3年B組ハーデス先生~ブレイブルー学園パロ~ 作:トッシー00
カグツチ近辺にある、ブレイブルー学園の生徒や教師たちがよく通うカフェ、通称『カカの森』。
そこは独特の落ちついた雰囲気があり、勉強や仕事をするにはうってつけの場所だと評判が高い。
そんなカカの森にて、ブレイブルー学園の教師であるラグナは、多い書類を抱え隅の席で頭を抱えていた。
「生徒達の悩み相談。んなめんどくさい課題出しやがってあの校長。そんなもん教育指導のハクメン先生らにやらせとけばいいんだよ」
と、自分の生徒の悩み相談という課題に対して、教師らしからぬ発言をこぼすラグナ。
今までなんやかんやで学園の問題を解決してきた彼らしからぬ言葉、といっては言いすぎか。
だがあの怖い校長が出した課題は何が何でもやらなければ後でひどい目に会うのが関の山。ラグナはだからこそ悩んでいた。
そんなラグナの席に、このカフェの店主であるトラカカが注文を運びにやって来た。
「注文のカフェオレニャス。おやラグナ先生、またずいぶんと悩んでるニャス?」
「あぁ、生徒の悩み相談をしろって押し付けられてよ。別にあいつらに悩みという悩みなんてないと思うんだけどな」
と、カフェオレを飲みながらトラカカに愚痴をこぼすラグナ。
ラグナも何度かこのカフェを利用しているため、トラカカとは顔なじみなのである。
そんなラグナに、トラカカはアドバイスをするかのように、こうラグナに言葉をかけた。
「悩みなんてないというのは決めつけが良すぎるニャス。人には自分が認めたくない、人前で抑圧した感情というのがあるものニャス。誰にだって自分の影というのは存在するもんニャスよ」
「そんなもんかぁ? 例えばトラ姉だったら?」
「私は、タオカカや他のカカ達の将来が悩みニャス。いつまでも子供じゃいられない彼女たちが社会で生きていけるのかが心配で心配で」
「ま、そんなところだわな」
そんなトラカカの悩みを聞いて、ラグナは直感で彼女の悩みに対しての答えを口に出す。
「タオカカは確かに他の奴に比べて頭は悪いが、行動力は誰にだって負けねぇ。変に頭のいい奴は効率や損得で物事を考えて他人を動かすことばかり考えやがる。タオカカはそういった意味で細かいことを考えない奴だが、だからこそ自ら率先して動ける力がある。そこは評価できるところだと思うぜ俺は」
「ふむふむ。結構生徒達をよく見ているじゃないニャスか」
「ちぇ。んなことねぇよ」
そうトラカカに褒められ、らしくなく照れるラグナ。
彼には他の人達を観察し、導く力があるというのに、めんどくさがりなのが玉に傷。
だから今回もうまくことが運べない。しかも先ほどのトラカカのように悩みをすぐにうちあけてくれればやりやすいが、悩みを心に内包して打ち明けてくれない生徒も多いことだろう。
ラグナはめんどくさがりだから、そういう部分を引きだすことには向いていないのである。
「ま、家でゆっくり考えるわ」
「そうニャスか。あぁそういえば、ラグナ先生」
ラグナが店から帰ろうとした時。
トラカカがなにやら、こんな噂をラグナに話した。
「どした?」
「なんでも知人から聞いた話ニャスが。都市伝説みたいなもんニャス。ラグナ先生夜ふかしだから、念のため気をつけた方が良いと思ってネ」
「都市伝説?」
そのワードに、ラグナは少しだけ表情をゆがめた。
なにしろこのラグナ。都市伝説なんてのはまだ優しい方であるが、幽霊話といった怖い話は嫌いで耳にするのも嫌なのである。
それがくだらない都市伝説ならまだしも、信憑性の高い物ならば聞いただけ損になる。
だが、そういうのが出てしまっては聞いてしまわないと気になるのが人の性。
「なんか雨の夜の午前0時に……」
「あい待ってっ!」
トラカカがそこまで話して、ラグナは耳を押さえて待ったをかけた。
「ニャス?」
「悪い、それは俺聞けない。なんかいやな予感がするし!!」
「いやでも都市伝説ニャス。そんな怖い話じゃ……」
「いやだってもう出だしから怖い話じゃん! 聞いたら本当に起こるっぽいしぃ!!」
幽霊が怖いラグナは、もう出だしだけで駄目らしい。
だが、やはりか気になる物は気になる。本当に聞かずに家に帰ってもいいのだろうか。
外を見ると、別に雨なんて振っていない。雨が降らないと大丈夫な話なら、聞いても大丈夫かもしれないとラグナは思う。
「……やっぱり話してくれ。俺は昔から刑事コロンボが好きでよ、気になることができたら気になって夜も眠れないんだよ」
「そうニャスか。なんでも……"雨の夜の午前0時に、消えてるテレビを一人で見ると、そこには誰かが映っている"。という話ニャス」
「うぇぇ怖っ! やっぱ聞くんじゃなかった。でも今日はあいにく晴れだし」
と、ラグナが外に目を向けた瞬間。
なんのいたずらか、急に大雨が降り始めた。
それもかなりのざーざー雨。これは今晩では止みそうにない。
「……」
「ではラグナ先生。頑張ってくれニャス~」
「……トラ姉、今晩だけでも泊めて」
「うちに人を泊めるスペースはないニャス~」
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そしてその夜。
外は止まない大雨。
ラグナはというと、ベッドで布団にくるまり身体を震わせていた。
「早く、早く午前0時過ぎろよ~。てか午前0時飛ばして0時1分から始まれよ~。てかもう23時58分だし~」
自宅で寝て過ごそうかと思ったら、ジャストな時間に起きてしまったラグナ。
あと数分でその時間がやってくる。当然ラグナは見る気がしないのだが。
だが、人の探究心というのは飽くなきもの。気になるものが頭に残れば、気になりつづけて引きずりつづけてしまうもの。
それもこんな時間丁度ともなれば、怖いものが苦手でも試してみたいものである。
「……ま、真夜中に独りでにテレビに人が映るって? んなバカなことが起こるわけねぇだろ!!」
そう、ラグナがありえないと自分に言い聞かせていると。
ついに、夜中0時になってしまった。
当然ラグナはテレビをつけていない。テレビに何かが映るというなら、つけなければ済む話である。
そう、思っていたのだが。
ビシュン!
「!?」
ラグナはテレビのリモコンなんて持っていない。
よくある寝がえりを打ったらボタンが押ささる、なんてこともない。なぜならリモコンはラグナのベッドから離れたテーブルの位置にあるのだから。
だとすれば、考えられるのは一つ。テレビの電源が勝手に付いた。つまるところそれである。
ラグナは驚きを隠せなかった。もうこれは立派な怪奇現象である。
「ちょっ! テレビ消さねぇと!!」
ラグナは焦ってテレビの電源ボタンを押すのだが。
案の定消えない。何かに力が働いたのか、消える様子もない。
更に焦りを見せるラグナ。そして等々、テレビに何かが映った。
「な、なんだ? まさかEs子か!? あの女プリン食って成仏したくせに!!」
ラグナはいつぞや自分にひどい目を合わせた幽霊、Es子のことを思い出した。
また彼女に憑依されればたまったものではない。
だが、どうやら違うようだ。砂嵐の後に映ったのは、テレビ番組のテロップ。
ここまで脅かしておいて深夜番組が始まったってオチなのか、しかしそんなわけでもない。
そう、ラグナはそのテレビ番組を見て、違和感を抱いたのである。
『真夜中の小説家いらっしゃい! 本日ゲストにいらしてくれたのは……。超人気小説家のノエル・ヴァーミリオンさんです!』
そのテレビのナレーションに、ラグナは聞き耳を立てた。
今、テレビでノエルの名前が出たのか。聞き間違いではないだろうか。
「ノエル? 人気小説家?」
何が何だか分からない。ラグナはとりあえず番組の続きを視聴する。
『どうも~。ノエル・ヴァーミリオンで~す』
と、普段からおどおどとした彼女が、威勢よくテレビに出ているではないか。
しかもこのノエル。ラグナから見てもおかしい部分が一つあった。
それは、彼女にしては……胸が大きかった。
普段Aカップあるのかどうかすら不明だった彼女の胸が、Dカップくらいあるのだ。
しかもあまりおしゃれをして自分を良くも見せない彼女が、綺麗なピアスやネックレスをしてこれでもかと自分をアピール。
これはもう、ラグナが知る由もないノエルの姿だった。
『ノエルさん。ついにノエルさんが出版なされた"開幕と終焉の詩集(ノエルポエム)"が累計五百万部突破されたそうですね!!』
『は~い。私が数十年書き続けてきた傑作選。老若男女どなたが読んでも感動の嵐間違いないで~す!!』
テレビでノエルはこれまた調子よく、そんなこと口にしている。
ちなみにラグナの知る開幕と終焉の詩集(ノエルポエム)はというと、聞くに堪えない恥ずかしさしか残らない、読んだらむしろ後悔するような内容ばかりの黒歴史ノート。
それが、累計五百万部売れたとテレビで紹介されているではないか。これはどういうことなのだろうか。
「……なにが起こってやがる。あいつのポエム本が五百万部突破とか。この世界が滅んでもありえねぇ」
とか、ラグナが思いっきり文句を口にしていると。
『それとノエルさん。なんでも料理が得意とかで、朝の報道番組の1コーナーを担当するとかで?』
『はい。オリーブオイルの妖精さんから直々にオファーが来て。タイトルはNOE’Sキッチンです!』
「おいおい、お前朝からお茶の間を毒の沼で沈める気か? お子様が学校行かなくなるからやめろよ」
と、ラグナは先ほどから番組にクレームをいれるばかり。
というかこの番組、ラグナが普段から抱くノエルのイメージとは真逆な内容ばかり放送されているではないか。
ラグナの知るノエルは人を感動させる詩も書かない。料理を食わせれば感動とは違う涙を引きだすことはできるものの。
そしてテレビの中の、なにやら目が金色に光っている禍々しいノエルは。胸は大きい、詩を書くのは上手い、そして料理が得意。もはや誰ですか状態である。
「なんだこのエセ番組。別の番組見よ」
そうラグナはリモコンを手に取り、チャンネルを変えた。
すると今度は、禍々しい砂嵐から新しい番組が映し出される。
重々しい音楽が鳴り、ラグナの聞き覚えのある声がテレビから流れる。
『あぁお兄様! ジン兄様! 氷の白馬に乗って私を迎えに来てくださるのね! 私はいつまでもこの漆黒の炎の鳥かごにて、あなたが来るのをお待ちしておりますわ~!!』
「……」
今度はテレビの中でツバキが、彼女らしくない派手なドレスを身にまとい。これまた目が金色で、ジン兄様ジン兄様と大声で叫んでいた。
ジン兄様と叫んでいる姿は良く見るが、にしてもおかしな雰囲気を醸し出していた。
『あぁこの煉獄の赤椿。我が魂はあの氷の呪縛にいつも囚われている。我が燃え盛る魂を鎮めてくださるのはそう!! あっそう!! 氷の王子様! ジン兄様ただ一人!! 私をその波撃の氷剣(ディストラクト・コフィン)で貫いてぇ~!!』
「なんでこいつこんな中二病に侵されてんだ?」
ジンに盲信しながら、聞くに堪えない中二台詞を連発するツバキ。
ラグナはなんだか見てられなくなり、チャンネルを変えると……。
『もうリスはいやじゃあああああああああああああああああ!!』
次に映ったのは、悲痛な叫びをあげるマコトだった。
人間ラブと書かれたTシャツを着て、リスであることに嫌気がさしただの、リスを抹消してやるだの、なんだか聞いちゃいけない言葉を悲痛な叫びに乗せていた。
そのマコトも、やっぱり目は金色だった。
『あのクソ野郎ども! このでかい尻尾がついてるってだけでリスだリスだってバカにしやがって!! リスだから臭いから近寄るなぁ!! 臭いのはてめぇらの心の狭さだちくしょーーー!!』
「あぁやっべ。聞いてたら涙出てきた」
ラグナはマコトの見てはならない姿を見てしまったかのような気がして、静かにチャンネルを変えた。
そんな次のチャンネルで映ったのは……。
『狂犬の冷徹。今日も冷徹に愛しの死神のケツの穴に、この立派な黒き鷹の一撃(ブラックホークスティンガー)を……トツ・ニュウ! するぞぉぉぉぉ!!』
「ヴォエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!」
その次に映った番組を見た瞬間、ラグナは条件反射でその場で嘔吐。
そしてリモコンを破壊してまでチャンネルを変え、トイレにダッシュしてまた嘔吐。
ちなみに何が映っていたかというと、あのアズラエルが精巧にできたラグナ型の※※※に、立派な※※※をブチ込もうとする。というか深夜どころか放送できないような内容のトンデモ番組だった。
というかなんで自分なのか、と被害者のような顔を真っ青にして、ラグナは地にへたり込む。
「はぁ、はぁ……。つかなんだよこのテレビ番組! 全部でっち上げじゃねえか!! つか誰だこんなしやがったの!!」
そうラグナは怒りを浮かべていると。
ラグナのスマートフォンが鳴る。画面に映し出されたのは、あまり会話をしないはずのトリニティ先生からだった。
ラグナはこんな時に何用なのかと、とりあえず電話に出ると。
「……もしもし?」
『ラグナ先生見ました!? あのアズラエルくんとラグナ先生が、きゃああああああああああああああああ!』
ぶつんっ!
ラグナは聞いていられなくなりすぐさま電話を切った。
と、ここでラグナは一つ気付いた。
トリニティ先生のあの反応からするに、この番組を見たのはラグナだけではないのである。
つまり、ラグナに対しての悪戯行為ではない。正真正銘のトラカカが話してくれた都市伝説である。
「……よくわからねぇが、とにかく害になるもんじゃねぇってわかったし。とりあえず電源切るか」
リモコンも壊れてしまったので、直接テレビの電源を消そうとするラグナ。
すると、そこで事件が起こった。
テレビを消そうとした時、ラグナが片付け忘れていた床に転がっていた酒缶を踏んだ。
「へ?」
体勢を崩してテレビに顔をぶつける。普通なら、そこでぶつかって終わりだった。
だが、そこでとんでもないことが起こった。
なんとラグナの顔が、テレビの中に入ってしまったのだ。
そしてそのまま身体も入ってしまい、ラグナはテレビの中に落ちてしまった。
「え!? ちょっ!? なにぃぃぃぃぃぃ!!」
深く深くテレビの中へ落ちていくラグナ。
数分後、謎の空間にお尻から着地するラグナ。
テレビの中に入ってしまう。誰が予想できたことだろうか。
「なっなんだ!? なにが起こったんだ!?」
何が何だかわからないラグナ。
辺りは薄暗く、霧に包まれている。
まるでそれは夜中の墓場を思わせるほど異質で、ラグナはついビビる。
そして、自宅に戻る方法もわからない。というか帰ることができるのだろうか。
「やめろよ~。どうせ夢なんだろこれ~」
つい涙声になってしまうラグナ。
こんなところあの校長に見られたらなんと思われるだろうか。
そんなこんなでさまよっていると、誰かがこちらに来る気配を感じた。
ラグナはビビりながらも身構えると。
「あら~。ラグナ先生~」
と、緩やかに声をかけてくる人物。
それは、さきほど電話にて発狂していたトリニティ先生だった。
「トリニティ先生! なんでここに!?」
「いやあの。どうにもテレビだけじゃ興奮を抑えきれずに、テレビに顔を近づけたらテレビの中に入れちゃったわけですねぇ~」
そう呑気に笑うトリニティ。
だがラグナ的には助かった。一人では心細かったので、仲間がいるのは安心できる。
「にしてもここは不思議な空間ですねぇ~。番組のスタジオみたいで~」
「ん? あんたこの辺りが見えんのか?」
「はい~。なんでもメガネをつけていたら霧が晴れるみたいです~。ラグナ先生もどうですか~」
そうトリニティにメガネを受け取ると。
先ほどまで霧に包まれて何も見えなかったラグナにも、この空間の正体が見えてきた。
見ると、そこはさきほどテレビに映っていたスタジオ。
どうやらここでさっきまでのでっち上げ番組が放送されていたようである。
「なにがなんだかわからねぇが。おいプロデューサー! よくも気味の悪い番組見せてくれたな!!」
一発文句を言わないと気が済まないラグナは、番組のプロデューサーを探す。
だが、そこには一人も人が見当たらない。
というか無人だった。ただ音の無い、不気味なスタジオ。
「ちっ、どうなってやがるんだ!!」
そうラグナがスタジオのセットを蹴り飛ばすと。
ババン!!
急に、スタジオの証明が一斉にラグナに向けられた。
そして黒い影達がなにやら、機材やセットを運んできた。
そこにいたラグナも、流れるように運ばれる。
「ちょっ! お前ら何すんだ!?」
暴れるラグナ。
すると黒い影はラグナに長いハットを被せ、手にはマイクを握らせる。
スタジオの中央には、番組のタイトルがでかでかと書かれた看板が。
そしてスタジオの端っこから、白い横長の生き物がステージへと現れた。
「レディース&ジェントルメーン!! 始まりましたその名もズバリ、"ラグナ先生のお悩み相談"ZEA!!」
派手な音楽が鳴り、見慣れない白い謎の生き物がそうラグナを紹介する。
ラグナはこの状況を理解しきれず、周りを見渡す。
「は!? お悩み相談!?」
「司会は我らがブレイブルー学園の教師、ラグナ先生! そしてアシスタントは私、パクメンが務めさせていただくZEA!!」
「なんだ!? おいハクメン先生!! なんだその格好!? てかなんの茶番だ!!」
ラグナはその生き物がハクメン先生に似ていたためか、ハクメン先生が仕掛けた物だと決めつけ食ってかかるのだが。
「先生。我はハクメン先生じゃなくて、パクメンZEAよ」
「なんだよパクメンって!? ハクメン先生だろ!?」
「わからないZEAねぇ。まぁとにかくお前が主役なんだから、ゲストのお悩み解決するZEA」
ハクメン……もといパクメンは無理やり番組を進める。
ゲストのお悩みを解決しろといきなり言われても、このヘンテコな状況でなにをしろというのか。
そして肝心のゲストとは……。
「それではゲストの美少女三名。おな~り~ZEA!!」
そうパクメンに呼ばれ現れたのは。
狡猾な笑みを浮かべ、胸が大きくなり強気になったノエル。
ジン兄様と執拗以上に連呼し、加えて中二病全快となったツバキ。
リスはもう嫌だと、リスに殺意を抱くマコト。
先ほどラグナが見た番組の三人が、ラグナの前に現れたのだった。
「は~い。"シャドウノエル"で~す」
「氷の王子を待ち望み数億年。煉獄の赤椿もとい! "シャドウツバキ"ここに参上っ!!」
「この世のリスは私が葬る! その名を刻め! "シャドウマコト"だぁぁぁ!!」
と、それぞれ名前の前に"シャドウ"とつけて登場した三名。
それはラグナが良く知る三人ではなく、薄暗いオーラを纏い、禍々しい金色の瞳をした三人。
そしてその言葉には、ノイズがかかり耳に重く聞こえてくる。
「それではラグナ先生。悩める少女のお悩みを解決してくれZEA!」
「いやいや解決してくれって! こいつら俺の知ってる奴らじゃねぇし! 完全に吹っ切れた何かじゃん!!」
そう文句を口にするラグナ。
だがパクメンは、そう文句をいうラグナに対し、こう一言。
「俺の知っている奴らじゃない……? 本当にそうパク?」
「あぁ……つかてめぇ今語尾変わったよな!? ZEAじゃなかったけど!?」
「甘いなぁラグナ先生は。もう一度情報を整理するZEAよ」
まるでラグナを試すように煽るパクメン。
本当にそうなのかとは、いったいどういうことなのか。
このシャドウ三人組の正体は、いったいなんなのだろうか。
「お悩みって。今の私に悩みなんてないですよ~。御覧の通り胸も立派なDカップ、そして料理も詩も上手くいきすぎて悩みなんて抱いている暇なんてないんで☆」
「つかてめぇ。どうせ通販で出来のいいパット買ったんだろ? そうなんだろてめぇの胸がそんな立派な胸なわけがないもんな!!」
「ラグナ先生いつまでそんなこと言ってるんですかぁ? 今の私はドジっ子貧乳っ子を卒業した売れっ子作家。料理人と呼んでくれてもいいですよ~」
とまぁずいぶん強気に物を言うノエル。
いつもなら煽るとむきになってくるのに、シャドウノエルは煽り返してくるのだ。
「悩みなどないわ。私にはジン兄様がいるもの。ジン兄様が私の瞳に映る限り……フハーーーーーッハハハハ!! 私の永劫の幸せ(エターナルエデン)は約束されたものよ!!」
「テンション高いなおい……」
ラグナが普段知るツバキは優等生で周りを良く見る優しい人物。
こんな一人の人物に執着して目立ったことはしない。
「リスだからいけないのか!? リスを臭いって言った奴は死ねばいい!! だから私は人間になるためにリスを葬る!」
「お前もうそれ、リスだからって言われたより臭いって言われたことにショックうけてね?」
もうなんだかマコトの怒りは意味不明になったラグナ。
こんな三人の悩みなど、どう解決すればいいのか。
ラグナは悩む。この暴走した三人を静めるにはどうすればいいのか。
ノエルは全ての欠点を克服し、ツバキは想い人だけを見て幸せとなり、マコトは自分の存在を全否定している。
そんなまったくもって真逆の三人。真逆、すなわち光に対しての影にあたる三人。
影、ラグナはあることを思い出した。それはトラカカが言ったあの言葉である。
『悩みなんてないというのは決めつけが良すぎるニャス。人には自分が認めたくない、人前で抑圧した感情というのがあるものニャス。誰にだって自分の影というのは存在するもんニャスよ』
その言葉を思い出した。
人には自分が認めたくないものがある。それは人前で抑圧した感情だ。
そしてそれは、誰にだってある影なのだ。そう、それは彼女たちがけして人には見せようとしなかった影にすぎない。
ならばこそ、そこに隙が見えてくる。
「ノエル? お前はそんな欠点を全て克服して、本当に今が幸せだと思うか?」
「なっなにを……。私はこうやって先生に馬鹿にされてきたから、全部を解決したんですよ。これでもう、馬鹿にすることなんてないでしょう?」
「はんっ! じゃあ言ってやるよ。このバカが!!」
「なっ!?」
今の全てが完璧なノエルに対し、ラグナはあえてバカと口にする。
そんなラグナに憤慨し、ノエルは普段とは思えない口調で反論する。
「今となっては、あなたの方が馬鹿ですよ! 私は数多くの人に認められたんです!! お前の方が馬鹿ですよふざけんな馬鹿!!」
「そうかもしんねぇな。だが、誰よりもテメェ自身が自分を認めてねぇじゃねえかよ!」
「んな!?」
「ノエル。お前はいっつも自分に自信を持てていなかった。だからせめて自分の好きなことでも自信が持てるようにって頑張ってたんじゃねぇか! なんでそれを抑圧し続けんだよ!」
そう、ラグナはノエルに説教をする。
ラグナはこう見たのだ。このノエルは全てを完璧に見せることで、自身の頑張った事柄を隠そうとしているのではないかと。
頑張りは無駄ではない、滑稽ではない。だからこそ恥ずかしくて見せられない。その抑圧した感情が、ノエルの心の影を生み出したのだと。
「完璧を偽るってのはな、自分の努力を否定することと同義だ。お前本当にそれでいいのか? お前の努力や頑張り、見てくれてるやつがいるかもしれねぇぜ」
「そ……そん……な。都合のいいことばかり、いつも人をバカにして……」
「んなこたねぇさ。確かにやりすぎてる部分はあるが、俺はいつもお前の頑張る姿……見てんだぜ。そしてそれを見届けるのが、どれだけ楽しいと思ってやがる」
優しくノエルの声をかけるラグナ。
そんなラグナの優しさに打たれたのか、涙をぼろぼろ浮かべ崩れ落ちるノエル。
「ツバキ。ジンを追うのは別にやめろとは言わない。お前にとっては大切なお兄ちゃんだ。求めるのもしかたねぇ」
「そうよ! 私にとってジン兄様は全て!! ジン兄様は私を救うためにこの場にいる。これぞまさに、シュタインズゲートの選択!!」
「よくわからんが……。だがジンへの想いを殺してまでも、自身の名を背負うことはねぇ。ジンはジン、お前はお前だろうが」
「な、なにを言ってるのか皆目見当もつかぬ!!」
そのラグナの言葉に、ツバキは動揺を見せる。
ラグナはこう見たのだ。このツバキはジンへの想いを中二病がごとく大げさに名を連呼し、ジンに救われるべき自身を演出している。
中二病にみられる心理、よく言われるのが現実逃避の現れである。
つまりツバキは人気者のジンを我がものにできないという現実を否定し。本来出したいジンへの想いを抑制してまで、ツバキ・ヤヨイという皆の憧れの的を表に出し続けてきたことへのストレス。
それを全て捨て去っているこのツバキこそが、ツバキの心の影ではないかと。
「俺は恋愛事情ってのに疎いからアドバイスにならないと思うが。敵わない恋ってのに妥協するくらいなら、それに挑戦してみるってのもありだと思うぜ」
「で……でも。ジン兄様は皆の中心にいて、ジン兄様は常に人の眼差しの先にいるべきで」
「んなもんてめぇの押しつけだろうが。俺は追うのも求めるのも自由だと言ったが、押しつけることは認められねぇな。てめぇはてめぇらしく、思いっきりジンにぶつかって見やがれ!!」
「……ふっ。やっぱり似ていないとはいえ兄弟なんですね。ならばその助言を受け入れるのも、これも機関が私に刺し向けた挑戦というわけか……」
結局最後まで中二病は治らなかったわけだが。
そして最後に、リスに殺意を抱くマコトに視線を向ける。
「マコト。別にてめぇリスでいいじゃねぇか」
「なんだと!? 他人はリスだから私を遠ざけるんだぁ!!」
「んなこたねぇさ。お前のその尻尾のもふもふ、あれみんな好きなんだぜ」
「う、嬉しくなんてない!」
ラグナの言葉に、先の二人のように動揺を見せるマコト。
ラグナはこう見たのだ。このマコトはリスである自分の本来眠っているコンプレックスを、あえて口にすることで気付かせようとしているのではないかと。
その真意は何か。要はマコトはこう言いたいのだ。自分をリスとしてではなく同じ人間として扱ってくれ、と。
先ほどの尻尾の感触でさえ、自分にしか他人に与えられない特権のような物。
マコトの尻尾に群がるノエル達の反応は、マコトからすれば……尻尾の無いマコトなんてリスでも人間でもない。とかそこまでいかなくてもそう思わせてしまったのではないだろうか。
このマコトの激しいリス批判は、その恐れから生み出されたマコトの影なのではないだろうか。
「仮に尻尾たんが無くなろうが、マコトが築き上げてきた友情は……けしてリスの尻尾のような特権なんかじゃない。お前の……経験だよ」
「うっ……。リスは、愛されてなんぼの動物なんだうぇぇぇぇぇぇぇええん!!」
なんか最後は無理やり押しとおした感が否めないが、結論的に三人のシャドウの悩みを晴らしたラグナ。
「ラグナ先生ありがとうございます。これからも私を見ていてください……」
「このうちに眠る愛の鼓動(ノスタルジア・ドライブ)、いつしかジン兄様へぶつけて見せるわ」
「これからももっと、リスを好きになって見せるからね~!!」
そうラグナへの感謝を口にして、三人は昇天していった。
これでラグナの使命はまた一つ、綺麗に幕を閉じたのだった。
「ったく、心配かけやがって」
「ラグナ先生~。かっこよかったです~」
「よくやったZEA」
トリニティとパクメンもラグナを賞賛する。
これでラグナのテレビ番組も大円団と収まったわけだが。
肝心なことが残っている。どうやってここから帰るかである。
「んでよパクメン。どうやったらテレビの世界から抜け出せるんだ?」
「ん? それは全ての問題を解決したら出られるZEA」
「おいおい。それならさっきので全部終わっただろうが。さっさとテレビから出しやがれ」
「いやいや。まだ一つ残っているZEA」
パクメンはなにやら意味深な言葉を口にする。
まだ一つ残っている。その言葉が意味することとは。
すると突然。周りが薔薇の香りに包まれた。
ラグナは何かを悟ったのか、突如身体の震えが止まらなくなった。
「……まさ……か?」
ラグナは思い出したのだ。
番組は三つだけではない。後一つ……とっておきのが残っていたことを。
そして高揚するトリニティを見て、ラグナの想像は核心へと変わる。
ラグナは恐る恐る。影のある方角へと視線を送ると。
「狂犬の冷徹。今日は等々、待ち望んだ大型ゲスト……死神ラグナ・ザ・ブラッドエッジが登場します。今日はモノホンの死神穴に、私の暴虐の祖国(パトリオット・アポカリプス)を、トツ・ニュウ! してやるぞーーーい!!」
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!! 狂犬と死神の激しい2P期待します~!! もう眼鏡もアソコもぐしょぐしょですぅ~!!」
「助けてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
こうしてラグナは、影よりさらに深い影へと、戻れない所まで沈んだのであった。