12巻の後の二次創作   作:頼・頼

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Interlude…

 私には妹がいる。

 現在高校二年生で、思春期真っただ中の可愛い妹が。

 その妹…雪乃ちゃんは、昔からずっと私の後を追いかけてきた…

 

 ……そんなこと、私は望んでいないのに…

 

 

 昔から母は、家のことに関して厳格な人だった。

 何よりもまず体裁を気にして、私達娘の行動を制限し続けた。

 しかし、あまりにも行き過ぎたそれに不満を感じた私は、当時小学校三年生ながらも母と『契約』を交わしたのである。

  

 「私が雪乃ちゃんの分まで家のことをやるから、雪乃ちゃんは自由にさせてあげて」と。

 

 母は思いのほか快諾した。…今思えば、それもそうだろう。

 少なくとも一人は、絶対服従の奴隷を手に入れたわけなのだから…

 「家のためだから」と、母に言われてやってきたことは沢山あった。

 中には辛いことも、苦しいことも…

 でも、雪乃ちゃんは賢い。私がそんな感情を表に出していたら、きっと気づいちゃう…

 

 だから気づかれないように、私は常に笑顔でい続けた…仮面を着け続けた…

 

 勿論そんなことを知らない雪乃ちゃんは、姉である私の後を追い続けた。

 その度に突き放してきた私の気持ちを、一体どれくらいの人に理解してもらえるだろう?

 私だって、好きで突き放してきたわけじゃない…できることなら、雪乃ちゃんにもっと優しく接したかった…

 

 その結果、小学校で雪乃ちゃんは孤立した。

 

 それもそうだろう…最も身近な存在である姉が、自分にそっけない態度をとり続けているのだ。

 人間不信になるのも無理はない……私のせいだ…

 

 その時からだろう…もう戻れないと感じたのは。

 私は雪乃ちゃんへの贖罪の為にも、雪乃ちゃんを自由にさせる必要があった…仮面をつけ続ける必要があった…

 

 ……いつしか、私の本心が外に出る事はなくなっていった…

 私の感じる苦しみも、辛さも、悲しみも、後悔も、理解してくれる人はいなくなった…

 私自身、自分が本当はどんな表情をしているのか、わからなくなっていった…

 

 私を本当の意味で『理解』してくれる人なんて、もういない…そう思っていた…

 

 

 

 

 去年の6月までは…

 

 

 久々にららぽで見かけた雪乃ちゃんの顔は、今までとは全然違うそれをしていた。

 あの時一緒にいた男の子…比企谷君が、雪乃ちゃんを変えているのに違いない。

 

 勿論、比企谷君だけじゃなく、ガハマちゃん、静ちゃん、小町ちゃん…周りの人に恵まれているのもある。

 …でも、なんだかんだでやっぱり一番の変化の原因は、比企谷君だろう。

 

 雪乃ちゃんをあんな目に合わせた原因として私は、雪乃ちゃんが良い理解者を持てた事に、心底安心した。

 

 ………本当にそれだけ?

 

 ああ、そうだ。…私は理解者を持った雪乃ちゃんに、好意的な印象を持っているだけじゃない…もっと他に感じていることがある。

 『共依存に違和感がある』とか、『前の雪乃ちゃんの方が好き』とか、そんな複雑なことじゃない。…もっと簡単で、ドロドロしてて、気持ち悪い感情。これは……

 

 嫉妬だ。

 

 比企谷君が私の仮面を一目で見抜いたとき、驚いた。

 しかし、それと同時に、彼に期待を寄せ始めた私がそこにはいた。

 …彼なら私の気持ちを理解してくれるのではないか、私を救ってくれるのではないか…と。

 

 ……でも、「雪乃ちゃんを自由にしてあげたい」という気持ちは変わらなかった。

 そのためにも、比企谷君には雪乃ちゃんを見ていてほしかった…そう、仕向けさせ続けた…

 

 雪乃ちゃんの為に泥を被るのは慣れていたはずだ…慣れていたはずなのに…

 比企谷君に『ちょっかい』を…『ちょっかい』と言うには度が過ぎたそれをし続けるのは、心が痛かった…

 

 でも、これでいいんだと…これが私の望んでいたことなんだと…そう自分に言い聞かせた。

 

 

 しかし、2月15日……全てが変わった…

 

 雪乃ちゃんが実家に帰ったその日の夜。

 私は、母からのメールを読んだ。

 相変わらずの短い文章のメール…雑談など無く、要点しか書いてこない。何の面白みもない。

 しかし、そのメールの中身は、質の悪い冗談だと思いたいような内容だった…

 

 「私は、お父さんの仕事を…雪ノ下家を継ぎたい」

 実家に帰ってきた雪乃ちゃんは、夕食の席でハッキリとそう言ったらしい…

 

 信じたくなかった…考えたくなかった…

 雪乃ちゃんの為だと思ってやっていたことが、無意味だったなんて…

 それどころか私は、雪乃ちゃんの邪魔をし続けていたのではないか…?

 いや、雪乃ちゃんだけじゃない…私は奉仕部にも……比企谷君にも迷惑をかけてきたんだ。

 

 救えない。結局、願望を押し付けていたのは私の方。

 救われない。結局残ったのは、周りへの迷惑と仮面だけ…

 

 誰にも理解されなかった苦しみを、今更ながらに味わう…

 その原因はすべて私にある。そんなことはわかっている。

 今更”それ”を求めるのは虫が良すぎることも、きっと”それ”は手に入らないということも。

 願うだけ無駄かもしれない。

 なにもかも、自分の中に押し込み続ける方がいいのかもしれない…

 

 ただ、それでも…  

           私は、『理解者』が欲しい

 

       ×   ×   ×

 

 雪乃ちゃんがなりたいもの、やりたいことが分かった以上、私はそれを応援する。

 もちろん、10年弱の努力が実を結ばなかったことは、未だにやりきれない気持ちのままだ。

 でも、どこかで折り合いをつけなければ先には進めない。大人にはなれない。

私が辿った道を進む以上、雪乃ちゃんもきっと沢山のものを失っていくことになるだろう。

 しかし、最初から選択肢を削るのと、後から取捨選択するのでは訳が違う。

 はたして、雪乃ちゃんは覚悟ができているのだろうか?……今までの他人との関係を捨ててしまう覚悟が。

     

     ×   ×   ×

 

 母を交えて行ったプロムの話し合いの後に気づいた。

 雪乃ちゃんは分かっている。比企谷君とガハマちゃんとの関係が失くなってしまうことを。

 でも、覚悟はできていない。まだ心のどこかで、比企谷君に頼ろうとしている。

 それじゃあ駄目だ。ここで甘えるのをやめなければ、いつまでも引き延ばしていくことになる…。

 回帰不能点で気づくのでは遅すぎるのだ。

 

 「……まだ『お兄ちゃん』するの?」

 雪乃ちゃんが本気でなりたいものがあるのなら、私は全力で応援しよう。……例え雪乃ちゃんから恨まれ続けても、最適な方法でフォローしよう。

 「は?何の話ですか?」

 少し怒気を孕んだ様子で、語気を荒げながら比企谷君はそう聞き返してくる。

 「雪乃ちゃんが自分でできるって言ってることに無闇に手を貸しちゃだめだよ。君は雪乃ちゃんのお兄ちゃんでも何でもないんだから」

 「そういうことじゃ、ないです」

 弱々しく、震えるような声で否定するのはガハマちゃん。

 その声とは裏腹に、その目はしっかりと私を睨んでいる。

 「……大事な人だから。助けたり、手伝うのは当たり前です」

 ああ、本当にこの子は優しいんだな…。君みたいな子が雪乃ちゃんの友達でよかったよ。

 ……でも、今必要なのは優しさじゃない。

 「大事に思うなら、相手の意思を尊重してあげるべきだと思うけどね」

 その言葉はガハマちゃんにだけでなく、以前の自分にも言えたことだ。改めて自分の罪を思い出し、苛立つ。

 ため息をつきながら、続けて言う。 

 「プロムが実現したら、母は雪乃ちゃんへの認識を多少改めるかもしれない。もちろん雪乃ちゃん自身の力でやれば、だけどね。……それに手を出す意味、わかってる?」

 尖った言葉は、比企谷君やガハマちゃんだけでなく、自分のことも刺し穿つ。

 意地の悪い聞き方だったと、自分でも思う。高校生の…肉親でもない以上、彼らは何も言えない。静ちゃんだって、答えることは難しいだろう。

 …誰も、雪乃ちゃんの人生に責を負うことはできない。

 誰も何も言えない様子を確認し、最後に改めて釘を刺すことにする。 

 「いくら相手のことを思っているからって、いつも手を貸すことが正しいとは限らないのよ。……君たちみたいな関係、なんていうかわかる?」

 「姉さん、やめて。……わかっているから」

 彼らの関係に決定打を入れようという瞬間、雪乃ちゃんはそれを遮るように口を挿んだ。

 しかし、その表情に焦りの影はなく、透き通った微笑みを私に向けている。

 雪乃ちゃんには十分通じたと確信し、私も口を閉ざす。

 暫く俯き、やがて彼女はそのままの姿勢で静かに言葉を紡ぐ。

 「私は、ちゃんと自分の力でできるって証明したいの。だから、……比企谷くん、あなたの力はもう借りないわ。勝手なお願いで申し訳ないけれど……。お願い。私にやらせて」

 そう言いながら、雪乃ちゃんは顔を上げた。その目は潤み、唇は戦慄いているように見える。

 震えた声で、言葉を続ける。

 「じゃないと、私、どんどんダメになる。……わかってるの、依存してること。あなたにも由比ヶ浜さんにも、誰かに頼らないなんて言いながらいつも押し付けてきたの」

 雪乃ちゃんがこう言っている以上、誰も雪乃ちゃんを助けることはできない。

 気づけば、ガハマちゃんといろはちゃんは気まずそうに目を逸らし、静ちゃんは瞑目していた。

 「それは、違う……、全然違うだろ」

 しかし、比企谷君だけは違った。彼だけは雪乃ちゃんの言葉を否定した。

 その否定が何を指しているのか、私には全く分からない。きっと、雪乃ちゃんの『理解者』の一人である、比企谷君にしか分からないのだろう。

 「違わないわ、結果はいつもそうだもの。もっとうまくやれると思ったのに、結局何も変われていない……。……だから、お願い。」

 互いに理解しているからこそ伝わる、言葉以上の何か。……本当に羨ましく感じる。

 気づけば私は、ただの傍観者となっていた。

 「ヒッキー……」

 ガハマちゃんが比企谷君の袖を引き、彼も少し落ち着いたようだ。

 小さく息を吐き、それと同じくらいの大きさでわかったわかった、と呟いた。

 それが聞こえたらしい雪乃ちゃんは、比企谷君に微笑みを浮かべながら頷きを返し、立ち上がる。

 「生徒会に戻って、今後の対応を検討します」

 静ちゃんに一礼し、雪乃ちゃんはいろはちゃんと応接室を後にする。

 その迷いのない足取りに、雪乃ちゃんはなりたいものに一歩近づけたのだと確信する。

 「比企谷、また改めて話をしよう。とりあえず今日は帰りなさい。由比ヶ浜と陽乃も、な」

 ふっと煙を吐きながら、疲れた様子で静ちゃんはそう告げる。

 「……そうします」

 同様の顔をしながら、比企谷君は帰る準備を始める。

 帰り際に最後にもう一度だけ比企谷君とガハマちゃんに釘を刺そうと、私も帰る準備を始める。

 しかし、冷めたコーヒーの処理をしている間に比企谷君は会釈をしながら応接室を出てしまった。

 結局二人とも捕まえるのは難しそうなので、ガハマちゃんに狙いを絞る。こういう時でもないと、2人だけで話す機会なんてないしね。

 「ガハマちゃん、一緒に帰らない?」

 「え?あ、うち、ママが迎えに来るんで!」

 本当にお母さんが迎えに来るのかは分からないが、そう言われちゃ無理に一緒に帰ることはできない。言いたい事だけ告げることにして、比企谷君を追いかけることにしよう。

 「ガハマちゃん、分かってるとは思うけど、雪乃ちゃんを助けようとなんてしちゃ…」

 「解ってます」

 言葉を遮るように、彼女はハッキリとそう言った。

 一瞬呆気にとられた私をよそに、ガハマちゃんは続けて言う。

 「……でも、ゆきのんが助けを求めた時は…その時は、私は絶対に助けます。多分ヒッキーも。黙って見とくなんて、絶対にしません。」

 そう言って一礼し、ガハマちゃんは応接室を出た。

 あの子は本当に雪乃ちゃんの事が大好きなんだね…。本当に『いい子』だと思う。

 そんな子に愛されている雪乃ちゃんを、私は誇りに思い……羨ましく思う。

 ガハマちゃんの意思の固さを悟り、次は比企谷君を追いかけることにする。

 

     ×   ×   ×

 

 校舎を出ると、気だるげに自転車を押す比企谷君の後ろ姿が見えた。

 全速力で走って、彼の肩に手を乗せる。

 「追いついたー。途中まで送ってってよ」

 一息つき、額の汗をぬぐうポーズを取りながら比企谷君にそう頼む。

 「駅まででいいですか」

 比企谷君の方も疲れているらしく、抵抗はなかった。

 彼の横に並んで歩き始め、事情を話す。

 「うん。……せっかくガハマちゃんと帰ろうと思ったんだけどさ。誘おうとしたらうまく逃げられちゃった。勘がいい子だね、ほんと」

 「大抵は逃げようとするのでは」

 「大半は逃がさないんだけどね」

 半笑いで皮肉を言ってくる比企谷君に、笑って答える。

 「本当にいい子だよ。全部わかってるんだもん。雪乃ちゃんの考えも、本音も、ぜーんぶ」

 だからこそ、彼女は雪乃ちゃんの理解者たりうるのだろう。

 「いや、いいのは勘だけじゃないか。顔も性格もスタイルもいい。……本当に『いい子』だね」

 先ほど感じたことを、そのまま言葉にする。

 「悪意のあるイントネーションに聞こえますね」

 気づかぬうちに嫉妬のニュアンスも入っていたのだろうか?これ以上、負の感情を見られないように取り繕う。

 「そう?それは聞く側の問題じゃない?捉え方が悪いのよ」

 「……一理ありますね」

 追い打ちをかけるように、言葉を紡ぐ。

 「そう!だから、比企谷君は悪い子 !いや、悪い子だと自分で思っている子、かな。自分がまちがってるってそう思ってるの……今みたいにね」

 取り繕うためだといっても、この発言には少なからず本心が入っている。

 比企谷君は自分のことを過小評価してしまう節がある。結果、彼は自分以外の何かに自分の存在意義を求めてしまう。……私と一緒だ。

 「そして、雪乃ちゃんは……」

 顔を上げるが、すぐに目を細める。今日の夕焼けは一段と目に刺さる…

 「……普通の子なのよね。可愛いものが好きで、猫が好きで、お化けと高いところが嫌いで、自分が何者なんてことに悩むような、……どこにでもいる普通の女の子。」

 そう。雪乃ちゃんは私とは違う。他者から理解されることができる、普通の女の子。

 理解しているのかしていないのか…何も言わない比企谷君に、抗議の意を込めてもう一度言う。

 「雪乃ちゃんは普通の女の子よ。……まぁ、ガハマちゃんもそうだけど」

 自転車のハンドルを挟んで顔を突き合わせるような状態が恥ずかしいのか、比企谷君は顔を逸らす。

 駅も近づいてきた。そろそろ本題に入るべきか…

 「……なのに、三人が揃っちゃうと、それぞれの役割を演じちゃうのよね」

 互いに理解しあってる三人の楽しそうな表情を思い出し、口調は少し弱くなってしまった。

 それに気づいたらしい比企谷君は、視線をもとに戻す。

 「さて、ここで問題です。三人のこの関係性を何と呼ぶでしょーか?」

 さっきまでの口調をごまかすように、少しふざけて聞く。

 しかし、逃げることは許さない。ハンドルと前かごとに腕を乗せ、移動ができないようにする。

 「……いい子悪い子普通の子、イモ欽トリオですか」

 「ぶー。不正解。君たち三人の関係って言ってるでしょ」

 ふざけたスタンスは崩さず、もう一度聞きなおす。

 比企谷君から目を逸らさず、答えをゆっくりと待つ。

 やがて、言いにくそうにしていた比企谷君は、意を決したように口を開く。

 「……………さ、三角関係、とか」

 一瞬、何言っているのか分からなかった。

 暫くして、比企谷君の言わんとしていることの意味が分かり、おかしくなる。

 「あっははは!そんな風に思ってるんだ!ぷっ、しかもそれ自分から言い出すって面白すぎない?あっはは!あーやばお腹痛い脇腹攣るやつだこれ、いたたたあはっ」

 素直に笑った。仮面とかそんなの関係なく、自分でそんなことを言う比企谷君が面白かった。やばい、笑いすぎて涙でてきた。

 「笑いすぎでしょ……」

 大声で笑い続けていると、流石に恥ずかしくなったのか、比企谷君は少しむっとなって抗議した。

 「あの、正解、なんなんですか」

 ようやく笑いが収まったところで、比企谷君はそう聞いてきた。

 「え?正解?あー。正解ね……正解はね……」

 ここだ。ここで彼らの関係に罅を入れる。これから、雪乃ちゃんが自分一人で動けるようにするために。……雪乃ちゃんが、自分のしたい事ができるように。

 目じりに浮いた涙を拭い、比企谷君を手招き、比企谷君が耳を貸すように口元にその手を当てる。

 そのジェスチャーの意味が通じたようで、比企谷君は身体を前に倒してきた。

 顔を近づけ、耳元で囁く。比企谷君の先に手で触れ、逃げることは許さない。

 「共依存っていうのよ」

 これでいい。何よりも本物に固執する比企谷君は、きっとこの関係に終止符を打つだろう。

 「ちゃんと言ったじゃない、信頼なんかじゃないって」

 互いに理解はしているが、信頼はしていない。……信頼が出来ていたら、最初から本物なんて望むはずがないのだ。

 「あの子に頼られるのって気持ちいいでしょ?」

 これは本心じゃない。あえて比企谷君が嫌がるようなことを言ってるだけだ。しかし、この一言は、比企谷君が今の関係を偽物だと決めつける大きな要因になるのは間違いない。

 ………相変わらず、性格が悪いと自分でも思う。でも、もう引き返せない。一度人に向けて口に出した言葉が返ってくることはないのだ。

 だからこそ、一度敵であり続けると決心したならば、最後までそうあり続ける必要がある…。決して理解されることは、無いとしても…。

 「だけど、その共依存も、もうおしまい。雪乃ちゃんは無事独り立ちして、ちょっと大人になるんだよ」

 さぁ、駅の近くにも着いた。話も終わりだ。

 言い逃げみたいな形になってしまうが、それでもいい。私の役目はもう終わったのだ。

 「ここでいいや。またね」

 手を振り、駅へと足を向ける。

 「あの……」

 後ろからの掠れた声に、足が止まる。 

 振り返り、無言で彼の言葉の続きを待つ。

 「あいつは……、何を諦めて、大人になるんですかね」

 その問いに、具体的な答えは返せない。

 私と雪乃ちゃんじゃ、素のキャパシティが違う。…最初から色々諦めてきた私と雪乃ちゃんじゃ、何もかもが違う。

 「……私と同じくらい、たくさんの何かだよ」

 色々考えた結果、口から出たのはそんな言葉だった。

 

     ×   ×   ×

 

 家路を辿りながら、ふと考える。

 私は何を諦めてきたのだろう。何に憧れてきたのだろう。私は何者なのだろう。

 答えが出ないものばかりで嫌になる。

 悪者を演じ続けてその先は何が残るの?

 こんな気持ちを一緒に背負ってくれる人はいつ見つかるの?そもそも、そんな人なんて存在するの?

 …そこまで考えて気付く。

 

 本当に依存を求めているのは……私だ。

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