3年B組ハーデス先生~ブレイブルー学園パロ~   作:トッシー00

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第八話です。


第8話:バイト戦士、バレット

「いらっしゃいませご主人様~!」

 

 ある休日ラグナは、ハクメン先生と共にオープンしたばかりのメイド喫茶へとやってきた。

 このメイド・イン・カグツチは最近オープンしたばかり、そしてそのチラシにはオープン記念の全メニュー30%OFFの文字がでかでかとメインを飾っていたのだ。

 当然ラグナはその30%OFFが無ければこんなところに来ない。ケチなラグナは安いうちに来ておこうという目論見でここに来ている。

 ちなみにハクメン先生が隣にいる理由は単に一人でメイド喫茶に行くのが恥ずかしいとかそういうことではない。

 全メニュー30%OFFという記事には続きがあり、二名様以上なおかつ『イケメン含む』と記載がされていたのだ。

 よってラグナはイケメンと響きが似ているハクメン先生を半場強引に巻き込み、見事に安い料金でメイド喫茶を満喫できることになったのだ。

 

「いやぁこう安いうちにこういう所に来ておかねぇといつ行けるかわかんねぇからな~」

「まったく、私の仮面まで外させよって……」

 

 迷惑がっているハクメンをよそ眼に満足気味なラグナ。

 しかし来てしまった以上はそれなりに充実するしかないだろう。

 メイド喫茶では普通のファミレスよりも無駄に高い料金を出さなければ食べ物はいただけないがその分可愛い女の子とイチャイチャできる特権がついている。

 お酒が含まれていないだけでシステム自体は夜の街の飲み屋に似ている。そんなノリないい歳をした二人であった。

 入って数分。すぐさま一人のメイドさんがメニュー票を持ってきた。

 

「ご主人様。メニューにございます」

「おぉ、サンキューな……って」

 

 ラグナはメニューを受け取るや否やそのメイドさんの面を拝むが、その顔に見覚えを感じた。

 灰色の突っぱねた髪の毛、褐色肌の少しばかり男勝りの容姿。

 胸のふくらみは申し分ない、スタイル抜群のその女。

 

「おめぇ、うちの学校の……」

「おや、見覚えのある顔だと思ったら。ラグナ先生とハクメン先生か」

 

 その生徒の名は"バレット"。ブレイブルー学園3年B組の生徒である。

 

「バレットか、ここでバイトをしているのか?」

「そうだハクメン先生。うちの家計は厳しくてな。自分の学費は自分で稼ぐしかない。すなわち私にとってバイトとは戦場。戦いというわけだ」

 

 家庭の事情でバイト生活を勤しむバレット。

 彼女は幼いころから家庭が貧乏であり、物ごころついたころから自らも出来る範囲の事で働きに出ていたという。

 そして高校生になった今もなお彼女は学業とバイトを両立しており。彼女にとってはそれが当たり前の日常となっている。

 厳しい環境で育った彼女からすれば毎日が戦いであり全てが戦場。そんな彼女は今メイド喫茶でバイトをしていた。

 

「このバイトも終わってからも数分後には別のところでまたバイト。学業の事もあるから寝る暇もない」

「おいおい大丈夫かよ。学生があんまし無茶すんな」

「心配はしないでくれラグナ先生、私はいつまでも子供ではない。いつまでも戦いとは無関係の子供ではいられない、この年になればもはや立派な一兵士だ。働くも学業もそれらは戦い。立派な大人としてこれから、社会という厳しい戦場を生きなければならないのだ。抜き打ちテストや宿題というのはほんの小さな事柄だ。そんなので根はあげていられない」

 

 誇ることもなく、それが普通のように語るバレット。

 その言葉を聞いてラグナとハクメン先生は教師の立場として、素直に敬意を表する。

 こんな真面目な生徒がうちの学校にいたとは、この言葉を休みは家でだらけているノエルに百万回は聞かせたいとラグナは心底思う。

 

「そっか、がんばれよバレット。俺からはこんなことくらいしか言えねぇが……」

「その言葉だけで多大なる勇気を貰った。ありがとうラグナ先生」

 

 と、長話をするとバイト中のバレットに悪いので、ラグナとハクメン先生。

 とりあえずメイド喫茶と言えばオムライスということで二人ともオムライスを頼む。

 ジュース付きとはいえ普通に頼んでも二千円。割引とはいえ高いな……とラグナはちょっぴり後悔する。

 しかし頑張ってバイトをしている生徒の姿に励まされた分はプライスレスだ。ケチなラグナであるがなんだか今日という日は少し寛大な面持ちとなった。

 

「お待たせしましたご主人様」

 

 数分後、すっかりメイドになりきったバレットがオムライスを運んできた。

 

「量少ねぇな。まぁいいか」

「したらいただくか」

 

 ラグナとハクメン先生がオムライスを食べようとした時。

 

「あぁお客様。食べる前におまじないが」

 

 バレットはそう言って二人を引きとめる。

 あぁそういえばそんなのあったなぁ、とラグナはここがメイド喫茶であることを改めて認識した。

 めんどくさいとも思ったが、型物のバレットがおまじないをやると考えると少しだけにやっとする良い年をした教師二人。

 

「……では、この戦(いくさ)。是非とも我らに勝利を」

「なんかイメージと違くねぇか?」

 

 鎮まるようにバレットが合唱をする。その様を見てラグナは少しばかり首をかしげた。

 なんか違う雰囲気を始まったおまじない。一体何がはじまるというのか。

 バレットが合唱している両手を解き、右、次に左と天へと手を上げる。

 

「この戦に勝ち、昨日の戦で死んだメリッサの手向けとするんだ」

「戦ってなに? メリッサって誰?」

「我々傭兵には戦うことしか道はない。勝って生き残るぞ……必ずな」

「あんたメイドさんだろ? 傭兵ってただのバイトだろ?」

 

 何か自分の世界に入ってしまったバレット。

 ラグナはバレットの言葉ひとつひとつにツッコミを絶やさない。バレット自身も止まる気はない。

 

「そういえばこのオムライス。メリッサの大好物だったな」

「……」

「あいつ言っていたな。久しぶりに故郷に帰った時に食べるオムライス。あれ……食べた時に自分は生きてるって改めて生を噛みしめられるって……」

「……」

「でも先の戦場の流れ弾で故郷のおふくろさん、焼かれ死んでもう……その……オムライス……」

「う……うん……」

「最後までメリッサ。故郷の家族を思って戦場をかけて逝ったよ。もし今もおふくろさんが生きていたら、やつは必ず生還し、今頃故郷の家族と一緒に団らん囲んで、オムライスを食べていたんだろうな」

 

 ……。

 数分の沈黙が流れ、バレットは左目から必筋の雫が流れ落ちる。

 故郷の家族と一緒に食べるオムライス。それがメリッサにとっての生きがいだった。

 だからこそ、やつが死んだ今、仲間の自分たちができることは勝利を飾ることだけ。

 それを知っているのは生き残ってバレット達だけなのだ。その思いが、このオムライスにパワーを与える。

 

「……ご主人様、どうかこのオムライス……食べてやってください」

「食べれるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 一通りの流れののちにそんな重みがかったオムライスを食べられるわけがない。

 ラグナは溜まっていた色々をその一言でぶちまけた後、畳みかけるように言う。

 

「さっきのなんだよ!? メリッサお前に何があったぁぁぁ!! お前にとってのオムライスが深すぎてもう俺ら食べられねぇよ!! これに一口でも付けたらもう俺ら呪われそうで怖えぇよ!!」

「お客様、ここは店内ですのでお静かに……」

「いやお静かにじゃねぇよ! なに急に真面目な店員に戻ってんだよ!!」

「ぐすぅ……メリッサよ、辛かったんだなぁ……」

「ハクメン先生おめぇなんで泣いてるんだよぉぉぉ!! どう聞いたっておかしな部分多かったじゃん!!」

 

 荒れ狂うラグナ、それを諌めるバレット、泣き崩れるハクメンともう何が何だか分からなくなっているこの七番テーブル。

 おまじないは色々とおかしかったが、気にしたら負けだと思ったラグナはとりあえずオムライスを食べてさっさと帰ることに。

 ハクメン先生を泣きやませ、二人でオムライスを食べ始める。

 

「あ、ご主人様。ごいっしょに遊びませんか?」

 

 ご飯を食べている最中、またしてもバレットがやってきた。

 今度はあっちむいてホイをしようと言うのだ。これもまたメイド喫茶の定番である。

 

「あぁ、それも接客か?それともお約束か?しゃあねぇ一回だけな」

 

 仕方なくバレットと遊ぶことになったラグナ。

 こういうコミュニケーションもメイド喫茶の代名詞である。

 

「やるからには手加減しねぇぞぉ」

 

 たかがあっちむいてホイにも関わらず指をゴキゴキならし本気になるラグナ。

 小さなことでも負けず嫌いのプライド高きこの男は、準備を終え勝負体制へ。

 対するバレットも、なにやら眼光が鋭い。

 まるでそれはこれから戦場へと赴くかのような覚悟を決めたような表情。

 ラグナはそれを見て少々嫌な予感を感じた。

 

「……これは戦だ。負ければ死ぬ」

「あのよもう少し軽い気持ちでやらせてくんねぇかな?」

 

 なんかもうバレットからすれば小さな勝負ごとでも負けがDIEになってしまう勢いである。

 さすがのラグナもそこまで本気にはなっていない。ひょっとしてまた変な世界入ってしまったのか、ラグナは冷や汗をかく。

 お互いに最初の出す手は決まった。お互いに振りかぶる。

 

「最初はグー」

 

 ラグナは当たり前のようにグーを出した。のだが……。

 

「最初はパー」

「卑怯だーーーーー!!」

 

 バレットはなんと卑怯の代名詞、じゃんけんの最初にパーを出したのだ。

 これはさすがに反則だとラグナは抗議するが。

 

「戦場においてフェアプレーなど存在しない。油断や隙が一瞬として死に繋がり、相手との対等意識などあっという間に裏切られる。優しさや憐れみなどの気持ちは相手にとって利用されるだけにすぎない。それが時として仲間をも裏切り、死よりも深い罪悪感を抱きながら死んでいく、苦しみもだえたその者は……地獄へ逝った後にも後悔することだろう」

「おいなんかすっげぇ重苦しいんだけど!! やめてくれ! なんかすっげぇ殺伐としてきたんだけど!!」

 

 もはやあっちむいてホイどころの騒ぎでは無くなってきたこの勝負。

 抗議空しく勝負は継続。バレットは人差し指を出してラグナの顔へ向ける。

 

「あっちむいて……」

「ちくしょー、負けてたまるか!!」

 

 と、ラグナは右を向こうとした時だ。

 バレットはその人差し指を上へ向けると同時に、ラグナの顔面におもいっきりひざ蹴りを見舞う。

 

「ホーーーイ!!」

「ぎゃああああああああああああああああああ!!」

 

 当然もろにひざ蹴りを食らったラグナの顔面は上を向き、結果バレットの勝利。

 たかが遊びされど遊び、むりくり顔を上に向かせる戦法を取ったバレットにこそ手加減もくそも存在しなかった。

 もだえるラグナ。勝利を勝ち取ったバレットは腕を天へあげ勝利を報告する。

 

「我らが仲間たちよ。こうしてまた我らは生き残ったぞ!!」

「何すんだてめぇぇぇぇぇぇ!!」

 

 ラグナは当たり前のように激怒。

 バレットに突っかかるが、バレットは表情を一つ変えない。

 

「す、すまなかったラグナ先生。我らは傭兵、負けは死を意味するから」

「いや死なないからね!! そんな勝負してないし!!」

 

 と、ラグナは正論を言うがバレットは聞くたびに勝負がどうの戦場はどうのを連発する始末。

 小さいころから厳しく育ったバイト戦士のバレット。いたって真面目な彼女だが、その真面目さが時としてあだとなることもある。

 そう、彼女はどんなことでも、ましてやどんな小さなことであろうと。全てに対して"戦闘を基準に考える"という、飛び抜けた思考を持ってしまっているのだ。

 遊び、学業、仕事―――いかなることであろうとそこに競う、成果や結果が絡めばそれらはもう戦いである。

 そして戦いとは勝たねば意味を成さない。負ければ死あるのみ。

 それが当たり前のこととして頭に染みついているバレットには何を言っても通じないし、聞く耳を持たない。

 それを悟ったラグナは呆れ果て、そして同時に長居すると大変なことになると察してすぐさまメイド喫茶を去ることに。

 

「おい、ハクメン先生。早くここを出るぞ」

 

 ラグナはハクメン先生に一声かけるが。

 

「きゃ~ん! メンちゃんつおーい!!」

「よぉし次だ。あっちむいてゼェア!!」

「おいーーー!! なに他のメイドといちゃついてんだこのやろーーー!!」

 

 すっかりメイド喫茶の空気に浸かってしまったハクメン先生を引っ張り出し、今日のところは帰ることに。

 

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「それじゃあみんなでぇ!! そして輝くウロボロソウル!ヘイ!!」

 

 ある休日ラグナは、ハザマ先生と一緒に近くのカラオケボックスにやってきた。

 来た理由は、このカラオケ店が開店五周年の割引サービスをやっていたからである。

 当然ラグナは普段からカラオケに行くような人ではない、あくまで割引があるからである。

 ちなみにハザマ先生が隣にいる理由は単に一人でカラオケに行くのが恥ずかしいとかそういうことではない。

 割引という記事には続きがあり、二名様以上なおかつ『帽子を被った人含む』と記載がされていたのだ。

 よってラグナは普段から帽子を被っているハザマ先生を半場強引に巻き込み、見事に安い料金でカラオケを満喫できることになったのだ。

 

「しかし最近のカラオケはすげぇな。これがとらぶりゅーのドーロ全章入ってる最新型か」

「いや、ドーロ全章どころか三十万曲入ってますよラグナ先生」

 

 久しくカラオケなんて来ていなかったラグナは最新のカラオケに見とれるばかり。

 入ってまだ二十分弱。飲み放題の最初の飲み物が飲み終わり、次の飲み物を頼むことに。

 

「すいません俺コーラ、ハザマ先生は?」

「私、カルピスで」

「あいよ、カルピス。なんか食べ物頼むか?」

「じゃあゆで卵お願いします」

「いやあるわけねぇだろ……ってあんのかよ!!」

「五個ほどお願いします」

「いや多いなおい! まぁいいやとりあえずそれで……」

 

 こうしてコーラとカルピス、そしてゆで卵を五個ほど頼んだ二人。

 その間にも二人は知っている曲を歌いながら、そして進化した採点システムなんかも試しながら数分。

 

「しかしすげぇな。最近のはカメラなんかも撮影できんのか。そうやってネットにアップしてねぇ……」

 

 コンコン……。

 

「失礼します」

「あぁすいません、ここにおいてくだ……」

 

 店員が部屋に頼んだジュース等を運んでくる。

 と、そこでラグナは店員の顔を見て固まる。

 その店員は、先日メイド喫茶で働いていたバレットであった。

 

「おぉラグナ先生ではないか。それとハザマ先生」

「なんでおめぇここにいんだよ! てかメイド喫茶は!?」

「せいしゃいんが多く入ってきてクビになってしまった」

 

 どうやらメイド喫茶はクビになってしまったらしい。

 おそらくラグナがいない時もあんな奇天烈なことをばかりやっていたのだろう。

 スタイルと容姿が抜群なだけもったいないが、メイド喫茶側も迷惑この上なかったのだろう。

 

「そ、そうかよ……。まぁここなら店員と勝負をするようなこともないだろう」

「そうだな。レジ打ちのようなでじたるなことは少々手間取ったが、厨房での料理や物運びは、昔戦火の最中で自炊をし兵らに食事を配っていた経験が役に立った」

(おめぇの家族は昔なにやってたんだ!!)

 

 家庭が厳しいとは言っていたが、なんか話を聞く限りなんか色々触れてはいけないやばい過去が盛り込んでいるような気がしてならなかった。

 そりゃあ普通の人とはズレてるはずだ。と改めてラグナはバレットの天然に呆れる。

 

「おっとすまないお客様。こちらまずゆで卵と……」

「待ってました!!」

「ハザマ先生マジでこれ好きなんだな……」

 

 ハザマからすれば目的のものが運ばれてきて満足なのだろう。

 だがラグナからすればのどが渇いている。ラグナとハザマが頼んだのはコーラとカルピス……。

 

「ゆで卵と、"プロテイン"お二つですね。では失礼します」

「なんでだよおいぃぃぃぃぃぃ!!」

 

 失礼しますとバレットが部屋から出る前にラグナが全力でそれを引きとめる。

 

「どうしましたお客様。なにか不審な点でも」

「不審すぎんだろうが!! 誰がいつプロテインなんか頼んだ!?」

 

 そう、ラグナとハザマが頼んだのはコーラとカルピス。

 それがどう転んだかは知らないがプロテイン二つになっている。これはおかしいとラグナは抗議する。

 

「てかプロテインがどうしてカラオケのメニューにあんだよ!! あるわけねぇだろこんなの!!」

「えぇとラグナ先生、飲み放題のメニューの中にプロテインが……」

「あんのかよ!!」

 

 律儀にもハザマ先生がプロテインの文字を発見した。

 先ほどのゆで卵といい、変な物が揃っている奇妙なカラオケボックスである。

 

「いやあるとしても俺らこんなもん頼んでねぇぞ!!」

「と言われましても、これから戦場で絶唱されるのならば栄養価の高いプロテインで元気づけた方が」

「絶唱って俺らシン○ォギアじゃねぇんだよ!! 戦場に行く気もないし死ぬ気もない!!」

「でも……」

「でもじゃねぇよ!!」

 

 やっぱりカラオケでもバレットの天然は通常運転であった。

 ラグナは一つため息をつく。

 

「まぁまぁらぐなせんせぇ、メニューのまちがいなんてそんなきにせずにぃ」

「おめぇはただゆで卵食いたいだけだろうが!!」

 

 隣でハザマはゆで卵を呑気に頬張っていた。

 しかもラグナの分など残っておらず五個全てを頬張り、ハムスターのようになっている。

 

「とりあえず。これ頼んだのと違うから取り替えてくれよ」

「すいませんお客様、当店は全て飲み終わってからのグラス交換となっております」

「鬼かおめぇは! これ全部飲み干せってのか!!」

 

 結局ラグナはその後何も飲まずにからっからの状態で4時間カラオケにいた。

 ちなみにハザマは普通にプロテインを飲み干していた。それを見てやるせない気持ちになるラグナであった。

 

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「ようやく来れたぜ最終日、さてと大量に買って帰るぞ……」

 

 ある休日ラグナは、一人で街外れミスドへとやってきた。

 目的は数日間限定の半額セールである。数種類のドーナツが普段の半分の値段で買えてしまう日である。

 ラグナはそれを知ってから仕事でしばらく行くことができなかったが、最終日の本日ようやくミスドに来ることができた。

 甘いものが好きなラグナは今日という日に一生分のドーナツを食べよう。そう意気込んでいた。

 

「このミスドはあまり人が入らないからな、さすがに普段よりも人はいるがそれでも空いている。じっくりと選び放題だ」

 

 しめしめとラグナはドーナツを見漁る。

 そんなラグナを、一人の店員が声をかける。

 

「何かお探しでしょうかお客様」

「あぁ、エンゼルフレンチ探してるんすけどあと何分くらいで入りますか……」

 

 と、ラグナが顔をあげた瞬間だった。

 目に映ったのはあの大きな胸、そして褐色肌。

 これで何度目か、バレットがなんとミスドで働いていた。

 

「おやラグナ先生。先生も半額に釣られてやってきたのか」

「……てんめぇなんでここにいやがる」

 

 あまり声に出して言うことではないが、二度と顔を見たくなかったと心から思っていたラグナ。

 だがこうして再三、ラグナはバイト中のバレットに出くわしてしまったのだ。

 またバレットの天然に頭を悩まされるのか、ラグナの額から変な汗がにじみ出る。

 

「そんな身構えなくてもいいぞラグナ先生、私は敵ではない」

「ほらもう敵とかさ、戦場モード入ってんじゃん」

 

 知らぬ間に同士にされていることとかはどうでもよく、やはりバレットはミスドでも戦闘を基準に考えているようだ。

 早く選んで帰ろう。だがバレットは執拗に接客をしてくる。

 

「こちらのホールドファッション、チョコリングツイストにゴールデンチョコレート固め。はいエンゼルフレンチバスターも入りましたよ」

「おいなんか技名みたいになってんじゃねぇか、バスターとかツイストいらないから」

 

 エンゼルフレンチを大量に、あとは選んでいる時間は無い。

 と、最後のポン・デ・リングに手をかけようとしたその時である。

 

「ポンデリングって確かライオンをモチーフにしたドーナツでしたっけ先生」

「あぁ、そうだな。鬣のとことか似てんじゃねぇか」

「ライオン……。百十の王ライオンがこのミスドに潜んでいるというか……」

「あ、やべ」

「ライオンか。そういえば先の戦場でも、野生のライオンが我々を襲ってきたな。彼らは自然の味方だ。人間の生きようとする意思すら圧倒的な力でねじ伏せようとする」

「おいぃなんかもうドーナツとか関係なくなってきてっぞ!!」

 

 次第にまた変な世界へと入っていくバレット。

 と、次の瞬間バレットの目の前に狂暴化したポンデライオンが現れる。

 

「なんで!? てか見える!! なぜかしんねぇけど店内に狂暴なポンデライオンが!?」

「どうやら、私の戦場のイメージがやつを導いてしまったようだラグナ先生」

「なにそれ!? カマキリをイメージにとかそんなノリか!! っておいバレット!? おーい!!」

 

 バレットとライオン。両者が睨みあう。

 そこにはもうドーナツ半額も、おいしいドーナツもない。

 あるのは生か死のみ。生きるか死ぬか。これは戦いである。

 食うか食われるか。バレットは眼光を光らせる。そして唸りを上げる。

 

「アフターーーーバーーーーナーーーーー!!」

「ぎゃああああああああああああああ!!」

 

 こうして店をふっ飛ばすまで、バレットはライオンと格闘を繰り広げたという。

 その後もバレットは、バイト先を転々としながら今日も密かに頑張っている。

 だが何をやってもやっぱり戦闘を基準にするそうなので、うまくはいっていないらしい。

 

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