アズールレッドアクレーンシズ   作:アンダマン

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出先で雨に降られてまったくホテルから出られないのでレパルスを愛でて気分を落ち着かせようとしたところ逆に溢れ出るレパルスへのリビドーを抑えきれず次話を書き上げてしまったので初投稿です
レパルスすき



レパルスみたいな幼馴染に毎朝起こしてもらいたいだけの人生だった

 早起きは三文の徳、という言葉がある。

 文字通り「早起きはいいことだよ」くらいの意味合いなのだが、何を隠そう、俺はこの言葉が苦手である。

 というより早起きが苦手だ。別にいつも夜遅くまで起きているということではなく、単純に朝の早い時間に起床することそのものが苦手だ。

 目を覚ましてから意識がはっきりしてくるまでに何十分もかかるのはザラだ。ベッドから上体を起こしたままぼうっとしていたら執務時間になっていて、秘書艦に官舎まで呼びに来られたこともある。

 目覚まし時計はいつだって最大音量だ。無意識のうちに手を伸ばして止めてしまう癖があるらしく、学生時代は何度も寝坊して教練に遅刻していたので、今では部屋の対角線上の本棚の上に設置している。

 気を抜くと二度寝してしまうので、毎朝が戦場だ。苛烈な拷問に耐えるがごとき強靭な精神力を維持できなければ、たちどころに睡魔の侵食を許してしまうのだから。

 

 大体なんだ三文って、今の貨幣価値に直すといくらなんだ。ただでさえ戦争の余波で経済が混乱している現在、貨幣レートは滅茶苦茶なのだ。激烈なインフレーションとそれを抑えるための統制経済で、大戦中の一時期など紙幣とそこらの紙切れの違いは冗談抜きに材質と模様だけだった。アズールレーンの結成と艦船少女たちの活躍でかなり経済は落ち着いてきたが、それでもインフレの影響は大きく、ぶっちゃけ三文程度の徳は365日毎朝積んだところで誤差だ。眠気覚ましのコーヒー代にもならない。

 つまり何が言いたいかというと、

 

 

 ――その程度の徳なら積まなくたっていいんじゃないか。

 ――早起きしたって二度寝したって、始業時間は変わらないじゃないか。

 ――あと10分だけ、あと10分だけ寝かせてくれても……

 

 

 目覚まし時計の耳障りな叫び声が、微睡みの淵にいる俺を脅かす。

 脳が覚醒を拒否している。もう少しだけ、この安穏の中で惰眠を貪っていたい。

 上下の間隔も曖昧なまま、本能に従って上掛けを引き寄せ、頭から布団に潜ろうとして、

 

「しっきっかあーーん!! 朝だぞ! おっきろ――――!!!」

 

 どこか聞き慣れた叫び声とともに、ぼすりと強い衝撃が体に加わった。

 柔らかくも筋肉と骨格の存在をしっかりと感じさせる重みを有した物体が、布団ごしにその感触を自己主張している。

 続いてぺしぺしと、両の頬をかわるがわる軽く叩かれる。呆れたような吐息が耳元で聞こえる。

 

「ほらほら起きてー。聞こえてるー? 朝だよ指揮官、あ・さ! 布団剥がしちゃうぞー、ほれほれー」

 

 ぐにぐにと頬を引っ張られる感触がして――ようやく意識が深層から浮上した。

 ゆっくりと目を開ける。官舎の自室、見慣れた天井――そして視界の脇、手を伸ばせば触れる距離に顔がある。

 大粒の瞳は薄い蒼色。明るい栗色の髪。すっと通った鼻梁につややかな唇。白と青を基調にした薄着。すべらかな白い肌――そして何よりも、その輝くような笑顔。

 一瞬、その姿に見とれ――そして我に返った。

 

「……おはよう、レパルス。今日も早いな」

「おはよう、指揮官。モーニングコールだよっ」

 

 そう言って、レナウン級巡洋戦艦二番艦――レパルスはにっこりと微笑んだ。

 俺の自室の、ベッドの上で、寝ている俺の上に乗っかって。

 

 

 

「モーニングコールは本当にありがたい。頼んだのは俺だし。しかしなレパルス、いつもながらあの起こし方はちょっとどうかと思う」

「えー、何で? いいじゃん別にー。いくら声かけても生返事ばっかりで起きないんだし、あれくらいがちょうどいいでしょー?」

 

 身支度を終えて私室を出る。着替えて髭を剃る間は外で待っていたレパルスが脇についてきたので、廊下を歩きつつここ数日の朝の展開について抱いていた問題意識を伝えたところ一蹴された。

 いやしかし、だって、ねえ?

 

「先週末あたりか? レパルスはいつも早起きだから、俺が朝いつまでも官舎から出てこなかったら呼びに来てほしい、とは言った。しかしだな、なぜ目覚まし時計と同じ時間に起こしに来るんだ」

「その方が確実じゃん。どうせ指揮官、無視して二度寝しちゃうんだし」

「…………部屋に入る必要はないはずだが。ドアを叩くとか大声で呼ぶとか」

「あんな大音量の目覚まし時計でも起きないんだから、私が呼んでも無理じゃない? 艤装付ければ警笛の音は出せるけど、周りに迷惑じゃん」

「………………何もベッドにダイブしてこなくともいいだろう。一応こっちは男なんだぞ」

「でも指揮官だよ? それにさ、この前起きないから布団を引き剥がしたら、その後すっごく不機嫌だったじゃん。毎朝布団を剥がされるのとどっちがいいのさ」

「……………………そもそもなぜ俺の部屋の鍵を持ってるんだ。機密資料入りの端末もあるから一応施錠しているんだが」

「え、ベルがくれたよ? 清掃用に預かってるってやつ。始業の時に返しに行ってるんだ~。ほらこれ」

「あいつか…………!」

 

 きらりと光る自室の鍵(明石謹製の特殊形状、高耐性特殊合金、工廠以外での複製は不可能な特注品)を揺らしてレパルスが悪戯っぽく微笑む。あの純白完璧メイド、こんなところで茶目っ気を発揮していたとは……!

 瀟洒で優雅で完璧な上に慣れてくるとなかなかユーモアに溢れていらっしゃるロイヤルメイドが手を回していたことが発覚したので、俺の抵抗の余地は一瞬で消失した。そもそも俺の寝起きの悪さに苦言を呈していたのも彼女である。曰く、あらゆる局面で指揮官様のお役に立つのがメイドの務めであり、その中には指揮官様の生活習慣の矯正も含まれているのは自明のことでございます、だとか。もうちょっと言い方ってものがあるのでは?

 

「ベルが言うにはさ、担当? きゃら? ってのがあるんだって。ベルは指揮官の部屋に直接行くようなことはメイドの身にはできませんーって。指揮官から呼びに来るように頼まれたって話をしたら、『そういったことは先手必勝です。いっそのこと目覚まし時計と同じ時間に行くべきですね』ってアドバイスしてくれてさ」

「くっ……! 色々反論したいが普段迷惑ばかりかけているから言い辛い……! というかあいつの入れ知恵か!!」

「あはは……まあその、私だって、指揮官の部屋にいきなり入るのは最初は恥ずかしかったっていうか…………」

「それなら別に断ってくれても……いやしかしベルファストのことだ、その辺りも見透かして――?」

 

 基本的に正しいことしかしない完璧メイドの影に微妙に怯えていると、ふと制服の袖を引かれた。

 引いたのは勿論レパルスだ。朝日の差し込む廊下で立ち止まった彼女は少しだけばつが悪そうな表情をして、白手袋を嵌めた長い指で頬をかいた。

 

「んー、ええとさ。私は指揮官を起こしに行ってて楽しいし、指揮官が頼ってくれて嬉しかったよ? でもさ、その、私ってばがさつで適当だから……迷惑、かけちゃってる?」

「……む。いや、そんなことはないぞ」

「そう……? その、なんていうかさ、勝手に鍵を開けて部屋に入るとか気安すぎたり、してない……?」

 

 快活なレパルスらしくない小声で、目を逸らしながら言うそのさまは、何とも不安げだ。

 意外な一面――といっても、彼女は明るく元気なようでいて意外と心配性でもある。この前の一件もあって分かってきたことだが、裏では結構思い悩むタイプらしいのだ。

 楽天家を自負する指揮官の身としては、もう少し簡単に考えてもいいのだと言いたいところだが――まあ、人にも艦にも色々あるものである。

 だからまあ、こういう時には、率直かつ素直に、である。

 

「レパルスが毎朝起こしに来てくれるようになってから、業務がスムーズになってとても助かっている。まあ色々と問題もあるが、これからもお願いできると嬉しい」

「……うん。なら、いいんだけど……」

「元はといえば俺の自己管理がなっていないせいだしな……本当に助かっているよ。ありがたい」 

 

 端的に言いたいことを伝える。ちなみに内容は、(少なくとも外見は)年下の少女に対して立場を盾にモーニングコールを強要する成人男性(軍属)である。いやあ憲兵がいなくて良かったな?

 だって仕方がないだろう、午前中の執務効率が段違いなのだ。これまではその日の担当秘書艦かベルファストが淹れてくれる濃いお茶を頼りに、定期的に襲ってくる眠気の波を振り払いながら仕事をしていた。これが他の職務なら軍属とはいえ9時ごろからの勤務だから、朝が弱かろうとそれほど問題はないはずなのだが――艦船少女たちの指揮官というのは案外激務なもので、早朝から観艦やら委託任務の報告やら夜間出撃の戦果確認やらで立て込んでいるのである。

 だからレパルスには割と本気で感謝している。いやまあ、一応部下である艦船少女に一緒のベッドにダイブされて朝起こされることに男として何も感じないと言ったら嘘になるが、それはそれ。おはようからおやすみまでこれ任務である指揮官業、雑念妄念は顔に出さずに心の奥底にしまい込むか、あるいはそっと記憶から消去するものである。

 というかむしろ、レパルスのような艦船少女にあのような起こし方をしてもらえるというのはそれだけである種のご褒美というか何というか、希望に満ちた何かなのでは? むしろ推奨していきたい、存分にやっていただきたい、俺の外聞が悪くならない範囲で。あと理性とか恥とか独立心とかが損なわれない範囲で。かなりダメな気がしてきたな。

 

 喪われていく(元から無かったともいう)独立した大人という尊厳に悲しみを覚えているこちらをよそに、レパルスは立ち直ったようだった。

 いつもの輝く夏の花のような笑顔が戻ってくる。

 

「なあんだ、よかったーっ! 心配して損しちゃったよー、あははは」

 

 ごめんね、さあ行こう! と手を引かれる。流石は艦船少女、しかも巡洋戦艦だけあって普段でもその力は人間より強い。彼女の細い指がこちらの手を優しく、しかし力強く握り、引っ張られるようにして小走りに官舎の長い廊下を進む。

 朝の陽射しは眩しく。会話の内に、眠気はいつの間にか四散していた。

 

 

 

 

 

「――それで、部下にわざわざ官舎まで起こしに来てもらう、贅沢者の指揮官というわけね? 随分と優雅な御身分じゃないかしら」

 

 執務室のソファに沈み込むようにして、書類を片手に気だるげにコーヒーを啜っていた艦船少女が、入室したこちらを見もせずに言う。

 銀髪を纏める紅のヘッドパーツと前髪の赤い一筋のメッシュが特徴的な、鉄血の艦船少女――プリンツ・オイゲン。

 本日の秘書艦である。

 

「……なあ、朝食も始業もまだなのに執務を開始しようというこの勤勉な指揮官に向かって、開口一番の台詞がそれなのか」

「勤勉は美徳ではあるけれど、私たちにとっては当然でもあるわ。これまでのあんたの行いを思い出してごらんなさい? この程度で済むのは誰のお蔭なのかしら。快速の巡洋戦艦に感謝することね」

「――よぉーし本日も頑張ってお仕事するかなァー!!!」

 

 執務机に向かうこちらを赤い瞳が半目で追撃する。悪かったな部下に部屋まで来てもらう情けない指揮官で! この流れさっきも自分でやったから!

 幸い、1つの物事に長く興味を持つことの少ない銀髪の重巡は、面倒臭げにふいと視線を逸らした。

 

「今日はまだそれほど報告は来ていないわ。ユニオンの記者……あの追っかけの方が委託の報告と写真を何枚か寄越してきたわね。それから明石が吹き飛ばした工廠設備の補修に業者が入るそうだから、そのための書類が回ってきてる。あとうちの姉から文句」

「今度は何だって? やっぱり長距離護衛任務でグローウォームと組ませたのがまずかったか」

「分かってるならやめた方がいいんじゃないかしら。――頭突きでどうのこうのとか言ってたわ。まな板だから衝撃が吸収できなくて可哀想ねって言ってあげたら、キレて帰っていったけど」

「プリンツこそ色々とやめたほうがいいんじゃないか」

 

 この姉妹は相性が悪過ぎである。これで姉妹仲は悪くないようだが、どうやって関係を修復しているのか謎だ。

 というか、執務室の扉の下の方に新しく小さな破壊痕があったのだが、さては姉の方が癇癪を起こしたな。後で説教せねばならん。

 

「あら、率直な感想よ? 私もあの駆逐艦の、何だったかしら……なんとかスマッシュは演習で一度喰らったもの。平気だったけど」

「うん、知ってた」

 

 プリンツ・オイゲンの特性は鉄壁の防御力である。その強力な盾で前衛艦隊を守り、逆撃までの時間を稼ぐのが彼女の戦闘スタイルだ。

 グローウォームのナンタラ頭突きは地味に強力な上にプリンツとは相性がいいのだが、流石にそれで倒れるほど彼女は弱くない。

 何よりも彼女はレパルスの同期――この泊地における艦隊最初の戦力強化で着任した、最古参の重巡洋艦である。

 幾多の危機をその守護神たる防御で切り抜けてきた彼女は、レパルスと並んで最も俺が信を置いている艦船少女だ。

 ――なぜだかレパルスに心を開いている様子がないのが、個人的に気がかりではあるのだが。

 

 べつだん仲が悪いというわけでもなく、一緒にいれば会話もするし、戦闘でも息は合っている。奇妙な距離感の2人のことを思いながら書類をより分けていると、プリンツが小さく溜め息をついた。

 

「…………そういえば、あの子は一緒ではないのね」

「あの子? ……ああ、レパルスのことか。彼女はベルファストのところに行ったよ。多分鍵を返しに行ったんじゃないか」

「そう。…………まったく」

 

 不満げに溜め息をつくプリンツ。悩まし気な仕草がなんとも蠱惑的だが、レパルスと何かあったのだろうか。

 そういえば、こちらの手を引いて楽し気に執務室に向かっていたレパルスは、途中で急に立ち止まったと思ったら何やら慌て出して、最後には赤面して「ベルのところに行ってきます! 指揮官はお仕事頑張ってねー!」と叫ぶなりどこかへ走っていってしまった。

 何かを思い出したような表情だったが、あれは――

 

「レパルスのやつ、官舎を出た辺りで何かいきなり様子がおかしくなったんだが、何か知らないか?」

「知らないわよ。――さては途中から忘れていたのね、意気地なし

 

 小声で呟くプリンツ。聞き取れないその言葉には、何か重要なものがあるのかもしれないが――まあ、独り言を詮索されるのは嫌なものだろうから、気にしないでおこう。

 さしあたっては目の前の書類を片付けて、それから朝食である。

 朝食は自分で何か軽いものを用意することもあるし、秘書艦が腕に覚えのある場合はお願いすることもある。ベルファストに任務がないときは、何も言わなくとも勝手に用意してくれている、たまに焦げていたり味付けがおかしかったりすることがあるが、おそらく不運で失敗が多くてちょっと金にがめつい姉の方の仕業なので何も言わないことにしている。

 ちなみにプリンツは料理はしないらしい。ただしコーヒーは美味いので機嫌がいいときにお願いしている。

 

 今日はクイーン・エリザベス率いる戦艦部隊が午後から前線に出る予定なので、ベルファストはその準備で出払っている。さてどうしようか。執務室の隣にある簡易キッチンで適当にひと品拵えて、と考えていると、プリンツが重い溜め息をついて立ち上がった。

 

「朝食のことを考えているなら、もう用意ができているわ。軽めだけど……しっかり食べておきなさいな」

 

 そう言って、面倒臭げな表情を隠しもせず、簡易キッチンからトレーを持ってくる。

 ポリッジとシリアル、ソーセージとベイクドビーンズとベーコンエッグ。マッシュルームとトマトのソテーに野菜サラダとトースト、デザートのフルーツ盛り合わせ……ロイヤル風の正式な朝食から何品か抜いて軽めにまとめたもののようだ。長時間執務室に缶詰めになることを想定して、料理が冷えることがないよう簡易キッチンにはヒーターが備えてある。そのため、トレーの上の食事からは薄く湯気が立ちのぼっていた。

 ……うん、見るからに美味しそうだ。

 

「ありがたい。ベルファストか? 任務のある日は大丈夫だと言ってあるのに」

「違うわよ。そういうところ、彼女はきっちりしてるのは知っているでしょう」

「え。じゃあ誰が…………ヴェスタルは講堂に居るはずだし、まさかプリンツ、君が」

「寝言は寝て言うべきよね指揮官。アイツの代わりに優しい私が起こしてあげましょうか? 鉄血流は痛いわよ」

「謹んで遠慮させていただく」

「はあ。……これ、私が言っていいものかしら。何か癪よね、大事なところだけこっちに押し付けて」

「お、おう……?」

 

 ぶつぶつと呟くプリンツ。微妙に目が据わっている彼女に微妙に引きながらも朝食の乗ったトレーを受け取る。

 執務に集中できるので、食事が用意されているのは実際ありがたい。しかし誰が――

 

「…………ああ、レパルスか」

 

 料理を見て納得した。彼女の料理は美味いのだ。とはいえ彼女の適性を考えて、秘書官業務に就けていなかったため、朝食を作ってもらう機会はあまりなかったのだが。

 ここ最近は艦隊の所属艦も増えてきたので、作ってもらうどころか一緒に食事をする機会もそうそうなかったりする。

 昔は陣中食をよく振る舞ってもらったなあ、と思い出してほっこりしていると、なぜだかプリンツが呆れたような表情でこちらを眺めていた。

 

「……何だ。食べたいのか」

「指揮官、あんたって時々救いようのない阿呆になるわね――なんでわかったの」

「いや、なんでと言われてもな……」

 

 結構簡単なことなんだが。単純に、

 

「ロイヤルで朝食のフルーツに南国の果物を使うやつ、アイツしかいないだろ」

 

 ライチ、メロン、マンゴーなどなど。カラフルな果物が綺麗に盛られた小皿がトレーの隅で輝いている。

 ロイヤルの少女たちなら、基本的に本国の果物を使うはずだ。

 一方、レパルスはこうした南国の食べ物を好んでいたし――これは私見だが、何より彼女には、夏の太陽の下で育ったものが似合うのである。

 

「レパルスのやつ、他の姉妹に比べて優雅さが足りない、とかなんとか言ってたけどさ。これはこれでありだと思うし、そもそも十分に優雅で気品に溢れてるよな、そう思わないか?」

「ここで私に同意を求めるのね……本人に直接言ってあげなさいな。きっと喜ぶわよ」

「いや勿論、朝食のお礼は言いに行くつもりだが」

「なら結構。今度は二人きりでお願いね」

 

 ゆるゆると億劫そうに手を振って、プリンツはソファに戻っていく。

 

「彼女、肝心なところで意気地がないというか、奥手というか。張り切って朝食を作った癖に、いざとなったら自分で振る舞うこともできないんだもの、初心すぎて笑ってしまうわね」

「真顔で言うことじゃないな、オイ」

「口の中が甘すぎて砂糖を吐きそうよ。……コーヒーを淹れ直さないとね、指揮官も飲む?」

「いただこう」

 

 ロイヤル風の朝食には、紅茶かコーヒーがつきものなのである。

 書類を机の引き出しに退避。いただきます、と手を合わせて、まずはベーコンエッグを一切れ。

 

「…………うん、美味い」

 

 

 

 その日の朝は、いつもより仕事がはかどった、ような気がした。

 できれば朝食も作ってほしいとお願いしたら、彼女は果たして何というだろうか。

 




レパルスを愛でるだけの話なのにレパルスが半分しか出てこないのおかしい……おかしくない? ぼくはおかしいとおもう
プリケツ・オイゲンさん自己主張が激しいし前半しか書かないつもりでいたらいつの間にか出てきてしれっと後半書く羽目になってましたね……

レパルスすき
プリンツもすき

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