今回は小休止の会話回。
今回は色々な視点を織り交ぜている他、シリアスパートとコメディーパートが入り混じったテンションの落差、多数のヴェルズ語など少し分かりにくくなっています。
おまけに普段のデュエル回並みに長いので、お気をつけください。
それでは本編なのですよ〜
★
「全員、午前中の試合はご苦労だった。既にお昼は回っているが、これから昼休憩を取ってから準決勝に移りたいと思う。現在の時刻は12時30分だから14時まで、1時間半を休憩時間とする。それまでにお昼等を済まして戻ってきてくれ。それでは、一時解散とする」
師匠のアナウンスを聞き、大会に参加していた皆さんが動き始める。
それを眺めていた私に、桜ちゃんが話かけてくる。
「遊花、お昼ご飯はどうする?」
「桜ちゃん。えへへ、実はお弁当作ってきたんだ。師匠や闇先パイと一緒に食べたいなって思って」
「………道理で大会に出るにしては大きなバックを持ってきてると思ったわ。というか、どこで食べるつもりなのよ?」
「あ………考えてなかった」
「アンタねぇ………というか、私の気のせいじゃなければ既に店内に結束と闇の姿が無いんだけど………」
「えっ⁉︎」
桜ちゃんのその言葉を聞き、私は慌てて店内を見回す。
しかし、店内の何処を見ても師匠と闇先パイの姿を確認出来なかった。
慌てている私の様子を見て、カウンターにいた島さんが首を傾げながら声をかけてくる。
「遊花君、どうかしたのかい?」
「し、島さん‼︎師匠と闇先パイを知りませんか⁉︎」
「遊騎君と闇君かい?あの2人ならさっき店を出て行ったよ。闇君が出て行ったのを見て遊騎君が追いかけるように出て行ったから、何か話でもあったんじゃないのかな?」
「そ、そうですか………」
「あの2人に何か用があったのかい?」
肩を落として落ち込む私に、心配そうな顔で島さんが声をかけてくれる。
そんな島さんに、桜ちゃんは呆れたような声で答える。
「この子、あの2人と一緒にお昼ご飯を食べようとしてたみたいなんだけど、約束してなかったみたいなのよね」
「そうだったのかい。なら、2人に連絡を取ってみればいいんじゃないのかい?」
「………私、2人の電話番号知りません………」
「そ、そうなのかい?」
「遊花、聞いてなかったのね………まあ、色々あったから忘れてたんだろうけど………仕方ないわね、私が闇にかけてあげるわ」
「桜ちゃんは知ってるの⁉︎」
驚きの表情で桜ちゃんを見る私を、桜ちゃんは携帯端末で闇先パイに連絡を取りながら呆れた表情で見る。
「そりゃ同居してんだから連絡を取るために連絡先ぐらい聞くわよ。結束は入院のこともあったから私も忘れてたけど………ん、ダメね。繋がらないわ。電源が入ってないみたい」
「そっか………どうしよう、このお弁当?」
「あの2人のことだから外に行ったのなら何処かで食べて帰ってくるでしょうしね」
「うぅ〜何で先に話しておかなかったんだろう〜私の馬鹿〜」
「あれ?どうかしたのです、2人共?」
「栗原は何故泣きそうな顔で蹲っているんだ?」
「ああ、リーネさんと炎さん。実はねーーー」
蹲って頭を抱える私を見て、今度はリーネさんと不知火さんが不思議そうに声をかけてきた。
そんな2人に桜ちゃんが理由を説明すると、2人共苦笑を浮かべた。
「あの2人は結構自由人ですからね〜先に約束してなかったならまず捕まらないと思うのですよ」
「あの2人も天羽には言われたくないと思うが………結束の様子から冬城に何か話があったことは確かだと思うからな。少なくともしばらくは帰ってこないだろう。役に立てなくてすまない」
「い、いえいえ、謝らないでください。元々ちょっと話しておかなかった私が悪いんですし………そうだ。お2人はお昼ご飯はどうするのですか?」
「お昼ご飯です?リーネ達は何処かで食べてくるつもりなのですよ」
「御影がさっさと出て行ってしまったから天羽と2人で近くの店にでも行こうと思っていた。天羽を1人で外に出すと何をしでかすか分からんからな」
「むむっ、その言い方は酷いのですよ」
「そう言って1人で外に出したら毎回トラブルを連れてくるのは天羽だろう。その巻き添いを喰うのは大体俺か結束なんだ、迷惑をかけられる側の気持ちも少しは考えろ」
「むむぅ、解せぬのです」
「あ、あはは………でも、それなら私達と一緒に食べませんか?このままだと師匠と闇先パイの分のお弁当が余っちゃいますし………」
私のその言葉にリーネさんと不知火さんは少し驚いた表情を浮かべる。
「これ食ってもいいのか?これは結束と冬城の分なのだろう?」
「そうですけど、多分師匠と闇先パイはお外でお昼ご飯を食べて帰ってくると思うんです。そうなると、お弁当が余ってることでお2人に気を遣わせちゃうかも知れませんから」
「遊花ちゃんは本当に良い子なのですね。そういうことなら、リーネは遠慮なくいただくのです」
「栗原がそこまで気を使う必要はないと思うが………まあ、そういうことならばありがたくいただこう」
「ありがとうございます。だけど、結局どこで食べましょうか?」
「島さん、ここで食べちゃダメなのです?」
「いや、リーネさん、ここデュエルスペースだし………」
「流石にこの後も大会があるのだからデュエルスペースで食べるのは勘弁して貰いたいけど、店の奥でなら構わないよ」
リーネさんの言葉に苦笑しながら、島さんがさっき闇先パイに連れていかれた店の奥を指差す。
「でも、そこって島さんの生活スペースなんじゃないの?」
「ははは、遊騎君の弟子である遊花君は私には孫のようなものだからね。それにリーネ君や炎君も、そして桜君だって私にとってはもう身内のようなものだ。そこまで気にする必要はないよ。闇君なんて、いつも店の裏口から入ってくるしね」
「何してるのよ闇は………」
「あ、あはは………でも、そういうことならお借りしても構いませんか?」
「ああ、いいとも。ちょうどいいから、私もお昼ご飯にさせて貰おうかな」
「あ、だったら島さんも是非私のお弁当を食べてください。少し多めに作ってあるので」
「そうかい。それなら、遠慮なくいただこうかな。悪いけど、デュエルスペースから自分の分の椅子を持っていってくれるかい?何分普段は1人で暮らしているから椅子が足りなくてね」
「分かりました」
そんな島さんの嬉しそうな声を聞きながら、私達はお店の奥にあるリビングに椅子を持って移動させて貰う。
しばらく全員でテーブルや椅子を準備して、テーブルの上にお弁当を広げる。
そして全員の準備が終わったところで、手を合わせて挨拶をした。
『いただきます』
「ん〜やっぱり遊花の料理はいつ食べても最高に美味しいわね」
「もう、桜ちゃんは大袈裟だよ」
「でも、本当に美味しいのです。遊花ちゃんは将来いいお嫁さんになりそうなのです」
「り、リーネさんまで、お、お嫁さんだなんて、そんな………あぅ」
リーネさんの言葉に私は顔が真っ赤になってしまう。
うぅ〜いいお嫁さんになるなんて、恥ずかしいよ………
「それにしても、こんな美味しいお弁当を食べ損なうなんて、結束達も勿体ないことをしたわね」
「それは仕方ないよ、私が話しておかなかったのが悪いんだし………」
「まあ、あの2人のことだ。話しが終わったら一緒にお昼を食べて戻って来るだろう。結束が『Trumpfkarte』にいた頃からずっとそうだったからな」
「遊騎君と闇ちゃんは昔からすっごく仲がいいですからね〜」
「………やっぱり、師匠と闇先パイは昔から仲が良かったんですか?」
「あ、それ私も気になってた」
そんな私と桜ちゃんの質問に、島さんが柔かな笑みを浮かべながら口を開く。
「あの2人は小学生の頃からずっと一緒にいるからね。昔はよく遊騎君が闇君の手を引いてこの店に来て一緒に遊んでいたものだよ。2人が出会ったのもこの店だしね。最も、闇君が最初にこの店に来た時には、闇君はデッキすら持っていなかったけどね」
「そうなの?正直あの2人の出会いとかあまり想像出来ないんだけど………というか、凄く詳しいわね」
「そりゃあそうだとも。彼らはこの店の数少ない常連客だったからね。遊騎君が最初の常連客、2番目が闇君だ。2人が中学生になった頃から炎君が3番目の常連客になってくれたけど、それまではずっとあの2人がデュエルをするのを眺めているのが日課のようなものだったからね」
「………そんなに昔から人が少ないのね、この店」
「桜ちゃん‼︎」
「ははは、事実なんだし別に気を使う必要はないんだよ、遊花君。実際、遊騎君と闇君がいなければ、もっと早くにこの店は畳んでいただろうからね」
桜ちゃんの呟いた一言に私が思わず嗜めるように声をあげると、島さんは気にしてないというように朗らかに笑う。
それにしても、さっきの島さんの口にした言葉には気になるところがあった。
それは闇先パイが『Natural』に初めて来た時にデッキを持っていなかった、というところだ。
ここ、決闘都市『ケルン』は、とにかくデュエルが盛んな街でこの街に住んでいる人間全員にデュエルディスクが無料で支給されているよう場所だ。
私だって、初めて自分のデッキを手に入れたのは幼稚園の頃だったのに、当時小学生だった闇先パイがデッキを持っていなかったというのはどういうことなのだろう?
考えていることが表情に出ていたのか、そんな私を見て島さんは何処か納得したような笑みを浮かべた。
「成る程………遊花君と桜君は闇君の過去を知らないのか。まあ、闇君のことだから隠してるんじゃなくて、聞かれないから教えなかったんだろうがね」
「闇先パイの過去………ですか?」
「まあ、確かに知らないけど、闇の過去がどうかしたの?」
疑問の表情を浮かべる私達に、島さんだけでなく、リーネさんや不知火さんも困ったような表情を浮かべる。
しばらく困ったような表情を浮かべていた島さんだったが、少しして仕方が無さそうに口を開いた。
「本当は、こういう話を本人以外がするのはどうかと思うんだけどね。多分、本人は本当に気にしてないんだろうから、本人から聞いた話を、私から少しだけ話させて貰おう。闇君の過去は色々と特殊でね………闇君はね、元々は孤児なんだよ」
「………えっ?」
「孤児って………親がいないってこと?」
「………親がいないっていうだけならまだよかったんだけどね」
そういって、島さんは表情を少し固くしながら口を開く。
「彼女が孤児として発見されたのは今から約12年前だ。この街にある教会に孤児院が併設された施設の近くで、夜の闇の中、ボロボロの状態で倒れていたところを、孤児院の院長が発見したらしい。保護された闇君は、すぐに何処の子供なのかを調べられたらしいんだが、闇君に該当する人物はこの『ケルン』には存在しなかったんだ」
「存在しなかったって………」
「おまけに、憔悴していたせいか闇君自身も自分の記憶を失っていてね。どこから来たのか、どうしてあんなところで倒れていたのか、何も覚えていなかった。彼女が身に付けていたものもボロボロの布切れと、数枚の見たこともないデュエルモンスターズのカードのみ。まるで本当に闇の中から突然その場所に現れたみたいだなんて言われていたようだ。闇という名前も、当時の捜査関係者がそんな彼女を仮名で呼んでいたものがそのまま付けられたらしいからね。冬城という苗字も、闇君を引き取った孤児院の院長のもの。だから、闇君の本当の名前を知る人は誰もいないんだよ」
「そんな………」
島さんから語られる闇先パイの過去に、私達は思わず絶句してしまう。
そんな私達を見て、島さん達は苦笑しながら首を振る。
「まあ、暗い気持ちになるのは分かるけど、あまり気にし過ぎない方がいいよ。本当に闇君はその時のことはもう気にしてないみたいだからね」
「冬城はあれでさっぱりとした性格をしているからな。自分の中で終わったことだと決めてしまえばもう気にもかけないのだろう」
「リーネの時なんて昔のことを聞いたらいきなり孤児だって話をされたですからね………あの時は本当にどういう表情をすれば良かったのか困ったのです。言った闇ちゃん自身はあっけらかんとしてましたし………」
そういう島さん達は呆れたような、何処か安心しているような表情を浮かべていた。
そんな島さん達の様子を見て、普段の闇先パイの様子を思い出す。
いつも無表情で、だけど何処か優しい眼差しで私達のことを見守ってくれている闇先パイ。
多分、本当に島さん達の言う通り、闇先パイにとって、それはもう終わったことで………私が気にしたって、どうしようもないことなんだろうけど………やっぱり、心がモヤモヤするのは事実で………
………本当に、私は何も知らないんだなぁ………師匠のことも………闇先パイのことも………
「………さて、話が本筋から少し外れてしまったね。元々はあの2人が出会いの話だったか。まあ、この話をするのには彼女の境遇も関係してくるから、ある程度は仕方がないことだね」
「………今の話が関係してるんですか?」
「ああ、そうだよ。さっきの話で少し出たけど、闇君がそもそもこの店に来たのは記憶を無くした自分が持っていたカードのことを知るためだったんだ」
「………そういえばさっきもそんな話をしてたわね。というか、そのカードは今どうなってるの?」
「そのカードなら今でも闇君のデッキに入っているハズだよ。まあ、彼女自身あまりあのカードを使おうとはしないから多分遊花君達は見たことがないだろうけどね………とにかくそんなわけで、孤児院に引き取られた闇君は自分の手掛かりとなるものを探しにこの店に来たんだ」
ーーーーーーー
●
「んーこれ、欲しいな………でも、買うと今月のお小遣い無くなるしな………んー」
「ふふっ、今日は何を見て唸っているんだい、遊騎君」
「あ、島さん。このカード、俺のデッキに欲しいなって思ってさ」
いつものようにショーケースに張り付きながら唸っていた遊騎君に私が話しかけると、遊騎君は輝くような笑顔を浮かべながらショーケースにあるカードを指差した。
「おや?それは新しく出たHEROのカードじゃないか。使うのかい?」
「うん‼︎かっこいいし、このカードなら絵札の三銃士と一緒に使えるしさ………だけど、これ買っちゃうと今月のお小遣いが無くなっちゃうんだよね」
「ははは、それは困ったものだね。それならしばらく待ってみたらどうだい?もしかしたら値段が下がるかもしれないよ?」
「えーでも、そう言って前は値段が上がったじゃん」
「そればっかりはおじさんにもどうしようもないからね。なるべく安くは提供してあげたいけど、うちの店だけ安くても買占めが起こってしまうかも知れないからね」
「むー買い占めることが出来るとか、大人ってズルいなー」
そういって遊騎君は不満そうに頰を膨らませながらショーケースの中にあるカードを再び見る。
そうしてしばらく唸っていた遊騎君だったが、どうするか決めたのか再び私の方を見てショーケースのカードを指差した。
「決めた‼︎島さん、このカード買う‼︎」
「おや、いいのかい?」
「おう、男の仕事の8割は決断で後はおまけみたいなものだからな‼︎」
「………どこで覚えてくるんだい、そんな言葉?」
「前にテレビでヒーローが言ってた」
「最近のテレビはよく分からないね。ほら、このカードでいいかい?」
「うん‼︎それじゃあこれお金‼︎早速デッキを組み直そっと」
そういってお金を払うと遊騎君はすぐにデュエルスペースのテーブルに座って、背負っていたリュックから自分が持っているカードを広げてデッキを組み直し始める。
私がそんな遊騎君は微笑ましいものを見る目で見ていると、不意に店の扉を開ける音が聞こえた。
珍しいこともあるものだと私が扉の方に目を向けると、そこには遊騎君と同い年ぐらいの少女がいた。
黒髪のショートボブに服は真っ黒なワンピース。
整った顔立ちと無機質な眼がまるで人形を思わせるような少女だった。
私は久しぶりの遊騎君以外のお客さんに驚きながらも、少女に近寄り、しゃがみ込んで視線を合わせて口を開く。
「いらっしゃいませ。ようこそ『Natural』へ。今日はカードを見に来たのかい?」
私がそう尋ねると、少女はこくんと頷く。
「そうかい。なら、見ての通り寂れた店だがゆっくりと見ていくといいよ。カードならあそこのショーケースやストレージから探すといい」
そういうと少女は再びこくんと頷くとショーケースの前に移動してショーケースに張り付きながらカードを探し始める。
うちの店に来るお客さんはショーケースに張り付く子ばかりだなぁ、なんて思いながら少女や遊騎君の様子を見ながらもお店の仕事を進めていく。
少女はしばらくの間ショーケースの中を覗き込んでいたが目当てのカードが見つからなかったのか、辺りに視線をきょろきょろと彷徨わせはじめる。
そんな中、少女の視線が近くでデッキを作っていた遊騎君の方に向き、少女は遊騎君に近寄っていき遊騎君をジッと見つめはじめた。
しばらくは遊騎君も気にせずにデッキを作っていたのだが、次第に耐えられなくなったのか少女の方に向き直り声をかけた。
「………なあ、なんか俺に用があるのか?」
遊騎君がそう尋ねると少女はふるふると首を振る。
しかし、少女の視線は遊騎君が作っているデッキから外れない。
遊騎君が困ったような表情を浮かべて私の方を見る。
そんな遊騎君を見かねて、私も2人に近付いて声をかける。
「遊騎君が作っているデッキに興味があるのかい?」
「デッキ………?」
そこで初めて少女は首を傾げながら声を出す。
少女の声はすぐにでも掻き消えてしまいそうな程小さな声だったが、なんとか私の耳に届いた。
「おや?デッキが分からないのかい?カードを探しにきたのだから君も決闘者だと思ったんだけどね」
「デッキ………決闘者………知らない………私、カード、探しに、来た。私の、手かがり、欲しくて」
「手がかり?」
「このカード………知らない?」
「うわっ、何このカード………見たことねぇ」
「これは………私も見たことがないね」
そういって少女はポケットから数枚のカードを取り出し、私と遊騎君がそのカードを覗き込むと、私達は思わずといったように呟いた。
そんな私達の反応に、少女は相変わらずの無表情だったが、何処か暗い雰囲気で肩を落とす。
そんな少女を見て、遊騎君は何を思ったのか明るい表情を浮かべて口を開いた。
「よし、じゃあさせっかくだから、そのカードを使ってデュエルしてみようぜ」
「えっ?」
遊騎君の突然の言葉に少女は目を丸くする。
「デュエルって、何?」
「あーデッキも知らないんだからデュエルも分かんないか。このカードでデッキを使って勝負するんだよ。せっかく見たこともないカードがあるんだから、やっぱりデュエルしてみたいじゃん。それにデュエルすることでお互いのことも分かるしさ」
「遊騎君………君ねぇ」
遊騎君の言葉に私は呆れたような表情を浮かべる。
おそらく、暗い雰囲気を出した少女を慰めたかったんだろうが、もう少し他に言葉はなかったんだろうか?
しかし、そんな遊騎君の言葉が何処かに響いたのか少女は遊騎君に顔を近付ける。
「デュエル………やって、みたい。なんか、知ってる、気がする」
「お、そっか。ならやろうぜ、デュエル」
「でも、私、デッキ?ない」
「あーそうだよな。なら、俺の余ってるカード分けるからさ、それでデッキ作ろうぜ」
そういって遊騎君が自分の持っていたカードを広げはじめると、少女はふるふると首を振る。
「でも、それ、あなたの、カード」
「気にすんなって。決闘者同士、困った時は助け合いだからな。まあ、大したカードもないんだけど………俺は結束 遊騎。お前、名前は?」
「………闇、って、呼ばれてた」
「呼ばれてた?………まあいいや。それじゃあ闇、デュエルしようぜ‼︎」
「‼︎………うん、よろしく、遊騎」
ーーーーーーー
★
「結局、その後は遊騎君が闇君相手に新デッキを試して、寄せ集めのカードで出来た闇君のデッキを一方的に打ち負かしてね。そんなデュエルでも闇君には楽しかったのか、遊騎君が帰る時間までずっと2人でデュエルをしていたんだ。そんなことがあってからだね、このお店の常連に闇君が加わったのは」
そういって、昔を懐かしむように島さんが目を細める。
それは、きっと島さんにとっても大切な思い出なのだろう。
そのことを思い出している島さんは、凄く優しい笑みを浮かべていた。
「結局、闇君の境遇を聞いたのはそれからしばらくたってからだったけど、その頃にはもう、闇君は自分の過去を探すことよりも、遊騎君と楽しくデュエルをすることの方が重要になっていたみたいだったね。何もなかった彼女にとっては、遊騎君と、遊騎君が与えてくれたデュエルというものはそれだけ大切なんだろう。そして、それはきっと遊騎君の方からしてもそうだったんだろうね。彼も闇君が来るまではこの店で独りぼっちだったからね」
「………だからあの2人は仲がいいんですね」
「そうだろうね。だからこそ、闇君は今でも遊騎君と一緒にデュエルが出来ることを楽しみにしているんだよ。闇君にとって、デュエルは遊騎君との絆の象徴なんだろうね」
そういって、島さんが窓の外を見て、私もつられるように窓の外を見る。
………私を救ってくれた師匠………私を導いてくれる闇先パイ。
私は、そんな2人に何が返せるんだろう?
そんなことを、ふと思った。
ーーーーーーー
☆
「………ふぅ、ここなら誰にも見られないかな?」
「見つけた、闇‼︎」
「‼︎遊騎………何か用事?」
『Natural』を出て、店の路地裏に入った俺は、追いかけていた人物である闇を見つけて思わず声を上げる。
そんな俺を見て、闇は手を後ろに組み、目を見開きながら首を傾げた。
俺はそんな闇を気にせずに近づいていき、闇が隠した左手を掴んで、見える位置まで引っ張る。
見えるようになった闇の左手は、
「むぅ………バレちゃった」
「バレちゃった、じゃねぇよ」
左手を見られた闇は気まずそうに顔を逸らす。
そんな闇にため息を吐きながら、俺は確認するように口を開く。
「これ、さっきのデュエルが原因だな。エレキングコブラと超雷龍-サンダードラゴンの攻撃でこうなったのか?」
「ん、正解」
俺の言葉を闇は肯定する。
闇は先程のデュエルで超雷龍-サンダードラゴンが攻撃した際に少しだけ身体を引き、雷のブレスに左手が呑まれると少しだけ表情を顰めていた。
闇の妙な動きを見てもしやとは思ったが、その予感は当たってしまったようだ。
「………天雷が使ってたのは闇のカードなのか?」
「ううん、闇のカードだったらこの程度じゃ済んでないよ。終夜が使っていたのは寧ろ逆のカード」
「じゃあ、前に話してたカードの精霊って奴なのか?そんなのが何でまた闇に怪我なんか………」
「私の資質自体が闇のカードの性質に極めて近いって話、前にしたよね?闇のカードに近い私は、カードの精霊にはかなり嫌われてるの。だから、これは威嚇攻撃みたいなもの。こちらに手を出すなって言う警告だね」
「それって………」
闇はカードの精霊からも、闇のカードからも攻撃を受けてしまうってことなのか?
どんな表情をすればいいのか分からない俺に、闇は何でもないというように首を振った。
「遊騎が気にする必要はない………それに火傷ぐらいならまだ対処できるから」
「えっ?」
「おいで、ウロボロス」
闇がそう呟くと、闇のデュエルディスクから霧のように闇が溢れ出す。
その闇の霧が周囲を包み込むと、霧の中から圧倒的な存在感を放つ漆黒の三つ首龍が現れた。
「なっ⁉︎」
『ヨウオウヨジガラレワ カダンヨヲレワ』
現れた三つ首龍に驚いていると、その龍は底冷えするような渋い声で闇に話しかける。
そんな龍を、闇は気にすることもなく平然と話しかける。
「ん、ちょっと火傷したから治して」
『………ガダノイシホ デイナワカツア ニウヨ ノルオタレヌ ヲレワ』
「いいから、やって」
『ダウオウヨジ イナガタカシ アハ』
龍は底冷えするような渋い声から一転して、哀愁が漂うような悲しそうな声を出すと、身体から闇の霧を噴き出させ、闇の左手を覆っていく。
しばらくして左手を覆っていた闇が霧散すると、闇の左手は火傷や噛まれた跡のない綺麗な手に戻っていた。
「ん、ばっちり。元通り」
「待て待て待て‼︎色々とちょっと待て‼︎」
「ん、どうかした?」
「どうかしたも何もツッコミどころが多すぎるだろ⁉︎」
平然としている闇に思わずツッコミを入れると、闇は不思議そうに首を傾げる。
むしろこっちの方が首を傾げたいわ‼︎
「まずいきなり出てきたそこの龍‼︎そいつはなんなんだよ⁉︎」
『ヲキオリシミオ ゴイ スロボロウズルエヴ ハナノレワ ノドキウユ ルカカニメオニツハオ』
「ええい、自己紹介してくれてるんだろうが悪いが何言ってるか分からん‼︎」
「えっと、『お初にお目にかかる、遊騎殿。我の名はヴェルズウロボロス。以後お見知り置きを』だって」
「分かるのかよ⁉︎というかその外見なのにめっちゃ丁寧だな、お前⁉︎」
『モデドホレソ ヤイ』
俺のツッコミにヴェルズウロボロスと名乗った龍が照れたような咆哮をあげ、地面が揺れる。
止めろ、外見とのギャップが激しすぎる‼︎
「………ヴェルズってことは今、闇が使ってるモンスターなんだよな?」
「うん。この子はヴェルズウロボロス。さっきのデュエルでは出せなかったけど、私の切り札の1枚」
「お前が闇のカードを使ってるって言うのは前にも聞いてたけど、闇のカードって言うのはこんな風に簡単に実体化してくるものなのか?」
「ううん、普通の闇のカードなら簡単に実体化することは不可能。というより、それが出来るならわざわざ使用者を乗っ取るなんて、非効率的。モンスターの身体の方が、間違いなく人間より強いよ」
「………それもそうか」
前に闇に聞いた話しだと闇のカードは使用者の身体を乗っ取るらしいのだが、こんな風に実体化できるのならわざわざそんな弱体化するような真似を取る必要ないもんな。
「この子が実体化してるのは、私の適合割合が高いから。普通の決闘者ならこうはいかない」
「………はぁ、まあ他にも聞きたいことがあるから今はこのぐらいにしておく。次の質問なんだが、どうやって闇の怪我をヴェルズウロボロスが治したんだ?」
「そんなに難しいことじゃない。闇のカードとの適合割合の高さを活かして闇で包んでいる間に一度身体を分解して再構築しただけ」
「滅茶苦茶難しくて危険なことやってんじゃねぇか⁉︎」
「これも適合割合が高くて資質が闇に近い私だけの特権。普通の人なら死んじゃうから止めた方がいい」
「やらねぇだろ、誰もそんなこと………」
誰が好き好んで自分の身体を分解するんだよ………
「はぁ〜まあいい。いや、良くないけど。深く考えてたら午後の試合に間に合わなくなっちまう。それで、最後の質問なんだけどさ」
「ん、何でも聞いて」
そういって闇は無表情のまま胸を張る。
そんな闇に、俺はさっきの試合で初めてヴェルズを見てからずっと気になっていたことを口にした。
「闇が使ってるヴェルズのモンスターってさ。昔、俺がお前にあげたモンスター達に似てないか?ヴェルズヘリオロープにヴェルズカストル………あれ、最初にお前に会った時にあげた寄せ集めのカードの中にあったジェムナイトエメラルとセイクリッドポルクスだろ?」
「………流石遊騎。気付いたんだ、ヴェルズの秘密に」
俺の言葉に、闇は目を丸くしながらもどこか嬉しそうな表情を浮かべる。
そんな闇に俺は苦笑を浮かべながら首を振った。
「俺も九石とのデュエルでセイクリッドプレアデスを出してなかったら多分そこまでは思い浮かばなかったさ。俺が唯一知っているセイクリッドプレアデス以外のセイクリッドモンスターであり、セイクリッドの召喚権を増やす効果を持っていたセイクリッドポルクスなんて、思い出せただけ奇跡だ。それにヴェルズヘリオロープにヴェルズカストル以上に分かりやすいモンスターをお前は出してくれたじゃないか」
そういって俺は未だに闇の後ろに実体化しているヴェルズウロボロスを指差す。
「ヴェルズバハムート、ヴェルズオピオン、そしてそこにいるヴェルズウロボロスの姿を見れば、俺だって確信が持てる。前にお前は言ってたもんな。『三龍は、まだ力を貸してくれる』って。そういう意味なんだろ?」
「………ふふっ、大正解。やっぱり、遊騎は凄いね」
俺の言葉に、闇は無表情のまま、でもどこか嬉しそうにぱちぱちと手を叩く。
そんな闇を見て、俺は思わず苦笑を浮かべる。
そんな俺を見て、闇はいつも通りの無表情で口を開いた。
「遊騎には特別に教える。私とヴェルズとの出会いを。そして、どうしてヴェルズのモンスターが、遊騎がくれたモンスターに似ているのかも」
ーーーーーーー
●
「………」
「酷い顔をしているな」
「あ………炎………ごめんなさい………今日も………負けちゃった」
ある日、プロチーム『Trumpfkarte』としての大会が終わり、事務所のソファーで俯いて座っていた私に、炎が話しかけてきた。
「気にする必要はない。冬城の分は俺と御影が勝ったからな………大丈夫か?」
「大丈夫………だよ………大丈夫じゃないと………ダメ、なの」
「………」
私の言葉に、炎が表情を固くする。
炎にそんな表情をさせてしまうことを申し訳なく思いながらも、私にはそんな言葉を吐くことしか出来なかった。
遊騎が………私の1番大切な友達がプロリーグから追放され、私達の前から突然姿を消して1ヶ月が経過した。
遊騎がいなくなったことにショックを受けた………のだろうか?
正直、自分の感情がよく分からない。
突然遊騎がいなくなったことで錯乱したりは、しなかった。
………どう反応すればいいのか、分からなかった。
あまりにも、当たり前のように一緒にいた存在が、在ることが当然の存在が、無くなっていたから。
例えるなら、『朝起きたら利き手が無くなっていた』きっと、そんな感じなのだろう。
まず、どうすればいいのかが分からない。
無くなったからといって、人生が終わるわけでもなく、多少違和感があろうが生活はしていける。
だけど………確かに在ったハズのその場所には、何も無い。
圧倒的に………取り返しがつかないほど、何も無い。
他のもので無くなったものを補おうとしても、それはやっぱり偽物で………空虚感を埋めることはできても、元に戻すことは出来なくて………
だからこそ、今の私は空っぽで………そして空っぽだからこそーーー
「ダメだよね………私………こんなんじゃ、氷結界に見捨てられても仕方がない」
「冬城………」
ーーー今の私には自分のデッキすら扱うことが出来ないのだろう。
遊騎がいなくなった日から、私は自分が使っていた氷結界のデッキを使うことが出来なくなっていた。
正確には、使えなくなったという表現は正しく無いのかも知れない。
デッキをデュエルディスクにセットすることも、それでデュエルをすることも出来る。
だけど、デュエル中に私の手札に氷結界のカードがくることは無くなった。
どんな構築に変えても、氷結界のカードだけは手札に来ることはなかった。
そして、EXデッキに入っているシンクロモンスターの中でも、氷結界の虎王ドゥローレンは出せなくなっていた。
他の氷結界のカードと同じく、ドゥローレンだけシンクロ召喚を行うための条件が、どうしても揃わなかった。
私が今使える氷結界のカードは、氷結界の三龍だけ。
まるで、他の氷結界のカードに、今のお前には使う資格がないのだと言われているようだった。
「………俺ではお前を慰めることが出来る言葉は浮かばん。だが、冬城ならきっと大丈夫だ。お前はいつの日か、また前のようなデュエルが出来るようになる」
「………そうかな?」
「ああ、それは俺が保障しよう。だから、今はゆっくりと休め」
「………うん………炎………ありがとう」
「気にするな。我ながら、お前にこんな言葉しかかけることが出来ない自分が嫌になるからな」
そういうと、炎は荷物を纏めて事務所を出て行った。
「………私も帰ろう」
しばらくボーっとしていた私はそう独りごち呟くと、荷物を纏めて外に出た。
外に出ると、辺りは既に暗闇に支配されていた。
気づいたら、時刻は22時を回っており、人影もまばらだ。
私は自分の外見がかなり幼いということを自覚している。
他の人から見れば、私の姿は小学生程度の少女にしか見えないだろう。
当然、そんな少女がこの時間帯に歩いていれば面倒なことに巻き込まれかねない。
私はなるべく急いで自分の借りているマンションに帰るために夜の街を駆けていく。
そうして、自分のマンションの近くまで差し掛かったところだった。
『ヨヨジウヨシ タエカカヲミヤ 二ロココ ヨヨジウヨシ』
「?………誰?」
近くにあった電信柱の陰から、不思議な声が聞こえた。
私は電信柱の方を見るが、そこには人影はない。
気のせいかと思い、私がそのまま立ち去ろうとすると、また私の耳に不思議な声が届く。
『ヨヨジウヨシ タエカカヲミヤ 二ロココ ダココ』
「………また、聞こえた」
何度も聞こえる不思議な声に、私はもう一度声の主を探す。
すると、声が聞こえた電信柱の陰に1枚のカードが落ちていることに気づいた。
私は首を傾げながら、落ちていたカードを拾う。
すると、手に取ったカードから夜の闇を凝縮したような黒い何かが溢れ出し、私の身体を包み込んだ。
『ダノモノシタワ ハダラカノマサキ デレコ ナタツカカ ハハハハフ』
嘲笑うような笑い声が頭の中に響く。
そんな声に対し、私はーーー
「むぅ、うるさい。とりあえずこれが喋ってることには間違いなさそう?」
『………エ』
ーーーあまりにもうるさいので少し不機嫌になりながらも、平然とそのカードを握りしめた。
『ルイテツコノ ガキシイ ゼナ ダゼナ アアアヤギ』
「不思議。スピーカーが仕込まれてるわけでもなさそう。何処から声が聞こえてる?」
私が確認するようにカードを折れるか折れないかの絶妙なバランスで引っ張ると悲鳴のような声が頭に響いてくる。
『‼︎ルレブヤ ガロシリヨ ノレワ ‼︎ナルパツヒ ‼︎オロメヤ メヤ』
「むぅ、凄くうるさい………燃やせば黙る?」
『‼︎テメヤ』
「テメヤ………もしかして、反対に言葉を言ってる?"やめて"って言ってたの?」
『カイナハデルア ガロコドミ ハトルスイカリ ヲゴンゲ ノラレワ ウホ』
「長文は分からない。ここでは人間の言葉で話せ。そうじゃないと燃やす」
『ダリム』
私がそういうと、カードから怯えるような声が聞こえてきた。
改めてそのカードを観察する。
種類はリンクモンスター、名称はインヴェルズオリジン。
イラストは黒い霧のようなものが集まり顔のようになっている。
おそらく、この顔が話しかけてきているのだろう。
聞いたことがないモンスターで、意識疎通は可能………だけど人間の言葉を話すのは無理………興味深いけど、面倒そうなものを拾ってしまった。
私は困った時の癖で、自分の頭をポンポンとノックするように叩きながらそのカードを懐にしまい、再び夜道を駆ける。
カードから抗議するような声が聞こえてきたが無視して、自分が借りているマンションの自室に入り、部屋の電気をつけると、懐からインヴェルズオリジンのカードを取り出してテーブルの上においた。
『?ダコドハココ』
「私の部屋。外だと誰かに見られちゃうかも知れないから。そうなると面倒」
『?ダリモツルスウド ヲレワ』
「別にどうもしない。興味があるから質問してみたいだけ」
『?トダンモツシ』
「ん、質問。あなたは何?」
『ダドーカノミヤ ハレワ』
「闇のカード?」
『ダイザンソ シレワロノ』
「………悪霊の一種?」
『ダノモナウヨノソ』
「………やっぱり燃やす?」
『テメヤ』
再びカードから怯えたような声が響く。
まあ、燃やすのは流石に可哀想だから冗談なのだが、これはいい脅し文句になるかもしれない。
「それで、どうしてあなたは私に話しかけたの?」
『………』
「だんまり?つまりやましいことがある?私を憑き殺そうとでもした?」
『………』
「図星?黙ってたら分からない。別にそれぐらいじゃ怒らない。それで死んだなら、私はその程度だったというだけ」
『ナルイテツワスガモキ』
「肝が?ああ、促音は元の文字になるんだ。別に肝が座ってるわけじゃない。それならそれでいいと思っただけ」
『?カキウヨシ マサキ』
「どうだろうね?正気か狂気か、正しいか間違ってるかなんて、他人が決めるものだから………私には、分からないよ」
気付いたら、私は無意識の内に自分の手を握りしめていた。
遊騎はイカサマをしたって言われて、プロリーグから追放された。
だけど、それだけはありえないということを、ずっと遊騎とデュエルをしてきた私は知っている。
遊騎は、勝つことに拘ったことなど1度もない。
遊騎はどんな時でも楽しむことが1番で、デュエルに負けても次にどうすればその戦術を攻略できるか考えるのを楽しむような人だった………だからこそ、楽しむためじゃない、勝つためのイカサマなんて、遊騎は絶対にしない。
それなのに、世間は遊騎のことをよく知りもせず、彼がイカサマをしたと断定し、追放した。
いつもそうだ。
誰も遊騎のことを理解しようともせず、勝手な決めつけで迫害する。
何故、誰も彼のことを理解しようともしないのか?
記憶が無かった私に、暖かな居場所をくれた、私の道標になってくれた優しい彼を、どうして皆して傷付けるのか?
何故彼に悪者という役を押し付けるのか?
私はーーーそんなこの世界が赦せない。
「ねぇ、あなたは呪われた存在なんだよね?あなたはなんで呪われたの?」
『タレマウ リヨンネヤジ ノトビトヒ ハレワ………』
「人々の邪念から?」
『ダウユリイザンソ ノレワ ガノクイ テレワロノ ニカレダ イロノ ヲカレダ ダノナイロノ ガソコトコタレマウ ハレワ ウヨサ』
「そっか………あなたも勝手な役割を押し付けられたんだね」
私は思わずテーブルの上に置いてあったインヴェルズオリジンのカードを手に取り、抱きしめた。
『?ヲニナ』
「ゴメンね………人間って勝手だよね………悪いことをこうやって押し付けて………理不尽だよね」
人々の負の感情を一方的に押し付けられたって、形にされた存在。
それは、なんて身勝手な思いから生み出されたのだろう?
別に、そのような存在に生まれたかったわけでもないのに………
「ねぇ、君は私と一緒にデュエルするつもりはない?」
『?ニナ』
私の言葉にインヴェルズオリジンから戸惑いの声が聞こえてくる。
私はそんなインヴェルズオリジンに言葉を続ける。
「あなたのこと、気に入った。私は、あなたと一緒にデュエルがしたい」
『?ゾダトコウイ トルレワロノ モマサキ ハトコウイ トウカツ ヲレワ ダイザンソ タレワロノ ハレワ ヲトコナキヅノモ』
「そんなの大したことじゃない。あなたに押し付けられた悪意を一緒に背負えるなら、呪い上等」
『?ルストウヨレイケウ ヲレワ ゼナ ニノナレソ ?ゾダノタシ トウロトツノ ヲダラカ ノマサキ ハレワ ?ダゼナ』
「そうだったんだ。だけど、私は平気だったから気にしない。それに、あなたは似てるから」
『?トダルテニ』
「うん。何でもかんでも背負っちゃう、私の大切な友達に」
『ヨノモナンビフ ハトルイテニ ニレワ モチダモト ノソ』
そんな、どこか諦めたような声が私の頭に響く。
『イヨガルス ニキス ダミタケマ ニマサキ ハレワ』
「ん、好きにする。これからよろしくね、インヴェルズオリジン」
私がそういうとインヴェルズオリジンから完全に諦めたような雰囲気が伝わってきた。
私は改めてインヴェルズオリジンのカードを眺めながら質問をする。
「それで、あなたを使うにはどうしたらいい?あなたを使うにはヴェルズモンスターって言うのが必要なんだよね?同じように呪われているカードを探せばいいの?」
『?カルアハドーカ イナテツカツ イナ ハウヨツヒ ノソ』
「使ってないカード………少し待ってて」
インヴェルズオリジンにそういうと、私は仕事に持って行っていたカバンの中から普段使っている氷結界とは別のデッキケースを取り出し、中からカードを取り出してテーブルの上に広げていく。
私が取り出したカードを見て、インヴェルズオリジンは興味深そうな声を上げる。
『ナダドーカ ノロボロボ ンブイズ ウホ』
「うん。これは、私が1番最初に友達に貰ったデッキだから」
『ガンエミ カシニバタミカ クナハデ キツデ ハニレワ カンダウヨジ ノカニナ………』
「むっ、それは失礼。私にとってはとても大切なデッキなの」
私はそういって広げたカードを1枚ずつ並べていく。
「ジェムナイトエメラル、セイクリッドポルクス、ナチュルコスモスビート、ドラグニティーブラックスピア、霞の谷の巨神鳥、ジュラックタイタン、AOJ カタストル………確かにどこにも規則性なんてないし、テーマで固まってるわけでもない………それでも、私の大切な友達が初めてくれたカード達で出来たデッキだから」
『タツイ ヲトコ ナイレツシ ハレソ カウソ』
「ううん、別にいいよ。客観的に見たらそう見えるのも事実だしね。それで、このカード達をどうするの?」
素直に謝ってきたインヴェルズオリジンに私は首を傾げながら質問する。
『サノルスウコ ネハレソ』
そんな私の疑問に応えるようにインヴェルズオリジンのカードから闇が溢れ、私が並べたカードを呑み込んでいく。
しばらくして闇がインヴェルズオリジンの中に戻ると、テーブルの上には私が並べたカードとは別のカードの束が存在した。
私は首を傾げながらもそのカードの束から1枚ずつカードを手に取っていき、中身を確認していく。
「ヴェルズヘリオロープ、ヴェルズカストル、ヴェルズマンドラゴラ、ヴェルズザッハーク、ヴェルズサンダーバード、ヴェルズサラマンドラ、ヴェルズゴーレム………これって………」
『ダノタセサ カズルエヴ リトシツウ ヲタガス ノータスンモ タイテツカツ ノマサキ リヨニラカチ ノレワ ?カタイロドオ フフフ』
「ヴェルズ化………それがあなたの力なの?」
『ナガイナ ハデケワ ルエカツ モデニンナ アマ モニカイ』
インヴェルズオリジンのどこか誇らしげな声が響く。
私はヴェルズ化したカードを確認しながら少し困った顔をする。
「凄いけど、このカード達だけじゃデュエルの決め手にはならないね」
『ヌリタ ガラカチ ハデケダドーカ タシニイタイバ マイ ナガダノイイ バレア ガイタイバ ナクヨリウヨキ シコスウモ』
「強力な媒体………」
インヴェルズオリジンのその言葉に、私はカバンから氷結界のデッキケースを出し、その中にあるEXデッキから氷結界の三龍を手に取る。
私が手に取った氷結界の三龍を見て、インヴェルズオリジンは驚きの声をあげる。
『カノタイテツモ モドーカ ナクヨリウヨキ ドホレコ タイロドオ』
「そうなの?これも私の大切な友達がくれたカードなの。せっかく昔使ってたカードを元にしたカードでデュエルできるなら、この子達も一緒に使いたいから」
そういって、私も改めて手元にある氷結界の三龍を見る。
このカード達は、私がプロ決闘者になる際、氷結界を使いたいと言ったら遊騎がプレゼントしてくれたカードだ。
私が使いたいと言ったから、島さんに無理を言って探して貰ったらしい。
カード自体もアルバイトや大会の優勝賞金を使ってわざわざ自力で手に入れてプレゼントしてくれた。
氷結界が使えなくなった今でも、この子達だけは私に力を貸してくれてる。
それがまるで、私にまだ遊騎のことを諦めるなって励ましてくれているようで………私にとって、凄く大切なカード達だ。
だから、できることならこれからも一緒にデュエルがしたい。
『ウオラモ テセサ トイタイバ クナヨリンエ バラナ カウソ』
そういうと、再びインヴェルズオリジンのカードから闇が溢れ、氷結界の三龍を呑み込んでいく。
そして、闇が消えると、私の手元には氷結界の三龍に重なるように、今の私の主力となる3枚のエクシーズモンスターが現れたんだ。
ーーーーーーー
☆
「ーーーと、言う訳で、ヴェルズ達は遊騎から貰ったモンスターに似ているわけでした」
「………頭が痛くなってきた」
一通り闇の話を聞いた後、軽い頭痛を覚えて額に手をやる。
ヴェルズのカードが異常な存在だと言うのもそうだが、それを平然と受け入れている闇も闇だった。
………ダメだ、これ以上は俺のキャパシティを超えている。
闇に害はないみたいだし、深くは考えない方向でいこう。
「………はぁ〜分かった。いや、あまり分かりたくはないけど、闇がそれでいいのならそれでいい。俺があげたカードをそれだけ大切に思ってくれてるのは嬉しいしな」
「ん、遊騎がくれたものは全部大切な宝物だから」
「そんな大したものをあげれてないから申し訳ないんだけどな。まあいいや。それじゃあ、長話をしちまったし、一緒に昼飯でも食いに行こうぜ」
「ん、賛成。時間を考えると、『ジャンクフード』がいい。中学生の時に、よくあそこで遊騎と一緒にハンバーガー食べたし」
「ああ、あの店な」
『ジャンクフード』というのは、栄養価のバランスを著しく欠いた調理済み食品のことではなく、『Natural』の近くにあるハンバーガー屋の名前だ。
人気メニューは何故かジャンクウォリアーの顔の形をしている『ジャンクハングリーバーガー』………おそらくジャンクフードのジャンクとかけてそうなってるんだろう。
「んじゃ、行ってみるか。なんか思い出すと久しぶりに食べたくなってくるしな」
「ん。でも、その前に、遊騎にお願いがある」
「お願い?珍しいな、闇が俺にお願いなんて。何か奢って欲しいのか?」
あまりにも珍しい闇からの申し出に俺は首を傾げる。
そんな俺の目を真っ直ぐ見つめて、闇は少し躊躇いながらも覚悟を決めた顔でその言葉を口にする。
「ううん、そっちじゃない。次の私とのデュエル、遊騎にあのカードを使って欲しい」
「………あのカード?」
「ん。私が初めて遊騎とデュエルした時に使ってた、英雄のカード」
「………」
闇の言葉に、俺は思わず苦い表情を浮かべる。
「前に言ったろ?今の俺にあのカード達は引けないって。同じように氷結界が使えなくなった闇なら分かるだろ?」
「ん、無茶なことを言ってるのは分かってる。だけど、やっぱり私は、他でもない『Natural』で、遊騎がもう1度あのカードを使ってるのがみたい。それに、信じてる。今の遊騎なら、きっと前みたいにあのカードが使えるって」
「………はぁ〜遊花といいお前といい、何でそんな根拠のない期待を俺にするんだよ」
真っ直ぐに、俺なら大丈夫だと信頼しきった目を向けてくる闇に、俺は思わずため息を吐く。
そして路地裏から出るために踵を返しながら、ぶっきらぼうに呟いた。
「………入れるだけだぞ。出せるかどうかまでは、保証しないからな」
「‼︎うん。ありがとう、遊騎」
そんな嬉しそうな闇の声を聞きながら、俺は路地裏から表通りに向かって歩き出す。
………はぁ〜期待が重いっての、本当にさ。
ーーーーーーー
●
路地裏から出るために歩き出した遊騎を見て、私は少しだけ笑みを浮かべる。
そんな私に、控えていたヴェルズウロボロスが話しかけてくる。
『?ウロダ イナ テシナハ カシ デマウユチト ハシナハ ノドホキサ ?カノイヨ』
「いいの。あそこから先は、願掛けだから。遊騎が知る必要はない」
『カノモウイウソ』
「ん、そういうもの」
ヴェルズウロボロスの実体化を解きながら、私はもう1度、あの後のことを思い出す。
ーーーーーーー
「ヴェルズウロボロス、ヴェルズオピオン、ヴェルズバハムート………ゴメンね、あなた達まで闇に染めてしまって」
『ヨウオウヨジ ガラレワ イナ ハウヨツヒ ルスニキ』
「………えっ?」
氷結界の三龍をヴェルズ化させ、思わず呟いた私の声に、返ってくる声があった。
だけど、その声は先程まで聞こえていたインヴェルズオリジンの声ではなくて、どこか尊厳があり、ぶっきらぼうながらもこちらを気遣うような声だった。
私は驚いた表情を浮かべながら手元にあるカードに目線を移す。
そこにあったのは、当然先程生まれたヴェルズのエクシーズモンスター達。
その中でも、自分の存在を主張するように闇を放っているヴェルズウロボロスの姿だった。
『ヨウオウヨジ ガラレワ ナタキデ ガトコ スナハ クヤウヨ』
「ようやく?………もしかして、氷結界の龍、なの?」
『タツラモ テセサウヨリ ヲドーカノミヤ ナラカ ダイタミ イナエミ ガイレイセ ハウオウヨジ ラヤウド ナガダ スロボロウズルエヴ ワレワ ノマイ エイハト モニカイ』
「えっと………女王って、私の、こと?」
『ヨウオウヨジ ガラレワ ヨジウヨシ シメヒ ヲゴクカ イカダケ モトウソ』
そういって、ヴェルズウロボロスは笑う。
『ニメタ ノモト タシケ ヲタガス カルケヅツ イカタタ ニメタ ノモト ナツセイタ ダマ ウト ニウオウヨジ』
「………無論。私は遊騎にたくさんのものを貰った。私の居場所も、誰かを思う感情も、全部遊騎から貰ったもの。私は遊騎を頼ることしかできなかったから………」
私が今いる居場所も、こうやって人を思いやる感情も、全部遊騎が教えてくれたもの。
遊騎ともし出会わなければ、私はずっと独りぼっちで、何も見出せずに生きてたんじゃないかって、こんな感情は持てなかったんじゃないかって、そう思うだけで私の心はぞっとする。
「だから、遊騎を誰かが傷付けるなら、私はそんな存在と戦う。大切な人を守ることが悪だと言うのなら、私は悪でもいい。遊騎の帰ってこれる場所がないなら、私が帰ってこれる場所を作る。例えーーー今の世界を全て壊してでも」
『ヨウオウヨジ ガラレワ ウソカ ヲラカチ モラカレコ ハラレワ バラナ ダゴクカイイ ハハハハフ』
ーーーーーーー
「………もう、誓いは絶対に違えない」
「おい、闇。早く行かないと時間が無くなるぞ?」
「………ん、今行く」
表通りの方から聞こえる遊騎の声に、私は薄っすらと笑みを浮かべながら駆け出す。
ご飯が終わって遊花のデュエルを見たら、次は遊騎とのデュエル。
………全力でぶつかり合える、楽しいデュエルになるといいな。
次回予告
一時の休憩を得て、準決勝の遊花とリーネのデュエルが始まる。
リーネの激しい攻撃を、遊花も全力で防いでいく。
そして、激しいぶつかり合いの中で蘇る過去の記憶。
それでも、遊花は目を逸らさずに前を向く。
次回 遊戯王Trumpfkarte
『戦乙女VS羽根・奇跡の出会い』
次回、準決勝・遊花VSリーネです。
多分、前後編には分かれないハズ。
ただ、その次の遊騎VS闇からは間違いなく前後編に分ける予定なので、もしかしたら次の話も分けることになるかもです。
そして今回は闇を主軸においたお話でしたが、色々と重苦しい話になってしまいました。
今回でかなり掘り下げはしましたが、これでもまだ闇というキャラに関しては2割半ぐらいしか語れていません。
ぶっちゃけ闇はこの作品で主人公2人に次ぐ重要キャラなので、これからも色々あります。
まあ下手したら主人公2人よりもネタバレの塊みたいなキャラなのであまり多く語れませんが………
そしてこの作品のヴェルズ化は若干オリジナル設定になってます。
本来はヘリオトロープ以外の明言されているヴェルズは基本的に亡骸・残骸にヴェルズの邪念が取り憑いたという設定のハズなのですが、それよりはヘリオトロープのヴェルズの邪念が既存のモンスター達の姿を写し取ったという設定の方が分かりやすいので、この作品に出てくるヴェルズは基本的に全てヘリオトロープ設定か、写し取る際にその姿を掛け合わせたものだと思ってください。
そして話し的に会話が必要なので入れざるおえなかったのですが、それでもヴェルズ語が多すぎてごめんなさい。
書いてるこちらも面倒でした、ここではリントの言葉で話してください。
それでは今回はここまでです。
皆さんは今日発売の最新弾は買われたのでしょうか?
私はとりあえず超弩級砲塔列車ジャガーノートリーベや掃射特攻、ブラックガーデンを使って楽しんでいます。
カオスダイソンスフィアでバーンしてから掃射特攻で相手の場を一掃するのが凄く楽しいです。
超弩級砲塔列車ジャガーノートリーベは名前的にもこの作品にはどうにかして出したいんですよね、『リーベ』はドイツ語で恋愛や恋人という意味なので。
また色々と考えないと。
ではでは〜