3年B組ハーデス先生~ブレイブルー学園パロ~   作:トッシー00

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第29話です。


第29話:ラムダ、ペットを飼いたい

「あ~疲れた。まったく教師というのも難儀だな。ラボに籠って研究だけしてれば楽でいいのに、時たま出張やら宛がわれては大がかりな研究をするのもままならん」

 

 ある日の事、出張に行っていたココノエがブレイブルー学園の自分のラボに帰って来た時の事。

 ココノエはブレイブルー学園お抱えの化学教師、兼科学者であるが。あくまで雇われている身として、好き放題はできない。

 出張など会った日には自分のテリトリーであるラボから離れなくてはならない。

 一応ラムダにお留守番をさせてはいるが、何かがあって機密データに一般人が触れられたなんてことがあればたまったものではない。

 

「お帰りなさい。ココノエ博士」

 

 そんな疲れ切ったココノエを出迎えるのは、ココノエのラボに住み込みをしている教え子のラムダだ。

 彼女は親がおらずココノエに拾われここに住んでいるため、形式上はココノエの娘のような存在だ。

 最もココノエは自分が母親だなんて大層な存在だとは思っておらず。親子というよりも師と生徒という関係を保っている。

 

「ただいまラムダ。さっそくコーヒーの一つくらいいれてもらおうか」

 

 そう疲れ切った面持ちでココノエはラムダにコーヒーを淹れるよう頼む。

 これから出張のレポートを校長に提出したりと、仕事はまだまだ続く。

 さっそくラボに入り、一段落と行きたいところなのだが。

 

「……そういえばラムダ。なぜお前はラボの外にいるんだ?」

 

 ココノエは一つ気になった。

 別に気になるほどの事ではないが、留守番を頼んだラムダがラボの外で待っていたのだ。

 特に外で出迎えろなどと言っていたわけでもないし、ラボの中でくつろいでいれば立っている必要も無し。

 なのに、ラムダはわざわざラボの外にいる。しかも、なにやらラボを見つめては訝しい表情をしている。

 

「……ラボに、入れない」

「はい?」

 

 ラムダのその一言にココノエは首をかしげた。

 まさかドアでも故障しているのだろうか。

 ココノエは身を乗り出し、扉の隣のパスコードに、ここを去る前に設定した暗証番号を打ち込むのだが。

 

「扉の暗証番号も変わっている。おいおい私はハクメン先生を捕えた時みたいに秒単位で番号が変わる高度な鍵をつけた覚えはないぞ」

 

 いったいその時にハクメン先生と何があったのかはさておき。

 ココノエはラムダを見る。いったいどうしてこんなことになったのかを視線で問うと。

 

「……私が暗証番号を変えた」

「なに? いったいどうしてそんなことをしたんだ? 何かトラブルでもあったのか?」

 

 ラボに入れないのはラムダの仕業であった。

 今ラボの中に入れない理由でもあるのだろうか。

 ココノエのいない間に何かがあってそうしたのか、ココノエが事情を問うと。

 

「……白い毛並み」

「ん?」

「拾った」

 

 そうとだけ、ラムダが返した。

 それを聞いて、ココノエがすぐに察した。

 というのも、ココノエには覚えがあった。

 それはかつて、ラムダが他の生き物に興味を抱いた時の話。

 ラムダがラグナと一緒に山中へ雑草を取りに行った際(※ちなみにその理由はラグナの生活費が途絶え、飢えをしのぐ物を見つけに行くことになったため)、ラムダはそこで怪我をしたターターさんを見つけたのだ。

 その時ラムダはターターさんを飼おうという話になった。今回の一件はそれの延長線上の話である。

 

「なんだまたか。今度はなんだ? 猫でも拾ってきたのか?」

「……うん。すごく猫的な物で、すごく癒される」

 

 そうラムダは甘えた視線をココノエに贈るのだが。

 

「駄目だ」

「……駄目?」

「駄目だ。うちは研究の為の繊細な機材が多数ある。猫みたいな室内を動き回る生き物は飼えん」

 

 ココノエはそうきっぱりと断言。

 ココノエの言う通り、機械類がある所に生き物などを放置しておけば、変な機械トラブルを誘発する場合がある。

 それにココノエの仕事中に邪魔をされても困る。と、ココノエ側からすれば迷惑極まりない話なのである。

 

「私がきちんと世話をするから」

「駄目だ。そうやって世話をするからなんてのは最初のうちだけだ。結局最後はお母さんが世話をすることになると相場が決まっている」

 

 そんなまるで自分がお母さんだというような口調でココノエは強く断る。

 ラムダの甘えた視線も、徐々に拗ねたような表情になり。

 ラムダはならばといった具合に、こんなことを口に出した。

 

「なら、こちらにも切り札がある」

「切り札?」

「博士に、うんと言わせるための……切り札」

 

 そう比較的強い口調で言い切るラムダ。

 それを聞いてココノエは鼻で笑い。

 

「ほほうおもしろい。そんなものがあるなら見せてみろ」

 

 そうココノエは挑発すると。

 ラムダは腹の底からうねりだすように、おぞましい重い口調でココノエにあの一件の話を切り出した。

 

「……ターターの恨み」

「ん?」

「軟体動物門腹足網ターター雄の恨み。博士……水葉……捨てた。だから……ターターの恨み」

 

 それは先ほどもあった通り、かつてラムダがターターさんを拾って来た時の話である。

 結局最終的には、ココノエがゴミと間違えて怪我の治ったターターさんを水葉ごと投げ、なんとも不穏な空気にしてしまったという出来事である。

 それを聞いて、ココノエは罰の悪い顔をして。

 

「お前はトンベリか。それに、あれは……」

「ゴミ処理用機械の中でバラバラにされたターター。かわいそう……。嘆きと怒りのお便り多数……」

「いやだから。結局そのターターはなんとかゴミ箱の中から見つけ出し、お前と口論の末にガチバトルして結局飼う羽目になったが。翌日力尽きて昇天してしまっただろ。投げて終わって私が悪いみたいなどこぞのギャグルートのオチじゃないんだぞ」

 

 その話の結末は、ココノエの言う通りである。

 まるでココノエが悪者のようにいうラムダ。だが結末を聞く限りココノエは慈悲を与えたためどちらかというと悪くない。

 

「……ちっ」

 

 それを聞いたラムダは流し目で舌打ち。

 いつからこんな捻くれるようになったのか、ココノエは少しばかり反抗期の子供を抱える母親のような気持ちになった。

 

「舌打ちをするな」

「切り札失敗。万策尽きた。博士の鬼、悪魔、鬼畜眼鏡、マッドサイエンティスト、糞ハメピンクゴリラ」

「万策尽きるの早いな。しかもそれ、私の悪愚痴を言っているように聞こえるが、それただのお前の感想じゃないか」

「ぶー。ゴリラ、鬼畜ゴリラ。悪魔のゴリラ。メガネかけたゴリラ」

「お前後半私をゴリラとしか言ってないな。鬼畜眼鏡や悪魔はまだしもゴリラはやめてくれないかな」

 

 ラムダの徹底したゴリラ呼ばわりに、つい困りを表情に出すココノエ。

 と、まだ話は解決していない。

 このままではココノエはラボに入れず、ラムダは拾ってきた猫的なものを飼えずにいる。

 相互理解が成されないままでは、いつまでも事は先に進まないのである。

 

「絶対に飼いたい。博士も見れば気にいる」

「とは言うがなぁ」

 

 ラムダのその強い眼差しにココノエはつい困り果てる。

 いったい何が彼女をそこまで動かしているのか。

 ココノエとしても大切な教え子に武力行使はしたくない。というか下手にガチバトルしてしまえば前みたいに機材が吹っ飛ぶ。

 そんな二人の元に、ココノエとしてはあまり会いたくないやつが現れた。

 

「なんだなんだ。言い争いが聞こえたからなにをしているのかと思えば」

「ぐっ! なんのようだクソ親父」

「ひどい言われようだな」

 

 そこに現れたのは獣兵衛。ココノエの実の父親である。

 

「んで、なにを言い争っているんだ二人とも」

「ペット飼いたい。でもココノエ先生怒る」

「……というわけだ」

 

 ラムダの言葉でなんとなく事情を掴んだ獣兵衛。

 それを聞いて、獣兵衛がふははと笑い、こんな昔話をし始めた。

 

「なるほどな。捨て猫を拾ってくるなんてなぁ。そういやお前も昔同じようなことをしたことがあったもんだなぁ」

「お、おい親父! そんな昔話はよしてくれ!!」

「土砂降りの外で犬を二匹拾ってきて飼いたいと泣きながらナインに頼みこんでなぁ。ナインは「どうせ拾ってくるなら猫にしなさい! 犬とか蛇とか生意気なのよ!!」って怒鳴り散らしたもんだ」

「……今更思えば、着眼点そこかとツッコミたくなるような話だが」

 

 話の結末はどうあれ、ココノエもかつては同じようなことをしてナインに怒られたことがあったらしい。

 結局犬は飼えず逃がす羽目になり、ココノエとナインは喧嘩したりもした。

 それを獣兵衛がなだめたりと、かつてあった夫婦の円満なひと時を獣兵衛は思い返す。

 

「まぁなんだココノエ。かつて自分にも同じようなことをし、悔しい思いをしたんだ。子というのはいずれ親の立場になる。その子はお前の本当の娘ではないし、親というにはまた違う立場ではあるが、お前が親になって今、同じような場面に差しかかった時、ナインと同じく困った時、お前の場合はどうするべきか……」

「まったく。親が子に理想を押しつけるというのは酷な話だ」

「それはまた人聞きが悪い例えだ。ちなみにナインもあの後少しばかり後悔していたぞ。「犬ならまだマシだったわ、蛇なら問答無用で虐殺だったけれど」と」

「というか捨てられた蛇を飼いたいという子供などいるはずないがな……」

 

 そんなかつての母の苦悩を改めてココノエは知る。

 そしてラムダを見て、挫けたような表情を浮かべ。

 

「はぁ、わかったよ。とにかくその話はレポートが終わってからだ」

「……つまり、保留?」

 

 ラムダがそう問うと、ココノエはまったくと呆れた表情で返した。

 

「ああ。飼うかどうかは未定だが、現物も見てやるし、話し合いにも応じてやる。だから早くラボを開けろ」

「……了解」

 

 その了解は、表情にこそ出ていなかったが、とても弾んでいた一言だった。

 言葉に嬉しさが乗っていた。それを聞いたココノエも、どこか満足げであった。

 

「全く。強情な所は誰に似たんだか。親の顔が見てみたいものだ。さてと早くラボに」

 

 とにかくこれでラボに入れる。まずはその拾ってきた猫的なものでも眺め、せっかくだし癒されてみるとしよう。

 そう思い、ココノエがラボに入ると。真正面のその猫的なものが鎖につながれ檻の中で吠えていた。

 

「ラムダ! ここ開けろ! 早く開けろ!! くそっ、いきなり拉致りやがって!」

 

 そこにいたのは猫ではなく、猫耳をつけられたラグナであった。

 ココノエの隣でラムダが嬉々とした表情でラグナを見つめる。

 そう、ラムダが飼いたいとごねていたのは、拾ってきた……というより拉致ってきたラグナだったのである。

 それを見て、ココノエがズバッと一言。

 

「うん。今すぐ捨ててきなさい。できればどぶ川とかに放り投げてきなさい」

「ガーン」

 

 結局、ラムダはラグナを飼うことはできなかった。

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