3年B組ハーデス先生~ブレイブルー学園パロ~   作:トッシー00

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第31話です。


第31話:ヒビキ・コハクという影の支配者

 ムツキ家当主、カグラ・ムツキ。

 カグツチ市でも名が広い十二宗家、その当主であるムツキ家の出であり、次期当主でもある身分の男。

 故にその立ち振る舞いは、他の者から見て恥じない物でなければならない……はずなのだが。

 

 カグラ・ムツキ、ブレイブルー学園高等部三年生。

 

「ねぇカグラ、今度の土曜日デートしましょうよぉ~」

「ちょっとー! あんたこの間カグラとデートしたじゃん! 次はあたしの番でしょ!?」

「なによ! いっとくけどカグラの本命はこの私なんだからねぇー!!」

 

 放課後、教室にてカグラを取り巻く女子たちは、必死の表情でそう言い争いをしていた。

 そう、カグラくん高校三年生は、ブレイブルー学園一のモテ男といってもいいくらいモテていた。

 そんな女子の中心にいるモテ男はというと。

 

「ぬははは~。お前ら俺のために喧嘩すんじゃねぇよぬらっはははは~」

 

 と、女子に囲まれて有頂天になっている始末。

 ムツキ家次期当主という身分に敵った高貴な達振る舞い……とはなんともかけはなれている。

 彼は自分の身分や容姿を完全に利用しては、大好きな女の子を集めて青春を謳歌している。

 現在は12人彼女がいるという。もはや彼は他の生徒の憧れの的ではない、どちらかというと嫉妬の的であった。

 

 ピ~ンポ~ンパ~ンポ~ン♪

 

 そんな時、学園全域に校内放送が流れた。

 

『ゴホン! カグラ生徒会長、本日は学園予算会議の日です。今すぐ生徒会室にお越しください』

 

 と、透き通った少年の声が学園中に響き渡った。

 そう、ここにいるぐうたら貴族の男は、このブレイブルー学園の現生徒会長でもあった。

 完全に人望とかではなく身分を利用してのお役所なのだが、この学園は現在彼を中心に回っていたのである。

 

「カグラ、生徒会のお仕事だって? 行かなくて大丈夫なの?」

「はははいいんだよ、俺の部下は優秀揃いだ。俺なんざいなくたって会議なんて充分進む。俺は一時の大事な仕事にかまけて、女は放っておかない主義なのさ」

「んも~うカグラマジイケメ~ン」

 

 生徒会長という身分でありながら、仕事より女を取ったこの男。

 当然生徒会はこの行為を放っておくわけにはいかないだろう。引き続き校内放送が鳴った。

 

『……え~、仕事にかまけて女を放っておかない主義のカグラ生徒会長、もう一度言いますが本日は予算会議の日です。会議は生徒会長がいなくては始まりもしませんよ~』

 

 どうして声の主はカグラの発言を知っているのかはさておき。

 二度目のお呼び出し、それに対してカグラは。

 

「んだよ会議なんてめんどいことを、女を泣かせてまで行く会議がどこにあんだよ副会長よぉ」

 

 そんなカグラの愚痴に対し。

 

『あなたが会議に出た所で泣いてくれる女性はいませんよ~』

「なんで会話できてんだよ……」

 

 なぜか今目の前にいるかのように放送の主が言葉を返してきた。

 しかしそれでも動かんとするカグラに対し、放送の主は等々。

 

『え~、ではあと五秒待ちます。それまでに動こうとしない場合は無理やりでも連行いたしますのでご覚悟を。はい五~』

「んだよこのカグラ・ムツキから無理やり女を引きはがそうってか。やれるものならやってみてくださ~い。なっははははは!!」

『四~三~二~』

 

 どがしゃーーーん!!

 

「ぶらほっ!!」

 

 と、カウントダウンが終わると同時に、教室の壁から巨大なビーム砲がカグラだけを吹っ飛ばした。

 そして壊れた壁から、少年がゆったりと教室へ入ってくる。

 すらりとした細い身体付き、おかっぱ頭の中性的顔立ちの少年。

 彼こそがカグラの右腕と言われていた彼の一個下の後輩。名をヒビキ・コハクという。

 

「カグラく~ん☆ お仕事のお時間ですよ~☆」

「いてて……。てか、カウントダウン二で止まったけど!?」

「あなたを無理やり連れてくのに五秒なんてもったいない。一秒をあなたに使わなければどれだけのことができると思ってるんですか~」

「お前にとって俺の存在って一秒の価値もないわけ!?」

 

 そう仮にもお偉い貴族かつ生徒会長でもあるカグラに対しぞんざいな扱いをするヒビキ。

 ちなみに仕事をサボった今回に限らず、これはいつものことです。

 

「はいはい女性の皆さま散った散った。これからカグラ会長は大事な予算会議を行わなければならないのです」

「おいおい勝手なこと言うなヒビキ。この女どもは、今という時間を大切にだな……」

「……へぇ~。カグラくんここにきてそんな抵抗しちゃう~?」

 

 そう、呼び方をカグラくんに変え、ニタリとヒビキは笑う。

 そして、ポッケから携帯を取り出し、ある音声を大音量で流した。

 

『ヘイヘイそこのシスター服がかわいい彼女~!! そこでちょっとお茶しな~い!?』

「ヴァァァァァァァァ!!」

 

 そこから流れたのは、ナンパするカグラの音声だった。

 それを流され、カグラは奇声を発した。

 なぜかというと、それをヒビキの口から語られる。

 

「え~これは先月カグラくんが隣街で女性にナンパをした時の音声です」

「ちょ……。ちょっとまてヒビキ! てかなんでお前がその音声を持ってやがる!!」

「しかも、このナンパした相手……。なんと"男"です」

「いや違うんだって!! 相手がほんとに美少女にしか見えなかったんだってマジで!!」

 

 それはただのナンパではなく、カグラが女を男に間違えた決定的な場面であった。

 これはカグラが誰にも知られたくない事実であり、彼が三日寝込んだくらい後悔した一時であった。

 そして、この事実を知ったカグラの彼女たちはというと。

 

「カグラのバカ! 最低!! 私というものがありながら……。しかも※※だったなんて!!」

「いやだから違うの!! 俺だってアマネ先生くらいは見破れるが、なにせ相手公式発表なければ女のままで通ってたくらいかわいくて!!」

「バカ! 死ね! 最低! 浮気性!!」

 

 そう、多くの女子から罵声を浴びせられるカグラ。

 そのまま女子たちは、教室のドアを壊すくらいの力で明け、そして帰って行った。

 

「あ~あ、学校の備品が壊れてしまった。これで書類が一つ増えてしまいましたね。そのことも踏まえて仕事行きましょうかカグラ会長」

「ヒビキ……。てめぇマジ殺すぞ……」

「えぇどうぞ? ただし僕が死んだらカグラくんの女関係を隠し撮りした動画が全生徒の携帯に送られることになってますけども」

「てめぇ……。ほんまもんの鬼か……」

「ちなみにさきほどの男の娘詐欺、多分また何年後かしたらまたやらかすと思いますよ……あなたなら」

 

 こうして、ヒビキはカグラの弱みを最大限利用し、彼を無理やり働かせることに成功した。

 

-----------------------

 

 ――こんな市の小さいゲーセン仕切って毎日遊んでばかりで、楽しいかよ。

 

 ――世の中にゃ、もっと楽しいこといっぱいあんぜ?

 

 ――今の毎日がつまらねぇならよ、お前……俺の右腕になれ。

 

-----------------------

 

「……」

「え~。以上で予算会議を終了……って聞いてんのか? ヒビキ」

 

 上の空のヒビキに、カグラが声をかけた。

 

「え? あぁはいそうですね」

「お前がぼーっとしてるなんて珍しいな。その隙狙って抜けだせばよかったぜ」

 

 会議中、ヒビキはらしくなくぼーっとしてしまった。

 普段そんな隙を見せることなど本当に珍しいヒビキ。

 

「もう生徒会長ったら、たまにはまともに仕事に力をいれてください」

「おいおい俺はいつでも真面目だよ。でもライチちゃんが俺とデートしてくれたら、もっと真面目になれるのになぁ~」

「うふっ☆ ぶん殴りますよ生徒会長☆」

「……はい、すいません」

 

 当時カグラの一個下の後輩だったライチ生徒書記は、カグラの軽い言葉にニコリと拳を見せつけ威嚇した。

 ちなみに生徒会にはもう一人、カグラの同級生である会計のバングもいる。だが会計というのはほぼ肩書きで実際は雑用がほとんどである。

 

「カグラ! お主は女にだらしないにもほどがあるでござる! ライチ殿はおまえなんぞに心を許すわけないでござるよ!!」

「はいは~いわかったよバング。生徒会に関しての意見は結構だが女に関しての意見はせめて彼女一人くらい出来てから聞くからよ」

「か、彼女など今受験に忙しい中作る気にはならんでござる! そういうのは勉学が片付いてからでござるな!!」

「ば~か勉強しか能の無いやつはそういって青春捨てる羽目になんだよ。勉強できる男子より行動力のある男子を女子は支持すんの。つうわけで生徒会室の後片つけまかせたわ」

 

 そうめんどくさい後処理をバングに押し付けるカグラ。

 当然そんなことバングがはいというわけもない。

 

「ふざけるなでござる! 生徒会の仕事は皆で最後までやってこそ……」

「あ~。ライチちゃんも早く家に帰らねぇと外も暗いしなぁ~」

「ふえ!? ら、ライチ殿!?」

「そうね、バングくんお願いできるかしら?」

「ま……まかせるでござるーーー!!」

(扱いやすい奴……)(うふっ、いつも助かるわ~)

 

 カグラとライチに上手く使われ、バングは夜も遅いというのに一人残って生徒会室の掃除。

 そして意気揚々と他の三人は帰宅。

 学校の外に出て、カグラはヒビキに声をかける。

 

「ヒビキ。腹も減ったしコンビニでなんか買って帰ろうぜ~」

「え~? 天下のムツキ家時期当主、件ブレイブルー学園生徒会長殿が買い食いなどしてもいいんですか?」

「固いこというなよ。買い食いは学生の特権だぜ?」

 

 そう自由奔放なこといって誤魔化すカグラ。

 そんな彼に、ヒビキは仕方ないといった表情で返した。

 

「はいはい、ではそこはカグラくんのおごりで」

「いやいや、そこは自分で出せよ。俺小遣いもうデートで使いまくってあんまねぇんだよ」

「女の子にはおごって仕事熱心の後輩には奢ってくれないんだー。僕もシスター服来て長い金髪で街出歩こうかなー」

「あぁぁぁぁ! もうわかったよわかりました!! 肉まん一個だけな!!」

 

 こうして二人は仲良くコンビニへ。

 そして肉まんを買い歩きながら街をぶらぶら。

 あたりはすっかり暗く、学生が出歩いては危ない時間帯となっていた。

 カグラとヒビキは腕ききなので問題ないが、子供やか弱い女性とかだと襲われる可能性も無きにしもあらず。

 と、なにやら道中でこんな悲鳴が聞こえてきた。

 

「は、離してください!!」

「んだよ一緒に遊ぼうぜ~」

 

 言った傍から、若い娘が悪い男に絡まれていた。

 

「……減らないですね、ああいう柄の悪い連中」

 

 そうカグラに語りかけるヒビキ。

 そんな彼の声色には、なにかしろの覚えがあった。

 

「……」

「ちょ、カグラくん?」

 

 その時カグラは、無言でその悪い男の方へ向かっていった。そして……。

 

「おいやめろよ、その娘怖がってんだろうが……」

「あぁ!? んだてめぇは!?」

 

 カグラは女の味方だからか、それとも純粋な正義感からか、襲われている女の子を庇いに行った。

 そして男を睨みつける。当然男は喧嘩を売られたと思い、カグラに拳をお見舞いしようとするのだが。

 ただの喧嘩慣れした男にカグラが負けるはずもない。彼は家で数多くの武術を叩きこまれており、正当な護身術を身につけている。

 カグラはその男に腕を掴み、ひねり上げ黙らせた。

 

「ぐがっ!」

「……もう一度言うぜ? やめろって言ってんだよこのクソ野郎」

「て、てめぇカグラ・ムツキか!? ここら一帯で調子乗ってるっていう!?」

「……聞こえなかったのか?」

 

 そうカグラが冷徹に言うと、男の腕を今にも折らんとする勢いだった。

 男がさらに悲鳴を叫び、そしてだらしなく全力で逃げ出した。

 

「お、覚えてやがれよぉぉ!!」

「ったく。お嬢さん、こんな夜道を一人で歩いてたら……あぶねぇだろ?」

 

 カグラが一転して優しい口調で女の子に注意をすると、女の子はごめんなさいと謝って、そして真っ直ぐ家に帰って行った。

 ちなみに今のようなことはたまたまではなく、さきほどの男が言っていたように、カグラはこのカグツチ市でも名が広まっているくらいの腕っ節の持ち主だった。

 女性が困っていたら見て見ぬふりはできない。それに加えムツキ家という身分で威張り散らしている話から、彼をぶちのめそうと喧嘩をふっかけてくるものも多い。

 そう、カグラは色んな物に慕われている半面、結構な恨みを買っている部分があったのだ。

 

「おぉ悪かったなヒビキ」

「……カグラくん、今月に入ってこれで何度目ですか? この分だとその内でかい報復が待ってますよ?」

「悪いな。弱い奴が強い奴にひどい目にあってるってのは……どうにも我慢できねぇんだよ」

「……」

 

 普段は女にかまけてだらしないこの男。

 だがその内には、名家で育ったが故の強い正義感に満ち溢れていた。

 そんなところがあるから、彼を慕う人物は彼を見捨てきれない。そして同時に惹かれる一因であった。

 そしてヒビキも、そんな彼の正義感によって変わることができた人物なのである。

 

 ――そんなある日の事。

 

「カグラ~。今度の休みの日デートしよ~!!」

「あんた昨日デートしたじゃん!!」

 

 学校の昼休み。

 どこかで聞いたような内容だが、カグラを見限ったはずの女子たちは何事もなかったかのようなまたカグラの元へ。

 そっとやちょっとの浮気やミスでは彼に好意を抱く女子たちは絶えることはないのである。

 

「ぬはっはっは! デートは一週間に一回までだろ? 楽しいことが毎日会ったら……人生はつまんねぇぜ?」

 

 とかなんとか上手いことを言って女子たちを丸めこむカグラ。

 と、その時あることに気づいた。

 

「ん? 今日なんか人数すくなくねぇか?」

「え? 確かに、三人ほどいない」

 

 カグラを取り巻く女子の数が、いつもより少ないことに気づいた。

 すると、カグラの携帯に一本の電話が来た。

 覚えの無い着信番号だった。一応出てみることに。

 

「……もしもし?」

『ようカグラ・ムツキ! てめぇよくも俺の仲間をやってくれたな!? 代わりにてめぇの女三人くらいもらってもいいよなぁ?』

 

 それは、以前夜道にカグラがぶちのめした男の親玉だった。

 そいつはカグラの彼女の三人を拉致し監禁、そうカグラへの復讐であった。

 

「……今どこにいる?」

『カグツチ市ロストタウンの潰れたゲーセンだよ! 早くこねぇとこいつr』

 

 ぶちっ!

 カグラは全てを聞き終える前に電話を切った。

 そして、無言で立ちあがる。

 まだ昼休みだというのに、今からそこへ乗り込んでやろうというくらい、険しい形相をしていた。

 

「カグラ、どうしたの?」

「……女三人が攫われた。助けねぇとヤバいことになる」

「か、カグラ。まさか一人でそいつらのとこ……」

「……わりいなおめぇら。俺は特別扱いってのが苦手でよ、なぜなら……お前ら全員が特別なんだからよ」

 

 そうかっこいいセリフをいい残して、カグラは学校を抜け出してすぐさまロストタウンの潰れたゲーセンへと向かう。

 愛車を飛ばして30分、指定された場所に到着。

 そこには、約五十人ほどの悪漢がカグラに報復しようと集まっていた。

 

「よぉカグラく~ん、覚悟はできてるか?」

「覚悟? うなもん女助けるって決めた時から出来てる。約束通り一人で来てやったんだ。女どもは離せよ」

「途中で電話切ったくせによく一人でってわかったな?」

「お前らみたいな三下が言いそうなセリフってのは全部わかってる。それにてめぇらなんぞ俺一人で充分よ」

 

 そう女の前だからなのか、それとも素でキレているのか大見得を切るカグラ。

 そんなカグラの提案に対して、悪漢共は鼻で笑い。

 

「女どもは離せ……か。悪いがそれはできねぇ」

「て、てめぇら!」

「今おめぇに置かれた状況わかってんのか? 女を盾に取られて何もできねぇお前の提案が通る道理がどこにあんだよ? 抵抗したら女はただですまねぇ。ただボコられ続けて、ついでに女も奪われる。結果はそれ一つだけだ」

「……どんだけ腐ってやがる」

「よく言うぜ。身分を振りかざして好き放題出来る貴族様からすりゃあ、なんだって腐って見えるもんだろうよ!!」

 

 そう悪漢共は言うと、一斉にカグラに襲いかかった。

 カグラは抵抗一つ出来ないで殴られ、蹴られ続ける。

 抵抗すれば大切な女を犠牲にすることになる。カグラには、それができなかった。

 そして五分ほど経った。反撃できないカグラは、すでに身体中傷だらけだった。

 

「まだだ。まだ俺は……倒れねぇぞ」

「ど、どんだけタフなんだこいつ。だが、こっちには女が!!」

 

 女を盾に取られている以上は、カグラは何もできやしない。

 悪漢共の勝ちは確定だった。そう……カグラが"一人で"あれば。

 そいつらは知らない、カグラの裏に潜む……"影の支配者"を。

 彼をもしのぐ、本当の王の姿を。

 

 がちゃ……きぃ~。

 

 突然壊れた扉が開く音が聞こえた。

 これ以上仲間はいないはず、そして部外者を入れないように見張りをつけていたはずだ。

 そして、こちらへ向かってきたのは……カグラの右腕であるヒビキだった。

 

「カグラく~ん。生徒会長ともあろうお方が授業サボってなにやってるんですか~」

 

 そういつもの透き通る声で言うカグラ。

 そんなヒビキの登場に、悪漢共の目線はヒビキに向く。

 ちなみに、見張らせていた奴ら五人程度は、ヒビキに軽くやられていた。

 

「なんだてめぇ!?」

「ご紹介が遅れました。僕はヒビキ・コハク。ブレイブルー学園生徒会副会長で、カグラくんを心から慕う出来たスーパー後輩です」

「自分で言うのかよそれ……」

 

 自画自賛のヒビキにカグラが小さくそう呟いた。

 というか、どうしてここにヒビキがいるのか。カグラは誰にも言っていないのに。

 

「ヒビキ! なんでてめぇがここにきた!? てかどうして……」

「いやいや、たまたま図書室で本を読んでいたら、カグラくんの電話内容が聞こえちゃってですね~」

「3年B組から図書室まで結構距離あるけど!?」

「僕は耳がいいんですよ~」

 

 もうここまで来ると、カグラの右腕というよりカグラのストーカーではないだろうか。

 改めてヒビキのすごさを思い知ったところだが、この状況、ヒビキ一人でどうにかできるものではない。

 ヒビキは確かに強いが、カグラの女に加え、今度はカグラまで盾に取られてしまっているのだ。

 

「まぁ仲間が一人で来た所でてめぇみたいな細っちょいやつがこの数を相手にできるもんかよ。それに仮に出来たとしても、抵抗した瞬間カグラとその女たちは痛い目合うことになるぜ~」

 

 そう悪漢の忠告に、ヒビキはふふんと笑って、そして冷静にこう返した。

 

「確かに、武力でこの場を乗り切ることはできませんね。まぁ僕ならカグラくんと違って多少の犠牲もやむなしと考えて行動できますが、カグラくんに死んでもらってもこの数相手ではさすがに勝ち目はありません」

「お前、さりげなくひどいこと言ってるよね……」

 

 どうやらヒビキにはカグラという盾はあまり意味はないようであった。

 

「しかし多数相手を殲滅することに、武力という選択肢だけでは世の中は狭い。力には幅広い選択肢があります。その一つには頭脳、そして情報力があります」

「何かごちゃごちゃ言ってるが……さっさといねやぁぁぁぁ!!」

 

 そう悪漢共が、ヒビキに一斉に襲いかかろうとした……その時であった。

 

『マフィー!! 助けてぇぇぇ!!』

 

 そんな叫びが、ヒビキの携帯から大声で流れた。

 それを聞いて、悪漢共が動きを止めた。

 

「こ、この声って……」

『き、急にかわいいイケメンの子が家に入って来たと思ったら、私を縛りつけて家に灯油をぶちまけて、そして時限式の爆弾をセットして去って行ったのよ~』

 

 といったやたら説明口調に今置かれている危険を説明する人物の声。

 それを聞いた悪漢の一人が、リーダー格と思われる男に震えた声で言った。

 

「か、梶田! この声お前の母ちゃんじゃね!?」

『ま……間違いねぇ!! てめぇ母ちゃんになにしやがった!?』

 

 そう梶田という人物は先ほどとは打って変って焦りきった表情でヒビキにそう問う。

 するとヒビキは表情を渦さず冷静に流れるような口調でそう言った。

 

「オウム返しという言葉をご存知ですか。自分がやったことをやり返されること。すなわち僕もあなたと同じことをやったまでのことですよ」

 

 そう、梶田達がカグラの女を拉致し盾に取ったことのお返しに、ヒビキは梶田の母親を盾に取ったのだ。

 こうすることで状況はイーブンに持っていく。これがヒビキの狙いであった。

 

「くそっ! ふざけたことしやがって。全員ぶっ殺してやんぞこの野郎!!」

「どーぞどーぞ。無論僕が死んだら爆弾は爆発するように仕組んでありますが」

「ぐっ! い……今すぐ止めねぇと!!」

「と・め・な・い・と?」

 

 そう迫るような口調でヒビキが言うと。

 

『マフィー助けて!! 爆弾の線が一本外れたのよーーー!!』

「か、母ちゃん!!」

『三本外れたら、爆発するのよーーー!!』

 

 と、またもなぜか説明口調の梶田の母。

 あと二本で梶田の母はあぼんになってしまう。

 

「ちなみにですね~。なにも梶田くんの母親の情報だけではありません」

「へ?」

「例えばそこの君? 君には中学に通う妹がいますよね? 今僕の仲間に後をつけるように頼んでます。いつでも攫えるようにね」

「なに!?」

「そっちの君は、アルバイトで溜めた数十万で父親にプレゼントを買う予定ですよね? その溜めたへそくり、確かタンスの三段目のエロ本の隙間に隠してあ」

「わ、わーーーーーー!!」

「君は薄毛を気にしているよね、君は最近新しいバイクを、君は老人ホームにいるおばあちゃんが、君はイシュリア市に彼女が、君は虚ろの夜でインバースと、君はアイドルのはぁとちゃんのコンサートに、君は……」

 

 そう、ヒビキはここにいる約五十人全ての大切な情報、知られたくない情報、それら全てを手の内に収めたのだ。

 ヒビキはけして梶田達に手を出そうとはしていない。梶田達が最も大切にしている物や身内を狙うのだ。

 それこそが、他人の弱みを引きだすための最も有効な手段のひとつなのだ。

 当然それらを調べつくされていると思い知らされた梶田達は、一斉にゲーセンから逃げ出した。

 結果、ヒビキは武力一つなく、傷一つ負わずにカグラ達を助けてしまったのである。

 

「まったく。はいこれで解決しました。カグラくんも君たちも全うな学生なら油売ってないで、授業に戻りましょう」

「……お前、何もんだよ。つか梶田とかいうやつの母ちゃん大丈夫なのか!?」

「あぁあれは梶田くんのお母様に頼んで演技してもらったものを録音しただけの話です。それを会話の順序良く流しただけの話ですよ」

「……お前、なんかこう裏社会の長にでもなりたいわけ?」

「え~? そんなわけないじゃないですか~。僕は争いごとの無い平和な学生生活をただ普通に送りたいだけですよぉ~」

 

 そう、カグラを見てニタリと笑うヒビキ。

 カグラはこの時改めて思った。こいつに逆らうのだけはやめようと。

 

 そして帰り道、ヒビキはカグラに説教しながら学校へ向かう。

 

「だから言ったじゃないですか~。いつか報復されますよって。そうなった時のために色々仕掛けを打っておかなきゃ危ないですよって」

「うん、後半の部分は初耳」

「……でも、それでもやめないんでしょう? こういうこと」

「……ふっ、わかってんじゃねぇか。まぁ今度は、女共を危ない目に合わせないようにやるさ」

「……」

 

 そんな会話の中で、ヒビキは思い出していた。

 

-----------------------

 

 ――1年前。

 それはまだ、さきほどのゲーセンが稼働していた時の話。

 

「ヒビキ~。おまえそれ飽きねぇの? そのKO……なんたらって格ゲー。お前いっつもそれやってるよな」

「だっておもしろいの格ゲーくらいしかないんだよ、暇なら相手してくれよ」

「やだよ、お前強すぎて勝てねぇんだもん」

 

 当時のヒビキは、学校をサボりこのロストタウンのゲーセンでゲームばかりしていた。

 当時彼を取り巻く連中は街で絡んではいけないと言われていたヤバい連中だった。

 おかげでゲーセンはほぼ連中の貸し切り、喧嘩を売れば倍返しにあうと近づく者もいない。

 そんなヤバい時代の中で、そいつは意気揚々とゲーセンに現れた。

 

「……おいてめぇ、人にぶつかっておいて謝りも無しか!? 金置いてけばかやろう!!」

「おいおい、ぶつかって来たのはそっちだろうがよ。つか金置いてったらよ、こいつらとゲームして遊べねぇだろ考えろバカが」

「んだこのデカブツ! 女ひきつれてかっこつけやがってよ!!」

 

 と、奥の方でなにやらドンパチが繰り広げられていた。

 普通なら女づれの男はここでボコボコにされる……はずだった。だが。

 

「ぐはっ!!」

「ったくよ、人のデート邪魔すんじゃねぇよチンピラ……」

「きゃーー!! カグラかっこいいーーー!!」

 

 と、様子が変だと思いヒビキが流し目で見やると、なんと仲間五~六人が一人の男、しかも女づれにぼこられていたのだ。

 だが、ヒビキはなんとも思わなかった。仲間の仇討なんてものをする気も起きなかった。

 それよりも、ゲームのラスボスの方が大切だった。

 

「おいヒビキ、あいつやべえってここから捌けようぜ!!」

「今ラスボスなんだよ、黙ってろよー」

「ああもうしらねぇ!! 逃げるぞ!!」

 

 そういって仲間はヒビキを残して逃げ去った。

 そんな状況でもヒビキは自分勝手だった。

 なぜならあんなのはただつるんでいるだけの仲間で、別に特別仲が良いというわけではなかったからだ。

 特段弱みを握られているわけでもない、縁を切られたって問題ない連中だったからだ。

 

「……よぉあんた、あいつらの仲間か?」

「別に。つか今ラスボス、話しかけないでくれません?」

「……なんで一緒に逃げないんだ?」

「……」

 

 正直、ヒビキはカグラをウザい兄ちゃん程度としか思っていなかった。

 そう、ヒビキはカグラが恐ろしくなかった。なぜならそこにいる男は喧嘩が強いのは確かだが、一方的に殴ってくるような奴ではないと確信していたからである。

 そんな彼に話しかけられても、ゲームが大切なのか無視し続けるヒビキ。

 ヒビキの無視に対し特に怒りを感じているわけではないが、何か思う所があったのか、向かいの筺体に50pd硬貨を投入し乱入。

 

「……このゲームやったことあるんですか?」

「ゲーセンなんて初めて来た。だが言葉で会話できねぇんなら、このゲームで会話するしかねぇってな」

 

 そういってカグラは、初めてやる格ゲーでヒビキに勝つつもりでいた。

 くだらない、とヒビキは舐めプレイを混ぜながら、無傷で10連勝。

 これで諦めるかと思えば、更に連コで20連勝。

 一回もまともに戦えていないのに、女共も呆れる中カグラはヒビキに勝負を挑む。

 

「カグラ。あたしらつまんないんだけどー」

「まてまてもう少しなんだ! ぜってぇかっこいいとこ見せてやるから、俺のために一生でも待っててくれよ……」

「も~うカグラ負けてもかっこいい~!!」

「……」

 

 気がつけば50連戦。

 どれだけ負けてもカグラはヒビキに挑み続ける。

 それに対し、等々ヒビキは心折れたのか、程度良く負けてやった。

 

「……帰ろ」

「おいあんた! 今わざと負けただろ!!」

「いや、だってあんた勝つまで金に物を言わせてやるつもりじゃないですか。さすがにこっちが疲れてきますよ」

「そ、そうか。でも、結果あんたとまともに会話できたな」

「……?」

 

 そう、この時ヒビキは自覚した。

 このくだらない50連戦の中で、ヒビキは少しではあるが、心から楽しいと思える瞬間があった。

 自分への非ダメージが増えるごとに、今度はどんな手を繰り出してくるのかと、そう思う自分もいた。

 

「こんな市の小さいゲーセン仕切って毎日遊んでばかりで、楽しいかよ」

「……別に、毎日同じことの繰り返しです」

「だろう? 形だけの付き合いで自分の得意分野を自分だけで満喫して、世の中にゃ、もっと楽しいこといっぱいあんぜ?」

 

 その言葉を聞いて、ヒビキがカグラに問う。

 

「……楽しいこと?」

「一人でゲームはいつだってできる。でもあんたも俺も学生だ。つまり、今ある楽しい瞬間は今でしかできない。可愛い娘とのデートとかな」

「……」

「……今の毎日がつまらねぇならよ、お前……俺の右腕になれ」

「……右腕」

「ちょうど生徒会が足りねえだ。あんたうちの学校の生徒だろ? 俺一人じゃ正直荷が重いんだなこれが」

 

 そういってカグラは、ヒビキに手を差し伸べる。

 そんなことを言われたことなど初めてだったヒビキは、驚きの表情を浮かべ、カグラのその真っ直ぐな目をずっと見つめていた。

 そして、勝手にその手は動いていた。

 

「そしたら、お前の毎日も……楽しくなるぜ」

 

-----------------------

 

「……カグラ会長」

「ん、どした?」

「もうそろそろ体育祭の時期なので、また明日から……忙しくなりますよ」

「……俺、今日拉致られた女共を慰めてやらねぇと」

「カグラ会長?」

「あぁもうわかったよ!! 明日はちゃんと放課後生徒会室に行くから!!」

 

 こうして、カグラ会長とヒビキ副会長の大変で大切な一日は、また一つ過ぎ去って行くのだった。




ナオトの話はBE全部読んだら書きます。
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