3年B組ハーデス先生~ブレイブルー学園パロ~ 作:トッシー00
今から数年前。
ラグナがまだブレイブルー学園の学生だった頃の話。
その時代、ブレイブルー学園には皆から恐れられている男がいた。
喧嘩では無敗。一度暴れれば敵味方見境なしに大けがを負わせ、学園の施設やら備品やらを破壊しまくりと、その男はとにかく問題児であった。
ブレイブルー学園番長、その名は『アズラエル』。
番長という肩書のほかに、破壊者、味方殺し、狂犬、殺戮者等、どれもこれも恐れ多い二つ名ばかりであった。
もう何回停学処分をくらっただろうか、その回数を覚えている職員は校長を含めても学園には存在しない。
そして生徒と喧嘩をするだけならまだしも止めに入った職員とまで喧嘩をする始末。
ハクメン先生と本気で喧嘩をした際に、学園施設の八割が消え去ったことは今でも語り継がれている。
そんな事件があっても尚、アズラエルは学校に現れては暴れまわっているという。
そんなある日のことであった。
「兄さーーーーーーーーん!!」
当時2年A組に属していたジン・キサラギ。
この時もまた、兄さんと大声で叫んではラグナの方へと向かっていくことが当たり前であった。
だが今日は様子が違った。なんと今日のジンは傷だらけだった。
「ジン!? おめぇその傷……なにがあった?」
「えーーーーーん!! 上級生にいじめられたんだよ兄さん!!」
「なんだって……」
いつも通りなら、向かってきた弟をあっさり追い返すラグナ。
だが傷だらけだったこと、そしてジンがいじめられたと聞いて憤慨するラグナ。
いつまでも甘えん坊でめんどくさい弟であるが、ラグナにとっては大切な唯一無二の弟である。
その弟がこんなにもやられて、いじめられたとなればラグナも黙っていられない。
「相手は誰だ!? 俺が一発ぶっ飛ばしてやる!!」
「だめだよ兄さん! 相手はあのアズラエル、ブレイブルー学園の番長だよ!!」
「あの筋肉だるまか、調子に乗りやがってあのクソ野郎……」
ラグナとアズラエルには少しばかり因縁があった。
それは先日、ラグナはアズラエルと学校の三階廊下ですれ違った際、少し肩と肩がぶつかった。
その際に睨みあいになり、そこから喧嘩に発展。結果、三階廊下が跡形もなく崩れ去るほどの被害が出てしまった。
だがラグナは今までのアズラエルの相手とは違い、無敗だったアズラエルと相討ちという形で喧嘩が終わったのである。
その結果にアズラエルはとても満足したようで、後日あらためてラグナとやりあうことを告げ、去っていったのだ。
だが無用な争いは避けるため、なるべくラグナはアズラエルを避けていたが、痺れを切らしたアズラエルは弟であるジンを餌にラグナを釣ることに決めたのである。
そのせいで関係のないジンに被害が及んでしまった。そのことへの罪悪感、そして弟を傷つけたラグナの怒りが、拳を堅く握らせる。
そして翌日。
「アズラエルーーーーーーーーーーーーー!!」
ラグナはアズラエルのいる隣のクラスへ。
その教室はひどい有様であった。壁にはスプレーで落書き、無残に積み重なった壊れた机と椅子。
その中央にどかんと座っているのがアズラエル。彼は学校から厳重監視下に置かれており、クラスメートが存在せず彼の教室には一人しかいない。
そのアズラエルは、叫び向かってくるラグナに対し満面の笑みを浮かべる。
「おぉ、来た来た。待ってたぜ死神」
「てめぇ、俺の弟に手を出したのは本当か?」
「本当だ……って言ったらどうする?」
「ぶっ……殺す!!」
答えを聞けばもう言葉はいらない。アズラエルの前に会話など無用。
口より先に手が飛ぶとはこのことだ。ラグナは果敢にも、学園最強と名高いアズラエルに向かっていく。
アズラエルもそれを待っていたというくらいに、ラグナに向かっていく。
「そうだ! 本気で来いラグナ!! こんなにも俺が本気で殺りあえる生徒はお前くらいだ!! もう我慢できん!! 本気で行くぜーーーーーーーーー!!」
お互いに一歩も引かず、その後三時間にわたり二人は本気で喧嘩を繰り広げた。
結果、二人のいた教室は跡かたもな消え去るくらい、二人の死闘は激しいものだった。
たくさん壁に穴をあけた。拳をぶち込んだ。最終的に校長のレイチェルとハクメン先生が駆け付け、力づくで止めに入り事態は幕を閉じた。
その日も二人は引き分け。いったいいつになったら決着がつくのだろうか。
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「これでアズラエルは何度学校で暴れまわったのかしらね」
「今までで八十六回、うち学園施設を破壊した回数は七十一回ですレイチェル校長」
レイチェルがそう聞くと、ヴァルケンハインはすらっと回数を答える。
そしてレイチェルのカップにお茶を注ぐ。
「ごくろうさま、ヴァルケンハイン」
そう言うとレイチェルはお茶を飲み、小さなため息を吐いた。
「かといって停学にしようとも、あの男には意味がないな」
「いい加減にしてもらいたいわよ、教室が壊れるたびに魔法で直してんのが誰だと思ってるのよ」
ハクメン先生とナインも、アズラエルには手を焼いていた。
施設が壊れるたびに直しているナインとトリニティ、そしてこき使われているハザマ。
「しかしラグナもラグナだ。あんなやつと喧嘩をし続けてたら身が持たんぞ」
「でも獣兵衛先生。今回は弟のジンくんが手を出されたんでしょ? そりゃあラグナくんも怒りますよ」
ハザマの言う通り、今回ラグナがキレた裏にはジンが絡んでいた。
それを聞くと、獣兵衛もラグナを責めきることはできずにいた。
「もうあんな問題児、この学校から追い出しましょうよ」
「ハザマ先生、この私がやつと本気でやりあった時の事を覚えているのか? そんなことをしてみろ、この学校が魔法で修復できなくなるまで跡形もなく消え去るぞ」
「ですねぇ……」
「それ言うならあんたがやればいいじゃないの。あんただって学生時代は不良の端くれだったじゃないの」
ナインはさりげなくハザマに悪態をつく。
ハザマはいまでこそ大人しい優男であるが、学生時代は悪の道を行く不良であった。
髪の毛も立たせており、元から悪い目つきで相手を睨みつけては、毎日のようにバイクを乗りまわし学校まで通っていた。
だが今のアズラエルは全盛期のハザマ以上に性質が悪く、ハザマ自身あまり彼とは関わらないようにしていた。
「ならば平和的に解決を……」
「それができないから困ってるんじゃないの。あんたは馬鹿なの? 大人しくなって逆にうざったくなったんじゃない?」
「あっはっは……いい加減その口を閉じろやこのクソ女!!」
「へぇ、あんたがこの私にそんな口をきいていいのかしら……?」
「二人ともやめろ。ここで我々が喧嘩してどうする」
ハザマとナインは学生時代からとてつもなく仲が悪い。
いつも通り喧嘩が始まる前に、獣兵衛が止めに入る。
悩む職員たち、そんな時一人の職員が手を上げた。
「あの、私がアズラエルさんと話をしてみますぅ」
手を上げたのはトリニティだった。
普段から温厚で優しいトリニティ。だが怒ると誰よりも怖いのは有名。
どんな悪い人でもいいところはあると言ってきかない彼女の優しさは魅力であるが、そんな彼女だからこそアズラエルと合わせるのは危険だった。
「ちょっとトリニティ!! だめよ! あんたが怪我でもしたら……」
「そうですよトリニティ先生! あなたのようなか弱い方があんな暴漢と……」
ナインとハザマは必死にトリニティを止めるが、トリニティは首を横に振る。
「でもこのままでは何も変わりません~。なるべく最善は尽くしますし、危なくなったら逃げます。だからその……私にやらせてください」
トリニティの信念とも言うべき言葉。
それを聞いて、レイチェル校長は目を閉じる。そして彼女の心意気を受け取り答える。
「……わかったわ。あなたにアズラエルを任せるわ」
「ありがとうございます校長~」
こうして、トリニティは後日、アズラエルと二者面談をすることになった。
ひ弱な彼女が、はたしてアズラエルと平和的に話をすることなどできるのだろうか。
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そしてその日がやってきた。
トリニティが修復されたアズラエルの教室へと入る。
するとアズラエルは、教師を目の前にしてもなお、余裕を見せている。
足を組んで椅子を傾け、悠々と中央に居座っていた。
「よぉ先生殿、なんでも今日は俺に説教をしてくれるそうじゃないか……」
「説教ではありません~。あなたと少しお話がしたくてやってきました~」
「話……ねぇ」
そう言うと、アズラエルはつまらなそうにトリニティを睨む。
「にしても教師共も考えることだ。こうやってひ弱そうな女教師を送り込めば、俺が手を出さないと考えている」
「……あなたの中に少しでも良心が残っていると、信じているからですよ」
トリニティがそう言うと、アズラエルは「ハッ……」と笑い机をばんと叩いた。
それにはトリニティも竦む。そしてアズラエルはトリニティの方へ顔を近づけた。
「良心ねぇ。そんなもんが俺に残っているとでも? 俺は例え相手が女子供でも、喰らう価値があると判断すれば喰らわせてもらうぜ。先生殿は……中々の匂いがするぜ」
「う……」
「……冗談冗談。そんなにびびっていて大丈夫なのか先生殿? これからこの狂犬、アズラエルに一言激をいれるんだろ? だったらもっと前向きになろうぜ」
アズラエルの圧倒的な余裕、そして態度にさっそくトリニティは涙目になる。
だが見栄を張ったからには、そして自分が一介の教師であるからには、問題のある生徒とは向き合わなければならないのである。
「その、先日あなたがラグナさんと喧嘩をしたことなんですけど~」
「あぁ、色々と迷惑をかけてすまねぇな先生殿。だけどな、俺にとってやつは貴重な存在なんだ。なんせ今までのやつらは口だけで、一発殴りとばしただけで逃げ出すゴミクズばかりだったからなぁ」
この学園の番長であるアズラエルは、今まで自分が満足をする喧嘩などしたことがなかった。
この学校で頭を張っているやつらは全員ぶっ潰した。他の学校に乗り込んでその学校で名のあるやつらも圧倒的にぶっ潰した。
自分に媚を売ってくるやつらも、知らぬ間にぶっ潰した。そのせいで付いたあだ名が味方殺しである。
つまらなかった。今まで自分を楽しませてくれる生徒はいなかった。だが最近、アズラエルにはその相手が見つかったのだ。
それがラグナだった。自分と同等の力を持つラグナに、アズラエルは初めて快感を味わったのである。
「言っておくがラグナと関わるなと言っても一切聞く耳を持たないからな。やつとは決着をつけたくてたまらねぇ、もううずうずしてんだよ」
「そ……その、もう少しこう、ラグナくんと仲良くしなきゃだめじゃないですか~。そういうのはよくないですよ~」
「ククク、面白いことを言う先生殿だ。先生殿よ、俺は別にラグナの事が嫌いじゃないぜ」
そしてアズラエルは、凶悪な笑みを浮かべ、高らかに宣言した。
「俺は、ラグナの事は好きだ」
「……?」
アズラエルがそう言うと、トリニティはポカンとした顔をする。
「なんて顔してるんだ先生殿、間抜けだぜ」
「いやその、意外だなと思いまして~」
「意外も何も、初めて俺を感じさせてくれる相手に出会ったんだ。愛してやまないに決まってるだろ」
アズラエルからすれば、ラグナは貴重な喧嘩相手だ。
なので彼からすれば喧嘩が彼と仲良くなる方法でもある。というかアズラエルにはそういう方法しかないのである。
そんなアズラエルの宣言に対して、トリニティが次に言った言葉は、割と予想外な一言だった。
「なるほど。それで……本気なんですか?」
「……なにが?」
「ラグナさんの事を、本気で好きなんですか?」
「……あぁ、本気だ」
それを聞くと、トリニティの顔が一瞬だけ、狡猾な笑顔に変わった。
「……なにがそんなにうれしいんだ先生殿?」
「いやいやその、そんなその……"萌える"じゃないですか~」
「ほぉ、"燃える"とは。先生殿は大晦日に格闘技を見る派なのか?」
なにやら、話の内容のベクトルが変わりつつあった。
お互いに意味合いの違う言葉を独自に解釈したまま、会話を続ける。
「んで、アズラエルくんはラグナさんをどう意識してるんですか~?」
そう質問をするトリニティの表情は、どうにも輝かしいものになってきた。
先ほどまでの恐怖が微塵も感じられない。むしろアズラエルに興味を持ったようで、ぐいぐい攻めていく。
アズラエルもそれが新鮮だったようで、思いのほかあっさりと彼女の質問に答えていった。
「まぁ何しろ(喧嘩で相討ちに終わった)初めての相手だからな、それなりに意識をしてるぞ」
「ひゃ……ひゃじめての……。そ、それはもう一気にイキたいって感じですか~!?」
「あぁ、今すぐにでも殺りたい(喧嘩的な意味で)な~」
「や……ヤりたい!?」
説明が不足すると、こうも別の意味で相手に伝わってしまうものである。
アズラエルは未だにトリニティの異変には気付いていない。当然、自分の言っている事におかしい部分などないと思っている。
一方でトリニティは独自の解釈で半場暴走気味になりつつあった。もはやトリニティというより、ユウキなアオイみたいになりつつあった。
「そうですか、これは新時代が来てしまうかもしれませんね~」
「……よくわからんが、ワン○ースの新世界みたいなものか?」
「いやね、今まで私の中ではハザラグが熱かったんですけど~。今回のでアズラグに目覚めてしまうかもしれません~」
「ほう、それはなんかの技なのか? 確かに俺はラグナと殺りあう際には容赦するつもりはない」
バカで暴れん坊でリミッターを課したアズラエルには、トリニティの言っている言葉が全て格闘技の用語に聞こえてしまっているらしい。
「しかし先生殿が我々の行為を許すというならば、お言葉に甘えるとしよう」
「いえいえ、私もできるだけ濃厚なやつを期待してますよ~」
「まさかこの学園に話のわかる教師がいるとは、実際に先日も、派手に(壁に)穴をあけてしまったわけだが……」
「穴を……開けたんですか!?」
アズラエルが壁を破壊した話をすると、トリニティが迫る表情で大きく反応した。
その反応が、アズラエルからすればトリニティが怒っているように見えたので。
「なんだ先生殿、まぁさすがに学園の施設を壊されればそりゃあ怒r」
「もっと激しくやってください!!」
「え!?」
アズラエルからすれば、トリニティがもっと学園施設を壊せと言っているように聞こえた。
だがトリニティは当然そんな意味では言っていない。全く別の意味で言ったわけである。
「先生殿、あんたずいぶんと変わってるな……」
「いえ全く。むしろこれが女子としての純粋たる性癖です!!」
「よくわからんが、今度はもっと激しくラグナと(喧嘩を)殺りあえばいいんだな?」
「はい!! 激しいプレイを希望します!!」
さすがのアズラエルも、本当にいいのかと心配になるほどにトリニティは粗ぶっていた。
座っていたはずのトリニティだが、所々四つん這いになってよだれを垂らしながらアズラエルを見る。
互いにそれぞれ独自の意味合いで発言をしているのだが。一向に両者とも互いの反応におかしいと思うそぶりすら見せない。
それはアズラエルが本気でバカなせいなのか、トリニティが異様なまでに天然なせいなのか。
バカと天然、二人の会話はさらにヒートアップする。
「そうか。先生殿がそう言ってくれると、俺も気楽にやつと殺りあえるというものだ」
「そこまで相手を思う気持ちがあるのですから、反発し合ってないでもっと大胆に、もっと密着するべきだと思います~」
「間近からの一発勝負というやつか。確かに初っ端からやつには一撃(パンチを)ぶち込んでやったからな~」
「……ぶち……込んだんですか?」
トリニティは突如として、ワナワナ震え恐ろしげにそうアズラエルに尋ねた。
「あぁ、ありゃあいい一撃だった。俺からすればまさしくクリーンヒットだった」
「キターーーーーーーーーーーーーーーー!!」
突如、トリニティがコロンビアのポーズで立ちあがった。
それを見たアズラエルは、何が起きたんだと驚きの目でトリニティを見る。
「ど……どうした先生殿」
「穴を開けた上に、ぶち込んだんですよね!? もう、もう駄目ですーーー!! 先生、エロければ何でもいいんだと思います~!!」
「お、お~い先生殿ーーーーーーーーーーーー!?」
突如トリニティは両手で真っ赤に染まった顔を隠して、逃げるように教室から立ち去ってしまった。
そして廊下を全力疾走で立ち去るや、すぐさま職員室へ。
ガラガラバシャン!!
「うお!?」
思いっきり扉が開く音がして、その場にいた職員が一斉に扉の方を見遣る。
そこにいたのは、顔を真っ赤にして、悶々と身体をくねらせていたトリニティだった。
「と、トリニティ先生!?」
すぐさまトリニティに声をかけたのはハザマだった。
だがそんなハザマを無視して、トリニティは真っ先に自分の机に向かう。
ハザマからすれば、アズラエルになにかされたのではないかと、心配そうにトリニティを見る。
「はぁ、はぁ。もうだめです。考えるだけで胸が苦しいです」
息も荒い。きっと何かされたに違いない。
ナインもハクメン先生も皆が心配している中。
ハザマが代表して、彼女の前に向かって行った。
「だ、大丈夫ですかトリニティ先生? お怪我とかはありませんk」
「古き者は消えされ!!」
「はいぃぃぃぃぃ!?」
トリニティから飛んできた一言は意外を通り越して圧巻のものであった。
古き者ってなんなのだろうか。意味がわからずハザマはぽかんとトリニティの前に立ちすくむ。
「時代はアズ×ラグなんです。もうハザは不必要です~。今のハザマは眼鏡のフレームのふち以下です」
「な、なんの話をしてるんですかトリニティ先生!? なんかものすごく傷ついたんですけど……」
「と、トリニティ。とりあえずコーヒーを飲んで落ち着いたら?」
様子のおかしいトリニティに、今度はナインがコーヒーを差し入れ。
だがそれは激甘党のナインが淹れたコーヒー。尋常じゃないくらい甘いはずなのだが。
「あはぁ。こんな時はものすごい苦いコーヒーが頭を刺激させます~」
「……角砂糖三十個くらい入れてあるんだけど」
今のトリニティの脳内は激甘コーヒーもブラックに感じるほどショートしていた。
そして、突如机をバンと叩いて、奥にいるレイチェル校長の元へ。
「校長!!」
「……なに?」
今のトリニティは明らかに様子がおかしかった。
ものすごく不気味な物を見るような目で、そしてそれはとても珍しく、レイチェルが引き気味で対応をしていた。
「アズラエルさんの好きにさせてあげてください!!」
「……なにがあったの?」
「いいですか校長!!」
「は……はい」
様子のおかしいトリニティに圧倒されたのか、あのレイチェルが押されていた。
トリニティの威圧感の飲まれるまま、レイチェルは彼女の言葉を聞く。
「アズラエルさんは本気なんです。本気でラグナと一発起こそうとしてるんです!!」
「そ、そうなるとまた被害が出るから止めようと……」
「でも彼の、彼の気持ちは本気なんです~!! アズラエルさんは、ラグナくんを愛しているんですよぉ~!!」
「……ナイン先生。私に角砂糖五十個くらい入れたコーヒーを淹れてちょうだい」
レイチェルは非常に頭を抱えながら言う。
そして超激甘コーヒーを飲んだあたりで、トリニティがアズラエルとの会話中にどこかこっか会話のベクトルがずれたことを察した。
思えばこの間、トリニティは中等部のツバキから"とある本"を受け取り、休憩時間に読み漁っていた。
静かに読んでいるだけならいいのだが、途中途中に「ホモォ!」やら「ユニバース!」やら「エクスカリバー!!」やら叫んでいてとても不愉快だった。
最後にレイチェルは、トリニティをアズラエルに会わせたことを激しく後悔した。
けしてアズラエルが彼女を言いくるめたわけではない。彼女が勝手に会話を自身の好きなように改変し、暴走してここまできたのである。
「……ハクメン先生、この間抜けに悪滅を一撃お見舞いしてあげてちょうだい」
「無理だな。トリニティがこうなると体力はテイガーの百倍はあると考えていい」
「……もういいわ」
こうしてレイチェルならびに、他の職員は全てを諦めた。
そして翌日。トリニティはセリカのいる保健室を貸切、アズラエルとラグナを呼びだした。
「どうぞこの保健室で好きなだけヤりあってください!!」
「おいおい先生殿、ここじゃ狭すぎて話にならないんだが……」
「てかなんでこんなことになってんだ?」
アズラエルとラグナは状況がさっぱり理解できなかった。
だがトリニティは早くやってくださいの一点張りで、他は一切聞く耳を持たなかった。
「……まぁいいや。これで邪魔者はいない。決着をつけようぜラグナ。悪いが……もう我慢できそうにない」
「あーーーーーーーーーーん!!」
「しゃあねぇなこの筋肉だるまが。弟のこともあるし、ぶっ殺されても文句言うんじゃねぇぞ!!」
「キターーーーーーーーーー!!」
そしてトリニティは二人のやり取りに赤面し、保健室を飛び出してしまった。
こうして保健室にはアズラエルとラグナだけが残った。二人は指をゴキゴキ鳴らし、互いの持てる力を存分に解放する。
「第666拘束機関解放、次元干渉虚数方陣展開! イデア機関接続!!」
「暴虐呪……Lv.2解除!!」
「ブレイブルー機動!!」
「俺を楽しませろ! 死神ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」
こうして、二人は激突し、学園は保健室から一斉に崩壊していった。
「学校が壊れるまで、アズラエルさんが穴を開いてぶち込んで……あふん!」
「トリニティ先生、あなたって人は……」
はたしてトリニティは何を想像していたのだろうか。ぶっ倒れるトリニティを傍でハザマは呆れ顔で見ていた。
トリニティの真実を知るのは、ごく僅かな人しかいない。
結局朝から晩まで二人は喧嘩し、気が付けば学園施設の六割は消え去っていた。
後に罰としてトリニティが一人で施設の復旧作業を行うことになったが、そのトリニティからは辛い表情など一切こぼれず、常にニヤニヤ笑顔で作業にあたっていたという。
「やっぱりもう、男同士の愛って最高ですね~」
痛くも腐りまくっている、トリニティなのであった。