同時に、体育祭の盛り上がりを消し飛ばすほどの激闘が始まった。
その数分後……。死んだはずのクラヴィス校長が目を覚まして。
「ふぁ~、体育祭は終わったのかね?」
「えぇ、とっくに終わってしまいましたわお父様」
陽気に起き上がるクラヴィス校長を、レイチェルが介抱して校長室へと戻っていった。
「「寝とったんかいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」」
傷だらけのハクメンとテルミは、そんな校長を見て全力で叫びをあげた。