遊戯王Trumpfkarte   作:ブレイドJ

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遅くなって申し訳ありません。
今回は大会編に向けての会話回。
遊騎視点と遊花視点を織り交ぜながらお送りします。
今回は少し短め、内容は後半にいくにつれて重めです。


第32話 原点

 

 

 

「師匠‼︎これ、見てください‼︎」

 

「お、おう………テンション高いな………これ、期末試験の結果か?」

 

「はい‼︎実技のところ、見てください‼︎」

 

病室。

 

ベッドの上で横になっているといきなり部屋の中に飛び込んできた遊花に数年前に見た覚えがある用紙を渡される。

 

見てみるとそこに書かれていたのは予想通り遊花のデュエルアカデミアでの期末試験の成績表。

 

興奮気味の遊花に促され、渡された成績表の実技の項目に目をやる。

 

そこに書かれていたのは………

 

「実技………95点⁉︎」

 

「えへへ、頑張りました‼︎こんな点数取ったの初めてです‼︎」

 

「そ、そりゃあ初めてだろう………というか、俺も学生の時にそんな点数取ったことないぞ………」

 

遊花の成績表に書いてあった点数に戦慄を覚える。

 

いくら俺や闇が教えているからといって、ここまでの点数を叩き出すとは思わなかった。

 

俺の学生時代の最高点数でも85ぐらいが限界だったというのに………

 

その上実技以外の項目を見てみても軒並み90点を超えている。

 

………やはり俺はすでに遊花に色々と超えられているのかも知れない………師匠としてなんとも情けない。

 

「まあ………なんだ、よく頑張ったな。闇から話は聞いたが、退学の話は無くなったらしいじゃないか」

 

「はい‼︎これも師匠や闇先パイのおかげです‼︎」

 

「………俺は何もしてないんだが………闇が色々遊花に教えてたからだろ?」

 

「でもでも、師匠がいなかったら私はデュエルがいなかったので、やっぱり、師匠のおかげです‼︎」

 

「………相変わらずどんな根拠で話してるんだお前は………」

 

ニコニコと笑う遊花を見て、俺は苦笑する。

 

「はぁ〜もっとちゃんと師匠らしいことできるようにしないとな………というわけで、ほら」

 

「はい?カード………ですか?」

 

ため息を吐きながら枕元に置いておいた1枚のカードを手渡すと、遊花は不思議そうな表情を浮かべる。

 

「期末試験でいい結果を出した時の為に、島さんに頼んでおいたんだ。まあ、頑張った弟子の為のご褒美って奴だな」

 

「ご褒美………⁉︎このカードって‼︎」

 

俺の言葉に遊花はそのカードを覗き込み、驚いた表情を浮かべて俺を見た。

 

「遊花は持ってなかっただろ?遊花のことだから欲しいかなと思ったんだ。まあ、使えるかどうかは分からないからご褒美と言えるかも微妙なところだが………使えないならお守り代わりにでもしてくれ」

 

「いえ‼︎いえいえ‼︎絶対使います‼︎師匠がせっかく探してくれたご褒美なんですから‼︎えへへ〜やった‼︎」

 

「………まあ、喜んでくれたようで良かったよ。もうすぐ大会だしな」

 

そういってカードを掲げながら嬉しそうにくるくるとその場を回る遊花を見て、思わず笑みが溢れる。

 

遊花の期末試験が終わり、1週間が経った。

 

俺が入院してから3週間、もうすぐ退院ということもあり、最近はリハビリ続きの毎日を送っている。

 

今ではだいぶ歩くことも出来るようになって来ており、普段通りの生活を送れるようになるまでそう時間もかからないだろう。

勿論、リハビリと並行して大会の企画も進行中だ。

 

「そういえば大丈夫でしたか?今回の試験で仲良くなった人達を結構誘ってしまったのですが………」

 

くるくると回っていた遊花が動きを止め、申し訳なさそうな表情を浮かべてこちらを見る。

 

そんな遊花を見て、俺は柔らかい笑みを浮かべる。

 

「勿論だ。前に言ったろ?お前が呼びたい奴は皆いる、お前が見てない誰かなんてものが存在しない。不安がるものは何もない。そんな大会を開こうってさ」

 

「………」

 

「だから、お前が心配する必要なんてないんだよ。そういうのは………師匠にドドーンと任せとけばいいんだ」

 

「師匠………えへへ、はいです‼︎」

 

俺の言葉に遊花は一瞬キョトンとしてから、嬉しそうに笑った。

 

確かに遊花が誘ったデュエルアカデミア生が思ったより多かったが、こちらも闇や美傘が暇そうな知り合いに声をかけてくれると言っていたので何とかなるだろう。

 

問題があるとすれば闇や美傘が呼ぶメンバーは全員プロ決闘者の中でも有名な奴ばかりだと言うところだ。

 

美傘が言ってた通りデュエルアカデミア生がトラウマにならなければいいのだが………正直、人数が増えることよりそちらの方が問題だ。

 

まあ、遊花が仲良くなったのは学年トップクラスの実力者達だし、宝月の強さを考えれば一方的に蹂躙されたりはしないだろう………多分。

 

そんなことを考えていると病室の扉がゆっくりと開く。

 

そこにいたのは明らかに笑っていない笑顔を浮かべている宝月。

 

宝月は扉を閉めると、その怖い表情のまま遊花に近づいた。

 

「コラ、遊花‼︎急いで結果を見せたい気持ちは分かるけど病院で走るなって言ってるでしょ‼︎」

 

「ひゃう‼︎さ、桜ちゃん………」

 

「宝月か、久しぶりだな。というか、遊花………走ってくるのはダメだろ」

 

「あぅ………ごめんなさい」

 

しょんぼりとした表情で反省する遊花を見て宝月はため息を吐きながら俺の方を見た。

 

「全く、これも結束が入院なんてしてるのが悪いのよ。アンタが入院なんてしなければ遊花がこんな苦労することなかったのに」

 

「いや、それは理不尽過ぎるだろ………まあ、悪かったとは思ってるが」

 

「口答えしない‼︎そもそも遊花がこんな風になったのはアンタのせいなんだからね‼︎」

 

「それも一概には否定できないけど、やっぱり理不尽じゃないか?」

 

普段は大人しい遊花がここまで感情を露わにしてるのは俺のせいだということは分かってはいるが、だからといって俺にはどうすることも出来ないのだが………

 

俺が困った表情を浮かべていると、宝月は俺から目を逸らしながら少し照れくさそうに口を開いた。

 

「………まあ、だから早く良くなって退院しなさいよ。アンタが退院さえすれば、遊花が困ることないんだから」

 

「‼︎はは、そうだな。どうせ後1週間もないし、早く戻って遊花や宝月に心配かけないようにしないとな」

 

「べ、別に私は心配なんてしてないわよ‼︎アンタがいない方が清々するし‼︎」

 

「………ふふっ、そうだよね」

 

「な、何よその目⁉︎2人して生暖かい目で私を見るんじゃないわよ‼︎」

 

頰を赤く染め、明らかに照れ隠しだということが分かる怒鳴り声を上げる宝月を、俺と遊花は優しい眼差しで眺める。

 

相変わらず素直じゃないが、何だかんだで宝月も心配してくれてたんだな。

 

宝月にも迷惑をかけてるし、今度宝月にも何かお礼を考えないといけないな。

 

そんなことを考えていると、再び病室の扉が開く。

 

そこには眼鏡をかけるだけの変装(本人談)をし、相変わらずの無表情でこちらを見ている闇の姿があった。

 

闇は頰を赤く染めた宝月を見て首を傾げる。

 

「桜が来てるなんて珍しい………どうかしたの?」

 

「な、何でもないわよ‼︎」

 

「闇先パイ、お疲れ様です。今日のお仕事はもう終わりですか?」

 

「ん、今日も勝ってきた。ついでに、遊騎にお客さんを連れてきた」

 

「俺に?」

 

「師匠にお客さん………お知り合いの方ですか?」

 

「というか、誰もいないみたいだけど………」

 

「?」

 

客を連れてきたというわりには闇の姿しか見えず首を傾げる俺達を見て、闇が後ろを振り向いて首を傾げる。

 

そして病室の外をきょろきょろと見回すと目的の人物を見つけたのか、そちらに向いて歩いて行く。

 

耳を澄ませると闇と誰かのやり取りが聞こえてくる。

 

「何してるの?」

 

「いや、その………今更どんな顔をして会えばいいのか、分からないといいますか………」

 

「………何を今更。そもそも、来たいと言ったのはそっち。いい加減腹をくくる」

 

「わわっ⁉︎待って欲しいのです‼︎引っ張らないで欲しいのです‼︎ま、まだ心の準備が‼︎」

 

そんな何処か懐かしい声と共に闇が誰かを引きずりながら戻ってくる。

 

「⁉︎お前は‼︎」

 

「わあ、綺麗な方ですね………」

 

「容姿からして外国の人かしら?………遊騎って、色んな知り合いがいるのね」

 

闇に引きずられながら現れたのは腰まで届く長い金髪をポニーテールにし、メガネをかけたスーツ姿の女性。

 

くりっとした大きな青い瞳に、スラリとした手足と白い肌。

 

背丈も高めだが、何より目を引くのはスーツの上からでも分かる豊満な胸部だろう。

 

違うのは知っているが胸部にメロンでも詰めてるんじゃないだろうかと、割と本気で思ってしまう。

 

………そして闇、アレを見た後に胸元を触ってちょっと泣きそうになるんじゃない。

 

女性は何処か申しわけなさそうに顔を歪めで、今にも泣き出してしまいそうだ。

 

そんな女性を見て、俺は思わずため息を吐きながら呆れた目を向けてしまう。

 

「よう、何似合わない辛気臭い面してんだ?そういうのはお前のキャラじゃないだろ。このアホの子が」

 

「なっ⁉︎」

 

「というか、なんだそのメガネは?お前もそれで変装とか言うつもりか、このアホめ。しかもこんな時間に訪ねてきて、お前また書類仕事を放っぽり出して来たんだろ、アホめ」

 

「あ、アホアホ言い過ぎなのです‼︎こっちにも、思うところが色々とーーー」

 

「そうやって悩んでるのがアホだって言ってんだよ。お前が何気にしてんのか知らないけど、そういうのはどちらかと言えば俺の担当だろうが。お前はいつもみたいにへらへらと笑ってりゃいいんだよ」

 

そんな俺の呆れた声に女性は一瞬涙を浮かべると、それを手でぐしぐしと拭い、笑顔を浮かべながら勢いよくこちらに抱きついてきた。

 

「………えへへ、やっぱり、遊騎君は優しいのです‼︎」

 

「ちょっ⁉︎このアホ‼︎動けない怪我人にいきなり抱きついてくる奴があるか‼︎」

 

「そうなのです‼︎アホの子なのです‼︎なので遊騎君の言葉なんて聞いてあげないのです‼︎」

 

「コイツ、最低な開き直りをしやがった⁉︎というか、お前どんだけ力入れて抱きついてやがる‼︎痛えよ‼︎放せっての‼︎」

 

そういいながら抱きついてきたアホを引き剥がそうとしていると横から遊花と宝月の声が聞こえてくる。

 

「ちょっと、私達を置いてきぼりにしないでくれない?全然話が読めないんだけど?」

 

「あの、師匠………その女性は一体?」

 

首を傾げる遊花達に無理矢理引き剥がしたアホの子を向き直らせると、ため息を吐きながらあまり認めたくはない事実を口にした。

 

「コイツはリーネ。俺の恩人で、闇達のスポンサー。つまりーーー『Trumpfkarte』の社長だ」

 

「えっ⁉︎社長さんですか⁉︎」

 

「嘘でしょ⁉︎」

 

遊花と宝月が驚いた顔でリーネをみる。

 

そんな2人にリーネは笑みを浮かべるのだった。

 

 

ーーーーーーー

 

 

 

 

「改めて、天羽(あまは)リーネなのです‼︎リーネのことは気軽に、リーネお姉さんって呼んで欲しいのです‼︎」

 

しばらくして、全員近くに置いてあった椅子に座るとリーネさんが改めて私達にそう言った。

 

それを聞いて呆然とする私と奥歯に物がつまったような表情を浮かべる桜ちゃんに対し、師匠は頭を痛そうに押さえながら、リーネさんの頭を軽く小突いた。

 

「あぅ‼︎痛いのです‼︎何をするのですか?」

 

「お前が妙な自己紹介をするから2人が面食らってるだろうが⁉︎少しは自重しろ‼︎」

 

「でもでも、親しみやすい方が話しやすくていいのです。固苦しいのは苦手なのです………」

 

「そうだとしても言い方ってもんがあるだろうが、このアホめ‼︎」

 

「あ‼︎またアホって言ったのです‼︎」

 

「アホにアホって言って何が悪い。言われたくないならもう少しまともな事を言え」

 

「むむむ〜‼︎」

 

「あ、あの、言い合いはその辺にした方が………」

 

睨み合う師匠とリーネさんを止めようとすると、闇先パイが私の肩を叩いて、相変わらずの無表情ながら何処か呆れたような雰囲気で首を振った。

 

「遊騎と社長は基本的にいつもこんな感じで戯れあってるから気にしなくていい」

 

「じゃ、戯れあってるですか?」

 

「ん、昔はいつもこんな感じだった。社長が突拍子もないことを言い出して、それに遊騎がダメ出し。言い合いをしながら妥協案を見つけるまでがデフォルトだった」

 

「………何というか、色々と大丈夫なのかしら?『Trumpfkarte』って」

 

「大丈夫だから、『Trumpfkarte』がある。『Trumpfkarte』は底無しの"お人好し集団( バカ)"だけど、能力自体はある人ばかりだから」

 

「そういえば、苗字が天羽ってことは………」

 

「ん、社長はハーフ。お父さんが日本人でお母さんがドイツ人って言ってた。生まれは日本だけど、小学生の中頃から4年前まではドイツの方で暮らしてたんだって」

 

私達がそんな会話をしていると師匠とリーネさんの言い合いも一区切りがついたようで、リーネさんが少し不満そうにしながらも口を開く。

 

「むぅ〜なら、リーネさん、ならいいのです?」

 

「それぐらいならいいだろ。普通年上に大してはさん付けで呼ぶもんだしな」

 

「ん〜分かったのです。それじゃあ遊花ちゃんと桜ちゃんにはリーネさんって呼んで欲しいのです‼︎」

 

「ほら、戯れあってただけ、でしょ?」

 

「………何というか、闇も大変そうね」

 

「あ、あはは………分かりました、リーネさん」

 

「はい、なのです‼︎やっぱり、親しみやすい方がいいのです‼︎」

 

そう言ってニコニコと笑顔を浮かべるリーネさんに、私も思わず苦笑を浮かべてしまう。

 

そんな私を見て申し訳なさそうな顔をしながらも、師匠は呆れた様子でリーネさんに目を向ける。

 

「それで、何しにきたんだ?お前は一応社長何だからやらなきゃならないことなんていくらでもあるだろうに………」

 

「何しにきたなんてご挨拶なのです。遊騎君のことが心配だったから何とか時間を作って見にきたのですよ。2年間もの間、連絡もなかったのですから当然なのです」

 

「連絡がないなんて言われてもな………俺は退職してるんだし、お前に連絡を取るのも変だろうが」

 

「それでも、なのです。忘れられたんじゃないかって、寂しかったのです………」

 

「リーネ………悪かったよ。お前には色々世話になってるし、連絡ぐらいはするべきだった………すまない」

 

バツが悪そうに師匠がリーネさんに謝ると、リーネさんは悲しそうにしていた表情を、柔らかい笑顔に変えた。

 

「………えへへ、仕方がないのです。リーネは遊騎君よりお姉さんなので、許してあげるのです」

 

「………なんだよそれ」

 

「えへへ。そうなのです‼︎忘れるところだったのです‼︎遊花ちゃん、桜ちゃん、いつも遊騎君と闇ちゃんがお世話になっているのです。遊騎君と闇ちゃんは、ご迷惑をかけてないですか?」

 

「い、いえ、師匠にも闇先パイにもお世話になってばかりで迷惑なんて、そんな………」

 

「結束も闇も私達のことをしっかりとサポートしてくれてますから、迷惑なんてかかってません。むしろ、私達の方が結束達に迷惑をかけてないか心配なぐらいで………」

 

「………おい、闇。この宝月は本物か?殊勝過ぎて怖いんだが………」

 

「本物のハズ………だけど、この態度は違和感が凄い。偽物の可能性も否定しきれない」

 

「なっ⁉︎アンタ達、人が素直に感謝してんのにその言い方はないでしょ⁉︎」

 

「もう、遊騎君も闇ちゃんもそんなこと言ったら、めっ、なのですよ」

 

桜ちゃんの殊勝な態度に戦慄している師匠と闇先パイをリーネさんが窘める。

 

その姿は本当に師匠達のお姉さんみたいだ。

 

「そういえば、遊騎君。闇ちゃんに聞いたのです。遊花ちゃんを『Trumpfkarte』に入れたいって話は本当なのです?」

 

リーネさんが首を傾げながら師匠にそんなことを尋ねる。

 

それは闇先パイに会った日に、師匠達が話していたことだ。

 

リーネさんの問いかけに、師匠は力強く頷く。

 

「ああ。遊花はきっと凄い決闘者になるぞ。俺を遥かに超えるぐらいな」

 

「私も保証する。遊花なら私も倒せる決闘者になれる」

 

「遊騎君と闇ちゃんが言うなら間違いないのです。それじゃあ採用決定なのです‼︎一応形だけの面接の日程とかも考えておくのです」

 

「ええっ⁉︎」

 

「ちょっ⁉︎」

 

あまりにもあっさりとリーネさんから出た採用の言葉に私と桜ちゃんが驚く。

 

それを見ながら師匠と闇先パイが呆れたような、何処か諦めたような表情を浮かべる。

 

「まあ確かに形だけになるだろうけど、その言い方はどうなんだ………」

 

「仕方ないと思う。どうせ面接官は社長と私か炎だし………炎はともかく、社長がいる時点で決まってるようなもの」

 

「俺らの時はリーネのスカウトみたいなものだったしな。俺らの時のリーネだけの面接とか、酷かったよな………」

 

「面接室に入ったら社長だけがいて『採用なのです‼︎』で終わったからね。そもそも『Trumpfkarte』が出来たのも遊騎の為みたいなものだし、ある意味趣味で出来た団体だから今更ではあるけど」

 

「改めて聞かなくても酷い話だよな」

 

「遊騎が元凶だけどね」

 

「いやいやいや、そんな簡単に決めていいものなんですか⁉︎」

 

桜ちゃんの言葉に私もうんうんと頷く。

 

私はまだリーネさんに会ったばかりなのに、そんなに簡単に決めてしまっていいのだろうか?

 

そんな私達を見て、リーネさんはきょとんとした表情を浮かべる。

 

「?ダメなのです?遊騎君と闇ちゃんは境遇とかで自分の評価を誤魔化したりはしないのです。だから、この2人が凄い決闘者になるというのならその評価は十分に信頼に足るものなのです」

 

「だ、だからって………」

 

「それに、リーネも人を見る目はある方なのです。遊花ちゃんを見た時、遊騎君や闇ちゃんを見た時と同じようにピーンと来たのです‼︎だから、リーネは自分のこの感覚を信じてるのです‼︎」

 

そう言ってリーネさんは胸を張りながらニコッと笑う。

 

世界ランキング2位のチームである『Trumpfkarte』を作り、元世界ランキング9位の師匠と世界ランキング4位である闇先パイを見つけ出したリーネさんのその言葉には確かな自信と説得力がある。

 

でも、そんな言葉に不安になってしまう自分もいる。

 

そんな私の内心を読み取ってなのか、リーネさんは柔らかい表情を浮かべる。

 

「でも、これはあくまでリーネの個人的な意見なのです。遊花ちゃんが嫌なら無理強いなんてしないのです。遊花ちゃんの人生は遊花ちゃん自身のものなのですから。幸い、遊騎君の開催する大会にはリーネも参加させて貰う予定ですから、実力を自分の目で確認する機会もありますし、卒業までにも時間はまだまだ有るのです。ゆっくりと、遊花ちゃんが納得いくまで考えてみて欲しいのです」

 

「は、はい………」

 

リーネさんの言葉に私は力無く頷く。

 

歩みたい道への一歩だと言うことは分かっている。

 

でも、その道を迷わず歩けるだけの自信が、私にはまだ無い。

 

私は、本当に師匠達の期待に応えられるような人間なのだろうか?

 

そんな不安が、私の中にはまだ渦巻いていて………

 

私は………手に入れることが出来るのだろうか?

 

この不安を打ち消せるだけの自信を………

 

「………さて、そろそろ時間も遅くなってきたし、遊花と宝月は帰った方がいいんじゃないか?あまり夜遅くまで学生が外を彷徨いてるのもよくないだろ」

 

そういう師匠の言葉を聞き、時計に目をやると時刻はもうすぐ18時になるところだった。

 

いくら夏が近く陽射しも伸びてきたとはいえ、そろそろ学生が外を歩くには怪しい時間になってきているのかもしれない。

 

「闇。俺はリーネと少し話したいこともあるから、遊花達について帰ってやれるか?………まあ、補導されそうなのはどちらかというとお前の方だが」

 

師匠が闇先パイに目を向けると、闇先パイは師匠の目をジッと見つめてからコクンと頷いた。

 

「………流石にそれは失礼。だけど、遊花達だけというのも心配だから承る。元々、私も仕事帰りだったし」

 

「それじゃあ、遊花達のこと、頼んだぞ」

 

「ん………遊花、桜。帰ろう」

 

「まあ、流石にこれ以上遅くなるのはマズイわね。分かったわ。結束、リハビリで無理して退院が延びるなんてことないようにしなさいよ?」

 

「分かってるっての。遊花もまたな。あまり思い悩むなよ?」

 

「は、はい‼︎師匠、リーネさん、また‼︎」

 

「おう、気をつけて帰れよ」

 

「次は大会で、なのです」

 

師匠とリーネさんに見送られて私達は病室を後にする。

 

しばらく歩いて病院の外に出ると、外はすっかり夕焼け空になっていた。

 

病院の敷地内から出たところで、桜ちゃんが唐突に口を開いた。

 

「ん〜ねぇ、遊花。リーネさんって、どっかで見たことがない?」

 

「えっ?無いと思うけど………」

 

桜ちゃんの言葉に私も色々な事を思い返してみるが、リーネさんを今まで見たような記憶はない。

 

そんな私の返答に桜ちゃんは首を傾げながら納得いかなそうな表情を浮かべながら頭を掻いた。

 

「うーん、でも、どっかで見たことがある気がするのよね〜しかも、その時には遊花もいた気がするんだけど………あ〜モヤモヤする‼︎」

 

「うーん、気のせいだと思うけど………リーネさんぐらい目立つ人なら記憶に残るハズだし………」

 

そう言いながらも、桜ちゃんの言葉が何処かに引っかかったのか、私も何かが引っかかったような、モヤモヤとした気分になってくる。

 

そんな私達を見て、闇先パイは何かを考え込みながら振り返り、師匠達がいる病室を眺めていたことを、私は気づくことが出来なかった。

 

 

 

ーーーーーーー

 

 

 

「………行ったか………さてと、リーネ。少し聞きたいことがある」

 

「………何が聞きたいのです?」

 

遊花達が病室を出て行き、完全に離れきった頃合いを見計らってリーネに声をかける。

 

そんな俺の問いかけに、リーネはこれから問われることの内容が想像つくのか真剣な表情を浮かべて俺を見る。

 

そんなリーネに、俺はさっきの遊花との会話で気になっていた部分を尋ねる。

 

「さっきの遊花との会話で、『遊騎君と闇ちゃんは境遇とかで自分の評価を誤魔化したりはしない』って言ったよな?」

 

「………言ったのです」

 

「だけど、この言葉ってよく考えたらおかしいよな?境遇とかで評価を変えることがない( ・・・・・・・・・・・・・・・・)って言うのは、遊花が評価を変えるような境遇だって知ってた( ・・・・・・・・・・・・・・・・・・)ってことだ」

 

「………」

 

「だけど、今日再会したばかりの俺は当然遊花について話してないし、さっきのお前が言ってた、闇から聞いた遊花を『Trumpfkarte』に入れたいという話は本当なのか、という質問があったことから、遊花について闇から詳しく聞いてるという線も無くなった。精々聞いてるのは俺の弟子で、闇がデュエルを教え、そのために居候していることぐらいだろう。それなのに、お前は『境遇』なんて言葉を出した。それはあの状況じゃ明らかにおかしい」

 

遊花のことを何も知らないのであれば遊花が気にしているのは実力だと思い、俺と闇が評価しているから実力は気にしなくていいと言えばよかったハズだ。

 

仮にも『Trumpfkarte』は世界ランキング2位のチームだ。

 

普通に考えたら、ただのデュエルアカデミア生である遊花が気にするなら、自分の実力が足りていないと思うだろう。

 

実際、さっき遊花が言葉に詰まったのはきっとそういう部分があるのだと思う。

 

遊花は今までの環境のせいで、自分を過小評価し過ぎるところがある。

 

学年トップ10の生徒達と互角以上のデュエルを見せ、勝ってきたハズなのに、遊花はそのことを少しも得意げに話さなかった。

 

そして出てきた言葉が俺や闇のおかげという言葉。

 

自分の実力や才能ではなく、俺と闇が教えてくれたからいいデュエルが出来ていると、遊花は本気で思っているのだ。

 

そこも気になる部分ではあるのだが、今重要な部分はそこじゃない。

 

問題はなんで、『実力』じゃなく『境遇』なんて言葉が出たのかだ。

 

「単刀直入に聞く。リーネ、お前は遊花の過去について何か知ってる、または関係しているのか?お前が病室に入って来る前に言っていた心の準備が本当に出来ていなかった相手は、俺じゃなくて遊花だったんじゃないのか?」

 

「………やっぱり、遊騎君には隠し事とか出来ないのですね」

 

俺の問いかけにリーネが困ったような笑みを浮かべる。

 

それを見て、俺はため息を吐きながら口を開く。

 

「アホめ。お前が分かりやす過ぎるだけだ。隠したいならもう少し考えて喋れ。遊花と宝月は気づかなかったと思うが、闇は気づいてたぞ?」

 

「闇ちゃんにもバレてたのです?」

 

「視線で俺に話を聞いてやってくれって言ってたからな。アイツも自分の境遇的に必要以上に相手の過去に立ち入ろうとはしないし。自分で言うのもなんだが、例外は俺ぐらいのものだろう。気にしなくてもいいってのに、俺の両親の件はアイツのトラウマにもなってるみたいだからな」

 

「闇ちゃんにも気を使われちゃうなんて、お姉ちゃん失格なのです………」

 

そう言ってしょんぼりとするリーネを見て、俺はもう一度ため息を吐きながら、視線を窓の外に向けた。

 

「そう思うならさっさと話せ………姉だって言うんなら、少しは弟分や妹分に相談してもいいんじゃないか?」

 

「‼︎………遊騎君………えへへ、遊騎君はやっぱり優しいのです」

 

そう言って少し嬉しそうに笑うリーネ。

 

リーネは少しの間、目を瞑ってから意を決したように話し始めた。

 

「遊騎君………遊騎君は遊花ちゃんの事故がいつ起こったのか知ってますか?」

 

「いつ?いや、そこまで詳しくは聞いてない。遊花はまだ精神的に不安定だし、変に過去を聞いて負担をかけたくはないからな。その言い方だと、リーネは知ってるのか?」

 

「………はいなのです。あの日は、リーネにとって絶対に忘れられない日なのです。だってーーーリーネにとっても、大切な人を2人も失うことになった日なのです(・・・・・・・・・・・・・・・・ )

 

「………えっ?」

 

リーネにとって()

 

「1人は、遊騎君のことなのです」

 

「俺?」

 

「遊花ちゃんの両親が亡くなった日………それは、あのイカサマ疑惑があった大会の日なのです」

 

「⁉︎なん………だって?」

 

俺がイカサマだと疑われた日と、遊花の両親が亡くなった日が同じ?

 

それは、嫌な偶然だった。

 

以前、闇と話したことがある栗原 遊花と結束 遊騎の人生が似ているという会話が思い返される。

 

ここまでくると、流石に疑ってしまう。

 

そんな偶然が本当に存在するのか?

 

衝撃を受けている俺に、リーネはさらに言葉を続ける。

 

「そしてもう1人は………リーネのママなのです」

 

「リーネの母さん⁉︎お前、それは初耳だぞ⁉︎なんで言わなかった‼︎あの頃はそんな話全然してなかっただろ⁉︎」

 

「遊騎君はあの頃かなり思い詰められてたので、話すべきじゃないと思ったのです。話しちゃったら、遊騎君は余計に塞ぎ込んじゃうと思ったのです。自分のせいでリーネに更に負担をかけてしまったって」

 

「それは………」

 

確かに、今ですらそう思ってしまったのだから、あの頃の俺でも確実にそう思っただろう。

 

そしてそう思ってしまった場合、あの頃の精神状態なら俺がどうなってしまったかは想像がつかない。

 

「あの日、リーネはいつも使ってた社用車に乗って遊騎君がいた会場に行こうとしたのです。だけど、少し準備をしている間にママがリーネがいつも使ってる社用車を使って他の会社との会議に出かけてしまったのです。そして、事故が起きてしまったのです」

 

そう言って、リーネは悲しそうに顔を伏せる。

 

「原因は社用車自体の整備不良だったみたいなのです。ママが走行させていたその車は、運転中にブレーキが効かなくなり歩道に乗り込み、1組の夫婦を巻き込んで一軒の空き家に突っ込んで、そのままママは帰らぬ人になってしまったのです」

 

「1組の夫婦………‼︎おい、まさかそれって………⁉︎」

 

「………無くなった夫婦の名前は栗原 遊翼(くりはら ゆうすけ)と栗原 愛花(くりはら まいか)………遊花ちゃんのご両親なのです」

 

「っ⁉︎」

 

「だから、リーネは遊花ちゃんの名前も顔も知ってたのです。お葬式の時に、リーネも直接謝罪に行ったですから。でも、遊花ちゃんはその時には完全に塞ぎ込んでずっと俯いてしまっていたので、多分リーネの顔を覚えていないのですが………だから、遊花ちゃんとリーネの関係は簡単な話なのです」

 

「じゃあリーネと遊花の関係って………」

 

俺の愕然とした声にリーネは顔を上げ、沈痛な表情でその口を開いた。

 

「遊花ちゃんとリーネの関係を表せる言葉はただ1つーーー被害者と………加害者の娘なのです」





次回予告

遊騎と遊花が約束した『Natural』での大会が遂に開催される。
続々と集まる決闘者達に遊花はワクワクを募らせる。
一方、遊騎は懐かしい者達との再会を喜びながらも、遊花とリーネの因縁に思い悩む。

次回 遊戯王Trumpfkarte
『姫VS龍・始まる大会』


次回からいよいよ1章ラストになるささなかな大会編開始です。
大会編はかなり悩みましたが、やっぱりキャラごとの強さや見せ場を作るために全試合書くことにしました。
おかげでかなり長くなりそうですけどね‼︎
最低でも12月までには終わればいいな〜本当に。
そして今回はとうとう『Trumpfkarte』の創始者登場。
今回は少しだけしか描かれませんでしたが、遊花との浅からぬ縁もあり、遊騎との過去など、これから物語にどう関わってくるのかお楽しみに。
そして前書きにも書きましたが、更新が遅くなり申し訳ありませんでした。
やっぱり仕事が始まると、落ち切ってる体力の面もあり中々更新時間が取れなくて辛いです。
おまけにお盆過ぎの急激な温度変化に風邪を引いてしまってたので、今回はなおさら遅くなってしまいました。
次回はなるべく早く更新出来るように頑張ります。
それでは今回はここまで。
ではでは〜
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