3年B組ハーデス先生~ブレイブルー学園パロ~ 作:トッシー00
「じゃあ選択教科の紙、今週末までに提出だからな。遅れた奴は全部受けることになるからきちんと出せよ~」
ブレイブルー学園3年B組。
朝のホームルームにて、生徒達に配られたのは選択教科の用紙だった。
選択教科とは、学校教育等によってその教科を履修していなくても進級・卒業することが可能である教科のことである。
といってもめんどくさいから全部受けなくてもいいやという選択は取ることはできない。今日配られた紙には五教科あり、最低でも一教科は○をつけなければならない決まりがある。
個人個人興味のある教科を選び、今後の自分の励みとすること、そして個性を伸ばすことが目的なのである。
「選択教科か~。ツバキとマコトは何を受けるの?」
ノエルは選択教科に関して何を選んでいいかわからず、友達のツバキとマコトの意見を聞くことに。
「私は全部受けるわ。こういうものは受けておくだけ得だし、自分のためになるもの」
「あたしはなんとか二教科に絞ろうかなぁ。この選択教科ってかなり専門的な知識必要だし、あたしは器用じゃないし~」
と、それぞれ己の能力を考えての答えだった。
二人の意見を参考に、ノエルはツバキほどの自信が無かったので、マコトのように二教科に絞ることにした。
選択教科の五つの内容はそれぞれこうなっていた。科学、術式学、経済学、統制機構基礎学、魔法学。
科学は術式が蔓延した現在においては過去の産物。だがそれについて興味を持つ生徒も多く、それについての知識を学ぶ教科。
術式学は文字通り術式についての知識に特化した教科。普段から術式の授業はあるが、ノエル達普通科の生徒はあくまでも履修程度しか教科に組み込まれていない。その術式のより深い部分を学ぶ教科。
経済学は現在の階層都市の経済発展を学ぶ教科であり、公務員などを目指している人が主に受ける教科。
統制機構基礎学は、統制機構士官学校の出身以外でも士官を目指す人が多かったために、統制機構のカリキュラムの基礎を学ぶために作られた教科。高校を卒業してから統制機構専門学校を経由して士官になる生徒も少なからずいるのである。
そして最後の魔法学は、術式よりも科学よりもはるか昔に存在した魔法に対しての知識を学ぶ教科であり、実の所この五つの中で最も難しい教科と言われている。
そんな深い内容を特に理解していなかったノエルはというと……。
「ん~。だったら統制機構基礎学と魔法学にしようっと」
と、特に普段から真面目でも優秀でもないにも関わらず、五つの中で特に難しい二つを選んでしまったノエル。
そのまま提出した放課後、廊下でラグナに声をかけられたノエル。
「おいノエル。お前の選択教科、本当にあれでいいのか?」
そう聞かれ、ノエルはその質問の意図を理解できていなかったのか、はへ? と口をポカンと開けてラグナを見た。
「統制機構基礎学に関しては、まぁお前が前の進路希望調査で統制機構って書いていたから多少やる気はあるんだろうなって感じでまだわかるんだが……」
「はぁ……」
「ただ魔法学に関しては、お前のスペックじゃあ付いていくのもやっとだと思うぞ」
と、普段のようなからかうような口ぶりでもなく、割と真面目に辛口で言うラグナ。
それに対し、ノエルは少々心外そうな顔をしてラグナに言い返した。
「む……。でも興味があるんですから、やってみないとわからないじゃないですか」
「いやいや、あれに関しては興味うんぬんじゃないって。そもそもあの教科選ぶ基準ってわかるか? ただ入れただけじゃねぇんだよ、あれはこの学校にもイシャナ出身の生徒が少なからずいてだな、そいつら向けの本当に専門的な教科なんだよ」
「そ……そうなんですか?」
「魔法の素養なんてイシャナ出身の家計の限りない一握りの人だけだし、それを抜きにしても本当に選ばれた才能の持ち主じゃないと魔法なんて受ける資格すら得られないって話だ。お前みたいに術式しか取り柄のない、国語数学で居眠りしているようなついでに胸も少ないやつが受けるべき教科じゃねぇよ」
「いや胸は関係ないでしょ? さりげなく胸のこと言わないでくださいよ」
珍しくまともかと思いきや、やっぱり胸の事をバカにしてきたラグナ。
だがそこまで言われれば、忠告というよりも完全にバカにされているように捕えたのか、ノエルが少々むきになった。
「確かに先生の言う通り私は劣等生かもしれませんが、だからこそ意外な才能を発揮するかもしれないんですよ」
「何が意外な才能だよ。お前が発揮できる才能は料理で相手を殺すっていう暗殺の才能だよ。殺せんせーだって料理で殺せるよ」
「余計なお世話じゃ!! てか最初こそめずらしく本気で忠告してるなと思ったけどさりげなくいつもの如く私をからかい始めてるよねあんた!!」
「とにかく素直に術式学にしとけ。入学試験の術式適正歴代一位を素直に生かしとけって、どうせ無い胸も暗殺料理術も変な方向にしか生かせないんだから」
「むきーーー!! くっそ覚えとけ!! 絶対絶対ぜーーーーーったい! ラグナ先生を見返してやるぅぅぅ!!」
やっぱりいつものようになってしまったのか、ノエルはラグナへの怒りを叫んで走り去ってしまった。
そんな彼女を見送って、ラグナは頭をボリボリ掻いて割と心配そうな表情見せた。
「ん~。大丈夫かな、割とマイルドに忠告したつもりなんだけどなぁ」
相変わらず無自覚に人を傷つける男であった。
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翌日。
ノエルは不機嫌な様子で教室に入り、そして席に突っ伏した。
その様子を見て、ツバキが声をかける。
「どうしたのよノエル? 体でも悪くした?」
「いや別に~」
と、力ない返事で返すノエル。
そんな彼女に、ツバキは選択教科のことで質問をした。
「そういえばノエルは何を選択したの。昨日の選択教科」
「うっ……。統制機構基礎学と魔法学」
そう、ノエルの言葉を聞いて、ツバキが少しだけ黙った。
それはやはり、ノエルが魔法学を選択したことにあった。
「大丈夫なのノエル。魔法学って大変そうよ」
「……やっぱり大変なの?」
「私も一応受ける予定だから、帰りに参考書を買ったんだけど。まだ最初の部分しか読めてない程奥が深くて……」
そう言って、ツバキが鞄から出したのは、広辞苑の二倍はあろうほどのとてつもなく分厚い参考書だった。
それを目にして、ノエルは正直絶句した。
「……それ、参考書?」
「そうよ。一冊三万pdもしたわ」
「三万!?」
「しかも全十章構成で、これでまだ一章よ。正直心折れかけたわ……」
あの優等生のツバキが、めずらしくため息を吐く。それが魔法学の真相である。
正直ノエルはバカにしていた。いくら難しいとはいえ、努力で何とかできる範囲だと。
だが現実はこれである。魔法学は本当に選ばれた人間しか受けることを許されない由緒正しき授業。
ノエルのような興味本位だけの人間が、近づいてはならない領域なのである。
「……本当に、ツバキは受けるつもりなの?」
「当たり前よ。なにせ今年度の魔法学の科目は、"マインドイーター"らしいし」
そうツバキが口にした。
マインドイーター。聞きなれない言葉にノエルは純粋に質問で返した。
「マインドイーターってなに?」
「簡単に言えば洗脳魔法よ。魔法学の中でも特に高等技術で、科目に選ばれたこと自体奇跡らしいわ。でもだからこそ今年度の魔法学の選択数も多いみたい」
ただでさえ難しい魔法学、その中でも特に高等技術のマインドイーター。
ツバキの語りつづけるその事柄に、徐々に心折れていくノエル。
どうしようか、今からでもラグナに言って選択教科を変えてもらおうか。だがそうしたらまたからかわれて余計にダメージを負う可能性もある。
あの男を前に一度決めた決心を揺るがせるわけにもいかない。ノエルはなんとか無理やり、魔法学を学ぶ覚悟を決めた。
そんなことがあってから数週間後、選択教科が時間割に組み込まれ、いよいよ魔法学の授業が始まろうとしていた。
ノエルは指定された専門の教室へと向かった。そこには数十名の生徒が座っていた。ちなみに普段は二ケタも生徒数がいないらしい。
机にはツバキが持っていた分厚い参考書が置かれていた。その中でノエルは一人浮くように、メモ帳一つ持参。
同じクラスからはツバキ、そしてもう二人見慣れた生徒が座っていた。
一人はν-13。そしてもう一人はシオリ・キリヒトである。
「あれ~。ノエルちゃんも魔法学受けるの~?」
遠くからノエルの姿が見えたのか、ニューが話しかけてきた。
「うん。興味本位だけど」
「そっか~。まあ私もそうなんだけどねぇ」
「正直私もそうです~」
ニューだけでなく、シオリも今回に関しては興味だけで教科を選択したらしい。
ノエルは少しだけ救われた気がした。だがそれでも魔法学が難しいことには変わりない。
生徒が全員教室に入ってから数分。今回の講師であるナインが教室に入ってくる。
ナインはブレイブルー学園の魔法科の特別講師であり、かのイシャナ魔法学校出身のエリート中のエリートである。
その後ブレイブルー学園に編入してきて、あのハクメン先生や獣兵衛達と語学を共にした仲である。
「はい静粛に。あら今年はずいぶんと生徒が多いわね」
教室を見渡し、ナインがやる気ある生徒達に関心の目を向ける。
普通科の生徒達に関してはあまり絡みがないナインは、新鮮な空気を楽しんでいるようだ。
「とりあえず最初に言っておくことは、魔法学はやる気や興味だけで踏み込める教科ではないこと。魔法を使えること自体人類にとって貴重な人材、私のような本物の魔法使いは百人に一人しかいないとまで言われているわ。まずそこらへん理解しておいて」
「うっ……」
ナインの放つプレッシャーと言葉に、つい圧倒されてしまうノエル。
「最もあくまで選択授業。数多くの魔法のうちたかが一つ勉強するだけ。全部やるなんてイシャナで幼児のころからやらないととてもじゃないとやってけないし。固くならないで気楽にやりましょう」
そう、生徒の気をほぐしているのかよくわからない励ましをして、ナインがさっそく魔法で黒板にビジョンを映した。
魔法と似たことに関しては、術式においても行える。ただ明確な違いは、魔道書と魔素を使うか使わないか。
それに加えるならば、魔法と術式ではパワーがけた違いに違う。魔法は術式の数十倍の効果が見込めるとも言われている。
今ここで怯えているノエルは、術式に関しては正直ツバキ以上の才能を持っていると言われている(あくまで適正の話であって技術の幅に関しては並み以下)。
それを魔法でという話になればまた違ってくるが、ネガティブなままでは始まらない。改めて覚悟決めるノエル。
「そんな今回のテーマはマインドイーター。別名強制拘束といって、特定の人物に対し自分の意識を植え付けることで相手を縛り操る魔法よ」
ナインは簡単に説明した後、ビジョンにマインドイーターに関しての明確な詳細を映していく。
強制拘束(マインドイーター)。本編では小説版でテルミが、CPではツバキがかけられていた魔法。
これをかけられた相手は、魔法を行使した者に対し逆らえなくなる。というのが一般的な効果。
その他にも作用があり、例えばマインドイーターを受けた者は行使した者への感情が操作され、崇拝的になったりする。
テルミに関してはナインが気持ち悪いとでも思ったのか、表面的な洗脳の役割でしか使用していなかった。
ツバキの場合は、魔法を行使した帝の意識が埋め込まれており、ただでさえ盲目的に崇拝していた帝を、更に崇拝するに至った。
その他、一時的にマインドイーターしている対象の意識と同化し、乗っ取ることができたりする。
相手を完全に操り自分の人形にする。それがマインドイーターである。
その詳細を目にして、ノエルはおぞましい感情に支配された。
もし誤ってこんなものを使えるようになってしまったら、どうすればいいのだろうか。
別にノエルは操りたい相手なんていないし、報復したい相手もいないのである。
……そう、ノエルに関しては……である。
「ツバキ、なんか怖いよ~」
そう隣にいたツバキに声をかけるノエル。
だが、ツバキはなぜか遠くを見て、恍惚な笑みを浮かべて繰り返しある人物の名を呼んでいた。
「……ジン兄様。もし……マインドイーターでジン兄様を操れたら……げへへ」
「えー」
それを聞いて、ノエルは一つ確信する。
ツバキが魔法学を受けたのは、別に己の立場や矜持ではない。
今回の科目がマインドイーターだったからである。すなわち、マインドイーターで操りたい対象がいたからである。
そして、それと同じ考えをしているのは、なにもツバキだけではなかった。
「えへへ~。マインドイーターでラグナを……」
「マインドイーターでマイ様~」
「……」
ニューとシオリも、特定の人物にマインドイーターをかけたかったから今回の魔法学を選択したのであった。
他の三人にはやる気や興味だけではない、魔法を覚える明確な理由が存在した。
その事実を知って、ノエルは更に心折れそうになった。
「マインドイーターは相手の心に自らの魔力を干渉させる必要があるの。その基礎を今から行うわ」
そう言って、ナインはそれぞれの生徒の机にお札を配る。
これは魔法初心者でも比較的魔力を反映させやすい特注品で、ナインが作ったものらしい。
これができるかできないかで魔法の素養があるかどうかが決まる。
「とりあえずマインドイーターをかけたい相手を想像して、今その相手が何をやっているかを覗き見る。そこらへんからやってみましょう」
ナインはごく普通に生徒に指示するが、これからやることは隠しカメラで相手を盗撮するのと大差変わらない所業である。
本当にこんなことしてもいいのだろうか。ノエルは迷ったが授業を受けた身としてはちゃんと授業に参加する必要があるため、札に力を込める。
といっても、マインドイーターをかけたい相手と言われても、ツバキやニューやシオリのような雑念がノエルにはない。
だが相手がいなければ始まらないので、ノエルは考えた結果、一番最初にラグナが浮かんだのでラグナを対象にすることにした。
札に力を込めるノエル。だが反応という反応がない。
やはり自分には魔法の素養がないのか、隣を見てみると、ツバキがなにやら反応を見せた。
「じ、ジン兄様が見えた!」
どうやらツバキは上手くいっているらしい。
向こうを見ると、ニューとシオリもそれぞれ、ラグナとマイが見えたと言っている。
やっぱり自分と違って、出来る人は違うなと、多少劣等感を抱くノエルであったが。
「ジン兄様。今、私のことを考えてなさっているわ! 最近の生徒会の仕事で私が少々無理させすぎたと、私をいたわって悩んでいるのが見える!!」
「ラグナは今ニューのことを考えている!! ニューとスキンシップをどうとろうか悩んでるのが見える!!」
「マイ様! 今マイ様は私と近々どこかお出かけしようかと悩んでおります!!」
「……」
と、それぞれの反応を見た限り、なんかおかしいとノエルは感じた。
本当に今、彼女らが対象とした人物は言葉通りの事を行っているのだろうか。
それを見兼ねたナインは、冷静にこう言った。
「……あぁ、あれはただ好きな相手を想像してバカやってるだけね」
あぁやっぱり、とノエルはやるせない気分になった。
と、自分の方に集中した時、ノエルの札に異変が起きた。
微弱だが、札が発光したのだ。それと同時に、ノエルの頭の中にぼんやりとビジョンが浮かび上がる。
そこにはラグナが職員室で、テストの答案の丸付けを行っている光景だった。
「あ、なんかラグナ先生がテスト見てる」
「あら? 以外ねノエル。あなたが最初に反応を見せるなんて。札が発光してるってことはきちんと成功してるってことよ、もっと細部まで見るようゆっくりと意識を投影してみなさい」
そうナインに言われ、ノエルが深呼吸をして集中すると。
今度はビジョンだけでなく、ラグナの声も聞こえてきた。
ラグナは向かいにいるハクメン先生と、なにやら話をしているようだ。
『ったく。この間の歴史のテスト、ノエルまた赤点だよ』
「ぶーーー!!」
それは先日行われた歴史の抜き打ちテスト。
近々返されるとドキドキしていたが、ここにきて意外な形で結果を知ってしまった。
ノエルは前回の抜き打ちテストでも赤点を取っていたのだ。
今回赤点を取ったら親からパソコン禁止令が出るため、ノエルは頑張ったのだが、やっぱりだめだった。
『私も歴史担当としてわかりやすく教えたつもりだったのだが……』
『ハクメン先生は悪くねぇよ。未だにアークエネミーの名前すら全部覚えてないあのナイチチが悪いの』
と、ラグナ達はノエルに見られているとも知らずに、好き勝手ノエルの事をしゃべっていた。
『そういえばノエルといえば、なんでも魔法学を選択したようだが大丈夫なのか?』
『無理に決まってんだろ。俺だって先生として生徒を思って止めたよ? だけどあいつ無駄に頑固だからな、止めるだけ無駄だったよ』
『……それ、おそらくお前がまた変に煽って、意地を張ってしまったのではないのか?』
『んだよ俺が悪いのか? でもいいんじゃねぇの、何かに挑戦するってのは褒めるべきところ。失敗するって目に見えていたとしても、諦めないのはあいつのいいところだよ』
「先生……」
少々ノエルをバカにしながらも、きちんとノエルの事を分析していたラグナ。
普段から人をおちょくってばかりだが、心からは応援してくれている。
ノエルはその想いを受け止め、改めて魔法学をきちんと受けようと心から決心した。
……と、ここまでなら平和的に終わったのだが。
『でもあいつ、俺に魔法を使ってギャフンと言わせる目的で魔法学受ける気ならそれはそれで面白いわな』
「そ、そんなこと思ってないんだけどな……」
『座学終わってあいつがその気になって魔法使ってきたら、魔法くらった振りでもしておちょくってやろうかなぁ』
「……うー」
次第に、ラグナのノエルに対する扱いが悪くなっていく。
ラグナからすればこの会話が聞かれているなんて思ってもいないため、止まる気配もない。
『ラグナ先生よ。そうやって生徒をおちょくるのも大概にした方がいいぞ。ノエルを止める方法にしても、もう少し真面目に真剣に止めさえすれば彼女が無理をする必要もなかったはずだ』
『俺は比較的真面目に真剣に止めたつもりだぞハクメン先生。そのために料理ネタとナイチチネタを比喩に出して説得したんだ』
『いやだからそれ出したら奴がむきになるのは目に見えてるだろ……』
『それに今回はあいつの術式適正に関して珍しく褒めてもみたぜ。術式に関しては正直ジンより才能あるってのはわかってるからな』
『お前の事だ。素直には褒めなかっただろう。どうせ料理で暗殺予告表出せるとか胸もないから生かせるのは術式くらいだ。なんて言い方をしたんだろう?』
『いやいやそんな言い方してねぇよ』
ラグナは否定するが、実際はハクメンが例えに出したこと以上にノエルを罵倒していたのは事実。
その二人の会話を聞いて、ノエルの身体は徐々に震えだす。
今回ばかりはひどすぎる。人が聞いていないからこそ言いたい放題しているのが許せない。
ノエルはラグナへの怒りでいっぱいになっていく。だがラグナは止まらなかった。
『まったくお前という奴は……。なんでも今回の魔法学はマインドイーターらしい。ノエルに操られないよう気をつけることだな』
『なっはっは! マインドイーターなんて代物あいつに使いこなせるわけねぇ!! つか俺を操って何するわけ? 貧乳好きにするとかくっだらない使い方するに決まってらぁ。まぁ……使えるわけねぇけどな。なっはっはっはっは!!』
どがしゃーーーーーーーん!!
ノエルは等々ブチ切れて、手刀で机をたたき割った。
するとナイン他教室中の生徒が驚き、一斉にノエルを見やる。
ちなみに先ほどの光景はノエルにしか見えていないため、ナインたちには何が起きたのかさっぱりわからない。
「の、ノエル? どうかしたの?」
ナインが恐る恐る尋ねると。
ノエルは半分眼を蒼くして、そして悔し涙を流して叫び散らした。
「あのクソ教師ぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!! 絶対にぃぃぃぃぃ!! あんたを見返してやるからなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
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数週間後。
魔法学の授業も終わり、その最後の授業にて。
「静粛に。今回の授業を得て魔法のなんたるかを勉強できたかと思います。その結果、クラスで一人、魔法の才能に開花した者が出たわ」
ナインが教壇にて、今回の授業の成果を語る。
魔法学の授業は複雑で、途中途中抜ける生徒が続出したほどだった。
そして、ツバキとニューとシオリという優秀な生徒すら、魔法の才能に開花することはなった。
その三人を押しのけて、たった一人……マインドイーターを会得した者がいた。
「ノエルおめでとう。あなたも今日から立派な魔法使いよ」
そう、ノエルだった。
ノエルはこの数週間、死に物狂いの努力の成果が出たのか、マインドイーター限定であるが魔法が使えるようになった。
いったいなにが彼女を駆り立てたのか。それは説明する必要もないだろう。
「ふふ……ふふふ。ようやく、この日が……」
全てが終わって、ノエルは今までに見せたことのない凶悪な笑顔を浮かべた。
あのニューでさえ戦慄するほどに、ノエルは何かしら病んでいた。
「まぁノエル。あまり魔法は乱用しないようにね。私はたまにあのクソむかつくテルミを操ってこき使ってるけど、友達とかにマインドイーター使ったらだめよ」
「わかっていますナイン先生。"友達には"使いません。使う相手は……もう決まっています」
「……相手が相手なので、仕方ないので許すわ」
ナインは全ての事情を察してか、優しくそう言葉をかけた所で授業は終了。
その日の昼休み、ノエルはさっそく廊下でラグナと遭遇。
「おぉノエル。どうだった魔法学の授業。割とやる気あったって聞いたぞ~」
何も知らず呑気に声をかけるラグナ。
ノエルはというと、ただ無言を貫く。
「にしても最近お前他の授業中もずっと魔法学の教科書見漁ってたもんなぁ。意外と魔法学合ってたのかもな。一生懸命やってる姿見てよ、ちょっと見直したんだわ」
ここにきてだが、ラグナは素直にノエルを褒める。
だがそれでノエルのここ数週間の怒りは収まるだろうか。
このまま平和的に終われば、割と何も起きずに済みそうだったが。
「ま、でもよ。今後は無駄に料理の本とか読まず、そういう参考書読んでた方がいいかもよ。料理の本とか、お前が読んだら暗殺術の本を読むのと変わらないからなぁ~」
こんな風に馬鹿にした所で、ノエルは人差し指をラグナに向けた。
ただ無言に、何かしら恐ろしげなノエルに、ラグナが少し後ずさった。
「な……なんだよ?」
「……ふふふ。これでラグナ先生は、私の思うがまま」
「……は?」
そう呆けるようにラグナ。
だがその言葉の意味が、すぐにでもわかった。
「……ラグナ先生。今日クッキー焼いて来たんですよ~☆ 一口どうですか~?」
「おっ! マジか!! 楽しみにしてたんだわお前のクッキー……はっ!?」
ノエルの誘いに、ラグナが乗り気で答えた直後、ラグナは大きな違和感を抱いた。
普段なら、怒鳴り散らして拒否する所を、ラグナはノエルのクッキーに好意的感情を抱いたのだ。
当然そんなこと、普段ならあるわけがないのだ。ラグナは行動と思考のギャップの違いに思わず焦りを抱いた。
「……いいいいやいや! 俺何言ってんだ……? ノエルのクッキーとか……食べたいに決まってんじゃねえかって……え!?」
「ラグナ先生どうしたんですか~? 遠慮せずに全部食べてもいいんですよ? 今日はかごいっぱいに作ってきたんですからぁ~」
そうノエルがラグナに見せつけたのは、かごいっぱいのどどめ色のダークマター。
それは初見で食べ物とわかるものではない。何も知らない人からすれば毒物かなにか。
それに対しラグナは、今すぐにでも食べたいと心から思ってしまう。自分の意志とは……関係なく。
「……ま、まさか。いやそんなはずは!!」
「先生。次にあなたは……。「ノエル! まさかお前、俺にマインドイーターを!?」と言います」
「ノエル! まさかお前、俺にマインドイーターを!? ……はっ!」
どこかで聞いたことあるようなネタで弄ばれ、ラグナは素で驚く。
これにはラグナ自身も想定できなかった。
ノエルはやりとげたのだ。魔法学の授業を得て、魔法を使えるようになった。
それも、高難度魔法であるマインドイーターをである。
「いやいや! だとしてもなんで俺マインドイーターかけられてんの!? 俺なんかしたか!?」
「先生~。職員室でハクメン先生と話した時、よくもまぁ好き勝手都合よく話してましたよねぇ~」
「な!? なんで知ってんの!?」
「あの時から、私の魔法はあなたを標的にしてたんですよ。いつかマインドイーターで操って、あなたに報復するために……」
「そ、そんな。どこかの眼鏡の人みたいなこと……」
恐れるラグナ。だがすでに術がかかってしまったものは、そう簡単に解けるものではない。
気持ちとは裏腹に、ラグナの手が勝手に動く。
そして大量のクッキーを掴み、自分の口に頬張ろうとするラグナ。
「ゆ、許して!!」
「許してほしいですか先生?」
「あ、あぁ!! なんでもするから許してくれ!!」
「え? いや別に先生がその言葉使っても需要ないんで。殺せんせーでも殺せてしまうであろうクッキー食べて謝罪のボキャブラリーでも増やしてください」
「ぎゃーーーーーーーーーー!!」
ノエルは冷たく言い放ち、ラグナに無理やりクッキーを食べさせた。
ラグナは食べるや否や叫び狂いもがき、その場で悶え苦しみのたうち回る。
「がっ!! この口の中に広がる邪悪な感じ……。拒否反応で内から外に吐き出すことすら魔法で拒絶されてんのかぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「女の子が一生懸命作ったお菓子を吐きだすなんて絵にならないじゃないですかぁ~。ちゃんと全部飲みこんでください。あと口の中に広がる邪悪という表現は乙女心を傷つけますので……」
「の、ノエルのクッキーは世界一おいしいな!! って思ってもいないことを思って口に出してしまうぅぅぅ!!」
むりやりクッキーを褒めさせられるラグナ。だが鬼畜なことに、クッキーの味自体は一切変えてくれないノエル。
このまま邪悪な味を噛みしめながら、思考だけは最高のクッキーを食べてる気分という拷問を味わうこと数分。
いつもとは真逆の関係性。ノエルはやり返したことに対する爽快感なのか、いつもは浮かべることのないSな笑顔をラグナに向ける。
「あ~楽しいなぁ~。魔法って面白いですなぁ~」
「の……ノエル……。これ以上はやめでぐれぇぇぇぇぇ」
「でもまだ料理をバカにされた分だけしかやり返せてないし。普段から散々言われているナイチチだ胸が無いだの暴言に対してきついお仕置きをしてあげないと……」
ノエルはそう言ってラグナを睨む。
ラグナは焦り狂って、安直にノエルを褒めて返そうとするのだが……。
「ば、バカ野郎!! ノエルの胸はナイチチだ!! その無い胸の何が生かせるんだよ!」
「あぁそうですか~。ごめんなさいね無い上に生かせなくて~」
「ってえええええええ!! 俺そんなこと言うつもり無かったぞ!! 思いっきり褒めるつもりだったのに!!」
これはいったいどういうことなのか。
ラグナは先ほど、いつものようにバカにしたわけではなかった。
戸惑うラグナに、ノエルはネタばらしをする。
「あぁ、ラグナ先生の事ですから。どうせ適当に褒めておけばノエルは満足するだろうだなんて軟な考えをすると思ったので、あなたが発言することが逆になるよう思考に干渉しただけのことですよ」
「お前どんだけマインドイーター使いこなしてんだよ!!」
「ってことで、さらにノエルの怒りゲージが伸びました。さてなにしてやろうかしら」
「お、お助け……」
ラグナは必死に助けを請うのだが。
ノエルはその助けに対し慈悲もやらない気持ちで、またもあくどい笑みを浮かべ。
「そういえば。魔法学の授業、あのニューちゃんも受けてたみたいなんですよ。先生にマインドイーターをかけて振り向いてほしかったみたいですね」
「なっ。でもあいつ難しかったって落ち込んでたぞ……」
「落ち込んでましたねぇ。そこで私って、友達が落ち込んでたりすると助けてあげたいとか、なんとかしてあげたいとかって思う純粋な優しさを持ってる乙女じゃないですか~」
「のの、ノエル! お前何考えてやがる!!」
「ニューちゃんが成し遂げなかったこと、私が代わりに叶えてあげたろか的な。自分勝手に魔法を悪用するのもナイン先生に申し訳ないんで、世のため人のため友達のために使いたいと思います。先生、そんな私を褒めてください」
「ノエルーーー!! てめぇなんて褒める所のない落ちこぼれだ!! ってまた思ってることと逆の事ぉぉぉぉぉ!!」
「はいドーン(怒)」
ノエルは笑みを浮かべながら、ラグナにより強力なマインドイーターをかける。
すると、ラグナは自分の意志とは関係なく、ニューの元へ向かっていく。
そして、普段では考えられない感情が、ラグナを支配する。
「な、なんだ!? 普段じゃ思うことすら危険なのに……。ニューに殺されたいだなんて!!」
「あぁニューちゃんへの台詞は全部私が遠隔操作で発しますので。ただ気持ちに従って動いていれば楽できますよ」
「ノエルーーー!! 許してくれぇぇぇぇぇぇ」
ノエルへの謝罪を叫びながら、自らの意志とは関係なくラグナはニューの元へ向かっていく。
そして気付けば遠くで、「ラグナ大好きーーー!!」というニューの言葉と同時に、痛々しい肌を切り刻む刃の音が教室廊下中を響き渡った。
更に後半、ジンまでが嫉妬で乱入してきたため、ノエルは遠隔操作でラグナのジンに対する思考すらマインドイーターし、さらにとんでもないことにして笑っていた。
すると後ろからナインがやってきて、ノエルにこんな言葉をかけた。
「ノエル。ムカつくやつを操るって……楽しいでしょ?」
「楽しいですねぇ~☆」
「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
ノエルの笑顔と同時に、ラグナの叫びがこだまする。
ちなみに、その後ノエルは魔法の鍛錬をサボったからなのか、気がつけばマインドイーターは使えなくなってしまったとのこと。