今回はこれからに向けての会話回。
遊騎視点と遊花視点を織り交ぜながらお送りします。
後半は物語の重要な要素が語られるかも?
☆
「師匠、大丈夫ですか?痛いところとかないですか?」
「だから、そう何度も聞かなくても大丈夫だって言ってるだろ。しばらくは移動は車椅子になるが、大したことねぇよ」
心配そうに何度も尋ねてくる遊花に、俺は苦笑しながら答える。
このやり取りも、もうすでに何回行ったのかわからないぐらいだ。
ちょっと派手に怪我をしたが、命に別状は無い。
ただ足は結構酷いことになっていたので、しばらくは車椅子での移動になり、検査と経過観察のため3週間程入院をすることにはなっていた。
まあ、あれだけのことがあって完全に歩けなくならなかっただけマシだろう。
「うぅ〜でもでも、そうだ‼︎喉が渇きませんか?」
「ん?まあ、さっきから話っぱなしだから少し喉は渇いてるが………」
「なら、何か飲み物を買ってきますね‼︎少し待っていてください‼︎」
「あっ、待っ………はぁ〜」
止める間もなく病室を出て行ってしまった遊花を見て、思わずため息を吐いてしまう。
「………こいつは思ってた以上に重症だな」
まさか
「………どうしたもんかね」
俺の呟きに返ってくる声はなかった。
ーーーーーーー
★
「………えっ?師匠が………入院?」
「まあ………うん。仕事中に怪我しちゃったみたいで、本当に情け無………って、遊花‼︎大丈夫、遊花‼︎」
その言葉を桜ちゃんから聞いた時、私は目の前が真っ暗になっていくような気がした。
身体が震え、動悸が激しくなり、目から涙が溢れてくる。
誰かに身体を揺さぶられている気がするが、私にはそれすらも分からなかった。
まただ………また、失ってしまう。
私が知らない間に………私が見てない間に、また失くなってしまう。
そうして、私の思考が暗闇に堕ちようとした時………
「………痛っ‼︎」
「落ち着いた?」
私の目の前には頭にチョップしたような体勢の闇先パイがいた。
額が少しひりひりする。
どうやら私の意識を戻すために結構強く叩いたみたいだ。
闇先パイは少しため息を吐きながら声をかけてくる。
「ここまで酷いとは思わなかった。遊花、気にしすぎ。さっき、仕事終わりに遊騎にあって来たけど、もうぴんぴんしてた」
「っ⁉︎師匠は大丈夫なんですか⁉︎無事なんですか⁉︎」
「ん」
そういって闇先パイは何かを手渡してくる。
渡されたのは1つの携帯端末。
そしてそこから私が今1番聞きたい声が聞こえてくる。
『取り乱してんなぁ………』
「っ‼︎師匠‼︎大丈夫何ですか⁉︎お怪我は⁉︎具合は悪くないですか⁉︎」
『うおっ⁉︎大丈夫だって、足がちょっと痛いぐらいで、ぴんぴんしてるよ』
「本当ですか⁉︎良かった………」
『まあ、悪かったよ。心配かけたな』
端末越しに申し訳なさそうな師匠の声が聞こえてくる。
そんな師匠の声を聞き、ようやく私は少しだけ安心できた気がした。
『とりあえずこの通りぴんぴんしてるから、あんまり気に病むな。そんなに気になるんだったらお見舞いにでも来てくれればいいさ』
「今から行きます‼︎」
『バカ、面会時間はもう過ぎてるよ。明日だ明日。デュエルアカデミアが終わってからにしろ』
「うぅ〜でも………」
『大丈夫だって。とりあえず、他の患者にも迷惑だからそろそろ切るぞ?というわけで、闇に少し代わってくれ』
「………分かりました、闇先パイ」
「ん………代わったよ。うん………ん………任された。それじゃあ、また」
師匠に言われ、闇先パイに端末を返すと、闇先パイは師匠と少し言葉を交わしてから端末を切った。
そして端末を仕舞うと、再び私に向き直る。
「というわけで、遊騎は無事。遊花が心配なのも分かるけど、気にしすぎもよくない」
「闇先パイ………」
「遊騎の入院中は、私が遊騎の分も遊花の修行を手伝う。とりあえず、遊騎が完全に回復するまでは、そう動いていこう」
そう言って、闇先パイが頑張って背伸びをして私の頭を撫でてくれる。
隣では、桜ちゃんが心配そうに私を見ていた。
………こんなんじゃダメだ。
師匠がいないのは辛いけど、だからって桜ちゃん達に心配をかけてしまうのもいけない。
「分かりました。お願いします、闇先パイ」
「ん………とりあえず、晩御飯にしよう。お腹空いた」
「そうね、結束の分も私が食べてあげるわ‼︎」
「あ、私、おつまみが欲しい。社長にビール買ってきてもらったから」
「………アンタが成人してるのは知ってるけど、絵面的に止めときなさいよ。というかなんで自分とこの社長に買ってきて貰ってるのよ?」
「………世の中は世知辛い。小学生にお酒は売れないって怒られる」
「………なんか悪かったわ」
「あはは、それじゃあ早く作っちゃいますね」
桜ちゃんと闇先パイのやり取りに少しだけ笑いながら、私は晩御飯の準備を始める。
それでも、私の中には、師匠がこの場にいないことが、重くのしかかっていた。
ーーーーーーー
翌朝。
私はいつも通りにリビングキッチンに降りた。
この時間、いつもなら師匠がコーヒーを飲んでいる時間だ。
しかし、当然リビングキッチンに、師匠の姿はない。
そのことが、どうしようもなく胸を締め付ける。
「………っ」
私は暗い気持ちを振り切るように顔を振り、朝食とお弁当の準備を始める。
それでも、時間が経つにつれ、どんどんどんどん暗い考えが私の頭を支配していく。
やっぱり、ダメだ。
どうしても、お父さん達がいなくなったすぐ後の日々を思い出してしまう。
誰もいない部屋の中、ずっと私1人が座っていて、待っても待っても、その扉が開くことは無くて、本当に、ひとりぼっちで、世界から切り離されたみたいに、私だけがその部屋で止まってしまっていた、あの日々を。
「………おはよう、遊花」
「っ‼︎や、闇先パイ⁉︎」
急に後ろから声をかけられて振り向くと、そこにはいつのまにか闇先パイが立っていた。
闇先パイは困ったように自分の頭をポンポンとノックするように叩いて、仕方なさそうに口を開いた。
「遊花、まだ遊騎のこと心配?」
「えっ、あの、その………」
「別に、悪いとは言わない。でも、これからしばらくこのままだと、皆困る。私も、遊花がそんな顔してるのは、寂しい」
「闇先パイ………ごめんなさい」
闇先パイだって、師匠が入院したって聞いて、心配したハズだ。
そして今は、私のことも心配してもらっている。
本当に………こんな自分が情けない。
謝る私を見て、闇先パイは首をふるふると振ると、どこか優しい眼差しで私を見た。
「よし………遊花」
「はい………」
「今日、デュエルアカデミア、サボろう」
「はい………はい?」
闇先パイの言葉に私は首を傾げる。
私は今、何を言われたのだろう?
「サボって、遊騎に会いに行ってくるといい」
「ええっ⁉︎でも、サボりなんて………」
「じゃあ、遊騎のこと気にせず、今日を乗り切れる?」
「うっ………」
闇先パイの言葉に思わず詰まる。
確かに、今日デュエルアカデミアに行っても師匠のことが気になって講義なんて集中できないかも知れないけど、でも………
「サボって何かを見つめ直すことが出来るのは学生の特権。だから、休みたい時は休めばいい。それがまた、新しい一歩を踏み出すきっかけにもなる。先輩としてのアドバイス」
「闇先パイ………」
「連絡は桜に入れてもらうといい。責任は桜が持つ」
「私がいないところでなんて話をしてんのよ………別に構わないけど」
「桜ちゃん………」
闇先パイと話していると呆れたような顔をして桜ちゃんがリビングに入ってくる。
そして桜ちゃんも優しい表情で私に口を開く。
「私も、遊花は今日は休んで結束に会いに行ってくるといいと思うわ。私だって、遊花が悲しい顔をしてるのは見たくないもの。アンタは、馬鹿みたいに明るく笑ってればいいの。暗い表情は闇が担当してくれるわ」
「む、私は別に暗い顔はしてない」
「常に無表情なのに何を言ってるのよ?」
「桜ちゃん………闇先パイ………分かりました」
「ん、素直でよろしい」
「しっかり不安を解消してきなさい」
そんな風に、優しい2人に背中を押される。
私は2人の優しさに、少しだけ泣きそうになった。
私の不安は………無くなるものなのかな?
そのことだけが、少しだけ気になった。
ーーーーーーー
☆
事情は、闇から連絡があったから知っているが、まさかデュエルアカデミアをサボってまで会いに来る程精神的に追い詰められてるとは思わなかった。
本当に、あの黒ずくめのヘンテコヘルメット野郎に腹が立つ。
次に会ったら絶対にその正体を晒してぼっこぼこにしてやる。
そんなことよりも、今は遊花のことだ。
このままだと、遊花は俺が入院している2週間弱はまともに動けなくなってしまうだろう。
それは遊花にとってよろしくない。
何ならその間に遊花は解消したハズのトラウマすらぶり返してしまう可能性もある。
そうなってしまったら、遊花は今度こそ前を向けなくなってしまうかも知れない。
「させるかよ………そんなこと」
そんなこと、許せるわけがない。
遊花は、俺との出会いで自分の気持ちを吐き出した。
変わりたいと願い、他の奴ならもっと上手くやれるだろうに、こんな俺なんかの弟子になった。
それを、師匠である自分が邪魔するのだけは許せない。
でも、どうすればいい?
どうすれば遊花のトラウマを解消してやることが出来る?
当初は、俺がいない間に小さな大会に出てくるようにと言おうと思っていた。
俺が退院した際の祝い代わりとして頑張ってきてくれ、といった感じで。
俺が、島さんの店を立て直す約束の為にプロ決闘者になった時と同じだ。
遊花は、自分よりも他人の為に頑張ることが出来る人間だ。
多分、そういう言い方なら、遊花は頑張っただろう。
でも、今の精神状態でそういうのは間違いなく逆効果だ。
今の遊花は、大会中に事故にあって両親が亡くなったことを強く思い出している。
最悪、大会に出ている間に俺がいなくなってしまうのではないかなどと思いかねない。
そうなってしまえば、大会とデュエル自体が完全に遊花のトラウマとして確立してしまう。
俺だって、両親が亡くなった時はしばらく大会自体に出ること自体で誰かに何かが起きてしまうのではなんて馬鹿げた考えが浮かんでいたのだ。
だからこそ、そう簡単に大会に対する忌避感なんて………
「………まてよ」
遊花が大会を忌避しているのは、大会に出たことで両親がいなくなってしまったからだ。
なら、大会に出ることに、
「師匠‼︎ただいま戻りました‼︎」
「っ‼︎おお、戻ったか」
考えを纏めていると、遊花が病室に戻ってきた。
その声は元気一杯で、表情は笑顔だが、明らかに無理をしているのが見て取れた。
こんな笑顔………遊花には似合わねぇよな。
遊花の本当の笑顔は、もっと柔らかくて、嬉しそうで、見ている人を和ませるものだ。
こんな今にも壊れてしまいそうな儚い笑顔なんて、こいつには似合わない。
「スポーツドリンクにしたんですけど、よかったですか?」
「ああ、大丈夫だ。それよりも遊花、ちょっと話したいことがあるからちょっと屋上の方に連れて行ってくれないか?」
「屋上………ですか?」
「ああ。ずっと病室の中ってのも気が滅入るしな。少し外の風景が見たい」
「分かりました。それじゃあ、車椅子押しますね」
「頼む」
これで正しいかなんて分からない。
これで解決するかなんて分からない。
でも、この選択が少しでも遊花の救いになれるのなら、俺は何だってやってやりたい。
それがきっと、同じような運命を歩み、遊花の師匠になった俺の役目なんだと、改めて、そう思った。
ーーーーーーー
★
師匠の車椅子を押し、私達は病院の屋上に出た。
辺りに人の姿はなく、空は綺麗な青空が広がっている。
その青空が、今の私の心と真逆で、少し目を背けたくなった。
師匠はそんな青空を眺めながら、気持ち良さそうに声を上げる。
「あ〜やっぱり、外はいいな。まだ1日目だが、病室って言うのは息が詰まるよ。早く外を自由に歩き回れるようになりたいもんだ」
そんな声を上げる師匠が子供みたいで、おかしくて少しだけ笑ってしまった。
「ふふっ、師匠、子供みたいです」
「いいんだよ、別に。他に誰がいるわけでもあるまいし」
「私が見てますよ?」
「遊花は弟子、俺は師匠だからいいんだ」
「なんですか、その理屈?」
戯けるような師匠の言葉に笑顔が漏れる。
そして当たり前だったそんな光景が、これからしばらくは出来ないんだと思うと、少しだけ悲しい。
「………さてと、そろそろ本題に入るか」
「………はい」
師匠の言葉を聞き、私は師匠の車椅子を止めて師匠の正面に移動する。
師匠が何かを話そうとして場所を移動しようとしていたのは分かってた。
そしてそれは今の私に関係する話なんだろう。
何を言われるのか、少しだけ怖い。
でも、そんな私を師匠は優しい眼差しで見つめてくれた。
「んー何処から話すべきか、正直少し悩むんだが、率直に言おう。話すのは前に話した大会に出るって話だ」
「っ‼︎………はい」
少し、心臓の鼓動が速くなる。
それでも、私のことを考えてくれている師匠から、目を逸らすことだけはしたくなかった。
「包み隠さず話すが、本当は俺の入院中に何処かで小さな大会にでも出て貰おうと思ってた。俺の退院祝いのために、大会に出てきて欲しいって言ったら多分
「………はい。多分それなら、普段の私は多少無理してでも頑張れたと思います」
師匠の言葉に私は成る程と感心する。
怪我をしている師匠の期待に答えるための努力なら、確かに普段の私なら頑張れていただろう。
しかし、師匠が付けた
それは、師匠が本当に今の私の心境を分かっているということだ。
今の私は、大会に出ることなんて出来ない。
もし、大会に出てしまったら、もし、その大会に出ている間に、師匠の怪我が悪化して、師匠の身に何かが起こってしまったら、そんなありもしないもしもが、どうしても私の頭によぎってしまう。
「まあでも、今の遊花にこんなことを言うのは酷だから思い直した。だって、事故に大会って組み合わせはお前には相当のトラウマだからな」
「………はい」
師匠の言葉に心が痛くなる。
私のことを沢山考えてくれている師匠に、全然応えられない自分自身が堪らなく情けない。
こんなに私のことを考えてくれているのに、こんなに私のために動いてくれているのに、その弟子である私は、彼に何も返してあげれていない。
「まあ、そんなわけで最初に話した作戦は止めたわけなんだが、だからって大会の話を避け続けるわけにはいかない。プロ決闘者になろうと決めている以上、絶対にぶつかる問題だからな」
「………はい」
師匠の言葉の続きを聞くのが怖い。
一体どんなことを言われるのか想像がつかない。
私は、呆れられてしまっただろうか?
情けないと、思われてしまっただろうか?
そんなありもしない考えが浮かんでいく。
でも、そんな私の不安など幻だとでも言うように、師匠は優しい声色で正面から私に語りかけた。
「だからさ、約束をしよう」
「約束………ですか?」
「ああ」
師匠の言葉の意味が分からず、私は首を傾げる。
そんな私に師匠は優しい声色のまま言葉を続ける。
「俺が退院するのは3週間後、遊花の師匠になってから約1ヶ月後だ。だから、その時に遊花の実力を見るために、小さな大会を開こうと思う」
「えっ?」
師匠の言葉に驚いて師匠の顔を凝視してしまう。
私の為に、大会を?
「島さんに『Natural』を貸し切りにしてもらって、宝月や闇、他にもお前が呼びたい奴を呼んで、なんだったら俺の知り合いも呼んで、小さな、ささやかな大会を開く。そこで、1ヶ月間でお前が学んだことを、俺に見せてほしい。お前が呼びたい奴は皆いるんだ。そこには、お前が見てない誰かなんてもんは存在しない。不安がるものは、何もない。そんな大会を開こう」
「っ‼︎」
師匠のそんな優しい提案に、気付いたら私の目から涙が流れていた。
だってそれは、本当に私の為だけに考えられている提案で………
「そこで最高に楽しいデュエルを、皆でしよう。ついでに俺が戻ってきたいい証明にもなるだろ?」
私の大会に対する印象に、他の優しい意味を与えようとしてくれていて………
「だから、約束をしよう。俺は必ず無事に退院して、そんな大会を開く。だから、遊花はそれまでに色んなことを学んで、学んだことをその大会で俺に見せてくれないか?」
師匠はそういってゆびきりをするように小指を私に向かって差し出す。
私は………幸せ者だ。
こんなにも私の事を考えてくれて、こんなにも私の不安を無くす為に動いてくれる人達がいる。
「っ………はい‼︎」
私は涙を袖で拭い、差し出された師匠の小指に自分の小指を絡めた。
『ゆーびきりげんまん♪ウソついたら針千本のーます♪ゆーびきった♪』
2人でゆびきりをしてお互いに笑い合う。
私は………本当に幸せ者だ。
こんなに優しい人達が、私を支えてくれている。
お父さん、お母さん、私は、今凄く幸せです。
だから、見ていてください。
私は、絶対にお父さんや、師匠みたいなプロ決闘者になって見せます。
自分も楽しんで、他の誰かも楽しませたり、喜ばせれるようなデュエルが出来るプロ決闘者に。
今なら、少し前に進める気がした。
ーーーーーーー
☆
「ーーーって、訳なんだが。どうだ?」
「ん、勿論協力する。遊花のためにそこまでやるなんて、流石遊騎」
「………褒めてるのか、それ?」
「ん、勿論。まさか本当に今日解決するとは思ってなかったもん」
夕方、仕事終わりに立ち寄った闇に今日あった出来事を話した。
遊花はお昼には帰っていき、『Natural』にさっきの話をしたり、新しいカードを探しに行くことにしたようだ。
それを聞き、闇はとても嬉しそうな笑顔をみせる。
「まぁ、闇がいる時点でささやかなものになるかは少し微妙だけどな」
「?なんで?」
「世界ランキング4位が出る大会がささやかなわけあるか」
「むぅ………称号って面倒。やっぱりプロリーグ潰しちゃダメ?」
「止めろって言ってるだろうに………とりあえず、どれくらいの人数になるかはこれからの遊花次第だな。この3週間で新しい知り合いも増えるだろうし」
「ん、社長達も呼ぼう」
「………マジで?『Trumpfkarte』勢揃いとか世界タイトルを取りに行くわけじゃないんだぞ?」
「顔合わせの機会としては丁度いい。私達にとっても、次世代の子達とデュエル出来るのはいい刺激になる。それに肩書きこそ大きくなったけど、私達は昔と変わらない。4年前の『Natural』ではよく見られた光景だから」
「………まぁ、確かにそうだな。たまにはいいか」
「ん、たまにはいい」
そういって2人で笑い合う。
どれだけ上手くいくかは分からないが、遊花の先程の表情を見る限り、多分大丈夫だろう。
俺は、遊花の師匠として、アイツに何かをしてあげることは出来ただろうか?
出来てたらいいな。
「それじゃあ、私もそろそろ帰る。前を向けたなら、遊花に色々教えて上げたいし」
「………闇、ちょっとだけ待ってくれるか?聞きたいことがある」
「?何?」
帰ろうとしていた闇を呼び止めると闇は首を傾げる。
そんな闇に、俺は置いてあったデュエルディスクから2枚のカードを取り出して闇に見せた。
「お前は、このカードの事を知っているのか?」
俺が取り出したのは、俺が入院する原因になったコートオブアームズとロンゴミアントのカード。
それを見て、闇は少し驚いた顔をしてこちらに向き直った。
「何処で手に入れたの?」
「1枚は拾って、もう1枚は襲って来た不審者を倒したら勝手にこっちに来た。不審者から来たのは本人曰く人造の闇のカードらしい」
「人造で闇のカードを作るなんて聞いたことない」
「その口ぶり、闇のカード自体は知ってるんだな?」
「うん」
「………あっさりと肯定したな」
「願掛けの内容以外、遊騎に隠すことなんて、私はない。スリーサイズを教えてもいいよ?」
「………アホなこと言うのは止めろ。何というか、あっさり肯定されるとそれはそれで反応に困る」
さっぱりとしている闇に思わず脱力してしまう。
もっとはぐらかされると思ったんだけどな………
「私に聞いたってことは、ネックレスがちゃんと機能したんだね。良かった」
「あの意識が奪われそうになったのがどうにかなったのはやっぱりアレのおかげなのか?」
「ん。アレ、闇のカードのモンスターの身体から出来てるから。闇の力を吸収するのにもってこい」
「ちょっ⁉︎これそんな出自なのかよ⁉︎」
闇の言葉に思わずネックレスをまじまじと見つめてしまう。
それを特に悪びれた様子もなく闇は語る。
「大丈夫。そのモンスターは私の制御下だから、悪さはしない。したらシメる」
「なんというか少しそのモンスターが可哀想になって来たんだが………やっぱり闇のカードには意思があるのか?」
「んーなら、少し長くなるけど、私が知ってること、全部聞く?」
「………頼む。俺も自分の手に入れちまったカードがまともじゃないことは分かってるからな。かと言って処分するのも怖いし、知れるだけ知っておきたい」
「分かった。じゃあ、座るね」
そういって、闇はベットの横にある椅子を持ってきて俺の横に座った。
「それじゃあまずは闇のカードの出自について説明するね」
「おう」
「まず、闇のカードというのはカードの精霊に悪意が宿って歪んでしまった呪われたカードのこと」
「待て、いきなりさらに謎の存在が出てきたんだが………カードの精霊?」
「そういえばそこの説明もあった。うっかり」
そういう闇を見て、思わずため息が出る。
どうやらとても面倒なことに首を突っ込むことになってしまったようだ。
「それじゃあ先にカードの精霊の説明。といっても、こっちはそんなに難しくない。言葉通りの意味だから」
「つまり、普通のカードにも意思が宿ってると?」
「例外もあるとは思うけど基本的にはそう。遊騎も覚えがあるでしょ?」
「………引けなくなったアイツらか」
「ん………私の氷結界もそう。因みに、闇のカードとカードの精霊は基本的に仲が悪い。競合する場合もないわけじゃないけど」
「まぁ、呪われてるわけだから………待て、じゃあ俺のデッキもヤバいんじゃないか?」
絵札の三銃士が使えなくなったら、俺は流石に詰むぞ?
「んーそこはカードによるから分からない。カードの精霊によっては気にしない子や、それよりも気の合うマスターを優先する子もいる。多分絵札の三銃士は後者。あのカード達が使えなくなっても使えたのはそれが理由だろうし」
「なんだか頭が痛くなる話だな………そんなのが存在してるのか」
「精霊は割とそこら辺にいるよ?普通の人には視えにくいだけ。視えるか視えないかなんて、視力が1.0の人が視えるものが0.3の人には視えにくいのと同じ。それぐらいの違いでしかない」
「その言い分だと、闇は視えるのか?」
「力が一定以上強い子はね。闇のカードも元は精霊だから、闇のカードを使うようになってから、気づいたら視えるようになってた」
「………とりあえず、本題に戻ってもいいか?」
「ん、闇のカードの話。闇のカードは使用者の意思を好戦的にしたり破壊衝動を生み出したり、身体を乗っ取ろうとしたりする。おまけにカードによっては身体を傷付けたりするものもある」
「滅茶苦茶危険じゃねぇか⁉︎」
驚く程物騒なことしか言われてねぇ‼︎
やっぱり俺の怪我はコイツらが原因なんじゃねぇか‼︎
それに対して闇は冷静に答える。
「それも使用者の意思や力量、資質とか適合割合次第。制御さえ出来れば普通に使える」
「力量と資質は何となく分かるけど、適合割合ってのは?」
「簡単にいうと闇のカードとのシンクロ率かな。使うと勝手に上がったりする」
「ということは闇は………」
「ん、私の場合、資質と適合割合が高いみたい。私の資質自体が闇のカードの性質に極めて近いんだって。だから、闇のカードにとっては私は対等な存在みたい。お陰で女王なんて呼ばれて面倒。従ってくれるから楽でいいけど、その分面倒な要求もたまにされる」
「要求?」
「戦わせろとかそういうの。負の感情を食べたりするからそういう悪い人を倒して吸い取ろうとするし」
「………やってることだけ聞くと正義のヒーローみたいに聞こえるから不思議だな」
「よくてダークヒーローが関の山だし、この子達はただ単に欲望に忠実過ぎるだけ。私も外道にかけてやる情けはないから別に構わないけど。他に質問ある?」
そういって言うべきことは言ったようで闇は真剣な表情を崩す。
俺は闇から教えて貰ったことを反復しながら、聞きたいことを絞り込んでいく。
「これから俺がコイツらを使うのは大丈夫なのか?コートオブアームズはもう使っちまったんだが………気合いで追い出したけど1度俺の身体を乗っ取ろうとしてきたし」
「気合いで追い出せたのが十分凄いけど、1度使ってるなら適合割合が上がってるから多分大丈夫。闇のカードは1度認めた人には忠実だから、きちんと制御することを意識しながらデュエルすれば事故は起こらない。適合割合が上がってくればいずれ話しかけてくるかもしれないしね」
「話しかけてくるのか、闇のカード………」
「私のヴェルズとか結構うるさい。喋り方が独特だから会話に慣れるのにも時間がかかったし。遊騎なら、いずれ精霊も視えるようになったり、会話出来るようになるかもね。気合いで」
「人が気合いでもなんでも出来るみたいな言い方は止めて欲しいんだが………後、この2枚どうすればいいと思う?襲われたのはコイツらが原因なんだが………」
「顔がバレてるなら捨てても今更だと思うよ?むしろ使いこなして返り討ち出来るようにした方がいいと思う。なんなら私もシメるから呼んで」
そういってやる気を見せる闇。
でも、実際問題あの不審者がどう動いてくるかなんて分からないからな。
今は考えるだけ無駄か。
そこで闇が何かを思い出したかのように口を開いた。
「そうだ。闇のカードのことを知ったならこれも話しとく」
「………おい、まだ爆弾があるのか?」
「ある意味ではね」
そして闇は俺にとって驚愕の真実を語った。
「遊花、闇のカードを持ってるよ。絶望神アンチホープがそう。ついでにクリボー達やヴァレルとかカードの精霊もたくさん一緒にいる」
「なんだって⁉︎それ、遊花は気づいてるのか⁉︎」
「多分、気づいてない。というより、遊花には少し不思議なところがある」
「不思議なところ?」
「さっき話した通り、基本的に闇のカードと精霊は仲が悪い。でも、私が見た時、闇のカードであるアンチホープとクリボー達は明らかに協力して遊花を守っていた。おまけにあのアンチホープのカード、私がコントロール奪取したんだけど、その際にかなり抵抗して資質や適合割合が高い私でもかなり制御が難しいぐらい強力な闇のカードだった。なのに闇のカードであるアンチホープを使用してる遊花自身は全くアンチホープの影響を受けていない」
「闇よりも資質が高い可能性は?」
「それなら今度はクリボー達に好かれているのがおかしい。私でも精霊にはかなり嫌われてるのにそれ以上資質が高いなら、まず精霊は遊花に寄り付かないハズ。でも、遊花は闇のカードにもカードの精霊にも好かれている。カードの精霊と闇のカード、相反する存在のどちらからも愛されるとても稀有な才能。それが遊花にはある」
闇から語られた真実があまりにもぶっ飛んでいてどういう反応をすればいいのかわからなくなる。
正直、これ以上は容量オーバーになりそうだ。
「ヴェルズ達の話では遊花みたいな存在を『愛されし者』って言うみたい」
「『愛されし者』?」
「ん、何でもカードの精霊と闇のカードの架け橋となる才能なんだとか。詳しいことまでは分からなかったけど」
「………はぁ〜何とも規格外な奴が弟子になったもんだな」
「同感。でも、遊花はまだ学生。大人として、師匠として、守れるところは守ってあげよ?」
「だな」
遊花がどういう存在だろうと関係ない。
だって俺は、遊花の師匠なのだから。
次回予告
遊騎との約束を守るため、闇から様々なことを学んでいく遊花。
しかし、遊花は今までの成績によりこのままではデュエルアカデミアを退学することになるということを教師より告げられる。
退学を覆すため、遊花は夏休み前の期末試験期間中に学年トップ10の実力者達とデュエルをすることが決まる。
遊花がその中で初めに対戦相手に選んだのは?
次回 遊戯王Trumpfkarte
『もう1度はじめから』
次回からしばらくは遊花のデュエルアカデミアでのデュエル回です。
まあ、デュエルの専門学校で2年近くまともにデュエルしてこなかったら流石に退学って言う話も出ますよねって言う話です。
ここから数話は遊花が様々な方向に進化していくので、今回の話を経て遊花はどう進化していくのかをお楽しみください。
そして今回の話の裏では遊騎が闇のカード関連に足を突っ込んでいってます。
遊騎が気合いで精霊が見えたり話せたりする日も来るのかな?
ではでは〜