遊戯王Trumpfkarte   作:ブレイドJ

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今日で『遊戯王Trumpfkarte』も1周年‼︎
というわけで番外編です‼︎
何とか………何とか1話に抑えたぞ‼︎
今回は遊騎視点で進んでいきます。
番外編らしい少し不思議なお話です。
短いながらデュエル描写もありますよ。
それでは本編にGOGO‼︎



番外編・1周年記念 夢でも師弟でいられたら

 

 

 

朝、目が覚めると、俺は自分の家にいた。

 

居候している栗原家でも、『Natural』でもない。

 

木目の浮かんだ古い天井に、枕元には、デュエルディスクと自分のデッキを調整したのか散乱したカードがおいてある。

 

ここは、もう二度と帰れない俺の家だ。

 

父さんと母さん、俺の3人で暮らしていた家の、俺の部屋。

 

「……あぁ、夢だな、これ」

 

夢だと確信するのに、時間は必要なかった。

 

俺の家はもう存在していないのだから、俺がここにいるのならそれは夢の中でしかありえない。

 

「なんか懐かしいな」

 

身体を起こして少し伸びをする。

 

改めて自分の身体を見てみると、俺の身体は少し小さくなっていた。

 

記憶が確かなら、デュエルアカデミアの高等部2年ぐらいの時はこれぐらいの身長だった気がする。

 

その頃には既にこの家はなく、『Natural』に住んでいたハズなんだが………まあ、夢だしな。

 

ベッドを降りると、懐かしい木の感触が足の裏に伝わってくる。

 

耳を済ませると台所の方から包丁の音が聞こえてくる。

 

その音に自然とベッドから腰が浮き、俺は廊下を進んで台所へ向かう。

 

夢だと分かってはいる………夢であることは間違いない。

 

だが、夢の中だからこそ………両親に会えるかもしれない。

 

そんな思いで台所に行った俺は、そこに立つ後ろ姿に驚くことになった。

 

「あ、師匠‼︎おはようございます‼︎」

 

そこに立っていたのは、デュエルアカデミアの制服の上からエプロンをつけた遊花だった。

 

いつものように花が咲いたような嬉しそうな笑顔を浮かべ、いつものように料理をしている。

 

「どうしたんですか、師匠?何だか驚かれてるようですが………」

 

驚いてる俺を見て、遊花が不思議そうに首を傾げる。

 

いやいや、おかしいだろう。

 

なんでここに遊花がいるんだ?

 

俺が高等部2年ということは、遊花は中等部1年のハズだ。

 

だけど、今の遊花の姿は普段見ている遊花の姿とほとんど変わりがない。

 

「何、してるんだ?」

 

「ほぇ?朝ご飯を作ってるんですよ?」

 

いや、それは見れば分かるんだが、そうじゃなくて………

 

「何で遊花がここにいるんだ?」

 

「えっと………台所なら料理ができるから、ですかね?」

 

いや、そういうことでもないんだが………まあ、夢だし、あり得ないことが起こってもおかしくないか。

 

きっと、もう俺の中では朝食といえば遊花の作ったものって認識になってるんだろう。

 

「まあ、いいや。それで、あの2人は?」

 

遊花がここにいるということは、闇や桜もいるのだろうと思い、そんな質問をしたのだが………

 

「………あの2人、ですか?あの、どなたのことですか?」

 

「え?」

 

俺の質問に遊花が不思議そうに首を傾げる。

 

もしかして、闇や桜はいないのか?

 

いやいや、遊花は俺の家にいるのにあの2人はいないとかどんな設定なんだよ、この夢は?

 

「あ………もしかして、師匠のご両親のことですか?師匠のご両親は………」

 

そういって、遊花が難しそうな表情を浮かべて俯く。

 

もしかして、父さんと母さんは既に亡くなっている設定なのか?

 

まあ、俺も高等部2年だし、いなくてもおかしくはないーーー

 

「今頃ドイツの大会が終わったところですかね?」

 

「ドイツ⁉︎」

 

「はい。『武者修行のために世界中の大会に挑んでくる』って、世界旅行に行ってるんですよね。流石は師匠のご両親です」

 

「何その理由⁉︎そしてどういう意味の流石なんだ⁉︎」

 

なんか物凄く元気そうだった⁉︎

 

というかそれだけ元気なら夢でぐらい合わせて欲しいんだが………

 

なら、今遊花が俯いて難しい表情をしてたのは腕時計を見てドイツとの時差を計算してたからか。

 

聞きたいこととは違ったけど、夢の中でぐらい両親が元気でいることは喜ばしいことだよな?

 

「闇と桜は?」

 

「闇先パイと桜ちゃんですか?今日は一緒に登校する約束してましたっけ?」

 

一緒に登校する約束ってことは、桜と闇はこの家に住んでないのか………いやいやいや、ならなんで遊花だけこの家に住んでるんだよ?

 

………………もしかして、俺は無意識の内にそんな願望を持ってる、のか?

 

「ど、どうしたんですか、師匠?何だか顔色が良くないですよ?」

 

「い、いや、何でもない………それで、その、遊花は………」

 

「はい、何でしょうか?………もしかして、実は体調が悪かったりしますか?あの、体調が悪いなら、無理せずに私を頼ってくださいね。私、師匠のためならなんだってしますから」

 

こちらを心配そうな目で見ながら、真剣な表情でそんな言葉を口にする遊花。

 

………ヤバい、遊花の好感度が高すぎてちょっと死にたくなってきた。

 

なんて夢を見てるんだよ、俺は………

 

遊花の態度に言いようのない罪悪感を感じながらも、俺は何とか口を開く。

 

「いや、大丈夫だ。ところで、遊花の部屋はどこだ?」

 

「………ふぇ?」

 

「遊花の部屋だよ。うちは確かに空き部屋が多かったしな、どこだ?」

 

俺が元々住んでた家は結構空き部屋があったからな。

 

おそらく父さんがカードの整理をサボって手に入れたカードをそのまま突っ込んでいた倉庫みたいな部屋のどれかが遊花の部屋になってるんだろうが………

 

「え、えっと、あの、し、師匠?そ、それって………」

 

頰を真っ赤に染め、わたわたとした様子で自分の髪をいじりながら、ちらちらとこちらへ視線を向ける遊花。

 

な、なんだ?

 

普通にどの部屋に住んでるのかを聞いただけなのにどうしてそんな反応になるんだ?

 

「あのあの、今のは………その、いつかは一緒に住もうっていう…………プロポーズ、なの、でしょうか?」

 

「プロポーズ⁉︎」

 

「みゅぅぅ‼︎」

 

俺の声に、遊花がさらに真っ赤に染まった顔を隠すようにその場に蹲る。

 

いやいやいや、本当にどういう設定なんだ、この世界⁉︎

 

遊花がこの家に住んでいないなら、なんで今遊花が俺の家にいるんだよ⁉︎

 

「じゃ、じゃあ、遊花は今どこに住んでるんだよ?」

 

「お、お向かいです………」

 

「お向かい?」

 

「ほ、保育園の頃に師匠が引っ越してきた時からの付き合いで、私がお父さんから貰った大切なカードを近所の子供達に盗られたのを、師匠が勇敢に立ち向かって取り返してくれて、それで私の両親が師匠のことを気に入って、それから家族ぐるみのお付き合いになって………」

 

遊花は赤い顔のまま目をぐるぐると回しながら早口でそんなことを口にする。

 

ということは、この世界では俺と遊花は幼馴染なのか?

 

そして、うちの両親が突拍子もない理由で俺をおいて旅行に出掛けたから俺のために朝食を作りに来てくれたとか、そういう設定なのか?

 

うわっ、何そのベタな設定………今時逆に珍しいぐらいだぞ。

 

「それで、その………たった今、プロポーズを………」

 

「ちょっと待て‼︎だいぶ誤解だから‼︎」

 

現実じゃ一緒に住んでるから、いつもの感じで、どこの部屋なのかなって思っただけで………この言葉も改めて考えるとヤバイな⁉︎

 

いや、あまり深く考えたらダメだ、夢だし‼︎

 

「と、とりあえず朝食にしようぜ?遊花の飯は美味いからな」

 

「そ、そうですね‼︎ご飯にしましょう‼︎は、早くしないと遅刻しちゃいますもんね‼︎」

 

お互いに顔を赤くしながら朝食の準備をし、椅子に座って朝食を食べていく。

 

………朝食の味が分からなかったのは、きっと夢だからに違いなかった。

 

 

ーーーーーーー

 

 

「えへへ、今日は日差しが暖かいですね、師匠」

 

「あ、ああ、そうだな」

 

俺の左隣を柔らかな笑顔を浮かべて遊花が歩く。

 

どうやらこの世界では遊花は高等部1年で、俺の後輩に当たるらしい。

 

カードを盗んだ近所の子供達に勇敢に立ち向かっていった俺の姿に憧れて、師匠と呼ぶようになったんだとか。

 

そこらへんは、多分遊花と初めて出会ったあのことが元になってるんだろう。

 

それにしても、まさか遊花と一緒にデュエルアカデミアに登校する光景を見ることになろうとは………夢、おそるべし。

 

「そういえば師匠、昨日話されていた今日のデュエル学の宿題、ちゃんと終わらせましたか?」

 

「え?いや、うん、多分………」

 

「多分って………もう、ちゃんとしないとリーネ先生に怒られちゃいますよ?」

 

「あいつ先生なのかよ………」

 

スーツで教壇に立つリーネの姿が思い浮かび、思わず微妙な表情を浮かべてしまう。

 

いや、確かにリーネは俺よりも年上だし、教師のポジションにいてもおかしくはないが………あいつに教師ができるのか?

 

………ダメだ、やらかしている姿しか思い浮かばない。

 

教師なら不知火さんの方がよっぽど似合うだろうに。

 

「よっ、遊花、遊騎さん」

 

「ん、九石か」

 

「おはよう、大地君」

 

「おう、相変わらず仲がいいな、お二人さん。今日も夫婦揃って登校か?」

 

「もう、大地君ったら、そんなんじゃないよ」

 

「はは、わりぃわりぃ。んじゃ、俺日直だから、また教室でな‼︎」

 

「あ、うん。またね」

 

俺達の横を抜き去ってデュエルアカデミアに向けて走り去っていく九石の言葉に遊花が少し頰を赤らめながらも苦笑を浮かべる。

 

今日もって、いつもこんなからかいを受けてるのか、この世界の俺達は………

 

「………おはよう、遊騎、遊花」

 

「おはよ、遊花、遊騎」

 

「あ、おはようございます、闇先パイ、桜ちゃん」

 

少し頭を抱えたくなった俺の背後から聞き覚えのある声が聞こえてくる。

 

俺達が振り向くと、そこにはデュエルアカデミアの制服に身を包んだ闇と桜がいた。

 

………桜はともかく、闇は現実と同じ姿のハズなのに制服に違和感がないのは、なんだかなぁ?

 

「む、何だか失礼なことを考えられてる気がする」

 

「気のせいだ。おはよう、闇、桜」

 

「ん、おはよ」

 

「うっ………」

 

そういうと闇はささっと俺の右隣に移動し、ぴとっと寄り添ってくる。

 

うーん、こういうところもあまり変わってないな、闇は。

 

そして遊花、俺の隣に寄り添ってきた闇を見て悲しそうな表情を浮かべるのは止めてくれ、何だか罪悪感があるから。

 

「朝から両手に花とかいい御身分ね、遊騎」

 

「いや、これって俺が悪いのか?」

 

呆れたような表情でこちらを睨んでくる桜に俺は苦笑を浮かべる。

 

いや、多分俺も桜と同じ立場ならそう思うだろうけどさ。

 

「よう、待っとったで、遊騎‼︎」

 

「お前は………‼︎」

 

そんな何とも言えない空気をぶち壊すように、俺達の前方を仁王立ちして通せんぼするかのように立っている人物がいた。

 

この聞き覚えのあるエセ関西弁は………

 

「霧生 竜河⁉︎お前、生きていたのか⁉︎」

 

「えっ?」

 

俺の言葉に竜河が目を丸くする。

 

そんな竜河を見て、闇は一瞬楽しそうな笑みを浮かべると、すぐに表情を悲しげなものに変え、俺の肩を叩いて首を振る。

 

「ううん、よく見て、遊騎。霧生の身体、透けてる」

 

「嘘やろ⁉︎って、なんや、ちゃんとあるやないか。びっくりさせんといてぇな」

 

「………化けてでるなんて、霧生先輩、自分が死んだことにも気づいていないなんて………」

 

「そうだよな、あいつがこんな所にいるわけない。俺達の知ってる竜河は、もう………」

 

「えっ⁉︎ホンマなん⁉︎ワイ、ホンマに死んどるん⁉︎」

 

悲しげに目を伏せる(口元は楽しげに歪んでいるが)桜を見て、竜河が本当に慌てはじめる。

 

そんな竜河を見た後、俺は優しい笑みを浮かべながら首を振った。

 

「大丈夫だ、きっとこれからも竜河は俺達を見守ってくれるさ」

 

「ん、だから私達はいつも通りデュエルアカデミアに行こう」

 

「さようなら、霧生先輩。また来世で会いましょう」

 

「みんな………おう、またな」

 

そういって悲しげに目を伏せながら竜河の横を何事もなかったかのように通り抜ける。

 

そんな俺達を見て穏やかな笑みを浮かべて歩き出そうとした竜河は勢いよくこちらを振り返り、虚空に向けてツッコミをした。

 

「って、勝手に殺さんといてぇな‼︎ワイ、生きとるからな⁉︎」

 

「もう、竜河先輩が可愛そうですよ?」

 

呆れた表情でそんなことをいう遊花を見て俺達が肩をすくめる。

 

「ホンマ冗談キツイで、遊騎。親友やっちゅうのに………」

 

「俺と竜河が親友?………本当に?」

 

「えっと………多分」

 

「ん、多分」

 

「そうね、多分」

 

「ということらしいぞ、多分」

 

「どんだけ断定できへんの、ワイの存在⁉︎」

 

俺達の言葉に竜河が驚愕する。

 

いや、俺は純粋に驚いただけだけどな。

 

そうか、竜河と親友になるような世界もあるのか………

 

「疲れそうだなぁ」

 

「ホンマ酷いな⁉︎でも、そういうツッコミはそれはそれで美味しいで」

 

夢の中でも竜河はノリがいい馬鹿だった。

 

 

ーーーーーーー

 

 

「それでは師匠、また」

 

「あ、ああ。また後でな」

 

校舎に入り、遊花と桜は1年の教室に、俺と闇、竜河は2年の教室に向かっていく。

 

「いや〜相変わらず愛されとるなぁ、遊騎。あんな可愛い後輩ちゃんに慕われて」

 

「何故そこで愛………別にそんなんじゃねぇだろ?」

 

「朴念仁やなぁ、遊騎は。普通幼馴染とはいえ毎日弁当は作って貰えへんで?」

 

「ここでも遊花が弁当を作ってくれてたのか………そしてその分かってるからみたいな雰囲気で首を振るの止めろ。純粋にムカつく」

 

呆れた表情で首を振る竜河にイラッときながらも、俺達は自分のクラスの扉を開け、教室の中に入る。

 

すると、扉の近くでクラスメイトと話していた人物がこちらを見て、クラスメイトとの会話を打ち切ると近づいてきた。

 

………近づいてきたのはいいんだが………

 

「やあ、おはよう、遊騎」

 

「ああ、おはよう、夜。だけど、何でお前教室の中でもフードを被ってるんだよ?」

 

「ん?何かおかしいかい?いつものことだろう?」

 

「この状況がいつものことならそれはおかしいことだと思うんだけどな」

 

いつものように気さくに話しかけきた夜だが、何故かデュエルアカデミアの制服の上からパーカーを羽織り、フードを深く被っていた。

 

いやいやいや、確かに現実の夜もフードを外さないけど、デュエルアカデミアの中ですらそうなのかよ⁉︎

 

大丈夫か、このデュエルアカデミア?

 

実は荒れてるんじゃ………

 

「おはようさん、眼竜。相変わらずけったいな格好しとるなぁ」

 

「余計なお世話だよ、竜河。闇もおはよう」

 

「ん、おはよ、夜。今日は風紀委員の仕事はいいの?」

 

「それは君の隣に遊騎がいることから分からないかい?朝の見回りは別の人だよ」

 

「そっか」

 

「………ここでは俺、風紀委員なのか?」

 

「?寝ぼけてるのかい?遊騎とボクは風紀委員会のバディじゃないか」

 

「風紀委員がフード被った怪しい格好して率先して風紀を乱すの止めろよ………」

 

夜の呆れたような顔を見て頭が痛くなってくる。

 

これは普段やっている闇のカード探しが影響してるのか?

 

いや、それ以前にこんな怪しい格好をしてる夜に注意されても相手が納得できないだろうに………

 

「ん………そろそろ席に座ろう。担任の先生も来たみたい」

 

「先生?」

 

闇が教室の扉の方を向いてそう呟き、俺もつられるようにそちらを向く。

 

すると、教室の外からバタバタとした足音が近づいてきてーーー

 

「おっはよーございまーすでーすよー‼︎」

 

「チェンジで」

 

「いきなり担任の交代を告げられた⁉︎私、遊騎さんに何かしたかな⁉︎」

 

「いや、何かしたというか、しそうというか………とりあえず美傘が教師だけはない。絶対に、ない」

 

「まさかの全否定⁉︎しかも物凄く力強く言い切られた⁉︎」

 

いつもながらの頭の悪そうな挨拶をして入ってきたスーツ姿の美傘を見て条件反射でそう答えると、俺の辛辣な言葉に美傘が驚愕の表情を浮かべる。

 

というか、美傘は俺より年下のハズなのに何で教師役なんだよ⁉︎

 

本当に大丈夫か、このデュエルアカデミア⁉︎

 

リーネと美傘なんていう俺の知り合いの中でのアホの子2トップが教師とか人選間違いすぎじゃないか⁉︎

 

「遊騎、言い過ぎ………美傘は一応先生………余計なことばかりするけど………」

 

「そうやで、流石に言い過ぎや。これでも生徒の相談に乗ってくれる生徒思いの良い先生なんやで?その相談内容の半分は先生が引き起こした問題のせいやけど」

 

「闇さん⁉︎竜河さん⁉︎それフォローになってませんよ⁉︎私、物凄く問題があるみたいに言われてますよ⁉︎」

 

「私、嘘は苦手だから………」

 

「そう言われても………なぁ?」

 

「うぅ………あんまりだぁ」

 

闇と竜河のフォローにもなっていないフォローに美傘が涙目になって項垂れる。

 

というか、ここまで言われるってお前何をやらかしたんだよ?

 

「まあまあ、それぐらいにしておきなよ。美傘先生も私達のことを考えて頑張ってるんだし」

 

「うぅ〜ありがとう〜夜ちゃん〜やっぱり夜ちゃんは私の心のアミーゴだよ〜」

 

「いや、生徒だけどね、うん」

 

美傘に抱きつかれ苦笑を浮かべる夜。

 

というか美傘、お前本当に何したんだよ?

 

そんなことを思っていると、デュエルアカデミアに講義開始のチャイムが響き渡る。

 

何とも言えない不安を感じながら、夢の中のデュエルアカデミア生活は始まるのだった。

 

 

ーーーーーーー

 

 

「それではこれで午前中の講義は終わりです。しっかりお昼ご飯を食べて午後の講義も頑張ってくださいね」

 

「………やっと終わったか。夢の中とはいえ破茶滅茶が過ぎるだろ」

 

美傘の代わりにやってきていた先生が教室を出て行き、食堂に向かって行く生徒達を眺めながら俺は自分の机に突っ伏す。

 

夢の中だからか時間の進みがかなり早く感じられはしたのだが、それでもかなり無茶苦茶な講義だった。

 

講義としてはデュエルタクティクス基礎の講義で、初めは普通のデュエルの戦術の話だったのだが、途中でデュエルの魅せ方の話になったところで美傘が暴走をはじめ、明らかに過剰な演出を生徒達に見せようとして、教室の外から見ていた校長に講義中にも関わらず職員室に連行されて行くのを見たときは思わず頭を抱えてしまった。

 

連行された美傘の代わりの先生が入ってきて生徒達も動じてなかったところを見るとこれも日常茶飯事なのだろう。

 

「大丈夫、遊騎?」

 

「なんやえろう疲れとるな」

 

「闇と竜河か………お前達は何とも思わなかったのか?」

 

「講義のこと?別に、いつものことだから」

 

「なんや講義のことかいな。美傘先生が校長に連行されるなんていつものことやろ?」

 

「何その絶望的な事実。聞きたくなかったんだけど………」

 

こんな講義が毎日続いてるとか正気を疑いたくなるぞ。

 

「そないなことより、嫁さんが来とるで?」

 

「竜河、嫁じゃなくてお客さん。情報は正しく伝えるべき」

 

「お昼時やからってそない食い気味に否定せんでも………」

 

「は?嫁?お客さん?」

 

「し、失礼します‼︎師匠………じゃなかった、結束先パイはいらっしゃいますか?」

 

「いつものことなのに何を緊張してるのよ………」

 

不機嫌そうな闇に呆れたような表情を浮かべた竜河が教室の扉の方を指差し、その指の差している先を追うと少し緊張した様子でスクールバックを持っている遊花と呆れた表情を浮かべた桜がいた。

 

しばらく教室の中をきょろきょろと見回していた遊花は俺を見つけると、ぱあっと花が咲いたような笑顔を浮かべてこちらに駆け寄ってきた。

 

「師匠‼︎あのあの、よろしければ、お昼ご飯をご一緒してもよろしいですか?勿論、師匠の分のお弁当も作ってきていますので‼︎」

 

「………それ、断るって選択肢がなくないか?弁当は既にあるんだろう?」

 

「い、いえ、ダメなら私の晩御飯になるだけですから、気にしていただかなくても………」

 

「………そう言われて断るわけないだろ。というか、そうじゃなくても遊花の申し出を断ることなんてしないさ。俺なんかでよかったら、ありがたくいただくよ」

 

「‼︎………はい‼︎ではでは、失礼、します‼︎」

 

俺が承諾すると遊花は嬉しそうな笑顔を浮かべ、教室から出て行った生徒の椅子を借りてきて俺の机の正面に座り、俺の机に弁当箱を広げた。

 

そんな遊花の様子に苦笑していると、同じように近くの椅子を借りて桜が遊花の隣に座る。

 

「遊花に毎食作って貰うなんて本当にいい御身分ね、遊騎」

 

「そう言われると返す言葉がないんだが………」

 

「………まあ、いいけどね。遊花、私も遊花のお弁当少し貰ってもいい?」

 

「えっ?うん、師匠のじゃなくて、私のでよければだけど………」

 

「じゃあ交換しながら食べましょ。コイツだけ遊花のご飯が食べられるなんて許せないもの」

 

「もう、桜ちゃんったら………」

 

勝手に俺の机の上にお重を広げる桜を見て困ったような表情を浮かべる遊花。

 

この2人は夢の中でも仲が良いんだな。

 

まあ幼馴染だから仲が良いのも頷けるのだが………ん、待てよ?

 

この世界で俺と遊花が幼馴染ってことは、桜も俺の幼馴染ってことになるのか?

 

「?何よ、人のことをじろじろと見て?」

 

「いや、お前との関係について考えててな」

 

「………アンタ、大丈夫?熱でもあるんじゃないでしょうね?」

 

そういって桜が俺の額と自分の額に手を当てる。

 

いや、俺の言い方も悪かったとは思うが、そこまで言わなくてもいいだろ。

 

「………なんか桜に心配されるのも少し違和感があるな」

 

「せっかく人が心配してあげてるのに失礼な奴ね。昔みたいにぶん殴ってやろうかしら」

 

「桜ちゃん、初めて師匠と会った時、私が師匠とお話してただけなのにいきなり殴りかかったもんね。『遊花をいじめるな』って言って」

 

「し、仕方ないでしょ‼︎あの頃遊花にちょっかい出してた奴なんていじめっ子ばっかりだったんだから‼︎」

 

「………ああ、喧嘩友達的な奴だったか」

 

なんか凄く桜らしい理由で納得する。

 

初対面の俺に信用ならないからとデュエルを挑んできた桜なら遊花のためにそれぐらいやるだろうしな。

 

「あの頃は遊騎のこともよく知らなかったし………む、昔のことなんだから時効よ‼︎︎」

 

「別に、俺も気にしてるわけじゃないから気にすんな。それだけ桜が遊花のことを大切にしてるってことなんだしな」

 

「はい‼︎桜ちゃんはいつも私のことを大切にしてくれるんです‼︎」

 

「っ〜〜〜‼︎もう、あまり恥ずかしいこと言うんじゃないわよ、この天然師弟‼︎」

 

桜が恥ずかしそうに頬を赤らめながらそっぽを向く。

 

変な夢の中でも、こういうところは変わらないんだな。

 

「遊騎、私もここで食べていい?」

 

「ん?いいんじゃないか?な、遊花」

 

「あ、はい‼︎」

 

「なら、ワイも………」

 

「ただし、竜河。テメェはダメだ」

 

「酷ッ⁉︎なんか今日はワイだけ扱い雑いで⁉︎」

 

「冗談だ」

 

「遊騎が言うとあんま冗談に聞こえへんから勘弁してや」

 

そんなやり取りをしながら、闇達も近くの机を移動させて自身の昼飯を取り出す。

 

闇は少し小さめのお弁当箱に色合いのいいおかずが入ったもので、竜河はあきらかにコンビニで買ってきたであろうパンだった。

 

「闇は自分で作ってきたのか?」

 

「ん、自信作。はい、あーん」

 

「別に催促したわけじゃないんだが………ん、美味いな」

 

「っ‼︎」

 

「ふふん、当然」

 

闇が差し出してきたベーコン巻きを口に入れ、素直な感想を告げるとどこか嬉しそうに得意げな笑みを浮かべる。

 

この夢の世界でどうかは知らないが、闇も現実では一人暮らしをしてたし、プロ時代はたまに遊びに行ってたから家事が一通りできることは知ってるんだけどな。

 

「あ、あの‼︎師匠‼︎」

 

「ん?」

 

そんなことを考えていると、正面に座っていた遊花から声をかけられる。

 

遊花の方を向くと、遊花は何故か頰を赤らめ、少し緊張した様子で自分の弁当箱からハンバーグを箸で摘むとこちらに差し出してきた。

 

「あ、あ〜ん、です」

 

「えっと………遊花?」

 

「あ〜ん」

 

「いや………遊花?」

 

「………私のお弁当じゃ、ダメですか?」

 

「うぐっ」

 

ハンバーグを摘んだ箸をこちらに差し出したまま、遊花の瞳がみるみる不安の色に塗り潰されていく。

 

ああ、もう、分かった‼︎分かったからそんな泣きそうな表情をするな‼︎

 

えぇい、ままよ‼︎

 

差し出されたハンバーグを口にすると、遊花が期待に満ちた表情でこちらを見てくる。

 

………うん、まあ、分かりきってたことではあるんだけどさ。

 

「お、美味しいぞ、遊花」

 

「‼︎よ、よかったです‼︎えへへ」

 

俺の言葉に遊花は満足そうに笑う。

 

………こんなことで喜んでもらえるなら、お安い御用だ………顔が少し熱いけどな。

 

後、俺と遊花の様子を見てニヤニヤと微笑ましいものを見るような目でこちらを見るなクラスメイト共‼︎

 

「お楽しみのところ悪いけど、少しいいかい、遊騎?」

 

「お楽しみじゃねぇよ‼︎」

 

ニヤニヤとした笑みを浮かべて近づいてくる夜に思わず声を荒げてしまう。

 

そんな俺を見て夜はクスクスと笑いながらも口を開く。

 

「ごめんごめん。それで、要件なんだけど。今日の放課後、風紀委員の見回りの仕事が入ったから勝手に帰らないようにね」

 

「は?見回り?」

 

「………本当に大丈夫かい?デュエルアカデミアで不届きなことをしてる奴らがいないか見回りするのはいつもしてることだろ?」

 

「あ、ああ。そっか、悪い」

 

「全く。とりあえず、放課後一緒に風紀委員会の教室に行って、どこを見回るか他の風紀委員と話し合ってから仕事を開始するからね」

 

「ん、了解した」

 

俺が応えると夜は教室から出て行った。

 

風紀委員の見回り、ね。

 

俺の学生時代に風紀委員をしてたわけじゃないのに、風紀委員の仕事があるって言われてもやっぱり違和感が拭えない。

 

まあ、夢だから仕方ないと割り切ってしまえばそれまでなんだけどさ。

 

「夜さんと一緒に風紀委員会の教室に………それって、所謂同伴出勤では………?」

 

「ん?どうかしたか?遊花?」

 

「いえ、その、師匠のことが少し心配で………」

 

そういって遊花が微妙な表情を浮かべる。

 

まあ、風紀委員って言うぐらいだから多少は風紀を乱す奴と出会す可能性もあるんだろうからな。

 

流石に暴力沙汰にはならないと思うが………今までのデュエルアカデミアの荒れ具合を見るとありえないと言い切れないのがなんとも言えない。

 

「まあ、夜も一緒だから心配すんなって」

 

「だからって………いえ、むしろだからこその心配があると言いますか………」

 

「だからこそ?」

 

遊花の言葉に俺は首を傾げる。

 

夜と一緒だと何か不味いことがあるのだろうか?

 

いや、確かに夜と一緒に風紀委員の仕事してるとやっかみも多そうだけどな。

 

お前の方が風紀乱してるだろってツッコミを入れられたりとか。

 

「あ、あのですね、師匠」

 

「おう、なんだ?」

 

何故かもじもじしている遊花はこちらをチラチラと見ながら躊躇いがちに言葉を紡ぐ。

 

「………昔の船乗りさんには、港、港に家庭があったって話があるんです」

 

「………ん?悪い、それなんの話だ?今、関係あることなのか?」

 

「うー………な、何でもないです」

 

「お、おう」

 

遊花のよく分からない言葉に首を傾げながら、昼休みの時間は過ぎていくのだった。

 

 

ーーーーーーー

 

 

「こらそこ、階段で立体映像を使ったデュエルするのは、立体映像のせいで階段が見えなくなって危ないからやるならよそでやってくれるかい?」

 

「何だよ………って、ふ、風紀委員⁉︎」

 

「ボク達も荒事を望むわけじゃないけど、必要なら力尽くも辞さないよ」

 

「す、すみませんでした‼︎」

 

「………荒れすぎだろ、このデュエルアカデミア」

 

「遊騎、何か言ったかい?」

 

「………何でもねぇよ」

 

放課後。

 

こちらに謝りながら走り去っていくデュエルアカデミア生に思わずため息をこぼしながら夜と一緒にデュエルアカデミアの中を見回っていく。

 

夢の中だからかいつのまにか放課後になり、夜との見回りが始まっていたがその内容がまた酷かった。

 

先程注意した階段でデュエルをしている奴などまだ可愛いもので、デュエルディスクを改造してバイクと連動させようとしてる奴だったり、乗馬部が校舎内で馬を走らせながらデュエルしてたり、屋上で立体映像を使って学内の天気を変えて遊んでたアホ教師が校長に引きずられていったりと、本当にろくなことがなかった。

 

「んー今日は平和だね、遊騎」

 

「お前正気か?これのどこが平和なんだよ?」

 

「だって、まだ闇のカードに操られて暴れてる奴とか、バイクと合体してデュエルしてる奴とか、ガラスぶち破ってグライダーで校舎に侵入してくる奴とかがいないじゃないか」

 

「なんでそんな想定外なことばかり起こってんだよ。魔境過ぎるだろ、ここ………」

 

「いつも起こってたら想定外だって想定内になるものさ」

 

「なってほしくねぇよ、想定外が想定内に」

 

よくこんなデュエルアカデミアの中で風紀委員なんてやれてるなと夢の中の自分に本気で感心してしまう。

 

俺なら1日で辞める自信があるぞ。

 

「っ、返してください‼︎」

 

「おや?この声は………」

 

「今の声、遊花か?」

 

聞き覚えのある声が近くの教室から聞こえ、夜と顔を見合わせて教室の中を覗き込む。

 

教室の中では、数人の男子生徒に囲まれた遊花の姿があった。

 

「それは私の大切なデッキなんです‼︎返してください‼︎」

 

「ハッ、そんな大切なデッキを落とす奴が悪いんだろ?俺はただ落ちてたデッキを拾っただけだぜ?落ちてたカードをどう扱おうが俺の勝手だろ?」

 

「それは貴方達が勢いよくぶつかってきたからじゃないですか⁉︎」

 

「知らねぇなぁ、そんなこと。ぶつかるようなところに立ってるお前が悪いんじゃねぇか、なぁ?」

 

そういってリーダー格なのであろう男が言うと、周りで遊花を取り囲んでいる男達も嘲笑うように声を上げる。

 

………遊花を威圧してる声もどこかで聞いた覚えがあるような気がするが、例え夢だろうと自分の弟子を嘲笑されて耐えられるものじゃねぇな。

 

「夜」

 

「言われなくても分かってるよ。ボクもこんな光景を見せられて凄く不愉快だからね」

 

「んじゃ、遠慮なくいかせて貰うか。風紀委員だ‼︎お前ら何をしてる?」

 

「あ………師匠」

 

「チッ、この声は………」

 

教室に踏み込むと、遊花や取り囲んでいた男子生徒達の視線がこちらに向く。

 

そこで遊花と言い争っていたリーダー格の男はーーー

 

「ん?治虫じゃねぇか」

 

「っ、馴れ馴れしく俺のことを呼ぶな‼︎結束 遊騎‼︎」

 

こちらを不機嫌そうな表情で睨みつける現実世界での俺の元チームメイトである御影 治虫だった。

 

確か、初めてあった時の治虫は少し荒れてたんだったか?

 

それにしてもここまで酷い感じでは無かった気がするが………夢の中だから他の誰かのイメージが混ざってるのか?

 

そういえば、前に桜からデュエルアカデミアに遊花にちょっかいを出している神路祇って生徒がいたって話を聞いた気がするな。

 

話によれば神路祇って奴は昆虫族を主体にしてたらしいし、同じ昆虫族であるクローラーを使ってる治虫がそのイメージに引っ張られたのかもな。

 

「………まぁいい。聞いていた限りだと、その子のカードを強引に奪ったように聞こえたんだが?」

 

「ハッ、俺は落ちてたカードを拾っただけだぜ?」

 

「持ち主が申し出てるなら返すのが道理だろ」

 

「そいつが落としたカードだって確証がねぇだろ?そいつが嘘をついてるかも知れねぇじゃねぇか?」

 

「それをいえば君が嘘をついてることも考えられるよね?」

 

「俺を疑うってのか?お前らは俺がコイツからカードを奪うところを見たって言うのかよ」

 

「見てないよ。だけど、君にやましいところがないのならそれ相応の態度があるハズだけどの。それに、拾い物なんだでしょ?ならそれこそボク達風紀委員に手渡せばいい。落とした持ち主は大層困ってるだろうからね、ちゃんとボク達が持ち主を探して返してあげるよ」

 

「………チッ、うぜえ」

 

俺達の言葉に治虫が舌打ちをする。

 

そりゃそうだよな。

 

せっかく奪い取れると思ったら風紀委員なんかに見つかっちまったんだから。

 

「ああ、うるせぇな‼︎そんなに文句があるんなら俺とのデュエルで勝ってから言えよ‼︎俺にデュエルで勝てたらデッキでも何でも返してやるよ‼︎」

 

「デュエルで勝てたらって………私のデッキを奪ったのは貴方じゃないですか⁉︎」

 

「ならお前の不戦敗だ‼︎お前が俺に文句を言う資格なんかねぇ‼︎それとも、そいつの代わりに結束 遊騎。お前がデュエルするのか?その場合、お前のデッキも賭けて貰うがな‼︎」

 

「っ………」

 

嘲笑うかのような治虫の言葉に遊花は泣きそうになりながら拳を握り締める。

 

その光景を見て、俺は少しの懐かしさを感じた。

 

この光景は、あの時の再現だ。

 

場所も、相手も、立場も違う。

 

だけど、間違いなくあの時の再現だ。

 

なら、俺が言える言葉はただ1つ。

 

「なぁ、遊花。俺に任せてくれないか」

 

「………えっ?」

 

俺から告げられた言葉に遊花は驚きの表情を浮かべる。

 

「なんで………」

 

何故か、その答えはもう決まっているし、知っている。

 

「大切なデッキなんだろ?大切なものを奪われる気持ちは、俺にも分かるからさ」

 

「でも、それで師匠のデッキまで賭けることは………」

 

確かに俺のデッキは遊花には関係ない。

 

だけど、そんな関係ない俺のデュエルに自分のデッキの行方を委ねてくれるのに、自分のデッキも賭けないでどう信じてもらうんだ。

 

「お前のデッキを俺に賭けて貰うんだ。それぐらいの覚悟はいるだろ。それに、遊花は今戦えないんだろ?」

 

まさか、夢の中とはいえ、またこの言葉を告げることになるなんて思わなかった。

 

だけど、それでも俺に出来ることは………俺がやりたいことはただ1つだ。

 

「なら、戦えない遊花の代わりに、俺が戦う。任せてくれ」

 

遊花の思いを背負い、このデュエルに望むことだけだ‼︎

 

「いいぜ。負けたら俺のデッキも賭ける。その条件で俺とデュエルだ」

 

「………お前、正気か?」

 

その条件を呑んでくるとは思わなかったのだろう。

 

理解出来ないものを見るような目で治虫は俺を見てくる。

 

だけど、それがどうした‼︎

 

そんなもの、既に1度経験してるんだよ‼︎

 

俺はデュエルディスクを起動させながら力強く答える。

 

「勿論正気だ。さぁ、やろうぜ。遊花のデッキ、返して貰うぞ‼︎」

 

「ハッ‼︎ヒーロー気取りが‼︎そんな奴が俺に勝てるかよ‼︎」

 

「ヒーロー気取りだろうがどうでもいい。戦えない遊花の代わりに俺は戦う‼︎行くぞ‼︎」

 

『決闘‼︎』

 

 

遊騎 LP8000

 

治虫 LP8000

 

 

ーーーーーーー

 

 

「先攻は俺か………っ⁉︎これは………‼︎」

 

デュエルディスクが先攻を告げ、自分の手札を見た俺は驚いて目を見開く。

 

そこにあったのは現実で俺が使っているカードと………俺が使えなくなった昔のカード達。

 

俺の記憶が元になっているからだろうか?

 

それでも過去に共に戦っていたカード達がそこにあることが、堪らなく嬉しかった。

 

「そうか………夢の中でぐらいは一緒に戦うことを許してくれるんだな………それなら、久しぶりにお前達の全力を見せて貰うぜ‼︎手札からDーHERO( デステニーヒーロー)ディアボリックガイを捨てて魔法カード、デステニードロー‼︎手札からDーHEROカード1枚を捨てて自分はデッキから2枚ドローする‼︎」

 

「チッ、いきなり面倒なカードを………」

 

「さらに魔法カード、予想GUYを発動‼︎自分フィールドにモンスターが存在しない場合にこのカードは発動できる。デッキからレベル4以下の通常モンスター1体を特殊召喚する‼︎来い、クィーンズナイト‼︎」

 

 

〈クィーンズナイト〉☆4 戦士族 光属性

DEF1600

 

 

俺の前に現れたのは赤い鎧を身に纏った女性の騎士。

 

「俺はキングスナイトを召喚‼︎」

 

 

〈キングスナイト〉☆4 戦士族 光属性

ATK1600

 

 

クィーンズナイトの横に並び立ったのは黄金の鎧を身に纏った騎士。

 

そしてクィーンズナイトとキングスナイトはお互いに剣を掲げて更なる騎士を呼ぶ。

 

「キングスナイトの効果発動‼︎自分フィールドにクィーンズナイトが存在し、このカードを召喚に成功した時、デッキからジャックスナイト1体を特殊召喚する‼︎集え、絵札の三銃士‼︎来い、ジャックスナイト‼︎」

 

 

〈ジャックスナイト〉☆5 戦士族 光属性

ATK1900

 

 

クィーンズナイトとキングスナイトの剣に合わせるように剣を掲げる青い鎧の騎士が現れる。

 

「クッ、絵札の三銃士を揃えたか‼︎」

 

「まだだ‼︎墓地に存在するDーHEROディアボリックガイの効果発動‼︎墓地のこのカードを除外してデッキから同名モンスター1体を特殊召喚する‼︎来てくれ、DーHEROディアボリックガイ‼︎」

 

 

〈DーHEROディアボリックガイ〉☆6 戦士族 闇属性

DEF800

 

 

フィールドに現れたのは運命を司る悪魔の姿をした英雄。

 

その懐かしい姿に思わず笑みがこぼれる。

 

「そして、斬り開け‼︎運命に抗うサーキット‼︎」

 

俺がそういって手を前に突き出すと、俺の目の前に巨大なサーキットが現れる。

 

「召喚条件はカード名が異なる戦士族モンスター3体‼︎俺はDーHEROディアボリックガイ、キングスナイト、ジャックスナイトの3体をリンクマーカーにセット‼︎サーキットコンバイン‼︎」

 

ディアボリックガイ、キングスナイト、ジャックスナイトがサーキットに吸い込まれていく。

 

そしてサーキットのリンクマーカーが輝くとサーキットの中から白銀の鎧を身に纏った騎士が現れた。

 

「リンク召喚‼︎運命と戦う孤高の騎士‼︎リンク3‼︎アルカナエクストラジョーカー‼︎」

 

 

〈アルカナエクストラジョーカー〉LINK3 戦士族 光属性

ATK2800 ↙︎ ↑ ↘︎

 

 

「アルカナエクストラジョーカー………お得意の絵札の三銃士のリンクモンスターか」

 

「これだけじゃ終わらないぜ‼︎魔法カード、フュージョンデステニー‼︎」

 

「っ、そのカードは………」

 

「このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できないが、自分の手札・デッキから、融合モンスターカードによって決められた融合素材モンスターを墓地へ送り、DーHEROモンスターを融合素材とするその融合モンスター1体をEXデッキから融合召喚する‼︎ただし、この効果で特殊召喚したモンスターは次のターンのエンドフェイズに破壊され、このカードの発動後、ターン終了時まで自分は闇属性のHEROモンスターしか特殊召喚できない‼︎俺はデッキからDーHERO( デステニーヒーロー)ドローガイ、DーHERO( デステニーヒーロー)ディバインガイ、DーHERO( デステニーヒーロー)ディスクガイの3体を融合‼︎」

 

「DーHEROの3体融合だと⁉︎」

 

フィールドに現れた渦にデッキから3体の運命を司る英雄が飛び込んでいく。

 

そして渦が爆けると、現れたのは漆黒のマントを羽織った鋼鉄の英雄。

 

「融合召喚‼︎哀しき運命を覆す戦士‼︎DーHERO( デステニーヒーロー)ドミネイトガイ」

 

 

〈DーHEROドミネイトガイ〉☆10 戦士族 闇属性

ATK2900

 

 

「DーHEROドミネイトガイの効果発動‼︎フェイトプレセデンス‼︎自分メインフェイズ、自分または相手のデッキの上からカードを5枚確認し、好きな順番でデッキの上に戻す‼︎俺は自分のデッキの上から5枚を確認し、好きな順番でデッキの上に戻す‼︎」

 

「チッ、自分の運命を書き換えたか………」

 

「俺はカードを2枚伏せてターンエンドだ」

 

 

遊騎 LP8000 手札0

 

ーー▲▲ー ー

ー□○ーー

☆ ー

ーーーーー

ーーーーー ー

 

治虫 LP8000 手札5

 

 

「俺のターン、ドロー‼︎」

 

「スタンバイフェイズ、墓地に存在するDーHEROドローガイの効果発動‼︎」

 

「何⁉︎」

 

「同名カードは1ターンに1度、このカードが墓地へ送られた場合、次のスタンバイフェイズに発動できる‼︎このカードを墓地から特殊召喚する‼︎ただし、この効果で特殊召喚したこのカードは、フィールドから離れた場合に除外される。甦れ、DーHEROドローガイ‼︎」

 

 

〈DーHEROドローガイ〉☆4 戦士族 闇属性

DEF800

 

 

フィールドに現れたのは闇に染まった白い帽子を被り、マフラーをたなびかせる英雄。

 

「DーHEROドローガイの効果発動‼︎同名カードは1ターンに1度、このカードがHEROモンスターの効果で特殊召喚した場合、お互いのプレイヤーは、それぞれデッキから1枚ドローする‼︎」

 

「手札補充か………だが、手札が増えたのはこちらも同じことだ‼︎魔法カード、影依融合( シャドールフュージョン)‼︎」

 

「やっぱり引かれてるか………」

 

「自分の手札・フィールドからシャドール融合モンスターカードによって決められた融合素材モンスターを墓地へ送り、その融合モンスター1体をEXデッキから融合召喚する‼︎さらにEXデッキから特殊召喚されたモンスターが相手フィールドに存在する場合、自分のデッキのモンスターも融合素材とする事ができる‼︎俺が融合するのはデッキのシャドールモンスター、シャドールヘッジホッグと光属性の超電磁タートル‼︎影に飲まれし鼠よ、磁力の亀と交わりて、全てを操る闇となれ‼︎」

 

フィールドに現れた渦に治虫のデッキ影のようなハリネズミのモンスターと磁石の身体を持つ亀が呑み込まれていく。

 

そして渦が弾けると影の糸が溢れ出している操り人形が現れた。

 

「融合召喚‼︎影より生まれし操り人形‼︎エルシャドールネフィリム‼︎」

 

 

〈エルシャドールネフィリム〉☆8 天使族 光属性

ATK2800

 

 

「厄介な奴が出てきたな………」

 

「エルシャドールネフィリムの効果発動‼︎シャドーフォール‼︎このカードが特殊召喚に成功した場合に、デッキからシャドールカード1枚を墓地へ送る。さらにチェーンして墓地に送られたシャドールヘッジホッグの効果も発動‼︎シャドールヘッジホッグの効果でデッキからシャドールモンスターを1枚を手札に加える‼︎チェーン処理でシャドールヘッジホッグの効果でシャドールビーストを手札に。そしてエルシャドールネフィリムの効果でデッキからシャドールファルコンを墓地に送り、そのまま墓地に送られたシャドールファルコンの効果を発動‼︎このカードを墓地から裏側守備表示で特殊召喚する‼︎」

 

ネフィリムの身体から闇が溢れ出し、隼の姿になると、フィールドの影に溶けていく。

 

「まだ終わりじゃないぞ‼︎俺はフィールド魔法、星遺物に差す影を発動‼︎」

 

「そのカードは………なら、チェーンしてリバースカードオープン‼︎罠発動‼︎ワンダーエクシーズ‼︎自分フィールドのモンスターを素材としてエクシーズモンスター1体をエクシーズ召喚する‼︎」

 

「何⁉︎俺のターン中にエクシーズ召喚だと⁉︎」

 

「俺は戦士族、レベル4のクィーンズナイトとDーHEROドローガイでオーバーレイ‼︎2体の戦士族モンスターでオーバーレイネットワークを構築‼︎エクシーズ召喚‼︎」

 

クィーンズナイトとドローガイが光となり、空に浮かんだ混沌の渦に吸い込まれる。

 

そして渦が爆けると空から赤い鎧を着た馬に乗る弓兵が舞い降りた。

 

「現れろHーC( ヒロイックチャンピオン)ガーンデーヴァ‼︎」

 

 

〈HーC ガーンデーヴァ〉★4 戦士族 地属性

DEF1800

 

 

「チッ、面倒なモンスターを………チェーン処理によりフィールドが星遺物に差す影に変わる」

 

フィールドが夜に代わり、巨大な物体が治虫の背後に現れる。

 

あのカードは小型の昆虫族であるクローラーを呼び出すフィールド魔法だ。

 

ガーンデーヴァは牽制程度にはなるだろう。

 

「なら先にぶっ潰せばいいだけだ‼︎速攻魔法、神の写し身との接触( エルシャドールフュージョン)‼︎同名カードは1ターンに1度しか発動できず、自分の手札・フィールドから、シャドール融合モンスターカードによって決められた融合素材モンスターを墓地へ送り、その融合モンスター1体をEXデッキから融合召喚する‼︎俺が融合するのは手札のシャドールモンスター、シャドールビーストと手札の地属性モンスター、クローラーデンドライト‼︎影に飲まれし獣よ、影より生まれし害虫と交わりて、全てを封じる闇となれ‼︎」

 

フィールドに現れた渦に治虫の手札から影のような獣のモンスターと機械の身体を持つ寄生虫のようなモンスターが呑み込まれていく。

 

そして渦が弾けると機械の鎧から伸びる影の糸に縛られた操り人形が現れた。

 

「融合召喚‼︎影より生まれし機兵‼︎エルシャドールシェキナーガ‼︎」

 

 

〈エルシャドールシェキナーガ〉☆10 機械族 地属性

ATK2600

 

 

「っ、また面倒な奴がでてきたな………」

 

「墓地に送られたシャドールビーストの効果発動‼︎このカードが効果で墓地へ送られた場合、カードを1枚ドローする‼︎バトル‼︎エルシャドールシェキナーガでHーC ガーンデーヴァを攻撃‼︎シャドーシェル‼︎」

 

「すまない………迎え撃て、HーC ガーンデーヴァ‼︎暴嵐の矢‼︎」

 

ガーンデーヴァはシェキナーガに向かって暴風のような数の矢を番えるがシェキナーガを覆う機械の鎧に弾かれていく。

 

ガーンデーヴァの矢を耐えきったシェキナーガは影で覆われた鉄の弾丸を撃ち出し、ガーンデーヴァを貫いた。

 

「これで邪魔者は消えた‼︎今度はお前のご自慢の騎士の番だ‼︎エルシャドールネフィリムでアルカナエクストラジョーカーを攻撃‼︎シャドーマリオネッター‼︎」

 

「なら、リバースカードオープン‼︎罠発動‼︎無限泡影‼︎相手フィールドの表側表示モンスター1体を対象としてそのモンスターの効果をターン終了時まで無効にし、さらにセットされていたこのカードを発動した場合、このターン、このカードと同じ縦列の他の魔法・罠カードの効果は無効化される‼︎」

 

「何だと⁉︎」

 

「エルシャドールネフィリムに特殊召喚されたモンスターと戦闘を行うダメージステップ開始時、そのモンスターを破壊する効果があることは覚えてんだよ‼︎これで真っ向勝負だ‼︎迎え撃て、アルカナエクストラジョーカー‼︎ストレートフラッシュ‼︎」

 

ネフィリムがエクストラジョーカーに影の糸を伸ばそうとするが、伸ばした影の糸が幻のように崩壊していき、その隙にエクストラジョーカーの大剣がネフィリムの身体を斬り裂く。

 

しかし、破壊されたネフィリムの身体から大量の影の糸が溢れ出し、エクストラジョーカーの身体を呑み込み、消滅させた。

 

「くっ………相討ちか」

 

「アルカナエクストラジョーカーの効果発動‼︎ユナイテッドリンク‼︎リンク召喚したこのカードが戦闘で破壊され、墓地へ送られた時、デッキから戦士族・レベル4の通常モンスター1体を特殊召喚し、デッキから戦士族・レベル4モンスター1体を手札に加える‼︎」

 

「そんなことさせるか‼︎チェーンしてエルシャドールシェキナーガの効果発動‼︎シャドーシンク‼︎1ターンに1度、特殊召喚されたモンスターが効果を発動した時、その発動を無効にし破壊する‼︎その後、自分は手札のシャドールカード1枚を墓地へ送る‼︎アルカナエクストラジョーカーの効果を無効にし、手札から影依の原核( シャドールーツ)を墓地に送り無効にする‼︎」

 

「無効にしてきたか………」

 

シェキナーガの身体から闇の波動が放たれエクストラジョーカーの効果が打ち消される。

 

「さらに墓地に送られた影依の原核の効果も発動‼︎墓地から影依の原核以外の自分の墓地のシャドール魔法・罠カード1枚を手札に加える‼︎俺は憑依融合を手札に加える‼︎ネフィリムを失ったのは痛いがこれで邪魔者は消えた‼︎メインフェイズ2‼︎フィールド魔法、星遺物に差す影の効果発動‼︎1ターンに1度、自分メインフェイズに手札からレベル2以下の昆虫族モンスター1体を表側守備表示または裏側守備表示で特殊召喚する‼︎俺は手札からクローラーグリアを裏側守備表示で特殊召喚‼︎」

 

巨大な物体が淡く光ると、巨大な物体の影に何かが現れる。

 

「魔法カード、太陽の書‼︎フィールド上に裏側表示で存在するモンスター1体を選択し、表側攻撃表示にする‼︎姿を表せ、クローラーグリア‼︎フィールド魔法、星遺物に差す影の効果により、フィールドのクローラーモンスターの攻撃力・守備力は300ポイントアップする‼︎」

 

 

〈クローラーグリア〉☆2 昆虫族 地属性

ATK700→1000

 

 

巨大な物体の影から現れたのは機械的な身体を持つ蝗のようなモンスター。

 

「クローラーグリアの効果発動‼︎このカードがリバースした場合、自分の手札・墓地からクローラーグリア以外のクローラーモンスター1体を選んで表側攻撃表示または裏側守備表示で特殊召喚する‼︎俺は墓地からクローラーデンドライトを攻撃表示で特殊召喚‼︎」

 

 

〈クローラーデントライト〉☆2 昆虫族 地属性

ATK1300→1600

 

 

グリアの目が怪しく光ると地面からデントライトも姿を現わす。

 

「そして、覆いつくせ‼︎影を纏しサーキット‼︎」

 

「リンク召喚か………」

 

治虫が手をかざすと正面に巨大なサーキットが現れる。

 

「召喚条件はリバースモンスター2体‼︎クローラーグリアとクローラーデントライトをリンクマーカーにセット‼︎サーキットコンバイン‼︎リンク召喚‼︎現れろ、原初の操り人形‼︎リンク2‼︎シャドールネフィリム‼︎」

 

 

〈シャドールネフィリム〉LINK2 天使族 光属性

ATK1200 ←→

 

 

グリアとデントライトがサーキットに吸い込まれると、代わりに現れたのはネフィリムに似た小さな人形。

 

「そしてシャドールネフィリムの効果発動‼︎カオスシャドー‼︎同名カードは1ターンに1度、自分メインフェイズに発動できる。自分の手札・フィールドから、シャドール融合モンスターカードによって決められた融合素材モンスターを墓地へ送り、その融合モンスター1体をEXデッキから融合召喚する‼︎俺が融合するのはフィールドのシャドールモンスター、シャドールネフィリムと闇属性、シャドールファルコン‼︎原初の操り人形よ、影から生まれし隼と交わりて、全てを戒める闇となれ‼︎」

 

フィールドに現れた渦にシャドールネフィリムとファルコンが呑み込まれていく。

 

そして渦が弾けると影の糸に操られている竜の人形に乗った少女の人形が現れた。

 

「融合召喚‼︎影に操られし哀れな人形‼︎エルシャドールミドラーシュ‼︎」

 

 

〈エルシャドールミドラーシュ〉☆5 魔法使い族 闇属性

ATK2200

 

 

「またシャドール融合モンスターか………」

 

「エルシャドールミドラーシュの永続効果、シャドーリストラクション‼︎このカードがモンスターゾーンに存在する限り、その間はお互いに1ターンに1度しかモンスターを特殊召喚できない‼︎俺はカードを2枚伏せてターンエンドだ。そしてエンドフェイズにフュージョンデステニーのデメリットでお前のDーHEROドミネイトガイは破壊される‼︎」

 

ドミネイトガイがその場に膝をつき、身体が徐々に闇に変わっていき消滅する。

 

「これで運命の英雄は消えた‼︎お前に残されたのはたった1枚の手札のみ‼︎お前に敗北の運命を覆す力など残されてはいない‼︎」

 

「………はぁ、分かってねぇな、治虫。夢の中でも、相手を見下す癖は治んないか」

 

「何?」

 

「お前はもう負けてるよ」

 

「っ、世迷言を‼︎」

 

「世迷言なんかじゃないさ。DーHEROドミネイトガイは哀しき運命を覆す戦士だ。敗北の運命なんて、覆せるに決まってんだろ?」

 

「何をバカなことを………」

 

「分からないようなら教えてやるよ。敗北の運命なんて、俺の前には無いってな。DーHEROドミネイトガイの効果発動‼︎トラジャディリライト‼︎融合召喚したこのカードが戦闘・効果で破壊された場合、自分の墓地のレベル9以下のDーHEROモンスター3体を同名カードは1枚までで特殊召喚する‼︎」

 

「っ⁉︎何だと⁉︎」

 

「エルシャドールミドラーシュの召喚制限はエルシャドールミドラーシュがモンスターゾーンに現れてからはじまり、1ターンに1度しかモンスターを特殊召喚できないが同時に召喚すれば複数体の特殊召喚は可能だ。おまけにエルシャドールシェキナーガの効果も既に使用済み。そいつらじゃDーHEROドミネイトガイは止められない‼︎甦れ、DーHEROドローガイ‼︎DーHEROディアボリックガイ‼︎DーHEROディスクガイ‼︎」

 

 

〈DーHEROドローガイ〉☆4 戦士族 闇属性

DEF800

 

 

〈DーHEROディアボリックガイ〉☆6 戦士族 闇属性

DEF800

 

 

〈DーHEROディスクガイ〉☆1 戦士族 闇属性

DEF300

 

 

ドミネイトガイが消滅する際に現れた闇が再び集まり、3体の運命を司る英雄に変わる。

 

「さらにDーHEROディスクガイの効果発動‼︎このカード名の効果はデュエル中に1度しか使用できず、このカードは墓地へ送られたターンには墓地からの特殊召喚はできないが、このカードが墓地からの特殊召喚に成功した場合、自分はデッキから2枚ドローする‼︎」

 

「ここでドロー効果、だと⁉︎」

 

「さあ、終わらせて貰うぜ。お前が言う、敗北の運命って奴をな」

 

 

遊騎 LP8000 手札3

 

ーーーーー ー

ー□□□ー

ー ○

ー○ーーー

ーー▲▲ー ー

 

治虫 LP8000 手札1

 

 

「俺のターン、ドロー‼︎俺は自分フィールドのモンスター3体、DーHEROドローガイ、DーHEROディアボリックガイ、DーHEROディスクガイをリリースし、手札からこのモンスターを特殊召喚する‼︎」

 

3体の運命を司る英雄が粒子に変わり、空に集まっていく。

 

集まった粒子が弾けると、空から舞い降りたのは龍の鎧を見に纏った漆黒の戦士。

 

その戦士はフィールドに降り立つと、力強い咆哮を上げた。

 

「呪われた運命に抗う孤独の戦士‼︎DーHERO( デステニーヒーロー)BlooーD( ブルーディー)‼︎」

 

 

〈DーHERO BlooーD〉☆8 戦士族 闇属性

ATK1900

 

 

「っ、そのDーHEROは………‼︎」

 

「DーHERO BlooーDの永続効果、シールデステニー‼︎このカードがモンスターゾーンに存在する限り、相手フィールドの表側表示モンスターの効果は無効化される‼︎」

 

「チッ、させるか‼︎リバースカードオープン‼︎罠発動‼︎堕ち影の蠢き‼︎デッキからシャドールカード1枚を墓地へ送る‼︎これでーーー」

 

「残念だが通さねぇよ。ライフポイントを半分払い、手札からカウンター罠発動‼︎レッドリブート‼︎」

 

「何っ⁉︎手札からカウンター罠だと⁉︎」

 

 

遊騎 LP8000→4000

 

 

「相手が罠カードを発動した時に発動できる‼︎その発動を無効にし、そのカードをそのままセットする‼︎その後相手はデッキから罠カード1枚を選んで自分の魔法&罠ゾーンにセットできる。最もこのカード発動後、ターン終了時まで罠カードは発動できないけどな」

 

「何だと⁉︎くっ、俺はデッキから星遺物の傀儡をセットする」

 

治虫が驚愕に歪み、発動しようとしていた堕ち影の蠢きが再びセットされ、BlooーDの鎧から闇が吹き出し、その闇の力で治虫のモンスターは力を失っていく。

 

「これでお前はフィールドのモンスター効果も罠カードも使えない‼︎DーHERO BlooーDの効果発動‼︎カースアブソーブ‼︎1ターンに1度、相手フィールドのモンスター1体を対象として、その相手モンスターを装備カード扱いとして1枚だけこのカードに装備し、このカードの攻撃力は、このカードの効果で装備したモンスターの元々の攻撃力の半分だけアップする‼︎対象はエルシャドールシェキナーガ‼︎」

 

「っ、調子に乗るな‼︎リバースカードオープン‼︎速攻魔法、神の写し身との接触‼︎俺はフィールドのシャドールモンスター、エルシャドールミドラーシュと地属性モンスター、エルシャドールシェキナーガ‼︎影に操られし哀れな人形よ、影より生まれし機兵と交わりて、新たな封緘の闇となれ‼︎融合召喚‼︎再誕せよ‼︎エルシャドールシェキナーガ‼︎」

 

 

〈エルシャドールシェキナーガ〉☆10 機械族 地属性

DEF3000

 

 

「逃げられたか」

 

「墓地に送られたエルシャドールミドラーシュ、エルシャドールシェキナーガの効果発動‼︎このカードが墓地へ送られた場合、自分の墓地のシャドール魔法・罠カード1枚を対象としてそのカードを手札に加える‼︎俺は墓地にある神の写し身との接触と影依の原核を手札に加える‼︎これでお前のモンスターじゃエルシャドールシェキナーガを突破できない‼︎このターンで勝つことなどーーー」

 

「なら違う手を打てばいいだけだ。俺はカードを2枚伏せて、墓地に存在するDーHEROディバインガイの効果発動‼︎自分の手札が0枚の場合、自分の墓地からこのカードとDーHEROモンスター1枚を除外して自分はデッキから2枚ドローする‼︎ただし、この効果はこのカードが墓地へ送られたターンには発動できないがな。俺は墓地に存在するDーHEROディバインガイとDーHEROディスクガイを除外して2枚ドローする‼︎」

 

「っ、また2枚ドローだと⁉︎」

 

「まだだ‼︎墓地に存在するDーHEROディアボリックガイの効果発動‼︎墓地のこのカードを除外し、再び来てくれ、DーHEROディアボリックガイ‼︎」

 

 

〈DーHEROディアボリックガイ〉☆6 戦士族 闇属性

DEF800

 

 

「さらに速攻魔法、大欲の壺‼︎除外されている自分及び相手のモンスターの中から合計3体を持ち主のデッキに加えてシャッフルし、その後、自分はデッキから1枚ドローする‼︎俺は除外されている2枚のDーHEROディアボリックガイとDーHEROディバインガイをデッキに戻してカードを1枚ドローする‼︎」

 

「くっ、またディアボリックガイがデッキに………」

 

「俺はジャンクチェンジャーを召喚‼︎」

 

 

〈ジャンクチェンジャー〉☆3 戦士族 地属性

ATK1500

 

 

フィールドに現れたのは鋼鉄の身体を持つロボットのような戦士。

 

「そして、斬り開け‼︎運命に抗うサーキット‼︎」

 

「リンク召喚か………」

 

俺が正面に手を前に突き出すと、目の前に巨大なサーキットが現れる。

 

「召喚条件は戦士族モンスター2体‼︎俺はジャンクチェンジャーとDーHEROディアボリックガイをリンクマーカーにセット‼︎サーキットコンバイン‼︎リンク召喚‼︎追想に生きる王女‼︎リンク2‼︎聖騎士の追想 イゾルデ‼︎」

 

 

〈聖騎士の追想 イゾルデ〉LINK 2 戦士族 光属性

ATK1600 ↙︎ ↘︎

 

 

ジャンクチェンジャーとディアボリックガイがサーキットの中に消え、金髪と白髪の2人の女性が現れる。

 

「聖騎士の追想 イゾルデの効果発動‼︎リンクレカレクション‼︎リンク召喚に成功した時、デッキから戦士族モンスター1体を手札に加える。ただし、このターン、自分はこの効果で手札に加えたモンスター及びその同名モンスターを通常召喚・特殊召喚できず、そのモンスター効果も発動できない。俺はデッキからキングスナイトを手札に加える‼︎」

 

「ここでキングスナイトを手札に加えるだと?」

 

「リバースカードオープン‼︎魔法カード、闇の量産工場‼︎自分の墓地の通常モンスター2体を対象としてそのモンスターを手札に加える‼︎俺はクィーンズナイトとジャックスナイトを手札に加える‼︎」

 

「手札に絵札の三銃士を揃えた………‼︎お前、まさか………‼︎」

 

「聖騎士の追想 イゾルデの更なる効果発動‼︎メモリーズギフト‼︎デッキから装備魔法カードを任意の数だけ墓地へ送り、墓地へ送ったカードの数と同じレベルの戦士族モンスター1体をデッキから特殊召喚する‼︎俺はデッキから妖刀竹光、最強の盾、ビッグバンシュート、閃光の双剣-トライス、パワーピカクスを墓地に送り、デッキから天融星カイキを特殊召喚‼︎」

 

「天融星カイキ、だと?」

 

 

〈天融星カイキ〉☆5 戦士族 光属性

DEF2100

 

 

俺のフィールドに鬼の顔の鎧を見に纏った鎧武者が現れる。

 

さあ、派手に行くぜ‼︎

 

「天融星カイキの効果、それにチェーンして墓地に送られた妖刀竹光の効果発動。デッキから妖刀竹光以外の竹光カードを手札に加える。俺はデッキから黄金色の竹光を手札に加える。そして天融星カイキの効果発動‼︎このカードが特殊召喚に成功した場合、ライフポイントを500を払って発動できる‼︎」

 

 

遊騎 LP4000→3500

 

 

「自分の手札・フィールドから、戦士族の融合モンスターカードによって決められた融合素材モンスターを墓地へ送り、その融合モンスター1体をEXデッキから融合召喚する‼︎俺は手札のクィーンズナイト、キングスナイト、ジャックスナイトの3体で融合‼︎」

 

「モンスター効果で融合召喚だと⁉︎」

 

カイキが雄叫びをあげると、空に見える星が輝き、手札から現れた絵札の三銃士を照らす。

 

その光に導かれるように、絵札の三銃士は粒子に変わり、混ざり合う。

 

そして混ざり合った粒子が爆けると現れるのは黒い鎧を身に纏った漆黒の騎士。

 

「融合召喚‼︎運命に打ち勝つ勇敢なる騎士達の主‼︎アルカナナイトジョーカー‼︎」

 

 

〈アルカナナイトジョーカー〉☆9 戦士族 光属性

ATK3800

 

 

「あの状況からアルカナナイトジョーカーを融合召喚するだと⁉︎だが、その程度ならまだーーー」

 

「何終わった気でいるんだよ。まだまだこれからだ‼︎魔法カード、貪欲な壺‼︎墓地に存在するアルカナエクストラジョーカー、DーHEROドミネイトガイ、HーCガーンデーヴァをEXデッキに、クィーンズナイト、キングスナイトをデッキに戻してシャッフルし、カードを2枚ドローする‼︎」

 

「っ、まだドローするってのか⁉︎」

 

「そして、斬り開け‼︎運命に抗うサーキット‼︎」

 

俺が正面に手を前に突き出すと、再び目の前に巨大なサーキットが現れる。

 

「召喚条件はカード名が異なるモンスターモンスター2体‼︎俺は天融星カイキとDーHEROディアボリックガイをリンクマーカーにセット‼︎サーキットコンバイン‼︎リンク召喚‼︎業火の剣豪‼︎リンク2‼︎剛炎の剣士‼︎」

 

 

〈剛炎の剣士〉LINK 2 戦士族 炎属性

ATK1300 ↙︎ ←

 

 

カイキとディアボリックガイがサーキットの中に消え、二振りの赤い大剣を構えた戦士が姿を現わす。

 

「剛炎の剣士の永続効果、業火招来‼︎フィールドの戦士族モンスターの攻撃力は500ポイントアップする‼︎」

 

剛炎の剣士が雄叫びを上げると、俺のモンスターが炎のオーラを身に纏う。

 

 

DーHERO BlooーD

ATK1900→2400

 

 

アルカナナイトジョーカー

ATK3800→4300

 

 

聖騎士の追想 イゾルデ

ATK1600→2100

 

 

剛炎の剣士

ATK1300→1800

 

 

「全体を強化するリンクモンスターか‼︎」

 

「リバースカードオープン‼︎魔法カード、魔法石の採掘‼︎手札を2枚捨て、自分の墓地の魔法カード1枚を手札に加える‼︎俺は手札を2枚捨て墓地の装備魔法、パワーピカクスを手札に加える‼︎さらにくず鉄の像の効果発動‼︎このカードが墓地へ送られた場合、自分の墓地のジャンクモンスター1体を対象としてそのモンスターを守備表示で特殊召喚する‼︎甦れ、チューナーモンスター、ジャンクチェンジャー‼︎」

 

 

〈ジャンクチェンジャー〉☆3 戦士族 地属性

DEF900→1400

 

 

「ジャンクチェンジャーの効果発動‼︎このカードが召喚・特殊召喚に成功した場合、フィールドのジャンクモンスター1体を対象として2つの効果から1つを選択して発動できる。対象のモンスターのレベルを1つ上げるか、対象のモンスターのレベルを1つ下げる。俺は1つ目の効果を使用し、ジャンクチェンジャーのレベルを1つ下げる‼︎」

 

 

ジャンクチェンジャー

☆3→2

 

 

ジャンクチェンジャーの身体が赤く輝き、レベルが1つ下がる。

 

「さらに墓地に存在するDーHEROディアボリックガイの効果発動‼︎墓地のこのカードを除外し、再び来てくれ、DーHEROディアボリックガイ‼︎」

 

 

〈DーHEROディアボリックガイ〉☆6 戦士族 闇属性

DEF800→1300

 

 

「俺はレベル6、DーHEROディアボリックガイに、レベル2、チューナーモンスター、ジャンクチェンジャーをチューニング‼︎」

 

ジャンクチェンジャーが光の輪になり、ディアボリックガイが小さな星に変わり、光の道になる。

 

光の道が輝くと、その中から現れるのは機械の身体を持つ電子の巨人。

 

「迫る逆境、覆したるは不屈の闘志‼︎シンクロ召喚‼︎百折不撓の戦士、ギガンティックファイター‼︎」

 

 

〈ギガンティックファイター〉☆8 戦士族 地属性

ATK2800→3300

 

 

「今度はレベル8のシンクロモンスターだと⁉︎」

 

「ギガンティックファイターの永続効果、フォルテュードフォース‼︎このカードの攻撃力は、お互いの墓地の戦士族モンスターの数×100ポイントアップする‼︎俺の墓地にいる戦士族モンスターDーHEROディアボリックガイ、DーHEROドローガイ、天融星カイキ、ジャックスナイト、ジャンクチェンジャー、の5体。よって攻撃力は500ポイントアップする‼︎」

 

 

ギガンティックファイター

ATK3300→3800

 

 

「攻撃力3800………(確かに強力なモンスター達だ。だが、所詮は脳筋。俺の墓地にある超電磁タートルを使えば………)」

 

「超電磁タートル」

 

「っ‼︎」

 

「悪いが、ちゃんと覚えてるしどうにかする手段もあるんだよ。装備魔法、パワーピカクスをDーHERO BlooーDに装備‼︎」

 

BlooーDが手をかざすと、BlooーDの手元に巨大なツルハシが現れる。

 

「パワーピカクスの効果発動‼︎1ターンに1度、装備モンスターのレベル以下のレベルを持つ、相手の墓地に存在するモンスター1体を選択してゲームから除外し、エンドフェイズ時まで装備モンスターの攻撃力を500ポイントアップする事ができる‼︎」

 

「何だと⁉︎」

 

「俺が除外するのは勿論超電磁タートルだ‼︎」

 

BlooーDが勢いよくツルハシを地面に突き立てると、ツルハシから衝撃波が放たれ、墓地にいた超電磁タートルは弾き飛ばされ、闇の中に消えていった。

 

 

DーHERO BlooーD

ATK2400→2900

 

 

「そんな、馬鹿な………」

 

「バトル‼︎ギガンティックファイターでエルシャドールシェキナーガを攻撃‼︎ギガンティックブレイク‼︎」

 

「っ、迎え撃て、エルシャドールシェキナーガ‼︎シャドーシェル‼︎」

 

シェキナーガは影で覆われた鉄の弾丸をギガンティックファイターに撃ち出すが、ギガンティックファイターは力強く跳躍して鉄の弾丸を躱すと、シェキナーガを勢いよく蹴り飛ばし、爆散させた。

 

「くっ………エルシャドールシェキナーガ‼︎」

 

「続けて、剛炎の剣士でダイレクトアタック‼︎浄火一閃‼︎」

 

「ぐっ‼︎」

 

 

治虫 LP8000→6200

 

 

剛炎の剣士が二振りの赤い大剣を振り下ろし、治虫の身体を斬り裂く。

 

「どんどん行くぜ‼︎聖騎士の追想 イゾルデでダイレクトアタック‼︎ツインアタック‼︎」

 

「がっ‼︎」

 

 

治虫 LP6200→4100

 

 

金髪と白髪の2人の女性が同時に飛び上がり、空中で一回転してから治虫に飛び蹴りを放つ。

 

「ぐっ………クソ、俺は最強のハズだ‼︎最強の俺が負けるわけが………」

 

「………悪いな、治虫。現実のお前が遊花に対してこんなことをする奴だとは思ってないよ。だけど、夢だからといって俺の弟子を傷付ける奴を許すわけにはいかないんだ。だから………いっぺんぶっ飛んで反省しやがれ‼︎」

 

「っ‼︎」

 

「これで終わりだ‼︎アルカナナイトジョーカーでダイレクトアタック‼︎ロイヤルストレートフラッシュ‼︎」

 

アルカナナイトジョーカーは大剣を構えると、治虫に勢いよく突撃し、その大剣を振り下ろした。

 

「クソッ………ぐあぁぁぁ‼︎」

 

 

治虫 LP4100→0

 

 

ーーーーーーー

 

 

「ふぅ、終わったな」

 

アルカナナイトジョーカーに斬られ、その場に膝をついた治虫に歩み寄る。

 

「約束通り、遊花のデッキは返して貰うぜ」

 

「………っ、クソッ」

 

治虫からデッキを受け取るとデュエルをずっと見ていた遊花に近づき、受け取ったデッキを手渡す。

 

「これで間違いないか?」

 

「っ、はい‼︎ありがとうございました‼︎やっぱり、師匠は私の最高の師匠です‼︎」

 

「うおっ‼︎」

 

デッキを受け取った遊花は感極まった表情で勢いよく俺に抱き着いてくる。

 

しかし、突然のことでその勢いを受け止めきれず、俺はよろけて背中から倒れこみ、近くにあった机で思いっきり頭部を強打してしまった。

 

「ぐっ………勢い、強すぎ、だ」

 

「ふぇ⁉︎師匠⁉︎師匠⁉︎」

 

頭部を強打した衝撃で薄れゆく意識の中、心配そうに身体を揺する遊花の声が頭に響く。

 

そしてーーー

 

 

ーーーーーーー

 

 

「いてっ‼︎………最悪だ」

 

俺はベッドから落ちて強打した頭を押さえながら、起き上がってベッドの縁に座る。

 

「…………夢、か」

 

…………なんだか、凄く疲れた気がする。

 

なんで、あんな夢を見たんだろうか。

 

辺りを見渡すと、そこはあるのはいつもの風景。

 

いつのまにか日常になってしまった栗原家の俺の部屋だった。

 

「ああ、落ち着くな。ここは」

 

なんだか、酷くほっとした。

 

なんだかんだ言って、栗原家はもう俺の帰る場所なんだな。

 

そんなことを思いながら俺は部屋を出て、リビングに向かう。

 

耳を済ませるとリビングキッチンの方から包丁の音が聞こえてくる。

 

………これで両親がいたら、面白いんだけどな。

 

「あ、師匠‼︎おはようございます‼︎」

 

そこに立っていたのは、当然デュエルアカデミアの制服の上からエプロンをつけた遊花だった。

 

いつものように花が咲いたような嬉しそうな笑顔を浮かべ、いつものように料理をしている。

 

「どうしたんですか、師匠?何だか驚かれてるようですが………」

 

夢でも見た光景に俺が苦笑を浮かべると、遊花が不思議そうに首を傾げた。

 

凄く既視感がある光景だな。

 

「実は、ちょっと面白い夢を見てな」

 

「面白い夢、ですか?」

 

「ああ。俺と遊花が幼馴染で一緒にデュエルアカデミアに通ってる夢だ」

 

「私と師匠が幼馴染でデュエルアカデミアにですか⁉︎凄く楽しそうです‼︎よければ聞かせて貰えませんか⁉︎」

 

遊花が朝食を手に目を輝かせながら俺を見る。

 

………そうだな。

 

なんとなく、話さないのは勿体ないかなと思った。

 

きっと、それはありえたかも知れないとても楽しい夢想の世界なのだから。

 

「そうだな。じゃあ、話すとするか」

 

「やった‼︎それじゃあちょっと準備しますね」

 

いそいそと軽食を用意し、ワクワクした目で俺を見る遊花と共に、俺の変わらない日常は始まるのだった。

 





というわけで1周年記念の番外編でした。
今回出てきた夢の中の設定は『遊戯王Trumpfkarte』の最初期のプロットで組んでた設定を現在の設定に合わせてリメイクしたものです。
最初期では『遊戯王Trumpfkarte』、普通の学園ものだったんですよね。
遊騎は正義感が強い風紀委員、遊花は芯が強く優しいいじめられっ子という設定で、デュエルアカデミア内で起こる問題に立ち向かっていく遊騎と、そんな憧れの年上の幼馴染に追いつこうとする遊花の物語でした。
ただ、書いてる途中で師弟という設定を思いつき、それなら少し年の差がある方が自然かと考え、ならいっそプロと学生スタートにしてみるかと路線変更というか、元の路線を分解からの再構築といったレベルで組み替えて生まれたのが今の『遊戯王Trumpfkarte』です。
今回は1周年記念を考えた際に買い換えようとしたノートパソコンのデータから初期案が見つかったのでリメイクしてやってみた感じです。
というわけで今回はここまで。
稚拙な作品ではありますが、これからも皆さまに楽しんでいただけるように精進して参りますので、これからも何卒よろしくお願いいたします。
ではでは〜

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