3年B組ハーデス先生~ブレイブルー学園パロ~ 作:トッシー00
ある日ラグナは、ココノエに呼び出された。
最初はめんどくさかったので、無視してやろうと思ったのだが……。
その数秒後に「来なければこの間の飲み会でのピーをピーしてピーしたことばらすぞ~」とココノエ先生に放送で脅され、泣く泣く行くことになった。
「んだよ、たいした用じゃなかったらマジで怒るぞ」
ラグナは不機嫌そうに言った。
こちとらてめえに関わってるほど暇じゃねえんだ。と言わんばかりの実際はぐーたらしているラグナ。
ココノエとしては、そんな暇なラグナだからこそ、都合良く扱えると踏んでいるため、このように目を付けられたわけだが。
「実はな、最近私はゲームを作るのにハマっていてな、つい最近知り合いから、コミケとかで売ってはどうですか? と言われたのだ」
と、自分の最近の心境を語るココノエ。
ここ最近研究材料が無くて暇だったココノエは、少し前にかじったゲームプログラミングの事を思いだし、ゲームで人を洗脳できるようなシステムができないかという若干物騒なことを思いつき。
色々試しに付くって言った結果、そんなことはお構いなしにただ捜索が楽しくなっていった。
そして今日、ココノエは誰かにゲームの感想を貰いたく、真っ白なパッケージのゲームソフトをラグナに手渡した。
「んで、なんだよこれ?」
「世に売り出すのだ。問題があったりしてはまずいだろう? 三日ほどお前にこの試作品を貸してやる。なのでプレイして毎日感想を私に言いに来い」
と、一方的な物言いでラグナにそう要求した。
ラグナは最初は断ろうとしたが、そう言いだそうとした直後のココノエの表情が怖く、なんだかんだでしぶしぶ引き受けた。
無理に断ろうとしたらなにされるかわかったものではない、ココノエはこの学校でも悪魔的な扱いを受けている。
ラグナ自身も、ココノエに今までされてきたことを忘れてはいなかった。
「んで、これはどういったゲームだ? アクションか? ロープレか? それともパズルゲーか?」
「ギャルゲーだ。お前も好きだろ?」
ココノエが作っていたのはギャルゲー。
確かに、二次創作の定番はギャルゲーであろう、絵やシナリオの独自性で売っていくのだ。
ちなみにココノエ先生は科学的な術を使い、ある程度一人で作ったらしい、この先生は本当に万能である。
ただ、その万能さをくだらないことに使わず、もっと良いことに使ってくれれば本当に完璧なのだが。当然口に出せば痛いことが待っているのであえて言わないラグナ。
「俺、ギャルゲーはあんましやんねえぞ? 俺の中の人ならやるかもしんねぇけども……。てかおめぇそういうのちゃんと作れんのか?」
ついココノエに尋ねるラグナ。
ギャルゲーを作ること自体が、空想の恋愛を思い浮かべ後は話の作り方一つを工夫すればいいので、経験談がなくとも出来なくはない。
だが恋愛という言葉そのものに縁がないあのココノエが、ギャルゲーを作ろうと思ったこと自体が意外だった。
父親である獣兵衛からは、何度か結婚する気はないかと聞かれてはいるのだが、「結婚などしたら研究する時間(要は趣味の時間)が減る」と突っぱね続けている。
「安心しろ。私の中の人はな、国民的有名なあの"とき○モ"にも出たことがあるのだ。だからその方向ではプロフェッショナルだ」
「中の人は関係ねぇだろうが……」
理由はどうあれ、ココノエはとても自信満々のようだ。
その後二十ページほどの説明書ももらい、ラグナは授業が終わった放課後、家に少しやってみることにした。
媒体自体はパソコン作っており、起動してインストールすればすぐ始められるようになっている。
「恋愛シミュレーションなぁ、かれこれもう半年はやってねぇからな……。とりあえず説明書と……」
ラグナはゲーム前に、とりあえず説明書を読むことにした。
そしてラグナは、その説明書を見て絶句した。
というにも、このゲーム内の登場人物は……。
「こ……このゲームに出てくるキャラって……。全員俺達ブレイブルー学園のメンバーじゃねえか!!」
そう、ココノエ先生はこの学校の面々を使ってギャルゲーを作っていたのだ。
まあここまで個性的なキャラが揃っている学校も珍しくはないのだが、なんでわざわざうちの学校なのだろうか。
というかあの先生は、毎日一人一人を観察でもしてるのだろうか……そう思うとラグナ先生の背筋は凍りついた。
「おいおい勘弁してくれよ……。てか主人公のデフォルト名"ラグナ"って……主人公は俺かよ」
おそらく試作品のテストプレイを任されたのも、主人公がラグナだかららしい。
自分だと思ってやることで、リアル感が得られるとでも思ったのだろうか……。
確かにギャルゲーは、自分の名前を付けることで満足する場合もある。
中には適当に名前を付けて、自分とは違う別の自分を作って満足する人もいる。
「はぁ……。とりあえずやってみるか……」
ため息をつきながら、いざスタートボタンを押す。
ラグナは主人公の名前や性別もすべてデフォルトにして(というかデフォルトが自分のままだったので)早々とプレイした。
ゲームが始まり、この学校を基にしたであろう舞台"蒼九重高校"の外見が移る。
そして主人公の後ろ姿が映り、そこで主人公が一言……。
『ここが俺の新しいステージか……よっしゃあ! 俺のデッドスパイクが火を噴くぜ!!』
「ってなんだこの中二病全開の主人公は!? 俺そんなこと言わねえよ!! 姿や技名はそうかもしんないけどさ!!」
ラグナはさっそくこの主人公の不満をぶちまける。
ココノエ先生からは、ラグナは救いようのないくらいの中二病患者に見えているのだろう。とはいえ技名や格好からして思われても仕方ないのだが。
とてつもないくらい嫌な思いを感じたラグナであったが、これを見ると俺がどんな風にこれからはっちゃけていくのか心配で気になったので、続けることにした。
『お、お主が拙者の隣でござるか、拙者はシシガミ・バングと申す!』
どうやら主人公の親友という役はバングらしい。
バングもまた充実に再現されていた。台詞全体がむさくるしく、完全にモテないことが前提で選ばれた役割であることが否めない。
『お、よろしくな! 俺はラグナ・ザ・ブラッドエッジって言うんだ』
ゲームの中もラグナもバングに挨拶をする。
なんのためらいもなしに積極的に人と付き合うことができる主人公、ギャルゲーの主人公は大抵そんな都合のいいやつであろう。
実際のラグナも人付き合いは苦手ではないが、積極的かと言われればそうではない。
『あっはっはっは! 時にラグナ殿、この学校でさっそく良いおなごは見つかったでござるか? 困ったら拙者に言うでござるよ』
「なんか普段から女どもからムサいウザいおまけにクサいと言われているこいつにそんなこと言われてもな……」
実際のバングのイメージはどうあれ、主人公の親友の役は大抵、女性関係が広く主人公の恋をサポートしてくれるものであろう。
それをバングがやるというのは……なんというかラグナとしては納得がいかなかった。
ラグナ的には、普段でも仲が良くおまけにモテるハクメン先生辺りにやってもらいたかったところ。
「まぁいいや、とりあえず続けるか……」
時間が無駄になるので、ラグナは小さなことは気にしないことにした。
とりあえず道なりに会話を進めていく。こういうゲームはまず女性関係を築くことから始める。
そして一日が過ぎ、学校二日目、ついに出会いが訪れた。
『はぁ……はぁ……。おいおい二日目から遅刻だとーーー!』
「いきなり遅刻かよ。俺そんな遅刻魔じゃねえぞ」
高校デビュー二日目にして遅刻するゲーム内のラグナ。
このままでは凶悪面なのもあってさっそく目をつけられてしまう。それは避けたい。
走るゲーム内のラグナ。そんな時、一人の少女とぶつかった。
極々典型的なパターン。肝心のぶつかった相手はというと。
『いつつ……おいあんた、大丈夫か?』
少女はラグナの手を取る。その少女は綺麗な金髪を靡かせ、透き通るような緑色の目をしていた。
そう、最初に出会う少女とは、ノエルであった。
それを見たラグナの最初の一言がこれである。
「おいおいよりによってナイチチかよ……。つかなんでナイチチ? メインヒロインだからか? あいつ最新作でメインヒロインから下ろされたばかりだろうが」
おそらくラグナはセリカの事を言っているのだろうが、別に下ろされたわけではない。
ちなみにラグナがどのような女性が好きなのかは定かではないが、とりあえずノエルに対しては少し反応は薄め。
ゲームの話に戻るが、ノエルはそのまま立ち上がり、ギャルゲー的な笑顔を見せラグナに話しかける。
『あなたも遅刻ですか? よかったぁ、私だけだったらどうしようかな~って思ってました~』
「なんとなくだがこの女黒いこと言ってね?」
ゲームの中の台詞だというのに、さっそく悪態付くラグナ。
ラグナはノエルには厳しいのか、一々その言葉に反応する。
ゲームの中のラグナはというと、『あはは、俺も仲間がいてよかった』的なことを言っている。
『私、ノエル・ヴァーミリオンといいます。これからも見かけたら仲良くしてくださいね』
ゲームのラグナは、『わかったよノエルちゃん』
一方で現実のラグナは、「めんどくせえなこのナイチチは」とまったく正反対な反応を見せていた。
ラグナ自身ノエルがいないことをいいことにナイチチ発言を連発している。きっと今頃現実のノエルはくしゃみが止まらないであろう。
「とりあえず一人目か……。キャラクター次第だが、最初はノエルを攻略してみっか……」
と、なんだかんだでノエルを選ぶラグナ。
気がつけば午後八時ごろを回っていた。
時間を忘れるということは、ラグナ自身はこのゲームにはそれなりにハマってきているようであった。
一旦ご飯と風呂で小休憩を取った後、お菓子片手にパソコンを起動する。
「さてと風呂も入ったしやることもやった。午後十時か……三時くらいまでならできるだろう」
ゲームの時間もきちっと決め、いざゲームのスイッチを押す。
セーブした部分をクリックし、ゲーム内の時間で三日目からゲームは再開。
始まると早々、ノエルが話しかけてきた。
『おはようラグナ君、今日はお互い遅刻しなかったね~』
今日は遅刻はなかったようだ。
そりゃあ学校始まっていきなり遅刻常習犯になってはたまらない。
ラグナはそのことに安堵をしながら、台詞を飛ばすと。
『おいおいするわけねえだろ、朝俺が起こしに行ったんだから☆』
「って早いなおい! 俺がやってない間にてめえらになにあったんだ!? 何おめえらいきなり朝家まで起こしに行って一緒に登校するまで進展してんだよ!!」
ゲームのラグナは予想以上にフレンドリーであった。まさか一日で初めて会った女の子とまるで幼馴染のような関係になっているとは誰も思わないだろう。
話を進めると、たまたまノエルはラグナが住んでるアパートの下の住人だったらしい、家もすごい近かった。
始まって早々完全に幼馴染ポジションに落ち着いたノエルであった。
『お~ラグナ殿、さっそく女の子と仲良くなったらしいでござるな~!!』
学校に行くと、ゲームの中からもむさ苦しさが出てくるバングが話しかけてくる。
ゲームのラグナも満更でもない、まだ付き合うところまでは行っていないが。
『さてとラグナ殿、拙者が3日死ぬ間も惜しんで集めた女子のデータを、お主に特別教えてやるでござるよ~』
とまあ実際のバングに似合わぬ行為でラグナにデータを教えるバング。
似合わぬと言っても、その女子をつけまわすあたりは実際のバングと同じ。
ライチ先生辺りが迷惑しているとも気付かず、ストーカーではなく護衛のつもりの困ったバングである。
『一応聞いておくよ。変な意味じゃねえけど、いろんな人と仲良くなっておきたいし』
もはや女好きのチャラ男に見えてもおかしくないゲームのラグナ。
そしてバングのデータを見て、誰々が攻略対象になっているかを見てみる。
幼馴染系:ノエル
生徒会系:ツバキ
活発系:マコト
寡黙系:ラムダ
ヤンデレ系:ニュー
野生系:バレット
"美少年系:ジン"
「なんでジンが入ってるんだよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
ラグナも思わず突っ込まずにはいられなかったであろう、男であるジンの名前を。
これはココノエの悪意だと感じ取るのにそう長い時間はいらなかった。
そしてやっぱりというべきか地雷臭のするニューの名前があった。かのスクー○デイズも真っ青な鬱エンドが待っているのだろう。ちなみにラグナはそれをプレイしたことがある。
「このメンツじゃあ最初はノエルだな。ニューは絶対やめよう……ココノエ先生のことだ。ロクなシナリオ作ってねえだろ」
現実同様、ラグナはニューを避けた。
どうせクリアするならラストである、嫌なことは後回しなラグナであった。
そんな時、一本の電話が鳴った。着信画面を見ると、ココノエの名前がある。
「ん? ココノエ先生か……。よう、ゲームやってるぞ」
「そうか、もしモン○ンとかやってたらお前の家に乗り込もうと思っていたところだ」
いきなり物騒なことを言い出すココノエ。
彼女の中ではゲームを売り出す方向で進んでいるのか、早々と感想が欲しいようだ。
「要件はそれだけか? 心配しなくても一人くらいは攻略してやるよ」
「あぁそのことだが、少しでも攻略しやすいようお前にヒントをやろうと思ってなぁ」
自ら頼んでの事なのか、ココノエらしくない優しさが垣間見えラグナは若干引いた。
だが良く良く思えばココノエが作るゲームだ。きっと複雑な作りになっているのだろう。
普段は攻略本などに頼らないラグナであったが、今回は普通に聞くことにした。
「んで、誰が攻略しやすいんだ?」
「このゲームで一番攻略しやすいのはキャラはだな、ニューだ」
ココノエのその言葉に、ラグナは思わず「おめえなんてことしてくれてんだ」と言いそうになった。
そりゃあ現実でも彼女はデレデレのヤンデレデレである。パワプロで言う姫野○レンのように告白したら100%YESが帰ってくるようなキャラだ。
それを充実に再現したのか、はたまた嫌がらせなのか、ココノエにしかそれは知らない。
そしてココノエは容赦がない性格。創作物の定めとしてか、当然普段よりも盛られた設定がなされているのだろう。
ただでさえ現実問題、ラグナと他の女子が歩いている最中剣を飛ばしてくるようなやつ。それが強調されているとなると、もうどうなることかわからない。
「……そうかよ、おめえがなんと言おうが俺はノエルを攻略するからな」
ラグナはあえて文句ひとつ言わなかった。
そして、自分がどんな障害があろうがノエルを攻略することを宣言する。
そのことに対し、ココノエは面白おかしくこう返した。
「ほうほうラグナ先生はノエルが好きなのか。さすがはシスコン、妹みたいなやつと結婚したいタイプだな。メモメモ……」
「メモすんな馬鹿!! ニュー選んで鬱エンド行くよりはマシって意味だ!!」
「だがラグナ先生。こう妹萌えなんてのは一時のノリでしか流行らない物だ。かの高坂○介ってやつがいるのだがな、私はあいつが大嫌いだ。他の女の気持ちを踏み台にして最終的に妹を選んだクソみたいな男だ。私は最終巻を読んだ時つい、お優しい眼鏡の可愛い女の子から慈悲を多く貰っていながらも、その優しさに付け込んでいざって時だけ利用したあげく、嫌いだった女一人を地獄に叩き落とした上に用済みとその優しい眼鏡の女の子さえもついでに地獄に落とした。そんなニラのような緑の頭をしたゲス以下のカスのような男を思いだしたぞ」
「それ違う奴だから。つか身近にいるからそいつ」
ココノエの無用な話を聞いて、ラグナはどうにも言えない感じになり……。
ついでに詳細を聞くと。ココノエいわくニュールートは、入りは楽勝だが道を外れれば三日は立ち直れないほどの鬱エンドを用意してあるとのこと。
そしてニュー関連の鬱エンドは、全キャラクターに用意されているというから驚きである。
それらを聞いて、ラグナは思わず口か開かなくなった。
「…………」
「まぁがんばってノエルを攻略するのだな、ゲームでも……リアルでもな」
「黙れそして死ね!!」
ココノエにおちょくられ、ラグナは怒鳴り力強く電話を切った。
そして気を引き締め、ノエルの評価を上げようと頑張る。
ゲームを進めていくと、ツバキやマコトとの出会い、そしてラグナが思わず身震いしたジンとの出会いがあった。
『ラグナくんか、これからは"兄さん"と呼んでもいいかな?』
「あぁもう死ね。静かに死んでくれ」
ジンの言葉の後に選択肢が出たが、ラグナはジンに死を要求しながら迷わず"いやだ"を選んだのは言うまでもない。
どうやら兄弟設定ではなく、ゲームのジンは男好きのコアな役回りであった。
兄としては、なんかこう弟が他人にそういう風に思われていることが兄として少し嫌な気持ちになった。
そして少し進めると、このゲームのラスボスであるニューと出会ってしまった。
『久しぶりだねラグナ!小学校以来じゃないかな~?』
なんとニューは小学校の時の同級生という設定であった。しかもその時はかなり仲が良かったという話ではないか。
このパターンは間違いなく"病む"、病む前提のような設定である。
ラグナはそれなりの選択肢を選んだあと(ちなみにどれを選んでも評価が下がることはない)、これからはガン無視していくことを決めた。
さらば幼馴染、お前との甘いひと時はもう終わったのだ。ラグナは心の中で幼馴染との別れを決意し。
「そうだ、むやみに関わらなければどうってことはない、下手に関わるから変なルートに突入するんだ」
ラグナは「会話しない=評価値に変動がない」という理論を勝手に作ったあと、ノエルを攻略するため自分のパラメーターを上げた。
先生が自分の生徒を攻略するというのは少しばかり変な気分になったが……。
あの変態弟や関わったら殺されるような女を攻略するよりは我慢できると思い、そしてこのことは自分の中に納めるという形で再度ノエル攻略を決心した。
『ラグナくん、今日は楽しかったです! ありがとうございました!!』
ゲーム内の時間が結構進み、ノエルとの関係はどんどん良好になっていった。
普段からからかっているだけあり、あいつの評価を上げるのは思いのほか簡単であった。
そう、現実でノエルに対してやっていることとまったく逆のことをしてやればいいのだ。
そう、逆のことをしてやれば……。だが、そこに一つの罠がラグナを襲った。
『ラグナくん、今日は頑張ってお弁当作って来たんですけど……』
「…………」
攻略法を理解したはずのラグナの腕が止まった。
ラグナは咄嗟に考える。これは、このイベントは「食べる」を選んでもいいのだろうか……。
棒野球ゲームにも同じようなケースがある。食べたらその彼女が作ってくれた弁当が非常にアレで、腹を壊して体力が削られるアレである。
現実問題。ノエルの弁当なんか食べた日には体力がけずられるどころか一ヶ月休みの複雑骨折が確定する。
だがあくまでこれはゲーム。創作物は大抵作者の都合の言いように出来ている物だ。
ゲームの中のノエルは普通に料理がうまい。または主人公をやっているゲームのラグナは、きっとものすごい味音痴。そのどちらかに違いない。
現実ならその弁当をダイナマイトで吹き飛ばしているところだが、評価を上げるため「食べる」を選択することに……。すると。
テデデデ~ン!!
どう聞いてもいいことが起こったような音には聞こえなかった。
ノエルの料理を食べたラグナはその後意識を失った。
全治4か月の入院、パラメーターがものすご~い下がった。
「ふざけんなあのナイチチーーーーーーーーーーーーーー!!」
現実のラグナはノエルに怒りをむき出しにする。
ノエルの高評価と引き換えに、せっかく上げたパラメーターとプレイ時間が台無しに。
4か月もあればそれ相応の評価は上げられたはず、断って下げた評価をも余裕で取り戻せるほどの時間は十分あったはずである。
ノエルの料理は、パワ○ロで言う大型トラックに跳ねられ全治4か月の複雑骨折をするのとほぼ同じ効果があった。というか現実と同じ。
これはまさしく、地雷イベントであった。
「とりあえずちょっくら大きく戻ることになるが……。セーブしたところに戻ろう。そしてもう二度とあいつの弁当イベントに「食べる」の3文字は選択しない!! 絶対にだ!!」
ラグナはお弁当イベントにだけ最善の注意を払い、攻略していくことに……
ちなみにあのあとにもお弁当イベントは三回ほどあり、断るたびに評価の下がり具合が大きくなってゆく。
だがラグナは罪悪感を抱くことはない、自分の身が一番なのだ。
それから少し達、一大イベントである告白も終え、物語は終盤に。
このゲームは最後に学校の一番大きい桜の木の下で、もっとも評価の高い女の子から最後の告白を受ければ晴れてゲームクリアとなる。
どこかで見たようなシチュエーションだが、それもココノエらしかった。
ラグナ的には、このまま順調に行けばゲームクリアは楽勝なはずであった……。
『ねぇラグナ~? この学校に入ってから全然ニューに話しかけなくなったよね?ねぇなんで?私何か悪いことした?ねぇラグナ?どうしたのラグナ?ねぇ~』
ここにきてラスボスが動き始めた。
ニューに対しては、他のキャラ同様「忙しい」だの「ごめん」といった断りの選択肢ばかりを選んできた。
特に評価値に影響はなく、他のキャラなら自分のことをただのクラスメート扱いをするだけである。
ところがこのニューは……何かが違った。
評価値は特に影響はないはず、だけどこいつの小イベントをやる度に感じた違和感の数々……
最初の方は『うんラグナ、また今度ね!』
ノエルの評価を上げていた中盤あたりには『うん……私とも仲良くしてね……』
そして終盤においては『…………』とだんまりを決めこむ始末……
あれ……これって……。ラグナは少々固まって。
「……3時か……ココノエ先生起きてるかな……」
普段は自分からココノエに電話すらしないであろうラグナ。
だがこの時ばかりは、救いを求めるかのように電話をかけた。
すると、コール三回で反応があり。
「おう先生、どうやら楽しんでくれているようだな~」
ココノエは起きていた。
そもそもこの人は毎日寝ないでなにかの作業をやるような人であった。
ラグナは安堵の表情を浮かべ、ニューのことについて話す。
するとココノエは、こうなってしまったかといった反応をして、ラグナにこう尋ねた。
「あ~。お前他の女子そっちのけでノエルばかり評価上げてたな?」
「あぁ、だってむやみに関わったら評価下がったり、二股エンドとかそういう最悪な奴になるだろうが」
ラグナの言うとおり、下手に二股や三股をすると最終的にクリアになりずらい、他の女子にかまけるということは、評価値を上げるイベントを減らすことになるからだ。
中には二人同時クリアなど難易度の高いルートはあるものの、今回ラグナはいたって普通な個人ルートを通っている。
なのになぜ、ここにきてラスボスは動いたのだろうか……。その秘密が、今明かされる。
「ニューの場合は私が特に力を入れてあってな、いわゆる超特殊な攻略対象になっている」
まず単純に、ココノエはそう説明をした。
それに対し、ラグナはもう嫌な予感しかしなかった。
「まずニューを沈めるために、必要最低限の評価値を上げておかなければならない。ニューには特殊評価値のY値が隠しパラメーターとなっており、評価値が0であっても、そのY値がプラスになっていれば終盤、ニューちゃん覚醒モードに突入するのだ」
ラグナにはココノエの言っている意味がよくわからなかった。
要はまとめると、ニューには二つのパラメーターがあり、表で見える評価値と、実は裏でコソコソ変動しているY値。
そのY値がある程度マイナスになっていれば、ニューちゃん覚醒モードは回避できるという。
つまりラグナが何気なく選択していた「ごめん」や「今度な」という選択肢は、ニューのY値を大幅に上げていたのである。
「ちなみにだからと言ってニューにも関わってやれば解決、という甘い考えが私のゲームにはない」
「はぁ? おいおいまだあんのか?」
奇天烈なココノエは、更にこのY値のシステムに対しとんでもない罠を仕掛けており。
「ニューとも関わってある程度の小イベントを消化する最中、現在付き合っている彼女に鉢合わせ……なんちゅうことがあった場合Y値は急激に上がる」
「なんだそりゃーーーーーーーーーーーーーーー!!」
ラグナは夜中にも関わらず叫んだ。
ニューに対してもある程度の評価を上げておくだけでなく、今の彼女を隠しながら評価を上げるというその難易度の高さ。
それが全ルートに存在するのだから驚きである。気配りこそがこのゲームのクリアに近づくのである。
「にしても三年目の一月、ここでのニューちゃん暴走モードの片鱗を見たとなると……これは神頼みに近いな」
「おいおい、もしその暴走モードが完全に発動してしまった場合は……」
「最後にどんでん返しが待っている。ではラグナ先生、健闘を祈る」
そういってココノエは一方的に電話を切った。
ラグナはしばらく部屋の天井を見ていたという。
セーブしていた部分も一ヶ月前、しかもそこらにニューとの小イベントは発生していない。
これは……もしかしてのもしかすれば……。ラグナの中に瞬間的に浮かんだ最悪の光景。
ニューが、ノエルを……。
「させるか……させてたまるか!! 先生としてそれは許せねえ!! 先生としてそんなことさせてはならねえ!!」
ラグナは意を決した。
とりあえずここでの選択肢は「うん、そうだな! 卒業したらどっか行くか!!」を選択。
少しだけだが評価値は上がる。だが肝心のY値はどれだけ下がっただろうか……。
一月の中盤、終盤……二月に入りある程度良好。ノエルとの関係も特に変化はない、マックスな状態である。
ここまでくれば、後は大丈夫……。ノエルとの雪山イベントを見終わったあと……その思いは打ち砕かれた。
『……ラグ……ナ?』
(見つかったーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!)
最後の最後で映り込んでしまった、ニューの一枚絵。
評価値は-50、Y値はもう天井を突破しているのではなかろうか……。
そのニューの眼にハイライトがなかったことを、ラグナは鮮明に覚えている。
「おいおいマジで冗談じゃねえぞ、夜の十時に再会してもう朝の5時だよ~。後一時間ほどで出勤なのに寝てないよ~。俺のここまでの時間どうしてくれんの~」
ラグナにとって最も恐れていること、それはここまでのめり込んでおいて最終的に鬱エンドに突入することである。
これは俗に言う、最初は乗り気だったのに出だしが悪くてトラウマ化し、ゲームをやるたびに変な感覚が過ぎりゲームができなくなるあれ。
それは……なんとしても避けたかった。
「くっそ! あと一ヶ月……あと少しで卒業式! そしてノエルからの告白を受け取れば全てがクリア!!」
ラグナに焦りが見え始める。だが度々移りこむ目にハイライトのないニューの1枚絵。
下がっていくニューの評価値、天元突破し続けるニューのY値。
これは……まさかのヤンデ……なんて思っている矢先。
『ラグナくん……卒業式さびしいな……最後の最後で私……』
と、もはやグッドエンド寸前のノエルの独り言の後……。
台詞を送ると、聞こえてきたのは地獄の天使の甘い声。
『ノエルちゃん、今日ちょっと買い物付き合ってくれるかな~』
全てを突き落さんとするニューの一言が画面の外のラグナを凍りつかせる。
「たのむノエルと会うイベントを!! ノエルに会わせてたのむ!! お願いしまぁぁぁぁぁぁす!!」
そのラグナの思いが通じたのか、学校帰りにその二人と鉢合わせするというイベントが発生。
これは最後のチャンス、ここでもしゲームのラグナが「じゃあ明日学校でな~」と選択肢なしの一言を言い放った瞬間アウト確定である。
路地裏でノエルがニューの殲滅されることだろう、ブレイブルー本編のように剣でグサグサだろう。
たのむラグナ、ニューの変化に気づいてくれ!! そうゲーム内の自分に願うラグナ。
選択肢……。
1『俺もちょっと用事があって、一緒に行ってもいいかな?』
2『明日学校でな~』
3『ニューには伝えておかなければ……』
「選択肢が出た!とりあえず2は選べばアウトだ……。1か3……1か……3か……」
1を選べば、ニューはノエルを襲うチャンスを失いそのまま卒業式イベントに以降するかもしれない。
3は……どうなのだろうか、もしそれを言ってしまえば、ニューはもしかしたら俺ごとノエルを……。
出勤時間的に、セーブしている部分まで戻る時間はなかった。もしこのまま学校に行けば、続きが気になり仕事どころではない。
そしてゲームの中とはいえ、ノエルにここまで入れ込んでしまった以上、どうもあいつの顔を見てしまうと何かが目覚めてしまいそうだった。
そしてニューを見るたびに逃げ出す自分が見える。
迷った末にラグナが選んだ最後の選択肢は……。
「3だ! この際ニューと完全に決別しよう!! 現実の本人にはとりあえず一言謝っておく!!」
現実のニューは関係ないが、ラグナは究極の選択である3を選ぶことに……。
そしてその結果、ラグナを襲った結果とは……。
『……うそ……ウソって言ってよ!! 嘘だと言ってよ!! ねえ!! 嫌!! いやぁぁぁぁぁぁぁ!!』
案の定壊れました。壊れてしまいました。
ゲームをプレイしているラグナが凍りついたのがはっきりとわかる。
そのままニューはハイライトのない眼で血の涙を流しながら、ソードサマナー型の包丁を取り出した。
「え! ちょっ!? マジでこのルートなのか!? おいおいココノエ先生!! そりゃあなんでもベタってもんが……」
そんなことを思っていた時、疾風がごとく一人の男が現れた。
『ラグナ殿!!ここは拙者が受け持つ!!だから二人で幸せになってくるでござるーーーーーー!!』
なんと親友役のバング先生であった。バング△な瞬間であった。
ゲームの中のラグナは『すまねえバング! 生きて帰ってこいよ親友!!』
現実のラグナは「バング! お前が代わりに死ね!!」とまったくもって正反対の一言。
今のラグナは必死であった。ゲームだが必死であった。
そして電車に乗った先の丘で、白い仮面を被った聖者に出会い、二人のキスシーンが映し出される。
ラグナ自身、思わずその画面から目をそらしてしまった。
「俺とノエルが……いやありえねえありえねえ!!」
そして卒業式イベント、そこにバングとニューの姿はなかった。
後から聞くと、二人とも行方不明になってしまったようだ。
まさかのバング×ニュー? そんなことを思いながら、そしてバングに申し訳ないことをしたとも改めて思いながら……。
ラグナは最後のシーンを、目を見開いて見届ける。
『ラグナくん……。その……』
顔を赤らめてもじもじするノエル、その姿ははっきり言って可愛かった。
ラグナも眼をそらしたくなったが、最後なので我慢して見ることに……
そして運命の瞬間……。
『私……ラグナくんのことが……ラグナくんのことが!!』
グサッ……。
嫌でも聞こえてきた、今何か不快な音が……。
そして次のシーンに行くと、ノエルの後ろには、血だらけで真っ赤な眼をしたニューがそこにいた。
「……え?」
ラグナは言葉にできないような表情で、一言こう漏らした。
『ラグナ……くん……私あなたが……す……』
ノエルは最後にそう言って、静かに息を引き取る。
ゲームのラグナも、画面の外にいるラグナとほぼ同じ表情でその場に立っていた。
動かずしゃべらず、現実を受け入れるのにはもう少し時間が必要だといったかのように……ただそこに立っていた。
そして、ゲームをやっている現実のラグナはというと……。
「う……うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
早朝、ラグナの悲痛とも言える叫びがこだました……。
ちなみに、ココノエいわく……。
「そうだな、あの場面は実は2を選べば正解だったんだ。そしたらノエルは少しの怪我で済みニューとも和解できる。ちなみに1を選ぶと二人とも殺されるノーマルバッド。ラグナ先生も運がないな、まさか一番ダメージの来る選択肢を選ぶのだから……」
あの部分は2が正解であったという、ココノエは非常に鬼畜なゲームを作っていたようだ。
ラグナは生気が抜けたような顔で、学校に行ったという。
「あれ? ラグナなんか今日元気ないよ~」
「ひぃ! 来るな!! 来ないでくださいお願いしますーーー!!」
「う……うん?」
廊下でニューと出くわしたラグナは、割と本気で叫び逃げ出した。
それを見てニューは、何があったんだろうかとらしくない心配をしたという。
その後昼過ぎあたりにハクメン先生がラグナのヤバさに気づいたのか家まで送ってくれた。
ラグナはその後、次の日の朝まで悪夢にうなされていたらしい……。
と、ゲーム内ではノエルはニューに殺されたわけだが。
「ノエルちゃん、今日はオカルト部の活動をやるよ~」
「うん! すぐ行くから待っててニューちゃん!」
現実の二人は、結構仲がいいのであった。