思っていたより筆が進んだのとご要望もあったので投稿することにしました。
今回は遊騎視点と遊花視点を織り交ぜて進んでいきます。
デュエル描写はなしで、本編より少し未来のお話です。
それでは本編にGOGO‼︎
番外編1 ゴーストリックオアトリート
☆
「トリックオアトリート、だよ‼︎」
10月31日。
公園での清掃中、そんな声と共にいきなり目の前にマントを羽織り、カボチャを被って顔を隠した不審者が現れた。
それを見て、俺は躊躇わずに携帯端末を取り出し、電話をかける。
「もしもし、デュエルセキュリティですか?」
「にょわぁ〜‼︎通報は勘弁してくだせぇ‼︎わちきが悪うござんした‼︎」
「………だから突拍子もないことは止めろと言ってるだろうが」
必死に土下座をしているカボチャを被って顔を隠した不審者ーーー声と反応からして間違いなく美傘であろう人物に、俺は呆れた表情を浮かべる。
そんな俺に美傘は慌てた様子で口を開く。
「そんなことより通報は⁉︎私捕まっちゃう⁉︎」
「ばーか。今更この程度のお前の奇行なんざで通報なんかするか」
「で、でも、今電話して………」
酷く狼狽えている美傘に、俺は携帯端末を渡す。
そこに表示されているのはーーー
『現在、ケルンにて、注意報は発令されておりません』
「て、天気予報………よ、よかった〜」
へなへなと崩れ落ちる美傘に、俺はニヤリと笑って見せた。
「これに懲りたら少しは突拍子もないことは控えるんだな。ああ、そうだ。トリックオアトリート、だっけ?お前はお菓子とか持ってなさそうだから、これが悪戯な」
「うぅ〜完全にしてやられたよ〜遊騎さんを驚かせようと思ったのに〜」
そういって悔しそうな声を出す美傘の格好を改めて見返す。
マントを羽織り、カボチャを被ってるこの仮装は恐らくーーー
「ゴーストリックランタンか」
「うぅ〜仮装まで完璧に見破られてる………」
「弟子が使ってるモンスターぐらい覚えてて当然だろ」
ゴーストリックランタンは遊花も使っているファンシーな見た目をした幽霊・妖怪・怪物などをモチーフとしたゴーストリックというカテゴリーのモンスターだ。
ゴーストリックの名前の由来は
その姿は確かに今日という日の仮装には持ってこいだろう。
10月31日。
世間一般でハロウィンと呼ばれている日だ。
元々は古代ケルトかなんかの収穫祭だとか宗教的な行事とかのハズだが、現代では民間行事の一種となり、子供達がオバケの仮装なんかをしてお菓子を貰うものになっている。
勿論、このケルンでもハロウィンは行われており、街はハロウィンの色一色だ。
「はっ‼︎遊騎さん、私トリックオアトリートって言ったよ‼︎何もないなら悪戯させてーーー」
「ほら、これでいいか」
美傘の手の平に、ポケットからチョコレートを出して手渡す。
それを見て、美傘がわなわなと震えはじめる。
「な、なんでお菓子なんて持ってるの⁉︎」
「ハロウィンの飾り付けを見ていたらお前が来るような気がしてな。一応保険として用意しておいた。何する気だったか知らんが、それぐらいのお前の動きは読めるぞ」
「むぅ〜‼︎」
悔しそうに唸る美傘を見て、ほくそ笑む。
驚かせることが好きな美傘がハロウィンなんて大義名分を得て悪戯を出来る機会を逃すわけがない。
それぐらいの予想は当然できる。
「というか、いい加減その頭のカボチャを取れ。お前の奇行に慣れている俺だから笑い話で済んでいるが、他の奴からみたら完全に不審者だから本当に通報されても知らんぞ?」
「それは困る‼︎というわけで、遊騎さん、このカボチャ取って?さっきは仮装のためって言って、公園にいた吸血鬼の仮装みたいなのをしてた女の子につけて貰ったんだけど、自分じゃ外せなくて………」
「なんて傍迷惑なことをしてるんだよ………んじゃ、取るぞ?」
「おうともさ‼︎」
「………はぁ〜」
ため息を吐きながら美傘の頭に付いているカボチャを取る。
カボチャの中から現れたのは勿論美傘………なのだが、何故かドヤ顔をしており、頭には猫耳がついていた。
「どう?驚いた?驚いた?ゴーストリックランタンからゴーストリックの猫娘にシフトチェンジだよ‼︎」
「ベタすぎる、5点」
「にゃうぅ〜評価が辛辣だよ〜」
思わず真顔で評価を告げる俺に、美傘は半泣きになって再び崩れ落ちるのだった。
ーーーーーーー
「………はぁ〜なんか無駄に疲れたな」
仕事が終わり、少し寄り道をしながら、遊花達が待っているであろう栗原家に帰っていく。
結局あの後、美傘はすぐ仕事があるからとテレビ局の方に向かっていった。
どうやら本当に俺に悪戯をしたいが為に公園に寄ったらしい。
相変わらず、アイツは何がしたいのかよく分からないな。
そんな取り留めもないことを考えている内に栗原家に着く。
………何だかもう帰ってくるのが当然みたいな感じになっている気がする。
おかしい、一時の仮宿のつもりだったのにいつからこうなってしまったのだろう?
だが、今でもケルンはプロリーグの真っ最中の為、空き家や空き部屋の類は存在しないだろう。
………それに、今更出て行くとなると本気で遊花に泣かれる気がする。
それは流石に心苦しいので遠慮したい。
「毒されてるのかな、俺」
苦笑しながら栗原家の玄関を開ける。
家の中に入るとリビングの方から遊花達の話し声が聞こえてきた。
『さ、桜ちゃん、流石にこの格好は恥ずかしいんだけど………』
『ん〜似合ってはいるんだけど、遊花の性格的に少し難しいか』
『うぅ〜それって褒めてるの?似合ってるって言われてもあんまり嬉しくないよ………』
『遊花は普段から大人し過ぎるのよ。だからたまには大胆な格好をしてみるのもいいんじゃない?』
『桜ちゃんは自分が着てないからそんなこと言えるんだよ………スカート短いし………なんか透けてるし………あぅ』
リビングの方から遊花の恥ずかしそうな声が聞こえてくる。
一体リビングで何をしてるんだ?
不思議に思いながら、玄関を上がってリビングの扉を開ける。
「ただいま。何してるんーーー」
「やっぱりこんな派手なの、私には無理だよぅ………大体、見せパンを履くのが前提の衣装なんて、師匠の前じゃ着られな………い………」
リビングの中に入ると、黒いシルクハットを被り、ゴスロリ風の黒いドレスに身を包んだ遊花と目が合った。
シルクハットにはうさぎの髪飾りと羽根飾りがつけられ、黒のドレスは背中に白い羽根がついており、サイズが合っていないのか遊花の豊満な身体をぴっちりと浮き上がらせている。
薄紫のスカートは少し透けて水色の下着が見えており、普段の遊花からは考えられないぐらい全体的に派手な衣装に、思わず目を疑ってしまう。
そして遊花のこの格好、どこかで見覚えがある。
確か、遊花が使っているモンスターの1体の………
「………ゴーストリックの駄天使?」
「っ〜〜〜‼︎」
「あっ、悪い‼︎」
俺が思わず呟くと、遊花は顔を真っ赤にし、声にならない叫び声をあげながら身体を隠すようにしゃがみ込む。
俺も衝撃的な光景から我に返ると、遊花を見ないように後ろを向いてそのままリビングを出る。
『ふ、ふぇぇぇ〜‼︎見られた………師匠に見られた〜〜〜‼︎もぅやだぁ………おうちかえるぅ………』
『ちょっ、落ち着きなさいって‼︎というかアンタの家はここでしょうが‼︎』
ドタバタと物音が聞こえてくるリビングを背後に俺は深くため息を吐く。
「………間違いない、今日は厄日だ」
そんな俺の呟きは、リビングの喧騒に呑まれるのだった。
ーーーーーーー
★
「すまん‼︎遊花」
「い、いえいえ‼︎あまり気にしないでください………リビングで着替えていた私も悪いですし………でも、出来れば先程のことは忘れて欲しいです。その、大変お見苦しいものをお見せしてしまいましたので………あは、あはは」
「見苦しくは………いや、なんでもない。本当にすまなかった」
「いえ、私の方こそごめんなさいでした」
師匠に恥ずかしい仮装姿を見られてから数分後。
私は他の服に着替えて苦笑を浮かべながら、師匠とお互いに頭を下げあっていた。
私の言葉に師匠は何かを言おうとしたようだが、微妙な表情を浮かべながら口を噤むことにしたようだ。
私としても、その方がありがたい。
さっきの格好について言及されちゃうと、恥ずかしさで死んでしまいそうだから。
「全く、そんなんだからアンタは冤罪を受けたりするのよ。少しは注意しなさいよね」
「いや、本当に返す言葉もない………」
「師匠は悪くないですよ‼︎それに、桜ちゃん?元々は誰のせいだと思ってるの?嫌だって言ったのにあの衣装を私に着させたの、桜ちゃんだよね?」
「………さあ、覚えがないわね?」
私の言葉に桜ちゃんがサッと目を逸らす。
そんな桜ちゃんをジト目で見ていると、師匠が頭を掻きながら口を開く。
「そもそも、なんで遊花達は仮装なんてしてたんだ?あんな衣装、遊花達が持ってたとはとても思えないんだが………」
「それは、その、実は先程、リーネさんが訪ねて来まして………」
「リーネが?」
リーネさんの名前が出たことで師匠が不思議そうに首を傾げる。
「はい。何でも闇先パイにこの近くのショッピングモールで今日の夜に行われるハロウィンイベントのお仕事が急に入ってきたらしくて………」
「当日にって、本当に急な話だな………まあ、リーネのことだから考えも無しに受けたんだろうが………」
「あ、あはは………それで時間が惜しいので使えそうな衣装のいくつかを全て持ってきたらしく。その際に、せっかくのハロウィンなんだし、後日回収にくるから後学の為に闇先パイが着ないもの、着れないものは好きに使ってくれって言われまして………」
「せっかくだから着てみていた、と。だから、今の遊花達の格好もその衣装ってわけか」
遊騎さんが納得したような表情を浮かべながら、私達の姿を見る。
私も桜ちゃんも、今着ている服はリーネさんが持ってきたハロウィンで使う仮装用の衣装だ。
私の衣装は水色のドレスに水色のストローハットがセットになっているもので、ゴーストリックの人形の衣装らしい。
桜ちゃんの衣装は黒のとんがり帽子に黒のローブとドレスがセットになっている、ゴーストリックの魔女の衣装だ。
私達の衣装を見た師匠は呆れたようなジト目で桜ちゃんを見る。
「というか、お前は遊花にあんな衣装を進めておきながら自分は無難なものを選んでるのかよ」
「うぐっ‼︎そ、それはほら、私だとサイズが合わないし‼︎」
「ほぅ、ならサイズがあれば着るわけか?何なら今からお前に合うものをリーネに用意して貰うが………」
「ぐ、ぐぬぬぬぬ………わ、悪かったわよ。悪ふざけが過ぎだわ………ゴメンね、遊花」
「うん、もういいよ。だけど、恥ずかしかったから、次は止めてね?」
苦笑しながら、申し訳なさそうに顔を伏せる桜ちゃんを許す。
桜ちゃんだって悪気があったわけじゃないと思うし、師匠に見られたのはちょっと恥ずかしかったけど、謝ってくれるなら許してもいいよね?
「それで、なんかゴーストリックの衣装が多いみたいだが、結局闇は何を着ていったんだ?」
「えっと、確か肌寒いからってマフラーと着物がセットになっていたもので………確かゴーストリックの雪女だったかと………」
「………納得した。流石は『氷の女王』だな」
「やっぱりそう思うわよね」
「闇先パイのことを知っていると余計にそう思ってしまいますよね」
白い着物に身を包み、頭には雪の結晶をイメージしたカチューシャをつけ、マフラーを巻いて口元を隠し、急にお仕事が入ったことでいつも以上に無表情でお仕事に向かった闇先パイの姿を思い返し、私達は思わず顔を見合わせて頷き合う。
闇先パイのことを思い返し、なんとも言えない空気を払拭するように師匠は明るい声で手に持っていた袋を私達に見せる。
「ま、まあ、闇がいないのは予想外だったが、せっかくのハロウィンなんだから俺達は俺達で楽しむとしよう」
「師匠、その袋は?」
「ああ、帰り際にちょっと寄り道してな。せっかくのハロウィンなんだから、遊花達にお菓子でも買ってきてやろうと思ってさ」
「ちょ、ちょっと待ちなさい‼︎まさかその袋って、超人気洋菓子店の『
「ええっ⁉︎あの『魔導人形の小休止』⁉︎」
「ん、2人共知ってるのか?」
「あんな有名店知らないわけないでしょうが‼︎」
驚く私達を見て、師匠は首を傾げる。
『魔導人形の小休止』というのはケルンで1番人気の洋菓子店だ。
人気商品はチョコレートケーキの上にカスタードプディングが乗っている『プディンセス・ショコアラモード』。
それ以外にも様々な種類の洋菓子を取り扱っており、あまりの美味しさにケルンの外からも買いに来る人がいて全ての商品が連日完売になる程の超有名店なのだ。
そんなところのお菓子をなんで師匠が?
「まあ、知ってるなら話は早いか。『Trumpfkarte』にいた時に闇やリーネにせがまれてよく買いに行ってたからあそこのオーナーとは顔見知りでな。闇やリーネへの差し入れだっていって用意して貰ったんだ」
「そ、それを私達が食べるのは不味いんじゃ………」
「別に嘘はついてないぜ?闇には帰ってきたらやるつもりだし、リーネには今度持ってくつもりだからな。それにオーナーにも今闇達が教えている未来のプロ決闘者の為に少し多めに欲しいと頼んだら快く用意してくれたからな。気にする必要はない」
「き、気にする必要はないって………というか、お金‼︎お金はどうしたのよ⁉︎あのお店のお菓子結構高いのよ⁉︎」
「お前、元とはいえ世界ランキングに入ってたプロ決闘者の収入を舐めすぎだぞ。辞めてるとはいえ高級菓子を少し買ったぐらいで生活に困るわけあるか。そもそも、プロ決闘者辞めてからまともな仕事にほとんどつけてないのに2年間俺が生活自体に困っていなかったのがその証拠だろうが」
「あ………」
師匠の言葉に私は思わずハッとする。
そ、そういえば前に師匠は仕事を探してるのは働かないのは気分的に良くないからとか言ってた気がする。
それに、私の家に住まない場合はしばらくホテル暮らしをするとか言っていたけど、ケルンのホテルって結構高いところが多いし………
「だから、これぐらいでいちいち気にするな。特に遊花には住むところを用意して貰ってるんだし、デュエルのこと以外でもこれぐらいはさせてくれ。それでも気に病むなら、修行を頑張ってるご褒美だと思ってくれ」
「し、師匠………あ、ありがとうございます‼︎」
「ほ、本当にいいのね?後で駄目って言っても知らないわよ?」
「言わねえよそんなの。まあ気にせずに食べてくれ。なんか新作の『プティンセスール』とかいうお菓子の感想も頼まれたしな」
「はぅ‼︎そ、そんなものまであるんですか⁉︎」
「ははは、やっぱり女の子ってのはお菓子が好きなんだな」
驚く私を見て、微笑ましいものを見るような目で師匠が私を見る。
そういえば、前にもこんなことがあったような………
「………」
「ん、遊花?」
「ふぇ⁉︎あ、あーえっと、どんなのがあるんでしょう?師匠、開けて貰っていいですか?」
「………ああ、好きなものを選べよ」
私は頭に浮かんだもやもやを振り払うように師匠が買ってきてくれたお菓子に目をやる。
そんな私を、師匠が心配そうな目で見ていたことに、私は気づかなかった。
ーーーーーーー
☆
『それで、ちゃんと私の分のお菓子は残ってる?』
「残ってるから心配すんなって。それで、イベントの方はいつまでかかりそうなんだ?」
夕食が終わり、遊花達がリビングで買ってきたお菓子を食べている間に、俺は2階にあるベランダに移動して闇に連絡を取っていた。
闇が帰ってくるまでは栗原家の鍵を開けておく必要があるが、遊花達は明日もデュエルアカデミアがあるため、起きているなら俺が適任だ。
だからこそ、闇がいつ頃に帰ってくるのかを把握しておいた方が予定は立てやすい。
『ん、一応終了時刻は22時になってるから、後1時間ぐらい?そこから後片付けとかも含めるから23時ぐらいになりそう』
「そうか………遅くまでご苦労様だな。分かってるとは思うが、最近何かと物騒だから気をつけて帰ってこいよ?」
『ふふ、心配してくれてるの?』
「当たり前だろうが」
『むふー………嬉しい。でも、大丈夫。社長に車で送って貰うから。そうじゃないとお菓子が持って帰れない』
「そっちでもお菓子を貰ってるんじゃないか」
『どういう訳か会場を歩いてるとみんながお菓子を渡してくる』
「仮装した子供と間違えられてるんだろ」
『解せぬ』
闇の不服そうな声が端末越しに聞こえてきて、思わず苦笑してしまう。
本当に、いつまでたっても変わらないな、闇は。
『?遊騎、何かあった?』
おまけに、相変わらず勘も凄まじく鋭い。
直接顔を合わせていないってのにこれだもんな。
「まあ、何かあったかと聞かれればあったな」
さっき、新作のお菓子の話をした後に遊花が一瞬だけ見せた辛そうな表情。
そんな予兆は何処にもなく、あまりにも急な変化から考えられるのは多分遊花の過去に関連したことなんだろう。
あの一瞬で遊花が何を感じたのかは俺には分からない。
だけど………
「まあ、闇が気にする程のことじゃない。俺がなんとかするさ」
『………ん、そっか。なら安心』
端末越しに、闇の本当に安堵したような声が聞こえてくる。
そんな闇の全幅の信頼に思わず苦笑する。
だけど、やっぱり遊花のあんな表情はほっとけない。
こんなんだからお人好しなんて言われるんだろうな。
それでも、俺は遊花の師匠だから………
「それじゃあ切るぜ。イベント、頑張れよ」
『ん、遊騎も頑張って』
「おう」
そういって闇との通話を切る。
すると、誰かが登ってきたのか階段の方で足音が聞こえた。
階段の方に視線をやると、しばらくして2階に姿を現したのは遊花だった。
遊花はベランダに俺がいることが分かると、少し駆け足になりながら近付いてきた。
「闇先パイとのお電話、終わりましたか?」
「ああ、たった今な。帰ってくるのは23時ぐらいになるらしい。とりあえず闇が帰ってくるまでは俺が起きておくから、遊花達は安心して寝てくれ」
「ありがとうございます。今、桜ちゃんがお風呂に入っているので、桜ちゃんがお風呂から出たら私も入ってから寝ようと思います」
「そっか。んじゃ、今少し話しておくかな」
「はい?お話、ですか?」
遊花が不思議そうに首を傾げる。
そんな遊花の顔を曇らせるのは本位ではないが、俺は少し真剣な表情で口を開く。
「その、さっきさ。新作のお菓子の話をしてた時、一瞬辛そうな顔してただろ?」
「っ‼︎えっと、あの、それは………」
「いや、別に言いたくないならいいんだ。ただちょっと気になってさ。遊花が忘れてくれって言うなら忘れるから、気にしないでくれ」
そんな俺の言葉に遊花は少し逡巡してから、俯き気味の上目遣いで俺を見た。
「………それじゃあ、その、少しだけお話を聞いて貰ってもいいですか?」
「ああ、勿論だ」
「ありがとうございます、師匠」
遊花はそういうと、ベランダから外の風景を眺めながらぽつぽつと話はじめた。
「その、ですね。師匠が買ってきてくれたお菓子を見ていたら、私が小さかった頃に家族でしたハロウィンのことを思い出したんです」
「遊花が小さかった頃の?」
「はい。家の中でハロウィンの飾り付けをして、両親と私の3人しかいないささやかなハロウィンでしたけど、両親はたくさんのお菓子を私に買ってきてくれながら、『いたずらだよ』って、私をぎゅ~って抱きしめてくれたんです」
遊花はそっと目を閉じながら、両親との思い出を語る。
その声色は本当に懐かしむようで、それでいてどこか物寂しい。
「だから、師匠が買ってきてくれた沢山のお菓子を見て、その時のことを思い出しちゃいました。あはは、ダメですよね、私。いつまでも過去に囚われてばっかりで。前を向くって、決めたのに………」
そういって寂しそうに笑う遊花に、俺は努めて明るい声色で口を開いた。
「そういえば、遊花には言ってなかった」
「えっ?」
「トリックオアトリート。お菓子をくれなきゃ悪戯するぜ?」
「えっ?えっ?あの、その、リビングに行けばありますけど………」
「でも、今は無いんだよな?んじゃ、悪戯だ」
そういって困惑している遊花の頭に手を伸ばし、その頭を優しく撫でる。
状況が理解出来ず、戸惑っている遊花に俺は優しく話しかける。
「別にいいじゃないか。たまには立ち止まって過去を懐かしんだって。遊花は十分前を向けてるよ」
「えっ、あ、あの………」
「だからまぁ………たまには誰かに甘えろよ。流石に抱きしめてやるのは無理だが、これぐらいのことはしてやれるからさ。どうも俺の周りの人間は、1人で抱え込む奴が多いみたいだし」
「………それは師匠もじゃないですか?」
「………かもな」
遊花の言葉に思わず目を逸らす。
いや、まぁ、自覚はあるけどさ。
「でも………はい、ありがとうございます。それじゃあ、ちょっとだけ甘えさせて貰いますね………トリックオアトリート、です、師匠」
「さっき下で買ってきた奴をあげたじゃないか」
「あの時は、ほら、私は言ってなかったですから」
「欲張りな奴め………残念だけど、今は手持ちのお菓子はないな」
「そ、それじゃあ、悪戯、です」
遊花はそう言うと俺の後ろに回る。
すると背中に衝撃を感じ、何か柔らかな感触が伝わってきた。
「ゆ、遊花?」
「だ、抱きしめて貰うのが無理なら、私から抱き着くのならいいですよね?」
そういって、遊花は頰を少し赤く染め、緊張で声を震わせながらも、俺の背中に抱きつきながら悪戯が成功した子供のような笑顔を浮かべる。
「………恥ずかしいならやらなければいいものを」
「は、恥ずかしくなんてないです‼︎きょ、今日の私は悪戯っ子ですから。さあ師匠、これ以上他の悪戯をされなくなかったらもっとたくさんのお菓子を私にください‼︎………なんちゃって」
そういって、やっぱり照れたように笑う遊花を見ていると、何だか少しからかいたくなってくる。
「そっか。なら、仕方ないから闇の為に取っておいたお菓子は遊花にあげるとするか。遊花が悪戯をしてくるんだから仕方がないよな〜」
「ええっ⁉︎本当に頂けるんですか?い、いえ、大丈夫です‼︎闇先パイにちゃんとあげてください‼︎私はそんな………うぅ~、師匠が意地悪をします〜」
「ぷっ………な、慣れないことをやるからそうなるんだ」
俺がそんなことを言うと、途端にわたわたと慌てだし、ぷくっと頰を膨らませながら涙目になる遊花を見て、俺は必死に笑いを堪える。
そんな俺を見て、遊花は柔らかな表情を浮かべた。
「もう………でも、師匠、ありがとうございました。おかげで少し、スッキリしました」
「………そっか。ならよかった」
「はい。過去には戻れないですけど………思い出はちゃんとここにありますから。それに………今は両親の代わりに………師匠や闇先パイ、桜ちゃんが一緒にいてくれますから」
そういって、遊花は胸に手を置きながら曇りのない笑顔を見せる。
そんな遊花を見て、俺は咄嗟に今思いついたことを口に出す。
「ならさ、来年は皆でパーティーでもやろうぜ。リーネや美傘、不知火さんや九石とかを呼んで、皆で騒ごうぜ」
「‼︎はい‼︎来年が楽しみですね‼︎」
そういって、気が早いことに来年の話なんかをしながら、なんとなく夜空を見上げる。
夜空にはそんな俺達を見守るように、星達が輝いているのだった。
気を抜くとシリアスになりそうで困る………でも、なんとか明るく終われたかな?
それじゃあ今回はここまで。
ではでは〜