遊戯王Trumpfkarte   作:ブレイドJ

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『遊戯王Trumpfkarte』も3周年‼︎
というわけで番外編です‼︎
今回は闇視点と第三者視点で進んでいきます。
本編開始前、闇の始まりの物語です。
いつもより重くダークな話です。
凄惨なシーンも少しあるのでそういうのが苦手な人はご注意ください。
そして今回もデュエル描写はあるのですが、あえて稚拙なものになっています。
古き良き(?)といいますか、子供の頃にカードゲームをしていた方はその頃の気持ちを思い出しながら読んでいただくのがいいかも知れません。
それでは本編にGOGO‼︎




番外編・3周年記念 まっさらな闇

 

 

夜の帳が下りるケルンの街に焦ったような男の声が響く。

 

「君‼︎大丈夫か⁉︎っ、すぐにデュエルセキュリティと救急に連絡を‼︎」

 

「はい‼︎」

 

男の声に側にいた女性が慌てて近くの建物に入っていく。

 

「っ‼︎これは………くっ‼︎しっかりしろ‼︎」

 

男が見つけたのは倒れている小さな少女だった。

 

男は少女は背負い、女性が入っていた建物の中に入ると、ベッドの上に少女を寝かせて必死に声をかける。

 

その小さな少女の状態は目を覆いたくなるような惨状だった。

 

意識はなく痩せ干せた身体に、服もなくボロボロの布切れを身に纏っているだけ。

 

しかし、気を失っているにも関わらず、少女は手に何かを握りしめ、決して離そうとはしなかった。

 

しばらく、男が懸命に声をかけていると、少女の身体がピクリと動いた。

 

「うっ………」

 

「‼︎気がついたのか⁉︎一体何があった⁉︎」

 

少女はゆっくりと目を開けていき、近くにいた男を見ると掠れたような声で呟く。

 

「ここ、どこ………?あなたは………?」

 

「ここは教会、私はここで神父をしているものだよ」

 

「神父、さん………教会………?」

 

男の言葉を、少女は反復するように呟く。

 

神父を名乗った男はなるべく優しい声色で少女に話しかける。

 

「君はこの教会の前に倒れていたんだ。君は一体どうしてあんなところにーーー」

 

「………わから、ない」

 

「わからないだって?それならーーー」

 

「何も………わからない………何も………思い出せない………本当に、何も………」

 

「っ、君、まさか………⁉︎」

 

少女の言葉に神父は目を見開く。

 

そして少女はその残酷な現実を口に出す。

 

「私は………()………なの?」

 

そう呟くのと同時に、少女は再び意識を失う。

 

少女の問いの答えを知る者は、どこにも存在しなかった。

 

 

ーーーーーーー

 

 

 

 

「………………」

 

「失礼します………あら、起きてたのね」

 

そんなことを言って入ってきた女性の看護師さんとおじいさんのお医者さんに私は頷く。

 

頷いた私を見て、部屋の外を見ながら嫌そうな顔ですお医者さんは大きなため息を吐いた。

 

「今日もデュエルセキュリティが君に話を聞きに来ているよ。全く、記憶もない小さな少女に聞き取りなんて何を考えているんだか」

 

「全くですよ。この子に答えられない質問を何度も聞いて困らせるだけ困らせる癖に、この子の手がかりすら探せないんですから」

 

呆れたようにため息を吐きながら、若干の怒りを露わにするお医者さんと看護師さんに私は首を振る。

 

「ははは、構いやしないよ。あんな無作法な奴らなんかいくら困ろうとね。君が気にかける程のことじゃない」

 

「そうよ。いつも通り、わからないものを無理矢理答えなくていいんだからね」

 

そういうと、ベッドで寝ていた私の身体を起こして、看護師さんが車椅子に乗せて移動してくれる。

 

私が倒れているところが発見され、この病院に緊急搬送されてから早くも1週間が経った。

 

未だに私の記憶は戻っていない。

 

私が倒れている間に、私を助けてくれた神父さん達が私の手がかりになるようなものが落ちたりしてないか調べてくれたのだが、残念ながらそのようなものは見つからなかった。

 

私が身につけていたのは、ぼろぼろの布切れとーーー

 

「あら、今日もそのカード達を見てたのね。倒れていたあなたが持ってたっていう」

 

「う、ん」

 

看護師さんの言葉に私はまた頷くと、自分の服のポケットからカードローダー(?)というものに入れられた数枚のカードを取り出す。

 

倒れていた私はこのカードを大切そうに握りしめていたらしい。

 

大事なものかも知れないからと、神父さんがカードローダーにしまってくれたらしい。

 

見ていれば何か思い出すかもと思い、じっと見てはいるのだが、いつまで経ってもそんな兆候はなかった。

 

神父さんの言付けとして、お医者さんは『そのカードには直接触れないように注意して欲しい』ということを言われたらしい。

 

言ってることは全然わからないけど、きっと大切なことなのだろうということで、その言いつけは守るようにしていた。

 

「それにしても相変わらず謎のカードよね。ちょっと調べて見たけどそんなカード見たことないわ」

 

「そう、なの?」

 

看護師さんの言葉に、私は首を傾げる。

 

私が持っているようなカードが他にもあるのだろうか?

 

記憶もなく、ずっと病院にいる私にはそれすらも知るすべはない。

 

看護師さんたちがに聞くという方法もあるとは思うのだが、記憶がない私がわからないことをいちいち聞くのも酷だろう。

 

この病院を出て、自分で調べれるようになってから調べればいい。

 

この時の私は、本気でそう思っていた。

 

「来ましたか」

 

しばらくすると姿が見えたのは緑色のジャケットを着た男性。

 

男性は私を見ると柔和そうな笑顔で、しかし、どこか冷たい雰囲気で私に向かって一礼した。

 

「こんにちは、お嬢さん。ごきげん麗しゅうございます」

 

私はそんな男性に無言のまま頷き返す。

 

「それでは、先生方。ここからはこちらの業務になりますので」

 

「………わかったよ。ただその子はまだ幼く衰弱状態から回復したばかりだ。あまり無茶な真似はしないでいただきたいね」

 

「心得ておりますとも」

 

「………じゃあまた後でね」

 

「は、い。あり、がとう、ござい、ます」

 

心配そうに去っていくお医者さんと看護師さんに頷く。

 

2人がいなくなると、男性は私の方に向き直ると胡散臭い笑顔を浮かべた。

 

「すみませんね、お手間をかかせてしまって」

 

「いえ、何か、わかり、ましたか?」

 

「誠に残念ながら………こちらとしても様々なところをあたっては見たのですが、記憶を失う前のお嬢さんに関する情報は何も得られず………」

 

「そう、ですか」

 

男性の言葉に私は力なく頷く。

 

せめて何か私の情報が見つかれば、記憶が戻る手がかりにもなるのに………

 

「ええ、本当に何も見つからないのです。お嬢さんに関する情報が、一切。デュエルセキュリティではお嬢さんが闇から生まれたのではないかなんて与太話まで出る始末で………ふふふ」

 

「………」

 

私が不気味に笑う男性をじっと見つめると、男性はすぐに表情を取り繕い、柔らかなで胡散臭い笑みを浮かべた。

 

「とはいえ、お嬢さんは今こうして生きています。なので、すでにデュエルセキュリティの方から戸籍を登録する準備と、保護する施設についての準備をさせていただきました」

 

「準備?」

 

「ええ。とはいえ、急拵えなところもあり、まだ確定していない部分がいくつかありますので、詳しい話は退院次第そちらの施設に移動してからになると思います」

 

「そう、ですか。わかり、ました」

 

この時の私は、記憶の欠落によって男性の言葉の意味がよく理解できず、何も考えずに頷いてしまった。

 

このことが、後に自分を地獄に送ることになることも知らずにーーー

 

 

ーーーーーーー

 

 

「さあ、ここがお嬢さんがこれから過ごす場所ですよ」

 

時間は流れ、体力もある程度回復した私は、私の捜査を担当していたデュエルセキュリティの男性に連れられ、入院していた病院を退院することになった。

 

私の治療を担当してくれていたお医者さんと看護師さんは最後まで心配そうな表情を浮かべ、私の行く末を心配し、幸せになるように祈ってくれた。

 

残念なことに、その懸念は的中してしまったようだが。

 

「ここ?」

 

「ええ、ここがこれからあなたが入る施設ーーーいえ、実験場(・・・)です。ふふふ」

 

そういうと、男性はいつも浮かべていた胡散臭い柔和な笑みを消し、下卑た笑みで笑った。

 

最早隠そうともしない悪辣さと、身体につけられたよく分からない機械を見て、心の中でため息を吐いた。

 

男性に連れてこられたのは、黒い孤児院だった。

 

外観を見る限りでは特に異常な様子は見られず、病院の窓から見えていた近くの施設と同じように見えた。

 

それが、この施設の罠なのだろう。

 

この男性に連れられ、何も知らずに施設に入った瞬間、施設の扉が重い音を立てて閉まり、隣の男にハンカチを顔に押し付けられて気を失った。

 

そして目を覚ましたら、目に映るのは壁も天井も真っ黒な世界と、私を気絶させた胡散臭いデュエルセキュリティの男。

 

そして、周りにいる白衣を着た大人達と私の頭にはよく分からない機械がつけられていて、身体はバンドで動けないように縛られているという状況である。

 

ここまでくれば流石に碌でもない目にあうことは想像がつく上に諦めもつくというものである。

 

元々記憶もなく、身内もいない。

 

これからどんな目に遭おうとも誰も困りはしないだろうと、酷く冷めた思考が頭を満たす。

 

大きな反応を示さない私を見て、男性はつまらなそうに顔を歪めた。

 

「チッ、つまらないですね。その無表情が崩れ、泣き叫ぶ様が見られるかと思ったのですが」

 

「あなた、を、喜ばせる、つもり、ない」

 

「ああ?生意気なガキが大人を舐めやがって‼︎」

 

「っ………‼︎」

 

私の言葉に怒ったのか、男性は私の身体を思いっきり蹴り飛ばす。

 

痛みに思わず顔を歪めると、男性の表情が愉快そうに歪む。

 

しかし、そんな男性を止めるように近くにいた白衣の男達の中の1人が声を上げた。

 

「おい‼︎大事な被験体(モルモット)を傷つけるな‼︎」

 

「チッ‼︎いいじゃないですか。1匹ぐらい減っても」

 

「ダメだ。我らの目的のためにも無駄なことは省かなければならない」

 

「『人間をどんなものにも負けない生命に進化させる』、でしょう?崇高な目的なことで。学の無い私には理解できませんね」

 

男性がそういうと白衣の男の声がさらに冷たくなる。

 

「………あまり調子に乗らない方がいい。君のようなチンピラの替えなどいくらでもいるのだ。理解できないというのであれば、その身を持って理解して貰ってもいいのだよ?」

 

白衣の男がそういって指を鳴らすと、男の背後にあった扉が開き、そこから地響きのようなものが聞こえてくる。

 

しばらくして、地響きと共に扉の奥から現れたのはあからさまに異形な存在だった。

 

トカゲのような顔に植物の蔓のように伸びる手、そして人間のような胴体で二足歩行をする異形の存在が男性を睨みつける。

 

異形の存在を目にした男性は青い表情を浮かべると、必死に捲し立てた。

 

「はは、わ、悪かったですよ。そうですよね、あなた達の目的は素晴らしいことですものね」

 

「そうだ。我々の目的が達成されれば人類は新たなステージに進める。そのことを覚えておきたまえ」

 

白衣の男がそういって指を鳴らすと異形の存在は扉の奥に戻っていく。

 

想像以上にとんでもない場所に連れてこられたことに私は少し頭を抱えたくなった。

 

なお、抱えるための手はベルトに固定されているため動くことは叶わない。

 

「さて、観客も静まったところで、検査を開始しよう。君が俺達に新たな刺激を与えてくれることを願っているよ」

 

そんな白衣の男の言葉と共に、何かを注射器で打ち込まれる。

 

私の意識はすぐに混濁し、再び闇の中に消えていった。

 

 

ーーーーーーー

 

 

「HOー083A。実験の時間だ」

 

「………」

 

この施設にあてがわれた自室のような場所でボーっとしていると、白衣の男達が呼びに来たため心の中でため息を吐きながら男達についていく。

 

抵抗したところで逃げれるわけもなく、同じ施設にいた子供で抵抗した子供達は暴力を受けて無理矢理連れていかれるので、余計な労力はかけない方がいい。

 

初めてこの施設ーーー同じ施設に引き取られてしまった子供達が『黒い孤児院』と呼ぶこの施設に連れてこられて早くも2か月が経った。

 

どうやら私の身体は彼らのお眼鏡にかなったらしい。

 

HOー083A。

 

通称『闇』。

 

これが今の私の識別番号らしい。

 

食事は与えられ、衣服などもちゃんとしたものが支給されるなど、思っていたよりは大切にされている。

 

全く嬉しいことではないが、それでも生きていられるだけまだマシなのか、それとも早く死ねない分惨いのかは判断に困るところである。

 

どうやらここは私のように行く当てのない孤児を実行犯であるデュエルセキュリティの人間が騙し、この施設に連れてきては『人間をどんなものにも負けない生命に進化させる』というよく分からない目的のために研究員が人体実験を行う施設らしい。

 

施設には身寄りのない子供達が保護の名目で送られてくるが、薬の苦さ、拒絶反応による身を裂くような痛み、そしてひとりぼっちで横たわる手術台。

 

そんな毎日の中、同じように施設に引き取られていた子供達はいつの間にか消えていった。

 

それがどういう意味かわからない私ではない。

 

最もこの身体は意外と便利なようで、他の子供達に起こるよく分からない薬の拒絶反応がこの身に起こったことはない。

 

そのせいで、重要視もされているようで、この実験における最も重要な個体ーーーカテゴリーA( エース)と呼ばれているらしいのだが。

 

今日も今日とてよく分からない機器によるデータの収集とよく分からない薬を投与される。

 

特に反応を見せない私を見て、興味深そうに目を輝かせる研究員達は何とも不気味である。

 

「高濃度の呪いを直接打ち込んだことによる拒絶反応もない………素晴らしい‼︎」

 

「先天的に呪いに完全適合した生物………HOー083Aの人体をより詳しく調べれば『人間をどんなものにも負けない生命に進化させる』ために重要な足掛かりとなる‼︎やはり、解剖してーーー」

 

「馬鹿を言うな‼︎こんな貴重な個体。次はいつ巡り会えるかすらわからないんだぞ⁉︎ここは慎重に行くべきだ‼︎」

 

相変わらず物騒な言葉が平然と飛び交う研究員達を冷めた目で見つめる。

 

こんな身体の何がそんなにいいのかさっぱりわからない。

 

おまけに私には記憶( なかみ)すらない。

 

そんな生物がなんの参考になるのだろう?

 

初めから理解できる気もする気もなかったが、うるさいから少しは黙ってほしい。

 

そんなことを淡々と考えていると、そんな研究員達を鎮めるように手を叩く音が聞こえてくる。

 

音が聞こえた方を見ると、そこには私が初めてこの施設に来た時にデュエルセキュリティの男を止め、化け物を呼び出した研究員が立っていた。

 

「くだらない言い争いはよせ。少なくとも、その少女を解剖するのは却下だ」

 

「しかし、アイサカさまーーー」

 

「俺の決定に意見すると言うのかね?」

 

底冷えするような声を出し、反論しようとした研究員をアイサカと呼ばれた男が睨みつける。

 

すると、研究員の男は顔を真っ青にして深く頭を下げた。

 

「め、滅相もございません‼︎」

 

「よろしい。とにかく、HOー083Aに対する実験は万全を期して行っていく。HOー083Aには我らがどんなものにも負けない生命に進化するため、滅びを克服するための『滅びの聖母』になって貰わなければならないからな」

 

そういってアイサカと呼ばれた男が不気味に笑うが、私としては心底どうでもいい。

 

この施設に閉じ込められている限り、私に未来などないのだから。

 

「しかし、いつ見ても感情らしき感情を見せませんね、HOー083Aは」

 

「感情がないのか、それとも実験の影響で壊れてしまったのか?」

 

「もしくは感情がないことで呪いに適合しているのかもしれませんね」

 

周りの研究員がひそひそと失礼なことを言ってるが気にしない。

 

そもそもこの壁も天井も真っ黒な世界で何に感情を見出せというのか。

 

「む?HOー083A。そのポケットに入っているものはなんだ?出せ」

 

「………」

 

私はアイサカという男の視線が私のポケットに向いたことに思わず心の中で舌打ちをしながら、ポケットに入っていたものを取り出す。

 

私のポケットに入れられていたのはカードローダーに入れられた数枚のカード。

 

記憶を失った私が持つ唯一の手がかり。

 

いつもなら部屋に置いてきているのだが、今日は咄嗟に呼ばれたのでポケットに忍ばせたままだった。

 

「カードだと?HOー083A。どこでそのようなものを手に入れた?」

 

「あれは確か、HOー083Aの所持品だったかと。何でも、記憶を失い、倒れていたHOー083Aが離さずに持っていたとか。一応、HOー083Aの所持品自体はそのまま所有させていたため持ってきていたのでしょう」

 

「成る程。そのカードを見せなさい、HOー083A」

 

アイサカが私に向かってカードを手渡すように言ってくるが私はそれを無視する。

 

この人達に渡ったらこのカードがどうなるかわからない。

 

これは私の手がかりなのだから。

 

無視をした私をアイサカは興味深そうに笑う。

 

「ほう、そのカードには執着を見せるか」

 

「調子に乗るな‼︎ HOー083A‼︎そのカードを渡せ‼︎」

 

「あ………」

 

先程私を解剖するだの言っていた研究員が私のポケットから強引に1枚のカードを奪い取る。

 

「一丁前にカードローダーなんてものつけて。全く、手間をかけさせるな」

 

そういって研究員がカードローダーの中から入っていたカードを取り出す。

 

その瞬間ーーー

 

『ーーー‼︎』

 

「………えっ?」

 

ーーー私の耳に何かの怒ったような鳴き声が聞こえた。

 

私が聞こえてきた鳴き声に首を傾げていると、私からカードを奪った研究員から焦った声が聞こえてきた。

 

「な、何だ、これは⁉︎あ、あ、あぁ‼︎」

 

その声に研究員の方を見ると、カードから黒い何かが溢れ出し研究員を呑み込んでいくところだった。

 

突然の事態に周りの研究員が呆然としていると闇に呑まれた研究員の表情が蒼白に変わり、異常な発汗を始め、ガタガタと震えていた。

 

『ーーー‼︎ーーー‼︎』

 

そして再び私の耳に何かの怒った鳴き声が聞こえてきた瞬間、闇に呑まれた研究員の目が白眼に変わった。

 

「う、うわぁぁぁぁぁぁぁ‼︎ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいゴメンナサイゴメンナサイ‼︎」

 

研究員が発狂した。

 

身体は闇に包まれたまま、カードを手放し、唾を吐き、頭を抱えながら、地面を這いずり回り、ただひたすら何かに謝っている。

 

「おい‼︎どうした⁉︎」

 

「赦してください赦してください赦してください赦してください‼︎助けて助けて助けてたすけてたすけてタスケテタスケテタスケテタスケテ‼︎」

 

「っ‼︎」

 

近くにいた私の足元に縋りつき、涙ながらに懇願する研究員があまりにも不気味で私は思わず研究員の身体を蹴り、研究員が放り出してしまった私のカードの元に駆け出し、そのカードを拾う。

 

『ーーー‼︎………ーーー‼︎』

 

私がカードを拾うと怒っているような謎の鳴き声は静まり、代わりに喜んでいるような鳴き声が聞こえたかと思うとーーー

 

「うぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ‼︎」

 

ーーー突如、室内に雷雲が生まれ、発狂していた研究員に落雷が降り注いだ。

 

耳をつんざくような絶叫と爆音に私は思わず耳を押さえる。

 

研究員の末路は………見ないでもわかる。

 

「チッ‼︎何をした⁉︎HOー083A‼︎」

 

「知りま、せん」

 

「知らないだと⁉︎ふざけたことを‼︎」

 

私の言葉に、研究員が怒りの声をあげる。

 

だけど、私が言える言葉はそれしかない。

 

「嘘じゃ、ない。私が、持ってる、間、こんな、こと、起こった、こと、ない。私、以外の、人、触った、こと、ない。だから、知ら、ない」

 

「何を馬鹿なーーー」

 

「クックック、ハーッハハハハ‼︎素晴らしい‼︎」

 

私の言葉に研究員の男性が怒りを露わにしようとした時、アイサカが急に心底嬉しそうな不気味笑い声を上げた。

 

「人を容易く狂わせ死にいたらしめる呪い‼︎そしてその呪いの根源に触れようとも、その呪いに蝕まれることのない精神と肉体‼︎素晴らしいよ、HOー083A‼︎闇‼︎やはり貴様は最高の実験体‼︎ カテゴリーA( エース)‼︎『滅びの聖母』だ‼︎」

 

狂ったように笑うアイサカの言葉に私は握っていたカードーーー覇王眷竜ダークリベリオンに目をやる。

 

触れた者を発狂させ、雷で裁いたこのカード。

 

それに触れても大丈夫な私の身体。

 

このカード達、そして私は一体なんなのだろう?

 

私の中に押し殺していた自身の失われた記憶と謎への探究心が再び目を覚ます音が聞こえた。

 

 

ーーーーーーー

 

 

午後の人体実験は中止になり、私は自室に戻された。

 

流石にあの惨状で実験は続けられないらしい。

 

私は普段着にしている真っ黒のワンピースに着替えると自室の机の上にカードローダーから外した私のカード達を並べる。

 

私が持っているカードは、覇王眷竜ダークリベリオンだけではない。

 

だけど、さっきの様子を見る限り他のカードにも同じような何かがあるのではないかと勘繰ってしまう。

 

そういえば、病院に入院していた時に看護師さんは『そんなカード見たことない』と言っていた。

 

ということは、似たようなカードが外の世界にはあるのだろうか?

 

私は、何も知らない。

 

私の中の世界は入院していた病院とこの壁も天井も真っ黒な世界だけだ。

 

知りたい。

 

私は自分のことも、このカード達のことも、何も分かっていない。

 

自分の失われた記憶、記憶を失った私が手にしていたこのカード達、そして、私が知らないこの施設の外の世界を、私は知りたい。

 

だけど、そのためにはこの施設から抜け出さなければならないが、それは容易なことではない。

 

施設の中にはいくつもの監視カメラがある上に、出入り口は私が最初に入ってきた扉だけだ。

 

壁にある窓はかなり頑丈にできており、前に脱走しようとした子供達が部屋にあった机や椅子を投げつけたがびくともしていなかったのを覚えている。

 

とてもじゃないが、抜け出せるとは思えない。

 

それでもーーー

 

「ここから、出たい、な」

 

思わず私は小さな声で呟く。

 

その瞬間ーーー

 

『ーーー‼︎』

 

『ーーー‼︎ ーーー‼︎』

 

「っ⁉︎何⁉︎」

 

ーーー私の耳にまた何かの鳴き声が響き、私の手に持っていたカードの内、2枚のカードから黒い何かが溢れ出していた。

 

「っ?覇王眷竜オッドアイズ………覇王眷竜スターヴヴェノム?」

 

黒い何かが溢れ出しているそのカードの名前を呼んだ次の瞬間、覇王眷竜オッドアイズが黒く輝き、私の部屋をその輝きで覆い尽くす。

 

「何が、起こって………」

 

私が戸惑っていると、今度は覇王眷竜スターヴヴェノムから黒い何かが部屋の窓に向けて放たれ、黒い何かが触れた瞬間、部屋の窓と壁がどろどろと溶けていき、外へと繋がった。

 

「っ‼︎」

 

未知なることへの驚きは一瞬。

 

私は何も考えずに、机の上に置いてあったカード達とカードローダーをポケットに入れると外へと繋がったその場所から施設の外に出る。

 

施設の外は大きな柵で覆われており、入り口と言えるのは玄関の方にある大きな門だけだった。

 

でも、そちらの方に向かったらきっと研究員達がすぐに追いかけてきて捕まってしまう。

 

『ーーー‼︎』

 

「っ、また‼︎」

 

そんなことを考えていると、再び私のポケットの方から何かの鳴き声が聞こえてきて、私はその鳴き声の発生源と思われるカードを手に取る。

 

「覇王眷竜クリアウィング………」

 

私がカードの名前を読み上げると、今度は覇王眷竜クリアウィングから黒い何かが溢れはじめる。

 

すると、次の瞬間ーーー

 

「えっ?」

 

ーーー突然、凄まじい暴風が吹き荒れたかと思うと、私の身体はその暴風に吹き飛ばされて空高く舞い上がった。

 

暴風によって吹き飛ばされた私の身体は施設の外へと一気に吹き飛ばされると、人のいない空き地の方に落下していく。

 

「っ‼︎落ち………‼︎」

 

急激に落下していく私は思わず地面とぶつかる衝撃を予想して目を瞑るが、その瞬間、次は地面の方から強い風が吹き、私の身体はゆっくりとその地面に着地した。

 

「はぁ………はぁ………生き、てる?」

 

私は呆然としたまま、その場に倒れ込み、ポケットに入れ直した覇王眷竜オッドアイズ、覇王眷竜スターヴヴェノムのカードを取り出し、手に握っていた覇王眷竜クリアウィングと一緒に眺める。

 

「助けて、くれた、の?」

 

私の問いに先程聞こえた鳴き声は聞こえてこなかった。

 

だけど、何となくこのカード達が私を助けようとしてくれたことだけは伝わった。

 

「ありが、と」

 

私はカード達にお礼を言うと再びカード達をカードローダーに入れ、ポケットに仕舞って街の中に向かって走り出す。

 

こうして、私のいく宛のない脱走劇は始まった。

 

 

ーーーーーーー

 

 

『次のニュースです。昨夜行われたプロチーム、『Verbindung ( べツィーウンゲン)』と『 Wirbelwind( ヴィルヴェルヴィント)』のチーム対抗戦第2試合。中堅戦では『Verbindung』の結束 豪騎選手が、『Wirbelwind』の栗原 遊翼選手を下し、戦績を1勝1敗に持ち込み、勝敗は大将戦へとーーー』

 

私はきょろきょろとあたりを見回しながら初めての街の中を歩いていく。

 

街中にはたくさんの人がおり、至るところにあるモニターを眺めて何かの映像を見ていたりする。

 

今までが静かな壁も天井も真っ黒な世界にいたせいで、街の喧騒は私には少しうるさ過ぎた。

 

とはいえ、逃亡中の身としてのんびりとはしていられない。

 

どうするべきかを思考しながら辺りを見回していると、近くにある1つの建物が目に入った。

 

「っ‼︎あれ………」

 

私はその建物に急いで近づいていくと、その建物の窓から見えたものに視線を向ける。

 

「これ………カード、だ」

 

私が見つけたのは外側のガラスの中に複数枚のカードが並んである小さくてとても寂しい雰囲気がするお店だった。

 

上を見上げると、店名だろう『 Natural( ナチュラル)』と書かれた看板がぶら下がっている。

 

私は何かに引き寄せられるようにその店の扉を開ける。

 

お店の中にいたのはおじさんと私と同い年ぐらい男の子だった。

 

茶髪の黒いパーカーを着た少年と40代ぐらいのおじさんが親しげに話していた。

 

私のことに気づいたおじさんは、こちらに近寄りしゃがみ込んで視線を合わせて口を開く。

 

「いらっしゃいませ。ようこそ『Natural』へ。今日はカードを見に来たのかい?」

 

おじさんの言葉に私が頷くと、おじさんはにこやかな笑みを浮かべた。

 

「そうかい。なら、見ての通り寂れた店だがゆっくりと見ていくといいよ。カードならあそこのショーケースやストレージから探すといい」

 

おじさんの言葉に、私は再びこくんと頷くとショーケースの前に移動してショーケースに張り付きながらカードを探し始める。

 

自分の持っていたカードを思い返し、ショーケースの中のカードを丁寧に見ていくが私が持っていたカードと同じものが見つからない。

 

ここにはないのかもと思いながら、辺りに視線を彷徨わせと、近くで先程の男の子がカードを広げて束にしているのが目についた。

 

もしかしたら、あの子が持っているカードに似たものがあるかもしれない。

 

そう思った私は男の子に近づき、男の子と男の子の手にしているカードをジッと見ていく。

 

さっきから、この男はカードの束を作っている。

 

だけど、そのカードの束からカードを抜いたり足したりを繰り返している。

 

片付けてるだけかと思ったんだけど、これは何をしてるんだろう?

 

私が男の子のことを見ていると、男の子は躊躇いがちに口を開いた。

 

「………なあ、なんか俺に用があるのか?」

 

男の子の言葉に私はふるふると首を振る。

 

私を見て男の子は困ったような表情を浮かべると、近くにいたおじさんの方を見る。

 

すると、おじさんは苦笑を浮かべながら私に近づいてきて声をかけてきた。

 

「遊騎君が作っているデッキに興味があるのかい?」

 

「デッキ………?」

 

私は首を傾げながら声を出す。

 

そんな私の反応におじさんは目を見開いて驚きを露わにした。

 

「おや?デッキが分からないのかい?カードを探しにきたのだから君も決闘者だと思ったんだけどね」

 

デッキ………決闘者………知らない言葉がいっぱい出てきて何のことだかさっぱりわからない。

 

だけど、せっかくの機会なので私は自分の本来の目的を話すことにした。

 

「デッキ………決闘者………知らない………私、カード、探しに、来た。私の、手かがり、欲しくて」

 

「手がかり?」

 

「このカード………知らない?」

 

「うわっ、何このカード………見たことねぇ」

 

「これは………私も見たことがないね」

 

私はポケットから数枚のカードを取り出し、男の子とおじさんが思わずといったように呟いた。

 

おじさん達の言葉に思わず私は肩を落とす。

 

分かってはいた。

 

そんなにすぐ手がかりは見つかるわけないことは。

 

だけど、カードショップを開いているおじさんにすらわからないなんて、このカード達は一体何なんだろう?

 

そんな私を見て、男の子は何を思ったのか明るい表情を浮かべて口を開いた。

 

「よし、じゃあさせっかくだから、そのカードを使ってデュエルしてみようぜ」

 

「えっ?」

 

男の子の言葉に私の胸がドクンと大きく鳴る。

 

「デュエルって、何?」

 

「あーデッキも知らないんだからデュエルも分かんないか。このカードでデッキを使って勝負するんだよ。せっかく見たこともないカードがあるんだから、やっぱりデュエルしてみたいじゃん。それにデュエルすることでお互いのことも分かるしさ」

 

「遊騎君………君ねぇ」

 

男の子の言葉におじさんは呆れたような表情を浮かべる。

 

デュエル。

 

何故だろう?

 

私は聞いたことがないはずなのにーーー私はそれを知っている気がする( ・・・・・・・・・・・)

 

「デュエル………やって、みたい。なんか、知ってる、気がする」

 

「お、そっか。ならやろうぜ、デュエル」

 

私の言葉に男の子が嬉しそうに笑う。

 

私が本当にそれを知っていると言うのなら、やってみたい。

 

だけど、問題は………

 

「でも、私、デッキ?ない」

 

そう、私には男の子が持っているようなデッキと呼ばれるものがない。

 

私が困っていると、男の子は一瞬微妙な表情を浮かべたがすぐに私に笑いかけてきた。

 

「あーそうだよな。なら、俺の余ってるカード分けるからさ、それでデッキ作ろうぜ」

 

そういって男の子ら自分の持っていたカードをテーブルの上に広げていく。

 

「でも、それ、あなたの、カード」

 

「気にすんなって。決闘者同士、困った時は助け合いだからな。まあ、大したカードもないんだけど………俺は結束 遊騎。お前、名前は?」

 

男の子ーーー遊騎の言葉に私は少し困ってしまう。

 

私は、自分の名前すら分からない。

 

しいて言うなら、HOー083Aが私を示す名前だけど、それがおかしいことは流石に私もわかる。

 

そういえば、あの施設で呼ばれていた名前が1つあった気がする。

 

確かーーー

 

「………闇、って、呼ばれてた」

 

「呼ばれてた?………まあいいや。それじゃあ闇、デュエルしようぜ‼︎」

 

「‼︎………うん、よろしく、遊騎」

 

遊騎に闇と呼ばれた瞬間、胸のあたりがぽかぽかとあったかくなる。

 

私は不思議な感覚に戸惑いながらも、遊騎からデュエルのことについて教えて貰うのだった。

 

 

ーーーーーーー

 

 

『決闘‼︎』

 

 

闇 LP8000

 

遊騎 LP8000

 

 

「先攻は俺が貰うな。魔法カード、増援‼︎ デッキからレベル4以下の戦士族モンスター1体を手札に加える‼︎俺はデッキからキングスナイトを手札に加える‼︎モンスターをセット。カードを2枚伏せてターンエンドだ‼︎」

 

 

闇 LP8000 手札5

 

ーーーーー ー

ーーーーー

ー ー

ーー■ーー

ーー▲▲ー ー

 

遊騎 LP8000 手札2

 

 

「私の、ターン、ドロー」

 

遊騎が説明してくれたデュエルのルールを思い出しながら、私は恐る恐る手札のカードを島さんに貸して貰ったデュエルディスクに置く。

 

「私は、魔法カード、おろかな埋葬‼︎デッキから、モンスター1体を墓地へ送る。私は、デッキから、覇王眷竜ダークヴルムを、墓地に、送る‼︎」

 

「おお‼︎そいつが闇の持ってたカードだな‼︎でも、いきなり墓地に送っていいのか?」

 

「うん、この子は、墓地にいた方が、いい、みたい。私は、墓地に存在する、覇王眷竜ダークヴルムの効果、発動‼︎このカードが、墓地に存在し、自分フィールドに、モンスターが存在しない場合、このカードを、特殊召喚する‼︎」

 

「うえっ⁉︎マジか⁉︎」

 

驚く遊騎を見ながら、私が墓地に送ったダークヴルムを手に取ると、胸の奥から自然と言葉が浮かんできて、私はそれを口に出す。

 

「おいで、私の眷属‼︎雷よ、暗雲を裂け‼︎覇王眷竜ダークヴルム‼︎」

 

私がその名を呼ぶと、空に暗雲が現れ、雷鳴が鳴り響く。

 

そして一際大きな雷鳴が轟くと暗雲の中から、鋭い刃の身体を持つ緑龍が私を守るように降り立った。

 

 

〈覇王眷竜ダークヴルム〉☆4 ドラゴン族 闇属性

ATK1800

 

 

「おぉ‼︎カッコいいな、闇‼︎その口上もすっごくカッコいい‼︎」

 

「えへ、へ。私は、覇王眷竜ダークヴルムの、効果、発動‼︎インフィニットドミネーション‼︎このカードが召喚・特殊召喚に成功した場合、デッキから覇王門ペンデュラムモンスター1体を、手札に加える‼︎私はデッキから覇王門 無限(インフィニティ)を、手札に、加える‼︎」

 

「それも闇が持ってたカードだな‼︎くぅ〜どんなことできるのか楽しみだぜ‼︎」

 

「っ?」

 

私が行動する度に、遊騎は目をキラキラと輝かせながら嬉しそうにくしゃっとした笑顔を浮かべる。

 

そんな遊騎を見ていると、なんだか胸の辺りがぽかぽかとしてきて、私は思わず胸を押さえる。

 

なんだろう、なんか変な感じ………こんなこと、今までなかったのにな………

 

「ん?どうかしたのか?あ、もしかしてルール分からなくなっちゃったか?」

 

「ううん、大丈夫」

 

私を見て不思議そうに首を傾げる遊騎に、私は首を振って応える。

 

なんだか胸のぽかぽかは治らないけど、今は遊騎とデュエルをしなきゃ。

 

「私は、ジェムナイトエメラルを、召喚‼︎」

 

 

〈ジェムナイトエメラル〉☆4 岩石族 地属性

ATK1800

 

 

目の前に現れたのは翡翠の盾を持つ岩石の戦士。

 

「バトル‼︎覇王眷竜ダークヴルムで、セットモンスターを、攻撃‼︎ダークライトニングクラッシュ‼︎」

 

「セットモンスターは朱雀の召喚士‼︎」

 

 

〈朱雀の召喚士〉☆4 魔法使い族 炎属性

DEF1300

 

 

遊騎のフィールドに現れた赤い鎧の戦士に守られた女性に紫電を纏ったダークヴルムが激突し、その身体を吹き飛ばして爆散させた。

 

「よし、破壊、した‼︎」

 

「安心するのはまだ早いぜ?朱雀の召喚士の効果発動‼︎このカードが相手モンスターの攻撃で破壊され墓地へ送られた時、デッキから攻撃力1500以下の戦士族モンスター1体を攻撃表示で特殊召喚する‼︎」

 

「えっ⁉︎」

 

「来い、俺のデッキのキーカード‼︎クィーンズナイト‼︎」

 

 

〈クィーンズナイト〉☆4 戦士族 光属性

ATK1500

 

 

遊騎が呼び出したのは赤い鎧を身に纏った女性の騎士。

 

「せっかく倒したのに、モンスターが増える、なんて、ズルい」

 

「ズルいって、そういう効果なんだから仕方ないだろ?」

 

「でも、ジェムナイトエメラルの方が、攻撃力は上。倒せる。ジェムナイトエメラルで、クィーンズナイトを、攻撃‼︎エメラルドタイフーン‼︎」

 

ジェムナイトエメラルが翡翠の盾から暴風を生み出し、クィーンズナイトを吹き飛ばそうとする。

 

それを見て、遊騎はニヤリと笑う。

 

「甘いぜ、闇‼︎リバースカードオープン‼︎罠発動‼︎ 鎖付きブーメラン‼︎」

 

「‼︎罠、カード?」

 

「このカードは2つの効果は持ちその中から1つ、または両方を選択してこのカードを発動できる‼︎1つ目は相手モンスターの攻撃宣言時に、その攻撃モンスター1体を対象としてその攻撃モンスターを守備表示にする効果‼︎もう1つは自分フィールドの表側表示モンスター1体を対象としてこのカードを攻撃力500ポイントアップの装備カード扱いとして、その自分のモンスターに装備する効果だ‼︎」

 

「っ⁉︎ということは………‼︎」

 

「俺は2つ目の効果でこのカードをクィーンズナイトに装備するぜ‼︎」

 

 

クィーンズナイト

ATK1500→2000

 

 

「攻撃力が、クィーンズナイトの方が、上に⁉︎」

 

「反撃だ‼︎クィーンズナイト‼︎ブーメランクィーンズスラッシュ‼︎」

 

暴風に空に巻き上げられたクィーンズナイトの手元に鎖がついたブーメランが現れ、クィーンズナイトはブーメランをジェムナイトエメラルに向かって投げ、鎖を身体に巻きつける。

 

自身の暴風により吹き飛ばされるクィーンズナイトに巻き込まれるようにジェムナイトエメラルが耐性を崩すと、その隙にクィーンズナイトは暴風の範囲内から逃れ、頭上からジェムナイトエメラルを斬り伏せた。

 

 

闇 LP8000→7800

 

 

「うっ、やっぱり、遊騎、ズルっ子」

 

「ズルじゃねぇって。こういうのは、ズルじゃなくて、戦術っていうんだよ」

 

「むぅ………メインフェイズ、2、カードを1枚、伏せて、ターンエンド」

 

 

闇 LP7800 手札4

 

ーーーーー ー

ーー○ーー

ー ー

ーー○ーー

ーー△▲ー ー

 

遊騎 LP8000 手札2

 

 

「俺のターン、ドロー‼︎俺はキングスナイトを召喚‼︎」

 

 

〈キングスナイト〉☆4 戦士族 光属性

ATK1600

 

 

クィーンズナイトの横に並び立ったのは黄金の鎧を身に纏った騎士。

 

そしてクィーンズナイトとキングスナイトはお互いに剣を掲げて重ね合う。

 

「キングスナイトの効果発動‼︎自分フィールドにクィーンズナイトが存在し、このカードを召喚に成功した時、デッキからジャックスナイト1体を特殊召喚する‼︎集え、絵札の三銃士‼︎来い、ジャックスナイト‼︎」

 

 

〈ジャックスナイト〉☆5 戦士族 光属性

ATK1900

 

 

クィーンズナイトとキングスナイトの剣に合わせるように剣を掲げる青い鎧の騎士が現れる。

 

「凄い、一気に、2体、増えた」

 

「にひひっ‼︎コイツらは絵札の三銃士‼︎俺のお気に入りの騎士達なんだ‼︎カッコいいだろ?」

 

「うん、カッコいい」

 

自身を守るように並ぶ絵札の三銃士を見て自慢気に笑う遊騎に、私は頷く。

 

絵札の三銃士も、三銃士のことを誇らし気に見ている遊騎も、キラキラしてて、カッコいい。

 

三銃士に守られながらもキラキラとした笑顔で笑う遊騎は、まるで王子様みたい。

 

「へへっ‼︎行くぜ‼︎バトル‼︎クィーンズナイトで覇王眷竜ダークヴルムを攻撃‼︎ブーメランクィーンズスラッシュ‼︎」

 

「迎え撃って、覇王眷竜ダークヴルム‼︎ダークライトニングクラッシュ‼︎」

 

紫電を纏ったダークヴルムがクィーンズナイトに突撃するが、クィーンズナイトは跳躍することで躱し、ブーメランをダークヴルムに投げつける。

 

ブーメランが直撃し、怯んだダークヴルムを一瞬で距離を詰めたクィーンズナイトが斬り裂いた。

 

 

闇 LP7800→7600

 

 

「っ、ダークヴルム………覇王眷竜ダークヴルムは、ペンデュラムモンスター。破壊されたから、エクストラデッキに、加わる」

 

「つまりはまた出てくるかもってことだな。それでも俺は臆さないぜ‼︎行け‼︎キングスナイトでダイレクトアタック‼︎キングススラッシュ‼︎」

 

「うぅっ」

 

 

闇 LP7600→6000

 

 

「追撃だ‼︎ジャックスナイトでダイレクトアタック‼︎ジャックススラッシュ‼︎」

 

「きゃっ‼︎」

 

 

闇 LP6000→4100

 

 

キングスナイトとジャックスナイトの連撃で私のライフが大きく削られる。

 

初心者の私相手でも、遊騎は容赦無い………でも、だからこそ、嬉しいし、楽しい‼︎

 

それだけ、遊騎が真剣に私に向き合ってくれてるってことだから。

 

「俺はカードを1枚伏せてターンエンドだ‼︎」

 

 

闇 LP4100 手札4

 

ーーーーー ー

ーーーーー

ー ー

ー○○○ー

ー▲△▲ー ー

 

遊騎 LP8000 手札1

 

 

「私の、ターン、ドロー‼︎」

 

自分の手札を見て、遊騎に教えて貰ったことを思い出しながら戦略を考える。

 

このままだと絵札の三銃士にじりじりと削られていってしまう。

 

それに残っていたらリリースして強いモンスターが出てくるかもしれない。

 

どうにかして絵札の三銃士を一気に倒せないかな?

 

そうやって悩んでいるとーーー

 

『ーーー‼︎』

 

「えっ?」

 

「ん?闇?」

 

ーーーまた私の耳に何かの鳴き声が聞こえた。

 

「今、何かの、鳴き声、聞こえなかった?」

 

「鳴き声?いや、俺は聞こえてないけど………」

 

私の言葉に遊騎は首を傾げる。

 

遊騎には聞こえていない?

 

でも、今確かにあの鳴き声が聞こえた。

 

私は首を傾げながらも、私は鳴き声が聞こえた場所ーーー私の貸して貰ったデュエルディスクのエクストラデッキが入っている場所を見る。

 

別に変わったことはないみたいだけど………

 

そう思ってカードを仕舞おうとすると、エクストラデッキに入っていたカードの1枚が鈍い闇色に光った気がした。

 

「?あ、このカードなら………」

 

光ったように見えたカードに目を向けて、テキストを読んでいく。

 

これなら遊騎の絵札の三銃士を倒せるかも。

 

なら………

 

「私は、スケール0の、覇王門零と、スケール13の、覇王門無限で、ペンデュラムスケールを、セッティング‼︎」

 

「なんだって⁉︎」

 

私がペンデュラムスケールをセットすると、私を挟むように暗黒の柱が立ち上り、その闇の中から2つの門が現れ、その門に0と13の数字が刻まれる。

 

「これにより、私は、1から、12までの、モンスターを、同時に、召喚、可能‼︎」

 

「1から12までのモンスターを⁉︎すげー‼︎なんでも出し放題じゃん⁉︎」

 

「行く、よ?私の、魂に宿る、覇王よ‼︎善悪を超越し、運命を、捻じ伏せろ‼︎ペンデュラム召喚‼︎おいで、私の、眷属達‼︎」

 

私がそういうと暗黒の門が開き、そこからフィールドに向かって闇に包まれた3つの波動が放たれる。

 

「レベル7、霞の谷(ミストバレー)の巨神鳥‼︎」

 

 

〈霞の谷の巨神鳥〉☆7 鳥獣族 風属性

ATK2700

 

 

最初に現れたのは金色の羽根を持つ巨大な怪鳥

 

「レベル3、チューナーモンスター、ドラグニティ-ブラックスピア‼︎」

 

 

〈ドラグニティ-ブラックスピア〉☆3 ドラゴン族 風属性

DEF1000

 

 

巨神鳥に続くように現れたのは槍のような顔を持つ黒竜。

 

そして最後にフィールドに舞い降りるのは鋭い刃の身体を持つ緑龍。

 

「EXデッキから舞い戻れ、レベル4、覇王眷竜ダークヴルム‼︎」

 

 

〈覇王眷竜ダークヴルム〉☆4 ドラゴン族 闇属性

ATK1800

 

 

「一気に3体、しかも1体は上級モンスターか‼︎だったら、リバースカードオープン‼︎罠発動‼︎奈落の落とし穴‼︎相手が攻撃力1500以上のモンスターを召喚・反転召喚・特殊召喚した時にその攻撃力1500以上のモンスターを破壊し除外する‼︎これで闇のモンスターは破壊される‼︎」

 

「っ⁉︎させ、ない‼︎奈落の落とし穴に、チェーンして、霞の谷の巨神鳥の、効果、発動‼︎魔法・罠・モンスターの効果が発動した時、自分フィールドの、ミストバレーカード1枚を、対象として、その自分のミストバレーカードを、持ち主の手札に戻し、その発動を無効にし、破壊する‼︎」

 

「っ‼︎無効効果………‼︎」

 

「私は、霞の谷の巨神鳥、自身を手札に戻し、奈落の落とし穴を破壊する‼︎」

 

巨神鳥は荒々しい鳴き声をあげると、その身体に風を纏いながら翼を羽ばたかせ、風を起こすと、奈落の落とし穴を埋め立てて私の手札に戻ってきた。

 

危ないところだった。

 

巨神鳥がいなければ、この時点で終わってた。

 

だけど、まだ可能性はある。

 

「速攻魔法、発動‼︎スターチェンジャー‼︎ フィールド上に、表側表示で存在するモンスター、1体を選択し、2つの効果から、1つを、選択して、発動できる。そのモンスターの、レベルを、1つ、上げるか、そのモンスターの、レベルを、1つ、下げる。私は、1つ目の、効果で、ドラグニティ-ブラックスピアの、レベルを、1つ、上げる‼︎」

 

 

ドラグニティ-ブラックスピア

☆3→4

 

 

スターチェンジャーの効果を受け、ブラックスピアのレベルが4になる。

 

これで準備は整った。

 

「レベル4モンスターが2体………いや、ドラグニティ-ブラックスピアはチューナーだから………」

 

「行く、よ。私は、レベル4、闇属性、ペンデュラムモンスター、覇王眷竜ダークヴルムに、レベル4、チューナーモンスター、ドラグニティ-ブラックスピアをチューニング」

 

「やっぱりシンクロ召喚か‼︎」

 

ブラックスピアが光の輪になり、ダークヴルムが小さな黒い星に変わり、黒光りする道になる。

 

そして私がエクストラデッキから1枚のカードを手に取ると、ダークヴルムの時のように胸の奥から自然と言霊が浮かんできて、私はそれを口に出す。

 

「覇王に仕えし終末の風竜よ‼︎死の風を振るい、刃向かう者を薙ぎ払え‼︎シンクロ召喚‼︎」

 

黒光りする道が輝くと、その中から現れたのは黒緑の身体に白と青の鎧をつけた覇王の眷属たる暴虐の竜。

 

「おいで、私の眷属‼︎ 終末の四竜( ドラゴンクォーターズ)の滅びの暴風‼︎覇王眷竜クリアウィング‼︎」

 

 

〈覇王眷竜クリアウィング〉☆8 ドラゴン族 闇属性

ATK2500

 

 

「また覇王眷竜‼︎コイツも闇が持ってたカードだな‼︎」

 

「私の、眷属の力、じっくり、味わって‼︎覇王眷竜クリアウィングの効果、発動‼︎このカードが、シンクロ召喚に、成功した場合、相手フィールドの、表側表示モンスターを、全て、破壊する‼︎」

 

「全体破壊だって⁉︎」

 

「吹き荒れろ、滅びの暴風‼︎ディザスターストーム‼︎」

 

覇王眷竜クリアウィングを中心に闇を纏った竜巻が生み出される。

 

その竜巻が絵札の三銃士に向こうとしたところで、急に竜巻がかき消えた。

 

「えっ⁉︎」

 

「残念だけど、その効果は通させないぜ‼︎ 覇王眷竜クリアウィングの効果にチェーンしてリバースカードオープン‼︎罠発動‼︎もの忘れ‼︎」

 

「もの、忘れ⁉︎」

 

「相手フィールド上に表側攻撃表示で存在する

モンスターの効果が発動した時、その発動した効果を無効にし、そのモンスターを表側守備表示にする‼︎」

 

 

覇王眷竜クリアウィング

ATK2500→DEF2000

 

 

遊騎が発動した罠カードに、覇王眷竜クリアウィングは頭を押さえてフィールドに伏せる。

 

私は、神父さんに拾われるまでの記憶がない。

 

だけど、まさか記憶のない私が持っていたモンスターまで効果を忘れちゃうなんて思ってもみなかった。

 

「ふぅ、あっぶねぇ。流石に今のはひやひやしたぜ」

 

遊騎は汗を拭うように額を手で擦る。

 

私に打てる手はもうない。

 

幸い、守備表示でも覇王眷竜クリアウィングの能力は絵札の三銃士に超えられてはいない。

 

その上、覇王眷竜クリアウィングには1ターンに1度、相手モンスターと戦闘を行うダメージ計算前にそのモンスターを破壊し、破壊したモンスターの元々の攻撃力分のダメージを相手に与える効果、コラプスハリケーンもある。

 

まだ勝負はどうなるかわからない。

 

「私は、これで、ターンエンド」

 

 

闇 LP4100 手札1

 

△ーーー△ ー

ーーーーー

□ ー

ー○○○ー

ーー△ーー ー

 

遊騎 LP8000 手札1

 

 

「ははっ‼︎やるな、闇‼︎まさか俺のあまりカードで作ったデッキをそこまで使いこなして切り札まで出しちまうとは思わなかったぜ」

 

「っ、また?」

 

そういって遊騎が心底楽しそうに笑う。

 

そんな遊騎を見ていると、また胸の辺りがぽかぽかとあったかくなっていく。

 

デュエルを初めてからの私は、なんだかちょっと変だ。

 

今までに感じなかった色々なあったかいもので、私の中が満たされていく感じがする。

 

だけど、それは不思議と嫌な気はしない。

 

これも、私が失った記憶が関係しているのだろうか?

 

わからない………わからないけど………

 

「遊騎」

 

「ん?」

 

「ありがとう、私に、デュエルを、教えてくれて」

 

私にこのあたたかいものをくれたのは、間違いなく目の前にいるこの男の子だ。

 

きっとこの男の子が教えてくれなかったら、私が永遠に手にすることができなかったものだ。

 

だからこそ、お礼の言葉を口にしてみたのだが、言われた遊騎はきょとんとした表情を浮かべた。

 

流石に唐突すぎたかな?

 

でも、どうしようもなく伝えたくなってしまったのだ。

 

私に尊いものを教えてくれたこの男の子に、感謝の言葉を。

 

遊騎は私の言葉に少しの間呆けていたが、すぐにその表情は満面の笑みに変わった。

 

「どういたしまして。だけど、負けてやったりなんかはしないぜ?このデュエルは俺が勝つ‼︎」

 

「ん。遊騎のデュエル、見せて欲しい」

 

私はまだ、何も知らない。

 

自分のことも、私が持っているカード達のことも、デュエルのことも、何にも知らない。

 

それを、この人なら教えてくれる気がするのだ。

 

この人の………遊騎のデュエルなら。

 

「へへっ‼︎じゃあたくさん見せてやるぜ‼︎俺のターン、ドロー‼︎よし‼︎魔法カード、強欲で金満な壺‼︎自分のメインフェイズ1開始時に、自分のエクストラデッキの裏側表示のカード3枚または6枚をランダムに裏側表示で除外して除外したカード3枚につき1枚、自分はデッキからドローする‼︎ただし、このカードの発動後、ターン終了時まで自分はカードの効果でドローできない‼︎俺はエクストラデッキから6枚のカードを除外して、カードを2枚、ドロー‼︎」

 

遊騎が自身のエクストラデッキから6枚のカードを除外してデッキから2枚のカードを勢いよくドローする。

 

ドローしたカードを見た遊騎はくしゃっとした笑顔を浮かべた。

 

「ふっ‼︎引いたぜ‼︎俺の新しい切り札‼︎」

 

「遊騎の、切り札?」

 

「ああ、行くぜ‼︎自分フィールドのモンスター3体、クィーンズナイト、キングスナイト、ジャックスナイトをリリースし、手札からこのモンスターを特殊召喚する‼︎」

 

「っ⁉︎絵札の三銃士をリリース⁉︎」

 

絵札の三銃士が粒子に変わり、空に集まっていく。

 

集まった粒子が弾けると、空から舞い降りたのは龍の鎧を見に纏った漆黒の戦士。

 

その戦士はフィールドに降り立つと、力強い咆哮を上げた。

 

「呪われた運命に抗う孤独の戦士‼︎ DーHERO( デステニーヒーロー)BlooーD( ブルーディー)‼︎」

 

 

〈DーHERO BlooーD〉☆8 戦士族 闇属性

ATK1900

 

 

「DーHERO………これが、遊騎の切り札‼︎」

 

「運命を覆すヒーローの力、見せてやる‼︎DーHERO BlooーDの永続効果、シールデステニー‼︎このカードがモンスターゾーンに存在する限り、相手フィールドの表側表示モンスターの効果は無効化される‼︎」

 

「っ、効果無効⁉︎」

 

BlooーDの鎧から闇が吹き出し、辺りの風景が夜に変わる。

 

そのBlooーDから吹き出した闇により、覇王眷竜クリアウィングが力を失っていく。

 

「そしてDーHERO BlooーDの効果発動‼︎カースアブソーブ‼︎1ターンに1度、相手フィールドのモンスター1体を対象として、その相手モンスターを装備カード扱いとして1枚だけこのカードに装備し、このカードの攻撃力は、このカードの効果で装備したモンスターの元々の攻撃力の半分だけアップする‼︎対象は覇王眷竜クリアウィング‼︎」

 

「覇王眷竜クリアウィングを装備カードに⁉︎」

 

BlooーDが覇王眷竜クリアウィングに手を伸ばすと、BlooーDの背中に付いている龍の爪が覇王眷竜クリアウィングに放たれ、その爪に貫かれた覇王眷竜クリアウィングはガラスのように砕け、粒子に変わるとBlooーDに吸い込まれていく。

 

BlooーDに吸い込まれ、遊騎のフィールドに移動していく覇王眷竜クリアウィングが鈍い闇を纏って光る。

 

その瞬間に思い出す。

 

私の持っているカード達に、私以外が触ったらダメだということを。

 

黒い孤児院で私のカードに触ろうとした人が雷に撃たれたみたいに、遊騎までそれで倒れちゃったら………⁉︎

 

「っ、ダメ‼︎覇王眷竜クリアウィング‼︎」

 

遊騎を傷つけないで‼︎

 

そう願いを込め、私は覇王眷竜クリアウィングに向けて叫びをあげる。

 

『ーーー………』

 

すると、また何かの鳴き声が聞こえたかと思うと、覇王眷竜クリアウィングが纏っていた闇が霧散していった。

 

 

DーHERO BlooーD

ATK1900→3150

 

 

「へへっ‼︎ 覇王眷竜クリアウィングの力はいただいたぜ?」

 

「あ、れ?」

 

「?どうかしたのか?闇?」

 

覇王眷竜クリアウィングに触っても変わらない様子の遊騎に、私は思わず呆然としてしまう。

 

なんとも、ない?

 

でも、なんで………わからない………わからないけど………

 

「ううん、なんでも、ない」

 

「?変な闇」

 

私が首を振ると、遊騎は不思議そうに首を傾げた。

 

理由はわからない………だけど、遊騎が無事ならそれでいい。

 

本当はこの時、私の願いを聞いて闇のカードである覇王眷竜クリアウィングが遊騎を傷つけるのを止めてくれていたのだが、そのことに気づくのは何年も後のことになる。

 

「なんだかよくわからないけど、これでフィナーレだぜ?魔法カード、一騎加勢‼︎フィールドの表側表示モンスター1体を対象としてそのモンスターの攻撃力はターン終了時まで1500ポイントアップさせる‼︎」

 

「っ⁉︎ということは………‼︎」

 

「俺はDーHERO BlooーDの攻撃力を1500ポイントアップさせる‼︎」

 

 

DーHERO BlooーD

ATK3150→4650

 

 

「攻撃力………4650⁉︎」

 

「これで終わりだ‼︎バトル‼︎DーHERO BlooーDでダイレクトアタック‼︎」

 

BlooーDは地面を強く蹴って跳び上がると空中で一回転して足に闇を纏い跳び蹴りの体勢に移る。

 

「デソレイションフィアー‼︎」

 

闇を纏ったBlooーDはそのままの勢いで私の身体を貫き、私のライフポイントは0になった。

 

 

闇 LP4100→0

 

 

ーーーーーーー

 

 

「へへっ‼︎俺の勝ちだぜ‼︎」

 

「ん、私の、負け」

 

デュエルに勝った遊騎はとても嬉しそうな笑顔で笑う。

 

そんな遊騎を見て、島さんは呆れたように首を振る。

 

「遊騎君………君ねぇ、初心者の闇君相手に何もそこまで全力でやらなくても………」

 

「俺はデュエルでは手を抜かねぇって決めてるんだ。どんな時も全力じゃないと、楽しくないじゃん」

 

「いや、だからってねぇ………」

 

「な、闇だって、楽しかったよな?」

 

そうやって笑顔で尋ねてくる遊騎に、私は力強く頷いた。

 

「うん、楽しかった」

 

「ほら」

 

「えぇ………まぁ、闇君がいいのならそれでもいいんだが………」

 

島さんがどこか納得のいかなそうな顔で唸る。

 

そんな島さんを横に置き、私は遊騎に話しかける。

 

「遊騎」

 

「ん?なんだ、闇?」

 

「また、デュエル、したい」

 

私の言葉に、遊騎は一瞬目を丸くしたが、すぐに満面の笑みでデュエルディスクを起動した。

 

「ああ、いいぜ‼︎まだ帰らないといけない時間まではしばらくあるし、何回でも、相手になるぜ‼︎」

 

「‼︎うん、何回でも、しよ‼︎」

 

私も遊騎のようにデュエルディスクを起動する。

 

それから、私達は遊騎の帰る時間になるまでずっと2人でデュエルをした。

 

何回やっても、遊騎に勝つことはできなかったけど、デュエルをする度に胸の辺りがぽかぽかとあったかくなって、今まで見えていなかった、色々なことが見えていくような気がした。

 

この日、初めてーーー私は、自分が生きているんだということを、感情があるのだと言うことを、知ることができた。

 

 

ーーーーーーー

 

 

「遊騎君。そろそろ帰らないといけない時間じゃないかい?」

 

「えっ?あ、やべぇ‼︎もうこんな時間か‼︎」

 

しばらく遊騎とデュエルをしていると、島さんの言葉で時計を見た遊騎が慌て出す。

 

「わりぃ、闇。今日はもう帰んなきゃ。続きはまた今後やろうぜ‼︎」

 

「また、今後………」

 

「おう。次は家に置いてるカードも持ってくるからさ‼︎闇のデッキもうんと強くして、またやろうぜ‼︎」

 

そういって遊騎が楽しそうに笑う。

 

だけど私は、それに素直に頷くことができなかった。

 

逃亡することはできたが、多分黒い孤児院の大人達は私を探しているだろう。

 

大人達は私のことをカテゴリーAーーー大事な被験体だと言っていた。

 

見つかれば私が次にこの店にこれる可能性は限りなく0だ。

 

そもそも、今までは大丈夫だったが、あの黒い孤児院では実験で倒れたまま永遠に動けなくなった子供達もいた。

 

あの子供達のように、次は私が動かなくなっても、おかしくない。

 

かといって、私にはこの身1つで、他に行く場所があるわけでもない。

 

どうしたって、これから先、遊騎に会えることはないのだ。

 

黙り込む私を見て、遊騎は不思議そうな顔をすると、困ったような笑顔で自分の小指を私の小指を絡めた。

 

「よし、じゃあ約束だ‼︎」

 

「約、束?」

 

「そうだ。俺は絶対にまた闇に会って、デュエルをする‼︎友達同士の、大事な約束だ‼︎」

 

そういうと、遊騎は絡めた小指を動かして歌う。

 

「ゆーびきりげんまん♪ウソついたら針千本のーます♪ゆーびきった♪………よし、約束完了‼︎また会おうぜ‼︎」

 

「あっ」

 

そういうと遊騎は自分のカードを持っていたリュックにしまうと店の出口の方に走っていきーーー

 

「またな、闇‼︎」

 

ーーーそういって、笑いながら店を出て行った。

 

「また………約束………」

 

遊騎の言った言葉を呟くと、胸の辺りがじんわりと熱くなっていく。

 

そんな私に、近くで様子を伺っていた島さんが話しかけてくる。

 

「さあ、闇君もお家に帰らないと親御さんが心配するよ」

 

「………親、いない」

 

私がそう呟くと島さんが一瞬目を見開き、申し訳無さそうな表情を浮かべた。

 

「それは………悪いことを聞いたね」

 

「悪いこと?」

 

「その、闇君に親がいないということを………」

 

「それは、悪いこと、なの?ただの、事実」

 

私の言葉に島さんは悲しそうな表情で目を伏せると、頭を振って優しい笑顔で私を見る。

 

「いや………うん、これ以上は言わないでおこう。それでも帰る場所はあるだろう?」

 

「………あるけど、帰りたくない」

 

「それはまた………家出でもしてきたのかい?」

 

「帰ったら、多分、私は、もう、ここに、これない」

 

「よっぽど厳しいところにいるのかい?親がいないってことは、親戚の家かな?それとも何処かのーーー」

 

「私の、住んでる、場所、名前、分からない。壁も、天井も、真っ黒な、施設。住んでる、子達、黒い、孤児院、って、言ってた」

 

私がそう呟いた瞬間、島さんが勢いよく目を見開いて私の両肩に手を置いた。

 

その表情はとても真剣で、私は驚いてしまう。

 

「島、さん?」

 

「闇君………黒い孤児院、そう、言ったのかい?壁も天井も真っ黒な施設だと?」

 

島さんの言葉に困惑しながらも私は頷く。

 

頷いた私を見て、島さんは苦い表情で深くため息を吐くと真剣な表情で口を開いた。

 

「確かに、そこは闇君が帰るには不適切な場所のようだ。悪いけど、詳しいことを聞かせてくれないかい?そこで何があったのか………そして、君がどういう存在なのか」

 

私は、島さんに全てを話した。

 

自分の記憶がなく、倒れているところを拾われたこと。

 

デュエルセキュリティという人にあの施設に連れていかれ、実験をされてカテゴリーAと呼ばれていること。

 

自分の記憶の手がかりを探すため、逃げ出してきたこと。

 

自分が分かることは全部島さんに話しきった。

 

話を聞いた島さんは渋い表情を浮かべると、私の身体を強く抱きしめた。

 

「すまなかった。辛い話をさせてしまったね」

 

「辛く、ない。ただの、事実」

 

「その事実が辛いことなのだよ………いずれ、君にも分かる時がくる」

 

そういって島さんは悲しそうに目を伏せる。

 

「私、どうすれば、いい?」

 

「あの孤児院がまだあるのだと言うのなら、君を戻すわけにはいかないね。かといって、何もせず私が君を庇い続けるのも難しい」

 

「そう、仕方ない」

 

島さんの言葉に私は淡々と頷く。

 

そんな私を見て、島さんは真剣な表情で私を見た。

 

「勘違いしないで欲しい。それは私が何もしなければ( ・・・・・・・)の話だよ」

 

「?」

 

「古い友人に話をつけよう。今日はここに泊まって行くといい。明日には、君の問題の大半は解決されるハズだよ」

 

「そうなの?」

 

「ああ。私もあの孤児院とは浅からぬ因縁があってね」

 

そこまで言うと島さんは私の手を引き、お店の奥の方に移動していく。

 

「あの孤児院が再び活動しているというのであれば、ほってはおけないのさ」

 

そういって悲しそうな表情を浮かべる島さんの身体から私が持つカード達と同じ、深い闇の色を見た気がした。

 

 

ーーーーーーー

 

 

「知らない、天井?」

 

次の日、目を覚ました私はボーっとした頭で木の色をした天井を見て思わずそんなことを呟く。

 

辺りを見渡し、壁も天井も真っ黒ではない世界を見て、ようやく昨日のことを思い出す。

 

島さんに連れられ、カードショップにある生活スペースに移動した私は、島さんが作ってくれた晩ご飯を食べてお風呂に入るとそのまま寝てしまったのだ。

 

しばらくボーっとしていると、美味しそうな匂いがしてきて、私は匂いに釣られて部屋を出る。

 

「おはよう。目が覚めたかい?ちょうどご飯ができたから起こしにいこうと思ったところなんだ。こっちにおいで」

 

リビングに移動すると島さんがテーブルの上に美味しそうなご飯を用意していた。

 

私は島さんの言葉に頷くと、テーブルに移動して椅子に座る。

 

「それでは、食べるとしよう。いただきます」

 

「いただき、ます」

 

島さんがご飯を食べ始めるのを見て、私もご飯を食べ始める。

 

「………闇君、その食べ方はどうかと思うんだが………」

 

「?変?」

 

「変というか、それはそんな風にご飯にザバーッとかけるものではないと思うよ」

 

「そう?この方が美味しい」

 

「………」

 

島さんは困ったように笑うと、テレビのリモコンを操作する。

 

すると、近くにあったモニターがつき、映像が流れ始めた。

 

『速報です。昨夜、セントラルエリアの一角にある孤児院が何者かに襲撃されました』

 

「あ………」

 

モニターに映っていたのは、私がいた壁も天井も真っ白な世界。

 

私が実験を受けていたあの黒い孤児院が映っていた。

 

『昨夜0時頃、セントラルエリアにある孤児院から叫び声が聞こえると通報があり、デュエルセキュリティが駆けつけたところ、孤児院は何か 巨大な物に押し潰された( ・・・・・・・・・・・)かのような形で半壊していたとのこと。被害者は孤児院に暮らしていたと思わされる職員20人で、子供達に被害者はいませんでした。発見された職員は蜘蛛の糸のようなもの( ・・・・・・・・・・)で縛られており、救出され、事情聴取を受けた職員は『蜘蛛の化け物が現れた』『黒い巨人が建物を壊した』等の証言がなされているなど、錯乱している模様。また、現場を調査したところ、この孤児院では引き取った子供達に実験を行っていたという証拠が出てきており、デュエルセキュリティでは引き続き調査を続けていく模様です。それでは、次のニュースです』

 

モニターで流れていた映像が切り替わるところで、私は島さんに視線を向ける。

 

「島さんが、やったの?」

 

「………」

 

私の問いに島さんは困ったように肩を竦める。

 

確かな言葉にはしていない。

 

でも、あの孤児院のこと、そして昨日の島さんの言葉を思い返せば、わからないわけじゃない。

 

「ありがとう、島さん」

 

「さて、私がお礼を言われるようなことは何もないと思うけどね」

 

「………ご飯を、くれて、泊めて、くれた」

 

「ああ、それはそうだね。じゃあ、どういたしまして、だ」

 

そういって薄く笑う島さんと朝食を食べていると、不意にお店の方から音がした。

 

私が首を傾げていると、島さんが困ったような表情を浮かべた。

 

「やれやれ、まだ朝ご飯中だというのに………気にせずご飯を食べてなさい。古い知り合いが訪ねてきただけだから。後で闇君にも紹介するよ」

 

島さんがお店の方に出て行くのを見送り、私は島さんに言われた通りに朝ご飯を食べていく。

 

しばらくして、私が朝ご飯を食べ終えたところでお店の方から島さんと見覚えがある男の人が入ってきた。

 

「お邪魔するよ」

 

「あ………神父、さん」

 

入ってきたのは、最初に記憶を失い、倒れていた私を助けてくれた神父さんだった。

 

神父さんは私を見ると、屈み込んで私に視線を合わせると申し訳なさそうな表情を浮かべた。

 

「すまなかったね」

 

「?何が?」

 

「私の不手際で君を あんなところ( ・・・・・・)に送ってしまった。君のことは気にかけていたのだが、デュエルセキュリティからは『検査のために病院に入院。衰弱が激しいためしばらくは面会謝絶の状態だ』と聞かされていてね。まさかデュエルセキュリティの中にまであの外道共が紛れているとは思っていなかった。本当にすまない」

 

「それ、神父、さんの、せいじゃ、ない。悪い、の、悪い、人の、せい」

 

そう、悪いのは神父さんじゃない。

 

神父さんは記憶もなく倒れていた私を助けてくれただけだ。

 

その後、私の取り調べをしてあの黒い孤児院に連れて行ったのはデュエルセキュリティとかいう人達だ。

 

悪いのはその人達であって神父さんでは決してない。

 

「そうか、ありがとう」

 

「とはいえ、君の不手際には間違いないからね。偶々、私に闇君と接点ができたからよかったものの、なかったら今もこの子は外道が蔓延るあの悪魔の施設の中だったのだから」

 

「わかっている。そのために我々はここにいるのだからな。この街に巣食う外道共をまとめて神の御許に送るまで、私達が満足することはないのだから」

 

「神の御許に送る………ある意味最大の皮肉だね」

 

そんな言葉を言う島さんと神父さんの声は何処か冷たく暗い。

 

だけど、それだけのことがこの2人にもあったのだと言うことは何となく私にもわかった。

 

「さて、余計な話をしてしまったが、そろそろ本題に入ろう」

 

「本題?」

 

「君がいたあの黒い孤児院はなくなった。あそこにいた子供達は別の孤児院や保護してくれる信頼にたる人物の元に移動している。今回の件には腐敗していたデュエルセキュリティの人間まで関与していた。孤児院の子供達の形跡はマスコミ達もかなり注目している。この移動の際にまた似たような実験施設に送られる可能性はかなり低いだろう」

 

神父さんの言葉に私は頷く。

 

私はあの施設にいた子供達とはほとんど関わることはなかったけど、それでもこれからあんな目に合わないというのであればそれはとてもいいことなのだろう。

 

「そこで、だ。同じように君の行き場を考えなければならなかったのだが、少々面倒なことがあってね」

 

「何?」

 

「君のことは島から聞いた。あの黒い孤児院で、君はカテゴリーAと呼ばれていたと。連中にとって君はとても魅力的な研究材料なのだろう」

 

「時定。言い方を考えろ」

 

「だが、事実だ。真実は耳に痛いもの、多少の苛つきは我慢して貰わないとね」

 

「構わない、事実」

 

島さんは不快そうに顔を歪めるが、私は神父さんの言葉に頷く。

 

あのカテゴリーAという言葉にどれ程の意味が込められているのかは知らないけど、それがあの黒い孤児院にいた大人達にとって重要だったのは真実だ。

 

「一応、あそこにあった君のデータはほとんど破棄した。残っているのはあの施設に君がいたことぐらいだ。だが、あの施設に全てのデータを置いていたとは限らない。似たような施設があり、そこにも君のデータが運ばれている可能性もある」

 

「つまり、私は、まだ、危ない?」

 

私の言葉に神父さんは頷く。

 

そのことに対する落胆は特にない。

 

そんなことなど、最初から分かっていたから。

 

あの黒い孤児院での私のことを知っている人間がいる限り、私に本当の意味で安全な場所なんて存在しないのだから。

 

「とはいえ、だ」

 

そんな私を見て、神父さんは優しい表情を浮かべる。

 

「あの黒い孤児院による被害者がいつまでも怯えて暮らさなければならないなど、道理が合わない。君にはこれからの人生でたくさん幸せになる権利がある」

 

「幸せ、に?」

 

「そうだとも。それは誰にでもある権利であり、義だ。そして、義を守りきれない奴は、大人として格好悪い。私達は大人としてそう在りたくはないのだよ。そこでだ」

 

そこで言葉を区切ると、神父さんは私に向かって手を差し出した。

 

「私のところにこないか?」

 

「神父、さんの、ところ?」

 

「ああ」

 

首を傾げる私に神父さんは力強く頷く。

 

「私はこれでも結構顔が広く、腕も長くてね」

 

「腕、長くないよ?」

 

「………すまない、比喩では分かりにくかったか。用は色々な人と友達で君を守ることができるということだ」

 

「友達………ね」

 

神父さんの言葉に、島さんが笑いを堪えている。

 

よくはわからないけど言葉通りの意味じゃないことは何となくわかった。

 

「私の養女ーーー娘と言い換えた方がわかりやすいかな?そういうことにしておけば奴らもそう易々は手を出してこないだろう。奴らも私の怖さはよく知ってるハズだ」

 

「神父さん、怖い?」

 

「………なかなか難しいものだね、比喩無しの言葉というのは」

 

「君がカッコつけすぎなだけだろう」

 

島さんが呆れたような声を出し、私の近くにきて私の頭に手を置く。

 

「簡単にいうと、この男はかなり強いから襲われても返り討ちにできるのさ」

 

「神父さん、強い?」

 

「ああ、とてもね。そして信頼できる人間だよ。私にとっても、彼はね」

 

島さんがそういってちょっと照れ臭そうに笑う。

 

私は2人が話してくれたことを頭に入れながら、私にとって1番大切なことを聞く。

 

「神父、さんの、とこに、行けば、私は、また、ここに、来ていい?」

 

「この店にかい?」

 

「ん、約束、したから」

 

私は昨日のことを思い出し、ぽかぽかとする胸に手を当てて口を開く。

 

「また、絶対に、遊騎に、会って、デュエルを、する。友達、同士の、大事な、約束」

 

私の言葉に島さんが目を見開く。

 

そして柔らかい笑みを浮かべて私の頭を撫でた。

 

「ああ、勿論だとも。君の不安は全て私達が取り除こう。君は普通の女の子として、遊騎君と楽しくデュエルをしながらこれからの日々を過ごしていくといい」

 

「わかった」

 

私は神父さんの方に向き直り、頭を下げる。

 

「私、神父、さんの、とこ、行く」

 

「………ああ、これからよろしく頼むよ」

 

「よろしく、お願い、します」

 

神父さんの差し出した手を私は握る。

 

そんな私を見て、神父さんは柔らかく笑いながら口を開く。

 

「こちらこそ、よろしく頼むよ。となると、まずは君の名前を決めないとね」

 

「名前?」

 

「君が名乗った『闇』というのは、施設における被検体番号HOー083Aからつけられた通称であり、デュエルセキュリティが経歴が見つからない君のことから勝手につけた名だろう?ならば、そんな過去と決別し、ちゃんとした名前を決めてもいいと思うのだが」

 

「………いい」

 

神父さんの言葉に私は首を振る。

 

確かに、『闇』という名前は私の本当の名前ではないし、あの身勝手な大人達がつけた名前なのかもしれない。

 

それでも………

 

「私は、『闇』」

 

実験を受けた過去は変わらないし、私の失われた記憶も変わらない。

 

だけど、昨日までにあったことは、悲しい事ばかりじゃない。

 

「遊騎が、覚えて、くれた、この、名前が、いい」

 

私に、自分が生きているんだということを教えてくれた。

 

感情があるのだと言うことを教えてくれた。

 

デュエルを教えてくれた。

 

そして、友達になってくれた。

 

そんな人が呼んでくれた、大切な名前なのだから。

 

「………どうやら、君はすでに大切な出会いをしたようだね」

 

そういうと神父さんは柔らかく笑う。

 

「ならば、君の意思を尊重し、祝福しよう。これからの君の本当の始まりを、新しい人生を」

 

神父さんがそういうと再びお店の方から物音がしてくる。

 

『あれ?開いてる………島さん、いるのか?』

 

「‼︎」

 

お店の方から聞こえて来たのは私が1番聞きたかった声。

 

元気で優しくて、胸のあたりをあったかくさせてくれる、そんな安心する声。

 

その声に反応した私を見て、島さんは楽しそうに笑うと、私に手招きをした。

 

「やれやれ、こんな朝早くからやってくるとは………だけど、君にとってはこれ以上ない門出だね」

 

私が島さんに連れられてお店の方に出ると、そこにいたのは私の想像通りの人物。

 

私の、大切な友達。

 

「あ、いた。おはよう、島さん………って、闇‼︎こんな時間から来てたのか⁉︎」

 

「あ、えっと………」

 

「まぁ、いいや。今日も来てるかと思ってさ、家からいっぱいカード持って来たんだ‼︎これで闇のデッキをもっと強化してーーー」

 

その大切な友達はーーー遊騎は、私に心底楽しそうな笑みを浮かべてーーー

 

「今日もいっぱい、デュエル、しようぜ‼︎」

 

「っ‼︎………うん‼︎」

 

私は力強く頷いて遊騎のいる場所に走っていく。

 

その日ーーー私の人生は本当の意味で始まりを告げた。





というわけで3周年記念の番外編でした。
今回は謎の多い遊騎の親友、闇の出自と遊騎との出会いのお話でした。
出自の話をしているのに、結局闇のことはほとんど分からないという意味不明なお話です。
本編でも失われた記憶も含めて謎が多い存在の闇ですが、結局のところ闇にとって大切なのは初めてできた遊騎という友達というとても一途な子になります。
闇の存在はこの作品のとても重要なファクターになるので、楽しみに待っていただけたらなと思います。
さてさてそんなところで今回はこの辺でお開き。
一時更新が止まり、歩みが遅く、稚拙な作品ではありますが、これからも皆さまに楽しんでいただけるように精進して参りますので、これからも何卒よろしくお願いいたします。
ではでは〜

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